あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

失われた世界から新世界へ-03


 教師の居ない教室と言うのは、往々に騒がしいものだ。
貴族たちが魔法を学ぶこの学院も例外ではない。
生徒たちは、親しいもの同士で集まって談笑している。
今日の主な話題は、昨日召喚された各人の使い魔についてだ。
中でも、火トカゲを召喚した『微熱』のキュルケと、風竜を召喚した『雪風』のタバサが、話題に上ることが多い。
二人は、この学院でも屈指の実力の持ち主で、生徒の中には、二人が何を呼び出すかで賭けをした者もいる。

 その話題の主キュルケが、使い魔の火トカゲを従えて教室に入ってくると、たちまち男子生徒たちが群がった。
口々に火トカゲを誉めそやす彼らに愛想笑いを返して、キュルケは、一番前の列の、青い髪の少女──タバサの隣に座った。
 隣の賑やかさなどどこ吹く風と言ったように、読書に没頭していたように見えたタバサが、
本に目を向けたまま、「汚れてる」 と呟いた。
「え? ああ、これね」
 タバサの声に、顔をそちらに向けたキュルケは、自分の胸元を見て頷いた。
そこには、ルイズの涙のシミがついていた。
「子猫ちゃんを構ってたら、ちょっとね」
 含み笑いをし、ハンカチを取り出してそこに押し当てる。と、窓の方が騒がしくなった。
 何事かとそちらを見ると、ルイズをお姫様抱っこした大男が、窓を開けて入ってくる所だった。
「どうやら、間に合ったようだな」
「あまりお行儀はよろしくねえが、遅れるよりはマシか」
 超戦士たちがそんな事を言うと、教室に押し殺した笑い声が広がった。
「降ろしなさい」
 教室の雰囲気に怪訝な顔をした金髪の超戦士だったが、ルイズにそう言われ、ひとまず彼女を地面に立たせる。
ルイズは、こほんと一つ咳払いすると、手近な空席に腰を下ろした。
「俺たちは……後ろか」
 教壇を最下段として階段状になった教室の一番高い所に、目玉のお化けやら大蛇やら蛸と人魚の合いの子やらと言った
珍獣たちが集まっていた。
超戦士たちはノシノシと階段を上がってその溜まり場まで行くと、壁に背を預けて腕組みをした。
 ちょうどその時、ドアを開けて年かさのいった女性が入ってきた。
彼女は教壇に立つと、生徒たちを見回してにっこりと笑った。
「おはようございます、皆さん。どうやら、使い魔の召喚は大成功だったようですわね」
「ミセス・シュヴルーズ! 若干1名、失敗したやつがいますよ!」
 教師の言葉を待ってましたと言わんばかりに、太っちょの少年が手を挙げる。
ルイズが、忌々しげにその少年──マリコルヌを睨む。
「あら、そのような報告は受けていませんが……ミスタ・グランドプレ?」
 目を丸くしてシュヴルーズが聞き返すと、マリコルヌは意地悪い目つきでルイズを見ながら言う。
「使い魔が召喚できなかったから、傭兵を雇ったやつがいるんです」
 生徒たちが、どっと笑い声を上げた。
 その笑い声で一気に脳天まで血が上ったルイズが、立ち上がって金切り声を上げた。
「雇ったんじゃないわ! ちゃんと召喚したわよ!」
「おいおい、ゼロのルイズ。誰もお前の事だなんて言ってないぞー?」
 噛み砕かんばかりに歯を食いしばり、般若の形相でルイズがうめく。
「やっぱり自覚があったんだな。おかしいと思ったんだよ、お前が召喚に成功するなんて」
「したわ! 『コントラクト・サーヴァント』だって成功したもの!」
「どうせルーンだって刺青だろ? そんな事してまで嘘つくなんて、貴族のする事じゃないぞ」
「な、な、な……」
 ルイズの顔色が、赤を通り越して青くなる。 もはや我慢の限界。かくなる上は杖を抜くより他に無し。
 彼女の怒りがそこまで達したとき、教室の後ろから、低くよく通る声が飛んだ。
「おいおいお嬢ちゃん。あんまりカッカしなさんな」
「そっちの坊やもだ。あまり友達の事を悪く言うもんじゃねえぜ」
