あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-17


港町ラ・ロシェールを見渡す岩山の上に、人修羅の姿があった。
「手がかりは無いか」
昨日ルイズ一行を襲った物盗りは、偶然ルイズ達を襲ったのではなく、何者かによって手引きされていた。
手がかりを得るため、幾つかの店や酒場で話を聞いたが、結果は芳しくなかった。
人修羅の身なりはルイズが用立てたもので、純白や漆黒を避けてはいるが仕立ては魔法学院の学生と同レベルのものであった、マントでも着けていればメイジだと思われたかもしれない。
ちぐはぐな身なりの男が酒場で多少聞き込んだところで、仮面を付けた男の足取りなど調べようもなかった。
ただ、人修羅もその点は理解している、そこで重要なのが『心眼』と呼ばれる殺気を感じ取る技術だった、他人の心を読む程ではないが、殺気や懐疑心には特に敏感に反応する。

「眩しいな…」
太陽は既に水平線を離れている、地球の時間で言えば午前7時頃だろう。
『そろそろ戻った方がいいんでねーの。もし嬢ちゃん達が狙われてるなら、また襲われるだろ』デルフリンガーが言った。
人修羅は「そうだな」と呟いて崖から飛び降りた、岩壁の途中の僅かな起伏を選んで飛び移り、町はずれへと下りていった。

◆◆◆◆◆◆

『女神の杵』亭に戻り、人気のない朝の酒場で体を休めていると、二階から羽帽子をかぶったワルドが降りてきた。人修羅の姿を見つけ、笑みを浮かべる。
「おはよう。使い魔くん。ずいぶんと朝が早いね」
「おはようございます。ちょっと寝付けませんで」
人修羅がそう言うと、ワルドがはははと笑った。
「緊張していると皆眠れなくなるのさ、今日のうちに緊張をほぐしておくといい」
「そうします」
人修羅は冷や汗を浮かべつつ答える、寝付けないどころか、夕べは桟橋へのルートや、賊が潜めそうな場所を一通り見てきたのだ。
わざわざ『睡眠の必要もありません』と言うこともあるまい。

すると、気をよくしたのかワルドはにっこりと笑った。
「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」
「え?」
人修羅は、不思議そうにワルドを見た。
ワルドは首を傾げて、人修羅の腕を見る。
「…昨日、グリフォンの上でルイズに聞いたが、きみは異なる世界からやってきたそうじゃないか。おまけに伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうだね」
「はぁ」
『ガンダールヴ』のことは他言無用だと注意されていた、ルイズが婚約者に話してしまったのだろうかと危惧した。
「僕は歴史に興味があってね。王立図書館で『ガンダールヴ』のことも伝説的な描かれ方をしていたんだ。君がガンダールヴと同じルーンを持っていると聞いて驚いたよ」
「そりゃどうも」
「それに、なかなか腕が立つそうじゃないか、任務のためにも、ちょっと手合わせ願いたい」
「手合わせって…?」
ワルドを見た、腰に差した剣状の杖をトントンと小突いている。
「つまり、これさ」
魔法の杖を引き抜くと、にやりと笑う。
「……ルイズさんに許可を取りたいんですけど、いいですかね」
「許可か…」
許可と聞いて、どうしたものかとワルドは唸る。
人修羅はどうやって断ろうかと悩んだ。

そこに、ギィ…という扉の音が聞こえた、誰かが入ってきたのかと扉を見ると、ロングビルが顔に緊張を浮かべて扉を開いていた。
すぐに人修羅の姿に気が付き、目があった。
「用があるみたいですね、ちょっと話を聞いてきます」
人修羅はそう言うと、そそくさとロングビルの元へ近づいた。

「どうしたんですか?」
「ミスタ・人修羅。私はあなた方がラ・ロシェールにたどり着いたのを見届るのが仕事でした。用はもう済みましたので、これから魔法学院に戻ります」
「わかりました」
「アルビオンでは何が起こるか解りませんから、気をつけてください、それでは…」
短い言葉を交わすと、ロングビルはいそいそと『女神の杵』亭を離れていった、その様子に焦りにも似た雰囲気を感じながらも、人修羅は黙って見送った。

「何かあったのかね?」
ワルドがそう声をかける。
「ミス・ロングビルは魔法学院に戻るそうです。元々、ラ・ロシェールに到着するのを見届けるのが仕事だったとかで」
「ほう、彼女は魔法学院の教師かね」
「そんなところです」

さ、どうやって腕試しのお誘いを断ろうか…そう考えていると、丁度良く二階からルイズ達が降りてきた。
「おはよ。みんな朝が早いな」
「おはよう」「おはよ」「君こそ早いな、おはよう」
タバサ、キュルケ、ギーシュが答える。なぜかルイズは黙ったままだ。
「ルイズさん?」
「あ、人修羅。朝早いのね」
ルイズの返事には、なぜかキレが無い。久しぶりに婚約者に会えたことで眠れなかったのだろうか。
(まさか…ワルドさんが強引に迫って…昨晩のうちにキスどころかあんな事やこんな事まで!?)

