あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

失われた世界から新世界へ-01


 あらゆる神を滅ぼし、あるいは服従させ、人類を滅亡へと追いやった者の持つ、強大な生命力が、
熱と光となって霧散してゆく。滅ぼされた人類の無念が生み出した、二人の名も無き超戦士。彼らの
オーラは、確かに怨敵の命を砕いたのだ。
 次第に薄れ、そして完全に感じられなくなった宿敵の気配に、超戦士たちはようやく、油断無く構え
ていた銃を下げた。
「とうとうやったな! 畜生、まだふるえが止まらないぜ!」
「あぁ、そいつぁ俺も同じだ! これでこの世界に、もう一度平和が戻ってくれればいいんだが!」
 全身を戦慄かせながら、二人は顔を見合わせて笑いあった。
 天帝バイオスを倒し、滅ぼされた人々の無念を晴らすという、その為だけに彼らは生まれてきたのだ。
今、その目的を果たし、彼らは至福の境地にあった。
 湧き上がる幸福感を抑えきれず、モヒカンの超戦士が、天帝の玉座に向かって引き金を引いた。
散弾のように広がるオーラが、支配者の抜け殻のようなそれを、粉々に砕いた。
「祝いのくす玉にしちゃ、少し味気ねえな」
 吹き抜けになった塔の中を落ちていく瓦礫を見やりながら、モヒカンの超戦士は口の端を上げた。
 闇の中に瓦礫が消えてしまうと、それを目で追っていた金髪の超戦士は、顔を上げて自問するように
呟いた。
「これから、どうする……?」
 相棒の呟きを聞き、ふと真顔に戻ったモヒカンの超戦士はしかし、すぐにまた口元に笑みを浮かべた。
「俺たちの役目は終わった。あとは悠々自適のセカンドライフを満喫するさ」
 それを聞いて、金髪の超戦士も口元に笑みを浮かべる。
「そいつぁいい。だが、あとどれぐらい俺たちが生きられるか知らねえが、隠居するにゃまだ早いぜ?」
「へっ。なら仕事でも探すとするか? 特技を活かして、ボディガードとかよ」
 モヒカンの超戦士がそう言った時だった。彼らの目の前に、銀色に輝く鏡のようなものが現れた。
「むっ!? こいつぁ一体……?」
 すわ新たな敵か、と思わず銃を構える超戦士たち。
 しかし、彼らの予想に反して攻撃のようなものは無く、代わりに、鈴を振ったような可愛らしい声が、
鏡を通して聞こえてきた。
『神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!』
 その声に、二人は顔を見合わせた。ややあって、金髪の超戦士が口の端に笑みを浮かべ、
「相棒。どうやら、休む間もなく早速のご指名らしい。引っ張りダコってやつだな」
「ああ。俺たちの人気にゃ、エルヴィスだって嫉妬するだろうさ」
 二人は、肩を竦めて笑い合うと、なんのためらいも無く、鏡に手を伸ばした。


     失われた世界から新世界へ


 杖を振った格好のまま、少女は呆けたように、目の前に現れた男たちを見つめていた。
 まず驚くのは、そのガタイの良さ。軽く2メイルは超えるだろう上背を持ちながら、けして「細長い」と
言う印象を抱かせない体躯は、灼熱の火山の底の頑強な岩を削りだしたかのような錯覚を起こさせる。
その体を、金髪を逆立てた白い肌の男は青の、褐色の髪をモヒカンにした浅黒い肌の男は赤の、
鎧のような服にそれぞれ包んでいる。二人は共に眉を剃ったうえにサングラスをかけており、表情は
読めない。一見して「怖い人」という印象を見る者に与えるいでたちだが、それをさらに際立たせている
のが、二人が手にしている150サント程もある鉄の塊だ。棍棒だろうか。何にせよ、荒っぽい事に使わ
れるのは間違いなさそうだ。

