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毒の爪の使い魔-44


「テメェ、生きてやがったのか…」
「死んだと思ってたかよ? 残念だなァ…このとおり生きてるゼ。まァ、俺自身あん時は死ぬと思ってたがよ…キキキ」
ジャンガとガンツは互いに相手を油断無く見据える。
片やニヤニヤ笑いながら余裕綽々で相手を見据え、片や獲物を狩る獅子の様な鋭い目付きで相手を睨む。
気まずい空気が辺りに漂う。

ルイズとタバサは、それを敏感に感じ取っていた。
何しろ二人は彼等がどういう関係なのかを嫌と言うほど知っている。
どうしてあの亜人の少年が此処に居るのかは解らない。だが、非常に不味い事態なのは解っていた。
「あ、あの二人とも?」
恐る恐るルイズが声を掛けるが、二人は見向きもしない。
「ここは遊び場でないぞ? 揉め事ならば外でやれ」
ド・ポワチエがそう言ったが、やはり二人は視線を逸らさない。
亜人如きに無視された事にド・ポワチエは憤りを覚えた。
「聞こえないのか!? 揉め事ならば外でやれと言っている」
やはり二人は動かない。
ド・ポワチエはいよいよ我慢がいかなくなった。
「貴様等! このわたしを無視するとは、どういうつも――」

BANG! ビュン!

一発の銃声と空気を切り裂く音が同時に響いた。
ド・ポワチエの背後の壁に縦一文字の亀裂と一つの大きな銃痕が生まれた。
突然の事にその場の殆どの者が理解できなかったが、ルイズとタバサは直ぐに理解できた。
ド・ポワチエの言葉を遮る様にジャンガはカッターを放ち、ガンツは金色の十字のマークが刻まれた赤い銃を撃ったのだ。
そのタイミングは事前に打ち合わせでもしたかのように、寸分違わず同時に放たれた。
「な、な…」
言葉を失うド・ポワチエ。
二人は相手から視線を逸らしてすらいない。
ジャンガは大袈裟な位、大きなため息を吐く。
「よォ、ここはウゼェ奴が横から茶々入れてきやがる。場所変えようじゃネェか?」
「ああ、構わねぇぜ? 俺もそう思ったところだ。…つーか、テメェと意見が合うなんざ驚きだぜ」
呆れた様な表情を浮かべながら、ガンツは両手を広げる。
「キキキ、そりゃそうだ」
笑いながらジャンガは言った。
ガンツはジュリオへ顔を向ける。
「急に用事が出来たんでな…、戻るのは少しばかり後にしてもらうぜ」
「構わないよ。けれど、船酔いの方は大丈夫かい?」
「…気にしないようにしてんだ。思い出さすんじゃねぇよ…」
「これは失礼した」
あっさりと謝罪するジュリオにガンツはため息を吐いた。
「オイ、クソガキ? 俺もちょいと用事を済ませてくるゼ」
そう言うジャンガを不安を隠そうともしない表情でルイズとタバサが見つめる。
「ちょ、ちょっと…あんた、あいつとは…」
「一人で行っちゃだめ」
慌てる二人をジャンガは愉快そうに眺め、笑った。
「オイオイ、何マジな顔になってんだよ? ちょっとばかり昔のよしみで話をするだけだゼ」
「で、でも…」
「ウルセェな…、ガキが口挟む事じゃネェんだよ。黙って大人しく待ってろってんだ」
そして、ジャンガとガンツは部屋を後にしたのだった。