ゴン!と音を立てる勢いで、自分の頭を石造りのテーブルにぶつけた。
「なっ何やってるの?」
ルイズが驚いて近づくと、人修羅は引きつった表情のままルイズに向かって頭を下げた。
「ごめん。ホントにごめんなさい」
「何?何?何なのよもう」


◆◆◆◆◆◆


石造りのテーブルに自ら頭をぶつけるという奇行に走ったおかげで、『手合わせ』の話はうやむやになった。

「ここで集まっていても仕方あるまい。僕は桟橋へ行ってこよう。ルイズも行くかい?」
「ううん…、私はここに残るわ」
「そうか。すぐに戻るつもりだが、万が一ということもある。使い魔くん、ルイズを頼むよ」
「解りました。」

興が削がれたせいか、ワルドは手合わせの話を蒸し返そうとせず、アルビオンに行ける船があるのか調べるため桟橋へと出かけていった。
『女神の杵』亭からワルドを見送ると、ルイズは人修羅の側に寄り、ちらりと人修羅の顔を見て、すぐに視線を下に向けた。
「どうかしたの?」
「何でもない」
心配する人修羅を余所に、ルイズはそそくさと部屋に戻ってしまった。
「なんかあったのかな」
「あら、やっぱりルイズのことが心配なのね」
キュルケが悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべて、人修羅に近寄る。
「うん。心配してないと言ったら嘘になるかな」
「何よもうからかい甲斐が無いわねえ」
人修羅があっさりと答えてしまうので、キュルケはつまらなそうにした。
タバサはそんな二人の様子など気にすることなく、人修羅の向かいの席に座り、小声で呟いた。
「…何か解った?」
「ああ、昨日の話か」
人修羅はテーブルに肘を突き、静かにタバサの目を見返して答える。
ただならぬ雰囲気を感じたのか、キュルケがタバサの隣に座り、釣られてギーシュも人修羅の隣に座った。

「昨日の物盗を雇った男は、仮面を付けた壮年の男性。依頼を受けた酒場にも行ってきたけど、正体は解らずじまい。
あの物盗りは傭兵で、前金として15枚のエキュー金貨を貰っていた、おかしいと思わないか?俺でも大金だと解るべらぼうな金額だ。
これは勘だけど…傭兵に金を出してでも、こちらの戦力を測る必要があったんだろう」
「…貴方達は、何かの任務を負ってる?」
何気ないタバサの呟きはある種の核心を突いていた。
「ふふん。残念ながら君たちには教えられな」
「おい」
人修羅がギーシュを睨む、するとギーシュは得意げな表情をみるみる青ざめさせてしまった、殺気が漏れていたことに気付き、人修羅は慌てて視線を逸らす。
ギーシュは得体の知れない悪寒に戸惑い、目をぱちくりとさせ、黙ってしまった。

「ギーシュ…気持ちは解るが、そんな言い方をしたら任務を負っていると自慢してるようなものだろう。お忍びなんだから、任務を負ってることすら他人に気取られないよう注意しなきゃ」
「あ、ああ。うん。そうだね、ハハハ…」
乾いた笑いしか出ないギーシュ、可哀想だが自業自得だと割り切って、人修羅はタバサに視線を戻した。

「お忍びでアルビオンへ行く。それ以上は言えない。」
タバサとキュルケが頷く。人修羅はそれを見てにっこりと微笑むと、椅子の背もたれに体を預けた。

「……それにしても、ルイズといい、ワルド子爵といい。貴族であることを隠そうとしない。とんだお忍びがあったもんだ」
「格式しか取り柄がないんでしょ、トリステインは」
「キュルケさんは辛辣だな」
人修羅とキュルケは、揃って笑みを浮かべた。


そのまま無言で二分ほど過ぎた頃だろうか、タバサがぼそりと呟く。
「…朝食は取らないの?」
「ああ、そろそろ注文しようか。酒場の料理でいいのか?」
そう言って席を立つと、キュルケとギーシュは、変な物を見るような目で人修羅を見る。
「ここは酒場」とタバサ。
「ん?」
「朝食は給仕に運ばせて部屋で取るのが普通」
「あ、そうなの」
人修羅は恥ずかしそうに頭を掻いた。

