浮気者のギーシュが、ケティとモンモランシーからワインとビンタを御馳走されるまで、ルイズはただそこに呆れた視線を向けていた。
冷めた目が次に捉えたのが、ギーシュから叱責される自分の使い魔だと知り、慌てて席を立った。
叱責の理由を聞けば、自分の使い魔がギーシュの落とした香水瓶を拾ったから、そのせいで浮気がバレたなどとくだらない理由で。
取りなす目的も忘れて、ギーシュに呆れて見せた。それに噛みついてくるギーシュに、自分のコンプレックスを笑われる。
激昂し、噛みつき返してしまいそうになった時…ルイズは隣に立つ、自分の使い魔である少女に制止された。
「あの…」
「なんだい、使い魔君。謝るのなら早くしてくれないか」
そこでルイズはハッとした。理不尽な理由だが平民である以上、この子は貴族には逆らえないんだ。
キュッと唇を噛んで、ルイズは一歩下がった。悔しいけれど、ここで大人にならなくちゃダメだ。
ギーシュに向き直った使い魔の背中を見て、ルイズはそう思っていた。だが。
冷めた目が次に捉えたのが、ギーシュから叱責される自分の使い魔だと知り、慌てて席を立った。
叱責の理由を聞けば、自分の使い魔がギーシュの落とした香水瓶を拾ったから、そのせいで浮気がバレたなどとくだらない理由で。
取りなす目的も忘れて、ギーシュに呆れて見せた。それに噛みついてくるギーシュに、自分のコンプレックスを笑われる。
激昂し、噛みつき返してしまいそうになった時…ルイズは隣に立つ、自分の使い魔である少女に制止された。
「あの…」
「なんだい、使い魔君。謝るのなら早くしてくれないか」
そこでルイズはハッとした。理不尽な理由だが平民である以上、この子は貴族には逆らえないんだ。
キュッと唇を噛んで、ルイズは一歩下がった。悔しいけれど、ここで大人にならなくちゃダメだ。
ギーシュに向き直った使い魔の背中を見て、ルイズはそう思っていた。だが。
「ギーシュさん、浮気してたんですか?」
一瞬場の空気が止まった。
「…なんだ、話をそらすつもりかい?」
額に青筋を立てて、あああれは怒っているなーと、一目で分かるギーシュを前に、ルイズの使い魔はキョトンとした様子で答えた。
今の今まで目の前で修羅場を見ていたのに、鈍すぎやしないか。
「ビンタした子とワインをかけた子、ギーシュさんは二人の方と付き合っていたんですよね?浮気はいけませんよ。ていうか、厚顔無恥?」
付け足された最後の言葉にルイズの口端が引き攣る。
彼女の言葉はここに相応しくないけれど、その様子は話をそらそうとしているようにはとても思えなかった。
むしろちょっとオドオドして、確信の持てないことを恐る恐る確認するような、そんな気配がある。だけど!ええええ!?
「き、きききき君は…!!」
「ちょちょちょちょちょっとあんた!!」
ギーシュの青筋が切れる音がして、事の成行きに狼狽したルイズが慌てて彼女の腕を掴む。
「大丈夫ですよ」
だが彼女はそのどちらにも応じず、笑顔を作り鷹揚に構え、言ってのけた。
「きっと一生懸命謝れば、許してもらえます。ていうか、誠心誠意?」
その言葉と、太陽のように燦然と輝く笑顔がギーシュを襲った。
「…なんだ、話をそらすつもりかい?」
額に青筋を立てて、あああれは怒っているなーと、一目で分かるギーシュを前に、ルイズの使い魔はキョトンとした様子で答えた。
今の今まで目の前で修羅場を見ていたのに、鈍すぎやしないか。
「ビンタした子とワインをかけた子、ギーシュさんは二人の方と付き合っていたんですよね?浮気はいけませんよ。ていうか、厚顔無恥?」
付け足された最後の言葉にルイズの口端が引き攣る。
彼女の言葉はここに相応しくないけれど、その様子は話をそらそうとしているようにはとても思えなかった。
むしろちょっとオドオドして、確信の持てないことを恐る恐る確認するような、そんな気配がある。だけど!ええええ!?
