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misson 04 「Ride on」


 ゲルマニアへの遠征の後、ほとんど間を置かずアルビオンの戦乱が終結したという情報がスコール達の耳に入った。もちろん、優勢であったとかねてより聞いていたレコン・キスタ側の勝利で。
 そして今現在、次に攻めてくるのはトリステインかゲルマニアかと、緊張が地上の国に蔓延していた。
「まぁ、十中八九トリステインだろうな」
 厳しい表情を浮かべながらアニエスは呟いた。
「ゲルマニアもトリステインも地理的にはほとんど変わらない。ならば、国力の低い方を攻めるのが定石だろう。そのために、此度の同盟も行われるのだし……」
「王女が輿入れするんだったか」
「ああ。まさに形振り構わず、だ」
 朝。
 下宿の台所で屑野菜と肉の欠片のスープを煮込むスコールの背中と、じゃがいもの皮を剥きながらアニエスは話していた。
 初めて会った頃は、男なのにそつなく料理をこなすスコールにアニエスは驚いた物だが、スコール曰く「野営は傭兵の基礎修得事項。火を使うのも同じ事」とのことだ。
「確か、この結婚に関してレコン・キスタ……アルビオン側から何か言っているんだったか」
「なんでも幼少の頃の王女殿下が別の相手に充てた恋文だそうだが……」
 流石にアルビオンの方もそんなバカバカしい事で同盟の不成立化が出来るとは思わなかったらしく、あくまでも会談上での当て擦りとして言っただけらしい。
 それでもこうしたゴシップは容易く世間を巡るもので、王女が文を宛てた相手が誰なのかとちょっとした話のネタにはなっている。
「まぁ、もうしばらくはにらみ合いが続くだろうというのが目下の情勢か。それよりも今問題なのは、ラ・ヴァリエール公爵家だな」
「……?」
 どうもどこかで聞いた名前のような気がしたが、思い出せない。ともかく、
「その公爵家がどうかしたのか?」
 鍋が煮立ったので火の上からどかし、竃の中の薪を分散させて灰をかける。
「どうも最近王宮との仲が険悪らしい。王宮への出仕も拒んだとのことで、反乱でもたくらんでるのではないかとな」
「アルビオンに続いて、こちらでもか」
 器二つにスープを盛ってテーブルに置き、アニエスが貯蔵用の壺からパンを出す。
「レコン・キスタが攻めてくるより、そちらの方が早いかもしれんぞ」
「その場合、あんたはどうするんだ」
 スコールの問いに、ぴたりとアニエスのスプーンが止まる。
「なに?」
「どちらに付く。公爵側か、王宮側か」
「……まだ、決めていない」
 少し考えた末に答えて、またスプーンを動かし始める。
「そうか……」
「そう言うお前はどうする?」
「俺は、あんたに付き合う」
「人に任せっきりか? 全く……お前にも無関係では無いんだぞ。ここに住んでいる以上な」
 アニエスとしては責める意識はなく、話の上での言葉だったが、それを言うとスコールは本気で考え出してしまった。
「あー……いや、そうだな。お前としては、最悪故郷に帰ればいいか」
 スコールの雰囲気を和ませようとして言葉を発したが
「……帰れないんだ。俺は……」
 そう返したスコールの言葉に、ますます空気は重たくなり、結局食事が終わるまでの間無言で過ごすこととなった。