◆◆◆◆◆◆

タバサとキュルケは朝食を取らずに出かけるようで、人修羅とギーシュは部屋に戻り大人しく朝食を取ることにした。
すぐに給仕の女性達がやってきて、ワゴンに乗せた朝食を小さなテーブルへと並べていく、朝食を部屋で取るのは、地球ではどの国の文化だったか…そんなことを考えながらふとギーシュを見た。
当然のように座り食事に手をつけているが、その動きに淀みはない。
食事は魔法学院の朝食より幾分か質素であるが、日本生まれ日本育ちの人修羅には十分豪勢な「コース料理」であった。
「すごいな」
「ん?」
「いや、ナイフとフォークを、きれいに動かすものだなと思って。幼い頃から練習しないとそう見事にはならないな」
人修羅はそう言うと、夜のうちに作っておいた木の箸でライスを摘み、口に運ぶ。
「君の食べ方も不思議なものだな、よくそんな棒で食べられるね」
「これは『箸』って言うんだ。故郷の食器さ」
ギーシュはふむ、と呟きつつ食べ物を口に運んだ。
「…そういえば君は、東方出身の優れたメイジだとか聞いたけど…本当かい?」
「ん?誰からそんな話を聞いたの」
「ミセス・シュヴルーズやミスタ・コルベールが言っていたよ、マジックアイテムの研究を手伝って貰っているとか、優れた医術を持つとか」
「メイジと言えばメイジ…なのかなあ。医術って言ってもそれほど詳しい訳じゃないぞ、俺の故郷じゃ皆学校に行くんだ。そこで各専門知識の『さわり』を習うんだよ。それがたまたま役に立った」
「平民も皆学校に行くのかい?」
「ああ。段階はあるけどな、小学校、中学校、高等学校、大学とあっって、そのうち小学校六年間と中学校三年間は受ける義務があるんだ」
「九年の義務か! しかし、平民にそんな教育が必要とは思えないなあ」
「そうでもないさ。ちゃんとした知識を得て見聞を広げる土台があれば、農業も工業もより良い結果を出そうと努力しあうんだよ。そりゃ知識を悪用して、互いの足を引っ張ることもあるが、それを罰するのが為政者だろ?」
「うむむむ…」
何か感じるものがあったのか、ギーシュは唸って考え込む。

(ギーシュは意外と真面目なんだな…)
そんなことを考えながら朝食の時間は過ぎていった。


◆◆◆◆◆◆

朝食を終えた人修羅は、昨日に続いてこの街の様子を見ようと部屋を出たところで、ルイズと鉢合わせた。
「話があるんだけど…ちょっと来て」
「わかった」
ルイズと人修羅は、女神の杵亭の中庭を通り抜けて、今は倉庫として使われている部屋にやってきた。
掃除をすればちょっとしたホールとしても使えそうな広さだが、それもそのはず、ここはかつて貴族たちが集まり、陛下の閲兵を受けたという練兵場らしい。
樽や空き箱が積まれ、片隅には旗立台や古ぼけた棚などが並んでいた。

「人修羅」
ルイズが人修羅の顔を見上げ、細い声で独白を始めた。
「昨夜、ワルドにプロポーズされたの。この任務が終わったら、僕と結婚しよう…って。私ももう、十六だし、自分のことは自分で決められるって…言われたけど、でも、まだ、ワルド様に釣り含うような立派なメイジじゃないし……、もっともっと修行して……」

人修羅は、そっとルイズの肩に手を置いた。
「ルイズ。俺はこの世界のことは解らないけど、これだけは言っておく。迷っているなら止めるんだ。戸惑うならまだその時じゃない。
悩むだけじゃイヤだと言っているのと同じ事なんだ。今は駄目だと思うなら、今は駄目だとはっきり言った方がいい。
それでも求婚されて、自分の気持ちが変わったと思うなら、堂々と受けろ」

ルイズは驚いた顔で人修羅を見上げたが、不意に表情に力がこもった。
「うん、ありがとう。 …私って優柔不断なだけかもしれない。私は多分ワルド様と結婚することになると思うけど、今は…迷ってる。だから、ちゃんと自分の魔法を使えるようになってから、改めて考えてみる」
「いい顔になったな、悩んでばかりだと笑顔が曇る。笑ってた方がいい」
そう言ってルイズの頭を撫でると、ルイズが微笑み、そして人修羅も微笑んだ。

「あ、そうだ…朝、ワルドさんが俺を『ガンダールヴ』だと言ったけど、ルイズさん話しちゃったの?」
「うん。ワルド様も気づいていたみたい。グリフォンに乗った時『伝説のルーンによく似ている、いやそのものかい』って聞かれたから、隠しても仕方ないと思ったし…答えたわよ」
「そうか、それならいいんだ。秘密にしろと言われてたから、今朝突然『ガンダールヴ』だと言われて驚いたよ」
「ワルド様は魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長よ。貴族の力関係だけじゃなくて、系列や歴史も学んでるわ。それぐらい不思議じゃないわよ」
「なるほどね」
人修羅は頭を掻きつつ、ルイズの背中をぽんと押して、練兵場を出て行った。

(疑いすぎても駄目だな…もう少し冷静にならないと)


