息を切らせながら、男が走る。この先の広場で始まっているであろう、決闘を止めるために。
男、中村等は、日本の学校で教鞭を取る、ごく普通の教師だった。いや、生活態度はともかく、彼の
経歴は普通の一言では済ませられない。なにしろ彼は、世界を救ったヒーローなのだ。
狂気の科学者爆田博士の、ロボットを用いた世界征服の野望を打ち砕いた、超絶倫人ベラボーマン。
彼こそが、そのベラボーマンだった。
新田四丁目事件と呼ばれるこの事件の後、彼は勤めていた保険会社を辞め、教諭となった。
あの事件が夢の中の出来事だったかのように思える穏やかな日々。それが突如終わりを告げたのは、
つい昨日の事だった。
仕事を終え、帰宅するため自家用車に乗り込もうとした時、突然、銀色の鏡のようなものが運転席を
塞ぐように現れ、シートに腰掛けようとしていた彼は、避ける事もできずにその鏡に吸い込まれた。
目が覚めたときには、ルイズと言う少女の使い魔にされていたのだ。
魔法が支配する、見知らぬ世界。彼が少女の使い魔になるのを承諾したのは、この未知の世界で、
元の世界に戻る方途が見つかるまでの生活を保障されたからに過ぎなかった。当初は。
しかし、今は知ってしまった。ルイズと言う少女が、どれほどのプレッシャーとコンプレックスを、その
小さな体の内に抱え込んでいるのかを。
男、中村等は、日本の学校で教鞭を取る、ごく普通の教師だった。いや、生活態度はともかく、彼の
経歴は普通の一言では済ませられない。なにしろ彼は、世界を救ったヒーローなのだ。
狂気の科学者爆田博士の、ロボットを用いた世界征服の野望を打ち砕いた、超絶倫人ベラボーマン。
彼こそが、そのベラボーマンだった。
新田四丁目事件と呼ばれるこの事件の後、彼は勤めていた保険会社を辞め、教諭となった。
あの事件が夢の中の出来事だったかのように思える穏やかな日々。それが突如終わりを告げたのは、
つい昨日の事だった。
仕事を終え、帰宅するため自家用車に乗り込もうとした時、突然、銀色の鏡のようなものが運転席を
塞ぐように現れ、シートに腰掛けようとしていた彼は、避ける事もできずにその鏡に吸い込まれた。
目が覚めたときには、ルイズと言う少女の使い魔にされていたのだ。
魔法が支配する、見知らぬ世界。彼が少女の使い魔になるのを承諾したのは、この未知の世界で、
元の世界に戻る方途が見つかるまでの生活を保障されたからに過ぎなかった。当初は。
しかし、今は知ってしまった。ルイズと言う少女が、どれほどのプレッシャーとコンプレックスを、その
小さな体の内に抱え込んでいるのかを。
1スゥの力
「ルイズさん!」
人垣をかき分けて広場に出た中村は、呻いた。鎧を纏った女戦士の銅像が、ルイズにボディブローを
打ち込んでいる場面を見てしまったからだ。
「ルイズさん!」
再び名前を叫び、中村は崩れ落ちたルイズに駆け寄る。彼女の顔は、無惨に腫れ上がっていた。
「フン。何度も何度も立ち上がってくる根性は、見事だと誉めてあげるよ、ゼロのルイズ」
広場の反対側に立つ少年が、芝居がかった声を上げた。
ルイズの側にしゃがみ込んだ中村が、その少年に顔を向け、眼鏡の奥から睨む。
少年は、手に持った銅の造花を口元に引き寄せて続ける。
「けれどもね、もう諦めたらどうだい? メイドを庇った態度は、確かに平民を守る義務を負う貴族らしい
と言えるかも知れない。しかし、満足に魔法も使えない者を、貴族と呼べるかい?」
地面に横たわったままのルイズが、ぴくりと体を震わせた。
「それにね、みんなもう我慢の限界なのさ。君の爆発のとばっちりを被るのはね」
周囲の人垣から、少年の言葉に賛同するざわめきが起こる。