 その日はほとんど言葉を交わすことなく居心地が悪いままだったが、二人で組んでいる現状別行動になる筈もなく、タルブ村へ向かう途中の野宿で、やっぱり居心地の悪い沈黙が訪れた。
(これは……やはり一度聞くのがすっきりするのだろうな……)
「その……レオンハート」
「……! 何だ」
 ぼーっと焚き火を見ていたらしいスコールは、一拍おいて反応した。
「朝言っていた、帰れない、とはどういう事なんだ?良ければ……聞かせて欲しい」
「ああ、その事か……いつか話そうとは思っていたが……俺は、メイジに使い魔として召喚されたんだ」
 一瞬間を置き、は?とアニエスは間の抜けた声を上げた。
「使い魔?お前が?人間、だろう。お前は」
「ああ、人間が呼ばれるのは珍しいと言っていたな。だが事実だ。訓練施設で触った鏡に喰われて、気が付いたら俺はハルケギニアにいた。使い魔になれと言われたのを拒んで、あんたに会ったんだ」
「……う~ん……いや、待て。それで、どうしてお前は帰れないんだ?」
 衝撃の告白にすっかり忘れていたが、話がずれていた。慌てて根本の疑問に戻る。
「ここは、元々俺の知らなかった場所だ。あんたも、バラムを知らないだろう。ガルバディアも、エスタも。知らない場所同士を行き来することは出来ない。メイジ達にも聞いたが、俺を元いた場所に帰す方法は無いそうだから、俺は、まだ帰れない……」
 ようやく、アニエスはスコールが自身の故郷に関する文献を捜していた理由がわかった。
 道を捜していたのだ。ハルケギニアと、故郷とをつなぐ道を。
「……そうだ!ロバ・アルカリイエに行ってみろ!あそこのことは、ハルケギニアでもほとんど知られていない。ひょっとすればお前の故郷の話も……」
 聞けるかもしれないぞと言うより先に、スコールが黙って首を振った。
「いや……ここで関連する書物が見つからなければ、どこでも大して変わらない」
 その態度に、カッと怒りがこみ上げた。
「なんでそう簡単に諦めるんだ!まだ行きもせずに!」
 立ち上がりそう詰め寄ると、スコールは視線を空に向けた。
「俺の居たところは、月が一つしかなかった」
「月が……一つだけ?」
「多分、俺の故郷はこの地上に存在していない。異世界という奴だろう」
 視線が再び焚き火に向けられる。
「……まるでおとぎ話だ」
 おとぎ話でももう少し信憑性のある話だろう。
「別に信じる必要はない。これは俺の問題だ」
「い、いや、私は信じるぞ!」
 慌ててスコールに訴える。
「そもそもお前の持っているライオンハートからしてあり得ないような武器だし、擬似魔法やジャンクションシステムなど、同じ大地の上にあったものとは思えない。
 そう、そちらの方が納得がいくという物だ」
 一気にまくし立てるアニエスを見上げ、フッとスコールは穏やかな笑みをこぼした。
「……ありがとう。一ヶ月前、あんたに会えて俺は幸運だ」
 それは、ハルケギニアに来て初めてスコールが心安らいだ瞬間だった。
「あ、ああ……それは私もだ。こうして、本来なら手に入れられなかった力を得たのだから」
 つい、と目線を逸らしながら再び丸太に腰を下ろしつつそう返す。顔が赤いのは、炎に照らされているからというだけではないのだが、それはスコールには判らなかった。
(こいつが言っていた、「まだ話してないこと」はこれだったのか……)
 確かに、それなりの信頼関係がなければ、話したところで一笑にふされる類のシロモノだ。話したがらなかったのも判る。では――
(今度は……私が話す番か)
 胸中に滾る復讐の炎。そろそろ、自分も話すべきなのかもしれない。


 ベッドの上で、申し訳なさそうにエルオーネはうつむいていた。
「ゴメンね、みんな……私が倒れちゃって……」
「良いのよ、今までが無理しすぎだったんだもの。ドクターにも言われたでしょう? しばらくは『接続』しないで、ゆっくり静養していてね」
 安堵の表情でキスティスが述べる。
「でも……スコール、大丈夫かな」
 不安げに弟妹達を見る。
「大丈夫だって! あのスコールがそうそうどうにかなったりするもんか!」
 あっけらかんとゼルは言ってみせる。
「そりゃ、G.F.を持ってるスコールが簡単にやられる訳は無いけど、そうじゃないよね?お姉ちゃんが言いたいのは」
 アーヴァインが尋ねてみるとこくりとエルオーネは頷き、心配そうにセルフィは呟く。
「スコール……寂しくないかな? 私たちがいかなくって」
「寂しいって……スコールに限ってそりゃ無いだろう」
 ゼルが首をかしげながら反論するが、セルフィは不安げなのは変わらずに言う。
「だってだって、あんな異世界に居るんだよ? スコールは。アニエスさんみたいに信用出来る人と一緒には居られるけど、それまでずっとあった接続が無くなったりしたら……。
 私なら、不安でたまらないよ~」
「そ、りゃあ……」
 ゼルも言葉が続けられなくなり、しん、と医務室が静まりかえる。
「……やっぱり私……」
 何か意を決したように顔を上げて、ベッドから降りようと被っていた毛布に伸ばされたエルオーネの手を、リノアが掴む。
「大丈夫ですよ、エルオーネさんが無理しなくっても、あいつは大丈夫。ちょっとの間目を離したって大丈夫。連絡が取れなくても仲間がいるって、あいつには信じられるから」
「リノアちゃん……」
「だから、休んでてください。ね?」
 リノアに言われて、エルオーネはゆっくりと体を倒した。
(あいつ、大丈夫かな……)
 だが、この中で一番心配しているのはリノア自身だ。
 スコールの弱さまで知っているのはリノアだけだ。時間圧縮現象の終盤、スコールが過去を失い、未来を思い描けなくなり、一人だけ迷ってしまった。
 その事は、誰にも言っていない。
(忘れるなよ。スコールには私たちが居るんだぞ?)
 それだけを忘れなければ、スコールは平気なはずだ。


