あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの黒魔道士-51


アニエス先生が着替えるのはものすっごく速かった。
店員さんの服装も似合ってるけど、やっぱり、アニエス先生は鎧姿の方が見慣れてる感じがする。
今はもう鎧姿でチュレンヌとその部下さん達を連行するところだ。

「ほら、キリキリ歩けっ!――いいか?本当の本当に秘密だからな?」
しつこく、ルイズおねえちゃんに念を押すアニエス先生。
うーん、別に、アニエス先生の場合はしっかりと任務のためなんだし、
秘密にする必要は無いと思うんだけどなぁ……?
「しつこいわねぇ!貴族に二言は無いわ!」
「――ふむ、貴族がどうかは知らんが……まぁ、お前達ならまだ信用できるだろうな」
アニエス先生はちょっぴりと笑って、チュレンヌの腕の縄をもう一回きつくひっぱった。
うん。ルイズおねえちゃんはその辺信用していいと思うんだ……ときどき、ウッカリしてるけど……

「それでは、わたしは帰ってこいつの尋問――あぁ、そうだ。これは店の修理代にでも当ててくれ」
ドシャッと大きな音を出してルイズおねえちゃんの腕に押し付けられたのは、おっきい布の袋。
ルイズおねえちゃんが赤い紐をひっぱって中身を開けると、金貨がこぼれそうなぐらい詰まっていた。

「え?こ、こんなに沢山、いいの?」
「全部こいつの有り金だ。少しは本来あるべき場所に戻さねばなるまい?」
コツンとチュレンヌの頭を叩くアニエス先生。
こんなにお金持ちなのに、お店でお金払ってなかったんだ……やっぱり、チュレンヌは悪い人だったんだなぁ……
「 ――さて、行くぞ!ほら、足並みが遅い!左右!左右!左、左右!」
行進の合図のように、縄で縛られたチュレンヌ一味を連れていくアニエス先生。
流石に、軍人さん達は足並みが揃って綺麗に歩けてるけど、チュレンヌは足がもつれてうまく歩けないみたい。
「わ、わたたも、もっと優しくしてはくれませぬか……ぬひょぉっ!?」
つまずく度に、アニエス先生にお尻を蹴り上げられるチュレンヌ。ちょっと痛そうだなって思った。
……ちょっと、チュレンヌの声が嬉しそうなのはなんでだろう……?

「――んんっ!すごいわルイズちゃん!」
「あのチュレンヌの顔ったら無かったわ!」
「胸がすっとしたわ、最高っ!」
お店に帰ったら歓声の渦がボク達を巻き込んだんだ。
みんな、とっても良い笑顔だった。
そういえば、咄嗟のことで忘れてたけど……
「特にルイズちゃん!すごかったわねぇ~!」
「あ」
ルイズおねえちゃんが魔法を使われてるとこ、しっかり見られてるんだよねぇ……?
おねえちゃんが貴族って、秘密だったんだけどなぁ……
「……ま、バレるときゃバレるわなぁ」
デルフはこう言うけど、バレるたら色々問題になると思うんだけどなぁ……

「いいのよ、別に。あんた達が何者だろうと」
「え?」
店長さんの言葉は、思いもかけず、優しい物だったんだ。
「バレバレなのよ、最初っから!」
店員さんがニコニコ笑いながら、その後のセリフを続ける。
……バレバレ、だったんだ……
ちょっぴり、ガックリってなっちゃって、帽子をぎゅっとかぶりなおした。
ボクも、ルイズおねえちゃんも……役者さんとしての才能は無いのかなぁ……?

「こちとら、何年酒場やってると思ってるの?人を見る目だけは一流よ。
 安心しなさい、ここには仲間の過去の秘密をバラす子なんていないんだから」
この言葉は、ちょっぴり嬉しかったんだ。
あんまり、お店の手伝いもできてないけど、『仲間』って言ってくれたことが、なんか嬉しかった。
店長さんの男らしい顔から覗く白い歯が、すごく頼もしく見えた。

「ここにいる子は、みんなそれなりにワケあり――まぁ、銃士隊って子ははじめてだったけど――
 ま、ともかく!安心して、これからもチップを稼いだり、お皿洗ったりしてね?」
「うん!」
ハルケギニアに来て思ったこと、そのままなんだけど、
こっちの人って、ほとんど良い人だなぁって思うんだ。
一緒に働いたり、一緒に暮らしたりするのが、とっても気持ちよくなるぐらい、良い人達ばっかり。

