あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

攻撃力0の使い魔-04


ここは、トリステイン魔法学院で最も背の高い本塔の中にある「アルヴィーズの食堂」。
ユベルが 自分に食事は必要無いと言って どこかへ行ってしまったため、ルイズは独りで席に着いていた。
食事もそこそこに、キュルケと別れたあとに廊下でしたユベルとの会話を 反芻してみる。

――「ねぇ、ユベル。あなた、さっき『物は食べない』って言ってたけど……ホントなの?」
――「……あぁ。ボクが食べるのは、人間の心の闇。苦しみや悲しみ…疑念・憎悪・殺意……キミたちのそういった感情が、ボクに力をくれるんだ。
―― かつて ボクを手助けしてくれた者たちも、暗い暗い心の闇を持っていたよ……」
――「……負の感情が力になる、なんて言われても…さっぱりわからないわ。お腹壊さないの?
―― たしかに、メイジの精神状態が魔法の威力に影響を及ぼすことは あるらしいけど……」
――「ボクは、キミたちの使う魔法のことは よく知らないけど、たぶん似たようなものだろうね。
―― だって ホラ。現に キミの同級生の中にも いるだろう? 心に深い闇を抱えた優秀な魔法使いがねぇ」
――「え? そんな人がいるって言うの……? それ以前に どうして そんなことがわかるのよ?」
――「なんだ、知らなかったのかい。……まあいい。いずれ、彼女にも協力してもらうとしよう」
――「人の話 聴きなさいよ……」

そんな会話を思い出しながら、2年生のテーブルに着いている生徒たちを見る。
優秀なメイジ…とは、トライアングルクラス以上か。となると……

(……キュルケ? って、あの色ボケツェルプストーが そんな闇を抱えてるわけないか。
 でも それじゃあ、あいつ以外に 同級生のトライアングルって言ったら……)

まさかね。と、心に闇を抱えているらしい人物に見当をつける作業を中止する。
そして、去り際にユベルが言ったことを思い出す。

――「キミの心の闇も 見せてもらったよ、ルイズ」

■■■■■■

その頃、ユベルは食堂の外…中庭にいた。
学院全体から、自分の協力者として相応しい「心の闇」を持った人物の気配を探す。
現在進行形で、複雑な負の感情を心に抱えているような者が望ましい。
たとえ どれだけ凄惨な過去を背負っていたとしても、今 ぬるま湯の生活に溺れているような者ではダメだ。

……まずは、2人。

「……?」

中庭の広場には、外で待機するように命じられた 様々な種類の使い魔たちがいた。
そして、その すべての使い魔たちが、ユベルに対して警戒心を むき出しにしている。

(こいつらは……)

このレベルの下級モンスターに いくら警戒されたところで、何の不都合も無い。
だが、その使い魔たちの中に 大きなモグラの姿を発見したときは、さすがのユベルも露骨に不快な表情を浮かべた。

(モグラか……忌々しいヤツめ。だが、所詮は……ん?)

下級モンスター同然な使い魔たちの中に、1匹だけ異質な力を持つ者を見つけた。
ユベルも知る 風属性・ドラゴン族のモンスター《サファイア・ドラゴン》のような、翼を持った青い竜。
おとなしそうだが、やはりユベルに対しては警戒心を見せている。

(ほかのヤツらよりは いくらかマシなようだな……)

ユベルが1歩近づく。青い竜が2歩下がる。

(……ふん、ボクを警戒しているのか)

ユベルが また1歩近づく。青い竜が今度は3歩下がる。
青い竜は、誰かに助けを求めるように「きゅいきゅい」と鳴き声を発した。
青い竜が助けを求めた相手の気配を背後に感じ、ユベルが振り向く。

(ほう……まさか自分から来てくれるとはね)