「これを機に、学院を去りたまえ。領地に篭って静かに暮らした方がいい。そうすれば、ヴァリエールの
名をこれ以上汚す事もないだろうさ」
そう言って、あはは、と軽やかな笑い声を立てる少年。
彼を睨んでいた中村は、うめき声を聞いてルイズに顔を向けた。
彼女は、泣いていた。腫れ上がった目から、止めどなく涙がこぼれていた。
少女の手が、土を抉ってきつく握られ、そして、力なく開かれた。
「……わたし……もう、ダメ……」
消え入りそうな呟きが、中村の耳に届いた。
中村は一度うつむき、そして決然とした表情で顔を上げると、静かにルイズに声を掛けた。
「ルイズさん。世の中は、裏切りに満ちています」
突然の言葉に、ルイズは目だけを動かして中村を見た。
人垣をかき分けて広場に出た中村は、呻いた。鎧を纏った女戦士の銅像が、ルイズにボディブローを
打ち込んでいる場面を見てしまったからだ。
「ルイズさん!」
再び名前を叫び、中村は崩れ落ちたルイズに駆け寄る。彼女の顔は、無惨に腫れ上がっていた。
「フン。何度も何度も立ち上がってくる根性は、見事だと誉めてあげるよ、ゼロのルイズ」
広場の反対側に立つ少年が、芝居がかった声を上げた。
ルイズの側にしゃがみ込んだ中村が、その少年に顔を向け、眼鏡の奥から睨む。
少年は、手に持った銅の造花を口元に引き寄せて続ける。
「けれどもね、もう諦めたらどうだい? メイドを庇った態度は、確かに平民を守る義務を負う貴族らしい
と言えるかも知れない。しかし、満足に魔法も使えない者を、貴族と呼べるかい?」
地面に横たわったままのルイズが、ぴくりと体を震わせた。
「それにね、みんなもう我慢の限界なのさ。君の爆発のとばっちりを被るのはね」
周囲の人垣から、少年の言葉に賛同するざわめきが起こる。
「これを機に、学院を去りたまえ。領地に篭って静かに暮らした方がいい。そうすれば、ヴァリエールの
名をこれ以上汚す事もないだろうさ」
そう言って、あはは、と軽やかな笑い声を立てる少年。
彼を睨んでいた中村は、うめき声を聞いてルイズに顔を向けた。
彼女は、泣いていた。腫れ上がった目から、止めどなく涙がこぼれていた。
少女の手が、土を抉ってきつく握られ、そして、力なく開かれた。
「……わたし……もう、ダメ……」
消え入りそうな呟きが、中村の耳に届いた。
中村は一度うつむき、そして決然とした表情で顔を上げると、静かにルイズに声を掛けた。
「ルイズさん。世の中は、裏切りに満ちています」
突然の言葉に、ルイズは目だけを動かして中村を見た。
「相手を出し抜くための足の引っ張り合い。自分だけが甘い汁を吸うための謀略、策略。一度社会に
出れば、それらの裏切りや騙し合いに、否応なく晒される事になる。友人と思っていた者が、次の日には
敵になる。そんな事は日常茶飯事です。」
眼鏡を指で押し上げ、彼は続ける。
「そんな中で、自分を守るために疑い深くなる事も必要でしょう。誰も信じられなくなる事もあるかも
知れない。ですが……ですが、それでも──」
中村の手が、優しくルイズの頬に置かれる。
「それでも、自分を信じる事だけはやめてはいけない! 絶対に、何があってもです!」
静かに、しかし力強く発せられたその言葉は、広場の隅々にまで響いた。
中村のまっすぐな目を避けるように、ルイズは顔をそらした。
「でも……わたし、何もできないもの……」
「できますよ」
ポケットからハンカチを取り出し、ルイズの涙を拭いながら、中村は続ける。
「あなたには、守るべき者を守れる力が備わっている」
笑顔を見せてそう言うと、中村は顔を上げて周囲の人垣に声をかけた。
「どなたか、銀貨をお持ちではありませんか? 一枚で結構です、譲っていただけませんか」
