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絶望の街の魔王、降臨 - 13.5


 ルイズは疲れ果て、城の一室で泥の様に眠っていた。運動神経は悪くないが、軍人に、しかもその中でもかなりイレギュラーな存在であるジルについていくことはかなりの体力を消耗することを意味し、対価のように疲労を積み上げていった。トドメは復路だった。
 馬に慣れているとはいえ、馬を替えながら最短ルートを全力で走らせればかなり疲れる。
 ほとんど気力だけでデブリーフィングを乗り越え、終わった途端、ぱたりと倒れたのだった。
 アンリエッタが大騒ぎしたが、ジルが冷静に診断して(それでも落ち着かないアンリエッタを一睨みして黙らせた)ただ眠っているだけと判り、それからすぐに部屋を与えられ、ベッドの中。
 その夢の中────



『Checking System...』
 変な……大きな、金属の醜い塊。禍々しい。その隣でジルは佇んでいた。ルイズは少し離れた場所でそれを見ていた。
「全く……最後までよくわからない仕掛けね」
「あ、ジル……ッ!」
 ジルが歩きだし、その姿が曲がり角に消えて、そこで初めてその場所の異常さにルイズは気付く。
 死体だ。禿頭の、灰色の肌をした巨人の死体。いや、それだけではない、その先には普通の人間が血を流して倒れている。何人も、何人も。誰かは顔がない、誰かは頭が変な方向に向いている、誰かは腹に大穴が空いている。誰もが眼を背けたくなる程の惨い死に様を晒していた。
「じ……ジル!」
 恐怖に駆られ、唯一この場で頼れる存在を探し、ルイズは駆け出す。死体からなるべく距離をとろうとするが、いかんせん数が多く、ここは狭い。靴の裏が何かを踏み潰す感触を伝えるが、ルイズはそれを無視して走る。
 その姿はすぐに見つかった。袋小路で箱を押していた。
 そしてそこには、巨大な化物の死骸があった。
「う……ジル! ジル!」
 箱を何かに押し込んだジルはルイズを無視して何処かに行こうとする。そんなことも気にせず、ルイズはジルに抱きつく────が。
「わぶっ!?」
 その手はジルに触れることはなく、その身はジルをすり抜け、壁に派手にぶつかる。
「どうして……」
 ジルに振り向くと、険しい顔をして化物の死骸の方を睨んでいた。
 嫌な予感と共にそこを見ると────肉塊。不気味に蠢き、汚液を吐き……そして巨大な、化物になった。
 ルイズはそのおぞましさ、恐ろしさに動けない。生理的嫌悪感と生物としての正しい防衛本能が無意識に怪物から距離を取ろうとして、壁に背をぶつけ、眼を背けられず震えている。
 ジルは既に遠くで──といってもこの狭い部屋では比較的、と頭につくが──何か作業をしている。化物はルイズを無視して、ルイズをすり抜けて這いずり、ジルを追って……箱に這い上がる。
 箱の向こうでフラッシュ、聞き慣れない銃声。時折ジルの悲鳴が聞こえる。濁った液を吐き散らし、それが当たった『何か』や死体が溶けてゆく。
 しかし、それも長く続きはしなかった。ジルの攻撃に耐え兼ねたのか、化物は箱から降り、白い怪物の死骸を喰らい始めた。
「う……うえぇぇぇ」
 膝を突き、ルイズは嘔吐する。しかし、口からは何も出ない。狂ってる、こんな世界。
 それが銃爪になったのか、ルイズに僅な冷静さが戻る。化物は、ジルはルイズに触れられない。いや、見えてすらいない。ここにルイズは存在しないことになっている。恐怖に塗り潰された頭が、だんだんと理性で塗り替えられてゆく。
(これは、夢だ)
 恐ろしいが、どうってことはない。これは悪夢だ。いつもの(より遥かに恐ろしいが)悪夢なんだ。長時間見てると心が麻痺しそうだが、そう自分に言い聞かせ、一歩を踏み出す。
 ジルに頼ろうとする自分が情けない、とルイズは思うが、無意識で信頼、或いは憧れに近い感情を持っているのは間違いない。
 ジルなら絶対に護ってくれる、ジルの近くなら大丈夫と。
 迷うことなく、ジルを追う為の一歩を踏み出す。数歩歩いた曲がり角、その突き当たりの、あの機械の前にジルがいた。醜い機械が放つ唸りがだんだんと高くなっていき、
『5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・Fire』
 無機質な男の声。その終わりと同時に、耳障りな音がルイズの耳を突き刺した。咄嗟に耳を押さえ、瞼を閉じる。眼を開くと、頑丈そうな箱が、壊れ、消滅していた。ジルの方を見ると、退屈そうに立ったままだ。
 再び高くなる不快な音。化物は相変わらず化物の死骸を喰らい、ジルは動かない。ルイズはいつ来るか判らない音に備え、耳を手で塞ぎながら時を待った。
『Fi・・・F・・・Thr・・・T・・・・・・Fire』
 そしてルイズは見た。それは赤い砲弾。それが一心不乱に肉を喰らう怪物に吸い込まれ、それの躯を大きくえぐり、続く二発目がその巨躯を吹き飛ばし、その行動の全てを止めた。
「やれやれだわ」
 ジルは既に動かない肉塊に近付き、もう動かない事を確認した。
 そして踵を返すと、奥のドアに向かった。ルイズも慌ててそれについていくがーーーー
「!」
 あの肉塊が再び動き出し、這いずりながらジルを追う。それに気付かないジルではない。
 肉塊が吹き出す汚液を回避、その先にあった銃を手にし、一気に三連射。肉塊が怯んだ隙に立ち上がり、ゆっくりと近付きながら撃つ、撃つ。
「S.T.A.R.S.がお望み? なら星をくれてやるわ」
 最後に一発。それきり、肉塊は動かなくなった。
「ふう。急がないと」
 ジルが扉に向かう。慌ててルイズもそれを追う。



