あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無のメイジと双子の術士-04


朝の光と小鳥のさえずりで目が覚めた。
その程度のことで目が覚めたのは、非常に寝にくい環境だったからか。
起き上がって、どうするべきか考える。
――自分自身には、特にすることはない。
が、ルイズにはあるかも知れない。
此処は学校だと、コルベールという教師も言っていた。ならば、授業もあるだろう。
起こしても咎められることはあるまい――休日なら話は別だが。

ルイズが寝ているベッドまで歩いていくと、
肩に触れて、体を揺らす。

「朝だぞ、起きなくて良いのか」
「うーん……あと五分……」

何というか、非常に典型的な「そのまま寝入ってしまう人」のセリフを聞かされて、
彼は一応聞いておくことにした。

「今日は休日ですか?」
「ん……え?んー……違う……けど、まだ早いし……寝るわ……」
「休日じゃないんだな」

それだけ聞くと、彼は空にサッと指を走らせた。
まさに空に文字を描くように、光が指の軌道をなぞって宙に刻まれる。
それを書き終えて、彼が何をしたわけでもないが、淡い光があふれ出して、ルイズを包み込む。
その光はルイズに染み入るようにして消えた。
外見上は何の変化もないが、ルイズが布団に寝そべったまま、きょとんした顔で目をぱっちり開けている。
べつに、淡い光で目が覚めたわけではない。
それで起きるぐらいなら、窓からの光で起きれていただろう。

「……何したの?」
「起こした」

彼女の目は覚めているのは間違いなかった。
彼はそれを確認すると、ルイズから離れていって、部屋のドアノブに手をかける。

「ちょ、ちょっと何処行くのよ?」

外に出ようとしていたのだが、ルイズの呼びかけに振り向く。
――考えて見れば解りそうなものなのだが。

「昨日も言いましたが――他人の身支度を覗くような趣味はないし、常識も弁えてるつもりです」
「え?……いや、まぁ、そうだけど」
「部屋の前に居る」

返事を聞く前に、彼は外に出た。

外に出て、ドアから数歩離れた場所で欠伸を上げる。
やはり、床の上ではろくに眠れはしない。
目が覚めていないわけではないが、少しばかりの疲労感と眠気があった。
まぶたを擦る。
空に、指を動かし始めようとして、近くでドアが開いた音に振り向く。
何処かで見たような気がする女性――少女と言うには、少々違う印象を抱いた。

「……あら、ルイズの使い魔だったかしら?」
「ああ……ええ、昨日は助かりました」
「あら、礼なら昨日言われたと思ったけど?」
「何回言われて困る物でもないだろう」
「それもそうね――へぇ、昨日は夜で良く見えなかったけd」
「何してるかこんの万年発情女ァーッ!」

叫び声が聞こえてきて、女は少しだけ後ろに下がった――居た位置はルイズの部屋の扉の前である。
女が逃れた頃に、ルイズが飛び出てきた。
呼吸を荒立てて、半分ほどだけ整えられた髪や、
ボタンを掛け違えられた服、角度が曲がったマント留めなど、「急いでました」と言われればあっさり信じられる風体である。

「ルイズ、もうちょっと慎みという物を持った方が良いんじゃない?」
「あんたにだけは言われたくないわッ!あんたも何でキュルケなんかと話してるのッ!?」
「……何かまずいことでも?」
「何もないわね」
「大ありよッ!」
「よくわかりません」

ルイズはキュルケというらしい、その女を威嚇でもしているのか、唸りながら睨みつけている。
キュルケはその視線を特に不快な様子も見せず、むしろ笑って受け止めている。

「恋の炎が燃え上がるのは場所を選ばないという事よ」
「場所を選びなさいって言ってるのよ!少なくともわたしの周りでは許さないわ!」
「そんなんだから浮いた話の一つもないんじゃない?」
「そんなもの必要ないわよ!」
「つまんない人生ねー、人生の9割9分を無駄にするようなものよ」

キュルケは冗談にしか聞こえないような台詞を吐いたが、
それは真剣に言っているように聞こえて、どこか恐ろしいものがある。
少なくとも、全くの無表情――別に感情が無いというわけではないが、
特に何の表情も浮かべずに言うものだから、
それを見ているルイズと彼は、少し引いた。