「き、きききき君は…!!」
「ちょちょちょちょちょっとあんた!!」
ギーシュの青筋が切れる音がして、事の成行きに狼狽したルイズが慌てて彼女の腕を掴む。
「大丈夫ですよ」
だが彼女はそのどちらにも応じず、笑顔を作り鷹揚に構え、言ってのけた。
「きっと一生懸命謝れば、許してもらえます。ていうか、誠心誠意?」
その言葉と、太陽のように燦然と輝く笑顔がギーシュを襲った。
自分の起こした行動がとても幼稚なものだと分かっていた。
分かっていても、他人に自分の罪をなすり付けて、謝らせて、それで憂さ晴らしがしたいと思っていた。
自分は決して、間違っていない。間違いは愚かな平民のせいにしたかった。
でも、ルイズの使い魔の、善良で温かで清らかな笑顔と言葉が、その思いに暗雲を呼んでくる。
分かっていても、他人に自分の罪をなすり付けて、謝らせて、それで憂さ晴らしがしたいと思っていた。
自分は決して、間違っていない。間違いは愚かな平民のせいにしたかった。
でも、ルイズの使い魔の、善良で温かで清らかな笑顔と言葉が、その思いに暗雲を呼んでくる。
「そんな目で僕を見るなぁぁ!ぼ、僕は…僕はっ!なんてちっぽけで!惨めな人間なんだああああああ!!」
彼女から放たれる清浄な光に当てられて、ギーシュは自分自身の深い闇に囚われる。
負の感情を自覚させられ、絶叫とともに膝から崩れ落ちたギーシュは、両手で髪を掻き毟った。
ギーシュを怒らせる決定的な言葉を予想していたルイズは、掴んだ腕もそのままに呆然としていた。
よく見ればまわりの複数の生徒も自分の胸を押さえて悶えている。
喧嘩ばかりのマリコルヌまで、ルイズに向かって「こんなに汚い自分でごめんなさい」と謝ってくる。
思わず自分の使い魔の顔を見上げる。彼女は 、ギーシュの様子に戸惑っているように見えた。
「えっと…無自覚なの?」
「?なにがですか?…それよりギーシュさんが…ていうか、千辛万苦?」
「……」
自分の使い魔をちょっぴり怖い、と思ったルイズだった。
彼女から放たれる清浄な光に当てられて、ギーシュは自分自身の深い闇に囚われる。
負の感情を自覚させられ、絶叫とともに膝から崩れ落ちたギーシュは、両手で髪を掻き毟った。
ギーシュを怒らせる決定的な言葉を予想していたルイズは、掴んだ腕もそのままに呆然としていた。
よく見ればまわりの複数の生徒も自分の胸を押さえて悶えている。
喧嘩ばかりのマリコルヌまで、ルイズに向かって「こんなに汚い自分でごめんなさい」と謝ってくる。
思わず自分の使い魔の顔を見上げる。彼女は 、ギーシュの様子に戸惑っているように見えた。
「えっと…無自覚なの?」
「?なにがですか?…それよりギーシュさんが…ていうか、千辛万苦?」
「……」
自分の使い魔をちょっぴり怖い、と思ったルイズだった。
昔昔、ある男が突拍子もない予言をした。
1999年7か月
空から恐怖の大王が来るだろう
アンゴルモアの大王を蘇らせ
マルスの前後に首尾よく支配するために
空から恐怖の大王が来るだろう
アンゴルモアの大王を蘇らせ
マルスの前後に首尾よく支配するために
それから何百年も経った世界で、予言は風のように人々の話題をさらい、瞬く間に「審判の日」は人々に訪れた。
滅びにわずかな期待を抱く者、終末を叫ぶ者、気にもかけず日常を過ごす者がいた中で、世界は何事もなかったかのようにその日を終えた。
…だが、そんな予言も存在しなかった世界ハルケギニアに、アンゴルモアの大王は舞い降りた。
滅びにわずかな期待を抱く者、終末を叫ぶ者、気にもかけず日常を過ごす者がいた中で、世界は何事もなかったかのようにその日を終えた。
…だが、そんな予言も存在しなかった世界ハルケギニアに、アンゴルモアの大王は舞い降りた。
「ルイズさん、こちらの月って二つあるんですねー」
不思議な杖に二人して腰掛けて夜の空を散歩中。時々吹くおだやかな風に目を細めていたルイズに、彼女の使い魔は問いかけた。
「こちらって…あんた時々変なこと言うわよね。二つあって当たり前じゃない」
「そうなんですかー…ルイズさん」
「なぁに?」
「どっちかの月、砕いてもいいですか?」
その言葉に耳を疑ったルイズが息を詰める。月を砕く?つきをくだく?
