あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと世界の破壊者-06

第6話「平和な日」


 士がギーシュと決闘してから、およそ一週間が経過した。
 あの日から特に大きな事件もなく、ルイズは平穏無事な日常を過ごしていた。
 ただその日常とは、それ以前のものとは幾分か違ったものだったが、日が経つに連れルイズはその新たな日常にもいつしか慣れつつあった。

 まず、あの日以降、ルイズはゼロと呼ばれる事が極端に少なくなった。
 『メイジの力を見るならその使い魔を見ろ』と言う言葉がある。ルイズの使い魔とは、すなわち『仮面ライダーディケイド』こと門矢士。
 その力は決闘の時に多くの生徒が目の当たりにし、そして彼らに衝撃を与えた。
 メイジを倒す平民、それを召喚したルイズ、その事実はルイズの評価を一変させたのである。

 あれから士は使い魔としての仕事もちゃんとやってくれるようになった。
 やっぱり朝起こすのと身だしなみ関係は夏海が代行してくれたが、それ以外の仕事は士がやってくれている。
「それがこの世界での俺の役割、みたいだからな」
 と、士談。
 少し引っ掛かる言い方だが、まぁ使い魔としてちゃんと働いてくれてるから良いだろう、とルイズは思っていた。

「おはよう、ダーリン♪」
 朝の身支度が終わって部屋の外に出ると、そこには何故かいつもルイズの宿敵キュルケが待ち構えていた。
「…お、おはよう、キュルケ」
 顔を引きつらせつつルイズは挨拶を返す。
 あの日以降、これもまた日常となりつつある光景だった。ルイズとしてはあまり歓迎したくないものだが。
「あら?ルイズもいたの?」
 白々しい。
 ここはルイズの部屋で、そもそも最初に部屋から出たのもルイズなのだから、ルイズの存在に気付かぬわけが無い。気付いてるくせに敢えて無視してルイズの神経を逆撫でしているのだ。
 そしてその思惑通り、ルイズは苛立ちを覚えるのだった。
「…当たり前でしょう、ここは私の部屋なんだから…」
 それでも何とか感情を爆発させぬようこの場はグッと堪える。
「ねぇダーリン、ルイズの所が嫌になったらいつでもあたしの所に来てくれて良いんだからね♪」
 キュルケは相変わらずルイズを無視して士の隣に移動し、その腕にしがみつく。
「フ、人気者は辛いな」
「おい!」
 思わずルイズがツッコミを入れる。
 ここに夏海がいてくれたら『笑いのツボ』で士にお仕置きしてくれるんだけど、残念ながら今は洗濯物を持って写真館に戻ってしまった後だ。
 キュルケもそれを考慮してこの時間に待ち構えているのだろう。
(…ナツミに教えてもらおうかしら…『笑いのツボ』…)
 ルイズは自分の親指を見ながらそう考えるのだった。
 ルイズ、士、キュルケの3人が集まっている所に、更に最近はタバサも自発的にその輪に加わってくる事が多い。
「あら、タバサ」
 先にキュルケが気付き、二人がそれに倣ってタバサの方を向く。
「なんだ、またライダーの話を聞きたいのか?」
 タバサはこくりと頷く。タバサが士に近付く理由、それは『仮面ライダー』の話を聞くためである。
「またぁ?タバサも懲りないわねぇ、あんなお伽噺」
「そんな事は無い。なかなか興味深い」
 キュルケからしたら『仮面ライダー』の話はあまりに現実離れし過ぎていて、それこそお伽噺のような世界としか捉えられなかった。
 ルイズも同様なのだが、実際に『仮面ライダー』は目の前にいるし、士がただの道楽であんな話するとは思えなかった。
 あれは確か———決闘の日の翌々日の虚無の曜日。


 決闘で受けた傷により安静にと言い渡されたルイズは外出する事も敵わず、仕方無く光写真館を訪れていた。
 そこでいつもの如くコーヒーを飲んでいたのだが、何の話がきっかけか、いつの間にかただの雑談が士達の知る『仮面ライダー』の話にシフトしていた。

 曰く、士達は滅びに瀕した夏海の世界を救うため、9つの世界を巡る旅を始める事になった。
 9つの世界は見た目こそ夏海の世界とそう変わらないが、それぞれの世界にはそれぞれ違ったライダーが存在し、色々な理由で戦いを繰り広げていたと言う。
 そうして巡った9つの世界、士は失っていた力を取り戻してその使命を果たした…筈が、何故かこのハルケギニアに飛ばされてルイズの使い魔になってしまった、と言う事らしい。

