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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-54


54.探求者たるもの

アニエスがヴァルハラ、もしくは月影の国へ逝きかけている頃、ルイズはアカデミー近くの草原にて、
呪文を繰り返し唱えていた。爆発が起こったかと思えば辺り一面が白銀に染まり、
それに驚く間もなく、嵐と見まがう大きな竜巻がいくつも発生しだす。

「疲れた?」
「平気!」

物に釣られたルイズの精神力はあり余っている。いつだってそういう状態ではあるが、
やる気になっているからか、更に凄いのだ。
髪をかきながら、その場で錬成したイスに座っているエレオノールは、
同じく錬成した机に置かれてある羊皮紙に、何かを書いている。

伝記や伝説、特に神様がどうの、始祖がどうのといった物語にしか存在しない「虚無」の系統。
ちゃんとしたデータが全く無いので、とりあえず「虚無」の使い手はどのように系統魔法を使えるのか、
エレオノールはそこから調べることにしたのだ。

「……予想以上ね」

力をコントロールしきれていないのか、見慣れた爆発こそ起こすものの、
ひとたび成功すればその力はスクウェアの遙か上を行く。
エレオノールは全く信じていない神に感謝した。
とても面白い研究対象を提供してくれてありがとう、と。

「あとは祈祷書の解析ができれば……」

祈祷書の中身が分かって、ルイズが唱えることができたなら、
「虚無」の系統は再びこの地に蘇る。
失われた系統の復活、なんと素晴らしき響きだろうか!
別に名声を得たいとかそんな理由ではない。
研究者として真理の探究をしたいと思う気持ちがエレオノールを高ぶらせている。
エレオノールは今まで妹たちのために時間を費やしてきたが、
もう自分のために時間を費やしても良いよねと思った。

もちろん、本来の仕事をほっぽり出しているのだが大丈夫。
元々スクウェアクラスは、一つの国に四系統がそれぞれ二人か三人ほどしかいない。
アカデミーとしては彼らに実験の協力を願いたいことも多々あるが、
大抵気むずかしく、断られることが多い。
そんなところに全ての系統がスクウェア以上に扱えて、基本的に断らない、
というより喜んでその身を貸し出す身内の妹が現れたらどうするだろう。
よろこんでその子が使えるかどうか調べといてと言うに違いない。

最後の手段として家名を出すという方法もある。アカデミーの体質が変わってから、
ヴァリエール家がスポンサーの一つになっているのだ。

「ところで、ミス……」

私は何をすればいいのでしょうか?隣の地べたに座るマーティンが小さな声でたずねた。
エレオノールはあ、と気の抜けた声をあげる。すっかり忘れていた。
研究者は、自分のこだわること以外はすぐに忘れてしまうのだ。

「え、ええ。ところで、ずっとルイズを見ていたあなたに聞きたいのだけれど」
「なんなりと」
「いつもあんな感じなのかしら?」

「いわゆるスクウェアクラスの呪文以外は、大抵失敗します。
 ですが、「錬金」のようなスクウェアクラスに対応する呪文は、
 あのように成功しますね」

黄金の草が辺りを輝かせている。エレオノールは思わず笑った。

「錬金で作られた鉱物とか宝石類の価値が暴落するでしょうね。妹ながら末恐ろしいわ」
「ですが、ルイズはそんなことをするつもりはないでしょう」

率直な感想だった。自分の力を知ってから、ルイズは自信を持てるようになった。
自分の力の凄まじさに振り回されてはいるが、決して人を不幸にするために使う気は無い。
まだ立派な貴族にはほど遠いが、その卵にはなっている。マーティンはそう考えている。

「おだてたら調子に乗る子なのだけれど。あなたのようなしっかりした人がいてくれるなら安心そうね」

自分よりずっと年上の男を見て、エレオノールはそうこぼした。
ルイズからは元々メイジで、色々あって司祭になったと聞かされていた。
なにかもめ事でも起こして俗世から身を退いたのだろう。
そう想像していたが、どうしてなかなか信頼のおけそうな人物だった。