「さて、お客さんも全員帰っちゃったし、今日はもう閉店!チップレースの結果を発表しまーす!」
……あと、こっちの人って、ほとんどノリが良い人ばっかりだなぁて思うんだ。
店員さん達の歓声と拍手によどみが少しも無くて……なんか、すごい。
「ま、数えるまでもないわよね?」
つかつか、と店長さんが軽やかな足取りで歩み寄ってきて……

「優勝!ルイズちゃん!」
ルイズおねえちゃんの手を、高々と挙げたんだ。
「え」
「ほぇ?だ、だってこれはお店の修理代……」
片手でたっぷり金貨の詰まった袋を重そうに持ってるせいで、
ちょっとバランスが悪い格好になりながら、ルイズおねえちゃんが驚いていた。
「ノンノンノン!これだけありゃお店を新装してもお釣りが来るわよ!余りはとっときなさいな!」
「っかー!粋だねぇ!」
デルフの言うとおり、店長さん、なんかカッコいいなぁって、思うんだ。
「というわけで、『魅惑のビスチェ』をここに贈呈しま~す!はいみんな拍手ぅぅ~!!」
「ま、まぁ貰えるものは貰っとくわ!」
包まれるような拍手の中、黒い包みを受け取って、ルイズおねえちゃん、まんざらでも無さそうな顔をしていた。


ほんの軽い、お店の羽扉が開く音が、終わらない拍手の隙間を縫って聞こえてきたんだ。
「あ、ゴメンなさい、今日はもう閉店で……」
お店の中でもベテランさんになる店員さんが、応対する。

「あぁら!折角来たお客を返そうってわけ?」
それは、どこかで聞き覚えのある声だった。
「ギーシュ!あんたなんでこんな店知ってるわけ?」
それは、どこかで聞き覚えのある名前だった。
「ご、誤解だよ!ぼ、ボクはマリコルヌから噂を聞いていただけで……ん?」
それは、間違い無く見覚えのある顔だったんだ。
「え」
「お?」
「ゲ!?」
「あらあら」
「こら、ギーシュ、話を逸らさないで――あら?ルイズじゃない、どうしたの?」
……ギーシュに、モンモランシーおねえちゃんに、キュルケおねえちゃん……なんで、こんなところに?

ゼロの黒魔道士
~第五十一幕~ Under The Stars

「た・し・か・に!ギーシュの言うとおり、ここはいいお店だわ~♪オホホホホホホ!」
キュルケおねえちゃんが、高らかに笑う。
「だ、だだ誰のここここことでございましょうかしらんらら……」
ルイズおねえちゃんは、それに比べてかなり青い顔になっちゃっている。
……なんか、どもりすぎて、むしろハミングみたいに聞こえてしまうなぁ……
「隠したってもう遅いわよ――あ、ビビちゃん、役に立たちそうにない店員さんの代わりに、メニュー持ってきてくれる?」
「あ、う、うん……」
厨房に走りながらも、震えるルイズおねえちゃんの様子が気になって、ついつい耳がそっちに向いてしまう。

「いや~……しかし……案外似合うものだな、うん」
これは、ギーシュの声。どうやら、ルイズおねえちゃんの服を見て言っているらしい。
似合うよね、やっぱり?嫌がっている理由、ボクにはよく分からないんだけどなぁ……?
「ギぃぃいシュぅぅぅうう!やっぱりあんた、そういう目的でこの店に!」
こっちはモンモランシーおねえちゃんの声。
……うーん、女の人と男の人で、“趣味が違う”、とかそういうことなのかなぁ?デルフの言葉を借りるんだったら。
「ち、違うよ!ほら、普段学院では制服姿しか見ないから!」
「辛うじて色気が出たってところね。学院でもそっちの服着てたら、ルイズ?」
これは、キュルケおねえちゃんの声。
色気とかそういうのは、ボクには良く分からないけど、学校だったら学校の服を着た方がいいんじゃないかなって思う。
学生さんらしい格好をしていた方が、なんか、勉強してるなって感じがするし。
「だ、だから、ですから、私はルイズじゃありませせんですからだからから……」
これは……ルイズおねえちゃんの声、でいいんだよね?
なんか、あんまりにも震えてるから、別の人の声に聞こえてしまう。
……うーん、何とかしてあげたいけど……どうすればいいんだろう?
「っへぇ~……――例えば、の話だけどさぁ?
 ドピンク頭のツルペタ娘が趣味の良い服来た裏通りのお店で働いてた、なんて噂。どれくらいで学院中に広まるかしらねぇ?」
「っ!?や、やめなさいよっ!?ほんっとの本気でやめなさいよ!?」
「あらぁ?ルイズじゃない貴女がどーしてそこまで学院でのお噂なんてお気になさるのかしら?」
「グ」
……どう考えても、口でキュルケおねえちゃんに勝てることなんて、できそうも無いって思ったから、
ともかく、早くお水とメニューを持って行った方がいいなって思ったんだ。