「ふぅん…で、士はその9つの世界のライダーの力が使えるんだ…」
 ルイズは士から借りた9枚のカードを眺めながら感慨深げに呟いた。
 カードには1枚ずつ別々の仮面ライダーの顔が描かれている。中には決闘の時に見せた『龍騎』のカードもあった。
「…それで、ユウスケは『クウガ』なのね」
 ルイズはカードの中から『KUUGA』のカードを引き抜いてユウスケと並べた。
「その通り!」
 ユウスケは士達が最初に訪れた世界で戦っていた仮面ライダー『クウガ』で、士達と一緒にその世界を滅びから救った事が縁で旅に同行する事になったらしい。
「…ツカサが『クウガ』の力を使えるのに、ユウスケがいる意味あるの?」
 ルイズは率直な感想を言った。
 ぐさり、何かがユウスケの胸を貫いた。
「そ、そんな事無いよ!俺と士は最っ高のチームなんだ!いざって時は俺のクウガと士のディケイドの絶妙なコンビネーションで悪い奴をやっつける!だよな、士!」
「…そういやお前、クウガの世界以降まともに戦ってないよな」
 ざくっ、士の言葉が更にユウスケの胸を抉る。
「そ、そんな事無いぞ!キバの世界じゃワタルを助けるために変身したし!響鬼の世界でも魔化魍と戦ったし…!」
「即返り討ちにあったけど、か?」
「う、…アギトの世界じゃお前やショウイチさんと3人で戦ったじゃないか!」
「ま、あれはG3−Xだったけどな。…そう言えば電王の世界じゃ大活躍だったな」
 そう言いながら士はほくそ笑む。すると何故かユウスケはお尻を押さえた。
「あ、あんなのは大活躍って言わないんだよ…!」
 なんだかルイズにはよく判らない会話が繰り広げられて、しかも空気が微妙に悪くなってきた。
 仕方無く話題を変えようと、ルイズはカードの束から『KIVA』のカードを引き抜いてそれをキバーラと並べた。
「キバーラの一族は人間を仮面ライダー…『キバ』に変身させる能力を持ってるのね」
「えぇ。でも私にはそう言うの出来ないんだけどねぇ」
 『キバ』に変身させられる能力を持つのはキバット族の中でも名門『キバットバット家』の一族のみ。キバーラの代で言えばその兄である『キバットバット3世』がそれに当たる。
「そうなの?それじゃあ、アンタは何が出来るの?」
「ウフフ、それはヒミツよ♪」
「何よそれ、教えてくれても良いじゃない」
「フフ♪オンナはねぇ、よりミステリアスな方がオトコには魅力的に映るのよ♪ルイズちゃんもオンナノコなら覚えておいた方が良いわよ?」
「…いや、コウモリのアンタに女の魅力とか語られても説得力ないから…」
「あら、この私の美貌が判らないなんて、ルイズちゃんもまだまだ子供ねぇ」
 だから子供とかそれ以前の問題だってツッコもうと思ったが、キリが無さそうなんで止めた。
 それにしてもこのキバーラ、言い回しがどことなくあのキュルケに似てるなぁとルイズは思った。


 とまぁそんな後半部分は省くとして、そんな感じの話を後日タバサと、タバサにくっ付いて来たキュルケも聞く事になって今に至る。
 キュルケはそうでもないがタバサの方は何故か『仮面ライダー』に興味を持ったらしく、また士に惚れたと言うキュルケも相成って、ここ最近はルイズ、士、キュルケ、タバサの4人で行動する事が多い。そこに時々夏海やユウスケも加わる。