成り行きを見守っていた生徒たちは、互いに顔を見合わせた。ざわめきが広場に広がるが、中村の
呼びかけに応える生徒はいない。
誰も反応しない事に焦れたのか、ようやく、人垣の中から進み出る者がいた。肌の白い者の多い
中では、ひときわ異彩を放つ褐色の肌を持つ少女だった。彼女は、見事な赤い髪をさらりとかきあげると、
無造作にポケットに手を突っ込み、銀貨を取り出して中村に放った。
「キュルケさん、ありがとうございます」
中村の言葉に、手をひらひら振って応えるキュルケ。
彼女に頷き返して、中村はルイズに向き直った。少女の手を取り、銀貨を握らせる。そして、自分の手を
被せ、ルイズに語りかけた。
「この一枚の銀貨が、あなたの力を呼び覚ましてくれます。あなたの中に眠る、超変身物質の力を」
「チョウヘンシン……ブッシツ?」
中村は頷き、ルイズの手を2、3度軽く叩く。
「さあ、この手の中の銀貨と、あなたの中の力に意識を集中して。信じるんです。あなたの力を。そして、
銀貨が力を引き出してくれる事を」
ルイズはじっと中村を見つめた。眼鏡の奥の目は、眠りにつこうとする我が子を見るかのように優しい。
握られた手に、彼の温もりを感じた。
静かに、ルイズは目を閉じた。魔法の呪文を詠唱するときのように、精神を集中させる。
どれぐらい、そうしていたのか。彼女は、自分の中にリズムがうねっている事に気づいた。と同時に、
銀貨を握った手から、暖かい力が腕を登って来る。行き場を求めて波のようにうねるリズムと暖かい
力が同調した、と思ったその時、弾けるような衝動を感じて彼女は目を見開いた。
ルイズの体が、まばゆい光を放っていた。人垣がどよめく。
「銀の力が、わたしを変える……!」
彼女の声に呼応したかのように、目を開けていられない程の光が彼女から発せられた。
光が収まったとき、広場に、不思議な出で立ちの少女が立っていた。
赤と青のラインが印象的な桃色の流線型の兜、ゴーグルを付け、黒のマントの下には、兜と同じ
色使いの薄い鎧のようなような物を纏っている。何よりも特徴的なのは、その手足だ。白いグラブと
ブーツに先端を包まれた腕と脚は、赤いボールをいくつも繋げたようになっている。
広場に、驚きの声が上がった。なんだ、あれは。ルイズなのか、あいつは。
しかし、一番驚いているのは、ルイズ自身だった。
出れば、それらの裏切りや騙し合いに、否応なく晒される事になる。友人と思っていた者が、次の日には
敵になる。そんな事は日常茶飯事です。」
眼鏡を指で押し上げ、彼は続ける。
「そんな中で、自分を守るために疑い深くなる事も必要でしょう。誰も信じられなくなる事もあるかも
知れない。ですが……ですが、それでも──」
中村の手が、優しくルイズの頬に置かれる。
「それでも、自分を信じる事だけはやめてはいけない! 絶対に、何があってもです!」
静かに、しかし力強く発せられたその言葉は、広場の隅々にまで響いた。
中村のまっすぐな目を避けるように、ルイズは顔をそらした。
「でも……わたし、何もできないもの……」
「できますよ」
ポケットからハンカチを取り出し、ルイズの涙を拭いながら、中村は続ける。
「あなたには、守るべき者を守れる力が備わっている」
笑顔を見せてそう言うと、中村は顔を上げて周囲の人垣に声をかけた。
「どなたか、銀貨をお持ちではありませんか? 一枚で結構です、譲っていただけませんか」
成り行きを見守っていた生徒たちは、互いに顔を見合わせた。ざわめきが広場に広がるが、中村の
呼びかけに応える生徒はいない。
誰も反応しない事に焦れたのか、ようやく、人垣の中から進み出る者がいた。肌の白い者の多い