 生徒たちが、一斉に振り返った。件の使い魔、超戦士たちに視線が集まる。
注目を集めた本人たちは、その視線に動じることなく泰然としていた。
しかし、彼らのご主人様に、彼ら程の余裕は無い。
「あんたたちは黙ってなさい!」
 矢か槍かと思うほどの睨みを飛ばしてルイズが怒鳴ると、マリコルヌも声を上げる。
「そうだ! 平民のクセに、貴族の僕を『坊や』とは何事だ! ゼロのルイズは使い魔の教育も──」
 マリコルヌがそこまで言ったとき、彼とルイズの二人が、糸の切れた操り人形のように、椅子に腰を落とした。
シュヴルーズが、杖を振っていた。
「二人とも、彼らの言う通りです。級友を悪く言うものではありません。それから……」
 たしなめる様にそう言い、シュヴルーズはルイズに目をやる。
「ミス・ヴァリエール。彼らが、貴方の使い魔ですか? 確かに、貴方が召喚したのですね?」
 毒気を抜かれたようにしょげていたルイズが、はっと顔を上げた。
キッとシュヴルーズを真っ直ぐに見返し、はっきりと言い切る。
「始祖ブリミルに誓って、間違いありません。お疑いになるのでしたら、ミスタ・コルベールにお聞きになって下さい」
 その言葉を聞いて、シュヴルーズは了解したように頷き、手を打った。
「わかりました。さあ、では授業を始めますよ」
 ざわついていた教室が静まり返る。
 シュヴルーズの声が教室に響く中、ルイズは、人に聞こえないように重いため息をついた。
チラっと目を左右に走らせると、小鳥だのカエル(ひっ!)だのと言った小型の使い魔が、机の上にちょこんと乗って主人であろう生徒を見つめていた。
その光景を見て口をへの字に曲げ、ルイズは後ろを振り返る。
スキュラ、バグベアー、サラマンダー、そして大男二人。ため息。
「ミス・ヴァリエール。よそ見はいけませんよ」
「は、はいっ!」
 教師に声を掛けられ、ルイズは慌てて向き直った。
「では、貴方にやってもらいましょう。この石を望む金属に変えてみなさい」
 そう言って、シュヴルーズが教壇の上の石ころを指し示す。
 その瞬間、教室に緊張が走った。
その緊張感は、超戦士たちをして身じろぎさせるほどの重さを孕んでいた。
当のルイズは、躊躇するように俯く。
「ミセス・シュヴルーズ、彼女にやらせるのは、考え直した方がいいと思いますけど……」
 重い空気を破って、最前列のキュルケが言う。
「なぜです? ミス・ツェルプストー」
「危険です、とても」
 怪訝な表情で聞き返す教師に、キュルケは端的に答えた。他の生徒もそれに同調する。
 同級生のその反応に、ルイズは柳眉をつり上げた。
そして顔を上げて立ち上がり、決然と言った。
「やります」
 ぎょっとして、キュルケは振り返った。ツカツカと教壇に向かうルイズの顔を見て、彼女は、藪をつついてしまった事を悟った。
「やめて、ルイズ」
彼女にしては珍しく哀願するような声でそう言ったが、ルイズから返ってきたのは、噛み付くような視線だった。
キュルケは額に手を当てて首を振ると、机の下に身を沈めた。
他の生徒たちもそれにならい、ルイズが教壇に登る頃には、ほとんどの生徒が机の影に隠れていた。
その様子を見て、さすがの超戦士たちも身構える。
「一体、何が起こるってんだ?」
「さあな。少なくとも、あまり穏やかな事じゃなさそうだぜ」
二人は、教壇に立ったルイズを注視した。
「さあ、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く思い浮かべるのです」
教室の不穏な空気に気づいているのかいないのか、ルイズに笑顔を向けるシュヴルーズ。
ルイズは真剣な面持ちで頷くと、静かに目を閉じて呪文をつむぐ。そして杖を振った。
その瞬間、石が爆発した。
耳をつんざく爆音と共に、閃光と熱と衝撃が教室を駆け抜けた。
「むおっ!」
思わず腕で顔を覆う超戦士たち。
細かいつぶてが、巨体を容赦なく打つ。
彼らが腕を下ろすと、教室は目を覆うばかりの惨状を呈していた。