「おや、ルイズに使い魔くん」
部屋に戻ろうとしたルイズと人修羅は、桟橋から帰ってきたワルドと鉢合わせた。
「交渉はどうでした?」
余計なことを言われても困るので、人修羅は船便の話を聞くことにしたが、ワルドは首を横に振った。
「昨日と変わらないな。明日の昼頃でないと風石が運ばれてこないらしい。今日の出航は無理そうだ」
そう言うと、ワルドはルイズに向き直る。
「ルイズはアルビオンに行ったことがあるんだね?」
「ええ、一度だけ行ったことがあるわ。でも行楽としてよ」
「それで十分だ、港に到着してからの経路や土地の情報を、幾つか聞いたのだが、ルイズの知っているアルビオンの様子と照らし合わせたい」
「もう何年も前の記憶だから、役には立たないと思うわ。それに…」
「それでもいい、僕はアルビオンへ行ったことはなくてね、地図と照らし合わせておきたいんだ」
「そう言うことなら…。あ、人修羅も聞いておいた方がいいんじゃない」
人修羅が返事をする前に、ワルドが口を挟む。
「使い魔君は用心深い、その性格を買って、一つ周囲の警戒を頼みたいんだが…」
「…解りました。細かい話は船の中でしてくれるんでしょう?」
「ああ」
「じゃ、見回りしてきます。ルイズ、何かあったら上空で爆発を起こすか、これを使ってくれ。すぐ駆け付ける」
「解ったわ。 …気をつけてね」
ルイズは人修羅から小石を受け取ると、人修羅を見送ろうとしたが、ワルドはルイズの背中を軽く押して部屋へ行こうと促した。

「使い魔くんが(野党に襲われないか)心配かい?」
「ええ。(ラ・ロシェールが壊滅しないか)心配よ」

二人の想像は、似ているようでまるで違っていた。


◆◆◆◆◆◆

ワルドに言われなくとも、人修羅は適当な口実を作って外を見回るつもりだった。
念のため、ルイズには『テトラカーン』と『マカラカーン』をかけた上で、目印となる石を持たせてある。
直径2サントほどの小石は、周囲に被害を及ぼさず魔力を放出する『メディアラハン』を仕込んである。
杖を奪われたりなどして爆発を起こせない場合があるし、爆発が起こると巻き添えでルイズ自身が怪我をすることもあり得るが、石を発動させれば怪我の治癒だけでなく、その余波がルイズ達の目印となる。

人修羅は『女神の杵』亭を出て、デルフリンガーを背中に釣るためのベルトを引き締めると、様々な店が建ち並ぶ大通りへと歩いていった。

『あの嬢ちゃんの側にいてやらなくて、いいのかい?』
背中からデルフリンガーに声をかけられ、人修羅は小声で答えた。
「デルフ、今朝から視線を感じてる。そいつの正体を知りたい。今は真後ろに居るはずだ…それらしいヤツはいるか?」
『…こっちを監視してるヤツが居るとは思えねーけど』
「勘だけど、かなり遠い。宿を出てからずっと見られてる気がするんだが…」

人修羅はふと立ち止まり、街道に並ぶ店から果物屋を選んで近づいた。
「これ下さい」
そう言って林檎を一つ選び、壮年の男性へと代金を渡した。
「まいどあり、この林檎は今アルビオンへの出荷が止まってだいぶ安くなってるが、貴族向けの品物なんだ。味わってくれよ」
「へえ、そんな形で戦争の影響があるなんて、大変だな。ところで聞きたいことが有るんだが…知り合いがアルビオンから疎開したと聞いたんだが、どこに行ったのかが解らないんだ。そういった人が情報交換に使ってる場所とか知らないか?」
「それは知らないなあ、アルビオンからの疎開らしき人もあまり見かけない。酒場にはもう行ったかい?」
「酒場で一通り聞いてみたんだが、駄目でさ。林檎が好きだったからこの店にも立ち寄ってるかと思ってね」
「そうかい、すまないが俺には心当たりがないねえ」
「ありがとう。コレ取っておいてくれ」

人修羅はチップにと少量の硬貨を渡して店を出、来た道を戻った。
物珍しそうに店を覗き、辺りを見回して視線の元を探る……人修羅の目はシルフィードほどではないが、かなり遠くまで見通せるが、相手も人修羅を警戒したのだろう、見つけ出す前に気配は失せてしまった。

「視線が消えたな。デルフ、お前って人の姿は解るんだよな、どれくらいの距離まで解る?」
『特徴があって遮るモノがなければ、100メイル先でも解るぜ』
「壁越しは?」
『できねー訳じゃないけど、面倒だな。ぼやける』
「そうか。壁やドア越しに俺達を気にしてるヤツがいたらさりげなく教えてくれ。ついでに尾行にもな」
『あいよー』

そろそろ昼になる、人修羅は昼食を取るべく宿に戻った。



『女神の杵』亭に戻った人修羅は、見慣れた後ろ姿を見つけ、声をかけた。
「タバサさんにキュルケさん、買い物は済んだのかい」
「あら人修羅、貴方も外にいたの」
「見回りがてら美味そうな物を探したんだ、ところでギーシュは見なかったか?」
「先に戻ってたわよ」
「そうか…じゃあ二人に話したいことがあるんだけど、時間あるかな」
「いいわよ。タバサは?」
「私も平気」
「そっか…んじゃ、とりあえず酒場の席にでもつこう」
三人が中にはいると、ギーシュは既に適当な席についていたので、同じテーブルにつく。