単純にシロディール人特有の才覚がそう見えさせているだけだが、
エレオノールがそれに気付くはずもない。

「まぁとりあえず一通り呪文の効果は書き記したし、日も暮れてきたわね。
 とりあえず、今日はここまでにしましょうか」

エレオノールはルイズを呼ぶ。一旦調査を終えてみんなでアカデミーに帰っていった。


「ちょっと驚いたどころの話じゃないわね。まさかあそこまで凄いだなんて」

夕食を取るエレオノールは、ニヤニヤしながら今日のことをカトレアに話している。
食堂のテーブルには姉妹三人が仲良く座っていた。マーティンとシエスタは、
使用人の部屋で夕食を取っている。

「姉さまったら、ずいぶんと嬉しそうね。ルイズが魔法を使えるようになったの、そんなに嬉しいの?」
「違うわよ。ルイズの系統が凄いって言っているの」
「ふうん……ねぇルイズ。あなたが眠っているとき、姉さまに魔法が使えるって言ったら……」
「あ、こら!」

顔を赤くするエレオノールに途中でさえぎられる。カトレアはやはりころころと笑った。

「聞いたとき、姉さまはなんて言ったの?ちいねえさま」
「それはね……」
「いや、やめて!」

カトレアはやはり笑っている。いいおもちゃを見つけたらしかった。

「姉さまがこう言っているから、本人から聞いてね」
「……つねるわよ」

ルイズは恐れおののきながら、ゆっくりと首を縦に振った。

「よろしい。まぁあなたもちゃんと貴族らしくなれてほっとしたわ。まぁ問題もあるのだけれど」
「まだちゃんと使えないけれど、たくさん練習しますわ!今までの分も」
「いや、そこじゃないでしょ……」
「へ?」

エレオノールはルイズの耳元に顔をよせた。アカデミーの使用人たちが周りにいる。

「あなた「虚無」なの。分かる?「虚無」の系統よ」

ルイズはコクリと頷いた。

「一つ聞きたいけど、このことはどれだけの人が知っているの?」

「姉さまたちとマーティンと、タルブの村の人たちのいくらかに、そこに居合わせた友達くらい。
みんな口は堅いから大丈夫よ」

エレオノールは眼鏡をあげてまたたずねる。

「学院の人たちには?」
「何も。だって、それでおべっか使われたりされたら嫌ですもの。私はメイジとして認められたいの」
「あら、まぁ。成長したのね」

マーティンの言っていたことはあながち間違いでもないらしい。
昔の妹だったら間違いなくこれを言いふらしていたに違いないだろう。
それほど、認められることに必死になっていた。
それに比べると、今はとても落ち着いているようにも見える。
妹の成長を嬉しく思いながら、エレオノールは念を押す。

「まぁ、あなたもそれの何たるかは多少なりとも知っているでしょう?
 ハルケギニアの大抵の国は、始祖が神より授かった奇跡である魔法、それを使える人を貴族としているの。
 そんな世界で、伝説の系統が見つかったなんておおやけになってみなさいな。
 面倒なことになるわよ。調査なら私が楽しいだけだから良いけれど」

「……」

神より授かった、と言われてルイズは何とも言えない気持ちになった。
祈祷書によるとブリミルは神から力を奪ったらしい。
どうやって奪ったのかは知らないが、今のブリミル教の言葉よりも、
それが真実を語っているような気がしてならない。
いや、むしろそれを隠すために今のブリミル教やそれを信じる国々ができたのではないだろうか?

