あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

汝等、虚無の使い魔なり!-02


 双月が照らす光を浴びる二人。
 一人は少年、一人は少女。
 場所は女子寮の屋根上、ルイズの部屋の直上。

「駄目よ駄目よ、とっても駄目よ」

 口惜しげに少女は言った。

「繋がるけど、こっちまで来れないわ」
「間に何かあるのか?」

 怪訝な顔で少年は言った。

「馬鹿らしいほど強力な『結界』があって、全く干渉を許してくれないわねぇ」
「世界転移も効果がないか……」
「そうね、多分あらゆる世界からの干渉を断絶してると思うわね」
「断絶? ここは孤立してる世界なのか?」
「ええ、あらゆる内外からの干渉を何かが無効化してるわ」
「ならば何故我等は呼び出された、内外問わずならば主殿の召喚も」
「さぁね、まぁ偶然はありえないはずよぉ?」

 必然ならあるけどね、と仕組まれた意図を探る紅朔。
 暴虐的な力の介入、それを撥ね退けるさらに強力な力がこの世界を覆っている。
 ならばその強大な力に撥ね退けられず、干渉を許すような別の力、或いは同種の力が主殿に備わっているのか。

「偶然ではないとすると……」
「そ、恐らくだけど主殿が持つ力は同種の力、次元干渉すら平然とやってのける力を持ってるわね」
「……この世界の魔術、魔法とは文字通り次元が違うな……」

 四大属性と文字通り次元が違う。
 上手く力が発揮できないのは何か制限、何者かによる検閲が通っているかもしれない。
 やはり意図的な物を組んだ者が居ると言うことか?

「このルーンは結界と同様のもので組まれてるんじゃないかしら。 それに、『デモンベイン』を私達の一部と判断してる節もあるわね」
「我等が半身と言っても差し支えないかもしれんが……」
「どっちにしろ、その判断のおかげで元の世界を認識できるし、繋がってると確認できるわけだからねぇ」

 つまぁーんないと言った仕草の紅朔。
 少しだけ調べてみたが、生憎この世界は機械技術がまったくと言って良いほど発達していない。
 故に、二人の一部と言ったデモンベインを呼び出せば、どれ程の混乱を巻き起こせるかわかったものではない。
 鬼械神は一機だけで容易に世界を『壊す』ことが出来るほどの力を持つ、そんなものが現れればミリタリーバランスなど無きに等しい。
 良くも悪くも程よく“欠けている”、まあそれを補うのが我なのだが。

「理解した限りの情報では、使い魔の証にそんな効果は有るとは思えないが」

 その感情を知ってか知らずか話を続ける。

「でしょうね、通常のルーンとはかなり違いが有るわよ?」
「どんなものがあるというのだ?」
「基本的には、呼び出した者への親愛や愛情などの感情を植えつけるものかな」
「魅了の類ではないか」
「微々たるものよ、時間経過でその限りじゃなく成るけど」
「防げるか?」
「ある程度はね、何年もとなると厳しいわよ?」
「むぅ、できるだけ早く帰らねばならぬか」
「それと、アカシック・レコードにも干渉してるかもしれないわぁ」
「何? そこまで干渉出来ると言うのか?」

 ルーンを刻まれた者に、その手に持つ武器の情報をもたらす。
 では、その武器の情報はどこからもたらされたものか。
 ルーンを刻まれた者は元よりその武器の情報を知らない、ルーンを刻んだ者、ルイズ殿も知りはしない。
 だったら全てを知る所から持ってくれば良い、その場所が『アカシック・レコード』なのかもしれん。

