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毒の爪の使い魔-42


年末の二つの月が重なる日の翌日、トリステインとゲルマニアの連合軍六万を乗せた大艦隊がアルビオンへ攻め入る日が来た。
その出港の日の朝、ルイズ達は侵攻軍の大艦隊が浮かぶ、ラ・ロシェールの港町へとやって来ていた。
「また来る事になったわね…」
乗っているシルフィードから身を乗り出し、眼下に広がるラ・ロシェールの町並みを見渡す。
以前はジャンガとキュルケとギーシュと、そして…ワルドと来た所。
その時はアンリエッタに頼まれて、ウェールズ皇太子から手紙を回収する為に、アルビオンへと行った。
今度はそのアンリエッタを助けに此処へ立ち寄り、アルビオンへと行く。
あの時はワルドの裏切りで任務を果たせず、皇太子までも死なせてしまった。…だが、今度は違う。
今度は絶対に死なせない。必ずアンリエッタを助け、自分も無事に戻る。そう約束したのだから。
決意に身体を振るわせるルイズの肩を誰かが、ポン、と叩く。キュルケだ。
「あんまり気を張り詰めないのよ、ヴァリエール。色々気負っているのは解るけど、いつもそんなじゃ持たないわよ?」
「そうね」
ルイズは軽く笑いながら返事を返す。
ちなみに今のシルフィードの乗員はルイズ、タバサ、ジャンガの他に、キュルケとモンモランシーも雑ざってる。
キュルケとモンモランシーは本来ならば実家に戻るべきだったのだが、ジャンガが無理やり連れてきたのだ。
だが、強引とは言え…二人ともそれほど嫌な感じは無いようだ。
キュルケは祖国の軍に志願して、女子だからと認められなかったから、この誘いは渡りに船とばかりに喜んで付いて来たのだ。
モンモランシーは表面上嫌がってはいたが、心配だったギーシュと一緒に居られる事になったので内心喜んでいた。
とまぁ、各自思惑は色々なれど、結局は一緒に居るメンバーだった。

そうこうしているうちに、一行を乗せたシルフィードは艦隊が出港の時を待っている港へと到着した。
港は世界樹の枯れ木を利用している物だ。何本もの枯れ枝の先に何十隻もの軍艦がぶら下がっている。
枯れ木とは言え、巨大樹に軍艦が何十隻もぶら下がっている姿は壮観であり、ルイズ達は目を奪われた。
「凄いわね…」
「本当…、これから戦争に行くって事を嫌と言うほど実感させてくれるわ」
キュルケもモンモランシーも呆然と呟く。
そんな彼女達を尻目に、ジャンガはシルフィードの足に結わえ付けていた荷物を外している。
布に包まれて解らないが、結構大きい物だ。
ルイズはジャンガの傍へと歩み寄り、彼が外しているそれを覗き込んだ。
「ねぇ」
「ンだ?」
「それってなに? 夕べ一晩中コルベール先生の研究室に籠もってたようだけど、それと何か関係有るの?」
「さ~て…、どうだと思う?」
笑いながらそう返すジャンガの言葉を聞いて、ルイズは「別に」と言った。
答える気は無いと判断したのだ。流石に彼女も彼の扱いには慣れてきていた。
ジャンガは外したそれを背中に担ぐと歩き出した。
「オラ、行くぞ?」
「あっ!? ちょっと、待ちなさいよ!」
さっさと行ってしまうジャンガの後を、ルイズ達は慌てて追いかけた。