「それじゃあ、また後でな」
 そう言って士は本塔へと続く渡り廊下でルイズ達と一旦別れる。
 士は基本的に食事は写真館の方で取っているのだ。
「ツカサってばいっつもあっちで食事するわよねぇ」
「床で食べるのはごめんだ、だそうよ」
 『アルヴィーズの食堂』は貴族の食卓、普通平民はそこで食事出来ないのだが、ルイズの特別な計らいでその使い魔の士はそこで食事して良い事になった。が、士は床に置かれた皿を見て1秒足らずで踵を返した。
 それ以降士は食堂には足を運ばず写真館で食事をし、授業前にルイズと合流する、と言う形式を取っている。
「まぁ、平民でも床で食事する人間もそういないわよね」
「そんな事言っても、これは食堂の規則なんだから仕方無いでしょ」
「その規則破って決闘したその口が言うの?」
「む」
 ルイズは顔を顰めた。
「それに比べたら平民を食堂で食事させるくらい、どーって事ないんじゃない?」
「そう言うワケにはいかないわよ!ツカサは平民!貴族が平民と同じ卓で食事するわけにはいかないでしょう!」
「相変わらずお堅い事で。でも惜しいわねぇ、ゲルマニアならツカサの実力で貴族になるなんて容易いのに」
「そんなんだからゲルマニアは野蛮なのよ」
「黴の生えた伝統に拘って国力弱めてるトリステインが言えた義理じゃないわよ」
「なんですってぇ!!?」
「何よ!」
 バチバチバチ、と二人は脇目も振らずに火花を散らせる。
「…あのぅ…ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー……」
 そんな二人に脇から怖ず怖ずと声をかける黒髪のメイド少女。
 ルイズとキュルケは同時にそちらを振り向く。
「あら?シエスタじゃない」
「どうしたの?こんな所で」
「ど、どうしたもこうしたも、ここは…」
 と、ルイズとキュルケはそこで初めて自分達が何処にいるのか場所に気付く。
「食堂、なんですけど…」
「あら、全然気付かなかったわ」
 どうやら口喧嘩に夢中で、とっくに食堂に到着していた事に気付かなかったようだ。
 因みにさっきまで一緒だった筈のタバサは二人を置いて先に行ったようで、付近には見当たらなかった。
 自分達が周囲から好機の的に晒されてる事に気が付き、ルイズの頬にさっと赤みが差す。
「もう、アンタがつまらない事ウダウダ言うから要らぬ恥掻いちゃったじゃない!」
「あたしの所為?あんたがつまらない意地を張り通すのが悪いんじゃない」
「私は貴族として当然の事を言ったまでよ!」
「あたしだってただツカサの待遇の改善を要求したまでよ。このままだといずれまたツカサに愛想尽かされちゃうわよ?ま、私にとってはむしろ願ったりだけどね!」
「ぬぁんですってえええ!!!?」
 そうして再びバチバチバチと二人の間で激しく火花が散る。
「ミ、ミス・ヴァリエールも、ミス・ツェルプストーも落ち着いてくださいぃ〜」
 慌ててシエスタが二人を宥めに入る。今この場面で二人の間に入れるのはシエスタだけしかいなかった。
 しかしながらここまで腹を割って口喧嘩出来る間柄、なんだかんだ言いながらこの二人って、本当は凄く仲が良いんじゃないだろうか、とシエスタは思った。
 思っただけで、決して口にはしない。きっと二人は絶対に認めようとしないだろうから。


