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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-52


52.もう限界

ルイズが詩の代筆を頼んでから二週間が過ぎた。
世間では高等法院のリッシュモンが行方不明になったことが話題になっている。
実際ここ数日誰も彼を見ておらず、王宮は何かの事件に巻き込まれたのでは、と彼の行方を調査している。
もっとも、そんな話はすぐに忘れられるだろう。アンリエッタ姫の結婚式が近づいている。
ほとんどの国民はお祝いの準備に忙しく、普段何をしているかあんまり分からない老貴族に構っている暇なんて無いからだ。

授業が終わったルイズは自室で完成した詩を見比べていた。
4人が書いてくれた詩の中からこれは、と思った一人の詩を詠みあげる。

「火をかき消し、水を切り裂き、土を吹き飛ばす……ああ、風よ舞え。
その疾風に勝る物は無い。打ち砕け、破砕せよ。おお、素晴らしき風……」

いくら詩が作れないと言っても、書いてはいけない言葉くらいは分かる。
感謝の詩なのに、他の系統を下に見たらダメでしょ。
ため息をついてギトーの詩をゴミ箱に投げ捨てた。

「他は……大丈夫そうね」

後は自分が大勢の前でハッキリと詠みあげれば良いだけだわ。
ルイズはほっと胸をなで下ろす。人前に出るのは何の問題もない。
多少緊張するかも知れないが、それに怖じ気づくようではヴァリエールの名が泣いてしまう。

明かりを消し、ルイズは一人床に就く。
ただ詩を眺めていただけだが、いつの間にか夜も更けていた。
マーティンはコルベール先生とまた話でもしてるんでしょ。
待っていたら明日に響くルイズは早々に眠るのであった。

マーティンがルイズの部屋に戻ったのはそれから数時間後。
すっかり夜が更けてからなのは言うまでもない。


「ミス・ヴァリエール。親族の方がお見えになっていますよ」

何事も無く時間が過ぎて昼休み。ルイズが昼食を食べていると、
いつの間にか戻って来たシエスタが小走りでやって来てそう言った。
はて、とルイズは思った。何か悪いことしたかしらと。
発想が後向きなのはこれまでの人生経験によるものだが、
それでも家族が学院に来るなんて、何か不始末をやらかした時くらいのものだ。
不思議そうな顔でルイズは首をひねる。
隣のマーティンを見ると、彼は少しばかり考えてから口を開いた。

「詩について、じゃないかな?王宮から君の家族宛に手紙を送ったのかもしれない」

なるほど。ルイズは納得した。考えてみれば自分は詩が作れない。
それで様子を見に来たのかも……でも、誰が?
とりあえず昼食もそこそこに、ルイズはシエスタの後を着いていく。

着いた先は学院長室。シエスタが丁寧にノックをしてドアを開ける。
自分と同じ髪色が、ルイズの目に映った。大好きな姉がそこにいた。

「こんにちは、ルイズ」
「ちいねえさま!」

ルイズはカトレアに駆け寄る。カトレアは抱きしめようと構えたが、
ルイズはその胸に飛び込まなかった。

「いつまでもねえさまに甘えてちゃいけないもの」
「手がかからなくて助かるわ。実は飛び込まれるの、ちょっと痛いのよ」

そんな姉妹の団らんは、学院長が咳払いしてようやく終わる。
カトレアはルイズを学院長の前に立たせ、自分はその横に立った。

「うんうん。仲良きことは良きことかな。さて、ミス・ヴァリエール。
 実は君の姉上殿が、君を休学させたいと申し込まれてな」

「休学?」

カトレアはその疑問符に少し驚いたようにルイズを見る。

「ルイズ。エレオノール姉さまがあなたをつねりながら言った言葉、覚えてる?」
「えーと……」

忘れたくても忘れられない。あの後数日夢に出た長姉が、あの時言った言葉。

「夏期休暇の間、アカデミーに来なさいって」
「ええ。それで、あなた姫さまの結婚式で何の役に選ばれたのかしら?」
「四系統の詩を詠みあげる巫女の役よ!」

得意げにルイズは言った。カトレアはため息をついて続ける。

「あのねルイズ。結婚式は夏期休暇と一緒に始まるのは知ってるかしら?」

結婚式はニューイの月の一日から、ヴィンドボナで盛大に行われる予定だ。
当然ルイズも知っている。

「で、お祭り騒ぎはしばらく続くわね。いつ終わるかしらないけど。
 あなたもトリステインから呼ばれた代表の一人になるのだから、
 途中で帰ったりは出来ないんじゃないかしら。
いえ、仮に帰れたとしてもあなた、夏休みが終わるまで帰ってこないんじゃないかって。姉さまが」

確かに、帰らなかったかもしれない。アカデミーで何されるか分かったもんじゃないし。
ゲルマニアでアンリエッタと騒いでいるのはきっと楽しいだろうし。

そんなルイズに、カトレアはどこか狂気の老人を思わせる笑顔で釘を刺す。

「あなたが詩を詠みあげるって聞いた時の姉さま、おもしろかったわよ。逃げたなって。
 顔を赤くして、近くにいたバーガンディ伯爵に八つ当たりしていたわ
姉さまは色々と忙しくて、アカデミーから離れられないのよ」