「一個人の力にしては大きすぎるか」
「どうでもいいわ」
「汝は……」

 はぁ、と脱力した九朔。

「帰れるものも帰れなくなるではないか」
「いいんじゃなぁ~い? 戻ってもクイーンのお使いに狩り出されるだけだし。 それに……」

 両腕を広げ、紅と蒼の双月から降り注ぐ光を全身で浴びる。

「この世界は気持ちが良いし」
「……気持ちが良い? ……世界に満ちる魔力か」
「大気に満ちる魔力が向こうの世界より何倍も濃いわ」

 紅朔は背伸びをして、深呼吸。
 顔が綻び、嬉しそうな表情を浮かべる。

「お、おい! 紅朔ッ!」

 九朔の手をとり、紅朔は回り踊りだした。

「騎士殿も気にならない? 主殿がどうなるか」
「どうなるとは? どう言う事だ?」
「これから面白くなるって事よ、騎士殿」

 そう言って踊るのを止め、二人が同時に向けた視線の先は、寮からすう数十メートルほど離れた樹木。
 その裏側に張り付いている人影を見た。

「どうする?」
「危害を加えて来るでも無し、放って置けばよいだろう」
「遊んであげようかしら?」

 ふふ、と笑う表情は妖艶で、背筋が凍りつくような凄惨な笑顔。
 大気のおかげか異様に上機嫌な紅朔、行動に移せば良くない結果になるので制止しておく。

「やめておけ、紅朔」

 見飽きたその笑顔を流しながら、九朔の手を取ってルイズの部屋に戻ろうとする。
 紅朔の嗜虐的な性格には頭を抱えてしまいそうになる。
 それこそ気に入らない奴なら殺してしまいそうなほどだ。

「相手をしてる暇があるなら、何かしらの帰還手段を探すべきであろう」

 それもそうねと頷く紅朔、素直に言う事を聞くその姿は気になるが。
 何かする前に戻った方が色々と安全だ、相手をする方もその後始末をする方も。

「戻るぞ」

 窓からルイズの部屋へと戻る、紅朔もそれに続くが。

「ほんと、楽しみね」

 と、視線を先ほどの樹木に移して再度笑った。






「チィ……」

 二人が見えなくなったのを見えなくなると同時に腕を強く擦る。
 あの二人、特に女の方を見たら全身に鳥肌が立った。
 彼女自身、命が危なくなる橋を何度も渡ってきた。
 其れゆえか、自身の危機感には自信を持っていたが。
 あの女を見た瞬間は『危険』と最大の警告が鳴り響いた。

「早く、盗み出さないとやばそうだね……」

 悔しげに言い放った女は闇に消えた。

 同日、同時刻、ガリア王国の王都『リュティス』の郊外に聳え立つ『ヴェルサルテイル宮殿』。
 その中の一室、王が居座る間。

「あ~れ~」

 と、明らかにふざけた声を上げて燃え上がる女。
 炎は全身を包み、くるくると回った後その場に倒れ、ブスブスと肉の焦げる臭いが漂った。
 ジョゼフの身を固めるメイジたちが杖を下ろしたその時には、既に終わっていた。

「なーんてね♪」

 焦げた肉の塊になったはずの女がジョゼフの真後ろに立ち、肩に手を置いていた。
 先ほどまであった焦げた肉塊は始めから無かったかのように消えていて。
 ジョゼフを除く、その場に居たメイジが弾け飛び、赤い華を咲かせていた。

「えーっと、なんて言ったかな、君の名前は」

 惨状を目の前に、女は何事も無かったかのように男の名を聞いた。

「……ジョゼフだ」
「そうそう、ジョゼフ君だったね」

 ポンと手を叩き、ジョゼフの耳元で囁いた。
 そうして肩に手を置かれたジョゼフは、体が凍り付いたかのように振り返ることすらままならない。

「君は退屈なのが嫌いそうだねぇ」
「ああ、死ぬほど嫌いだ」
「死ぬほどだって! そりゃあいい!」

 仰々しく驚き、声をあげて笑う女。

「それじゃあ、死ぬほど退屈が嫌いなジョゼフ君に朗報だ」

 深い笑みを浮かべた女は、またも耳元で囁いた。

「僕と一緒に、退屈しのぎでもしないかい?」
「……退屈しのぎ、とは」
「そうだねぇ、とりあえず戦争でも起こそうかな?」

 朗らかに笑う、妖艶な女性。
 その髪は黒く、胸元を大きく開けた紫色のスーツ。
 大人の色香が漂う、最も凶悪な愉快犯。

 その名は──『検閲済み』──であった。

 夜を携えた二つの月は薄くなり、光を照らす太陽が顔を覗かせていた。
 水場で洗濯を洗う九朔、使い魔、大体は幻獣であるはずだがそうではない九朔は召使いと似たような扱いを受ける。
 つまり、やる事はルイズの身の回りの世話であった。