中では、ひときわ異彩を放つ褐色の肌を持つ少女だった。彼女は、見事な赤い髪をさらりとかきあげると、
無造作にポケットに手を突っ込み、銀貨を取り出して中村に放った。
「キュルケさん、ありがとうございます」
中村の言葉に、手をひらひら振って応えるキュルケ。
彼女に頷き返して、中村はルイズに向き直った。少女の手を取り、銀貨を握らせる。そして、自分の手を
被せ、ルイズに語りかけた。
「この一枚の銀貨が、あなたの力を呼び覚ましてくれます。あなたの中に眠る、超変身物質の力を」
「チョウヘンシン……ブッシツ?」
中村は頷き、ルイズの手を2、3度軽く叩く。
「さあ、この手の中の銀貨と、あなたの中の力に意識を集中して。信じるんです。あなたの力を。そして、
銀貨が力を引き出してくれる事を」
ルイズはじっと中村を見つめた。眼鏡の奥の目は、眠りにつこうとする我が子を見るかのように優しい。
握られた手に、彼の温もりを感じた。
静かに、ルイズは目を閉じた。魔法の呪文を詠唱するときのように、精神を集中させる。
どれぐらい、そうしていたのか。彼女は、自分の中にリズムがうねっている事に気づいた。と同時に、
銀貨を握った手から、暖かい力が腕を登って来る。行き場を求めて波のようにうねるリズムと暖かい
力が同調した、と思ったその時、弾けるような衝動を感じて彼女は目を見開いた。
ルイズの体が、まばゆい光を放っていた。人垣がどよめく。
「銀の力が、わたしを変える……!」
彼女の声に呼応したかのように、目を開けていられない程の光が彼女から発せられた。
光が収まったとき、広場に、不思議な出で立ちの少女が立っていた。
赤と青のラインが印象的な桃色の流線型の兜、ゴーグルを付け、黒のマントの下には、兜と同じ
色使いの薄い鎧のようなような物を纏っている。何よりも特徴的なのは、その手足だ。白いグラブと
ブーツに先端を包まれた腕と脚は、赤いボールをいくつも繋げたようになっている。
広場に、驚きの声が上がった。なんだ、あれは。ルイズなのか、あいつは。
しかし、一番驚いているのは、ルイズ自身だった。
「こ、これがわたし……?」
全身に目をやり、戸惑ったように言う。
「そう。これがあなたのもう一つの姿、超絶倫少女ベラボーガールです」
立ち上がった中村が、にっこりと笑って言った。彼は、ベラボーガールの肩に手を置くと、真顔に戻って
広場の反対側にいる少年に目を向けた。
「さあ、ベラボーガール。あの乱暴な少年に、少しお灸を据えてやりましょう」
それまで成り行きを呆然と見守っていた少年は、この言葉にはっとなった。苦々しげに顔を歪めて、
吐き出すように怒鳴る。
「妙ちきりんな鎧をつけただけでいい気になるなよ! 立ち上がった事を後悔させてやる!」
少年が造花を振ると、銅像が腕を振り上げた。
引きつれたような悲鳴をあげ、ベラボーガールが身を縮こまらせた。
その腹に、強烈なパンチが打ち込まれた。先ほどまでのルイズなら、軽く2、3メイルは吹き飛ばされ
そうな勢いの攻撃だった。しかしベラボーガールは、わずかによろめいただけでその拳を受けきった。
「なっ……!」
驚愕に声を上げる少年。一方のルイズも、驚いたように声を漏らした。
「痛く、ない?」
「くっ……やせ我慢だ!」
乱暴に造花を振り回す少年。それに応じ、銅像が狂ったように拳を乱打する。
しかしベラボーガールは動じない。それどころか、一撃受けるたびにその防御体勢は洗練されて行った。
腰を落として体を縮め、唯一むき出しになっている鼻から下を、両腕で覆う。
しゃにむに攻撃を続ける銅像だったが、その防御を打ち崩すことができず、反対に両拳が粉々に
砕け散ってしまった。
「今です、ベラボーガール! パンチを!」
その機を逃さず、中村が鋭い声を飛ばす。