「やあ、麗しきレディの二人と同じテーブルとは光栄だな」
ギーシュはいつもの調子で三人に声をかけた。
「モンモランシーに殺されるぞ」
人修羅がぽつりと呟く。
「ちよっ、ちょっと待て、これは只の挨拶だよ!」
「ほんとかなー。どう思う二人とも?」
「ギーシュは移り気なだけね、情熱のかけらもないわ」
「ただのお調子者」
キュルケとタバサの容赦ない言に、ギーシュは突っ伏した。

「それはそれとして、だ。この際だから聞いておきたいけど、キュルケさんと、タバサさんは、アルビオンまでついてくるつもりなのか?」
「私はどっちでもいいわよ。人修羅が付いてきて欲しいって言うなら別だけど?」
「私は…必要ならついていく」
二人の言葉に驚いたのはギーシュだ、まさか二人とも付いてくるような事を言うとは思わなかった。
「おいおい、これはお忍びの任務なんだよ、二人は部外者じゃないか」
「だけど、もう知られてしまったろう?変に追い出すより、昨日みたいな事が起こるとも限らないから、二人には影からの協力を頼みたいんだ」
人修羅はギーシュを制すと、タバサとキュルケを見る。
「シルフィードは、アルビオンまで楽に行けるのか?」
「今の時期はアルビオンが近い。航路さえ解れば、二日はかからない。体力的にも問題はないと思う」
「そっか。…俺達は船でアルビオンに行くけど、誰にも気取られずにアルビオンに近づくことはできるか?」
「多分難しい。港周辺は竜騎士が哨戒に出ていると思う。その目をかいくぐるのは無理」
人修羅はタバサの回答から、アルビオンの港が厳しい監察課にあることを察した。ラ・ロシェールは港町として、交易地独特の威勢がある、しかし戦場ではない。
タバサは、アルビオンに入港する船全てが、貴族派もしくは王党派の入念な取り調べを受け、空には竜騎士がいて『フライ』で密入国するメイジを見張っていると想像しているのだろう。
キュルケも、ほとんど同じ考えだが、こちらはタバサと違い完全な『勘』であった。

「なら、船の後を追ってくれるか? 船上での危険に対応しきれない場合もある。もちろん、タバサに危険が有ればすぐに逃げてくれ、帰り道の確保ができればそれに超したこともないが……」
「わかった」タバサが頷く。

「な、なあ、そこまで心配しなくてもいいんじゃないか?アルビオンに到着したら手紙を届けるだけなんだろう?」
ギーシュが口を出すが、キュルケがふんと鼻で笑った。
「何がおかしいんだ」
「おかしいのは貴方よ、トリステインの貴族って危機感もないのね。王党派はもうニューカッスル城に籠城してるって話よ。貴方今日は女の子を口説くだけで、アルビオンについて何も調べなかったのかしら」
「な…なんだって…」
ギーシュはいてキュルケとタバサを見やる、自分を驚かすための冗談だ馬鹿も休み休み言い給え…と言い返そうにも、二人の凛とした瞳を見て何も言い返せなくなってしまった。
「ワルドさんが何とかしてくれるだろ?」
気まずい沈黙を破るため、人修羅が呟く、するとギーシュは幾分か緊張が解けたのか、ハハハと笑った。
「そ、そうだね。魔法衛士隊の隊長ならきっと上手い手があるはずさ」

キュルケは肩をすくめ、やってられないわ、と言いたげな視線を人修羅に向ける。
思わず苦笑で答えてしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆



一通り話を終えた一行は、思い思いの時間をラ・ロシェールで過ごした。
ルイズはワルドと出かけたりしたが、シルフィードが丘の上から見守ってくれたおかげで、人修羅も武器を売っている店を探し、投げナイフや鉄つぶてを補充したり、ガンダールヴのルーンを隠す手袋を買ったりした。

夕方になって宿屋に戻り、夕食。これは魔法学院よりも豪勢なもので、人修羅は『この旅だけで幾ら使う気だろう…』と冷や汗を流した。
そのまま皆は酒を飲みはじめ、アルビオン出航前だというのにパーティーのような雰囲気らしい。
それが悪いとは言わない、だが危機感が足らないと非難したくなる。もちろん、この非難は的はずれだ。
ハルケギニアの人間が酒に強いのは、水代わりにワインを飲むことが多かったからだ、石灰を含む地下水が多く、常飲に適さないため、エールやワインが水代わりに飲まれていた。
そんな国で6000年も過ごした人間達は、酔いに強くなる、子供も酒を飲める文化が出来上がるのは当然と言えた。

…尚、人修羅は酒にイヤな思い出があるので飲酒を控えていた。
酒を飲んで、ふと気が付いたらラ・ロシェールの入り口に放り出されているかもしれない。
キュルケにも誘われたが、丁重にお断りし、部屋で装備品のチェックをしていた。