突然の爆音と閃光に恐慌状態になった使い魔たちが本能のままに暴れまわり、それを抑えようとする生徒と
逃げようとする生徒の悲鳴が錯綜して、さながら魔獣の檻のようになっている。
爆心地である教壇は、教卓が最前列の机もろとも粉々に砕け、ススまみれになったルイズとシュヴルーズが倒れ伏していた。
「いけねえ!」
声を出すが早いか、超戦士たちは教室を縦断して教壇に降り立った。
シュヴルーズは、白目を剥いて気を失っていた。
胸が上下しているので息はあるようだ。ルイズは、全身ススで真っ黒にして目を閉じていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫か!?」
側にかがみ込んだ金髪の超戦士が声を掛けると、ルイズはふっと目を開けた。
呆けたように泳いでいた目が焦点を結ぶと、2、3度瞬きをして体を起こした。
「おい、無理するな。医者が来るまで横になってろ」
「……大丈夫よ、いつもの事だから」
超戦士の言葉に低い声で返すルイズ。
そのルイズに、生徒たちから怒号が飛んだ。
いわく、何をやっても成功率ゼロ、ゼロのルイズ。
魔法を使えぬ者に貴族の資格無し。
今すぐ学園を去るべし。
当のルイズは、ハンカチでススを拭いながら、それらの悪口雑言を受け流していた。
しかし、その口は真一文字に引き結ばれ、緩むことはなかった。

 結局、その日のルイズのクラスの授業は、教室の修理が終わるまで休講となってしまった。
修理を担当するのは、破壊した張本人のルイズである。
しかし、当の本人は雑巾で机を拭く程度で、破砕片の撤去や新たな備品の搬入、その他の
クリーンナップなどは超戦士たちが受け持っていた。
当初は勝手が分からずにホウキを持って戸惑っていた超戦士たちだったが、慣れてくると
サテライトまで駆使して作業を進め、見る間に教室を元通りにしてゆく。
一方のルイズは、元々の作業量に違いがあるため、昼近くになると、机に座って超戦士たちが
立ち働くのをぼうっと見ているだけになっていた。
そのルイズが、俯いてため息をついた。
「どうした、お嬢ちゃん。随分暗いじゃねえか」
ため息を聞きつけたモヒカンの超戦士が、手にしていたホウキを肩に担いで言った。
「さっきの事なら、あんまり気にするもんじゃねえぜ。失敗なんざ、誰にでもあることさ。ま、ちょいとハデだったがな」
金髪の超戦士が口元に笑いを浮かべてそう続けると、ルイズは眉間にしわを寄せて顔を上げた。
「適当な事言わないで。あんたたちも聞いたでしょ? 成功率ゼロのルイズ。
今までどんなに一生懸命練習したって、爆発ばっかりで成功した事なんか無いの」
喋っているうちに声が大きくなり、次第に怒鳴り声になる。
「『頑張ればそのうちできるようになる』なんて慰め、今まで耳にタコができる程聞いたわ! でもダメ だったの! 
『そのうち』っていつよ! いつなのよ!?
な、何も知らないくせに、わ、わたしがどれだけっ、し、し、知らないくせに適当な事言わないでよっ!!」
机をバンと叩いて立ち上がり、ルイズが絶叫した。
目の端に涙をため、肩で息をする。
驚いたような顔で、彼女の言葉を受け止める超戦士たち。
やがて、ルイズの息が落ち着いてくると、金髪の超戦士が神妙な面持ちで謝った。
「すまなかったな、勝手な事言っちまって」
そう言った後、笑顔を見せて彼は続けた。
「だがよ、俺たちを呼ぶことはできたじゃねえか」
「ああ。それと、こいつもな」
モヒカンの超戦士が左手の甲を見せた。
使い魔のルーンが淡い光を放っている。
「……それだって失敗みたいなもんだわ。ドラゴンやグリフォンみたいなのを
呼ぶつもりだったのに、あんたたちみたいなのが来ちゃうし」
力無く腰を下ろし、ルイズはため息をついた。
「それでも、まったくの失敗じゃあねえ。何分の一かでも、成功は成功だぜ」
相方の言葉に同意するように頷き、モヒカンの超戦士も言葉を重ねる。