「あぁ、ビビちゃん、ありがと♪じゃ、これ、全部――もちろん、貴女のおごりでね、ルイズ♪」
メニューを運ぶなり、キュルケおねえちゃんがそう言う。
……全部って……かなり、料理の種類があるよ?それを全部食べるのかなぁ……?
「ななななんで私が――って私はルイズじゃなぁぁぁああい!?」
ルイズおねえちゃん……なんか、口を開けば、自分から泥沼に入っていってしまってるような気がする。
「そうねー、私の実家のお隣へ噂が流れちゃうってのもありそうな話よねー♪ついうっかり、みたいな」
「っ――ろ、ロクな死に方しないわよ、あんた!!!」
「えぇ、よくそう言われるわねぇ♪」
キュルケおねえちゃんの笑顔と、ルイズおねえちゃんの怒り顔が、丁度光と影みたいに、真反対で印象に残ったんだ。
……えっと、二人とも、友達、なんだよね?
……こういうのも、友達、ならではなのかなぁ……?
ちょっと、よく分からなくなっちゃいそうだった……
 ・
 ・
 ・
「そういえば、今日はタバサおねえちゃんは?一緒じゃないの?」
お肉料理の5品目を持って行っても、まだ最初のサラダが残っているのを見て、ふと思い出した。
タバサおねえちゃん、サラダとか大好きだから真っ先に食べるんだ。
……今日は、一緒じゃなかったのかなぁ?
「あぁ、そういえばそうだなぁ。タバサ君も数少ない居残り組だったような?」
居残り組って言うのは、夏休み中魔法学院に残っている学生さんのこと。
ほとんどの学生さんは、夏休み中実家に帰ったり、どこかに旅行に行ったりするから、
ギーシュ達みたいに夏休み中学院に残りたがる学生さんって珍しいらしいんだ。
(ちなみに、ギーシュの残っている理由は半分が訓練したいってことで、もう半分がデートしたいってことらしい。
 真面目なのかなぁ、そうじゃないのかなぁ……?)
「……あの子もねぇ、実家には帰らないけど……色々あるのよ、用事とか……」
キュルケおねえちゃんが、お酒をチビりと飲みながら、少し哀しそうな言い方で言った。
いつも仲良しで一緒にいるから、余計に寂しいのかなぁ?
「そういう、あんた達は?夏休み始まってから、ずっとここ?」
「あ、えーと……う、うん……」
……流石に、お姫さまの任務のことは言えないし、それ以上に、お金を使い果たしたってことなんて言えない。
うっかりして余計なことを言っちゃいそうだったから、ゆっくり考えながら返事をするしかなかったんだ。
「ほうほぅ……なるほど、麗しい妖精達と一つ屋根の下で過ごす夏休み、か――いたただだ!?も、モンモン、痛いよっ!?」
「ギーシュっ!あんた、本当っに反省しなさいっ!!」
……ギーシュとモンモランシーおねえちゃんって、本当に仲良しだなぁって思うんだ。
きっと、モンモランシーおねえちゃんは、いつもギーシュのことが心配なんだろうなぁって思う。
だから、一緒のときはいつもつねったり、手をつないだり、とにかく、ギーシュに触れていようとしてる。
……こういうのを、“恋人同士”って言うのかなぁ?ちょっと、分かるような、分からないような……

「――は~い、『卵ふわふわのメイプルシロップのパンケーキ』のお客さまぁ~……っても、あんた達しかいないか」
ルイズおねえちゃんの態度が、明らかにチップレースのときのものとは違った。
なんかこう……目に光が無いって言うか……なんていうんだっけ?『魚みたいな目』、だっけ……?
「……ビビちゃーん、この店員さん愛想悪い~!」
「る、ルイズおねえちゃん、『ニコニコ笑顔のご接待!』……だよ?」
体中から、元気ってものが抜け出てしまったような感じがする。
やさぐれてるって言えばいいのかなぁ、こういうのって……
「疲れてる上にお客が知り合いだけだったらやる気も出ないわよぉ~……」