 一方その頃の光写真館。
「さあ皆さん、朝ご飯の準備が出来ましたよぉ〜」
 栄次郎の呼びかけに応じて各面々が食卓へと集まり出す。
「ユウスケぇ、かぷぅってして良〜い?」
「だから人の血を狙うなって」
 周りを飛ぶキバーラをやんわりと突っぱねながら卓に座るユウスケ。
 一時的にルイズの下から戻って来た士や、ルイズの洗濯物を洗濯機に放り込んだ夏海も卓に着く。
「それではみんな揃った所で、いただきますか」
「いただきます!」
 そうして手を合わせてから一同は朝食を食べ始める。
「士くん、最近はどうですか?」
 食事中、夏海が不意に尋ねた。
「どうって?」
「ルイズちゃんの使い魔生活の事です。最近じゃすっかりルイズちゃんの言う事も聞くようになってるみたいじゃないですか」
「どうもこうも、いつもいつもあいつの我が侭に付き合わされてばかりだ。俺は使い魔にはなってやったが、召使いになった覚えは無い」
 掃除に洗濯(これは夏海担当だが)、その他身の回りの雑用諸々、士は事ある毎にルイズに扱き使われていた。
「でも、最近じゃ全部ちゃんとやってるじゃないか?」
「…まぁ、それがこの世界での俺の役割、みたいだからな」
 そう言って士は盛りつけられたサラダの葉を一枚、口に運んだ。
 すると一瞬士の動きが止まったかと思うと、その顔がみるみる歪み、慌てて席を立ってそのまま流し台に直行した。
「ちょっと士くん!食事中にばっちいですよ!」
 夏海の非難を無視して士は流し台で何度もうがいをする。
「まったく、好き嫌いが過ぎるぞ、士。こんな葉っぱがなんだって言うんだ」
 と言ってユウスケもサラダの葉っぱを一枚口に運ぶ。
 が、ユウスケもまたみるみると顔を歪ませ、士と同じように流し台に走った。
「…な、なんなんだこの葉っぱ!?苦いにも程があるぞ!」
「あぁ、これは今朝マルトーさんから貰ったはしばみ草って言うこの世界の野菜だよ。確かに苦いけど、とっても栄養があるんだって」
「マルトーって…あの暑苦しい親父か…」
 士は以前厨房で出会った肉付きの良いコック長のおっさんを思い出した。
「何でも『いけ好かない貴族をやっつけた我等の英雄にいっぱい食べさせてくれ!』って、色んな食材をたくさん貰ったんだよ」
「英雄…か」
 その響きの良さに士はほくそ笑んだ。
「子供相手にディケイドに変身する人の何処が英雄ですか」
 そんな得意になっている士を夏海は突っぱねる。
 夏海としてはたとえ相手が魔法使いでも子供に対してディケイドに変身した士の事を許容しかねていた。
「…だが、はしばみ草とか言うのはダメだな。食えたもんじゃない」
 言いながら士は自分の椅子に戻って、目の前のはしばみ草のサラダを皿ごと押し退けた。
「何だい。おいしいのに…」
 栄次郎は士が押し退けた皿を受け取るとその葉っぱを口に運んだ。
 一瞬苦みで顔を歪ませたが、
「この苦みがたまらない!」
 と、更にもう一枚口に運ぶ。
「…でも、そうか。それで最近パン食が増えてるんだな」
 うがいして口の中の苦みから解放されたユウスケが言った。
 ここ最近、写真館では米よりもパン食の頻度が高くなっていた。今朝も勿論パン。自然とおかずも洋食に傾きがちになる。
「うちのお米ももう残り少なくなってきましたからね…それに、この世界じゃお米はあまり食べられてないみたいですから」
「食材もここの厨房からの貰いもの、種類もこの世界寄りになるってわけか」
 この世界を訪れてからもう11日、既にこれまでの世界と比べても最長の滞在期間だ。しかしまだこの世界でのはっきりとした目的が見えない。
 あとどれくらいこの世界に滞在する事になるか判らないが、いずれ写真館に備蓄された食料も尽きてしまう。
「それでですね、いつまでもこちらに頼り切るのもいけないと思いましてね、お金を稼ぐためにもお店を開こうと思うんです」
「店?」
「お店って言うと、もしかして写真館を開くんですか?」
「そう、ユウスケくん正解です」
 と言って栄次郎はユウスケの前にはしばみ草のサラダを差し出す。正解したご褒美、のつもりだろうか。ユウスケは渋い顔をする。
「店開くにしても、色々と必要になってくるだろ。フイルムとか感光剤とか現像液とか…」
 特にその辺の消耗品は店を開くとなると多数必要となる。が、この世界にはそもそも写真機と言う技術自体が流通していない。無論、フイルムも感光剤もその他消耗品もその辺で買えるとは考えられない。
「その辺なら大丈夫です。コルベール先生が魔法で作れるって言ってましたから」
「…つくづく便利だな、魔法ってやつは…」
 士は苦笑いを浮かべつつ、ロールパンを一つ噛みちぎった。
「でもこの世界には写真が存在してないみたいだから、きっと大人気間違い無しだ!」
 と言うユウスケの言葉に、士の耳がぴくりと反応する。
「…なら、俺も久しぶりに店を構えてみるかな」
「士くん、そんな事言ってまたうちを代理店扱いする気じゃないでしょうね?」
 士の提言に異を唱える夏海。もと居た世界で士がこの写真館を代理店扱いした事で、ここがどれだけの迷惑を被った事か。
「何を言う。この機会に溜め込んだ借金を全部、それも色をつけて返してやるって言ってるんだ」
「そう言う事はご自分の写真の腕を考えてから言ってください!…この世界でも、士くんの写真はピンぼけばっかりじゃないですか」
 士がこの世界に来てから撮った写真も、ピンぼけだったり空間がねじ曲がったり謎の光が差し込んだりと、依然としてまともに写った写真は1枚も無い。
 それは、それまで写真を見た事が無かったルイズでさえも苦笑せざるを得ない出来であった。
「文句なら、俺に撮られたがらないこの世界に言え」
 士は不貞腐れる。その言い訳も聞くのは何度目だろうか。
「ま、士は大人しく栄次郎さんの手伝いをしてればいいよ。あんな写真じゃ商売どころか借金増やすのがオチだ」
「…フン」
 すると士はユウスケの皿に乗っていたソーセージをさっと掠め取ると、あっと言う間もなく自分の口へと運び込んだ。
「あぁ!!…最後に取って置いたのにぃ〜〜!!」
「手伝うんならお前が手伝ったらどうなんだ?お前だって居候は同じだろう」