「今度から、魔法が成功する度に名前を変えてきゃいい。1と3分の1のルイズ、とかよ」
ルイズは、モヒカンの超戦士を恨めしそうな目で睨みつけた。
「バカにしてるでしょ、あんた……」
肩を竦め、首を振るモヒカンの超戦士。
金髪の超戦士が、相方をフォローする。
「相棒の言い方はふざけてるが、次の成功の事を考える、って事さ。
100万のルイズと名乗れるようになりゃ、誰にもバカになんかされねえだろうよ」
そう言って、金髪の超戦士はニッと口の端を上げたが、ルイズは憮然として俯いてしまう。
「できるわけないじゃない……100万なんて……」
このルイズの反応に、超戦士たちは顔を見合わせて首を振り合う。
ややあって、金髪の超戦士が鼻の頭をかきながら声を掛けた。
「悪い方にばかり考えるのはよそうや、お嬢ちゃん。掃除は俺たちが終わらせとくから散歩でもしてきな。
こんな所で悩んでたって、気が滅入るだけだぜ」
そう言って、思い出したように付け加える。
「そういやあ、あのおっさん──コルベールと言ったか、あいつが何か調べるって言ってたじゃねえか。
何か分かったことがあるかもしれねえ。探して、話を聞いてみちゃあどうだ?」
超戦士の言葉に緩慢な動作で顔を上げたルイズは、黙然と彼らを見返した。
しばらくして、区切りをつけるように短くため息をつくと、机に放り出してあった雑巾を手に取って立ち上がった。
口をへの字に曲げたむくれ顔で階段を下り、超戦士に歩み寄って雑巾を渡そうとした時、ルイズの腹の虫が盛大に存在を主張した。
「ぅっ」
思わず胃の辺りに手をやるルイズ。超戦士たちが苦笑いする。
「ハラが減ってちゃ、しょげるのも仕方ねえやな。ついでに、メシも済ませてきな。朝メシも食いっぱぐれた事だしな」
モヒカンの超戦士がそう言うと、ルイズは顔を赤くして眉をつり上げた。
「あんたらのせいでしょ、バカっ!」
そして雑巾をモヒカンの超戦士の顔めがけて投げつけ、脱兎のごとく教室を出て行った。
顔にへばりついた雑巾をちょいとつまんで剥がし、モヒカンの超戦士は相方に顔を向けて肩を竦める。

「……難しいお年頃、ってヤツか?」
「お前のデリカシーが足りねえだけさ。気にするな」

 トリステイン魔法学院の図書館。
学院の中央に建つ本塔の大部分を占めるこの大図書館の、生徒の出入りが
禁じられた一角、フェニアのライブラリーに、コルベールは居た。
 彼は、昨日別れ際にルイズと超戦士たちに言った通り、夜を徹して図書館に篭って調べていた。
顔を脂でテカらせ、時折眼鏡を外して目頭を揉みほぐしながら、一冊また一冊と目を通してゆく。
手の届く高さの書架を調べつくすと、レビテーションの魔法で浮かび上がり、端の本を手に取る。
そうして、30メイルはあろうかという書架の中ほどまで浮かび上がった彼は、
『始祖ブリミルの使い魔たち』と題された本に目を通すや、慌てたように地面に降り立ち、図書館を駆け出していった。

 昼過ぎになると、学院は本塔以外に人の気配が少なくなる。
この魔法学院に学ぶ者、勤める者のほとんどが、本塔の食堂に集まる為だ。
 ルイズが破壊した教室のある塔も例外ではなく、廊下はシンと静まり返って物音一つ聞こえない……はずだった。
しかし今は、忙しない足音と苦しげな息遣いが響いていた。
 廊下を走っていた少女が、教室のドアを開けて中を覗き込む。
すぐさまドアを閉じると、また廊下を走り始めた。
 少女は、黒の地味なワンピースに白のエプロンを身に付け、艶やかな黒髪の上にはホワイトブリムを載せている。
一見してこの学院の奉公人だと分かるこの少女──シエスタは、しかしこの名門学院の奉公人としては
ふさわしくない行動を取っていた。
髪を振り乱し、息を切らせて走り回るばかりか、教室のドアをノックもせずに開けて
中を覗き込むなど、彼女の上司に見られたら叱責を受けるのは免れないだろう。
 しかし彼女の表情からは、その叱責を恐れるような気配は感じられない。
額に汗を浮かべ、顔を歪めながらも、足を前に運ぶ。