 通常、使い魔の召喚で呼び出されるのは、犬猫カラスと言った鳥獣や、グリフォンやドラゴンのような
幻獣と相場が決まっている。 実際少女自身も、この召喚に臨むにあたって様々な予想を、願望も
含めて立てていたが、人間、それもこんな危険そうな男が二人も現れるなどとは、考えもしなかった。
だから彼女が、目の前の二人の男が声を発するまで、時間を止められたように微動だに出来なかった
のも、仕方の無い事だった。
 一方、呼び出された超戦士の方はと言うと、こちらはこちらで、目の前の少女に構っていられるような
心境ではなかった。
 青い空、豊かに青々と茂った草原、そして、周りを見渡せば、小奇麗な身形と血色のよい顔をした
子供たち。彼らの傍には獰猛そうな獣も居たが、それらはまるで愛玩動物のように従順に身を伏せて
いる。凶暴な獣に恐れる必要の無い、平和な世界がそこにはあった。
「俺は……幻でも見ているのか? こんな所がまだ残っていたなんてな!」
「ああ。事によると、さっきの鏡は『お迎え』だったのかも知れねえぜ?」
 相棒の肩に手を掛けて、金髪の超戦士がニヤリと笑った。
「へっ、それならそれで構わねえ。仕事をやり遂げた報酬としちゃ、上等すぎるぜ」
「違えねえ」
 そう言って、超戦士たちは声を立てて笑いあった。
 二人の笑い声を聞いてようやく我に返ったルイズは、腰に手を当てて一つ咳払いをした。
「ん? ああ。すまねえな、お嬢ちゃん。二人で盛り上がっちまってよ」
「俺たちを呼んだのは、お嬢ちゃんかい?」
 咳払いに気づいた二人は、ルイズに正対して笑いかけた。
 ルイズは、二人の不躾な物言いに眉根を寄せ、言葉を返す。
「そうよ。……貴方たちみたいなのが出てくるなんて、思っても見なかったけど」
 そこで短くため息をつき、彼女は続ける。
「貴方たち、えっと……何者?」
 言葉に迷うようにわずかに目を泳がせ、そう尋ねた。
「俺たちは、そうだな。傭兵、だと思ってくれりゃあ間違いはねえさ」
「ちょうどひと仕事片付いた所だ。話を聞かせて──」
 モヒカンの超戦士がそこまで言ったとき、遠巻きにやり取りを見ていた子供たちの一人が、大きな
声を出した。
「おいルイズ! 『サモン・サーヴァント』で傭兵なんか呼び出してどうするんだ!?」
 その声をきっかけに、子供たちが弾けたように笑い出した。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
 ルイズと呼ばれた少女は、子供たちを振り返り、声のトーンを上げて反論するが、笑い声は止まない。
「でもよかったなぁ、メイジの傭兵で! 今度からそいつらに魔法を使ってもらえよ!」
「なんですってぇ! わたしは──って…えっ? メイジ?」
 顔を紅潮させて食って掛かろうとしたルイズは、その言葉にはっとなり、超戦士を振り返った。
 二人を、改めて上から下まで見てみる。どう見ても平民そのものだ。あの鉄の塊を杖と見間違えたの
か? それとも、単にからかわれただけか。
 歯軋りして子供たちを振り返ろうとしたルイズは、しかし、はたと超戦士たちの頭上を見た。そこには、
一抱え程もある宝石を鉄で装飾した奇妙なオブジェが、何の支えもなしに浮かんでいた。
「な、な、何それ! 何で浮いてるの!?」
 それまでの成り行きを怪訝な表情で見ていた超戦士たちは、ルイズの指差した方を一瞥すると、事も
無げに答えた。
「こいつは、サテライトと言ってな。俺たちの武器みてえなもんさ」
「浮いてるのは、まぁ、俺たちの力って事になるな」