青い髪と青い目をした ルイズよりも背が低く小柄な 眼鏡の少女を、ユベルが見下ろす。
この学院で出会った者の中で、いちばん身長差が激しい。
あまりにも高さが合わないので、ユベルは片膝をついて 目線を少女に合わせ……3つの目で心の中を探る。
少女のほうもユベルを見つめる。その目線の先には、ユベルの額の目に刻まれたルーンがあった。

「……ふふ、そういうことか」
「……?」

ユベルは、少女の「心の闇」の正体を確認すると 立ち上がり、口の端を歪めて笑った。

「ボクはルイズの使い魔のユベル。キミは?」
「タバサ」
「……こいつは?」
「シルフィード」
「そうか……」
「…………」

会話終了。ただ当たり障りの無い会話を続けても意味が無い。
そう判断したユベルは、少女の心の中からドローしたばかりの手札を 早速 使うことにする。

「ところで……ねぇ、シャルロット」
「……!?」

ここでは呼ばれるハズの無い名前を呼ばれ、タバサは驚くよりも前に杖を構える。
トリステインの隣国 ガリアの王族、謀殺された王弟オルレアン公シャルルの娘「シャルロット・エレーヌ・オルレアン」。
なぜ、昨日 召喚されたばかりの この亜人が、自分の本当の名前を知っている?

「落ち着くんだ、タバサ。ボクはキミと争うつもりは無いよ」

目を丸くしたまま杖を構える少女に、ユベルが言う。
だが、タバサは杖を下ろさない。

「……あなたは…何者?」

絞り出すような声で、タバサが目の前の亜人に尋ねる。

「さあ……? 強いて言えば『悪魔』かな? どのみち キミたちには馴染みの無い存在だよ」
「……どうして、私のことを知っているの?」

と 質問を続けつつ、亜人の後ろで硬直しているシルフィードを睨む。
青い竜は、自分は何も喋っていないと目で訴える。

「昨日 キミを見たときから、キミには何かあると思っていた。そして たった今 キミの心の闇が、ボクに すべて教えてくれたんだ」
「心の…闇?」
「そう。キミたち人間の…心の後ろ暗い部分。ボクには それがわかるんだ」
「…………」
「キミの望み……叶えてあげてもいいよ」
「……!」
「キミには、悪魔に魂を売ってでも、復讐したい相手がいるんだろう? 助けたい人がいるんだろう?
 ボクがキミに、その一歩を踏み出す勇気と『力』を与えてあげる。憎い敵を打ち倒し…愛する者を救う『力』をね」

「悪魔」を自称する この亜人が 自分にこんな提案をする理由が、タバサにはわからなかった。
たしかに ここハルケギニアは、陰謀・謀略に満ちている。
今のガリア王国の内情を快く思わず 政府転覆を狙う者など、いくらでもいるだろう。
だが、昨日 召喚されたばかりの使い魔が、そんなことを望むとは思えない。
主人であるヴァリエール公爵家の娘の差し金ということも考えにくい。
もしかしたら、本当にタバサの心を覗いて その事情を知り、気まぐれに力を貸そうとしているのかもしれない。
だが……

「おねえさま! そいつにかかわっちゃダメなのね! ダメ! 絶対ダメ!」

それまで ユベルの背後で縮こまっていたシルフィードが、大きな体を揺らしてタバサに駆け寄り、すがりつくように懇願する。
人語を話すことができる幻の風韻竜であることは隠す というタバサとの約束は、すっかり頭から飛んでいる。

「ふん、そんなにボクが嫌いかい。だが、おまえに決定権は無いからね。
 ……さあ、キミの答えを聞こうか、お姫様」

しばらくの沈黙の後、タバサが口を開いた。

「……考えさせて」

その言葉を聞いて、シルフィードが安堵の反応を示す。

「きゅい! シルフィは おねえさまを信じてたのね! でも 断るなら もっとハッキリ言うのね!」
「……まだ断るとは言ってない」
「きゅい!?」

再び、シルフィードが落ち着きを無くす。
タバサは、そんなシルフィードを落ち着かせるために手で撫でながら、ユベルを見据える。

「私たちは まだ、あなたのことを よく知らない」
「ほう。つまり、信用できないということかい?」
「……正直に言えば、そう。それに、今の あなたからは 戦うための『力』を感じない」
「だからボクが本当にキミの役に立つかどうかもわからない、ということか。なるほど、ずいぶん慎重だね……でも、いいよ。ボクは待っている」