「お前だって同じ居候だろっ!!」
 ならばとユウスケは士の皿のソーセージを狙うが、士はひょいと自分の皿を持ち上げて、ユウスケの悔しがる表情を横目にソーセージを頬張った。
「生憎俺はルイズの使い魔をやらなきゃならないからな、この店を手伝ってる暇は無い。…ま、ルイズのクラスメイト相手に商売するくらいの暇はあるがな」
「使い魔って、毎日毎日女の子に囲まれて……羨ましいぞっ!士!」
「ユウスケ…」
 夏海とキバーラの冷たい視線がユウスケに注ぐ。
「…士くんも、都合が悪くなるとルイズちゃんを出汁にするの、やめてください」
「だが、あいつの使い魔をやる事が俺のこの世界での役割みたいだからな。この世界で俺がやらなきゃいけない事が判らない以上、そうするしかないだろう」
 と言って、士はプチトマトを口の中に放り込む。
「…そもそも、ここって本当に俺達が訪れるべき世界なのかな?ほら、ルイズちゃんのあの何とかって魔法」
「サモン・サーヴァントか?」
「そう、それ!それで間違ってこの世界に飛ばされちゃったとか?大体、この世界には仮面ライダーだっていないんだし」
「そうかもしれん。…が、そうじゃないかもしれん。残念だが、そこら辺は断言出来ないな」
「…」
 士の話を聞きながら、夏海は撮影室のバックスクリーンの絵、二つの月が浮かぶ夜空の絵を見た。それは間違いなくこの世界を象徴する絵だ。この絵が出たと言う事は、自分達は必然的にこの世界にやって来た、と言う事になる。
 でも、この世界は今までとは明らかに違う。見た事も無い土地、見た事も無い風景、見た事も無い文化、魔法が当たり前のように存在し、人は貴族と平民と言う身分に区別され、何よりも仮面ライダーがいない世界。
 仮面ライダーがいなければそれと戦うモンスターもいない。いると言えばいるらしいが、この世界の魔法使いで事足りている。
 世界は至って平和で、滅びが訪れている兆候も見られない。何処か遠い国では戦争やら小競り合いが繰り返されてるみたいだが、そんなのは自分が元居た世界でも当たり前の出来事だった。
「…本当に、この世界には私達のやるべき事があるんでしょうか…?」
「お前までそんな事言い出すのか?夏みかん」
「だってそうじゃないですか!もうこの世界にやって来てから十日も経つんですよ?なのにこの世界に来た目的も何も判らない…それにもう9つの世界を旅するって使命も終わりました。だったら元の世界に戻って来てもおかしくない筈です!」
「…確かに、お前の言う事も一理あるな。だから、それを調べる為にも明日街へ出るって話じゃなかったか?」
 ハルケギニアにやって来て11日、士達はこれまで一度たりとも学院の外に出た事は無かった。
 理由としては単純にルイズの許可が下りなかったから。
 見知らぬ広大な土地に案内無しで下手に飛び出したりしたら、最悪学院に戻ってこられなくなる。その上情報が集まりそうな大きな街は馬で2時間は掛かるらしい。馬の速力は夏海達は知らないが、それだけ遠くにある、と言う事は判った。
 そんな街に行くには道案内が必須。しかし学生の身であるルイズ達が平日に往復4時間も掛かる街まで行けるわけも無く、行けるとしたら学院が休みな『虚無の曜日』くらいである。
 先週の虚無の曜日はルイズの怪我を労って外出は控えたため、話は明日、今週の虚無の曜日に、と相成ったわけだ。
「人の集まる所に行けば色々と情報も聞き出せる。もしかしたらこの世界の仮面ライダーについても、何か判るかもしれないな」
「…でも、何も判らなかったら…?」
「…そんなのはその時考えればいい」
 そう言って士は匙を置いて、徐に立ち上がった。
「何処行くんですか?」
「そろそろ時間だからな、ルイズん所だ。あいつ、少しでも遅れると俺の事を駄犬呼ばわりしやがる…」
 憎々しくそう呟く士、そんな士に首輪を付けて犬扱いしているルイズのイメージが浮かんで、夏海は思わず吹き出した。
「ルイズちゃんの前では士くんもお犬さん扱いですか」
「…抜かしてろ」
 不機嫌そうにそう言い残して、士は撮影室の扉の向こうに消えて行った。
「士が犬か…随分マニアックだな…」
「んもぅ、ユウスケってば何言ってるのよぉ!」
「痛い!痛っ!痛たたっ!」
 キバーラがユウスケの頭に体当たりをする。
「さあさ、私達も、早く朝ご飯片付けちゃいましょう!早く食べて、お店を開く準備をしなくては!」
「えっ!?お店って、今日から始めるんですか!?」
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてません」
「ほらほら、夏海にもユウスケくんにも働いてもらうよ。特にユウスケくんにはほら、これを持って学院で宣伝してもらわないと」
 そう言って栄次郎が取り出したのはプラカード。というか今まで何処に置いてたんだ?
 プラカードには見た事も無い文字が描かれていた。夏海達には読めないがおそらくこれがハルケギニアの文字なのだろう。
「…準備、いいんすね…」
 おそらく夏海達が伺い知れぬ所で準備を着々と進めていたのだろう。協力者は、消耗品を用意したコルベールであろうか。
 異世界の技術に興味を持って足しげくこの写真館に通い詰めているあの人ならば、栄次郎と結託しててもおかしくはない。プラカードの代筆も、おそらくコルベールであろう。
「でもお店今日からなら、明日私達が街に行って大丈夫ですか?おじいちゃん一人に店を任せて…」
「大丈夫ですよ。いざとなったらコルベール先生にもお手伝いを頼みますから」
「は、はぁ…」
 一応はこの世界に貴族の人に手伝わせちゃって大丈夫だろうか、と二人は思ったが、あの人なら快く引き受けそうだとすぐに思い直した。
 元々コルベールの方も貴族とか平民とかの身分にあまり拘らない人間である事も幸いして、最近ではすっかり二人は良い茶飲み友達になっていた。
「ささ、まずはお片付けお片付け!お皿全部流しまで持って来ちゃって!」
「あ、はい!」
 朝食の片付けのため動き回る3人を、キバーラは少し離れた場所で眺めていた。
「フフ、今日も平和で何よりね…ウフフ♪」
 怪しい笑みを浮かべながら。