暫く船の中を転々とし、漸く落ち着ける場所を見つけた。
そこは船の底部に位置する薄暗い通路だった。
「…この辺でいいか」
「ああ…、ここならそうそう邪魔も入らねェだろう」
ガンツの呟きにジャンガは同意する。
そしてガンツはジャンガに向き直った。
「さてと、色々と聞きたい事は在るんだがよ…」
「そりゃ俺もだ。まさかとは思うが…地獄の果てどころか、こんな異世界にまで俺を追って来た訳じゃネェだろうな?」
「違ぇよ」
「そりゃそうだよな」
ジャンガはそう言って、キキキ、と笑う。
「にしてもよ…何で銃を抜かないんだ?」
「……」
「前だったら有無を言わさず俺にぶっ放してきやがったのによ?」
ジャンガの言葉にガンツは、フッ、と含み笑いをする。
「もう復讐は終わったからさ。テメェを一度見逃した…その時にな」
「ホゥ?」
「確かに俺はお前を殺したかった…、親父を裏切ったお前を何処までも追い詰めて、殺したいと思ってたさ
だがよ…お人好しなアイツやオッサンと一緒に居て、情けねぇお前の命乞いを見て、
段々テメェのやってる事が馬鹿らしく思えてきたんだよ…。
流石にクロノアの奴がお前にやられた時は、ぶっ倒すつもりで撃ったがよ…」
「……」
「ま、とにかくだ…、俺はお前の事はもう然程憎くはねぇよ。
いけ好かねぇ奴だとは思ってるが…少なくともガキの様にムキになって追い掛け回すつもりは無ぇ。
一度決着をつけたのに、お前が生きてると解ったらまた追いかける…、それこそただのガキだ」
「……キ、キキキ」
それまで黙ってガンツの話に耳を傾けていたジャンガだったが、唐突に笑い出した。
「キキキ、キキキキキキキ!」
「何が可笑しい?」
以前ならばその笑い声に苛立ち、怒鳴り声の一つでも上げただろう。
だが、今のガンツはいたって冷静だった。
「キキキ、いや…少し前まで、馬鹿の一つ覚えみたいに親父の仇を取るとか言って、
俺を追っかけまわしていたガキが、暫く見ない間に随分と大人になったもんだ、と思っただけだゼ」
嫌みったらしく言うジャンガ。
そんな彼にガンツはため息を吐く。
「テメェは相変わらずみたいだな…」
「キ、そう簡単に変わるもんかよ、このジャンガ様がよ?」
「だろうな。…あのクレバスに落ちた後、テメェはこっちに来たのか?」
「ああ…そうさ。あの俺の後ろに居た、桃髪のクソガキに召喚されたんだよ」
ジャンガはガンツにこれまでの経緯を語った…。途中、色々と適当に誤魔化したが。
話を聞き終わってガンツはジャンガに尋ねた。
「一つ聞きたい事がある」
「何だ?」
「お前はここで何を企んでるんだ?」
「…別に? まァ…強いて言えば、この俺の楽しい”玩具箱”で遊ぶ事が目的だな…」
「フン、なるほどね? お前を慕ってる嬢ちゃん達も、ただの玩具かよ?」
「それ以外に何かあるか?」
「……別に。正直俺に不都合な事が無けりゃ、お前がここで今何をしてようが構わねぇさ」
「俺を放っておいていいのかよ…ガンツ坊や?」
「俺がお前を追っていた理由は親父の仇討ち以外ないからな…。それに俺は正義の味方なんかじゃねぇ。
必要以上に他人の事には口を挟まねぇし、首も突っ込まねぇ主義なんだよ」

それはガンツの本心だった。
世の中を一人で旅し、立ちはだかる困難は己の力だけで乗り切ってきた。
そんな彼は「人は裏切る時は平気で裏切るんだよ」と言い切ったりもした。
嘗ての冒険でも、ムゥンズ遺跡で悪夢の実験のために囚われていた人々も、
ジャンガを追う目的の為に、彼は平気で見捨てた。
別にそれは彼が非情だからというわけではない…、”自分には関係無い”からだ。
自分は自分、他人は他人と割り切り、周囲に流されず己の考えで行動する……それがガンツだった。
もっとも、そんな彼も時には周囲の意見を聞き、協力する事の大切さを冒険の仲間から学んだりもしたのだが…。