「え、えーい!」
ベラボーガールの大振りのパンチが、銅像の胸に当たった。すると、銅像は激しい音を立ててひしゃげ、
地面に転がって動かなくなった。
「そ、そんな!」
「すごい……」
少年とベラボーガールが、同時に驚きの声を上げる。
周囲の生徒たちも声を上げた。中には、少年に対して野次を飛ばすものも居る。
そのぶしつけな言葉に、少年の顔が紅潮した。
「もう容赦はしない!」
そう言って少年が造花を振ると、そこから花びらが地面に散った。すると、地面から生えるようにして、
六体の銅像が現れた。そられの銅像は、みな手に剣や槍を持っている。
「ルイズ、謝るなら今のうちだよ? 僕としても、級友を切り裂くような真似はしたくないからね」
鋭利な切っ先を向けられて、さすがのベラボーガールも怯んだように後ずさった。
「謝る必要はありませんよ、ベラボーガール」
彼女が振り返ると、中村が腰に手を当てて笑顔を見せていた。
「ナカムラ……」
「あなたなら、ここから一歩も動かずに、あの銅像を全て倒すこともできます。そうですねぇ……」
彼は銅像に目をやると、顎に手を当てて少し考える素振りをした。そして右端の銅像を指差すと、
「まずは、右端を狙ってみましょうか。あの銅像めがけて、パンチを打ってみて下さい」
「こ、ここから?」
ベラボーガールは、戸惑ったように声を上げた。
全身に目をやり、戸惑ったように言う。
「そう。これがあなたのもう一つの姿、超絶倫少女ベラボーガールです」
立ち上がった中村が、にっこりと笑って言った。彼は、ベラボーガールの肩に手を置くと、真顔に戻って
広場の反対側にいる少年に目を向けた。
「さあ、ベラボーガール。あの乱暴な少年に、少しお灸を据えてやりましょう」
それまで成り行きを呆然と見守っていた少年は、この言葉にはっとなった。苦々しげに顔を歪めて、
吐き出すように怒鳴る。
「妙ちきりんな鎧をつけただけでいい気になるなよ! 立ち上がった事を後悔させてやる!」
少年が造花を振ると、銅像が腕を振り上げた。
引きつれたような悲鳴をあげ、ベラボーガールが身を縮こまらせた。
その腹に、強烈なパンチが打ち込まれた。先ほどまでのルイズなら、軽く2、3メイルは吹き飛ばされ
そうな勢いの攻撃だった。しかしベラボーガールは、わずかによろめいただけでその拳を受けきった。
「なっ……!」
驚愕に声を上げる少年。一方のルイズも、驚いたように声を漏らした。
「痛く、ない?」
「くっ……やせ我慢だ!」
乱暴に造花を振り回す少年。それに応じ、銅像が狂ったように拳を乱打する。
しかしベラボーガールは動じない。それどころか、一撃受けるたびにその防御体勢は洗練されて行った。
腰を落として体を縮め、唯一むき出しになっている鼻から下を、両腕で覆う。
しゃにむに攻撃を続ける銅像だったが、その防御を打ち崩すことができず、反対に両拳が粉々に
砕け散ってしまった。
「今です、ベラボーガール! パンチを!」
その機を逃さず、中村が鋭い声を飛ばす。
「え、えーい!」
ベラボーガールの大振りのパンチが、銅像の胸に当たった。すると、銅像は激しい音を立ててひしゃげ、
地面に転がって動かなくなった。
「そ、そんな!」
「すごい……」
少年とベラボーガールが、同時に驚きの声を上げる。
周囲の生徒たちも声を上げた。中には、少年に対して野次を飛ばすものも居る。
そのぶしつけな言葉に、少年の顔が紅潮した。
「もう容赦はしない!」
そう言って少年が造花を振ると、そこから花びらが地面に散った。すると、地面から生えるようにして、
六体の銅像が現れた。そられの銅像は、みな手に剣や槍を持っている。