「む、水がかなり冷たいな」

 呟きながらルイズの衣服を手早く洗っていく。
 まだ日が顔を出し始めたばかり、人気など皆無に近い。

「これは……、シルクか、こっちは……まぁいいか」

 衣類を見分けながらも全てを洗い尽くす。

「よし」

 丁寧に絞り、後は干すだけ。
 手洗いの洗濯はある程度手馴れている、理由は『紅朔の悪戯』。
 あれで何台も洗濯機が昇天、仕舞いには手洗いでやらなくてはいけなくなった。

「まったく、あのような細工をするか、……いや、幸か不幸か?」
「あの……」

 悪戯に悩み考える九朔の背後から話しかけてくる人物。

「ん? 汝は?」
「あ、ここでメイドをさせてもらっている『シエスタ』と言います」

 黒目黒髪の奉仕用のメイド服に身を包んでいる少女、手には洗濯籠を持っている。
 なかなかいい角度でお辞儀をする。

「我は『ルイズ・ラ・ヴァリエール』の使い魔をしている、大十字九朔だ」
「ああ、貴族様が人間を召喚したって聞きましたけど、貴方がそうなんですね?」
「違い無い」
「やっぱり……」

 そう言ってシエスタは止まった。
 その視線は九朔の顔に注がれている。

「如何した?」

 はっと気が付き、「なんでもない」と頭を振るシエスタ。

「そ、それでは失礼しますね!」
「うむ」

 お辞儀をして駆け出していく。
 九朔はそれを見送るが、ふと思い出した。

「……干せる場所を聞き損ねたな」

「起きろ!」

 揺するのは昨日主となった少女、ではなくその隣に寝る紅い少女。
 あれほど「あんた達は床!」と言われたのに無視して主殿のベッドに潜り込んでいた己の片割れ。
 無下に床に寝かせるのは気が引けるので、もらって来た藁を馴らして羽織っていたマントを敷いてベッド代わりにしたのだが……。

「起きろ、紅朔!」

 この始末である、気を入れて馴らしたのに気に入らなかったようだ。
 まあそれはいいとして、主は癇癪持ちらしい事は昨日の会話でわかった。
 一々紅朔が茶々を入れてルイズをからかうのだ、そのとばっちりを一々受けていたのではきりが無い。
 ここは先に紅朔を起こして、起こりうる可能性が高い危機を回避するべきだ。

「紅朔!」

 大声ではなく、耳元で囁く様に声を掛けるが。

「だめよぉ~、きしどのぉ~」

 何の夢を見てるのか、紅朔は頻りに「騎士殿」を連呼していた。

「こうなれば仕方ない」

 一向に起きる気配が無い紅朔を抱え上げて下ろすしかない。
 二人に掛かっている毛布を紅朔の方だけめくり、横抱き、所謂お姫様抱っこで抱え上げる。
 通常ならば憚られる抱え方だが、静かに持ち上げるという要素を必要としたためこの持ち上げ方。
 無論、紅朔程度の体重では九朔が少しも揺らぐ事は無い。
 抱えた紅朔を藁のベッドに寝かせる。