「そういえば、いつもはもっと賑やかなんだがなぁ、この店は……」
ギーシュが、辺りをキョロキョロと見回して言う。
「いつも?やっぱり、ギーシュ、あんたって人はここに通いつめて――」
「ち、ちがうちがうちがう!?ま、マリコルヌだよ!アイツがそういう噂を……」
「そういえばちょっと散らかってる?ルイズ、あんたちゃんと掃除したの?」
散らかってるのは、しょうがないなって思うんだ。
ルイズおねえちゃんが吹きとばしたり、アニエス先生が投げ飛ばしたりしたから……
後で、お掃除しなくっちゃなぁ……
「っさいわねぇ~……今日は色々あったのよぉ~……」
「ふむ。時間も遅めだし、今日は僕らが最後のお客かな?」
「あら、そんな時間なの?学院に帰るのもめんどくさいわねぇ~……ビビちゃ~ん、泊・め・て♪」
「え、あ、えーとその……」
あの屋根裏部屋には、壊れたベッドが1つきりっしか無いから、ボクとルイズおねえちゃんが寝たらぎゅうぎゅうなんだけどなぁ……
「断ぁぁあるっ!!」
ルイズおねえちゃんが、さらにベッドが狭くなるのは嫌なのか、大声で反対したんだ。
「えー。ケチ~。 じゃ、代わりに朝まで飲み食いしましょっか♪もちろん、ルイズのお金で……」
「い、いい加減にしなさぁあいっ!」

『ちょっと、あなた、どうしたの!?』

「ん?」
「あら?」
「外かな?」
どう転んでも、ルイズおねえちゃんが口喧嘩で勝てることは無いなって改めて思ってたら、
外から店長さんのおっきな声が聞こえたんだ。

『そんな格好で――誰かに襲われたの!?』
『きゅ、きゅいぃい……』

「誰か倒れてたみたいねぇ?」
微かな、泣くような声が聞こえる。
……確実に、何かあったみたいだ。

『こんな夜中に女の子が素っ裸で、なんて!』

「――よし、僕が見て来よう」
ギーシュの顔が、ものすごく輝いていた。
夜空にまたたく、お星様ぐらいに。
「ギーシュ、ちょっとそこに座りなさい」
モンモランシーおねえちゃんは、それに対して静かに怒っていた。
……背筋が凍ってしまいそうなぐらい、冷たい怒り方だった。
「ビビ、見てきて?」
「う、うん……」
何かあったらいけないから、デルフを背負って外に様子を見に行くことにしたんだ。
 ・
 ・
 ・
「きゅ、きゅいぃ……大丈夫なのね……ワタシは、やらなくちゃならないことが……」
外にいたその人は、本当にひどい状態だったんだ。
青い長い髪の毛で、服とか何にも着て無い状態だった。
「その怪我では無理よ!じっとしてらっしゃい!」
白い綺麗な肌のあちこちに、痛々しいまでの傷がまばらについていた。
まるで、剣の嵐の中をつっきってきたような、そんな傷の痕……
「だ、大丈夫?」
駆けよって、その女の人の横に膝をつくと、
その女の人は、ボクの顔を見て安心したような笑顔を浮かべたんだ。
「……っ……! ビビちゃん……やっと、会えたのね……」
そして、そのままデルフごとボクに抱きつく女の人……
「え?ぼ、ボク?」
なんで、この人、ボクの名前を知っているんだろう……?
「おん?この姉ちゃん……」
デルフも、不思議そうな声を出している。

「ちょ、ちょっとあなた!?し、しっかり!? ビビちゃん、お医者さん呼んできて!通りの外れから2軒目のっ!」
「う、うんっ!」
店長さんに言われた場所に急いで行こうとしたけど、傷だらけの女の人がボクの服の端っこを引っ張って、離してくれなかった。
「……お、お医者さんは必要無いのねぇ~……むし……ろ……呼ばないでほし……いのね……」
そう、髪の毛と同じラピスラズリのような青い目で訴えることに、ちょっと困ってしまう。
「安心しなさい。口の堅い、その筋専用の医者だから!水メイジほどってわけにはいかないけど、腕は立つわよ」
でも、お医者さんを呼ばないと、酷い怪我だし……あ、そうだ!
「も、モンモランシーおねえちゃんが中にいるから頼んでくるっ!水メイジだし、優しいから、きっと……」
「だ、だから……そ……じゃなく……て……」