「しかし、こうしてみると――」

キュルケはルイズに向けていた視線を、彼の方に向ける。
何というか、敵意を感じるわけでも、そもそも不快というわけでもないが、
どこか居心地の悪くなるような視線だった。
横で少しばかり黒いオーラを立ち上らせている少女のせいかも知れないが。

「あんまり似合ってないわね」

にやにや――何となくそういう風に感じた――笑いを見て、
彼は少しばかり嘲りの類を読み取った。彼へではなく、ルイズへのものだったが。
かといって、それでどうこう思うほど、ルイズに感情移入はしていない。

「どういう意味よ?」
「そのまんまの意味だけど」
「何が、どう似合ってないのかを聞いてるのよ」
「雰囲気があってない気がするのよねー、
 あと背丈にも差があるし、そこの彼の方が魔法使いっぽいわね。むしろルイズって魔法使いぽくないわよね。
 それはそうとしてあなたもしかしてメイジ?」
「そんなわけ無いでしょうが!というか、何言ってるのよ!」
「メイジ?――…………いや、違う」

彼の使う『術』のいずれも『魔法』ではない――とは判ぜなかったが、
少なくとも、未開のリージョンであろう此処に彼の扱う術があるとは思えないし、
その逆もまたそう思える。
ならば、彼はメイジ――恐らく、ハルケギニアの術士の事だろうが、それではない。

「今の間は何?」
「メイジではないが、他のことなら出来る」
「他の事?まさか先住とか?」
「だからっ!いつまで話してるのよ!」

至近で叫ばれて、思わず彼は耳を手で覆う。
叫ばれたあとなので無意味になるかと思えたが、普通に頭が少し痛くなったので、そのまま手を当てておく。
間近でないキュルケも眉をしかめるほどなので、相当大きい声だったのかも知れない。
耳がに響くような音が聞こえ続けていていまいち解りづらいが。
片耳がいまいち聞こえない、が、もう片方の耳で声を聞き取ることは出来た。

「別にそれは構わないが……お前ももう少し静かにしてくれ」
「なによ、私がうるさいとでも言うの?」
「否定の余地がないな」
「全くね」
「…………」

何とかして言い返そうとして言葉を探したのか、
或いは単に冷静になって顧みた結果の沈黙か。
どこか遠くで足音や話し声が聞こえてくる。
ここが何処であるのかを彼は思い出して、
出来ればさっさと去りたいという気分が浮かんできた。

「そ、それはそうとキュルケ。人の使い魔に手を出さないでくれる?」
「別にあなたの使い魔に手を出してるわけじゃないけど?」
「じゃあ何だってのよ」
「魅力的な殿方に声をかけてるだけよ。
 あなたの使い魔であるかどうかなんてどうでも良いことだと思わない?」
「……魅力……的……?」

聞き慣れない言葉かのように、呟く。
少なくとも、自分に向けられるような言葉ではないと思っていた。
美的感覚が欠如しているわけでなく、単純に彼の周りに居た者達が基準なだけである。
路地裏の医者とか、ニートとか。
つまるところ、比べる相手が悪い――とはいえ。
彼の周りにいた「魅力的」な人物は彼らぐらいであり、逆に彼の「魅力的」の基準もそれらに準ずる。
何とはなしに両手に目を落とす。とくに跡がついていたりはしない。

「……そうか?」
「……そうなの?」

疑問の声が重なって響く。
彼はほぼ同時に言葉を発したルイズの方に目を向けると、彼女も同じようにこちらを見返していた。

「朝っぱらから人前で見つめ合うなんて……召喚したのは昨日じゃなかったかしら?」
「ち、違うわよ!」
「……何が違うんだ?」

その言葉は、本当に、ただ純粋な疑問から放たれたものだったのだが。
言ってしまえば、他にも言葉はあるだろうと、そう思えるほどに状況にそぐわなかった。
どうしようもなく状況に合っているとも言える。

