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日替わり使い魔-10




 ――時刻は夜、トリステイン魔法学院女子寮の一室――

(…………なんだこれ?)

 ルイズの居室であるその部屋の外、扉の鍵穴に右目を目一杯くっつけて中の様子を伺っていたギーシュ・ド・グラモンは、室内の光景にしきりに眉根を寄せていた。
 ――なぜ彼がここにいるかと言うと、それは簡単な話である。
 彼が敬愛してやまない、トリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、その名もアンリエッタ姫殿下――彼女がこの魔法学院に行幸で訪れたのがこの日の話。そして今、その姫殿下が顔を隠してここにやってきたのを見つけ、こうして尾行してきたのだ。
 そんな彼が覗いているルイズの部屋――そのベッドの上に、見たこともない巨大な青いインコが鎮座していた。だが、彼が奇妙に思っているのはそれとは違う。

 ――それは――

「もふもふー」

「もふもふーですわ♪」

「……もふもふ」

 そのインコの体に頭をうずめ、しきりにもふもふしている三人の少女たち。頭を押し付けられている当のインコは、嫌がるでもなくただされるがままにしていた。
 そんな少女たちの痴態を見ているギーシュは、たった一つのことを、これでもかってぐらいの強い思いで念じるのであった。
 そこのインコ、今すぐ僕と替わりたまえ――と。

 そんなギーシュの背後に、一つの影が迫りつつあった――





 ――時間を遡ること、この日の昼――

 ロングビルの乱心事件という非日常が過ぎ、ルイズたちの生活が日常に戻ってから数日。
 日替わりで違う動物・幻獣・亜人を連れてくるルイズの『本日の使い魔』は、クックルーという巨大な青いインコ、その名もクックル(非常に安直なネーミングだとルイズも含めて誰もが思った)であった。
 既に周囲の皆も慣れ始めたその光景、見慣れない動物の姿に好機の目を向ける者はいれども、驚く者はもはやいない。取り立てて騒がれることもなく、その日も代わり映えしない授業風景が流れていた。

 が――その日常は、あっさりと崩れた。

 それは風のスクウェアメイジ『疾風』のギトーの担当授業の時間中のことであった。風系統最強説を声高に主張する彼の授業に、生徒のほとんどがうんざりしてきた頃――突如として、ヘンテコリンな仮装をしたコルベールが乱入してきたのだ。
 彼の珍妙なコスプレに皆が失笑を漏らしている中、彼はアンリエッタ姫殿下のここへの行幸が急に決まったことを告げた。程なくして、学院中をひっくり返したかのような大騒ぎになり、教師・生徒・使用人、全てが一丸となって姫殿下の歓迎の準備が始まった。
 かくて、急場しのぎながらも歓迎の準備を終えた学院は、総出で姫殿下を迎えることとなった。

 そして、そんな突発イベントが起きたその日の夜。クックルを迎えに来たタバサを交え、いつもの雑談に興じていた頃、突如としてそのアンリエッタがルイズの部屋を訪れたのだ。
 幼い頃の話から始まり、ルイズの使い魔やタバサのことに触れ――そしてどういうわけか三人してクックルの羽毛の虜となり、現在に至るというわけである。





「ああ、なんて良い肌触りなんでしょう。こんな素敵な使い魔を召喚できたなんて、ルイズが羨ましいですわ」

「だから、申し上げましたでしょう。私の使い魔の使い魔……のようなものです」

「本当のルイズさんの使い魔は、私のお父さんですよ。あと、クックルは使い魔じゃなくてお友達です」

 クックルの羽毛をもふもふしながら、会話を続ける三人。クックルは微動だにせず「ピロロロー」と喉を鳴らしており、話題の中心でありながら我関せずといった様子だ。

「あなたのお父様ですか。ルイズ・フランソワーズ、人を使い魔にするなんて、あなたは相変わらずどこか変わっていらっしゃるのね」

「好きで使い魔にしたわけじゃありません」

 アンリエッタの言葉に、ルイズはぷぅと頬を膨らませ、クックルの体に顔を押し付ける。言葉とは裏腹に、彼やその娘が連れてくる色々な使い魔たちには、満更でもない様子である。
 その仕草がなんとも微笑ましく、アンリエッタもタバサも思わず苦笑を漏らした。二人、タイミングよく苦笑が重なったので、思わず目を見合わせ――そしてふと、アンリエッタがタバサに問いかける。