ルイズの顔からどんどん生気が抜けていく。姉を怒らせて良いことが起こった試しは一度も無い。
カトレアがとどめとばかりに肩を叩く。

「だからわたしが呼びに来たの」
「ちいねえさま。辞退とか、遠慮するとか……してもいいのかな?」

呆れたようにカトレアはルイズを見る。
その冷たい目は追憶の中で見た鋭い視線そのもので、
ルイズをひっと怯えさせる。

「今更そんなこと言ったら、姉さまは解体とかするかもしれないわね」

何が、とは言わなかった。ルイズからしてみればその方が怖かった。

「だ、だって、し、試験とか」

しどろもどろとカトレアに気圧されながらルイズは続ける。
学院長がそんなルイズに追い打ちをかける。

「構わんよ。どーせ君万年主席じゃし。先生方には適当に言っておくとも。
なんなら試験問題をアカデミーの方で解いてもらってもかまわんよ」

何か面倒そうだから行ってくれた方が良いんじゃね?と学院長は鼻をほじりながら考えているらしい。
教え子を守るとか、そんな気概は全くない。

「決まりね。準備を整えてすぐ行きましょう。それと使い魔のマーティンさんも呼んで来てね。
 あ、アカデミーからゲルマニアへ行くから忘れ物とか無いようにね。
 ドレスはお父様が準備していらっしゃるから。心配はいらないわ。
あ、それと姉さまがお付きの侍女を連れてきなさいって。示しがつかないんですって」

カトレアが早口で言った言葉は、ルイズの耳にあまり入っていない。
茫然自失なルイズの耳元でカトレアはささやいた。
シェオゴラスがしたように。

「早くしないと、姉さまが来るわよ?」

びくっとルイズの体が震える。涙目になったルイズは勢いよく返事をした。

「いいい、行きます!すぐ準備します!」

甘えないと言ったのだから、これくらいしても大丈夫よね。
カトレアはコロコロと笑って、おかしそうによろしいと言った。


「なるほど、調査ですか」

慌てたルイズに食堂から連れ出され、何が起こったのかよく分からないまま荷造りしたマーティンは、
立派な校門の外で佇むルイズの姉、カトレアから事情を聞いて大体理解した。
とりあえず替えの服をいくらか入った袋と、寂しそうにしていたデルフを背負っている。

肝心のルイズはまだ準備の途中らしい。
女の子は色々と時間がかかってしまうのだ。

「ええ。あの子の力について、エレオノール姉さまはとても関心があるみたいで」

なるほど。薬を届けた時にでも話したのだろう。
元々研究者だったマーティンはエレオノールが今どんな気持ちで妹を待っているのかとても理解出来た。
ふと嫌な光景がマーティンの脳裏によぎる。多分、大丈夫だろう。妹にそこまでしないだろう。
メイジと言っても貴族なのだ。分別は出来るはず。

研究に没頭するタムリエルのメイジは、二つに分けることができる。
丹念に時間をかけて誰にも迷惑をかけない者と、なりふり構わず自分以外の全てを実験で振り回す者だ。
圧倒的に後者が多い。メイジとはこの世で最も自己中心的な生き物のことで、
特にそれがハイエルフなら、世界は自分を中心に回っていると考える。なんてジョークがあるくらいだ。

「大丈夫です。エレオノール姉さまはそこまで人嫌いじゃありませんし、わたしよりは命の尊さを知っていますから」

自分の考えていることを見透かされ、マーティンは驚いた。
カトレアは楽しそうに笑っている。

「当たっていましたか?わたし、妙に勘がするどいみたいで」
「は、はぁ……」
「けれど、そんなことはどうでも良いんです。どうもありがとうございます。ほんとに」
「え?」

「あのわがままなルイズを助けてくださってありがとうございます。
 あの子、変わりました。きっとあなたが手助けしてくれたからですわ」

その優しげな雰囲気と相まって、彼女はきっとルイズの良き姉であったに違いないとマーティンは思う。
どこか浮世離れしているが、それも病気のせいだったのだろうと。

「いえ、私はその様な……」
「ちいねえさまぁあああああああ!!」

ルイズが、もうなりふりを構う気も無いルイズが、ようやく準備を終えたらしい。
両手で大量の荷物を持って走ってくる。その後にルイズが持ちきれなかった荷物を持つシエスタの姿も見える。

「そんなに大きな声を出さなくても大丈夫よ。勝手に行ったりしないから」

カトレアのそばで立ち止まり、息を切らすルイズ。シエスタは大丈夫ですかとルイズの背中をさすっている。

「と、ところでちいねえさま。馬車とかは?」

ルイズがそう言うのも無理は無い。辺りに乗り物は無く、人が四人いるだけだ。

「いらないわよ。こっちの方が速いしね……おいで」

パチリとカトレアが指を鳴らすと、どこからか大きな叫び声がとどろいた。
雷が落ちたような音が止んでから、何かとても大きな羽音が段々と近づいてくる。
ルイズが空を見上げると、見たこともない竜がいた。
見慣れたシルフィードに比べ、明らかに大きく、爪や牙も太く禍々しい。
そしてその鱗は炎の結晶の様に赤い。それが何であるのか、ルイズは即座に理解した。