 ルイズは頭を抱えたくなった。人間を呼び出してしまっただけでもおかしな事なのに、それが妙な武器を
使う傭兵メイジだなんて。魔法の使えない者がメイジを使い魔にするなんて、こんな皮肉な事がある
だろうか。これではまたあいつらに──。
「ミス・ヴァリエール」
 唇をかみ締めて俯いたルイズに、横合いから声が掛かった。子供たちの中にあっては場違いな
中年の男が、彼女の傍に立っていた。はっと顔を上げたルイズは、声の主を振り返ると、怒気を孕んだ
声で男に迫った。
「ミスタ・コルベール! ミスタ、もう一回召喚させてください!」
 ルイズの願いに、コルベールは首を横に振って答えた。
「使い魔召喚は神聖な儀式で、やり直しは認められない。それは、君だってよく知っているだろう?」
「でもっ! 人間を使い魔にするなんて聞いた事がありません!」
 その言葉に反応して、周囲の子供たちがまた笑い声を上げた。
 人垣へ火の出るような目で一瞥をくれると、ルイズは、コルベールが何かを言う前に先んじて言葉を
重ねる。
「それに、この人たちは貴族ではなさそうですが、メイジのようです。万が一血縁の者が貴族の地位に
あったとしたら、問題になるのではないですか?」
 この問いに、コルベールはあごに手をやって考える素振りをしたが、やはり口から出てきたのは、
ルイズの望む言葉では無かった。
「例えそのような縁者がいたとしても、相手も貴族だ。この儀式の重要性は理解しているでしょう。ならば、
ことさらに騒ぎ立てる事も無いのではないでしょうかね」
「でもっ!」
 と、そこまで二人の話をじっと聞いていた超戦士が、肩を竦めながら口を挟んだ。
「おいおい、話が見えないんだが、俺たちにも分かるように説明してくれないか?」
「お嬢ちゃんが俺たちの事を気に入らないってのは、充分伝わってきたがな」
 皮肉気味に口元に笑いを浮かべた超戦士に、ルイズはまたしても鋭い睨みを飛ばした。
「あんたらは黙ってて! って言うか、使い魔の儀式の事を知らないなんて、ドコの田舎から来たのよ!」
「さてな。根城なんて物はねえから、さっきまで居た天帝バイオスのねぐらからって事になるな」
「まぁ、人は居なかったからな。田舎って言うのも、あながち間違いじゃねえが」
 人を食ったようなその返しに、ルイズは頭から湯気を立てる勢いで怒鳴り散らす。
「そんな事を聞いてるんじゃないのよ!」
 その剣幕に気圧されたように、超戦士はひょいと肩を竦めた。
「ミス・ヴァリエール」
「何よっ!? ……あっ」
 思わず、と言った体でコルベールに暴言を吐いてしまったルイズは、慌てて手を振った。
「ち、違うんです、その、失礼しました……」
 一瞬、驚いた顔をしたコルベールだったが、すぐに真顔に戻り、諭すような口調でルイズに語りかけた。
「ミス・ヴァリエール。どうか聞き分けて下さい。これは重要な儀式なのです。それに……」
 眼鏡を指で押し上げてから、コルベールは言葉を接ぐ。
「それにこの方たちは、貴女が初めて魔法に成功した証でもあるのですよ? 誰に恥じることの無い、
立派な成果じゃないですか。貴女は、この事を誇ってもいいのです」
 慈しむような目でそう言うコルベールに、ルイズは暗く沈んだ目を返す。やがて、コルベールと超戦士の
間で目を二、三度往復させると、深いため息とともに言葉を吐き出した。
「分かりました……」
「良かった。それでは、契約を」
 コルベールに促されて、ルイズは重い足取りで超戦士に歩み寄る。

