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絶望の街の魔王、降臨 - 15


「そうだ。俺たちはあの時、モット伯の屋敷の警備をしていた。貴族の屋敷を襲うバカなんて滅多にいないから、いつも暇だった。おま
けに当時は『土くれのフーケ』って盗賊が魔法学院の生徒に討伐されたっていうから、緩みに緩んでたな」



「やれやれ、退屈だな」
 モット伯邸では、門兵がぼやいていた。
「土くれのフーケも死んで、貴族に楯突こうって不届者がいなくなったのに歩哨とはな」
「そう言うな。もしもの時のためだ」
「でもよ、こうも退屈だと逆に何かあって欲しいよな、事件とか。こう、ドカーンと」
「そうだな、確かに。いいな、ドカーンと派手に」
「そう、ドカーンと」
 まさにその瞬間。
 ドカーンと、背後の門が爆発した。
「うおぉ!?」
「ぎゃあああああ!」
 あっけなく吹き飛ばされる門扉、そして門兵。
 そして風のようにそこを突っ切る何か。それは門を突破して、土煙を巻き上げ玄関前で止まった。
「じゃあ、手順通りに」
「ああ、また会いましょう」



「何がなんだか判らなかったよ。何か矢みたいなものを見た気がするが、突然門が爆発したんだ。そこを甲高い鳴き声の鉄の馬が駆
け抜けた。今思うと、コルベール重工が造ってるバイクに似てた気がする。そう言うな、フッ飛ばされて意識が朦朧としてたんだ。それ
に乗ってたのは、多分男と女、二人だ。信じられるか? 二人だけけであの屋敷を潰したんだ」


 モット伯邸事件には謎が多い。
 どの文献を見ても、鬼神のような男女二人組が襲撃したとある。



「ええ、そうです。彼は衛兵の手首を捻っていました。見たこともない動きで衛兵を翻弄して……そう、厨房では衛兵が山積みになってい
ました。銃を持っていたみたいですが、使ったようには見えませんでした。あ、そうです、私たちメイドにはすぐ逃げるよう言っていました」



 ある証言では、そのうちの一人が後に英雄として称えられるジル・ヴァレンタインに酷似しているとあるが、定かではない。
 だが、魔王や破壊神と謳われた彼女なら、一夜にして大邸宅を更地にしたとしても納得できる。ニューカッスル城を一瞬で破壊したという逸話すらあるのだ。



 玄関の扉は鍵がかかっていた。無論、ラクーンシティで一般的な、ロケットランチャーに耐えうるような装甲扉でもない。少し離れてM66で破壊し、ターミネーターのように炎の中を進む。
 強固な固定化の施された扉を、それも二つも破壊して、何ら疲れた様子もなく、あまつさえ杖すら持っていないその存在に、その場に
いたメイドはおろか、衛兵ですら恐怖に身を震わせた。それに加え、ジルの憤怒のオーラ。中には気絶する者も。
「シエスタはどこかしら?」
 衛兵の一人の胸ぐらをふん掴まえて、同時にわらわらと湧き出てくるメイジどもをゴムスタン弾でパカパカ潰していく。逃げる者は追わ
ず、歯向かう者は無意識の闇に蹴り落とす。鮮やかなその腕前と、連発式銃の威力には、その場の誰もがあらがう術を持たなかった。
「ひっ!?」
「シエスタ。今日連れてこられたメイドよ」
「し、寝室! モット伯の寝室です!」



 ジュール・ド・モット伯。この事件の最大の被害者である。
 この事件で因果応報とばかりに数々の不正が暴かれ、爵位剥奪と同時にチェルノボーグの監獄で四十七年の懲役を言い渡された。
 しかし、彼は意外にも取り調べに素直に応じ、発覚した容疑の全てを認め、また自白もした。まるで少しでも刑期を長くしたいかのように。
 今もまだ、収監されている。

「あのとき、私は寝室にいた。新しく雇ったメイドに夜伽をさせるためにね。あ、いや、雇ったというのはおかしいな、当時の私は、平民の
気に入った娘を、金と権力で無理矢理連れてきていた。今思えば、天罰だったのかも知れんな」



 建造物の爆破はニコライ・ジノビエフの専売特許。誰がそう決めたのか。屋敷をあらかた制圧したら、ケイシーは財宝と不正の証拠を
四次元ボックスに回収して平民を避難させる。ジルは爆弾をそこら中に仕掛けながらシエスタをDAKKANしにいく。敵にはとことん厳し
く。住居、財産、社会的地位、全てを破壊するつもりだった。



「あの女は、まさに魔王だった。だが、騎士のようでもあった。壁がドアごと吹き飛ばされ、自慢の固定化が無意味と知った時、しかし私
はまだ諦めていなかった。いや、理解できてなかった。しょせん平民、貴族には勝てん、とね。大間違いだったよ。最初の魔法が避け
られて、次の魔法が撃てなかった時に、杖が綺麗に折られていたのを見て、予備の杖が一瞬で粉々にされたのを見て、やっと理解し
た。メイジごときが魔王に勝てるものか、とね」