乗る予定の艦は直ぐ見つかったが、その直後に護衛の兵を伴った将校に出迎えられた。
「クリューズレイと言います。ミス・ヴァリエールは何方でしょうか?」
「あ、わたしですけど?」
ルイズが名乗り出ると将校はルイズと使い魔であるジャンガのみを別の艦へと案内した。
案内された艦は『ヴュセンタール』号と言った。竜騎士隊の運用に特化された艦である。
「あの…わたし達はどうしてここに?」
ルイズが気になって尋ねたが、士官は答えない。
迷路のような狭い艦内をジグザグに移動し、やがてとあるドアの前で止まった。
士官がノックをすると中から入室を促す声が聞こえてきた。士官はドアを開け、二人を中に入れた。
随分と広々とした部屋だった。大きなテーブルが中央にあり、豪勢な衣装に身を包んだ将軍達が席に座っている。
従兵が席を勧め、ルイズはその席へと座り、ジャンガは隣の席に無遠慮に腰掛ける。
当然、将軍達は苦々しい表情でジャンガを睨み付けて怒鳴ったが、当の本人はまるで意に介さない。
少しは空気を読んで欲しい、とルイズはため息を吐く。
と、一番上座に腰掛けていた将軍が手を上げ、他の将軍達を宥めた。
その将軍はそのままルイズに視線を向ける。
「アルビオン侵攻軍総司令部へようこそ。ミス・”虚無”<ゼロ>。総司令官のド・ポワチエだ」
その言葉にルイズは緊張した。訳も解らず案内された先での総司令官といきなりの対面だ、無理も無い。
「こちらが参謀総長のウィンプフェン。そして、ゲルマニア軍司令官のハルデンベルグ侯爵だ」
紹介された二人の将軍が頷く。
それからド・ポワチエは会議室に集まった将軍や参謀達に、ルイズを紹介する。
「さて各々方、こちらが陛下直属の女官にして我々の切り札でもある”虚無”の担い手、ミス・ヴァリエールですぞ」
だが、会議室は盛り上がらない。未だ胡散臭そうにルイズと使い魔であるジャンガを見比べるばかりだ。
そんな将軍達にド・ポワチエは更に言葉を続ける。
「先のタルブでの戦いの折、敵の軍勢を食い止め、『レキシントン』号を落としたのは彼女達なのです」
その言葉に将軍達はようやく関心を持ったのか、表情を一変させてまじまじとルイズ達を見つめた。
ド・ポワチエは演技が混じった笑みを浮かべる。
「いきなり司令部に通されて驚いただろう? いやすまん。この艦が旗艦だと言うのは極秘なのだ。
見て解るだろうが、何しろ竜騎士を搭載する事に特化した艦でな、大砲も積んどらん。
敵にバレて狙われては面倒な事になるからな」
「は、はぁ……、しかし、どうしてそのような艦を総司令部にしたのですか?」
「ンな事も解らねェのかよ?」
将軍達が答える前にジャンガが口を開く。
ルイズはジト目で睨んだ。
「解らないから聞いてるんだけど?」
ハァ~、と大仰な仕草でジャンガはため息を吐いてみせる。ルイズはカチンときたが、あえて何も言わなかった。
「戦艦は戦闘のために大砲やら、火薬やら武器を積まなきゃならねェだろが?
ンな物でごちゃごちゃしてる船にこんな広い部屋は用意出来ねェ。
だから、そう言った物が無い船が選ばれんだよ……解ったかよ?」
「良く解る説明ありがとう」
ルイズは殆ど棒読みの口調で、形だけの礼を言った。
「雑談はその位にして、軍議を続けましょう」
ゲルマニアの将軍の言葉に会議室から笑い声が消えた。

率直に言ってしまえば、二人が――正確にはルイズ<虚無>が――呼ばれたのは、アルビオン侵攻の助力を頼むためだ。
アルビオンへと連合軍六万の兵を無傷で上陸させる為には、二つの障害が在る。
一つは未だ有力なアルビオン艦隊。
先だってのタルブ戦役でレキシントン号を落としたが、その数はまだ四十隻以上を残しているようだ。
対する連合軍はトリステイン・ゲルマニアを合わせて六十隻ほどの戦列艦を保有しているが、
指揮系統の違いなどで混乱が予測されており、数の差は無くなってしまうかもしれないのだ。
もう一つは上陸地点の選定。
アルビオン大陸で六万の兵を降ろせる要地の候補は二つ。
首都ロンディニウムの南部に位置する空軍基地ロサイスと、北部の港のダータルネスだ。
港湾設備の規模から、ロサイス上陸が連合軍にとっては望ましい。
しかし、真っ直ぐそこへ向かっては敵にその意図を教えているようなもの。
迎撃の準備と対策を立てる時間を相手に与えてしまう事になるのは間違いない。
ここで消耗してはアルビオン首都ロンディニウムを落とす事は叶わず、陛下の救出すら不可能となってしまう。
冷静に戦力を分析しながら一同に告げる参謀長の言葉に、将軍達は揃って難しい表情を浮かべた。
連合軍にとって今必要なのは奇襲である。
敵の抵抗を受けずに六万の兵を無傷でロサイスへと上陸させたいのだ。
その為には敵軍に連合軍が『ダータルネスへと上陸する』と思わせ、そこへ吸引するしかなかった。
敵の艦隊とロサイスへの無傷での上陸、この二つが現在総司令部が抱える問題だった。