「タバサ……とおっしゃいましたね。その髪の色、ガリア王家ゆかりの者ですか?」

「ううん、まったく無関係ですよ。私の実家は、グランバニアです」

「グランバニア……? そんな領地、ハルケギニアにありましたかしら……?」

「国名です。ハルケギニア諸国とは一切の国交がありませんので、知らないのも無理はないと思いますけど」

「まあ。ではもしや、ロバ・アル・カリイエの国かしら?」

「ロバ……? えっと、確かこっちでは東方のことをそう言うんでしたっけ? とりあえず、とにかくずっと遠い国だと思ってくれれば間違いないですけど」

「遠い国……そう、遠い国……ですか。わたくしも遠い国に行けたら、どんなにか……」

「……姫様?」

 タバサの台詞の中にある『遠い国』という一語に反応し、どこか遠い目をしだすアンリエッタ。彼女のその異変に、ルイズは眉根を寄せる。
 と――アンリエッタはその視線に気付いたのか、ハッとした様子でルイズの方に視線を向けた。おもむろにクックルの体から頭を離してベッドの端に座り直し、コホンとわざとらしく咳払いする。
 そして彼女は、すぅはぁと一つ深呼吸をし――

「ルイズ……頼みがございます。この哀れな姫を助けてはくれませんか?」

 にっこりとわざとらしい笑みを浮かべ、そんなことを切り出す。脈絡も無視して唐突にそんなことを言い出した彼女に、ルイズは思わず半眼になった。
 そして――

「いいえ」

「そんな……ひどい……」

 一秒たりとも考える時間もなく、冷たくあしらった。そんな親友の態度に、アンリエッタはよよよと殊更に芝居がかった仕草で崩れ落ちる。
 だが――

「もう一度問います。この哀れな姫を助けてはくれませんか?」

 一瞬前に泣いていたことなどなかったかのように、唐突に泣きやんで同じ質問をもう一度繰り返した。

「いいえ」

「そんな……ひどい……
 もう一度問います。この哀れな姫を助けてはくれませんか?」

「いいえ」

「そんな……ひどい……
 もう一度問います。この哀れな姫を助けてはくれませんか?」

「いいえ」

「そんな……ひどい……
 もう一度問います。この哀れな姫を助けてはくれませんか?」

「いいえ」

「そんな……ひどい……
 もう一度問います。この哀れな姫を助けてはくれませんか?」

「いいえ」

「そんな……ひどい……
 もう一d 「姫様」 はい? どうしましたか、ルイズ?」

 延々とループが繰り返されるかと思われたその中で、唐突にルイズがアンリエッタの台詞を遮った。遮られた方のアンリエッタといえば、気分を害した様子もなく、平然と返事をした。
 だがそんな彼女にも、ルイズの冷たい視線は変わらない。

「姫様……都合が悪くなったら『無限ループごっこ』で誤魔化す癖、まだ直ってなかったんですね」

「あら、そんなことはありませんわ」

「でしたらこっちを真っ直ぐに見てください。一体何を悩んでおられるのですか」

「う……」

 さりげなく視線を外していたアンリエッタだったが、ルイズの目は誤魔化せない。気圧されたように言葉に詰まり――ややあって、「はぁ」と大きくため息をつく。

「あなたには隠し事できませんわね……仕方ありません。話しましょう。ですが、今から話すことは誰にも話してはいけません」

「私、席外しましょうか?」

 少し前までのどこかふざけていた雰囲気を消し去り、深刻な表情で話し始めたアンリエッタ。その彼女の台詞の内容に、安易に立ち入って良いものではないと判断したタバサは、部屋を出ようと立ち上がる。
 その申し出に、アンリエッタは少しだけ考え込んで――