「ちょいと待ってくれ。そっちの話が終わったんなら、そろそろ説明しちゃ貰えねえか?」
 金髪の超戦士が肩を竦めてそう言うと、モヒカンの超戦士も苦笑いを浮かべて頷いた。
「ああ。置いてけぼりは無しにしてくれ」
 ムッと顔をしかめたルイズだったが、彼女が何かを言う前に、コルベールが彼らに質問した。
「失礼ですが、貴方がたはメイジではないのですか?」
「メイジが何なのかすらも分からないな」
「そうですか……」
 難しい顔になって考え込むコルベール。
「メイジが分からないって……。貴方たち、本当にどこから来たの? さっき『テンテイ・バイオスの
ねぐら』って言ってたけど、バイオスなんて領地、聞いたこともないわ」
 ルイズが怒りを通り越し、困惑した顔で尋ねた。
 彼女の言葉を聞き、モヒカンの超戦士は、真顔に戻って質問を返す。
「ちょっと待ってくれ。ダストドラゴンや武神を知ってるか?」
「ドラゴンなら見た事もあるけど、ダストなんて種族は初耳ね」
 腕組みをし、考えるように目を動かしながら、ルイズは答えた。
 金髪の超戦士はその言葉に、口元に苦笑いを浮かべて首を振った。
「ずいぶんと遠い所に来ちまったみたいだな」
「そのようですね……」
 超戦士の言葉に相槌を打ったコルベールは、後ろを振り返ると、周囲の子供たちへ向けて声を掛けた。
「みんな、教室に戻って自習していなさい」
 その一言を聞いた子供たちは、三々五々、宙に浮いて遠ざかって行く。中にはルイズを嘲る言葉を
吐いて行く者もおり、その度にルイズはキンキン声を張り上げて食って掛かる。
「ミス・ヴァリエール、はしたないですぞ」
「ミスタ・コルベール! あいつらにも言ってください!」
 子供たちの飛んでいった方を指差し、コルベールに抗議するルイズ。
「もちろん、あとで注意しますよ。それよりも……」
 そう言って、コルベールは超戦士たちに向き直る。ルイズも口を尖らせながらそれに倣った。
「ようやくまともに話が出来そうだな」
「待たされた分、楽しい話を期待したいところだ」
「さて、それはどうでしょうか」
 苦笑いを浮かべて自分の頭をひと撫でし、コルベールは真顔に戻って名乗った。
「私は、このトリステイン魔法学院で教諭を務めている、ジャン・コルベール。そしてこちらは──」
 ルイズを手で示し、
「当学院の生徒である、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢です」
 そう紹介する。紹介された当人は、腕組みをして胸を張り、超戦士たちをキッと睨み据えている。
「丁寧な紹介痛み入るぜ。それにしても、学院か。道理で子供が多いはずだ」
「随分と長い名前だな、お嬢ちゃん。不便じゃないのか?」
「余計なお世話よ。それより、こっちが名乗ったのに、そっちが名乗らないってのはどういう事? 失礼に
あたるって分からないの?」
 ルイズが刺々しくそう言うと、超戦士たちは二人そろって苦笑いを浮かべた。
「すまねえな、お嬢ちゃん。俺たちに名前は無い。好きに呼んでもらって結構だぜ」
 予想もしない言葉に、ルイズの眉がキリキリと上がる。
「ふざけないで! 名前が無いなんて、バカにするにも程があるわ! とっとと名乗りなさいよ!」
 金髪の超戦士に人差し指を突きつけて叫ぶルイズ。しかし、超戦士は困ったように眉間に皺を寄せ、
申し訳なさそうに続けた。