「いやぁ~ん、もっとぉ」
「何がだ」

 わけのわからない妄言を放っておいて主殿、ルイズを起こしに掛かる。

「主殿、起きられよ」

 肩に手を置き、ゆっくり揺する。

「うん、んにゃ……」
「主殿、それ以上寝ておられると朝食に間に合わなくなるぞ」
「むにゅう」

 完全に夢の中、ならば無理やりでも起こすしか無いか。
 とりあえず、高速で毛布を剥ぎ取る。

「主殿、早く起きられよ」
「え、あ? だ、誰よアンタ!?」

 まぶたを開き、眠気眼を白黒させたルイズ、それに簡潔に答える。

「主殿の使い魔だ」
「あ、ああ、使い魔ね……」

 ガックリとうな垂れ、ベッドから降りる。

「服」

 そう言われて、手作りのハンガーに掛けておいたルイズの制服を取る。

「下着」
「な、なに!?」
「聞こえなかったのかしら、『下着』」
「……、どこにあるのだ?」
「そこのクローゼット、一番下」

 仕方なくクローゼットの一番下から下着を一つ取って渡す。

「服」

 九朔の右手に下着、左手に制服。
 それを見て。

「着せて」

 それを聞いて思い切り顔を顰めた。

「何その顔、ご主人様に逆らおうっての?」
「いや、そのつもりは無いが……」

 問題は男と女という点、ああくそ……。
 紅朔は絶対代わりにやってはくれないだろうな。
 と言うかまだ寝ていて何か言っている。

「すまぬ、これだけは……、無理だ!」

 それは魂の叫び。
 己は男であるし、そもそもこういった事は一切経験がない。

「あのね、アンタは知らないだろうけど、貴族は下僕が居るときは自分で服を着ないのよ」
「そこをどうにかしてはくれまいか?」
「あっそ、生意気な使い魔には罰が必要ね」

 「朝飯抜き」と冷たく言われた。
 召還される前から忙しく食事を取れなかったのでここで抜かれるとかなりきつい。

「あい仕った……」

 二つ返事、とは言えないが承諾してしょうがなく着替えさせた。
 ちなみにまぶたを堅く閉じ、全神経を集中してなんとか、と言ったところであった。








 ドアを開け、廊下に出るとドアが幾つも並んでいる。
 その一つ、隣のドアが開いた。

「あら、おはようルイズ」

 現れたのは、二人より身長の高い褐色のグラマラスな女性。
 腰まで伸びる燃えるような赤い髪が印象的だった。

「おはよう、キュルケ」

 即座に顔を顰めたルイズ、あまり好いてはいないように見える。

「ねぇルイズ、あなたの使い魔ってそれ?」
「そうよ」
「ぷっ、あはははは! 『サモン・サーヴァント』で人間を呼ぶなんて流石ね!」
「うっさいわね!」

 恥ずかしいのか、ルイズの顔は赤み掛かっていた。

「私はもちろん一発で成功したわよ? 使い魔にするならこういうのよねぇ、おいでフレイム!」

 勝ち誇ってキュルケが呼んだのは巨大なトカゲ。
 かなり大きくトラやライオン位の、尻尾の先が燃え盛る炎で出来ている『サラマンダー』。

「ほう、これはなかなか凄いな」
「でしょう? この見事な尻尾の炎は火竜山脈のサラマンダーよ!」

 尻尾の炎を見た後、九朔とフレイムの視線が交錯する。

「きゅる……」

 フレイムは一歩下がり、ひっくり返った。
 腹を見せて……、これは服従のポーズか?
 顎から腹を軽く撫でてやる、きゅるきゅると声を上げていた、ついでに口から漏れる炎も。

「フ、フレイム?」

 その姿を見てキュルケは驚いた。
 主たるキュルケならいざ知らず、ルイズの使い魔に服従のポーズを見せるなんて、と。

「中々に可愛いではないか、少し熱いが」

 ルイズとキュルケが驚きの表情を浮かべている

「如何した? 主殿も触ってみるか?」

 ぶんぶんと頭を横に振るルイズ。

「ふむ、そうか」

 撫でるのを止めるとフレイムは起き上がる。

「きゅるきゅる」

 ぼっぼっ、と炎を吐きながら何か言ってるようだが理解は出来ない。

「気を付けよ、危ないぞ」

 火の粉を払いながら注意するとフレイムは口を閉じた。

「あなた、何者?」

 キュルケが双思っても仕方がない、当たり前な質問を投げかける。
 フレイムが服従のポーズを見せた理由は至極簡単。
 九朔がサラマンダー以上の怪異どもを幾度と無く滅してきたからだ。
 フレイムは本能で九朔の力量を感じ取り、敵わないと服従のポーズをとっただけであった。