そう言うと ユベルは再び片膝をついて姿勢を低くし、左手をタバサの方へ差し出した。
身長に見合う大きな手は、堅そうな紫色の皮膚に覆われ、指先からは鋭いツメが飛び出している。

「今日は、キミと話ができて よかったよ、タバサ」
「……握手?」
「あぁ。見てわからないかい?」
「…………」

しばらく黙ったまま、タバサは じっとユベルを見つめる。
相変わらず何を考えているかわからないが、攻撃性は感じられない。

「…………」
「…………」

やがてタバサも左手を差し出し、大きさの合わない手で2人は握手を交わす。

「っ!?」「ッ!?」

2人が同時に何かに驚き、同じタイミングで手を離す。
ユベルの額…の眼球に刻まれたルーンが、淡い光を放っている。

(なんだ、これは……!?)

『雪風のタバサ』『風属性』『魔法使い族』『ガリア北花壇警護騎士団の七号』『会得している魔法』……
目の前の少女について、ユベルがタバサの心の闇から読み取った以上の情報が、次から次へと頭の中に流れ込んでくる。
デュエルモンスターズのカード……いや、それを遥かに超える情報量だ。この娘の有用な能力が一目で確認できる。

(まるで、道具として利用しろとでも言っているかのようだな……)

その時、左手を抑えて うずくまるタバサと その傍らで取り乱すシルフィードの背後の景色に、校舎から出てくる ルイズの姿が見えた。
ほかの生徒たちの姿も、ちらほらと見える。皆、自身の使い魔を呼びに来たようだ。

(……まあいい。ひとまず、この子との『繋がり』は出来た。残るは、もう1人か……)

幸い、ここは魔法学院だ。授業や図書館…それに教師たちを利用すれば、この世界についての知識は手に入る。
この世界について 十分に情報を得る頃には、十代の居場所を探知できるだけの力も戻っているだろう。

「……それじゃあ、ボクは先に 授業に行ってるよ」

ユベルは、無表情の仮面の額に汗を浮かべているタバサに 一声かけると、
背中の翼を広げ、腕を組んで直立した姿勢のまま 謎の浮遊力で低空飛行しつつ、ルイズの元へ向かった。
その黒い後ろ姿を、タバサが無言で見つめる。

「おねえさま、大丈夫なのね!?」
「……大丈夫。なんでもない」

たしかに 体は大丈夫だ。だが、なんでもないということはなかった。
タバサは ハッキリと感じていた。
自分と あのユベルという亜人との間に、何か「繋がり」のようなものが出来てしまったことを。
その関係は、メイジと使い魔の関係のような「絆(きずな)」とは違う。
何か、重たく粘ついた鎖で絡めとられるような感覚……
地球の「漢字」を知る者であれば、その「絆」という文字を「きずな」ではなく「ほだし」と読んでしまうだろう。

(……迂闊だった。でも……)

ユベルの手に触れたとき 頭の中に流れ込んできた 謎のヴィジョン。
10メイル程度の距離をとって対面する2人の人間。両者の左腕に装着された 奇妙な形の 盾のような物体。
その変な器具を装着した生身の人間が、杖も無しに魔法を操り 幻獣や亜人を使役して、お互いの命を削り合っていた。
まだ確証は持てないが、あのユベルという亜人が言っていた「力」とは このことだろう。
その、この世のものとは思えない 異様な光景…そして「力」に、彼女は 暗い希望を見出していた。
それだけの「力」なら、壊された母の心を元に戻すこともできるかもしれない、と。


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