「あら、冗談のつもりだったのに……これはツェルプストーとしては本気を出さなくてはいけな」
「出さなくて良いわよ!というより、そもそも違うってば!あんたも何言ってるのよ!?」
「何かまずいことでも?」
「大いにあるわよ!」
「よくわからないな」
「わからないって……いや、わからないならわからないで良いわ……」

額に手を当てて、うめくようにルイズは言う。
はぁ、と深く息を吐くと暗い表情のまま、キュルケの方に向き直る。

「とにかく、ツェルプストー。
 私はあんたみたいに部屋に誰かを連れ込んだりしないの」
「あたしだってそんなことあなたに出来るとは思ってないわよ?」
「だったら黙ってなさいっ!」

そう言う――いや、叫ぶと、ルイズはキュルケを押しのけて、廊下を去っていく。
彼とキュルケはそれを立ちつくして眺めている。
その影が小さくなるほど廊下は長くなかったが、少なくとも細部を捉えられないほど遠くまで行った頃に、
ルイズが立ち止まって、こちらを振り返った。

「ブルー!何してるの!さっさと来なさい!」
「呼ばれてるわよ」

とりたてて感情のこもってない声で言われて、
彼も特に感情を入れずに、聞こえることも期待せずに呟いた。

「……昨日言っていた事、何となく分かった」
「分かってるなら早く行った方が良いわね」

理解した、と言うには少々どうしようもないことなのかも知れないが。
少しばかり知ることが出来た自らの主人の後を、彼は追った。

「それで、何処に行くんだ?」
「食事よ」

ルイズは大股で歩き、彼は落ち着いて歩いていたが、
先に進んでいく内にその差はそんなに無くなっていた。
食事、彼はこちらに召喚されてから――と言うより、『故郷』に帰ってから一度も食事をしていない。
何度か酒はラッパ飲みしたが。
そう、食事。生きるのに必要な行動である。歩みは止めない、思考をしながら歩き続ける。

「仕事とか換金所のあてはないか?」
「は?何言ってるのよ」
「手持ちがない」
「だからなによ」
「いや、だから手持ちがないんだが」
「よくわからないわ」
「……いや、もう良い」

どうやら、本気で分からないらしい。
貴族がどうこう言っていた気もするが、少なくとも相当な世間知らずであるのは間違いなさそうだった。
――さしあたって重要なのは、手持ちがないと言うことだ。
次いで、収入がないことがまずい。つまるところ食費がないし、住む場所もない。
ルイズの部屋の一角も一時的に借りれているだけに過ぎないだろう。
もしかしたら、使い魔の身分というものはそう言ったあれこれを保証してくれるものなのかも知れないが。

前を行く、自分との比較でなくともちいさい少女を見る。
――つまるところ、そうだとしても、こんな少女に養われるのは、流石に気が引ける。
食事に自分を連れて行くと言うことは、そう言うことなのかも知れないが。
最悪の場合は、それも受け入れるしかないだろうが。

「もしかして、食事の心配をしてるの?そんなの――……あ」
「……はぁ」

少女の上げた声の意味をどうしようもなく理解して、彼はため息をついた。
この少女が今のところ予想を裏切らないことがない。
それに等しく、期待も裏切られているのだが。



「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」
「学院だから当たり前では」

「……メイジはほぼ全員が貴族なの」
「貴族じゃないと学費を出せないとかか」

「…………『貴族は魔法をもってその精神となす』のモットーの下、貴族足るべき教育を」
「実力至上なのか血統至上なのかいまいち解らないモットーですね」
「うるさいわねっ!」

彼の右に立つルイズは彼の方を見上げて叫ぶ。
何となく叫ぶのを予測できていた彼は、予め指で右耳を塞いでおいた。
予測していてわざわざ言ったのは、何となく気が立っていたからである。
空腹なのかも知れない。

「いちいち人の言うことに口を突っ込んで!
 主人に対する礼儀って者を知らないの!?あんたなんかご飯抜きよ!」
「抜きも何も、用意してないんじゃなかったか?」
「そ、それは……とにかく抜きったら抜きよ!」

