身体が重い。身体が寒い。身体の反応が鈍い。今、自分が何をしているのかよくわからない。
左手と、魂だけが熱い。その熱が自分を今も戦わせている。
左手と、魂だけが熱い。その熱が自分を今も戦わせている。
「やああっ!!」
腕を振るうのが痛い。足を動かすのが痛い。息を吸うのも吐くのも痛い。もう休みたい。ゆっくり休んで眠りたい。
お腹も空いた。ルイズに怒られるかもしれないけれど、いっぱい食べて、いっぱい眠りたい。
お腹も空いた。ルイズに怒られるかもしれないけれど、いっぱい食べて、いっぱい眠りたい。
「ぜえっ……ぜえっ……くうっ!!」
駄目だ。余計なことを考えちゃだめだ。私が頑張らないといけないんだ。
ここじゃ誰も助けてくれない。昔みたいに、あいつの後ろで守られてるんじゃない。私しかいないんだ。
ここじゃ誰も助けてくれない。昔みたいに、あいつの後ろで守られてるんじゃない。私しかいないんだ。
「まだです! まだ倒れません!!」
もう私は、守られてばかりの弱い存在じゃありません。
今度は、私があいつを守る番なんです。
今度は、私があいつを守る番なんです。
「あぐっ!! い……痛くない……痛くない!! へっちゃらです!!」
ふと、ここに来る前に、タバサの竜の上で乳でかの言った言葉を思い出しました。
『あんた、なんでそこまでしてルイズを守るの? いくら使い魔だって言っても、ついこの前呼び出されただけなのに、何で命賭けてまで助けようとするの?』
きっと、乳でかにはわからないでしょう。
初めて出会ったとき、私がルイズに感じた事。
私を見るあの瞳が、とてもあいつに似ていたという事。
初めて出会ったとき、私がルイズに感じた事。
私を見るあの瞳が、とてもあいつに似ていたという事。
「あ……」
ほんと駄目ですね私は。さっき余計な事を考えないようにしようって思ったばかりなのに、また考えちゃいました。
右手の動きが遅れて、僅かに体勢が崩れて、そのせいで上手く飛び退けません。
ゆっくりと、本当にゆっくりと、正面のワルドの杖が私を貫こうとしているのが見えます。
なら私に出来ることは、このまま胸を貫かれ、ワルドの一人を抑えて少しでも時間稼ぎをする事だけ。
右手の動きが遅れて、僅かに体勢が崩れて、そのせいで上手く飛び退けません。
ゆっくりと、本当にゆっくりと、正面のワルドの杖が私を貫こうとしているのが見えます。
なら私に出来ることは、このまま胸を貫かれ、ワルドの一人を抑えて少しでも時間稼ぎをする事だけ。
「ただじゃ……ただじゃやられませんっ!!」
その時、私とワルドの間に、小さな、とても小さな桃色の影が一つ飛び込んできました。
不思議と私には、その影にあいつの姿がだぶって見えました。
不思議と私には、その影にあいつの姿がだぶって見えました。
ダネットが体勢を崩したのが見えた。
広がった視野と上がった視力は、このチャンスを逃さんとするワルドの動きもはっきりと捉える。
このままじゃ間に合わない。もっと、もっと速く。
思い出せ。わたしは、俺は、もっと速く駆け抜けられる。もっと速く駆け抜けていた。
広がった視野と上がった視力は、このチャンスを逃さんとするワルドの動きもはっきりと捉える。
このままじゃ間に合わない。もっと、もっと速く。
思い出せ。わたしは、俺は、もっと速く駆け抜けられる。もっと速く駆け抜けていた。
「届けええええっ!!」
今にもワルドの杖がダネットを貫かんとしている瞬間に、わたしは滑り込み、両手で握った杖を振り上げてワルドの杖を弾き飛ばす。
「今だセプー雌!!」
「ぐうっ……やああっ!!」
「ぐうっ……やああっ!!」