「ルイズ、謝るなら今のうちだよ? 僕としても、級友を切り裂くような真似はしたくないからね」
鋭利な切っ先を向けられて、さすがのベラボーガールも怯んだように後ずさった。
「謝る必要はありませんよ、ベラボーガール」
彼女が振り返ると、中村が腰に手を当てて笑顔を見せていた。
「ナカムラ……」
「あなたなら、ここから一歩も動かずに、あの銅像を全て倒すこともできます。そうですねぇ……」
彼は銅像に目をやると、顎に手を当てて少し考える素振りをした。そして右端の銅像を指差すと、
「まずは、右端を狙ってみましょうか。あの銅像めがけて、パンチを打ってみて下さい」
「こ、ここから?」
ベラボーガールは、戸惑ったように声を上げた。
新たに現れた銅像までの距離は、ゆうに10メイルはある。到底、攻撃が届く距離ではない。
「大丈夫。私を、何よりも自分を信じて」
安心させるように、にっこりと笑う中村。
普通ならば、そんな話は信じられないだろう。魔法ではない、ただのパンチが、10メイル先の敵を
どうにかできるなど。
しかし、ベラボーガールは心を決めた。絶望のどん詰まりに蹲っていた自分に、新たな道を示して
くれた、彼を信じようと。
口を真一文字に結び、銅像に向き直った。片足を上げ、右腕を振りかぶる。そして、大きく踏み込んで
腕を力いっぱい突き出した。
「えーいっ!」
気合の掛け声とともに突き出された腕は、弾丸のような速さで10メイル伸び、狙った銅像をスクラップに
した。
「な、なんだってー!!」
それまでで一番の驚きの声が、少年と人垣から上がった。それは、ベラボーガールも同じだった。
「うえぇ、何これぇっ!」
思わず、と言った感じで手を引っ込めたベラボーガール。すると、文字通りに伸びた腕が弾丸のような
速さで縮み、元の長さに戻った。
「どうです、すごいでしょう? これがベラボーの力です」
「あ、あのねえ! こういうことになるって、最初に言ってよ! びっくりするじゃない!」
ベラボーガールがそう抗議すると、中村は笑って頭をかきながら言った。
「いやぁ、実はそのリアクションをちょっと期待してました」
むっとして、ベラボーガールが彼の腹を軽く小突く。
「あ痛ぁー!」
腹を押さえて身をよじる中村を尻目に、ベラボーガールは少年に向き直った。
「まあ、いいわ。これであいつをやっつけてやる」
「くっ……調子に乗るなぁっ!」
叫んで、少年が造花を振る。すると、1体を護衛に残して、他の4体が猛然とダッシュした。
「えーい!」
ベラボーガールのパンチが飛び、走ってくる1体が砕けた。残るは3体。距離は8メイル。
「えーい!」
銅像が2体に減った。距離は5メイル。
「えーい!」
「甘いっ!」
少年が造花を振り、残る2体を左右に散開させる。パンチは、2体の真ん中を抜けて行った。散開した
銅像は、そのままルイズの横に走りこんで槍を構えた。距離はそれぞれ3メイル。
「挟み撃ちだ!」
少年が勝ち誇ったように叫んだ。
「くっ……!」
ベラボーガールが、初めて焦った顔になる。
どちらかを攻撃しても、次の攻撃に移る前に槍を受けてしまう。どうする。この鎧は、槍の一突きに耐え
られるか。一撃耐えられれば──。
そこまで考えたとき、ふと、ベラボーガールの脳裏に閃くものがあった。だが、彼女は迷った。
上手くいくだろうか。もし失敗すれば、2体から攻撃を受けてしまう。
「これで終わりだ! さよなら、ゼロのルイズ!」
少年が造花を振り下ろした。
「大丈夫。私を、何よりも自分を信じて」
安心させるように、にっこりと笑う中村。
普通ならば、そんな話は信じられないだろう。魔法ではない、ただのパンチが、10メイル先の敵を
どうにかできるなど。
しかし、ベラボーガールは心を決めた。絶望のどん詰まりに蹲っていた自分に、新たな道を示して