 士がルイズを迎えに食堂までやってくると、そこで待っていたのは膨れっ面のご主人様だった。
「お帰りなさい、ダーリン♪」
 いつもの調子でキュルケが士に抱きつこうとするが、そこに空かさずルイズが足を掛け、結果キュルケはビターン!と思いっきり床に顔面から叩き付けられてしまった。
「…ったたた…、ルイズ、これはさっきのお返しのつもりかしら?」
「あらごめんなさい、ちょっと足が滑ったみたい」
 バチバチバチ、と二人の間で火花が散る。この光景、今日だけでもう何度目になるだろうか。
「…もう先程からずっとこんな調子で…」
 傍らに控えていたシエスタが苦笑いを浮かべながら説明した。
「いつもの事とは言え…懲りない連中だ」
 流石の士もこの二人の喧嘩にはうんざりしていた。
 ルイズとキュルケ、顔を合わせりゃ喧嘩しかしてない印象しか無い。
 それはシエスタや他の平民、むしろ学院中の人間にも最早お馴染みとなった光景で、ある種の名物と化していた。
 しかしそれにも関わらず、これまで一度も決闘騒ぎに陥ってない事が不思議なくらいである。
 だからと言ってこのまま放っておいたらいつまでも睨み合いを続けかねない。仕方無く、士は二人の間に入り込む。
「お前ら、もうすぐ授業が始まるんじゃないのか?」
「…そうね、いつまでもこうしてても仕方無いわね」
「ま、今回はダーリンの顔に免じて許してあげるわ」
 とりあえず授業が始まる直前と言う事もあって、二人はその場は杖を納める。
 士はやれやれと小さく肩を竦めると、いつの間にか合流したタバサも伴って4人で教室へと向かった。
 シエスタは食堂での仕事がまだ残っていたのでその場で別れた。
「…しかし、お前ら仲が悪いにも程がある。何か理由でもあるのか?」
 道すがら、それとなく士は尋ねた。
 すると一瞬ギロリとルイズが睨みつけてきたが、目を瞑って一呼吸置いてから口を開いた。
「…そうね、良い機会だから、アンタには説明しておくわ。私、ラ・ヴァリエールと、キュルケのツェルプストーの因縁を」
 その横ではキュルケがニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらの方を横目で見ていた。どうやらキュルケから説明する気はないようだ。
「まずキュルケはこの国、トリステインの貴族じゃないの。隣国ゲルマニアの出身!私はね、そのゲルマニアって国が大嫌いなの!」
「ほお」
 士が適当に相槌を打つ。
「私の実家、つまりラ・ヴァリエールの領地はそのゲルマニアとの国境沿いにあるの。そして国境を挟んだゲルマニア側に領地の名こそツェルプストー!
ヴァリエールはゲルマニアとの戦争が起こる度にずっとその先陣を切って戦ってきたわ!ゲルマニアのツェルプストーとね!」
 ルイズの口調がだんだんと強まる。ルイズの中に刷り込まれたツェルプストーへの憎しみが沸々と沸き上がっているのだ。
「なるほどな」
 が、それとは逆に尋ねた当人は何とも冷めた反応を返していた。だんだんと話の内容がどうでもよく思えて来た。
「つまりキュルケは…フォン・ツェルプストーは…我がラ・ヴァリエールにとっての不倶戴天の敵なのよ!!」
 と、ルイズはキュルケをビシッと指差してそう言い放った。
 何故かキュルケはむんと胸を張っている。
「って、なんでアンタが偉そうにしてるのよ!」
 ルイズのツッコミに対しキュルケはオッホッホと笑って誤摩化す。
「…その上コイツらは色ボケの家系、これまでどれだけのヴァリエールのご先祖様がツェルプストーに恋人を寝取られた事か…!」
 ルイズはググッと拳を握って苦々しく言った。
 そこまで来ると士はルイズの話に対する興味を殆ど失っていた。
「つまり大昔から続く家絡みの宿敵関係ってヤツか」
「そう!その通りよ!」
 本当にどうでもいい理由だ。聞いた自分がバカらしく思える。
「でも宿敵だなんて言える程かしらね?ご先祖様がヴァリエールの恋人を寝取ったのだって、大方ヴァリエールが不甲斐無いからじゃないのかしら?」
「なんですってぇ!!?」
 そうやって再び爆発しかけるルイズだったが、丁度教室の前までやって来てた事が幸いし、その場はグッと堪える事に成功した。
 それからは言葉少なげにルイズは教室の端の方に座り、士もその隣に座る。
 するとその士を追ってその隣にキュルケが座って、更にその隣にタバサが無言で座る。結果、4人はルイズ、士、キュルケ、タバサの順番で並んで座っていた。
 思わずルイズが文句を言いかけたが、その前に教師が教室に入って来たためその場もグッと堪えた。
 しかし授業中、ルイズはずっと不機嫌そうにしていた事は言うまでもないだろう。
 これももう一週間ずっとこうなのだからいい加減慣れろよ、と士は思っていた。