『声』の言葉に反応し、苦痛に顔を歪ませながらも跳ねるように飛び出したダネットが、杖を弾かれたワルドへと短剣を突き入れる。
刺されたワルドは苦悶の声を漏らした後、幻のように消え去った。
刺されたワルドは苦悶の声を漏らした後、幻のように消え去った。
「チッ! こいつもニセモンか」
そう『声』が毒づく。
しかし、これで残りは二人。確率的には二分の一なのだから、そうそう悪い賭けでもない。
しかし、これで残りは二人。確率的には二分の一なのだから、そうそう悪い賭けでもない。
「ダネット、立てる?」
「う……」
「う……」
残りの二人のワルドを杖で牽制しつつ、偏在を倒した後、崩れるように倒れたダネットに声を掛けると、ふらふらとなりながらも立ち上がった。
「お前……」
「話は後で聞くわ。まだ動ける?」
「話は後で聞くわ。まだ動ける?」
ダネットは、戸惑いながらもわたしの言葉に頷き返す。
「そう。なら、一気にいくわよ。あまり時間は取れないの」
『声』の言っていた時間がどれぐらい残されているのかは判らないが、恐らくは殆ど無いだろう。
そんな事を考えている間にも、二人のワルドがじりじりと間をつめてくる。
そんな事を考えている間にも、二人のワルドがじりじりと間をつめてくる。
「今の動き、実に興味深いよルイズ。どうだろう? やはり僕と共に来ないかい? 僕ときみとで幸せな家庭を築こうじゃないか」
「面白いジョークねワルド。引っぱたきたいぐらい素敵だわ。ついでに返事はノーよ」
「残念だよルイズ。ならば、その四肢を切り離してでも連れて行くとしよう!!」
「来るぞ!!」
「面白いジョークねワルド。引っぱたきたいぐらい素敵だわ。ついでに返事はノーよ」
「残念だよルイズ。ならば、その四肢を切り離してでも連れて行くとしよう!!」
「来るぞ!!」
『声』の一言が響いた瞬間、ワルドがわたしへと飛び掛ってきた。
なんとか杖の一撃を弾き飛ばしたものの、休む間もなく『声』の言葉が飛ぶ。
なんとか杖の一撃を弾き飛ばしたものの、休む間もなく『声』の言葉が飛ぶ。
「術だ! 横に逃げろ!!」
わたしが飛び退くと、今しがたまでわたしのいた場所を、もう一人のワルドの放ったエア・カッターが襲う。
「やあああああっ!!」
ダネットの声が響き、最初のワルドへと飛び掛るのが見えた。
同時に、そのダネットを狙おうとするもう一人のワルド。
同時に、そのダネットを狙おうとするもう一人のワルド。
「させないっ!!」
わたしは声を上げながら魔法を放とうとしていたワルドへと飛び掛る。だがこのままじゃ間に合わない。どうやっても追いつけない。
ワルドの手から、エア・カッターが放たれる。
いや、諦めるな。思い出せ。あんなもの、ただのそよ風だ。
俺はあの程度――
ワルドの手から、エア・カッターが放たれる。
いや、諦めるな。思い出せ。あんなもの、ただのそよ風だ。
俺はあの程度――
「ハハハハハ!! 僕の勝ちだルイ……なっ!?」
――喰らい尽くせる。
目の端でもう一人のワルドが術を放ったのが見えましたが、私は構わず糸凪の刃を振るいました。
例え私がやられても、このワルドが本物ならばルイズは助かりますし、万が一偽者だったとしても、残りが一人となればルイズも逃げ切れるでしょう。
ルイズは怒るかもしれませんが、馬鹿な私じゃこのぐらいしか出来ません。
だからきっと、許してもらえるでしょう。
ごめんなさいルイズ。私にはこれぐらいしか出来ません。
ごめんなさいみんな。私は帰れないみたいです。
ごめんなさいお父さん、お母さん。そっちに行ったら叱ってください。
そしてどうか、許してください。
例え私がやられても、このワルドが本物ならばルイズは助かりますし、万が一偽者だったとしても、残りが一人となればルイズも逃げ切れるでしょう。