「どちらかに”虚無”殿の協力を得られないだろうか?」
参謀の一人がルイズを見ながら言った。
「タルブの戦の時と同様に敵の艦隊を吹き飛ばせないだろうか?」
「それは無理です。あれほどの『エクスプロージョン』を放つには、余程の精神力が溜まっていないと不可能です。
精神力が溜まるのも、あと何ヶ月、何年掛かるか…」
参謀達は、やれやれ、と首を振った。
「そんな不確かな”兵器”は切り札とは言わん」
直後、その参謀は背筋が震えるような感覚に襲われた。誰かの鋭い視線を感じたのだ。
その視線を感じる方へ目を向け、参謀は息を呑んだ。
――”虚無”が自分を見つめていた。
その目は細められ、冷ややかな視線を此方へと投げかけている。
まるで獲物であるカエルを睨み付けるヘビのような、殺し屋のように冷たい視線だ。
その身体からは冷たいオーラの様な物も漂っている。

ルイズはその参謀を静かに見つめながら口を開く。
「お言葉ですが、わたしは”虚無”の担い手であるだけで”兵器”などではありません。
陛下直属の女官であるラ・ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。
わたしがこの場にいるのは、大恩在るアンリエッタ女王をお救いする事に、陛下直属の女官として”協力”する為。
そのわたしを”兵器”呼ばわりする事は、わたしのみならず、ラ・ヴァリエール家、そして陛下に対する侮辱となります」
ルイズの視線の冷たさが増す。
「故に、軽々しい発言はどうか慎んでください。そして…わたしは”虚無”ではなく、
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールですので、ご了承の程をお願いします」
参謀は小さく頷くと、椅子の背凭れに倒れ込むようにして寄り掛かった。
ルイズはそんな参謀の様子に小さくため息を吐いた。
そんなルイズの様子を見ながらジャンガは含み笑いをする。
(キキキ…こいつも少しは出来るようになったじゃネェか? 中々の殺気だゼ)
自分の影響であるのだが、そんな事を気にしたりはしない…寧ろ楽しんでいるジャンガだった。

場を取り成すかのようにド・ポワチエが口を開く。
「艦隊の方は我々が引き受けよう。きょ――いや、ミス・ヴァリエールには敵の陽動を引き受けてもらいたい」
”虚無”殿と言い掛けて、ルイズの冷たい視線を感じたド・ポワチエは、慌てて言いつくろった。
「陽動とは?」
ルイズの言葉にド・ポワチエは誤魔化すように咳払いをする。
「先程議題に上がったとおりの事だ。我々がロサイスではなく『ダータルネスに上陸する』と敵に思い込ませてほしい。
伝説の”虚無”ならばそれ位の事が出来る呪文はあるのではないかね、ミス・ヴァリエール?」
ルイズは暫し考え込む。
敵に自分達が全く別の場所へと居るかの様に思い込ませる呪文――そんな物が在るだろうか?
そう言えば”ディスペル・マジック”を覚えた時、デルフリンガーが言っていた。”必要があれば読める”と…。
ルイズは頷き、顔を上げる。
「解りました。作戦までには使用できる呪文を探しておきますわ」
おお頼もしい、と微笑むド・ポワチエ。…相変わらず演技の混じった笑みだ。
それで用が無くなったのか、二人は退室を促された。