 そんな形で午前中の授業が終わり、昼休みを挟んで午後の授業。
 も、滞り無く終わり、時間はあっという間に放課後。ルイズと士の二人は写真館を訪れていた。
 授業が全て終わった放課後、写真館でコーヒーを飲んで静かなひと時を過ごす事がルイズにとってすっかり日課となっていた。
「…そう、静かなひと時を過ごす事が、ね…」
 カタカタカタ、とカップを持つ手が震える。
 するとその目の前に一枚の写真が差し出される。そこにはその写真を差し出した本人が真っ赤な髪を掻き揚げる仕草がばっちりと写っていた。
「見てみてよルイズ!凄いわぁシャシンって!私の美貌がばっちり表現されてるわ!名高い画家を雇って肖像画を描かせるよりもずっと早くて綺麗よぉ!」
 そう興奮気味に言い終わると、キュルケは再び自分の写真に見とれてうっとりとした。
「へぇぇぇ…それは良かったじゃない……………ってぇ!!」
 カップに残ったコーヒーを一気に飲み干し、ガチャリと音を立てて少し強引にカップをソーサーに置いた。
「何でアンタがここにいるのよぉっ!!?!?」
 ルイズはとうとう我慢し切れず叫びを上げた。
 ここは写真館。ルイズにとって新たな憩いの場所となりつつあった場所だが、今日来てみれば何故か宿敵キュルケがいる始末。
 しかもキュルケだけでなく、タバサも今現在ソファに座ってコーヒーを飲みながら読書に励んでいる。どうやらタバサはブラックのまま飲むのが好みらしい。
 他にも今この写真館のサロンには名前も知らない上級生や下級生が入り交じって、皆栄次郎に写真を撮ってもらっていた。
「何でって、あたしはただお昼に撮ってもらったシャシンを取りに来ただけよ?」
「だからなんでアンタがお昼にここで写真撮ってもらってんの!!?」
「昼休み暇でブラブラしてたらユウスケがここでお店やってるって宣伝しててね、タバサと一緒に試しに来てみたのよ」
「なんで店なんて開いてるのよっ!!?」
「それはあたし関係ない」
「…ツカサぁっ!!」
 ルイズの怒りの矛先が優雅にコーヒーを啜っている使い魔の方へと向く。
「生活費稼ぎ、だそうだ。この世界で暮らしていくにはこの世界の金は必要だからな」
「う…」
 あまりに真っ当すぎる答えが返って来たため、ルイズは言い返す事が出来ずに言葉に詰まる。
 ヴァリエールの資産があれば平民の一家を養うくらい雑作も無いが、ルイズは未だ学生の身、自由に出来るお金も限られ、精々使い魔を一匹養うのが精一杯だ。
(…せっかく新しく出来た憩いの場だったのに…)
 ルイズは力無く椅子に座り直した。
 ヴァリエールの領地が他国(主にゲルマニア)によって侵略されていくような、こんな感覚に苛まれた。
 しかしここはルイズが召喚したとは言えヴァリエールの領地ではないので、ルイズには何も言えない。
 一応コルベールが管理責任者と言う事になっているから、ある意味コルベールの領地のようなものだ。ならそっちに文句を言うべきかとも思ったが、公然と商売してる所を見ると許可が降りてないとは考えにくい。
 結局ルイズには自分だけの聖域を取り戻す術は見当たらなかった。精々学院中の人間に飽きてもらうのを待つくらいしか無い。
「そんな悪い事ばかりじゃないと思うぞ。ここが評価されれば、ここを召喚したお前も評価されるんじゃないか?」
 そう士に言われて、ルイズは少し考えてみた。
 つまり、写真館が有名になる⇒写真館は凄い⇒写真館を召喚したルイズは凄い!⇒ルイズはゼロじゃない!、と言う図式が組み立てられる。
「い、やぁね、そんな上手く行く筈無いでしょう…?」
 思わず緩めそうになる顔をどうにか引き締めるが、上手く行かずに口元がぴくぴくと痙攣する。
「顔、緩んでるぞ」
 が、士にそう言われてルイズは思わず口元を手で隠す。はっとなった時には既に遅く、士は肩を震わせて必至に笑いを堪えていた。