沈黙のあと、ルイズは吹き出した。
突拍子もなくスケールの大きい話に、まだ彼女の事を「マジックアイテムを使える変わった平民」としか思っていなかったルイズはそれを冗談ととったからだ。
「っ、あはははは!いっ、いいわよ、なんならこの杖で月まで行って、私の爆発魔法で割っちゃうの。…っふふ、そうね、一個あれば十分かもね」
杖の上から落ちそうになるくらい体を震わせて、ルイズは笑った。
星を落としたらすごく爽快かもしれない。それに、自分の魔法も認めてもらえるかもと、ほんの少しだけ考えながら。
「そうですね、ぜひ協力して下さい!ていうか、相互扶助?」
澄み切った瞳で答える使い魔に笑みを向けた後、ルイズは顔をあげた。二人は双子の月を見上げる。
「…元の世界に帰りたい?」
「…ルイズさん?」
「か、帰るなって言ってるわけじゃなくて、ただ、あんたの気持ちはどうなのよっ!?」
言われて答えに詰まった使い魔に、ルイズは自分の心に影が差すのを感じた。
心の震えを見せないように、目線だけは相変わらず月を見上げていたけれど。
「私は…私には、大好きな人がいます…その人の所に帰りたいなって思います…でも」
「……でも?」
「きっとこの世界に、私のやるべきことがあると思うんです。だから、それをやり終えるまでルイズさんと一緒にいます。…ていうか、今輪奈落?」
最後に付け足された言葉の意味はルイズには分からなかった。けれど、それが悪い意味な筈ないじゃない、と笑う。
使い魔も笑う。その表情に偽りなく、まっさらな気持ちを込めながら。
不思議な杖に二人して腰掛けて夜の空を散歩中。時々吹くおだやかな風に目を細めていたルイズに、彼女の使い魔は問いかけた。
「こちらって…あんた時々変なこと言うわよね。二つあって当たり前じゃない」
「そうなんですかー…ルイズさん」
「なぁに?」
「どっちかの月、砕いてもいいですか?」
その言葉に耳を疑ったルイズが息を詰める。月を砕く?つきをくだく?
沈黙のあと、ルイズは吹き出した。
突拍子もなくスケールの大きい話に、まだ彼女の事を「マジックアイテムを使える変わった平民」としか思っていなかったルイズはそれを冗談ととったからだ。
「っ、あはははは!いっ、いいわよ、なんならこの杖で月まで行って、私の爆発魔法で割っちゃうの。…っふふ、そうね、一個あれば十分かもね」
杖の上から落ちそうになるくらい体を震わせて、ルイズは笑った。
星を落としたらすごく爽快かもしれない。それに、自分の魔法も認めてもらえるかもと、ほんの少しだけ考えながら。
「そうですね、ぜひ協力して下さい!ていうか、相互扶助?」
澄み切った瞳で答える使い魔に笑みを向けた後、ルイズは顔をあげた。二人は双子の月を見上げる。
「…元の世界に帰りたい?」
「…ルイズさん?」
「か、帰るなって言ってるわけじゃなくて、ただ、あんたの気持ちはどうなのよっ!?」
言われて答えに詰まった使い魔に、ルイズは自分の心に影が差すのを感じた。
心の震えを見せないように、目線だけは相変わらず月を見上げていたけれど。
「私は…私には、大好きな人がいます…その人の所に帰りたいなって思います…でも」
「……でも?」
「きっとこの世界に、私のやるべきことがあると思うんです。だから、それをやり終えるまでルイズさんと一緒にいます。…ていうか、今輪奈落?」
最後に付け足された言葉の意味はルイズには分からなかった。けれど、それが悪い意味な筈ないじゃない、と笑う。
使い魔も笑う。その表情に偽りなく、まっさらな気持ちを込めながら。
「ケロロ軍曹」よりアンゴル=モアを召喚