「ホント…嫌な感じだったわ」
自分達が乗る艦へと戻ったルイズは開口一番、そんな感想を口にした。
広々とした部屋の中には彼女とジャンガ、再度合流したタバサ、キュルケ、モンモランシーが居る。
「ま、軍人なんてそんなものよ。戦争にどうやって勝つとか、勝ったらどうするかしか頭に無いんだし。
その総司令官の将軍も、結局は自分の出世の事しか頭に無かったりするんじゃないかしら?」
爪の手入れをしながら、つまらなそうにキュルケは言う。
忠誠心に疎いゲルマニアの貴族だからこその発言だった。
当の本人を見て来たルイズも頷き、同意する。
そんな二人のやりとりを欠伸をしながら見ていたジャンガは、ふと窓の外をボーっと眺めているモンモランシーに気付いた。
「ヨォ、どうしたドリル頭?」
「何よ?」
「オイオイ、心配して声を掛けてやったってのに、冷てェな…キキキ」
「あんたに心配される必要はないわ」
「キキキ。ま、それはともかくだ…」
窓の外を覗き込む。空を行く数多くの艦隊が視界に飛び込んでくる。
ルイズとジャンガが艦へと戻った直ぐ後、連合軍艦隊はラ・ロシェールを出港したのだった。
ジャンガはそれらの艦隊を暫し眺め、モンモランシーを振り返る。
「あの気障ガキが心配だったんだろ?」
「……さぁ、どうかしら?」
モンモランシーはそっぽを向く。しかし、その頬が僅かに染まっているのをジャンガは見逃さない。
顔を近づけ、小さな声で耳打ちする。
「そんなに連れなくすんじゃねェよ…。折角、寂しがってると思って連れて来てやったんだからよ」
「う、うるさいわね。わたしは寂しがってなんかいないわ。あいつなら心配ないんだし」
「そりゃまた、信頼してるじゃねェか?」
「ギーシュはこんな事で死なないわよ。あんたと決闘してからも何だかんだで生き残ってる位だし」
「キキキキキ、違ェねェ。テメェのようなバカみたいに付き添う女、ほっぽりだして死ぬほどバカな事もないしヨォ~」
ちょっと引っかかる物言いだったが、モンモランシーは反論を飲み込んだ。
「それよりも…、ねぇ何か考える事が在るんじゃないの?」
無理やりに話題変換を試みてモンモランシーはルイズに声を掛ける。
ルイズは困った表情を浮かべる。
連合軍六万を無事にロサイスへと上陸させる為には、『ダータルネスに上陸する』と敵に思い込ませる必要がある。
さてさて、どういった手段が有効なのか皆目見当もつかない。
これが人間とかならば精巧なゴーレムでも作って身代わりに出来るのだが、今必要なのは艦隊だ。
艦隊の偽者などどうやって用意すればいい?
”虚無”でもそのような事が可能な呪文があるかどうか…。
「立体映像でも使えりゃ簡単なんだがよ…」
ジャンガが呟いた。
「立体映像?」
気になったタバサが聞き返す。
「簡単に言えばな、人の姿や全く別の景色を空なんかに映し出す物だ。
俺のいた世界じゃそれほど珍しい物じゃないし、ガーレンの野郎もご大層な演説に使ってたからな。
まァ、ここにそんな物が在る訳ねェし…、無い物ねだりしても仕方ねェゼ」
「それよ」
ポツリとルイズが呟く。
ジャンガが怪訝な表情を浮かべる。
「それって何だ?」
「今あんたが言ったの! リッタイエイゾウとかってやつ!」
「だから、無ェって言っただろうが?」
「別にそれ自体を欲しいって言ってるわけじゃないわ。重要なのはそれがどう言う物かの説明よ」
ジャンガのみならず、その場の全員が首を傾げた。
そんな事は気にも留めず、ルイズは祈祷書を開いた。そんなルイズの行動にジャンガは眉を顰める。
「おい、どうしたんだよ? 説明が重要ってのはどう言う意味だ?」
「あんた、そのリッタイエイゾウとかって物の説明でこう言ったわよね。
”人の姿や全く別の景色を空なんかに映し出す”って」
「ああ、そうだがよ。それがどうした?」
「それを聞いて思いついたのよ。何も陽動にゴーレムの様な傀儡を用意する必要は無いって事を。
”それが居る”って解ればいいのよ、”視覚的”に」
「あン? そりゃまた…どう言う意味だ?」
ジャンガは聞き返すももうルイズは答えない。目を閉じて大きく深呼吸をした後、カッと目を見開いた。
精神を集中させながら、祈祷書のページを一枚一枚慎重に捲っていく。
そして、ついにあるページが光り出し、新たな呪文のルーンが現れた。
その呪文の内容を理解し、ルイズはしてやったりと言った感じで微笑んだ。



――翌朝…、事態は急変する事になった…。
午前八時…朝の八点鐘が鳴り、戦列艦『レドウタブール』号での見張りが交代する時だった。
突如、砲撃の音が響き渡り、戦列艦の内の一隻が爆発、炎上して轟沈したのだ。
それだけではない…、虫の様な幻獣らしき物が艦隊のあちらこちらに突如として現れ、暴れ出したのだ。
突然の事に指揮系統は一気に混乱に陥ってしまった。