「ま、そう言うわけだ。俺はお前が何をしようと構わねぇ。だが…俺の邪魔もするな。
もし、妙なまねをしたら…後ろからでも撃つ」
そう言ってガンツは鋭い目付きでジャンガを睨んだ。
ジャンガはわざとらしく震えて見せた。
「お~お、こえェ、こえェ。んな事ァ解ってんだよ。俺だって漸くウゼェお前から解放されたんだ…。
また追いかけっこをやるのはご免だゼ」
「解ってんならいいさ」
そう言ってガンツはその場を歩き去ろうとする。
その背に向かってジャンガは声を掛けた。
「おい、ちょっと待てや? 俺からも少しばかり聞かせろ」
ガンツはジャンガを振り返る。
「いいぜ。だが、手短にしろよ。あの野郎を待たせるとうるせぇからな…」
「それだゼ…、一匹狼のお前が何であんな優男なガキと一緒に嫌がるんだ。
あんな確実に何かしら企んでる奴と、好き好んでつるんでる訳じゃねェよな…?」
ガンツは大袈裟な位、大きなため息を吐いた。
「確かになお前の言うとおりさ。本当だったらつるんだりしねぇよ。…ちょいと、訳在りでな」
「訳?」
ああ、と呟き、ガンツはこれまでの経緯を語り始めた。

テメェらが起こした事件が終わってから、俺は賞金稼ぎとしての一人旅に戻った。
賞金首を追いながら、あちこちを転々としてな。
で、二、三ヶ月ほどが経った頃か? ある日、いつものようにレッドクランを走らせていたら、突然俺は光に包まれた。
それはほんの一瞬だったさ。だが、その一瞬の間に俺はそれまでとはまったく別の場所に居たんだ。

「別の場所?」
ああ、と言って頷き、ガンツは話を続ける。

俺が光に包まれる直前まで、レッドクランを走らせていたのは人影なんか見えない荒野だった。
だが、光に包まれた後、俺の周りには人が大勢居やがった。どいつも見ない面をしてたが、
そんな事よりも気になった事があった。街だったんだよ…その時、俺が居たのは。
メイジ? 召喚? いや、その時はまだそんな事は知らなかったし、多少混乱していた事もあったから解らなかった。
だが、今思い返してみてもこっちでやってる普通の召喚とは違うみたいだったぜ。
最初は街の雰囲気から天空寺院の近くかと思ったが…肝心のそれが見当たらなかった。
周りの連中は俺を見ながら、ひそひそ何かを話してるしよ…。
そしたらさ、変な連中が現れてよ…俺が何者かとか色々尋ねてきやがった。
その質問を俺は妙に感じたよ。
俺は一応は名の通った賞金稼ぎだしよ、余程の田舎でもない限り知らない奴なんざ居ないはずなんだからよ。
まぁ、人が来たのは好都合だったからよ…俺も此処が何処だか尋ねたさ。
するとそいつら何て言ったと思う? ”下賎な亜人が敬虔たる我々ロマリアの神官に声を掛けるな”だとさ。
ロマリアなんて聞いた事も無かったし、何処かのチンピラの集まりかと思ってな、銃をぶっ放して軽くそいつ等に脅しを掛けた。
するとな、そいつら杖みたいな物を取り出して、何をするかと思えば炎やら氷やら風やらをぶっ放してきやがった。
ま、後はそいつらと街中でやりあう羽目になってよ…暫くはドンパチが続いたぜ。
何とか全員黙らせると、空からデッカイ竜が降りて来やがった。それに乗っていたのが、あの野郎だったのさ。
あいつは俺と連中のドンパチを空の上から見物してたらしくてよ、
俺の腕前が凄いとか何とか世辞を次から次から言って…、俺をデッカイ寺院へと誘った。
あからさまに怪しい勧誘だったが…他に行く当ても無かったしよ、あえて乗ってやった。
で、連れて行かれた先で会わされたのがロマリアの教皇とか言う奴だ。