脇腹を手で押さえ、もう片方の手を壁につきながらも、階段を駆け上る。
彼女の顔に浮かんでいるのは、一途な必死さだけだ。
 その彼女の目が見開かれた。
視線の先には、掃除用具を抱えた二人の大男、超戦士たちがいた。
二人を目視した彼女の足が、さらに速まった。
 超戦士たちが、足音に気づいてシエスタに顔を向けた。
「あのっ!」
 それをきっかけにしたのか、シエスタが二人に声を掛けた。
そして彼らの前で止まると、息が落ち着くのも待たずに尋ねる。
「あのっ、すみません、あの、ミス、ヴァリエールの、使いむっ…、使い魔の、方ですか?」
 ただ事ではない彼女の様子に、怪訝な表情を浮かべて、モヒカンの超戦士が応えた。
「ああ。その通りだが、お嬢ちゃん──ルイズが何かしでかしたか?」
 その返事を聞くや、シエスタは床に跪き、手を胸の前で組んで叫ぶように言った。
「お願いします! ミス・ヴァリエールを助けてください!」
 その行動と言葉に、一瞬呆気に取られた顔をした金髪の超戦士だったが、すぐに真顔に戻り、
自分も跪いてシエスタの肩に手を掛けた。
「一体何があった? 落ち着いて話してみな」
「はい、実は──」
 シエスタが語った顛末は以下のようなものだった。
彼女が食堂で給仕をしていた時、貴族の少年が香水のビンを落とした。
それに気づいて拾い、落とし主の少年に渡そうとした彼女だったが、それが元で少年の二股がばれてしまい、二人の女性に
公衆の面前で振られてしまった。
少年は激怒し、彼女に罰を与えようとした。
そこにルイズが割って入り、彼女を庇った。
ところが、少年の怒りは収まらず、挑発されたルイズも激昂して口論となり、ついには決闘をする事になってしまった。
「なんでえ、ただのガキのケンカじゃねえか。ほっときな」
 シエスタが話し終えると、腕を組んで聞き入っていたモヒカンの超戦士が、腕を広げてつまらなそうに言った。
金髪の超戦士も、シエスタに笑顔を向けて、相方に同調する。
「庇われた責任を感じてるんだろうが、気にする事はねえ。仮に負けたとしても、いい経験になるさ。
子供ってのは、そうやって傷ついて少しずつ大人になってくもんだ」
 だが、シエスタは激しくかぶりを振って、哀願するように訴えかけた。
「そんな生やさしいものじゃありません! 貴族の決闘は、魔法で殺し合いになる事もあるんです!」
「そいつを早く言わねえか!」
 瞬時に顔を強張らせ、金髪の超戦士はシエスタを抱えて立ち上がった。
「ひゃっ!」
「決闘をやってんのはどこだ?」
 廊下の窓を荒々しく開け放ち、モヒカンの超戦士が尋ねる。
 金髪の超戦士にお姫様だっこされたシエスタは、目を白黒させながらも答える。
「え、えっと、ヴェストリの広場です!」
「名前言われたって分かりゃしねえ、どっちだか指差しな!」
 その時、窓の外から爆発音が響いてきた。三人がはっとしてそちらを見ると、本塔の壁に砂埃が立っている。
「あそこか! いくぜ、しっかり掴まってな!」

 時間は少し戻り、本塔最上階。
そこは、この魔法学院の学院長であるオールド・オスマンの執務室がある。
今、その部屋には、学院長本人と、先ほどまで図書館に篭っていたコルベールがいる。
 コルベールは、室内を右往左往し、口角泡を飛ばしながら、自論をまくし立てていた。
「つまり、あの二人は伝説の使い魔『ガンダールヴ』である、と。君はそういいたいのじゃな」
 興奮するあまりあちこちに話を脱線させるコルベールにうんざりした様子で、オスマンが話をまとめた。
コルベールは、学院長の言葉に、わが意を得たりと言った顔で机の上に身を乗り出した。
「そうです! ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなしたと聞きます! 彼らの言葉も、それを裏付けているんです! 
彼らはあの時、武器の構造が頭に流れ込んでくる、というような事を口走っていました!