 シエスタは気絶していた。流石にドアを爆破するのはやりすぎたかとジルは思ったが、とりあえず後回しにすることにした。特権を持つ
人種は、徹底的に恐怖を植えつけないと後後で厄介なことになる。その場で反省したフリをして、後から権力の限りを尽くして報復、な
んてことは想像に難くない。
 だからケイシーに財宝と不正書類を回収させ、財力と権力を失墜させた上でフクロにするのがベストだった。
「あなたがジュール・ド・モット?」
「伯をつけんかデ、無礼な平民」
「つける必要性を感じられないわ。そんなことはどうでもいいの。そこのメイド、シエスタを返して貰えるかしら? 今なら何も言及しないわ」
 どこまでも不遜な態度をとるジルに、モット伯は問答無用とばかりに杖を抜く。ジルは呆れたように、しかし何の行動も起こさない。
「エア・ハンマー!」
「フッ」
 不可視の攻撃を何らの予備動作もなく、正確にその攻撃の範囲だけ避ける。同時に遠くで爆音が轟く。
「ふん、よく避けたな。だが」
 次の詠唱を始める。それが如何に致命的な隙かも知らず、その隙を突かれない意味も知らず。
「ウィンド・ブレイク!」
 どこまで間抜けなのか。絶対優位にいながらトドメを刺そうとして残弾がゼロだった。そんなヤマネコのボスを見ているような哀れな
目線をジルはモット伯に送る。モット伯の手には、折れた杖がしっかりと握られていた。
「無駄な抵抗はやめた方がいいわよ」
「おのれ!」
 役立たずの杖を捨て、隠し持っていた予備を抜き出した瞬間、その指先を走る熱い感覚に、だがその手から杖は落とさなかった。
 何事か。そう思って杖の方を見ると、いままさに折れたばかりの杖がゆっくりと、回転しながら落ちて――――幾つかのつややかなオ
レンジ色の小さな『何か』に砕かれていった。
「なにガッ!?」
 意識が一瞬ぶれる。脳が揺さぶられ、世界が回る。
「特権って、人を腐らせる最高の毒ね。さて、消毒してあげないと」



「その後……足腰が立たなくなるまで殴られて、気付いたら地面で寝ていたよ。魔法衛士隊に囲まれてな。恐ろしくて恐ろしくて、何も
聞かれていないのに全部洗いざらい喋った。今までの不正の数々。外が恐ろしかった。少しでも長くここにいたいがためにでたらめも話
したが……寿命までここにいる権利をもらえたよ。ここはいいところだ、気に入ってる」

 当時、貴族に反抗する平民はほとんど存在せず、いたとしてもささいな抵抗だった。ここまで大々的に貴族のプライドを叩き潰し、あげ
く社会的にも抹殺したのは前代未問だった。名も姿も知れぬ二人はこの事件で誰一人殺さず、平民の間で英雄として称えられたが、そ
れ以降、歴史に『魔王と鬼神』は姿を表さなかった。結局、彼らについては調べることはできなかった。だが、彼はともかく彼女の話をす
るとき、みんな心底恐ろしそうな顔をしていた。それが答えなのかもしれない。

                              ――――『モット伯事件の真実』より



 報告を読み、アンリエッタはルイズと大きな溜息をつく。
「ニューカッスル城は、本当に消えてしまったのね」
 朝、無傷どころか埃すらついていないジルが戻ってきて一言、
「終わったわ」
 それから遅れること一時間、魔法衛士隊の隊長が報告に来た。
「報告します! 昨日深夜、モット伯邸に賊が押し入り、全てを吹き飛ばしました。モット伯は顔の原型が判らぬほどの暴行を受け、現在治療中であります」
「判りました。あとで詳細な報告書をください」
 今は寝ているであろうジルが一体何をしたのか。それだけが心配だった。ルイズは既に何かを諦めているらしく、いつも通りの生真面目な態度でいた。
 そして、今。
 アンリエッタに渡された報告書は予想より遥か上をいっていた。
「全壊、だそうです。固定化の施された邸宅、塀、隠し部屋、隠し通路、地下室に至るまで。あと、金銭貴金属などが全て消えているとか……」
 完膚なきまでに叩き潰されていた。ここにある『書類』と、ジルが未だ持っている『戦利品』は、おそらく『金銭貴金属』だろう。ここにある
書類だけで、モット伯は数十年は塀の外に出られない。事実上の終身刑だ。無一文となってしまったモット伯は、保釈金を払うこともでき
ず、国外逃亡の夢も終えた。おそらく、彼はそんな夢は見ていないだろうが。
「モット伯に関してはよい噂はあまり聞きませんでした。これはいい機会だったと思います。不正を正すのと、ルイズ、あなたの案を受け入れるための」
 魔法のない世界からの異邦者、ジル・ヴァレンタイン。それがこの結果をなしたというのなら。
「では、姫さま……」
「ええ。ルイズの話に乗りましょう」
 平民の力、恐るべし。


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