「ふざけてる訳じゃない。俺たちには名前が無い。こいつは本当の話さ」
「待ちな相棒。それだけじゃ、お嬢ちゃんも納得しねえだろうよ」
 モヒカンの超戦士は、そう言ってルイズに向き直った。
「俺たちは、人間が滅亡した後に生まれたんだ。名前をつけてくれるヤツが誰も居ない世界にな」
 この言葉をきっかけにして、彼らがどんな世界に生まれ、どんな宿命を負っていたのかが語られた。
 話を聞いていたルイズは、最初は驚き、困惑し、やがて怒り、最後には呆れ顔になった。
「……あのねえ、そんな作り話を信じろって言うの?」
「嘘は言ってねえさ。まあ、信じられないなら、それでも構わないがな」
 苦笑いして、金髪の超戦士が肩を竦める。
 ルイズはため息をつくと、コルベールを振り返った。彼は、難しい顔でうなり声を上げていたが、
やがて思いついたように問いかけた。
「もしや、貴方がたはロバ・アル・カリイエ──東の砂漠を越えた地を我々はそう呼んでいるのですが、
そこから来られたのではないですか? 先ほどの話を全て信じるわけではありませんが、少なくとも
私たちと文化を共有しているとは思えませんし……」
 コルベールの言葉に、超戦士は首を振る。
「ここの人間じゃないってのは確かだが、そんなスケールの話じゃないだろうな」
「砂漠や海なんざ、天帝にとっちゃ道端の石コロみてえなもんさ。ヤツの手が届いてないって事は、
よっぽど特殊な何かがあるんだろうぜ」
「そうなると、もはや想像もつきませんな」
 眉を寄せて困り顔を見せるコルベールに、金髪の超戦士は、口の端を上げて言葉を返す。
「まあ、とんでもなく遠い所って事にしとこうや」
「俺たちを呼んだのが、届け物を頼むためだってんなら、話は別だがな」
 その言葉にルイズが反応する。
「そうよ、届け物を頼むためでも、ヨタ話を聞くためでもないの」
 超戦士たちに杖を突きつけ、居丈高に続ける。
「あんたたちを呼んだのは、使い魔にするためなんだから」
 胸を張りキッと睨みつける彼女だったが、当の超戦士たちは怯んだ様子も見せずに尋ねる。
「その『使い魔』ってのはなんなんだ? 傭兵とは違うのか」
「違うに決まってるじゃない」
「ミス・ヴァリエール。それでは説明になっていませんぞ」
 切り口上で答えるルイズをたしなめたコルベールだったが、彼自身もすぐには言葉を接げずに、眼鏡を
指で押し上げたり髪を撫で付けたりと、やや間を取ってから説明を始めた。
「そうですね。使い魔というのは、我々メイジをサポートする役目を持ったものでして。その、通常は
動物などが呼び出されるのですが……」
「どういう訳か、俺たちみたいなのが呼び出されちまったってことか」
「ええ。私も長いこと教鞭を取っておりますが、このような例は聞いた事すらありません」
「へっ。どうやら、俺たちは野獣と間違われたらしいぜ?」
 そうモヒカンの超戦士が言うと、金髪の超戦士も口元に笑みを浮かべて、
「誰が選んだか知らねえが、この間違いは責められねえな」
「私は責め続けてやるわ。例え始祖ブリミルだったとしてもね」
「ミス、滅多な事は口にするものではありませんぞ」
 コホンと一つ咳払いして、コルベールが続ける。
「呼び出された動物は、メイジと契約して正式に使い魔となる訳ですが、この契約は……メイジか
使い魔が死なない限り、解消される事はありません」
 やや言いよどみ、その後を一息に言ってから、コルベールは息を詰めて超戦士たちの様子を伺う。