「……いえ、構いません。どの道ルイズを通して使い魔――あなたのお父様にも話は行くのでしょうし、それならばここで会話に加わっていただいても変わりないでしょう」

「いいんですか? 私、この国の人間じゃないんですよ?」

「ルイズのお友達は私のお友達ですわ。遠慮はしないでくださいまし」

 言って、タバサを引き止めるアンリエッタ。
 タバサは「いいのかなぁ……」とか思いながらも、言われた通りに腰を降ろした。

 ――そしてアンリエッタは、神妙な面持ちで話し出した。

 『白の国』アルビオンを取り巻く状況。近日中にでも反乱を成功させかねない勢いの貴族派の大軍勢の存在。
 ハルケギニアの統一を謳う貴族派の猛威はアルビオンに留まらず、いずれトリステインにもその手を伸ばすであろうこと。
 だが国力で劣るトリステインに、その強大な貴族派に対抗するほどの戦力はなく、隣国ゲルマニアの助力が必要不可欠であること。
 その同盟締結のため、アンリエッタがゲルマニア皇帝アルブレヒト3世に嫁がねばならないこと。
 その婚姻を妨げる材料が、今まさに陥落せんとするアルビオンのウェールズ皇太子の手にあること。

 一通りその話を聞いたルイズは、ならば自分がと、その手紙回収の任務に名乗り出た。

「行ってくれるのですか、ルイズ?」

「もちろんです」

「でしたら……」

 力強く頷くルイズに、アンリエッタはごそごそと自身の懐を探る。
 そして取り出したのは――1エキュー金貨が10枚。

「…………姫様、これは?」

「旅の支度金です」

「10エキューで何をしろと?」

「ええっと……我が王家には、困難な旅に出る勇者を送り出す際、二束三文の金銭を渡してお茶を濁せという言い伝えが――」

「ドブにでも捨ててください、そんなダメな習わし。というか姫様……さっきの無限ループごっこといい、どうしてそう、こちらのやる気を削ぐようなことばかりするんですか。そこまで私に任務を任せたくないのですか?」

「当たり前ですわ。あなたはわたくしの大切なお友達。そんなあなたを、危険極まりないアルビオンなんかに向かわせたくありません」

「ですが姫様、ここまで話しておいて――!」

 ルイズが声を張り上げようとした、まさにその時――



 ――バァンッ!

「その任務、ボクに任せてもらおう!」



 その台詞と共に扉を蹴破り、部屋に乱入してきた者がいた。
 その人物は――

「お兄ちゃん!?」

「ギーシュ!?」

 ここにいるはずのない二人の人間の姿に、タバサとルイズは揃って驚愕の声を上げた。
 ――そんな彼らの後ろでは、キメラのメッキーが申し訳なさそうな顔でタバサを見つめていた。





 明けて翌日――いまだ朝もやの晴れぬ早朝。

 あの後色々と悶着はあったものの、結局はルイズ、タバサ、レックス、ギーシュの四人でアルビオンに向かうことになった。
 任務を遂行する際、ウェールズに渡すためにアンリエッタがしたためた手紙は、今ルイズの懐の中にある。身分を示すものとして渡された、水のルビーも一緒だ。この手紙をウェールズに渡し、くだんの手紙を受け取って持ち帰るのが、最終的な目的である。
 よしよし、と馬に話しかけながら、タバサはちらりと荷物整理している双子の兄を見る。
 個人的な感情もあり、これまでなるべく彼をこちらに連れて来ないよう気を付けてきたのだが、まさかルーラを使える仲間モンスターを頼るとは……予想してなかったわけではないが、まさかこのタイミングでなくても、とは思う。
 この旅の中で、もし彼がルイズとの距離を縮めるようなことがあれば――と思うと、タバサの心は落ち着かない。