ルイズは怒るかもしれませんが、馬鹿な私じゃこのぐらいしか出来ません。
だからきっと、許してもらえるでしょう。
ごめんなさいルイズ。私にはこれぐらいしか出来ません。
ごめんなさいみんな。私は帰れないみたいです。
ごめんなさいお父さん、お母さん。そっちに行ったら叱ってください。
そしてどうか、許してください。
「終わりです……ワルドっ!!」
「ぬううっ!?」
「ぬううっ!?」
ほとんど感覚の無くなった腕で振るった糸凪の刃が、ワルドの身体へと吸い込まれていきました。
残念ながら、刺した感触で偽者だとわかりました。ならせめて、術が私を襲う前にルイズへと教えなくちゃ。
残念ながら、刺した感触で偽者だとわかりました。ならせめて、術が私を襲う前にルイズへと教えなくちゃ。
「お前! こいつは偽者です!! 逃げ……あれ?」
おかしいです。いつまで経っても術が来ません。もしかしてルイズは間に合ったのでしょうか?
「どうして……?」
かすむ目でルイズの方を見ると、まるでワルドと重なるように腕を突き出していました。
何かが変です。とても見慣れていた物がない感覚です。
ぞわりと嫌なものが背中を走りました。
何かが変です。とても見慣れていた物がない感覚です。
ぞわりと嫌なものが背中を走りました。
「お前……」
ぐらりとワルドが倒れるのが見えました。よく見るとワルドの胸に、ルイズの持っていた杖が刺さっているのが見えます。
もしかして、あんな杖で人の身体を貫いたというのでしょうか?
でも、そんな事よりも、私には気になって仕方の無いことがありました。
ルイズの……ルイズの髪は、いつからあんな血のような赤になったのでしょうか?
もしかして、あんな杖で人の身体を貫いたというのでしょうか?
でも、そんな事よりも、私には気になって仕方の無いことがありました。
ルイズの……ルイズの髪は、いつからあんな血のような赤になったのでしょうか?
「お前……?」
続けて呼びかけますが、ルイズはぴくりとも動きません。
「ルイズ!! こちらを見なさいルイズ!!」
私の声がようやく聞こえたのか、ルイズはゆっくりとこちらを振り向きました。
表情を見ると、少し顔色が青く見えますが、目に光はあります。
表情を見ると、少し顔色が青く見えますが、目に光はあります。
「わたし……わたし人を……」
その声を聞いて、少しだけほっとしました。
どうも、人を刺したという事に怯えているだけのようです。
人を傷つけるというのはいい事ではありませんが、心の傷なら一緒に悩んであげられます。そう、ルイズの意思があるのなら。
今は、お互いに助かったことを喜びましょう。
私達は、生きているのですから。
どうも、人を刺したという事に怯えているだけのようです。
人を傷つけるというのはいい事ではありませんが、心の傷なら一緒に悩んであげられます。そう、ルイズの意思があるのなら。
今は、お互いに助かったことを喜びましょう。
私達は、生きているのですから。
「ルイ――」
「何でよ……何でなのよ……何でこうなるのよ……」
「何でよ……何でなのよ……何でこうなるのよ……」
トンと誰かが私の背中を叩いたせいで、言葉が途中で途切れちゃいました。
ちょっと疲れちゃったんでしょうか? おっといけません、ルイズが泣いちゃいそうです。
ほらほら、大丈夫ですよルイズ。
ちょっと疲れちゃったんでしょうか? おっといけません、ルイズが泣いちゃいそうです。
ほらほら、大丈夫ですよルイズ。
「ごぽっ」
へ? 今の何の音ですか?
「あ……あ……」
どうしたんですかルイズ? 変な声を出して。さっきの音がそんなにおかしかったですか?