彼の右手は、節くれ立った杖をしっかりと握りなおしていた。
「そりゃまた随分と長期契約だな」
「死が二人を分かつまで、か? 考えようによっちゃロマンチックな話だな。柄じゃねえが」
「言っとくけど、拒否権なんかないんだからね」
 コルベールの発する緊張感など露知らず、ルイズがつぶてのような言葉を投げつける。
 超戦士たちは顔を見合わせた。わずかの間を置いて、モヒカンの超戦士が小首を傾げて肩を竦める。
それを見た金髪の超戦士は、にやりと笑ってルイズに向き直った。
「呼ばれてホイホイ顔を出したのは俺たちだしな。いいぜ。好きに使ってくれや、お姫様よ」
「ちょうど職探しをしてた所だ。死ぬまで面倒見てくれるってんなら、願ってもねえことさ」
 笑いながらそう言う二人に、一瞬驚いた顔をしたルイズだったが、すぐに腕組みをして胸を張った。
「当然よ」
「いやぁ、話の分かる方でよかった!」
 早口で割って入ったコルベールは、額の汗を拭いつつ、ルイズに向かっていった。
「さ、では早速『コントラクト・サーヴァント』を」
「…はい」
 不満の色を顔に残しつつ超戦士に歩み寄ろうとした彼女だったが、はたと立ち止まった。
「えっと、ミスタ。この場合はどちらと……?」
「む? そうですな……。二人同時に出てきたわけですから、二人に、という事になるのではないですか?」
「できるんですか? そんな事」
 そう言われて、コルベールは困ったような笑顔を浮かべた。
「さて、なにぶんにも前例の無い事ですから。とりあえず、やってみてはいかがです?」
 白い目で、頭髪の寂しくなった中年男を見返すルイズ。だが、再度促されて超戦士に向き直った。
二人の前に立ち、仰ぎ見るようにしていた彼女の顔が、だんだんと紅潮していく。
「ん? どうした、お嬢ちゃん」
「な、なんでもないわよ! ちょっとしゃがんで」
「こうか?」
 二人がのっそりと体を揺らして跪く。モヒカンの超戦士がにやりと笑って言った。
「これじゃまるっきり、お姫様に侍るナイトだな」
「ちょっと黙ってて」
 赤い顔のまま、ルイズは真剣な顔で二人を見比べる。やがて、金髪の超戦士の方に一歩寄ると、
大きく深呼吸して、それまでの態度が嘘のような厳かな口調で言葉をつむぎ始めた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に
祝福を与え、我の使い魔となせ」
 すっと杖を掲げ、金髪の超戦士の額に置くルイズ。そのまま顔をゆっくりと近づけ、息が掛かるまでに
なると、目を固くつむり、えいや! とばかりに口付けをした。
 モヒカンの超戦士が口笛を吹いてにやりと笑う。
 たっぷりと1秒は唇を重ね、弾かれたように離れたルイズは、取り出したハンカチで口を拭って、
「はい次」
 極めて事務的にそう言い、今度はモヒカンの超戦士に歩み寄る。
「熱烈な歓迎だな。もう少し余韻がありゃ最高だったんだが」
 口の端に親指を当てて笑い、金髪の超戦士が言う。その言葉を無視したままルイズは呪文を唱え、
モヒカンの超戦士にキスをした。
 一連の作業を終えたルイズは、口を拭いながらコルベールに向き直った。
「終わりました」

「うん。どうやら二人とも成功したようですな。どうなる事かと思いましたが」
「こいつは何かの──」
 杖を持った二人に声を掛けようとした金髪の超戦士が、突然苦悶に顔を歪めてうめき声を上げた。
うずくまり、胸の辺りを掻きむしる。
「相棒、どうした!? おい、お嬢ちゃん! こいつぁ一体──うっ……!」
 相方の異常に、ルイズを問いただそうとしたモヒカンの超戦士も、同じように苦悶の表情を浮かべた。
「使い魔のルーンを刻んでいるだけよ。すぐに収まるわ」
 彼女の言葉通り、金髪の超戦士はすでに平静を取り戻していた…かに見えた。しかし、その顔には、
普段通りの表情ではなく、驚きの色が浮かんでいた。
「こいつぁ……どういうことだ……!?」
 やにわに立ち上がり、手を広げて自分の体を見る超戦士。さらに、右手に握っている銃をまじまじと
見つめる。
「相棒!」
 モヒカンの超戦士も立ち上がり、相方に声を掛ける。
「お前もか!?」
「ああ……! 吹き出しそうな程オーラが湧き上がってくるぜ!」
「それだけじゃねえ。銃とサテライトの情報が……構造から出力まで何もかもが、頭に流れこんでくる!」
 まるで人が違ったように高揚する超戦士の様子に、あっけに取られるメイジ二人。しかし、大男が
二人そろってはしゃいでいるのを見ていられなかったのか、ルイズが焦れたように声をかけた。
「ちょっと、あんたたち! 何二人で盛り上がってるのよ! 何が起こってるのか説明しなさい!」
 超戦士たちが振り返る。
「何がって、今言った通りさ。こいつぁゴキゲンだぜ」
「最高のプレゼントだ。ありがとよ」
「全然分かんないわよ!」
 地面をしたたかにひと蹴りして、ルイズが怒鳴る。
「おや? これは……失礼」
 さらに文句を言おうとしたルイズの前に割って入って、コルベールが金髪の超戦士の左手を手に取る。
彼の手の甲からは、淡い光が発せられていた。
「むっ? こいつは……」
「……俺もか」
 相方の異常を見て取り、自分の左手を確認したモヒカンの超戦士が呟いた。
「な、何それ、キモッ」
 思わず、と言った体でルイズが一歩引く。
「これは、使い魔のルーンですね。ルーンが光っている……」
 眼鏡を掛け直してしげしげと観察していたコルベールが、嘆声を漏らす。
「お二人さんの様子を見るに、これも予想外の出来事か?」
「ええ。このような例も、聞いた事はありません」
 超戦士たちのルーンを書き写しながら、彼は続ける。
「使い魔の契約を済ませた動物が、特殊な能力──例えば猫が人間の言葉を喋るようになったり──を
得ることはあります。お二人の体調に変化があったのも、その一例でしょう。しかし、このようにルーンが
光を放つとは……ううむ、しかも見たことの無いルーンだ」
 羊皮紙をしまいこみ、コルベールはルイズと超戦士たちに向かって言った。
「どうにも不可解な事があるので、私なりに調べてみようと思います」
「何も分からないままでも、俺たちは構わないがな」
「ああ。今のところ、不都合もないしな」