くれた、彼を信じようと。
口を真一文字に結び、銅像に向き直った。片足を上げ、右腕を振りかぶる。そして、大きく踏み込んで
腕を力いっぱい突き出した。
「えーいっ!」
気合の掛け声とともに突き出された腕は、弾丸のような速さで10メイル伸び、狙った銅像をスクラップに
した。
「な、なんだってー!!」
それまでで一番の驚きの声が、少年と人垣から上がった。それは、ベラボーガールも同じだった。
「うえぇ、何これぇっ!」
思わず、と言った感じで手を引っ込めたベラボーガール。すると、文字通りに伸びた腕が弾丸のような
速さで縮み、元の長さに戻った。
「どうです、すごいでしょう? これがベラボーの力です」
「あ、あのねえ! こういうことになるって、最初に言ってよ! びっくりするじゃない!」
ベラボーガールがそう抗議すると、中村は笑って頭をかきながら言った。
「いやぁ、実はそのリアクションをちょっと期待してました」
むっとして、ベラボーガールが彼の腹を軽く小突く。
「あ痛ぁー!」
腹を押さえて身をよじる中村を尻目に、ベラボーガールは少年に向き直った。
「まあ、いいわ。これであいつをやっつけてやる」
「くっ……調子に乗るなぁっ!」
叫んで、少年が造花を振る。すると、1体を護衛に残して、他の4体が猛然とダッシュした。
「えーい!」
ベラボーガールのパンチが飛び、走ってくる1体が砕けた。残るは3体。距離は8メイル。
「えーい!」
銅像が2体に減った。距離は5メイル。
「えーい!」
「甘いっ!」
少年が造花を振り、残る2体を左右に散開させる。パンチは、2体の真ん中を抜けて行った。散開した
銅像は、そのままルイズの横に走りこんで槍を構えた。距離はそれぞれ3メイル。
「挟み撃ちだ!」
少年が勝ち誇ったように叫んだ。
「くっ……!」
ベラボーガールが、初めて焦った顔になる。
どちらかを攻撃しても、次の攻撃に移る前に槍を受けてしまう。どうする。この鎧は、槍の一突きに耐え
られるか。一撃耐えられれば──。
そこまで考えたとき、ふと、ベラボーガールの脳裏に閃くものがあった。だが、彼女は迷った。
上手くいくだろうか。もし失敗すれば、2体から攻撃を受けてしまう。
「これで終わりだ! さよなら、ゼロのルイズ!」
少年が造花を振り下ろした。
その瞬間、ベラボーガールは決然とした顔で叫んだ。
「できる! わたしならできる!」
その場で軽く飛び上がると、彼女は足を左右に大きく広げた。
「えーい、開脚キィーック!!」
ベラボーガールの両脚が伸び、槍を掠めて銅像の胸を蹴り飛ばした。
「なぁっ!」
少年の驚きをよそに、しなやかに着地したベラボーガールは、間髪を入れずにパンチを繰り出した。
そのパンチは、護衛に回っていた銅像を貫き、少年の眼前数サントの所で止まった。
冷や汗を垂らしながら、少年が数歩後ずさりする。やがて、かみ締めた歯の間から搾り出すように、
「おぼえてろよ!」
そう言うと、脱兎のごとく駆け出して広場を出て行った。
腕を戻し、ベラボーガールは無言で、少年の逃げ去った方向を見つめる。広場に、奇妙な静寂が
広がった。
その静寂を割って、拍手が聞こえた。
ベラボーガールが振り返ると、中村が笑顔で手を叩いていた。
「ナカムラ……」
その呟きに呼応したように、人垣から拍手が聞こえた。キュルケだった。呆れたような顔だったが、
彼女の口元には、確かに笑みが浮かんでいる。
さらに、彼女のそばに居た、青い髪の小さな女の子も、控えめな拍手を始めた。
やがて、ざわめきのように拍手の波が広場に広がっていき、大歓声となった。
ベラボー、ルイズ! ベラボー! ベラボーガール、ベラボー!