これはつまり──あいだっ!」
 オスマンの杖がコルベールの額に打ち下ろされた。
よろめいて2、3歩後じさりし、コルベールが抗議の声を上げる。
「な、何をするんです学院長!」
「唾が掛かるわい。もう少し落ち着いて話さんか」
 そう言いながら、オスマンは口元を歪めて顔をハンカチで拭う。
「こ、これは失礼しました。して、いかがいたしましょうか」
 コルベールの問いかけに、老メイジはうなり声を上げ、手慰みにその見事な白髭をしごき始めた。
 そのまましばらく無言が流れた。
さすがに焦れたコルベールが声を掛けようとした時、部屋の扉がノックされた。
「失礼します。よろしいでしょうか?」
「ミス・ロングビルか、入りなさい」
 扉越しに聞こえた声に、オスマンが応える。
扉が開き、眼鏡をかけた緑髪の女性が静かに入ってきた。
「どうしたね」
「ヴェストリの広場で決闘が始まるとの事で、大騒ぎになっております。
止めようとした教師も、野次馬の生徒たちに排除されたようです」
 オスマンは机に頬杖をついて嘆息した。
「やれやれ。暇を持て余した子供たちには参ったもんじゃ。それで、暴れているのは?」
「はい。一人はギーシュ・ド・グラモン」
 オスマンが鼻を鳴らす。
「元帥の所の四男坊か。オヤジに似て女好きじゃからの、どうせ女がらみじゃろ。して、相手は?」
 学院長が先を促すように言った時、彼の背後にある窓のすぐ外で爆発音が響いた。
思わず首をすくめる室内の3人。唖然として窓を振り返り、やがて向き直ったオスマンは、ため息混じりに言った。
「相手は、ヴァリエールか」
「はい。教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが」
 ロングビルの言葉に、オスマンは吐き捨てるように返す。
「阿呆めらが。そんな事に秘宝を使ってどうする。放っておきなさい」
「分かりました。失礼します」
 一礼して、ロングビルが退室する。
「ミス・ヴァリエール……ですか」
 扉が閉まり、ロングビルの足音が聞こえなくなると、コルベールがポツリと呟いた。
「ふぅむ、使い魔の事といい、色々しでかしてくれるのう」
 そう言って、髭に手をやるオスマン。
元々皺だらけの顔に、さらに皺が寄っている。
「学院長、彼らの事は……?」
「保留じゃ」
 コルベールの再度の問いかけに、今度は即答する。
当惑した顔で、コルベールは聞き返す。
「王宮に報告したほうが良いのではありませんか?」
 彼のこの言葉に、片眉を上げ、オスマンは鋭い睨みを飛ばした。
そして今までの軽口が嘘のように、重々しく叩き伏せるような声を出した。
「それには及ばん。こんな事を奴らが知ったら、またぞろ禄でもない事を始めるに決まっとる」
「ははっ!」
 突然の学院長の豹変に、コルベールは我知らず萎縮し、とっさに頭を下げた。
部下のその様子に、オスマンは苦笑いをして、うむ、と唸った。
「それに、まだ彼らが本当にガンダールヴであると決まったわけではないでな。
なんにせよ、情報が足りん。コルベール君、しばらくその使い魔を監視したまえ。気づかれんようにな。判断はそれからじゃ」
「は、仰せの通りに」
 額に汗を浮かべ、深々と一礼すると、コルベールは逃げるように学院長室を後にした。
 慌しい足音が遠ざかると、オスマンは机の引き出しを開け、水ギセルを取り出した。
杖を一振りして火を点け、大きく吸い込むと、細く長く、紫煙を吹き出す。
薄い煙が立ち昇り霧散していくその様を、オスマンは声も無く見つめている。
その目は、唯一の楽しみと言って憚らない喫煙を楽しんでいるとは思えない、険しいものだった。

 砂埃の舞い上がる本塔を見上げていた少年が、鼻を鳴らしながら正面に向き直った。
「ハンデの一発を無駄にしてしまったようだね。僕からのプレゼント、お気に召さなかったかな?」
 少年──ギーシュ・ド・グラモンは、気取った態度で髪をかき上げ、嘲るように言った。周囲の人垣から笑い声が上がる。
 相対するルイズは、口を歪めてギーシュを睨みつける。
「では、今度はこちらから行くよ」
 ギーシュが手に持ったバラを振ると、一片の花びらが舞い落ちた。
その花びらは空中で大きく膨らみ、女戦士を模した青緑色の銅像に変化する。