 超戦士たちが笑って言うのへ、コルベールは苦笑いを浮かべて、
「教え子の身辺に起こっていることを把握しておくのも、教師の務めでして。まあ、個人的な興味も
ありますがね。ではミス・ヴァリエール、彼らを学院へ案内してあげなさい」
「はい…」
 ルイズの返事を聞くと、コルベールはふわりと浮かび上がり、学院へ向かって飛んで行った。
 三人だけになると、金髪の超戦士が軽く手を広げて言う。
「色々あったが、よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん」
「長い付き合いになりそうだな」
 超戦士は気さくにそう言ったが、ルイズの方はむくれた顔で鼻を鳴らし、
「じゃ、行くわよ」
 そう言って踵を返し、草を踏みしめて学院へ向かう。
「飛んでいかないのか?」
 ルイズの動きがぴたりと止まった。やがてぎこちなく振り返ると、棘のある声を飛ばす。
「あ、あんたたちに合わせてあげてるのよ! あたし一人で飛んでく訳にも行かないでしょ!」
「それなら気にすることはねえ。俺たちも飛べるからな」
 そう言って、超戦士たちがふわりと浮かび上がった。
「な、な、なん、な……」
 超戦士たちを見上げて口をパクパク動かし、言葉にならない言葉を発するルイズ。
「陸に打ち揚げられた魚の真似か? 上手いじゃねえか」
「茶化すなよ相棒。どうやらお嬢ちゃん、俺たちが飛べるとは思っても無かったらしいな」
 そういいながら、金髪の超戦士は手に持った銃を相方に渡し、ルイズの目の前に降りた。
「よっ、と」
 無造作にルイズを抱え上げ、お姫様抱っこする超戦士。
「ひゃ! な、何するのよ!」
「気にするな。お嬢ちゃんが飛んで行くより、俺たちが飛んだほうが速いさ」
「気にするわよ! って、ちょっ……!」
 ルイズの抗議を気にも留めず、超戦士は浮き上がる。そして、コルベールや生徒たちの優に数倍は
あろうかと言うスピードで、学院めがけて飛んでいった。ルイズの悲鳴と共に。

 誰も居なくなった草原。周囲には、風になぶられた草の立てる、軽い音だけが響く……はずだった。
 突如として、地鳴りと土煙が荒々しく立ち上った。草で覆われた地面を割って、何かが現れる。それは、
簡素なドアと小窓を備えた石造りの小屋だった。その壁面には『SHOP』の四文字。
 地鳴りと土煙が収まると、ドアが静かに開き、中から人影が現れた。
「毎度ありがとうございます! ………………あら?」
 出てきたのは、水色のノースリーブワンピースを身に纏い、豊かなブロンドを腰の辺りまで垂らした
美女だった。
 彼女はキョロキョロと周りを見渡して言った。
「ここは、どこでしょう?」

つづく


新着情報

取得中です。