「我か? 我は『大十字九朔』、主殿の使い魔だ」

 何も誇らしげに言ったわけではない、ただルイズとキュルケにはそう言う風に見えただけだ。

「ルイズ」
「……何よ」
「アンタ、当たり引いたのかもね」
「あ、当たり前よ!」

 ルイズの顔がさらに赤みが増していた。

「む、如何した主殿?」
「な、なんでもないわよ!」

 フン! と鼻息を鳴らして歩き出す。

「むう、何か怒らせてしまったか」
「ふふ、違うわよ。 まあルイズをよろしくね、使い魔さん?」
「元より其のつもりだ」

 視線の先を歩くルイズを早足で追いかける九朔、キュルケは其の姿を笑いながら見つめていた。

「これは広いな……」

 開かれた本塔にあるアルヴィーズ食堂の扉。
 食堂内は広く、かなり長いテーブルが三つ置かれている、中々豪華な装飾が施されている。
 その一つ上の階、中階に恐らく教師専用のロフト、大人が数人談笑している。
 この学院とクイーンの屋敷、規模は同じくらいかも知れぬな。

 記憶にある覇道の屋敷と、この学園の外観を比べる。
 そうしていれば、ルイズが歩き出し、それに付く九朔が椅子を引いて真ん中のテーブルの一角に座る。

「本当はアンタみたいな平民は入れないんだから、感謝してよね!」
「確かに、主殿には感謝している」
「解ればいいのよ! 解れば!」

 やはり先の事で怒っているようだ、なぜ怒っているのかわからないが謝っておいた方が良いのだろうな。
 そう思っていたらふと金髪のグラマラスな女性が。

『九朗ちゃんのようにペコペコ頭下げちゃ駄目よ? 勿論土下座もね♪』

 と聞こえた気がした。
 父上、貴方はそんなに頭を下げていたのだろうか……。
 それは兎も角、非は此方にあるようなので素直に頭を下げるべきと行動に移した。

「申し訳ない、心骨折ってここまでの待遇、真に痛み入る」

 深々と頭を下げる九朔、角度は75度で固定、それを見てルイズが狼狽。

「え、あ、いいい良いのよべつに! アンタは私の使い魔なんだから!」

 ルイズはここで頭下げられるとは思っても見なかったのだろう。
 それを見た他の貴族、周りからは失笑が起こっている。

「恥ずかしいから頭を上げてよね!」
「ふむ、そうか、ところで我の朝食はどこにある?」
「え、ああ……」

 ただの平民かと思えば、キュルケの使い魔を服従? させたり。
 そういえば来る時も他の使い魔も騒いでたような……。

「ま、まだ用意できて無いようね」

 カツン、とテーブルの下から音がして覗いた九朔。

「……?」

 何も無い、見えるのはテーブルの足とルイズの足。

「ど、どうしたのかしら?」
「……、いや、気のせいだったようだ」
「そ、そう、なら厨房に行って食事を貰ってきなさい」
「心得た」

 踵を翻し、アルヴィース食堂の居る愚痴へ向かう途中に九朔の背後からは「あじぃぃぃぃぃッ!!!」と何か変な声が響いていた。

「クザクさん!」

 厨房へ向かい歩いていると背後から声が掛かった。

「む、シエスタ」
「どうしたんですか? もう朝食の時間ですよ?」
「いやな、まだ我の朝食が用意されてないと聞き厨房へ向かっていた所だ」
「そ、そうなんですか? すみません!」

 深く頭を下げるシエスタだが、それを制した。

「シエスタが謝ることではない、それよりその洗濯を手伝おう」

 朝見たときより増えている洗濯籠の中。
 これだけの量を手洗いとなると結構な時間がかかるだろう。

「い、いえ! クザクさんの手を煩わせるなんて……」

 九朔の言葉を聞いて、何かもじもじしているシエスタ。

「如何した?」
「な、何でもありませんヨ?」

 一歩近づくとシエスタは一歩下がる。
 何か顔が赤い。

「風邪でも引いたか?」

 さらに一歩、同様に一歩下がる。

「大丈夫か?」
「はい! 大丈夫なので……その……」
「何だ?」
「あまり、ち、近づかないでもらえますか?」

 と拒否、あるいは拒絶。

「グッ、すまぬ、気が付かなかった」

 シエスタに背中を向け歩き出す。

「あ、いえ! その……、恥ずかしいので」

 消えそうな声でつぶやくシエスタだが。

「何か言ったか?」

 九朔には聞こえていなかった。

「いえ! クザクさんの事嫌いじゃありませんから!」

 仰々しく頭を下げて走り去っていった。

「……?」

 よく分からない九朔は立ち尽くしていた。


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