ぷいとこちらから視線を放すとルイズは自身の席へと向かっていく。

ルイズに連れられていった食堂の入り口で、彼は立ちつくした。
――通行の邪魔にならないように目立たない場所に移動してはいたが。

無駄なほどの装飾で飾り立てられているテーブルには
更に蝋燭や花、色とりどりの果実が置かれて、
配膳係だろうか、何人ものメイド達が料理ののったトレイを持って、
歓談している生徒達にそれを配っていく。
それらの、景色を見る限り、少なくともA定食だのB定食だのは存在していないことは確かだろう。
仮に手持ちがあったとしても、食事を得ることが出来るかどうか判らない。
恐らく、この食堂は単純に生徒と教師と職員のためにあるものだろうから。

此処で食事を得るには、そのいずれかの立場を得れば良いのだろうが、そのあてはない。
客人でも大丈夫そうだが、少なくとも彼は使い魔という立場らしいし、それも一生徒のだ。
もし仮にルイズが教師か何かなら、恩恵に預かれたかも知れない。
――恥や外聞をかなぐり捨てれば。
ブルーは目を閉じて思い悩む。
すると、脳裏に自分と同じ顔が浮かんできて、笑顔でこうささやきかけた。

『あそこのぽっちゃりにパワースナッチでおk』
『いや、ダメだろそれは』
『――それはつまり、どうせやるなら可愛い女の子が良いと……?』
『もっと違う 』

まさしく自問自答して、どうでもいい答えを捨てる。
残念な気持ちが自分の中に残る。
何故かは解らない――とは言えず、理由が分かるのがより残念な感じがした。
そんな考えすら押さえ込んで、ひとまず目を開ける。

「……おはようございます」
「おはようございます――おや、ミスタ・ルージュ、ここでなにを?」

タイミングが良すぎるような気がしないでもない。
丁度目を開けたときに、眩しい光景が飛び込んできていた。

「コル……ミスタ・コルベール?食事をどうしようかと」
「……すいません、用意するのを忘れてました」
「用意して貰えるのか?」
「客人にもてなしの用意をするのは当然のことでしょう」
「使い魔は客扱いなのか?」
「あなたは人でしょう。
 少なくとも、使い魔達……動物たちと同じような食事をさせるわけにはいきません」
「別に貰えればいいんですが、それだって贅沢でしょう」
「腹壊しますよ?多分火も通っていませんし」
「……頼む」

コルベールに連れられて、彼は食堂を横切る。
途中、何人かの疑問と好奇の目と、少しばかりの囁き声が耳に聞こえてくる。
気分の良い物ではない、気にならないと言えば気にならないという程度のものだったが。
見回してみて、その視線の中の一本、その先にルイズが居るのを見て。
彼はなんとなく笑ってしまった。

調理場であろうその場所で、コック帽をかぶった男達と、メイド服を来た女達が動き回っている。
密度としては先ほどの食堂と大差ないように見えるが、全員が止まる事なく忙しなくしているせいか、食堂より窮屈に見えた。

「大分忙しそうに見えるが、大丈夫なのか?」
「うぅむ……確かにそうですね」
「後で出直した方が良さそうですが……」
「構いませんか?」
「抜きになる所だったんだ、それよりは待つ方が良い」

そう言いながらも少し残念な表情を見せて彼は振り返り、コルベールもそれに続こうとする。

「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!?」

その刹那に、声がかかって振り向き直す。
恐らく、というか間違いなく此処で働いているメイドの一人だろう、黒髪の少女が慌てた様子でそこにいた。

「あなたは、シエスタさん……で良かったですかな?」
「あ、はい。なんで知ってるんですか?」
「覚えていただけです。それで、何か用ですか?」
「ミスタ・コルベールがご用があって来られたのではないのですか?」
「はい?あ、ええ、彼の食事を用意して貰おうと思ったのですが。忙しそ――」
「食事一人前ですね。マルトーさーん!」
「なんだー!?」

シエスタというらしいその少女は振り返り、調理場の何処かにいるであろうマルトーという誰かに呼びかける。
慌ただしい調理場ではマルトーが誰なのかは分からなかったが、叫び声は帰ってきた。