この世界で船に乗るのは初めてだ、しかも海ではなく空を飛ぶ船、人修羅は空を飛べないので心の何処かに焦りがあった。
「…………」
掌を上に向け、そこに青銅の固まりを乗せて、ゆっくりと握る姿を想像していく。
空の上で竜に襲われた場合、相手のスピードを上回る攻撃をしなければ、人修羅はともかく船が持たない場合もあるだろう。
そんな時はギーシュに青銅の塊を練金させ、直接投げつけるしかない。

酒場や街で聞きかじった情報を纏めていくと、この世界には空の海賊とも言える『空族』がいる。
軍人崩れが多く、マジックミサイル等の魔法だけでなく、船に大砲を積んでいる場合もあるという。
それらと対峙したときに、自分はどう行動すべきか?
船を落とされたら負け、しかも無駄な乗員はその場で殺されるか、船から落とされるかもしれない。
先の先を取って、遠距離攻撃に頼り、相手の船を潰すしか方法が無いのだろうか…。


そんなことを考えていると、不意にノックの音がした。
「どうぞ」と返事をするのと同時に扉が開き、ルイズが姿を見せた。
「ねえ、人修羅は飲まないの?」
「俺はいい、酒にはそんな強くないしな」
「そうなんだ」
ルイズは人修羅の側に近寄ると、ちょこんとベッドに座る。
足をブラブラとさせて、ベルトの長さを調節する人修羅を見つめた。
「ルイズさんこそ、下はいいのか。みんな飲んでるんだろ?」
「そうだけど、人修羅が一人だから、気になったのよ」
「俺のことなんか気にしなくてもいいのに」
「そうもいかないでしょ、人修羅は私の使い魔なんだから」

ふと、昨日の『兄妹みたい』というキュルケの言葉が浮かんだ、なるほど手のかかる妹かもしれない。
こうして、自分のことを気にしてくれるだけでも心が安らぐ、妹を持つ兄とはそんな気持ちなのだろうか。

人修羅は一通りの装備を身につけ、軽く体を動かした。
ベルトや足首に固定された五寸釘のような投げナイフや、内ポケットに入った鉄の礫は、動いても音が鳴らないようにう工夫されている。
人修羅は「よしっ」と満足そうに言った。



「ねえ、人修羅って、結婚とか考えたことあるの?」
「うん?」
ルイズの呟きに、人修羅は少し考え込んでしまった。
実を言えば結婚なんて考えたことはない、しかし、ボルテクス界では結婚生活の悩みを抱えたまま肉体を失い思念体になった者も少なくない。
(俺って、いわゆる耳年増なんだろうか)
「…あの、今日ワルド様にプロポーズさたって言ったじゃない。あの時『迷うなら止めろ』って言ってくれたでしょう?」
「その話か…そうだな、俺が結婚するなんて考えなかったなあ」
「その割には、すごく解りやすい言葉だったわ。なんか、目が覚めたって気がするもの」
「結婚して失敗したと嘆く人や、良かったと言う人の話は沢山知ってる。
隠し事が原因で離婚した人や、死別した人、第三者に奪われた人もいる。
結婚は喜びばかりじゃないと教えられたよ。でも、最善を尽くそうとした人は苦しみや悲しみを受け入れて、それを越える力を持ってると思う。
だから迷う内は止めろって言いたかったんだ」
「そう……」
ルイズはベッドから下りると、人修羅と向かい合った。
「改めて礼を言うわ、ありがとう」
「どういたしまして」

月明かりを背にした人修羅は、金色に輝く瞳がとても澄んで見えた。
それは記憶の中にいる誰よりも優しくて、悲しみを称えた色だった。

…しかし、その数秒後に、月明かりは遮られてしまう。
「!」
人修羅はただならぬ気配を感じた、鉄の音と、巨大な何かが蠢く音が当たりに聞こえてくる。
「何か来る、ルイズさんは下がって」
「何かって…え、ええええええーー!」

窓の方を振り向き外を見ると、山が動いていた。二人は目を懲らして外を見るが、するとそれは地面ではなく、岩でできた巨大なゴーレムだと解った。

人修羅は巨大ゴーレムの足下に、傭兵らしき者が集まっていると察した。
「こんなゴーレムを作れるなんて」
「ルイズ、下がってろ、まだ一階には侵入されてないが、時間の問題だ」

首のない巨大なゴーレムの肩から、二人の人間が飛び降りた、フードを深く被っており顔は見えないが、二人とも何処かで見たような体格をしていた。
「あいつらが動かしてるのか!ルイズさん、俺が足止めする、皆と合流してくれ!!」
言うが早いか、人修羅はベランダに出てゴーレムの足元を見た、傭兵達が酒場に殺到していると思いきや、暗闇から弓矢を射ている、メイジの魔法を警戒してのことだろう。