グゥゥゥゥゥゥキュルルルルルルルルルルルルルクゥゥゥ~~~

すっごい音が鳴った。
ラッパの音のようでもあり、猛鳥が叫ぶ声のようでもあった。
でも、一番こういう音に近いのって言えば……
「ん?」
「えっと……」
「腹の音、か?」
「お腹すいた……のねぇ~……」
……酷い怪我なのに、まず心配するのがご飯のことって言うのに、ちょっと呆れてしまったんだ……
 ・
 ・
 ・
「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
まるで、ちょっとした手品を見ているみたいだったんだ。
ここにあるお皿は、それこそタネも仕掛けも無い大盛りのお肉の乗ったお皿。
ボクが運んできたから、それは間違いない。
それも、さっきから何度も。
「たんとお食べなさい!おかわりはいくらでも――」
「おかわりなのねっ!!」
なのに……3つ数える暇も無いほどに、お皿の上のお肉が綺麗さっぱり消えてしまっている。
これって、何かの手品だと思うんだ……
「早っ!? いやいや、嬉しくなるわねぇ!何年も商売してるけどここまで食べる女の子はそう無いわよ!」
ごってりかかっていたはずのソースも、綺麗に添えてあった緑の野菜も綺麗に無くなっている。
それもこれも、目の前の青い髪の女の人1人だけでだ。
今、女の人は、髪の毛や目の色と同じ、青い店員さんの服を着ている。(店長さん曰く、スペアなんだって)
こうして見ると、モンモランシーおねえちゃんに応急処置してもらったとはいえ、
さっきまで大けがで弱々しく倒れていた人と同じ人とは思えないんだ。
……もし、本当に手品だったら、後でタネ明かししてほしいなぁ……全然分からないから……

「んぐんぐんぐ……プハーッ!生き返るのねっ!!」
「すごいね……」
さっき、キュルケおねえちゃん達が無理やり頼んだ全てのメニューが、綺麗さっぱり消えていた。
後に残るのは、埋まっちゃいそうなぐらい高いお皿の山。
……これ、お皿洗うのはいいんだけど、どうやって運んだらいいんだろう……
ボクの背より高くなってしまっている……
「呆れるしか無いわ」
ルイズおねえちゃんも、同じ感想みたいだ。
天井近くまでそびえたお皿の山頂を見上げて口をぽかんと開けてしまっている。
「同じ性別の同じ生命体とは思えないわね……」
モンモランシーおねえちゃんは、それを食べ挙げた女の人を目をまん丸にして見ている。
……うん、多分、違う種族とか、じゃないかなぁ?
……ちょっと、普通の女の人がここまで食べるって、信じにくい。ク族、とかかなぁ?
「タバサ思い出すわねぇ~。髪の毛といい、食べっぷりといい……」
キュルケおねえちゃんは、ちょっと困ったように笑っている。
……え、っていうか……タバサおねえちゃんも、ここまで食べるんだ?
……黙々とサラダを食べている印象しか無いから、あまり量については記憶に無いや……

「~~っ!?そうなのね!こんなことしてる場合じゃないのねっ!!タバサお姉さまが大変なのねっ!!!」
タバサおねえちゃん、の声を聞いて、愛おしそうにしゃぶってたあばら肉の骨を口から離して、おねえさんは急に立ち上がった。
「わ、わたたたた……タバサおねえちゃんが大変?」
衝撃でお皿の山が崩れそうになるのを、必死に抑え止めながら、聞く。
タバサおねえちゃんが、大変?
「? 貴女、タバサの知り合いなの?」
キュルケおねえちゃんが当然のような疑問を口にする。
「う、うぐっ、そ、そうだけどそうじゃなくそのえっと……」
しどろもどろになる女の人。なんだか、その……すごく、怪しい。
「タバサ『お姉さま』って……君の方が年下には見えないが……」
普段は鈍いはずのギーシュまで怪しそうに見ているから、これはもう間違いなく怪しいんだなって思うんだ。