 翌日、タルブへ向かう道中、スコールの額には普段より皺が寄っていた。
「れ、レオンハート? どこか痛むのか?」
「いや……何でもない。気にしないでくれ」
 アニエスに指摘され、パンと顔を一つ張りいつも通りぐらいのむっつり顔に戻す。
(……やはり、『繋がって』ない……)
 昨日からずっと、エルオーネの『接続』が感じられない。ちっとも頭の中がざわざわしないのだ。
 なお、実は昨日スコールの纏う雰囲気が重かったのはアニエスとの会話と言うよりこちらの方が主な比重を占めていた。朝のやり取りなど、トリスタニアを出た頃にはすっかり忘れていた。
 一瞬自分が見捨てられたのかとも思ったが、考えてみればこの一月余りの間エルオーネは一日も休まずにスコールに『繋ぎ』っぱなしだったのだ。
 『接続』がエルオーネにどのような負担を強いるのか聞いたことはなかったが、過労でぶっ倒れるぐらいのことはあるだろう。
「無理はするなよ。お前は私の相棒なんだからな」
「ああ、判っている」
 アニエスの言葉に頷き返しつつ、内心頭を抱えた。
(無理をしたのは俺じゃなくエルお姉ちゃんだ……)


 昼過ぎには着いたタルブの村は、農園が広がるのどかな村だった。
 代表に任務の内容を確認したところ、討伐して欲しいオークの住処は探っているとの事だった。
「竜の骸?」
「ああ、何でも60年ばかり前、村の東にでっかい竜が落っこちてきたみたいでな。ぴくりとも動かないんで、死んでから落ちたのか、落っこちてから死んだのか……王都からメイジ様方が調べに来たが、結局何も判らなかったそうだ。
 まぁとにかく、その竜の骸をオーク共が住処にしちまってな。最近じゃ村も荒らしに来るんで困ってたんだ。
 しかし、こんな低料金で引き受けてくれるんならさっさと話を付けに行けば良かったぜ」
 嬉しそうに、男はしきりに何度も頷いた。
「よし……それでは早速出向くとするか、その竜の骸とやらに」
「ああ」
 スコールとアニエスはくるりと踵を返すと、東へ向かう。
「お、偵察かい。仕事熱心で助かるねぇ」
 満足げに手を振る。
「いや、このまま攻略に向かう。早いほうが良いだろう」
「なぁんだ、もうお仲間も来てたのかい?」
 そりゃあ良いと、尚機嫌が良い。
 これを言ったら、どんな表情をするかな、と少し楽しく思いながらアニエスはきっぱりと言ってやる。
「私たちはコンビだ。他に仲間はいない」
「……へ?」
「では、その竜の骸とやらの大きさにも寄るが、日が暮れる前には仕事を終えてこよう」
 完全に虚を突かれた顔の男を放って、二人はそのまま歩を進めた。