「ルイズ?どうしたの」

下を向いて深刻な顔で何か考えるルイズを、カトレアが心配そうに見つめている。

「あ……なんでもないのちいねえさま。姉さま、一つ質問していい?」
「なにかしら?」
「平民に杖を持たせたら、魔法、使えるようになるの?」

エレオノールの体は固まった。ルイズを見る視線は何とも言い難そうで複雑なもので、
とりあえず一息ついて、自分を落ち着かせて再びルイズを見る。

「……やぶからぼうにどうしたの?」

「祈祷書に書かれていたことが、今のブリミル教の言っていることと違うの。
 魔法の解釈だって、ブリミル教の教えとは違う気がして」

「始祖がこの地にやってきて6000年以上経つのよ。主義主張が変わってもおかしくはないわ」
「でも、聞きたいの」

やけに真剣な眼差しのルイズに、エレオノールは頭をかいて一つため息をついた。

「とりあえず、食事を済ませてから。私の研究室で話してあげる」

これはつねって終わらせてよい話ではない。きちんと話そうとエレオノールは思った。
とりあえず、また和やかな夕食の時間となった。


アルビオンの地下奥深く、白い大理石のような石で造られた遺跡の中に足音が響く。
その足音は二つだけ。アクアマリン色のウェルキンド石に照らされているのは二人。
備え付けの燭台から放つ青白い光に、黒いローブを着たマニマルコと、
それなりに派手な格好のイザベラが照らされている。

「さっきの、すごかったねぇ。いきなりトゲトゲの付いたのがこっちに来るんだもの」
「……そうだな」

マニマルコは不愉快だった。遺跡に罠はつきものだが、
深部にたどり着くまでに、スケルトンを全てダメにされたことが腹立たしかったのだ。
私の作ったスケルトンが、ああも簡単に壊されるとは。

ぶつぶつとマニマルコは歩きながら苛立たしげに呟いていると、
自分のローブの裾をイザベラが引っ張りだした。
その表情から察するに、どうやら何度も声をかけていたらしい。

「あっち」

指をさしている方向には扉が見える。いかにも何かありそうな、他のものとは違う装飾が施されていた。

「……ふむ」

扉に手をかける。鍵はかかっておらず、すんなりと開いた先から白く輝かしい光があふれ出す。
ウェルキンド石よりも希少で、白く、そして通常よりも遙かに大きなヴァーラ石が天井から吊されていた。
ウェルキンド石と共に、古代のシロディールを支配していたエルフが使っていた物が何故ここにあるのか?
考えても仕方ない。マニマルコはとりあえず扉から辺りを見渡す。
部屋の中は密室でそれほど大きくはない。天井は少し高く、中程に立つ四つの柱で仕切られた中央に、
ヴァーラ石が吊されている。白く輝く星の石の真下には銀色の台座が備え付けられていて、
その上を人の頭ほどはある黄金の球体が浮かんでいた。

「なんだ、あれは」

マニマルコが部屋の中に入り台座に近づこうとすると、突然青い閃光がどこからかマニマルコに放たれた。
うかつだった、罠か。そう思う間もなくマニマルコの近くに閃光が突き刺さる。
稲妻は大きな音を立てて霧のように消え去った。

「マニマルコ!」

イザベラがあわててマニマルコに駆け寄った。マニマルコが無事を伝えると、
魔法が放たれた辺りをざっと見回す。何故か、懐かしい腐敗臭がした。

「……その青い髪は人か?だが、何故精霊の力が使える?」

柱の影からしわがれていて、どこか冷たさを感じさせる声が聞こえた。
マニマルコは納得したような、さらに疑問が増えたような声で呟いた。

「こんな所で同輩に会えるとは、やはりこの地はエルノフェイなのか?」

遙か昔、エルフはエルノフェイと呼ばれる大地からタムリエルに移住したと伝えられている。
いくらかのウッドエルフやハイエルフたちによると、それは神の国エセリウスのことで、
故に自分たちはエイドラに近い存在である、と主張している。

そこにはボロボロの赤いローブを纏い、大きな杖を持つミイラが浮かんでいた。
魔法力がその周りに雲散し、緑色のオーラとなって噴出している。
眼球が存在しない顔を向ける様は、大抵の冒険者を震え上がらせるだろう。
その力は強大で、冒険者にしてみれば、できれば会いたくない相手。
正しく最強のアンデッドであるリッチがそこにいた。