 小さな部屋を出ると、そこは広場だった。どういう魔法を使ったのかは判らないが、あの小さな部屋は、行きたい場所に行けるマジックアイテムなのだろう。そう納得して、ジルの後をつける。
「ジル! ヘリが来るぜ!」
 浅黒い肌の男が、手に持つ煙の出ている棒を振りながら、ジルに声をかけた。それからすぐ、喧しい音と共に、巨大な風車を持った何かが飛んできた。乗り物らしいそれは広場に降り、ジルと男はそれに乗り込む。ルイズも閉められた扉をすり抜け、その中に潜り込む。ジル達は何やら中にいた男と言葉を交わし、乗り物はまた浮き上がる。
「時間ね」
「ああ」
 ジルが窓の外を眺めている。その視線の先には、光が煙の尾を曳いて、さっきまで自分達のいた街に向かって飛んでいく。
 まばゆい光が、ルイズの眼を灼き、ホワイトアウトさせる。乗り物が大きく揺さぶられる。反射的に何かを掴んだルイズはどうにかそれに耐え、眼を開いた。
 まず眼に入ったのは、街の上に立ち上るキノコ状の黒い雲。その下では、綺麗な円形の炎が街を覆い尽くしていた。
『たった一発で焦土にできるわ』
 その言葉の意味を、今ルイズは初めて信じ、そして理解した。




 寝汗が酷い。
 寝起きなのに意識がはっきりしている。
 そして、夢は鮮明に思い出せる。
 トリスタニアより遥かに大きな街が、一瞬で炎に包まれた。
 精強なスクウェアの火のメイジを、どんなに数を揃えたとしても不可能な攻撃。それをたった一発の『何か』で達成する。
 ルイズは知ってしまった。ジルの世界の、兵器の本当の威力を。
 あれは夢なんかじゃない。異常なまでのリアリティが、ルイズにそれを自覚させる。
「なんてこと・・・・・・」
 ルイズの中で、あることが決断された。


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