瞬間、数本の矢が人修羅へと放たれた。
体で受けると服が破れる上、後ろにいるルイズに当たるかもしれない。人修羅は一瞬でデルフリンガーを抜き、矢を払いのけた。

だが、弓矢だけでなくゴーレムにも動きがあった、その巨大な手を人修羅に向かって振り下ろそうとしたのだ。

「人修羅!」
ルイズが叫ぶ。
それとほぼ同時に、人修羅はデルフリンガーを左手に持ち替え、右手の指に力を込める。「ジャッ!」
振り下ろされた腕はまるで獣のようで、指先は猛禽類を思わせる魔力の爪を纏っている、その破壊力は凄まじくゴーレムの肘までを一瞬で粉々にした。

バゴゴッ!と、硬い岩の割れる音が当たりに響く。
人修羅はすぐさまルイズの手をつかみ駆け出す、部屋を抜けて階段を駆け下り、一階の酒場へと向かった。

酒場では、突然現れた傭兵の一団が玄関へと乱入し、ワルドたちに襲いかかろうとしたらしい。
すぐさまギーシュ、キュルケ、タバサ、ワルドの四人が応戦したが、多勢に無勢。ラ・ロシェール中の傭兵が『女神の杵』亭を狙っているとしか思えない程だった。
キュルケたちは床と一体化したテーブルの足を折り、それを縦にすることで矢を避けていたが、相手もまた歴戦の傭兵らしくメイジの射程距離に入ろうとはしない。
傭兵たちは暗闇の中から、飛び道具で一方的に攻撃をしている、魔法を放とうと立ち上がれば、暗闇から矢が雨のように飛んでくる。

店の主人は傭兵達に文句を言おうとして、腕に矢を受けてのたうち回っていた。他の客はカウンターの陰に隠れてガタガタと震えている。

人修羅はそんな酒場を一瞥すると、ルイズを庇いつつキュルケ達の元に駆け寄った。
「参ったね」
ワルドの言葉に、人修羅とキュルケが頷く。
「こんなに傭兵を集めるなんて、誰だか知らないけど随分フンパツしたものね」
キュルケはそう言うと、人修羅を見た。
「奴らはこっちの精神力が切れるのを待ってるわ、油付きの矢を使われたら魔法で対処する羽目になるし、一斉に突撃されるのも時間の問題よ。どうする?」
「ぼくのゴーレムでふせいでやる」
ギーシュがちょっと青ざめながら言ったが、人修羅がそれを制止した。
「ギーシュ、震えてるお前じゃ無理だ」
「や、やってみなくちゃ解らないさ!」
声を震わせながら必死で立ち上がろうとするギーシュを押さえると、キュルケが呆れたように呟いた。
「あんたの作るゴーレム「ワルキューレと言ってくれ!」…ワルキューレじゃあ、一個小隊ぐらいが関の山よ」
「だが、相手は平民だ」
「あたしはあなたより戦いを知ってるつもりよ、平民を侮って死ぬ気?」
「ぼくはグラモン元帥の息子だ、卑しき傭兵ごときに、後れをとってな ごっ!」
人修羅はギーシュの頭を叩き、胸ぐらを掴んで引き寄せた。

「死ぬぞ」

ギーシュは、ぺたりと地面に尻を付いた。
「あ、ああ、じゃあどうすればいいんだ?」
その言葉を待っていたかのように、ワルドが口を開く。
「いいか諸君……このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」

その言葉にタバサが反応した、いつもの本を閉じて、一言呟く。
「囮」
それからタバサは、ワルドとルイズと人修羅を指して「桟橋へ」と呟いた。
「いや、俺がここに残る。タバサさんはシルフィードに頼んで、挟撃を警戒して周辺を探ってくれ。キュルケさんは突破口を開くのに必要だ、行ってくれ」
「人修羅!」
人修羅が残ると言い出したので、ルイズは驚いて声を上げた。
「心配するな、直ぐに追いつくさ」
「仕方ないわねぇ」とキュルケ。
タバサとギーシュは頷くだけで、ルイズは驚いた目で人修羅を見ていた。

「よし、行くぞ!」
ワルドが号令をかけ、ルイズの手を引く、ルイズは躊躇いがちに人修羅を見たが、すぐに事の重大さを思い出しワルドの後を走り出す。
そして、キュルケ、タバサ、ギーシュが後に続いていった。


……そして一人残った人修羅は、デルフリンガーを右手に持ち酒場を飛び出した。
無数の矢が人修羅を襲うが、涼しい顔で片っ端から叩き落とし、悠々と歩を勧めていく。
弓矢だけでは分が悪いと想ったのか、頭上ではゴーレムがの腕が振り上げられ、人修羅に振り下ろされようとしていた。

「悪く思うなよ」
デルフリンガーを左手に持ち替え、右手を高く掲げる。
瞬間、掌から黄金色の魔力が放たれ光り輝く剣が出現し、ゴォゥ…と風が吹いた。



◆◆◆◆◆◆◆◆


『女神の杵』亭を襲撃した傭兵達は、楽な仕事だとタカをくくっていた。
現在の『女神の杵』亭は酒場を作り窓を広げて、砦の機能を自ら捨てている、そんな宿を一つ落とすだけで、一人に一枚以上の金貨が手に入る上等な仕事だった。
物量と作戦があればメイジ数十人が相手でも簡単に殺せると知っている、しかも戦争に慣れていないメイジは、臆病極まりないか、猪突猛進の役立たずのどちらかだ。