 先を歩いていたアニエスは、スコールよりも先にそれを見ることが出来た。
「あれか?竜の骸というのは」
 木々の間に見える巨大な紅い……翼、だろうか。
「あれは……」
 アニエスの言葉に促されてスコールもそれを見上げる。
「ここでああも見えるとは……大きいな」
 感心したような呆れたような気分でつぶやく。
 しかし、60年も前に死んだ竜の骸と言う割に全く朽ちているようには見えない。その事に疑念を抱きつつも、相棒と共に歩を進める。
 辿り着いた竜の骸の腹の下辺り、竜の外皮がべろんと垂れ下がっている辺りにオークが一匹いる。
「あれが歩哨なら、入り口はあそこだな」
 近くの茂みに隠れて、鞘から剣を抜きながらアニエスは呟く。
「……どうかしたのか?さっきから口数が少ない気がするが」
「いや……正面から仕掛けよう。どうせ俺たちの目標はあいつらの殲滅だ」
「わかった。前衛は任せる」
 ここに近づくに連れて無口になっていった相棒が少々気がかりだったが、問題は無さそうだったのでそのまま仕掛ける。
 ライオンハートを振りかぶりながらスコールは駆け出し、オークが慌てて斧を振り上げるより先に切り伏せた。
 ガンブレードの爆発音が森の中に響き渡る。
「このまま突入する」
 スコールの後に従って、アニエスも竜の骸の内部へと突入した。


「……何だここは?」
 自分は竜の骸の中に居るはずなのだが、周りはどう見ても人工物であった。鉄とも違う何か硬質な金属であるらしい床、壁、天井、そして扉らしき凹み。その扉の上にある明かりはぼうっと光っていて、火ではないようだ。
「進むぞ」
「進むって……ドアノブもない扉だぞ?」
 困惑するアニエスには何も告げずに、スコールは進入方向右の扉の前に立つと、シュッと音を立てて扉が壁の中に隠れる形で開いた。
「!?」
 反射的に剣を構え直すが、扉の向こうには何もない。スコールも慌てた風はなくそのまま歩いていく。
「お、おい! ……どうなってるんだここは!?」
 毒づきながらその後に続くと、今度はオークが二匹。
「はっ!」
 すぐさまスコールが一匹を切り伏せる。
「サンダー!」
 アニエスも雷を一撃食らわせて怯んだ隙に目から頭を一突きにした。
「おい、レオンハート」
 どさりと倒れるオークの死体は捨て置き、不満を露わにしながらアニエスはスコールに近づく。
「お前、ここが一体何なのか知っているな!?」
「ああ」
 あっさりと、こともなげに頷いてみせる。
「そうならそうと先に言え、全く」
「すまん。話すのが少し躊躇われた。こいつが動かなければ、俺は嘘つきのおおぼらふきになってしまうからな」
「動く?この竜がか」
「そうだ」
 首を縦に振って、スコールは柵に囲まれた一段高い場所に上る。そこで壁を何かいじる。
〔正体不明ノ生命体ガ繁殖中。安全ノタメぶりっじヘノ立チ入リハ制限サレテイマス〕
「な、なに!?」
 突然部屋に響く音に辺りを見回すが、その音を生み出したとおぼしき物は見あたらない。
「今のは……声、か?」
「俺が居た辺りの言語だ。オークが居るせいでこの上に上れないらしい」
 一度上を見上げると、くるりと向き直る。
「オーク達を早く片づけよう」


 どうも今日のスコールはおかしい。
 口数はいつもより少ないのだが、その割にかなり機嫌は良いような
 あの後も勝手に開く扉や、椅子がたくさん並んだガラス張りの部屋など明らかに竜の体の中とは思えない箇所を回り、一通りのオーク達を駆逐した。
「レオンハート、これは一体何なんだ?村人の言うような竜の骸とはとても思えないが……
「骸なのか、まだ生きているのかは判らないが、これは飛空艇……ハルケギニアの概念で言うのならフネだ」
「フネだと? これが? ……帆も見あたらなかったが……」
 外観を思い出すが、どう思い描いてもそんな物は覚えがない。いや、覚えがあるのならアニエスも竜の形をしたフネだと判っていただろう。
「とりあえずこいつが生きているのかどうかを調べてみよう。先程の上に通じる道が今は開けるはずだ」
 再びあの柵に囲まれた場所を訪れる。
「ここに立ってくれ」
 スコールが道が開くと言うものだから、てっきりアニエスはこれまでのように横にスライドして扉が開くのかと思っていた。が、今度は立った床その物が上に昇り始めた。
「うわっ!何だ!?」
 予想だにしなかった動きに、片膝を着く。
 天井に空いた穴に床ごとすっぽりと入り、気が付けばまた見晴らしの良い部屋の中だった。
「こ、今度は何だ……?」
 先程のガラス張りの部屋よりは椅子の数は少ない。
 その内の一つに、迷うことなくスコールは腰を下ろしてぺちぺちと目の前の板を叩く。
 ピピピ、とアニエスがこれまで聞いたことのない様な音が響く。少し気持ち悪い。
〔自己診断もーど開始〕
 また先程のように声らしき物が聞こえ、スコールが椅子から立ち上がる。
「何をしてたんだ」
 ようやく立ち上がりながら尋ねる。
「これが動くかどうかを調べていた」
「……ダメだったのか?」
 ちっとも動く様子のない竜の骸に、そう尋ねる。
「いや、多分動くが、動かすにはもう少し時間がかかる。今の内に村の方に一度戻ろう」