「食事一人分追加です!
 ――失礼しました、暫くお待たせするかも知れませんが、大丈夫でしょうか」

少女はどこか熱の抜けた笑顔でこちらにそう言ってくる。
詰まるところ、仕事での笑いと言うことなのだろうが。

「頼んでから聞くことか?」
「ダメでも捨てる量が少し増えるだけじゃないですか」
「それはそれで問題がないか」
「まぁ、貴族なんてそんな物ですよ、ミスタ・ルージュ」

声に少し視界をずらすと、コルベールが苦笑いを浮かべていた。
その意味するところを、『貴族』という物がない自分の世界の、捏造されたイメージと結びつける。

「贅沢と自慢が好きだと?」
「慣習もですね」

その返しに、少しばかり口端を歪める。
視線を戻すと、シエスタとか言う少女が黙ってこちらを見つめ続けていたのに気付く。

「……ああ、別に待つのは構わない」
「わかりました、それでどちらにお運びすればいいでしょうか」

少女からの質問の答えに悩んで、視線でコルベールに流す。
コルベールは少しの間、考えるように頭に手を当てて、放した。

「食堂に席が在るはずもありませんね……わたしの研究室にきますか? 汚いですけど」
「いいんですか?」
「聞きたいこともありますし」

メイドの少女は会話を聞くと、短い了承の言葉を口にして仕事場へ戻っていく。
それをのんびりと見ていたが、コルベールが隣からいなくなっているのに気付いて、少し慌てて調理場を後にした。

コルベールの研究室は、研究室と言うには少し違う物だった。
学園に来たばかりで場所的な物は良く解らないが、
その研究室は少なくとも独立した建物であった。とはいえ、その規模はあまり大きくなかったが。
あえて言うのなら、研究小屋とでも言うのかも知れない。
そんな言葉があるのかは分からなかったが。
その研究小屋に入って、彼がまず最初にしたことは、顔をしかめることだった。

「掃除したらどうだ?」
「え? 整理はしてますよ?」

彼の言うとおり確かに整理はされていた。
本は棚にきちんとしまわれて、器具の類もちゃんと種類別に置かれているようだ。
ただ、埃や塵がつもり、金くずなどが散乱し、淀んだ空気で窓から差し込む光が目視でき、
それらと、棚に置いてある薬品だろうか、そのあたりの色々と混ざった形容しがたい臭いがこもっている。

「換気は?」
「すると苦情が来るんですよ」
「……贅沢は言えないな」

タンザーや下水とまでは行かないまでも、
思わずそれと比較してしまう程度には酷い。
鳥の鳴き声が聞こえて、思わず身構えてしまったのは、多分そのせいもあるのだろう。
その先にいた鳥は籠に囚われていて、襲いかかれるような状況ではなかったが。

「この前聞いた話では、『火』の研究をしているという話でしたが」
「いえ、勿論私は『火』のメイジですから、本分はそれですが、それだけではありませんよ」

そう言いながら、コルベールは一角にある机の下からイスを二つ引っ張りだすと、
片方のイスに手を向けた。恐らく、座れと言うことだろう。
そこまで歩いていって、椅子に座ると、コルベールに声を掛けた。

「それで、何が聞きたいんだ?話があるという事でしたけど」

コルベールも席に座ると、笑いながら返してきた。

「この前聞かせていただいた話ですが――非常に興味深く、そして有益でした」
「……有益だった?」

話したのは昨日だったはずだが。
それとももう内容を検証したとでも言うのだろうか……と、思ったら、目の下に隈ができていた。

「……睡眠は取った方が良いと思いますよ」
「普段は普通に寝ていますよ?
 ええ、非常に有益でした」

何がどう有益だったのか、それを聞こうかと思ったが、
視界の端に何か見のがしてはいけない物があったような気がして、それを見る。
それは何というか――部品というか、分解された重火器と言えば適当だろうか。

「……ミスタ・コルベール?」
「はい、なんでしょう?」
「対装甲ロケット砲が分解されてるように見えるんだが?」

コルベールがとっさにこちらから目を逸らした。
彼から一度視線を逸らして、そこらを見てみると、所々に自分の荷物があった。
幾つかは分解されている――元に戻せるかどうか解らないぐらいに。