「教皇だ?」
「俺も詳しくは知らねぇがよ、天空寺院の大巫女のような立場にあるみたいだぜ」
「ホゥ?」
「ま、それで俺はその教皇…ヴィットーリオって奴と話をしてよ、ここが別の場所どころか…全くの別世界だって知ったわけだ。
正直、最初は信じられなかったがよ……通貨の単位も違うし、ブリミル教なんてのも知らねぇ。
終いにはジュリオの奴に竜であっちこっちを少々飛び回ってもらって完全に理解したさ」
そこでガンツは一息ついた。
ジャンガは顔を俯けて暫く考え込んでいたが、ガンツに視線を戻す。
「お前がここへ来たのは召喚じゃない…つったな?」
「ああ、そうみたいだぜ」
「じゃあ…お前は何の所為でここに来た?」
「さあなぁ…、結局奴等でも解らないらしいしよ。ま、今となってはどうでもいい事だけどさ。
”如何して来たか”よりも”どうやって帰るか”の方が俺には重要だしよ」
「…あんのかよ、その方法?」
「知るかよ…。だいたい、知っていたら俺はとっくに帰ってるぜ」
「だろうな…」
ガンツは再びため息を吐く。
「ま、そんな矢先に奴等が帰る方法を探してくれるとか言って来やがった」
「タイミング良過ぎだな…、下心見え見えだゼ」
「ああ…、奴等は俺に交換条件として”帰る方法が見つかるまで自分達の手伝いをしてくれないか?”って言ってきやがった。
ま、お前の言ったとおり何か企んでるのは間違いなかったがよ…さっき言ったとおり、他に当ても無かったしな」
「で…、協力体制をとって、こうして他所の国の戦争に首を突っ込みに来たと?」
「正直乗り気じゃなかったがよ…”お偉い教皇様”が世を乱すアルビオンと戦うトリステインに協力しなさい、つってな。
――船に乗るなんて知ってたら嫌でも来なかったがよ」
”お偉い教皇様”の部分に皮肉な調子を含めながら、そう言ったガンツの顔が青くなる。
…どうやら、船酔いがぶり返してきたらしい、今にも戻しそうなほど辛そうな表情だ。
ジャンガは首を振り、ため息を一つ吐いた。
「ったく…情けネェ。どうしてそんなに船に弱いんだか…。バッツが見たら泣くゼ?」
「…うるせぇ。だいたい、テメェを憎くなくなったとは言ってもよ、許してはいねぇんだからな?
馴れ馴れしく親父の名を語るんじゃねぇ…、うう…」
壁に手を着き、ガンツは苦しそうに項垂れる。
ジャンガは呆れたような表情でそんな彼を見つめている。
「解ったからもう行きやがれ…、こんな所で吐かれたら俺だって迷惑だゼ」
「ああ…言われなくても…そうさせてもらうさ…」
息も絶え絶えになりながら、ガンツは壁に手をつきながら、のろのろと亀の様な歩みで歩き去っていった。

ガンツを見送った後、ジャンガは背中の鞘を足の裏で乱暴に蹴り上げた。
鞘からデルフリンガーが出てくる。
「うわっと? な、なんだよ?」
「よォ、今の話聞いていたかボロ剣?」
「今の話? …悪ィ、寝てたんで聞いてなかった」
その言葉にジャンガの目尻が吊り上る。
「あン? 剣の癖に居眠りだァ? ふざけんじゃねェよ…」
「仕方ないだろ? 眠くなるんだから…」
どおりで静かなわけである。
ジャンガは半ば呆れて大きくため息を吐いた。
「まァいい。一つテメェに聞きたい事がある」
「何だね、相棒?」
「俺と同じように別の世界からハルケギニア<ここ>へ来た奴がいる。
そいつは俺と違って召喚じゃなかったようだが…、何か心当たりみたいなものはあるか?」
「知らん」
「…真面目に答えろ」
ジャンガの目付きが鋭くなり、言葉にドスが利いてくる。
デルフリンガーは慌てた。
「おい、こら待て!? 俺は真面目に答えたつもりだよ! 本気で知らないんだってば。
だいたい、サモン・サーヴァントで別の世界の亜人が連れて来られるなんて事態が、そもそも前代未聞なんだからよ!?
サモン・サーヴァント以外の方法での異世界からの召喚なんざ見当がつかねぇよ!」
必死に答えるデルフリンガーの言葉にジャンガは鼻を鳴らす。
「ったく…メンドくせぇ」
一言吐き捨て、ジャンガは踵を返した。