 既に勝ちを確信したような笑みを浮かべ、ギーシュがルイズに声を掛ける。
「もう一度聞くけど、謝るつもりはないのかな? 僕としても、女の子と戦うのは気が──」
「無いわ! 誰があんたみたいな貴族の面汚しに頭なんか下げるもんですか!」
 ギーシュの言葉を遮って、ルイズが吐き捨てるように怒鳴った。
意地悪く歪んでいたギーシュの顔が強張り、今度は苦々しく歪む。
「聞き捨てならないね。面汚しは君の方だろう。魔法も満足に使えないのに貴族を名乗るな! 行け、ワルキューレ!」
 声を荒げ、ギーシュはバラを振った。彼の前に立っていた銅像──ワルキューレが、弾かれたように走り出す。
「ファイアーボール!」
 迎え撃つルイズも、呪文を唱えてワルキューレに向けて杖を振った。
しかし、彼女の頭上3メイル程の所で爆発が起こっただけだ。
依然ワルキューレは猛然と走っている。
頭上に一瞥をくれ、新たに呪文を唱え始めたルイズだったが、それが完成する前に、銅像が目の前まで迫り拳を振り上げた。
小さく悲鳴を上げ、転がるように逃げるルイズ。
走って距離を取ろうとするが、そうはさせじとワルキューレが追う。
歩幅でも速度でも上回るワルキューレは、あっさりとルイズを追い越し、前に回りこんだ。
たたらを踏んで止まるルイズ。
ワルキューレが拳を振り上げる。
ルイズはとっさに屈み込もうとした。
その時だった。
「ミス・ヴァリエール!」
「えっ?」
「あっ!」
 突然頭上から声が掛かった。
予想もしていなかった事に、ルイズの動きが一瞬止まる。
そのルイズの首に、ワルキューレのフックが強かに打ち付けられた。
布に包まれた木の枝が折れるような音が響き、ルイズの華奢な体が数メイル飛ばされる。
 広場に悲鳴が響いた。
金髪の超戦士に抱えられ、空を飛んでいたシエスタだった。
彼女は、超戦士が地面に降り立つのももどかしく彼の腕から飛び出し、ルイズに駆け寄ろうとした。
だが、その肩をモヒカンの超戦士が掴む。
「待ちな! 下手に動かすと危ねえ!」
 か細いうめき声を上げて立ち止まった彼女の横をすり抜け、金髪の超戦士が、倒れたルイズの横にかがみ込む。
目を閉じて微動だにしないルイズの首を触った彼は、眉間に皺を寄せ、押しつぶしたような声を出した。
「こいつぁいけねえ。首の骨がやられてやがる」
「そ、そんな……」
 シエスタは顔を真っ青にしてよろめき、気を失った。
糸が切れたように崩れ落ちようとする彼女の体を抱きとめたモヒカンの超戦士が、舌打ちして人垣の方に顔を向けた。
「おい! 誰か医者を呼んで来い!」
 その声を聞いて、ざわついていた人垣から、数人が走り寄ってきた。
彼らはルイズの側にしゃがみ込むと、杖をかざして呪文を唱え始める。
「何をしている?」
 怪訝な顔で金髪の超戦士が尋ねると、紫のマントを羽織った少年が顔も向けずに答えた。
「治癒の魔法だよ。でもダメだ、これじゃ。秘薬がないと……医務室に運ぶぞ、レビテーションをかける」
 彼が杖を一振りすると、ルイズの体がふわりと浮かび上がった。
少年の腰の高さまで浮かぶとそこで止まり、少年の歩みに合わせてするすると空中を滑るように移動する。
彼らの向かう先では、人垣が割れて道ができていた。
慎重に歩みを進める彼らが人垣に近づいていくと、野次馬たちがささやき合う声が聞こえてくる。
ルイズを心配する声、忍び笑いする声、グラモン家とヴァリエール家の対立を予想する声。
それらの中には、ギーシュを非難する声も、特に女子の間から聞こえていた。
 その非難が聞こえたのか、顔を青くして成り行きを見ていたギーシュが、虚勢を張るように髪を忙しなくかき上げて言った。
「ふ、ふん。変な意地を張るからこんな事になるんだ。分をわきまえて、素直に謝ればよかったのに」
 その声に、視線が集まる。その中には、当然ながら超戦士の二人も含まれていた。
「……相棒、お嬢ちゃんに付き添ってやんな。俺はちょいと野暮用を済ませてくるぜ」
 モヒカンの超戦士が、抱えていたシエスタを相方に差し出した。
金髪の超戦士は、顔をしかめつつもシエスタを受け取り、
「貸しにしとくぜ」
 そう言って踵を返した。
「返すアテはねえがな」
 相方の背中に向けて声を掛けるモヒカンの超戦士。