だからこそ人修羅が酒場の入り口から出てきた時、傭兵達は『見せしめに丁度良い』ぐらいにしか思っていなかった。

「何だァ、一人で出てきやがった」
「やっちまえ」
暗闇に隠れた傭兵達が、弓をひく。
一斉に放たれた矢が人修羅へと襲いかかるが、その全てが魔法ではなく剣で弾かれたことに驚く。
「風の魔法でも使ってやがるのか、しかし…」
優れた風系統のメイジは、不可視の壁を作って弓矢を防ぐ、しかし人修羅は明らかに剣で矢を一つ残らず叩き落としていた。
「なめやがって」
傭兵の誰かが叫び、弓に矢をつがえた、その時人修羅の動きに変化があった。
高く掲げられた手に、黄金に輝く剣が出現したのだ。

「ジャッ!」
地面に叩きつけられた剣は、ドォォン!という爆発音と黄金色の衝撃波を作り出した。
『ヒートウェーブ』と名付けられた衝撃波は扇状に広がり、傭兵達を吹き飛ばしゴーレムにヒビを入れる。
ルイズの爆発より強力な衝撃波は、傭兵達をパニックに陥れた、暗闇の中では平衡感覚を失った傭兵が何人も逃げだそうとしている。
『手加減しろよ、岩山が崩れちまうぞ』
「解ってるよ、デルフ」
人修羅はそう呟くと、両腕を広げて大きく息を吸い込み、空気と魔力を体内で攪拌して力強く噴き出した。
ゴオオオとうなりを上げて噴き出されたそれは、空気中の水蒸気を一瞬で凍てつかせダイヤモンドダストを発生させるほどの強力な冷気であった。
傭兵達は、突き刺すような冷気で体中を刺激され、悲鳴を上げながら逃げていく。
『手加減って言うのか?これ』
「全力でやったら宿屋ごと凍り付くぞ」
『とんでもねー…』

人修羅はゴーレムを見上げた、既にヒビは直り、腕を振り上げて人修羅を潰そうとしている。
巨腕が振り下ろされる直前、人修羅はゴーレムに向かって跳躍した。

「オオオオァァッ!!」
ズゴーン!と落雷のような音がラ・ロシェール中に響く、人修羅の『アイアンクロウ』でゴーレムが粉々に砕かれたのだ。
破片を周囲にまき散らし、完全にゴーレムの姿は消えた。

デルフリンガーを右手に持ち替えつつ、ゴーレムの破片がまき散らされた暗闇に走り出す、そこには二人のメイジが居た。
一人はゴーレムの破片の下敷きになっていたが、もう一人は仮面で顔を隠し、杖をこちらに向けている。
(こいつが傭兵を雇った”仮面の男”か!)
人修羅は身を屈めて、足に力を入れた。目にもとまらぬ早さで破片をかいくぐり、仮面をつけたメイジへと接近する。
仮面のメイジも、軽業師のような身の軽さで背後へと跳躍し距離を稼いだ。しかし人修羅の方がずっと素早い。
あと数歩という所で、杖の先端ゆらめいた。
『ウインド・ブレイクだ!』
デルフリンガーの叫びと共に、杖から魔力を伴う突風、いや爆風とも言うべき風が吹き荒れた。
それは人修羅の足下からゴーレムの破片を巻き上げ、岩の波を作り出した。
「ちぃ!」
人修羅は岩の波に逆らわず背後へ飛び、倒れているメイジを庇うように、無数の岩を弾き続けた。

それが収まると、すでに仮面の男の姿は無かった、逃げられたとは思えない、おそらくルイズ達を追っただろう。
人修羅は足下に転がるメイジへを見た、うつぶせに倒れ、直径1.5メイルの岩に足と腰を潰されている。
岩を持ち上げると、左足が潰れて骨が露出しているだけでなく、腰の骨も砕けていた、放っておけば死ぬのは時間の問題だろう。
『おい、こいつは…』
「気づいたか」
人修羅は跪くと、メイジを仰向けにした、月明かりに照らされた緑色の髪と整った顔立ちは見覚えがある。
メイジの正体は、ここには居ないはずのミス・ロングビルだった。

『こいつが裏切り者だったのか』
「いや…そうは思えない」
朝、ロングビルが人修羅の前に現れたとき、ほんの僅かにだが、怯えと焦りの混じった感情が見えた気がした。
「この人の実力なら宿ぐらいすぐに潰せるし、ゴーレムで派手に戦うより地面に穴でも空けて暗殺部隊を送り込む方が楽だ、しかしそれをしなかった。脅迫でもされたか?」
人修羅はロングビルへ『メディアラハン』をかけ怪我を治すと、ロングビルを肩に担ぐと、目にもとまらぬ早さで駆けだした。




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