突然浴びせられた大歓声に、ベラボーガールは戸惑って広場を見渡す。やがて、彼女の胸のうちに
喜びが湧き上がり、あふれ出した。
彼女は、生粋のトリステイン貴族らしく芝居がかった仕草で見栄を切ると、高らかに宣言した。
「できる! わたしならできる!」
その場で軽く飛び上がると、彼女は足を左右に大きく広げた。
「えーい、開脚キィーック!!」
ベラボーガールの両脚が伸び、槍を掠めて銅像の胸を蹴り飛ばした。
「なぁっ!」
少年の驚きをよそに、しなやかに着地したベラボーガールは、間髪を入れずにパンチを繰り出した。
そのパンチは、護衛に回っていた銅像を貫き、少年の眼前数サントの所で止まった。
冷や汗を垂らしながら、少年が数歩後ずさりする。やがて、かみ締めた歯の間から搾り出すように、
「おぼえてろよ!」
そう言うと、脱兎のごとく駆け出して広場を出て行った。
腕を戻し、ベラボーガールは無言で、少年の逃げ去った方向を見つめる。広場に、奇妙な静寂が
広がった。
その静寂を割って、拍手が聞こえた。
ベラボーガールが振り返ると、中村が笑顔で手を叩いていた。
「ナカムラ……」
その呟きに呼応したように、人垣から拍手が聞こえた。キュルケだった。呆れたような顔だったが、
彼女の口元には、確かに笑みが浮かんでいる。
さらに、彼女のそばに居た、青い髪の小さな女の子も、控えめな拍手を始めた。
やがて、ざわめきのように拍手の波が広場に広がっていき、大歓声となった。
ベラボー、ルイズ! ベラボー! ベラボーガール、ベラボー!
突然浴びせられた大歓声に、ベラボーガールは戸惑って広場を見渡す。やがて、彼女の胸のうちに
喜びが湧き上がり、あふれ出した。
彼女は、生粋のトリステイン貴族らしく芝居がかった仕草で見栄を切ると、高らかに宣言した。
「ベラボー参上!!」
ベラボーガール ベラボーガール
進め! 城を越えて 走れ! 空を海を
目指せ! 地平線へ 戦え! 明日のために
今、呼んでいる声人々が 銀の力がわたしを変えてゆく
ハルケギニアを またにかけながら
さあ、行くぞ! 平和のため
倒せ! 進め! 悪を! 砕け!
ベラボーガール ベラボーガール
ベラボーガール
進め! 城を越えて 走れ! 空を海を
目指せ! 地平線へ 戦え! 明日のために
今、呼んでいる声人々が 銀の力がわたしを変えてゆく
ハルケギニアを またにかけながら
さあ、行くぞ! 平和のため
倒せ! 進め! 悪を! 砕け!
ベラボーガール ベラボーガール
ベラボーガール
「ちなみに、手足だけでなく、首も伸びますよ」
「……それは遠慮しておくわ」
「……それは遠慮しておくわ」
おわり
「超絶倫人ベラボーマン」から「中村等(ベラボーマン)」を召喚。