 そんな彼の今の装備は――

Eてんくうのつるぎ
Eてんくうのよろい
Eてんくうのたて
Eてんくうのかぶと
Eエルフのおまもり

 と、本気モード以外の何物でもない完全装備であった。
 とはいえ、かくいうタバサ自身も――

Eグリンガムのむち
Eプリンセスローブ
Eみかがみのたて
Eしあわせのぼうし
Eエルフのおまもり

 と、ご覧の有様である。
 いくらこれまで年齢にそぐわない苛烈な戦闘経験を積んできていたとは言っても、これから向かう先はまごう事なき本物の戦地。しかも二人とも『人間同士の戦争』というのは初めてなのだ。
 加減がわからず、ついつい最強装備に身を包んで来たとしても、無理もない話である。
 それに、こういった『冒険の旅』は、ほぼ一年振りであった。任務内容を考えれば不謹慎ではあろうが、期待に胸が高鳴ってしまうのは止められない。となれば何が起こっても対処できるよう、万全の体勢で臨みたくもなる。

 と――そんなタバサに、ルイズが話しかけてくる。

「……ねえ、リュカは?」

「まだお仕事」

「こんな時にまで……」

 その問いにタバサが短く答えると、ルイズは失望したとばかりに盛大にため息をついた。
 ……というか実のところ、タバサもレックスも、今回の件はリュカに伝えていなかった。
 あの父のことだから、話を聞けば盗賊事件の時のように、仕事を放り出してやって来るに違いない。そうなれば、彼女らの大叔父に当たるオジロンがまた苦労することになる。
 何よりも、父抜きで冒険をすることなど、実に三年振りのことであるのだ。
 三年前――石化していた父を解放して以来、彼女らの旅は加速度的に苛烈さを増した。旅が終わるまで二年あまり、二人がそんな過酷な旅に耐えられたのは、ひとえにパーティーを引っ張っていた父の存在が大きい。
 だが、それを乗り越えた二人には、『試してみたい』という一つの欲求が芽生えていた。父抜きの自分たちが、果たしてどれだけ『できる』ようになったのか――と。

(ごめんね)

 そんな内心を隠しながら、ここに来ていないリュカにブツブツと文句を垂れるルイズに、声に出さずに詫びた。

「それにしても……」

「ん?」

「あんたもレックスも、なんか凄い格好ね。もしかして、それ全部何かのマジックアイテム?」

「そんなようなものね。これでも、私たちが用意できる最強の武具を揃えてきたんだから。アルビオンって危険なんでしょ? 身を守る装備は万全にしといて損はないと思うよ」

「へぇ……じゃあさ、私が身に付けられそうなものって、あったりする?」

「うん、たぶん……お兄ちゃーん!」

 ルイズの問いかけにタバサは頷き、レックスの方に声をかける。
 彼が「ん?」と顔を上げると、タバサは彼の手にある道具袋を持ってくるように言った。
 するとレックスは事情を察したのか、嬉しそうに寄って来て、道具袋の中に手を突っ込んだ。

「ルイズの装備?」

「うん。……お兄ちゃん?」

「ならこれがお勧めだよ――はいこれ!」

 そう言いながら、レックスが取り出したもの――それは天使のような美しい羽飾りのついた純白のレオタード、その名もズバリ『天使のレオタード』であった。

「こ、これって……」

 それを見たルイズの頬が、ピクピクと引き攣る。
 デザイン自体は綺麗である。天使の名を冠するだけあって、美しさという点で言えば文句の付けようもない。
 だが――いかんせん、露出が多すぎる。劇場とかの舞台上であるならまだしも、これを着て外を出歩けというのは、一体どのような拷問か。これで防御性能は最高クラスというのだから、余計に頭が痛いところである。
 だがそれを手に迫るレックスは、至って真剣な表情だ――というか、真剣すぎる。キラキラと期待に満ちた目で、ルイズを見ていた。ついでに言えば、その背後ではギーシュが無駄に鼻息を荒くしてレックスに同調している。