「えーとあのその……きゅいいい!説明するのもまどろっこしいのね!!」
しどろもどろになった挙句、その女の人は、ボクの襟の後ろっ側をひっつかんで、連れて行こうとしたんだ。
「うわわっ!?ちょ、ちょっとちょっと!?」
引きずられるっていうより、引きちぎられるって感じがするぐらい、ものすごい力だった。
ベヒーモス、いや、それ以上かもしれない。
こんな細い腕のどこからそんな力が出るんだろうって、不思議に思ってしまった。
「ビビっ!? きゃぁぁああ!?」
ルイズおねえちゃんが、ボクの身体をつかむけど、ルイズおねえちゃんごと引きずられる。
この女の人なら、てつきょじんだって素手で投げ飛ばせちゃうかもしれないと思った。
「ちょ~っと、貴女?私の知り合いにどういうつもりかしら?」
店の扉の前に、キュルケおねえちゃんが立ちはだかった。
杖を抜いて、戦う気満々だ。
……さっきの今で、お店がこれ以上痛むのはやめてほしいけどなぁって、心のどこかで思ってしまったんだ。

「あぁ、もう!こっちの事情は外で言うのね!だからあばずれ女は黙ってついてくればいいのねっ!」
「あばずっ……ちょっとお痛がすぎるようね?」
……?“あばずれ”って、どういう意味なんだろう……?
「お痛でも歯痛でもいいのねっ!こっちには時間が……」
そして、この女の人の事情って、何なんだろう?
タバサおねえちゃんって、大変って何なんだろう?
……あと、ボクはいつ離してもらえるんだろうなぁ……?

少なくとも、最後の疑問は、すぐに解けた。
「あら、もうお帰り?おかわりできたけど……」
店長さんが両手に抱えるようにしたお皿の上の、香ばしいお肉の焼けた匂いと共に……
「きゅいっ!?」
「あうっ!?」
「あたっ!?」
ルイズおねえちゃんと仲良く並んで振り落とされた。
……美味しそうな湯気を上げるお肉のローストを見て、青髪の女の人はすごく困っていた。
「……きゅ、きゅいぃぃ……」
急いでるけど、食べたい。うん、こればっかりは分かりやすかった。
本当に、人ってお腹がすいたりするとヨダレを垂らすんだなぁ……
「――急いでるなら、テイクアウト用に包みましょうか?」
「きゅ、きゅいっ!?そ、そんなことできるのね!?」
店長さんの提案に、目がランッと輝いて嬉しそうにする、女の人。
……それにしても、まだ、食べるんだ……
「ミ・マドモワゼルに不可能は無いわっ! ただ、300数えるまで待っててね。量が多いから……」

「――300数えるまで待ってやるのね!そしたら外に行くからキリキリ準備するのねっ!!」
「な、なんなのよ、まったく……」
ルイズおねえちゃんが、さっきぶつけたらしい頭をさする。
「さっさとするのねこのピンク頭!1~、2~……」
「あ~、今日はもう怒る気力も無いわ……」
今日は本当に色々あったから、大変なのは分かる。疲れているのも、分かる。でも……
「……でも、準備した方が、良さそうだよ?」
なんとなく、そんな気がするんだ。
「どうしたのよ?あの女、あんたの知り合い?」
「違うけど……知ってるような気もするけど……なんか、必死だし……助けてあげなくちゃって感じが……」
それに、なんか悪そうな人には見えないと思うんだ。
だから、とにかくまず話を聞きたい。
「う~ん……」
ルイズおねえちゃんは、それでも迷っていた。
「出かける準備、した方が良さそうだぜ」
「デルフ?」
「……ちょいと、おもしろくなってきそうだからな」
……デルフのこういう勘って、不思議なほどよく当たってしまうんだ。
……おもに、悪い方向に……

「78~、79~……まだ包めないのね?」
「あんまり慌てない~!テイクアウトの品も芸術よ!」
「きゅ、きゅいぃ~……えーっと、いくつまで数えたっけなのね……」
こんな風に子供みたいに料理が包み上がるのを待っている人は、どんな事情を抱えてしまっているんだろう……?
 ・
 ・
 ・
「よし、早速出発なのねっ!!」
青髪のおねえさんの両手には、持ち切れないほどのお肉の包みが盛り上がっていた。
(と言っても、これでも最初に店長さんから渡された量の半分にはなっていた。歩きながら食べてたから)
「出発、じゃないわよ!こんな街外れまで連れてきて!」
街の灯りも届かないほど、遠く。
森を少し抜けた街道の脇の丘の上。
今夜は、こぼれそうなぐらいの、星空だった。
手を伸ばせば、光に届きそうな気がするぐらいに。