――トリステイン・ゲルマニア連合軍が港町ロサイスに上陸してから約三週間…。
連合軍の当初の予定ではロサイス付近で決戦を行い、そのままロンディニウムへと進行するはずだった。
だが、敵は反撃をしないばかりか、首都ロンディニウムへと立て篭もり、長期戦の構えを見せたのだ。
敵地での長期戦は望むところではないし、何よりトリステインの国力では長期戦は不可能である。
短期決戦を想定していた為に、兵糧などの補給物資は六週間分しかないのであった。
しかも…問題はそれだけに留まらない。
まず、敵の巧妙な足止め。
連合軍は上陸から二週間ほどが経過した先週、漸く攻勢が開始された。
それにより、シティオブサウスゴータを完全占領し、ロンディニウムへの足掛かりを確保できた。
だが、敵軍は撤退の際にシティオブサウスゴータの食料を全て奪っていったのだ。
その為、連合軍は兵糧の補給ができないばかりか、街の住民に施しをしなければならなかった。
そして、問題はもう一つ…、アルビオン側から休戦の申し込みがあったのだ。
新年の数日前から降臨祭の終了までと言う事で、その期間は二週間ほど。
それだけの期間で何が出来るのか? と疑問に思うが、何が出来るか解らずとも時間など与えたくは無い。
更に付け加えれば、敵はアンリエッタ女王を捕らえているのだ。
連れ去った以上、殺すつもりは無いだろうが…正直どうなるか解らない。
一刻も早い救出が望まれるが、降臨祭の間はどんな戦も休戦するのが慣例だ。
結局、こちら側の兵糧の問題もあり、アルビオン側の申し込みを連合軍は受け、降臨祭の間は休戦する事となった。



青空に数多くの花火が撃ちあがる。ハルケギニア最大のお祭りである、降臨祭の始まりを告げる物だ。
今日から十日間ほど、連日飲めや歌えの大騒ぎが続く。
シティオブサウスゴータの市民はおろか、連合軍の兵士達も一緒に騒いでいた。
そんな街中の状況を冷やかな目で見つめている人物が一人居た。――ルイズだ。
「まったく…どいつもこいつも、恥ずかしくないのかしら…。
シティオブサウスゴータの人は敵を歓迎するし…、連合軍は戦争中だってのにバカ騒ぎして…。
だいたい、敵の所には姫さまが捕まっているのよ? …こんなバカ騒ぎしている暇なんて無いじゃないのよ…」
ブツブツと言いながら、ルイズは道に転がっていた紙コップを蹴り飛ばす。
そんな彼女の横にガンツが並んだ。彼も今は暇をもらっていたのだ。
「そんなにカリカリすること無いだろうが? ま、お前の気持ちは解らないでもないがよ…、そんなに思いつめんな」
ルイズはガンツを振り返らずに口を開く。
「なんでよ? 今は戦争中なのよ…、気を抜く事なんて許されないわ」
「姫さま…って奴の事が気になるのか?」
「そうよ…、アンリエッタ女王陛下…わたしが心を許せる、わたしを必要として、親友と言ってくれる大切な人」
ガンツは腕を組む。
「俺はその女王陛下に面識なんか無いからよ…、正直他人事にしか感じないがな。
なるほど…、それじゃ気が立っていてもしかたねぇな」
「そう言う事よ」
「だがよ…、そんなんじゃ命落とすだけだな。こう言った状況だからこそ、もっと気を落ち着けやがれ」
「…わたしにもバカ騒ぎをしろって言うの?」
ガンツは組んでいた手を解き、両手を広げて見せた。
「いや、勢いはそのままで構わねぇが、少しは状況を良く見据えろって事さ。
知り合いのお子ちゃまがよ、アンタと似たような状況になった時に、知り合いのオッサンがそんな言葉を言っていたぜ…」
ガンツの言葉にルイズはため息を吐いた。
「はぁ~、どうしてそんな風に楽観視が出来るのかしら?
あんたが居た所の亜人は皆そうなの?」
「さてな…」
ガンツはそう言って、それっきり黙る。ルイズは再度ため息を吐いた。
そこで、ルイズは辺りを見回し、ジャンガの姿を探す。
しかし見当たらない…、何処へ行ってしまったのだろうか?
その時、背後から声が掛けられた。
「ここに居たか、探したぞ」
「あ、アニエス?」
やって来たのはアニエスだった。銃士隊は近衛の隊だが、こう言った総力戦には参加するのが習いだった。