「汝ら去ね!例えサーシャとあの男の血を受け継ぐ者であろうとも、この地に入ることは許されぬ。
 霊峰の指を無視してなお留まろうとするのであれば容赦はせん!」

激しているリッチは杖を向けてマニマルコたちを威嚇している。
マニマルコは、冷めた目でそれを見ていた。

「死霊術師が墓守か……」

それは奴隷か、愚かな古代の王共がやることだろうが。マニマルコは杖を向けて威嚇するリッチに怒りの目を向ける。
体を変えてもなお生きる彼の目的はただ一つ、真理の探究である。
メイジが善や悪といった「どうでもいいこと」を考慮して研究するかどうかを決めるのが大嫌いな彼にとって、
今目の前にいるリッチは、存在そのものが許せない。

「真理の探究を忘れた愚かな先祖よ!お前の魂は、俺が有効に使ってやる」

長い黒髪が妖艶な、美しい女性の体から魔法力がほとばしる。
それに呼応するように、イザベラが両手から炎を出しながら口をつり上げて笑う。

「最近戦いがなくて暇でさぁ……派手にいくよぉぉぉ!!」
「待て、イザベ――」

爆裂と破砕する音が辺りにこだまする。リッチに確実に当てたはずの炎の塊が、
どういうわけかイザベラに当たったのだ。全身にひどい火傷を負ったイザベラは、
叫びながら辺りを転がり回っている。

リッチとはメイジがその力を持ったままアンデッドと化した存在であり、
そのため魔法に対する耐性が非常に高く、時には魔法そのものを跳ね返してしまうこともある。
マニマルコはとりあえず魔法耐性上昇の呪文を唱えようとしたのだ。
なにせ相手は6000年前のエルフ。自分もリッチとはいえ、古代のエルフの魔法力に敵うはずがない。
強敵との戦いは、まず能力を上げる魔法を唱えることが勝利の秘訣である。

「いたい、いたい、いたい、いたい」
「哀れな」

リッチは全身に火傷を負い、肌を真っ黒に焦がしたイザベラを見て悲しそうに首を横に振った。
どうやら好戦的な性格ではないらしい。

「分かったであろう。人間の皮を被りし者よ、今すぐにその人間を連れて去ね」
「やはり、お前は愚かだ」

マニマルコはせせら笑ってリッチに答える。リッチはマニマルコに杖を向け、
脅すようにうめいた。

「いたいよう、いたいよう……」

泣いているイザベラの体が音を立てて治っていく。回復の魔法ではなく、
死霊術特有の力で自己修復している。焼けただれた皮膚があり得ない早さで元に戻っていく。

「その娘も既に俺と同じだよ」
「なんと……外道が!」

その一言に、マニマルコは怒りを露わにする。

「道を外したのはお前だろう!命題たる真理の探求を忘れ、この地で年月を無駄に過ごしたお前に言わる筋合いはない!」
「そんなものより、守るべきことがあると知った!それは――」

マニマルコが大声で笑い、リッチの言葉を遮る。

「当ててやろうか。愛か友情か、それとも憐憫の情か……くだらん、全て一時の愚かな気の迷いにすぎん!!」
「否!それこそ我が守るべき理由、この「ミョズニトニルン」があの男に従った理由なり!」

リッチの手から炎が現れる。マニマルコに向かって投げつけようとしたその時、
その腕を誰かが掴んだ。

「いたいんだけどさぁ……もの凄く痛いんだけどさぁ……」

額に青筋が浮かぶイザベラが、そのまま勢いで腕をへし折った。
リッチが驚いていると、目を真っ赤にして憤怒の表情のイザベラが叫んだ。

「いたいんだよぉぉぉぉ!」
「ぬぅぅっ!」

リッチへ次の一撃を決めようとイザベラは感情のおもむくがままに腕を動かす。
その一撃はリッチの鳩尾を砕いたが、その程度で活動を止めはしない。

「哀れな娘よ……そうまでして力を求むるか」
「あわれ、だってぇ?」

イザベラがリッチの胸ぐらをつかんだ。怒りが消える気配も無く、
素に戻って思い切り叫んだ。

「わたしはあわれなんかじゃない!!わたしはエレーヌよりも上手に魔法が使えるようになったんだ!
 もう誰にもわたしを笑わせない誰にもおろかだとおもわせないだれにも……」