「チッ、何だってんだ…こんな朝っぱらからよ!?」
突然巻き起こった謎の襲撃による騒ぎで、ジャンガ達は就寝中の所を叩き起こされる事となった。
それに苛立ちながら、ジャンガは飛んで来た赤と緑の虫に爪を振り下ろす。
ガキン、と硬い物が砕かれる音がして、その虫は真っ二つに割られた状態で廊下に転がった。
その廊下に転がった物を見つめ、ルイズ達は怪訝な表情を浮かべる。
「虫……いや、生き物じゃないの?」
バチバチ、と音を立てながら火花を散らす、その虫の様な物はどう見ても生き物ではなかった。
よく見ると、どうやらそれは鉄などで出来ているらしかった。

『ガレンヴェスパ』――ガーレンが製造した赤い蜂の様な形をした小型メカ。
本来は同じガーレン製造の巨大メカ『バグポッドD』から射出される支援用の機体である。
装甲は薄いが、その速度は並みの飛行機械の比ではない。
大群で敵を取り囲み、その速度を活かした突進攻撃を得意としている。

『ガレンビートル』――ガーレンが製造した緑色の甲虫の様な形をした小型メカ。
『ガレンヴェスパ』同様、本来は『バグポッドD』から射出する支援用の機体である。
速度は若干劣るが、装甲は厚くなっている。
攻撃よりは捕獲に特化しており、ハサミの様な形状をした二本のマニピュレーターで敵を挟み込むようにして捕らえる。

「ガレンビートルにガレンヴェスパ…、あの野郎…大層な出迎えをしやがるゼ」
ジャンガは忌々しそうに舌打をし、部屋への中へと舞い戻る。
何をする気だ? とルイズ達が思う間も無く、ジャンガは部屋から再び出るや、廊下を駆け出した。
その肩には例の荷物が担がれている。
「ちょっと、どこへ行くのよ!?」
「外に決まってんだろうが!」
ルイズの叫び声にジャンガは止まらずに叫び声で返した。

荷物を抱えたままジャンガは甲板へと出た。
轟沈した艦から立ち上った黒煙は、まだ薄っすらと残っている。
艦隊のあちらこちらから悲鳴や魔法などの音が響いてくる。
無数に飛び交うガレンビートル、ガレンヴェスパの姿も確認できた。
そしてジャンガは鋭い視線で辺りを注意深く見回す。まるで何かを探すように…。
と、ようやくルイズ達が追いついて来た。
「も、もう…、勝手に走り出さないでよね!?」
「……」
「ちょっと! 聞いてるの!?」
「…静かにしろ」
「え?」
真剣な表情で周囲を見回しているジャンガにルイズは何かを感じた。
「…一体どうしたってのよ?」
「敵艦を探してるんだよ」
「敵艦?」
言われてルイズ達は周囲を見回す。
しかし、周囲に見えるのは見方の艦隊ばかりだ。
「そんなもの…何処にも見当たらないじゃない?」
「…いや、居る」
「居るって言っても…」
「ガレンビートルとガレンヴェスパ……どちらも航続距離はそれほど長くは無いはずなんだよ。
だってのに、こんな空のど真ん中にあれは居た。って事はだ…考えられるのは一つだけだ」
ジャンガの言葉にタバサが答えた。
「何かによってここまで運ばれた?」
「ああ。それに、あれだけの数となればそれなりの大きさの物だろうゼ。
加えて、先程の艦の轟沈の際には砲撃音も聞こえた。だから探してるんだよ…」
言いながらジャンガは周囲に視線を向ける。
やはり敵艦は陰も形も無い…が、何か違和感はあった。
(何処だ?)
違和感の在る場所を特定するべく、神経を集中させる。

――砲撃音が再度響き、数隻が炎に包まれた。

「そこか!!!?」
叫ぶや、ジャンガは担いだ荷物を包んだ布を取り去る。
その下から現れた物を見てルイズ達は驚きの表情を浮かべた。
「あんたそれって…『破壊の箱』じゃないの!?」
それは『土くれのフーケ』によって盗まれ、それの操るゴーレムを撃退する為に自分が使用した『破壊の箱』だった。
確か、これは使い捨てとかジャンガ本人が言っていたはずだが…。
「それ…使えるの?」
「その為にあいつの研究室使わせてもらったんだよ」
言いながらジャンガは『破壊の箱』…否、『ミサイルポッド』を構える。
新たに取り付けた照準機を覗き込みながら、砲身を艦隊の前方へと向ける。
その狙いが何も無い空へ向けていられる事に気が付き、ルイズはジャンガに言った。
「ちょっと、そっちには何も無いじゃないの!?」
「黙って見てろ…」
そう言ってジャンガは集中する。
何も無い空の一点…、そこに照準を合わせ、引き金を引いた。
発射音が響き渡り、四発のミサイルが飛ぶ。
夕べコルベールの研究室で即席で作った物だが、出来は上場だ。
勢いよく飛び出したミサイルは数百メイルの距離を一気に突き進み――消えた。
「え?」
ミサイルが唐突に掻き消えたのを見て、ルイズは目を見開く。他の皆も同様だ。
ジャンガだけはニヤリと笑う。
「なるほどな…、そう言う事か」
そう呟いた瞬間、凄まじい爆発音が響き渡った。
直後、水滴が落ちて波紋が広がる水面のように、前方の空が震える。
その震えは徐々に強くなり、完全に歪んでしまった。
やがて震えが治まった時、前方にはそれまで無かった物が姿を現していた。
「どう言う事…?」
ルイズは呆然と呟く。それは全員の意見でもあった。