 腹を立てたルイズは金切り声で士に何事か文句を言っているが士はまるで意に返さず、更に余計な事を言ってルイズの神経を逆撫でにしている。心底ルイズをからかって楽しんでいるようだ。
 そんな二人の様子を少し離れた所で見ていたキュルケは、「相変わらずね」と、自分とルイズを棚に上げた感想を述べた。
「平和」
 すると横にいたタバサがぽつりと呟いた。
「…確かに、平和よね。でも平和ばっかりってのも肩が凝るものよ」
「何言ってるのよ、平和が一番よ」
 するとキュルケの肩からちょこんと白いコウモリが顔を出した。
「キバーラ、あなたこんな所で、他の人に見つかるわよ?」
 写真館開店前からここを訪れていたキュルケやタバサには顔なじみだが、他の生徒にはなるべく見つからないようにしているキバーラ。大騒ぎになりにでもしたら色々と面倒だからである。
「そんなヘマはしないわよ、それにあっちのコ達はみんなカメラに夢中だしね」
 現在カメラの前に立っているのは名前も知らない上級生達だが、皆少し緊張した顔でカメラのレンズを注視している。キュルケの肩に乗っている小さなキバーラになど気付く素振りすら見せない。
「それより、真に闘争の中に身を置いて初めて平和の価値を知るもの。今の内にその平和を噛み締めといた方が良いわ」
「噛み締める?ただ退屈なだけの平和になんて価値はないわ。あ〜あ、何か面白い事件でも起きないかしらねぇ」
「…ま、早々判るものでもないしね。…そっちのお嬢ちゃんは少しは理解してると思ったんだけど」
 すると本に顔を落としたままのタバサの眉が一瞬ぴくりと吊り上がった。
 タバサは本から目を離すと、僅かに敵意を込めた目でキバーラを見詰めたが、キバーラは怪しく微笑むだけだ。
「…まぁ、アナタ達もその内判るでしょう。今の平和がどれだけ掛け替えのないものだったのか」
 それだけ言い残してキバーラはひょいとキュルケの肩から飛び降りた。
「いずれこの世界も闘争の渦に巻き込まれる。だってここには、その中心となる存在、ディケイドがいるのだからね…ウフフ♪」
 キバーラは未だルイズをからかう士の姿を見て、そして怪しく笑みを浮かべた。




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