 そんな双子の兄を見ているタバサは、頭痛がしているかのようにキツく目を閉じ、頭を押さえている――実のところタバサも、あれを着ていた頃があったのだ。今まさに、その時のことを思い出しているところだった。
 今彼女が着ているプリンセスローブは天使のレオタードを上回る最高の一品であり、一着しかないそれは、昔は母が着ていたのだ。
 自然、次善の装備である天使のレオタードを着るのは彼女の役目となっていたが、恥ずかしさに慣れるのに随分かかったのは苦い思い出だ。

 まあ、とりあえず――

「……バイキルト」

 攻撃力倍増の呪文を自分に向けて唱え、彼女はグリンガムの鞭を力いっぱい握り締めた。



 ――その後。
 出発前からズタボロになったレックスとギーシュを尻目に、ルイズの装備が結局どうなったかというと――

Eメイジのワンド
Eみずのはごろも
Eうろこのたて
Eかぜのぼうし

 という形に落ち着いた。



「で、ぼくの分の装備はないのかね?」

 ルイズの装備が決まったところで、ギーシュがおずおずと問いかけてきた。
 その質問に、タバサもレックスも顔を見合わせる。二人が持って来た袋は、どこぞの青狸のポケットのごとく際限なく荷物が入る不思議な品物であるため、探せば何か見つかることだろう。
 そして二人してあれでもないこれでもないと協議し、その結果――

Eバラのワンド
Eダークローブ
Eダークシールド
Eサタンヘルム

「…………何かね、この邪教崇拝者みたいな禍々しい装備は?」

「でも強いよ?」

「似合ってますよ?」

「フリル付きの制服よりマシかな?」

 疑問の声を上げるギーシュに、レックス、タバサ、ルイズのフォローが入る。三人とも、微妙に視線を逸らしているのが何ともはや。
 その反応に、ギーシュはブルブルと肩を震わせ――

「やり直しを要求する!」

 こめかみに怒りのマークを浮かべて怒鳴った。
 そして、次にタバサたちが選んだ装備はというと――

Eおおかなづち
Eステテコパンツ
Eおなべのふた
Eシルクハット

「…………いったい何なのかね、この変態紳士な格好は?」

「「うちの従者の初期装備」」

「君らの家のセンスは一体どーなってるんだね!?」

 迷わず即答した双子の返答内容に、ギーシュはツッコミを入れずにはいられなかった。
 そして、そんな変態を通り越してコメディアン以外の何物でもない格好を目にしたルイズは、背中を向けてうずくまり、「ぷっくくく……」と笑いを堪えるのに精一杯であった。

「そこぉ! いくらなんでも笑うなんて酷すぎないかね!? というか、この扱いは一体なんなんだ!? 泣くぞ!? 泣いてしまうぞぉっ!?」

 泣くぞと言いながらも、既に半泣きである。目の端いっぱいに涙を溜めながら、ギーシュはルイズに詰め寄った。
 と、その時―― 一陣の風が舞い上がり、ルイズに詰め寄るギーシュを吹き飛ばした。

「だーっ!?」

「誰!?」

 悲鳴を上げて吹き飛ぶギーシュには目もくれず、ルイズは今の風が魔法によるものであることを見抜き、術者を探す。
 と――その声に応えるかのように、朝もやの中から一人の長身の貴族が現れた。その人物を見て、ルイズが目を丸くする。

「すまないね……婚約者が変態に襲われていたので、見て見ぬふりができなかった」

「変態じゃない!」

 長身の貴族はそう言って、被っていた羽帽子のつばをクイッと上げた。立派な髭をたくわえた、精悍な顔つきの青年である。彼は必死になって反論するギーシュを完全にスルーし、先を続ける。