ルイズおねえちゃんの準備は、案外アッサリしたものだった。
服装は学院の服に着替えて、ほとんどの荷物は、
ホコリまみれの部屋に出すのが嫌だったみたいでカバンに入れっぱなしだったから、
適当にあとは詰め込むだけで用は足りてしまったからだ。

「名乗っても無い女にあばずれ呼ばわりされて、黙ってられるほど人間できて無くてよ?結局、あなた何なの?」
キュルケおねえちゃんがギロリと女の人を睨みつけた。
「きゅ、きゅいぃ……わ、わたしは……」
その視線を夜空に泳がすように逸らす女の人。
よくよく見ると、なんか不思議な目の輝きだった。
空に吸い込まれていきそうな、そんな感じの……
「すっとぼけた態度でゴマかそうってのは関心しねぇな、韻竜の姉ちゃんよ」
「きゅ、きゅいっ!?」
「いんりゅー?」
……“あばずれ”に続いて、また全然聞きなれない単語だったんだ。
ギーシュも、この単語は知らなかったみたいで?一緒に首をかしげている。
「おうよ、竜よか賢い、先住の魔法ってぇのを使う高度な生き物だな。触られたときにハッキリしたぜ。それに、あの食いっぷりだしな……」
ってことは……この女の人ってドラゴンなのっ!?

「まさか……だって、韻竜はずっと昔に絶滅したはずじゃ……」
ルイズおねえちゃんと、モンモランシーおねえちゃんは、その意味を知っていたみたいだ。
「そこにいるんだから絶滅なんかしてねぇんだろうさ」
「きゅ、きゅい、ち、違うのね。わ、わたしはイルククゥって言って……」
ドラゴンに全然って言っていいぐらい、見えない女の人が、必死にこれを否定する。
だけど、デルフは、もうこのおねえさんが“いんりゅー”って言うものって当然のように、言葉を続けたんだ。
「なあ、韻竜の姉ちゃんよ。おそらく主人から『正体を明かすな』とでも言われてるんだろうが……
 さっきのお前さんの発言からすっと、お前さんの主人が危ないってぇことだろ?え?シルフィードさんよぉ」
「し、シルフィード?」
確かに、タバサおねえちゃんの使い魔は、あの優しいドラゴンのシルフィードだけど……
このおねえさんと、全然似て無いよ?
似てるとすれば、目の色ぐらいで……
「おいおい、まさか、タバサの使い魔が……」
ギーシュまで呆れてしまっている。
デルフって、ときどきいい加減なことを言うから当てにならないなって思うんだ。

「きゅ、きゅいぃぃ……ハウ……」
と、そのおねえさんが、観念したようなため息をついて、大きく息を吸ったんだ。
「我をまとう風よ。我の姿を戻したまえ」
青い、渦巻き。目にはそう見えた。
肌から感じる魔力の流れで言えば、それは風の力だった。

空に眩く光る星よりも、青く白く輝いた光が、やがて大きくなって、そしてその光が消えたとき……

「!?」
「う、うわぁっ!?」
「シルフィード!?」
目の前に、紛れもなく、タバサおねえちゃんの使い魔のシルフィードがそこにいたんだ。
……さっきのおねえさんが着てた服は、見事にボロボロになっていた。

「あぁ、後で絶対お姉さまに怒られる!絶対秘密って約束してたのに!きゅいいぃぃいい!」
「ちょ、ちょっとちょっと、これ、本当に!?」
みんな、慌ててる。ボクは、呆然とするしかなかったんだ。
「あぁ、もう!かくなる上はお姉さまを大急ぎで助けに行くのね!!おしかりは後でたっぷり受ける覚悟なのね!!!」

「ま、待ちなさいよ!タバサが?タバサに何かあったのね!?」
「キュルケ?」
「キュルケおねえちゃん……?
……ただ1人、キュルケおねえちゃんだけは、こんなことが起こるっていうのを、半分予想していたかのように、冷静だったんだ。
「そ、そうなのねっ!お姉さまが、お姉さまが!大変!大変!大変なのねっ!!!」
……タバサおねえちゃんに、何があったんだろう?


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