あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

mission 05 「The Stage is Set」


 何とも不思議な体験だった。
 想像も付かない速度でハルケギニアの空を飛び回っていたのが三日前。今でもあれは夢だったのではないかと思えてくる。
 青空を見上げて、アニエスはその感覚を思い起こす。
「また……飛んでみたいな」
「王都が見えてきたぞ」
 先を進んでいたスコールが、振り返りつつ声を掛けた。
「ああ……日にちとしては予定通りの帰還なんだが、どうもそれ以上に帰っていなかった気分だ」
 飛空艇ラグナロクで飛び回った後、以前討伐した海賊達が根城にしていた島にラグナロクを隠して、二人はようやく王都へと戻ってきた。
 タルブから歩いて帰るのが、ラグナロクの隠し場所から帰るのに変わっただけなので、所要時間自体はそう変わっていない訳だ。
「どうも、街の方が普段よりも騒がしい気がするんだが……?」
「……そうだな」
 まだまだ日の昇りきっていない中、遠目で見ていて浮かんだその疑問は、王都が目と鼻の先になってようやく理解できた。
「ああ、そういえば王女のお輿入れの日が近いんだったな」
「これはその余波か」
 華燭の典にお祭り気分の街路を渡り、早めの昼食にしようと馴染みの酒場に入ると、酒をかっくらっている連中が大勢居た。
「簡単な物で良いから、食事を二人分頼む」
 注文をして隅のテーブルに着くと、馴染みの情報屋がビールジョッキを片手に近づいてきた。
「おう、アニエスにレオンか。へへへ……」
「何だ、にやついた顔をして」
「ついに突き止めたぜ? お前達の使う魔法の正体をな?」
「だから、私は使えないと……」
 うんざりした様子で答えるアニエスの目の前に、情報屋の両手が伸びてくる。
「ドロー ファイア!」
 ぼっ、とその両手の間で炎が上がり、すぐに消え去った。だが、これは……
「バカな……何故使える!?」
 目を剥いてアニエスが詰問する。
「ああ、四日ぐらい前だったかな? 北の方から来た二人組の男が、平民でも使える魔法ってふれ込みで、この擬似魔法をそこら中で教えまわってたのさ」
「その二人はどこにいる!?」
 凄みすら覚えるスコールの態度に、情報屋も後ずさる。
「お、おいおい……魔法があんた達の独占物じゃなくなったからって、そう怒るなよ……」
「そうじゃない! その二人は俺と同郷の可能性があるから、会いたいんだ!」
 必死に訴えかけてくるその様子に何か理由があるのを感じ取ったが……
「残念だがしらねぇよ。北……ゲルマニアの方から来たらしいって事は、何かの役に立つかとさっき調べたんだけどな」
「そう、か……」
 見るからに気落ちするスコール。
「まぁ、そう落ち込むなって。俺の調べによると、あっちこっちの街や村でこの擬似魔法を教えながら、ゲルマニアの方から南下してきてるらしいぜ。ちょいと俺が調べれば、すーぐに足取りなんか追ってやれるさ」
「頼む。……頭金だ」
 10枚のエキュー金貨を差し出しながら、スコールが頭を下げる。
「……余程の訳ありらしいな。良いぜ、俺の面子にかけても調べて見せらぁ」
 にぃっと笑うと、ジョッキをくいと掲げて情報屋は離れていった。
「お前の故郷の……手がかりか?」
「おそらく」
 こくりと頷くが、スコールの思考は別の所に向いている。
「だが……まずいかもしれない。擬似魔法がハルケギニアに広がれば……」
「戦乱が起きる、と言うのか? ……そう簡単な物か?」
 前々からこの言葉に疑問を抱いていたアニエスは、改めてスコールに疑問を提示する。
「そう直ぐにも、という訳ではないだろうが……」
 給仕がトレイに乗せて料理を運んできた。それらが並べられる中、喧噪に包まれた店内に、それを上回る絶叫が響いた。
「大変だぁっ!」
 飛び込んできた男が大声で怒鳴る。
「アルビオンが攻めて来たっ!」