それを聞いた方は、振り向きもせずにひょいと肩を竦めた。
にやりと口元を歪めた褐色の超戦士は、しかしすぐに真顔に戻ると、ギーシュに向き直って無造作に歩き始めた。
「な、なんだい? 主人の仇討ちでもしようって言うのかい? 立派な忠誠心だとは思うけども、彼女の二の舞になるだけだぞ」
 上ずった声でそう言って、ギーシュは威嚇するようにワルキューレを構えさせる。
「仇討ち? そんなんじゃねえさ。ただ、お嬢ちゃんが世話になったみてえなんでな、そのお礼をしようってだけさ」
 ワルキューレに臆した様子も無く、歩みを進める超戦士。
その無人の野をゆくような態度に、ギーシュのほうがたまり兼ねて銅像を走らせた。
走ったまま拳を振り上げ、勢いをつけて殴りかかるワルキューレ。
しかし、超戦士は半身になって難なく拳をかわすと、その首を喉輪攻めの形で掴んで持ち上げた。
一度つまらなそうに鼻を鳴らし、彼はワルキューレを持ち上げたまま、先ほどと変わらぬ歩調でギーシュに向かって歩く。
「くっ、放せ!」
 ギーシュが乱暴にバラを振った。
それに応じてワルキューレが手足を振り回すが、顔に腕が当たろうが腹に膝が入ろうが、
超戦士は眉一つ動かさず、歩度を緩める事もない。
 小さく舌打ちしてギーシュが怒鳴る。
「へ、平民が! 貴族に逆らってただで済むと思ってるのか! 無礼討ちにするぞ!」
「好きにするがいいさ。坊やに人を殺す度胸なんざ、あるとは思えねえがな」
「なっ……!」
 絶句するギーシュ。
それまで焦りが色濃く見えていた少年の顔が、怒りに染まってゆく。
「言ったな! もう容赦しないぞ! グラモンの名に懸けて八つ裂きにしてやる!」
 ギーシュがバラを振った。
バラから六枚の花びらがこぼれ落ち、それぞれがワルキューレに変化する。
しかし、それらは超戦士の掴んでいるものとは違い、それぞれが剣や槍などの武器を持っていた。
 それを見て、超戦士の足が止まる。
「野郎。まだ出せたのか」
「甘く見たな! 行け、ワルキューレ!」
 武器を構え、新たに作られたワルキューレが超戦士に殺到する。
しかしそれでも、超戦士はたじろぐ様子も見せずに鼻を鳴らした。
「美女に迫られるのは嫌いじゃねえが、デートの先約があるんでな。いちいち相手にしてたら時間に遅れちまう。
一気に片付けさせてもらうぜ」
 掴んでいた銅像を無造作に放り出し、超戦士が顔をしかめて体を縮こまらせた。
ワルキューレの武器が
彼を貫こうとした、その瞬間、
「メガクラッシュだ!」
 怒鳴り声と共に閃光が発せられた。
一瞬遅れて、激しい破砕音が響く。
 閃光に目を覆っていた生徒たちが再び広場を見た時、立っていたのはギーシュと超戦士だけだった。
ワルキューレは、その全てが砕け散り、地面にその残骸が転がっていた。
人垣がどよめく。
「ワ、ワルキューレが……」
 ギーシュが呆然としてよろめいた。
「少し淡白すぎたか?」
 口の端を上げそう言い、モヒカンの超戦士は残骸を踏みしめて歩き出した。
 2、3歩後じさりし、ギーシュは恐れと困惑と怒りがないまぜになった目を彼に向ける。
「な、何をしたんだ……?」
「なあに、ちょいとした『マジック』ってヤツさ」
 口元に笑いを浮かべたままそう言い、超戦士がギーシュに歩み寄る。二人は既に、手を伸ばせば届く距離にいた。
 完全に顔色を失って額に汗を浮かべる少年を見下ろし、モヒカンの超戦士は顔から笑みを消した。
「お嬢ちゃんが世話になったな」
 引きつれたような悲鳴をノドの奥で鳴らし、ギーシュが首を振る。
「ち、違うんだ! ちょっと小突くだけのつもりだったんだ! 大怪我させようなんてこれっぽっちも──」
「喋ってると舌噛むぜ。歯ァ食いしばりな」
 言い終わるが早いか、超戦士のアッパーカットがギーシュの顎を捉えた。
はたから見れば、軽く腕を振り上げただけのように見えたが、それでもギーシュの体は20サント程浮き上がった。
白目を剥いて地面に倒れこむギーシュ。
 力なく横たわった少年を見下ろし、超戦士はニヤリと笑った。
「俺からのプレゼントはお気に召したか?」

つづく


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