銃士隊が参加する事を知った時、総司令官のド・ポワチエは苦い表情をしていた。
規模こそ違えど、銃士隊の隊長は遠征軍を指揮する将軍と同格かそれ以上の官位なのだ。
何としても元帥になりたいド・ポワチエは、銃士隊の参加を快く思っていなかったのだ。
それは何も手柄を横取りにされる、と思っただけではない。
メイジではない平民に何が出来る、軍議の際に上座に座られては困る、などの軽視もあった。
結局はアンリエッタがいない為、臨時に政治の杖を振っているマリアンヌ太后やマザリーニ枢機卿の推薦もあり、
ド・ポワチエは渋々承諾をしたが、銃士隊に対する軽視は変わらなかった。
事実、出港直前の会議にはアニエスは参加していなかった。いや、できなかった。
ド・ポワチエの指示で補給物資の運搬の補助や監督などをさせられていたからだ。
だが、アニエスはそんな事は特に気にしてはいない。
彼女にとっては軍議に出るよりも、この戦に参加する事が出来ただけでも良かったのだ。
正直、手柄などどうでもいい。ポワチエが欲しがるなら好きなだけくれてやるつもりだった。
彼女の目的はただ一つ――自分の新たな心の拠り所であるアンリエッタ女王陛下の救出だけだった。

アニエスは簡潔にルイズに用件を伝える。
「総司令部からお前に呼び出しが掛かっている」
「わたしに? まだ休戦の最中なのに…」
少し考え、ルイズはアニエスに尋ねる。
「どんな用なの?」
「さて…、わたしには詳しい事は何一つ教えられて無いのでな」
「信用されて無いんだな?」
ガンツの言葉にアニエスは苦笑する。
「煙たがられていると言った方が正しい。…平民風情に何が出来る? それが総司令官の考えなのだ」
「へっ、どんな奴にもそれなりの長所が有るってのによ…、頭が固すぎだぜ。そんなんで司令官が務まるのか?」
「有能でない事は認めるがな…、とりあえず無能ではない事はこのシティオブサウスゴータの占領から解る」
侮蔑の色を隠しもしないでガンツとアニエスはそんな事を言ってのけた。
勿論、周囲に気取られないように小声だが。
そんな二人の会話にルイズは口を挟んだ。
「とにかく、呼び出しが掛かっているのね?」
「ああ、付いて来てくれ」
そう言ってアニエスはルイズを伴って歩き出そうとする。
しかし、ルイズはアニエスを呼び止めた。
「ちょっと待って。…使い魔が居ないのよ」
「あいつが? 一緒ではなかったのか」
「ちょっと目を離している間にいなくなっちゃったのよ。…ご主人様を放っておいて何処で遊び惚けてるのかしら?」

「いいじゃネェかよ…、祭りなんだしさァ。カリカリしすぎなテメェの方がバカなんじゃネェか?」

噂をすれば影…、とはよく言ったものだ。ルイズは大きくため息を吐き、後ろを振り返る。
「ジャンガ! あんた、何処へ行っていたのよ!? ご主人様をほったらかしにする…なんて……」
ルイズの声は徐々にトーンが下がっていった。