 情報は錯綜していた。
 トリステイン艦隊が騙し討ちで全滅した。タルブ村が瞬く間に占拠された。ゲルマニアの艦隊もやられた。いや、そもそもゲルマニアはこの戦争に関わる気がないからトリステインに援軍はない。レコン・キスタのアルビオン軍は王都の直ぐ側まで迫ってきている。
 真偽の区別を付けるのに、裏打ちする物は何もなかったが、戦場に立ってみれば確実な情報がどれかということぐらいは、目星がついてくる。
 お祭り気分から一転、王都に住む非武装の平民全てが逃げ支度を整えている中を駆け抜けた二人は、タルブに陣を張るトリステイン軍の一角に志願した傭兵として居た。
(多勢に無勢……いかにダメージを受けないかが重要だ。アビリティは、カウンター、回避+30%、運+50%、早さ+40%……とにかく避け続ける。
 タフな奴が居て手間取ると厄介だ。ST攻撃にデス、属性攻撃にバイオ。
 これだけの戦いだ。いちいちメイジ毎に属性防御ジャンクションを組み直している暇はない。少々勿体ないが、フレア、シェル、メテオ、ウォータ……これで系統魔法に死角はないはずだ)
『やぁスコール、久しぶり。エルお姉ちゃんが体調を崩しちゃってね……って何か物々しい雰囲気だね』
(誰か繋がったらしいな)
 アーヴァイン・キニアスはスコールの目から見える風景にきな臭い物を感じ取った。
 脳内にざわめきを感じ取って、スコール自身の確認のためにも情報を整理していく。
(状況を説明する。
 レコン・キスタ――今は神聖アルビオン帝国というらしい――がトリステインに攻めてきた。緒戦でトリステインの艦隊は壊滅。現在展開中の戦力はトリステイン正規兵2000に対してあちらは五万とのことだ)
『五万!? また大軍だね~』
 戦略の常として、誇大に数字を発表する事を考えても、万を下回るとは思えない。加えて何よりも制空権を取られて頭が押さえられていることが大きい。
 自身の世界で、電波障害が消えたことにより制空権を含めて世界各国で戦略の見直しが計られていたことを思い起こす。
「レオンハート」
 既にして絶望感漂うトリステイン陣を見回しながら、アニエスが声を掛ける。
「ラグナロクは……使えないか?」
『ラグナロク? って……あのラグナロク?』
(確かに、ラグナロクが使えればどうにかなるだろうが……)
 真紅の飛空艇を思い描く。
「無理だろう。隠し場所まで、どんなに急いでも日は暮れてしまう。それまでトリステインは保つか?」
「……日が朱く染まる前に、平原の方がトリステイン兵の血で染まるな……」
 苦々しげにアニエスは呟いた。
『何でラグナロクがこんな所にあるんだ~?』
(ラグナに……エスタ大統領に伝えて欲しい。ラグナロクの2番艇か3番艇を俺がこちらで借り受けている、と)
 聞こえていないアーヴァインの疑問には答えず、スコールはそんなことを考える。
「……覚悟を、決めるか」
「あんた、死ぬ気か?」
 不吉な物言いをするアニエスに尋ねる。
「死にたくはないが、この国を奴らの好きにさせるつもりはない。
 ……そりゃあ、この国に良い思い出ばかりがあるというわけではないさ。どちらかといえば、悪い思い出の方が多い。だが……ここには死んで欲しくない、悲しんで欲しくない人が沢山居る。私の養母や、『兄弟』達……
 どこまでやれるかは判らないが、彼らに降りかかる火の粉を少しでも減らしたい」
(アニエスの、ママ先生か……)
 自分の身に置き換えてみれば、その気持ちはよく判った。
(ママ先生や、エルオーネ、ゼル、キスティス、セルフィ、サイファー…………アーヴァイン)
『ねぇ、何か間が長くない? 僕の名前が出るのに。ねぇ?』
 アーヴァインからの批難はもちろん聞こえていない。
(それに、リノア。俺も……勝てない戦いでも、みんなを守るために戦おうとするんだろうな……)
 そしてきっと、あいつらの方も……
「お前はどうする? っと……聞くまでもなかったな。トリステインを救えはしないだろうが、逃げるには十分な時間がある。ラグナロクでロバ・アルカリイエ辺りに移るか」
「いや、俺もあんたに付き合う」
『うん、そうだよね~』
「な……何のつもりだ?」
 思わぬ申し出に、目を見開く。
「あんたを死なせはしない。やることがあるんだろう? その為にあんたは、俺と協力する道を選んだはずだ。擬似魔法を使って……敵討ちか?」
「……流石に判るか」
 いや、誰かに聞いて欲しかったのかもな。とアニエスは一人ごちる。
「聞いてくれるか?」
「前に言ったはずだ。聞くぐらいは出来る」
 頷くスコールに、一瞬微笑んだ後、アニエスはゆっくりと話し出した。


――20年ほど前のことだ。
 タングルテール地方の私が住んでいた村が、焼かれた。
 ……焼いたのは、トリステインの魔法研究所実験小隊……
 焼いた理由は、新教徒狩りだった。
 新教徒というのはブリミル教の一派だ。
 魔法の実践に重きを置いた信仰をしている。
 エイジス32世教皇猊下が即位しておられる今でこそ、新教徒もその有り様を認められているが、あの当時は排除の対象でしかなかった……。
 私の居たダングルテールは、反乱鎮圧の名目で滅ぼされたのだ。

――奴らを倒そうと、私は女であることを捨てて剣を取った。銃を握った。
 だが……どれだけ手を尽くしても、やはり手が出せない者達は居た。
 現在王宮で要職に付いている者、行方をくらました者、誰なのかもつかめない者。
 行方をくらませた者はともかく、居場所まで判っているのに手が出せないのは辛かった……。

――そうだ。魔法を使えば、平民である私は疑われない。その者を討っても、他の者へも仇を討ち続けることが出来る。
 だから、あの擬似魔法を広めないというお前の方針も素直にありがたかった。私に足が付かなくなるからな。
 まぁ、こちらはもうダメだが……。


「その敵討ちのためにも、やっぱりあんたは生き延びなきゃいけない」
 幸か不幸か、スコールの身の回りでは仇討ちやそれに準じる戦闘が起きたことはなかった。
 強いて言えば、孤児院仲間の親の大半がアデルの引き起こした魔女戦争によって死亡しているから、アデルが彼らにとっての仇だと言えないこともないが、少なくとも彼らにそうした気概はなかった。
『そう……だね、言われてみれば、僕たちの親の仇だったんだ、アデルは。
 ちょっと……薄情だったかな』
 だから、スコールには仇討ちは判らない。だが、それでも仇討ちがアニエスの目的であるのなら、手を貸したかった。
「生き延びる……か。そう口で言うほど容易ければ良いがな……」
(容易くは、無いだろうが……)
「まだ手はある。俺もあんたと戦うから。覚悟を決めるにはまだ早いんだ」



新着情報

取得中です。