「僕は味方だよ。姫殿下より、君たちに同行するよう命じられてね。魔法衛士隊グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ」

「ワルド……さま……?」

「久しぶりだね、僕のルイズ」

 優しげな視線でルイズを見つめる青年――ワルド。そして、それをどこか熱っぽい視線で返すルイズ。
 見詰め合うその二人を、横で見ていたレックスは交互に見やり――

「……こんやく……しゃ……?」

 まるで理解できないとばかりに呆然とつぶやく双子の兄を、タバサはその後ろから白い目で見つめていた。





 ――その後、ギーシュが自分の使い魔を連れて行きたいと言い出してひと悶着あったが、とりあえず何の問題もなく出発することができた。
 なお、最終的にギーシュの装備がどうなったかというと――

Eバラのワンド
Eけんじゃのローブ
Eうろこのたて
Eかぜのぼうし

 という、取り立てて特筆するべきところのない、無難な装備に落ち着いていたことを付け加えておく。





 出発する一行を、アンリエッタは学院長室の窓から見送っていた。
 そんな彼女は胸の前で手を組み、一心に祈っている。

「……自分の無力さが恨めしいですわ」

 ぽつりとこぼした言葉に、隣で鼻毛を抜いていたオスマンが、ぴくりと眉を動かす。

「宮廷内は欺瞞でいっぱい。ただの小娘に過ぎないわたくしでは、マザリーニ以外で真に信用の置ける人間を見抜けるすべもない……こんな危険な任務を、大切なお友達に任せるしかない愚かなわたくしを許して……」

「姫殿下は、ようやっておると思いますぞ」

「……お世辞はよしてください」

 オスマンのフォローにも、アンリエッタの表情は晴れない。ただ悲しげに、ふるふると首を振るだけだ。

 ――王族とはいえ、女の身に生まれた彼女は、本来であれば政務に携わる必要などない。事実、先王の崩御から今まで、政務を一手に引き受けてきたのは枢機卿であるマザリーニである。
 王女である彼女にとって大切な仕事とは、王として相応しい資質を持つ者を婿に迎えること――その一点に尽きる。ゆえに彼女は、帝王学など不要とされ、育ってきた。
 だが今の時代、それだけではいけない。マザリーニはそう判断し、アンリエッタに帝王学を習わせようとしたのだが――古い伝統や権威にこだわる者達は、頑としてそれに賛同しなかった。結果として、アンリエッタの学習は今でもほとんど進んでいない。

「少し前のわたくしは、何も知らないただの小娘でした……そして今は、少しだけ物を知っているだけの、ただの小娘です。マザリーニが忙しい政務の合間を縫って少しずつ帝王学を教えてくださっていなかったら、今でも『何も知らないただの小娘』のままでしたでしょう」

 そしてその小娘にとって、今回の任務を任せられるほどに信の置ける人間が、ルイズしかいなかった――それだけの話である。
 だがその事実は、アンリエッタの良心を痛ませる。その痛みに耐えられるほど、アンリエッタの心は成長しきってはいない。
 だからこそ、せめてもの保険として、グリフォン隊隊長のワルド子爵を護衛に付けた。ルイズの婚約者だという彼ならば、きっとルイズを守り切ってくれる――そう信じて。その信用だけが、良心の痛みを和らげてくれるから。

「既に杖は振られたのですぞ。ならば信じて待ちましょう。今、我々にできるのはそれだけ……違いますかな?」

 アンリエッタはオスマンのその言葉には何も返さず、ただ一心に祈るのみであった。
 そんな二人の視線の先には、朝もやの晴れぬ中を駆け抜ける、二頭の馬と一頭のグリフォン。

「どうか……どうか、無事に戻って来て。ルイズ、わたくしの大切なお友達……」

 アンリエッタの祈りのつぶやきだけが、学院長室に静かに響いた。




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