そこにはジャンガが立っていた。それは別に問題ではない。

彼の隣にはタバサが立っていた。それも大した問題ではない。

――問題なのは二人が持っている二つの瓶だ。

「あ、あんた…それって?」
ルイズはジャンガに詰め寄りながら、震える指先でジャンガが腕に抱えている瓶を指差した。
瓶は無色透明、中には一輪の花が咲いている。
その花の色は二つの瓶でそれぞれ異なっており、ジャンガの花はピンク色、タバサの花は青色をしている。
ジャンガは花の入った瓶を見る。
「ああ…、こいつか? そこら辺をブラついていたらよ…タバサ嬢ちゃんが来てな。この花を渡してきたんだよ」
「タバサ…?」
目付きを鋭くし、ルイズはジャンガとタバサを交互に睨む。
気にせずジャンガは話を続ける。
「それでタバサ嬢ちゃん…いきなり「誓いをして欲しい」何て言ってきてよ…。
最初何の事だか解らなかったがな、あまりにしつこく言ってくるんでよ…。
ま、面白そうだったから付き合ってやったんだ」
「…それで?」
「俺は”足手纏いにならない限り、テメェを片腕として認めてやる”って言った。
タバサ嬢ちゃんは”俺に認められてる限り、足手纏いには決してならない”って言いやがった。
そしたらよ…、この花が急に咲き初めてな。キキキ、面白い花だよな~?
聞いてみたらよ、これは誓いの証なんだとさ。で、俺にこっちの色の花を持っていてくれ…ってさ。
正直に言や、花なんかに興味は無かったがよ…。ま、別に持っておくのも悪くはネェよな、キキキ」
ジャンガの話を聞きながら、ルイズは身体を振るわせる。

エクレールダムールの花――二人の人間の絆を象徴し、互いの事が解るというマジックフラワー。
この花を持ち寄って誓いの言葉を言うと花は咲く。
それ故、結婚式に用いられる事も多く、カップルの間では人気の一品である。

ルイズは歯を噛み締める。ギリギリと音が鳴るほどに噛み締める。
自分が居ない間に…この使い魔は何をしているんだ? ご主人様を放っておいて…他人と誓いの言葉を交わす?
…別に結婚式でもなんでもないし、誓いと言ってもそれは当人同士の間の物だから、自分が口を挟む道理は無い。
だが……何故だか物凄く悔しい。
ルイズはチラリとタバサを見る。
タバサは相変わらずの無表情だった――が、その頬がほんのりと赤く染まっているのに気が付いた。
「は?」
呆然とするルイズに向かって、タバサは表情を崩さないまま右手を上げ、
「ぶい」と言いながらピースサインをして見せた。
ルイズの歯軋りが一層激しくなる。
こ、こここ、この小娘…、ひ、ひひ人の使い魔に、て、手を出して……何余裕ぶってるのかしら?
てか、こいつ使い魔よ? 亜人よ? 忘れ掛けてるかもしれないけど…あなた殺されかけたのよ?
そいつと誓いの言葉を交わすなんて…何考えてるのかしら?
ち、ちち、誓いの言葉…誓いの…誓いの…ち、ちちち、ちち、誓いの言葉をぉぉぉぉーーー!?
そこまで考えてルイズは顔を真っ赤にし、踵を返すとアニエスの方に歩いていく。
「行きましょう、アニエス」
「いいのか、彼を連れて行かなくて?」
「いいのよ! あんな猫! 優柔不断で自由奔放すぎるあんな奴に、この戦争の意味なんか解らないわ!
わたし一人で話は聞くわ! さ、案内してアニエス!」
「わ、解った」
ルイズの気迫に多少押されながらもアニエスは彼女を伴い、その場から歩き去っていった。

後に残されたジャンガは爪でポリポリと頬を掻く。
「何がそんなに癪に障ったんだ、あのクソガキ?」
「…少し調子に乗りすぎた」
タバサがポツリと呟いた。


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