それよりなんだかさっきからうごきにくいですね。
あれ? なんですかこのむねからはえているものは?
それよりなんだかさっきからうごきにくいですね。
あれ? なんですかこのむねからはえているものは?
「まさか偏在が全て倒されるとは計算外だ。しかも一人はルイズに倒されるとはね。実に驚きだよ」
このこえは――
ダネットが血を吐いて崩れ落ちる。
その後ろには、血に濡れた杖を持つワルドの姿。
その後ろには、血に濡れた杖を持つワルドの姿。
「マズった! 偽者は四匹だったってことかよ!!」
「ふむ。声だけの君はなかなか察しがいいようだね。その通りだよ」
「ふむ。声だけの君はなかなか察しがいいようだね。その通りだよ」
偽者……? 最後にわたし達が倒したワルドが偽者?
だったら、あそこにいるのが……。
だったら、あそこにいるのが……。
「ダネット!! しっかりしなさいダネット!!」
頭は理解して口から叫びが漏れるのに、身体は緩慢にしか動かない。
ようやくダネットの傍まで行き、必死にダネットの身体を揺する。
ようやくダネットの傍まで行き、必死にダネットの身体を揺する。
「ダネ――」
「にげ……て……に……げて……」
「にげ……て……に……げて……」
ひゅーひゅーと息を漏らしながら、ダネットは「逃げて」と繰り返す。
「逃げれる訳……逃げれる訳ないでしょ!! 起きなさいダネット!! クックベリーパイでもなんでもあげるから起きなさい!!」
「に…………て……」
「に…………て……」
ダネットの身体から血が流れる度に体温が失われていく。言葉が消えていく。
「相棒! そいつはもう駄目だ! 諦めろ!!」
もう駄目? 誰が? 諦める? 何を?
わたしには力があるんでしょ? だったら助けてよ。ダネットを助けなさいよ。お願いだから助けてよ。
わたしには力があるんでしょ? だったら助けてよ。ダネットを助けなさいよ。お願いだから助けてよ。
「彼の言う通りだよルイズ。諦めて俺と共に来るんだ」
うるさい。黙りなさいワルド。わたしは諦めない。諦めないと誓ったんだ。逃げないと誓ったんだ。
二人で生きて帰るって誓ったんだ。
二人で生きて帰るって誓ったんだ。
「…………」
ダネットの口が動く。でも、何て言っているのかわたしにはわからない。見たこともない口の動きだ。
でもわかる。ダネットはわたしの知らない言葉でこう言っている。
でもわかる。ダネットはわたしの知らない言葉でこう言っている。
『まもれなくてごめんなさい』
わたしの、魂の、揺りかごが
こわれた
ようやくアルビオンが遠目に見えたあたし達の目に、とんでもないものが映った。
ソレは遠目でもわかるほどに大きく、ゆらゆらと揺れているようにも見える。
ソレは遠目でもわかるほどに大きく、ゆらゆらと揺れているようにも見える。
「なんなんだいあれは……」
ギーシュの怯えた声がする。隣のタバサも青い顔で『あれ』を見つめている。
多分、あたしの顔も真っ青なのだろう。さっきから膝が震えてる。
そんな中、怯えではなく疑念の声でデルフが呟いた。
多分、あたしの顔も真っ青なのだろう。さっきから膝が震えてる。
そんな中、怯えではなく疑念の声でデルフが呟いた。
「嘘だろ……なんであいつが出やがんだ!?」
デルフは知っているんだろうか? 『あれ』を。あのアルビオンの上に立つ、恐ろしい姿の『巨人』を。
ふと何故か、あたしの中に一つの言葉が思い出された。
ルイズがダネットを召喚した日、ダネットが言っていた言葉。
ふと何故か、あたしの中に一つの言葉が思い出された。
ルイズがダネットを召喚した日、ダネットが言っていた言葉。
「世界を……喰らう者……」
その言葉は、自然とあたしの口から漏れていた。