 オーク退治終了の知らせを持って行くと、タルブ村の者は目を丸くしていた。
「ほ、ホントに、あんた達二人だけなのかい?」
 証拠にと持ってきたオークの鼻の山を見ながら、そう尋ねる。
「ああ、見ての通り、斬ったばかりの鼻だ」
「それは信じるが……はぁ、とんでもねぇな、あんた達」
 呆然とした顔つきでスコール達を見る。
「ともかく、これが成功報酬だ」
 アニエスが受け取って中身を確認する。
「確かに」
 一度頷くと、スッとスコールが前に出る。
「いくつか話があるんだが、良いか」
「あ?なんだい」
「あの竜の骸が落ちてきたとき……中から誰か人が出てきたりはしなかったのか?」
「人が? ……いや、そんな話は聞いたことがないな。竜の中から人が出てきたんならそれなりの話にはなるはずだろうし……」
 そうか……、と呟いて少し考えた後スコールは彼に尋ねた。
「相談がある」
「うん? 相談?」
「ああ。あの竜の骸は、この村の物なのか?」
「へ? あ、ああ。まぁな。あんなんでも落っこちたときにはいろいろと見物人も来たんでな。一応この村の名物として扱ってたこともあったそうだぜ」
「そうか……出来れば、あれを譲って欲しい」
「あれを? ……うーん、流石に俺の一存じゃ決められないな。少し待っててくれないか」
 代表の男が立ち去ったところで、アニエスがスコールに振り向く。
「竜の骸……本当に動くのか? 出たときに改めて見たが……羽もないだろう」
「あれで俺たちは世界を飛び回っていたんだ。飛べる」
 待つことしばし。
「村長達にも確認をとってきたぜ。条件があるそうだ」
「依頼料の内俺の分……半分までなら返却出来るが?」
「いや、そうじゃない。ほっとけば今回みたいにオーク達の住処になるようだし、あんた達にくれてやってもいいが、あれをどかして欲しいんだとよ。かなりでかいが出来るか?」
「すぐにでも動かそう。ありがとう」
 一つ礼を述べると、くるりと踵を返して竜の骸へと向かった。


 最初にこの席に着いたのは、第二次魔女戦争の最中、宇宙に出たときだった。
 宇宙の漂流者となりかけた自分とリノアの前にラグナロクが流れてきて、必死にそれにしがみついて、そして地上に戻るためにここに座った。
(これは……別の機体だが……やはり思い入れは深いな)
 一つ郷愁のため息をついて、ラグナロクを立ち上げていく。
(主砲の荷電粒子ビーム砲は使用不能のままか……見たところ完全に土に埋まっているようだから、着陸時に砲身自体が歪んだか……)
 何故これがここにあるのかは判らない。それも、60年も前に落着したようだが……。
(こいつも、俺と同じように迷い込んだのかもしれないな)
 同じ境遇のモノに、シンパシーを覚える。
「……正直未だに信じられん」
 困惑顔でコクピットを見回しながら、アニエスが呟く。
「座っていてくれ。少し揺れる」
 スコールの言葉に従い、隣のシートに腰を下ろすアニエス。
「いくぞ」
 操縦桿を引いて艦首を上げ、フットペダルを踏み込み、メインエンジンの出力を上げる。艇体に絡み付いた蔦がぶちぶちと千切れ始める。
「発進する」
 ラグナロク――神々の黄昏――が、ハルケギニアの空に舞い上がった。



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