――距離にして三百メイルも無い所に、三十隻以上の敵艦隊の姿が在った。

殆ど目と鼻の先に敵艦隊が突如姿を現した為、味方艦隊のあちらこちらから驚きの声が上がった。
ジャンガはミサイルポッドを肩から下ろし、床に置いた。
そこへルイズ達が声を掛けてくる。
「ね、ねぇ、あれってどう言う事!? いきなり艦隊が現れたわよ!?」
「どう言う事ってよ……昨日言ったやつの応用だ」
そのジャンガの言葉にタバサは口を開く。
「立体映像」
「え? じゃあ何…、あの艦隊は偽者だとでも言うの!?」
ルイズの言葉にジャンガは首を振る。
「…ちと違う。あれ自体は本物だ。その証拠に、今撃ったミサイルで燃えた艦が一隻落下して言ってるだろうが」
確かに、炎上する艦が一隻落下していったのが見えた。
その艦を一瞥してジャンガは言葉を続ける。
「ようするにだ、今の艦には立体映像の装置が積んであったんだよ。
艦隊の前方で、自分達の目の前の広い範囲に何も無い空の映像を映し出し、艦隊の姿を隠してたって訳だ」
「こんな近くにまで接近されても気付かれないなんて…」
とんでもない戦略性の高さだ。
これだけの距離で不意打ちを食らっては、味方はそうそう体勢を立て直す事は出来ない。
敵艦隊からは砲撃が繰り返され、次々と例の虫型のガーゴイルと思しき物が飛んで来る。
ジャンガは舌打し、ルイズを振り返る。
「オイ! 例の呪文は上手く使えんのか!?」
「え? ええ…、いけるわよ。でも…敵の艦隊が邪魔をしているじゃない?」
確かに、ダータルネスに行こうにも敵艦隊に道を塞がれている。
ジャンガは続けてタバサを振り返る。
「タバサ、シルフィードだ!」
「解った」
二つ返事で口笛を吹く。甲板に即席で建てられていた竜舎からシルフィードが出て来た。
キュルケがジャンガに尋ねる。
「どうする気なの?」
「そんなもん決まってる。道を作ってやる」
「道って……あなたまさか!?」
驚くキュルケの顔を見ながらジャンガはニヤリと笑う。
「ちょっと正気!? あの艦隊の中にシルフィードだけで飛び込んだら、ただじゃすまないわよ!?」
「んな事は百も承知だ。それに…別にあの艦全部を沈める気も無ェ」
「じゃあ、どうする気なのよ?」
聞き返すモンモランシーの言葉に、ジャンガは艦隊を見つめる。
艦隊の一番奥、一隻だけポツンと孤立するような形の艦が在った。
「”頭”をぶん殴るだけだ」
「頭?」
「あの艦隊を指揮している旗艦…人体で言う所の頭を潰す。手や足を潰しても、痛みを我慢して仕掛けてきたりもするが、
頭はそうは行かねェ。完全に潰せば動かなくなるし、ぶん殴っただけでも効果はある」
そしてジャンガはタバサに続き、やって来たシルフィードの背に乗った。
ルイズは慌てた。
「ちょ、ちょっと!?」
「俺とタバサで頭をやる。身体の動きが止まったら、テメェはダータルネスに向かって虚無ぶっ放せ」
「どうやって行けばいいのよ!?」
「シルフィードだけ戻す。テメェはただ、艦隊の動きが鈍った所で飛び出せばいいんだよ! やれ、タバサ!」
「解った。シルフィード、行って」
「きゅい!」
ジャンガとタバサを背に乗せたシルフィードは一声鳴き、甲板から勢い良く飛び立った。


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