イザベラの憔悴しきった表情を見てようやくリッチは気が付いた。この娘は自らではなく、
そこにいる人間の体に入ったエルフによって、人間をやめさせられてしまったことを。
リッチはマニマルコに吐き捨てるように言った。

「このような、このような娘に術を施すなど……」
「質が良くなった。悪くない選択だろう?ミョズニトニルン」

自分の額が見える位置まで、マニマルコは近づいた。リッチに眼球があれば、目を丸くして驚いただろう。

「まさか、まさか!いかん、お前のような輩にこの地を、約束の地を」

リッチは力の限りもがき、魔法を放つがイザベラの力には全く効かない。
マニマルコがとても楽しそうに歌でも歌うようにささやく。

「イザベラ、もう壊してかまわん。それでは後は我々に任せてくれ。愚かしき先任者よ」

リッチの体は破砕され、その魂は天に昇ろうとする。

「ああ、聞きたいことが山ずみだった。しばらく俺の側にいてもらおうか」

だが救済が訪れることは無いだろう。蠱の王は謎の部屋と、その鍵を握る魂を手に入れた。


夕食は終わり、後は寝るだけとなったルイズたち。
エレオノールは、自分の研究室にルイズだけを呼んでさっきの話をすることにした。

「……そうね。大昔から平民への魔法が使えるかの調査は法律で禁止されているわ。
 ちなみに、ゲルマニアでは建国した時から元平民が杖を所有することを原則として禁じているわね。
 上の位になれたら持ってもいいみたいだけど、不可能でしょうね。
 あの国は夢を売り物にしているけど、その中身は結構悲惨みたいよ?」

ゲルマニアでは成り上がって貴族になれる。とても魅力的で甘い話だが、
そんなにうまい話があるはずもない。自由に階級移動ができるということは、
自分の位を上げるよりも、下げる方が簡単だということだ。

「つまり、そういうこと」
「じゃ、じゃあ、平民も……」
「多分使えるんじゃないかしら。試したことはないけれど」
「どうして?」

男の貴族が近所のきれいな平民を囲ったりするのは、ルイズでも聞いたことがある。
そうして生まれた子供やその子供は、やはりメイジとしての能力を持つのだろうか。

「それをおおやけにすると、あなたが「虚無」だっていうこと以上に大変なことになるからよ。
 いくら私が研究者だと言っても、ちゃんと分別するだけの脳みそはあるわ。
 あなたのことが分かっても、まぁあなたが祭り上げられるだけで済むけど、こっちはそうはいかないの」

ルイズはきょとんとした。

「でも、平民たちが魔法を使えて便利になるだけじゃないの?姉さま」

エレオノールは頭をがくっと下げる。ここか。ここがネックか。エレオノールはルイズのダメな所をまた見つけた。
正論すぎるのだ。確かにどちらかと言えば正しいのだが。

「そりゃ、平民たちは大喜びよ。別に貴族になれなくたって、
 魔法が使えるって分かれば色々な仕事が楽になるのだから。
 揉めたりはするでしょうけど些細なものよ。
 貴族に逆らって良いことがないのは分かっているでしょうし。
 問題は地方領主とか僻地に住んでいる貴族たちや、
 色々あって貴族をやめさせられたメイジよ」

ルイズはまた首をかたむけた。ああ、とエレオノールは額に手を当てる。
やっぱりこの子は知識に基づいている。現実的な悪いところが見えていない。

「いい、ルイズ。やっかいごとを起こすのは下々の人間じゃなくて、知識階級の人間よ。
 みんながみんな、王家に心から忠誠を誓っているわけじゃないの。
 魔法が実は誰でも使えるものでした。だなんて分かったらそんな連中が何をしでかすか分かる?」