「い、いえ、調べたら返そうと思っていたのですが……
 戻せなくなったものについては弁償しますので」
「なら、別に構わないが」

正直なところあそこに転がっているようなものは必要のないものばかりだ。
と言うより、このコルベールという男が興味を持ちそうな物のうち、価値が高い物や、危険物は仲間に残していった。
精々が、あのロケットぐらいだろう。

「それはそうと聞きたかったのですが、ミスタ・ルージュ。
 あなたが使えるという『術』。実際にはどのような物なのですか?」

そう言われて、前にルイズに問われたときのように悩む。
話を逸らされてる気はしたが、どう言ったものか?
両手を広げて、指を一つ一つ折り曲げたり、或いは伸ばしたりする。
その度に、名前とその説明が頭に浮かび上がる。
それを読み上げる。

「光の力を操る陽術」
「それはどのような――」
「影の力を利用する陰術、アルカナの力を借りる秘術」
「は?あの」
「ルーンの力を引き出す印術、時間を……何か?」
「いえ、多くありませんか?」
「確かに俺が扱える術は普通の術士よりは多い。
 ――ああ、ここには『魔法』とやらの一つしかないのでしたか?」

会話をしていると、トントンと何かが叩かれる音が聞こえた。
言葉を切って、そちら――ドアの方へを顔を向ける。

「ミスタ・コルベールの研究室はこちらでよろしいでしょうか?」
「はい、此処であってます。鍵は開いてますので、どうぞ」

立て付けが悪いのか、床と擦れる音がしてドアが開く。
ドアが空いた瞬間その時に、先の少女の姿は無かったが、
すぐにお盆を持った少女の姿が覗く。
部屋に入って、少しばかり顔をしかめたのは気のせいではないのだろう。
それでも、少女は自然に見える笑顔を浮かべて、お盆をこちらに持ってきた。
机の上に置かれたパンの皿を見てから、少女の方を向いて言う。
先ほど食堂で自分たちの相手をした少女だ。
会話を途切れさせられたことに少々の不愉快な気分はあったが、本当にごく僅かだ。

「ごくろうさま」
「え?あ、はい」

何故か少女は驚いたようにして、わたわたとドアへと走っていった。
そして、少し経ってお盆に別の皿を乗せて戻ってきた。

「話の続きをしましょうか」
「えーと……そうですね、『先住』と呼ばれる亜人や幻獣の用いるものもありますが、
 私達メイジが扱うのは『魔法』ただ一つです――
 いや、『先住』の力を使うことの出来るマジック・アイテムの類も存在しますが」
「俺はただ単に幾つもの術の系統を会得しているだけだ。
 とはいえ、術士と呼ばれるような者なら複数の系統の術を会得しているのは普通のことだが」

少女はスープの皿を持ってくると机の空いてる上に置き、再びドアへと小さく走っていく。
机の上のパンに手を伸ばして、それをかじる。
なかなかに美味しいものだと思える。良く解らないが。

「術の系統、ですか?それは『火』や『水』と同じような物なのでしょうか?」

パンを咀嚼して、飲み込む。
質問について考えるが、魔法とやらについての知識を全く持ってないため、
答えられそうにない。だから、質問することにした。

「魔法について何も知らないから何とも言えないな」
「……そうでしたな」
「ただ、違うとは思う。火と水と『土』と『風』だろう?」
「おや?あってますが……言いましたかな?」
「言ってませんが……お約束というか……
 とにかく、それらの術――魔法の仕組みは同じ物ではありませんか?」
「たぶんそうです」
「多分?」
「魔法の『なんたるか』、等という研究は主ではありませんし、
 場合によっては弾圧さえ受けるのですよ」
「妙な宗教じゃあるまいし」
「事実、そのような扱いですよ。
 『始祖の御業たる魔法をそのように使うとはなんたることですか』、と」

何処か遠い目で窓の外を見ながら、コルベールが言う。
やたらイントネーションが具体的だったが、実際に言われたことがあるのかも知れない。
皿からスプーンでスープを掬い上げ、啜る。

「始祖とやらが神ですか」
「そんなものですね」

深く質問しない方が良いのだろうな、これは。



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