「……わかりませんわ」

実際、さっぱり分からない。ルイズは今までずっと魔法を使いたいと思って生きてきたこともあって、
魔法の恩恵ということは人一倍理解しているが、それがもたらす影響については、
あまり分からないのだ。

「平民たちを上手く利用するでしょうね。ただの兵士にするよりも、
 メイジになる方が簡単で強いし、お金もそこまでかからないわ。
 それでそいつらを組織して、王家に取って代わろう、なんて奴がいると思うのは私だけかしら?
 少し冷静に考えれば平民だっておかしいと思うのだけれど、甘い話には誰でも引っかかるのよね」

こほんと咳払いして、エレオノールが勇ましく歌うように口ずさむ。

「平民の魔法の使用は王家が法律で禁じていた。悪い王家は君たちを苦しめるだけだ、今こそ変革の時、
 共に自由を掴もうではないか。こんな馬鹿げた話でも繰り返し聞いていると、
 その内なんの疑いも持たずに信じてしまうのよ」

案外人って単純なのよ。エレオノールは真剣な表情で聞いているルイズにそう言った。

「そうして方々の平民に魔法を教えて、王家やその周りの大貴族を中心に反乱を起こすように仕向けるの。
 平民たちは自分たちが世界を変えるとか思っているだろうけど、単に踊らされているだけ。
 彼らだけで王軍に勝てるとは思えないし、もし反乱が成功したとしても、
 王家の権利を欲した連中が平民に多少なりともそれらを渡すと思う?
 最終的にそいつら同士で仲違いを起こして、ハルケギニアはさらに血にまみれるでしょうね」

理想はもろくも崩れ去り、残るは利権を貪る醜い者たちのみ。権力争いなんてそんなものである。
隙あらば牙を向ける輩は、どこにでもいるものだ。
ルイズはそんなことになるだなんて考えもしなかった。

「魔法が平民に伝わることは、
 ハルケギニアの各地で争いが起こるきっかけになることは間違いないでしょう。
 レコン・キスタとか目じゃない規模のね。一番怖いのはロマリアよ。
 魔法は神の奇跡で、選ばれし者のみが扱えるって教えていたのはあの国じゃないの。
 実は嘘でしたなんて分かったら、信者が減るどころか平民が怒るわよ。
 それでトチ狂って聖戦とか言い出したら、この世界終わるわね」

そこまで言われて、ルイズはようやくはっとした。でも、どうしてだろう。
なぜ本当のことが明らかになっただけで争いが起こるのだろうか。

「なにか言いたそうね」

エレオノールは自分が言いたいことは伝わったらしいと感じた。
ルイズは下を向いてたずねる。

「どうして、みんなが使えるようにしただけでそんなことになるの?便利なのに」

しょんぼりしているルイズの頭をなでて、エレオノールは呟くように答えた。

「便利な力を神様からもらった力だといって崇めさせたからよ。
 今の世の中は魔法が使えるかどうかで全てを決めてしまっているの。
 だから今更使えるようになりました、とか言ったらてんやわんやの大騒ぎになるの。
 平民は平民として生きるのが幸せなんだから、魔法が使えなくたっていいんじゃない?
 私は使える側の人間ですから、そう思いますけれどね。あなたは……」

そのままエレオノールは何か言おうとして、口を閉じる。少し間をおいて、
ルイズに優しく語りかけた。

「あなたは自分で考えなさい。
 悪いと思ったら、それをどうするか考えて。ただ、魔法が使えると広めるだけなら、
 今の方が誰にとってもマシということだけは覚えておくのよ」

ルイズはなんとも言えなさそうに頷いた。
国は人がいなくちゃできん。だが、上に立つ者がいなければ国にはならん。
そこまで考えて、お前は上に立つ者をやっているのかね?あの老人に言われた言葉を思い出す。
きっときれいに考えるだけでは、全然やれない。ということだったのだろう。
全く考えていないんだわ、私ったら。ルイズはとぼとぼとエレオノールの研究室から出て行った。


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