普通は何があってもそれが人に懐いたりはしない。
まるで燃えさかる炎がそのまま具現化した様な凶暴さを持つ彼らが、
人間に飼い慣らされるなんてありえないからだ。
だが、それは確かにカトレアによって呼び出された。

「病気が治ってから色々と遊びに行っているの。それでちょっと母さまのマネをしてみたのよ。
この子とは火竜山脈でおともだちになったの」

20メイルを超える火竜が大地に降り立ち咆哮する。
並の動物や人間なら気絶しかねない程の恐ろしげな叫び声だった。
実際、ルイズは意識が飛びかけた。

「静かにしてね」

カトレアが火竜に近づいてそう言うと、火竜は体をかがめ、
頭を地面に近づける。カトレアがその鼻先を撫でると、満足そうに一声吠えた。

「さ、アカデミーへ行きましょう」

ルイズとシエスタはおっかなびっくり、マーティンは驚きながら、
そしてカトレアがいつもの様子で乗り込んで、火竜は大地を離れ大空へとはばたいた。


トリスタニアの西の端に、“アカデミー”の塔はあった。その名のとおり、
魔法に対する、様々な研究を行う場所である。

昔は純粋に魔法の効果を探る研究が多かったが、
それを隠れ蓑にした不正や事件がさる高貴な公爵夫人に露見した後、
アカデミーの方針も変化し、実用的な魔法研究を行うようになった。
たとえば、火の魔法を用いて夜の王宮を明るくしようとか、
風魔法を利用して、大量に貨物を運んだりとか、
水魔法を用いて新たな薬の開発とか、そういった研究を行っている。

国力の低下が著しいトリステインは他国と比べメイジが多い。
魔法技術の改良は、家計が火の車な下級貴族に新たな商売をさせる効果もあり、
貴族の間からの評判は高い。

もちろん、ちゃんと神学の研究も行っている。そうしないとロマリアから異端のレッテルを張られてしまうからだ。

エレオノールは、このアカデミーの三十人からいる主席研究員かつアカデミーの改革に尽力した一人で、
彼女の専攻は水魔法……、妹の病を治す為に、様々な新薬の研究に従事していた。

塔の四階にある自分の研究室の机で、エレオノールは眠りかけていた。
ベッドに行く気力も無く、そのまま机に倒れかけている。
ここ数日徹夜が続いている。水魔法の研究以外、
彼女の得意系統である土魔法の方で駆り出されていた。
何でも大きな動く神像を作るための研究だそうで、
ロマリアからの依頼なのだそうだ。

末の妹のものと似た、色気のあまり感じられない研究一辺倒の部屋だ。
様々な秘薬や触媒の入ったつぼが、壁際の棚に並び、
棚の間に可愛らしい妹たちが描かれた肖像画が飾られている。
装飾らしい装飾はそれだけだった。

扉がノックされ、エレオノールは寝ぼけ眼で頭を上げた。

「どうぞ」

そう促すと、扉が開く。エレオノールと同じブロンドの髪をたなびかせ、
エレオノールより年が低そうな優しげな男が姿を見せた。
手には花束と花ビンを持っている。

婚約者のバーガンディだった。本来許可が無ければ部外者はアカデミーに入れないが、
彼女との関係は周りも良く知っているので、ほとんど顔パスで通してもらっている。

バーガンディがエレオノールの様子を見ていると、
エレオノールは不機嫌そうに唸った。

「何見てんのよ」
「いや、寝起きの君も可愛いなと思って」
「あ、そ」
「花、飾ってもいいかい?」
「好きにすれば」

顔が赤くなりそうなことに気付かれたくないエレオノールは、
ぶっきらぼうな仕草で机に突っ伏した。素っ気ない返事だったが、
バーカンディは気にせず花ビンに花をさして、エレオノールが寝ている机に置いた。

「ちゃんと寝ているのかい?」
「ん」
「ごはん食べてる?」
「ん」
「今日はちょっと話があってね」
「ん」
「もう限界なんだ」
「ん……え?」

エレオノールはイスから立ち上がってバーカンディを見る。
普段と違ってとても真剣な眼差しで自分を見ていた。
いつもこうならいいのに。少し胸がキュンと高鳴った。

バーカンディとは見合いで知り合った。
見た目はまずまずで性格も優しく地位もそこそこ。
最初は何とも思っていなかったが、
いつも優しく、研究が上手くいかずイライラしている時も体を張って慰めてくれる彼は、
エレオノールにとって初めて優しくしたいと思った男性だった。
もっとも、ヴァリエール家特有の気性が邪魔をし続けて優しくしたことなんて一度もないが。

「限界……?何が」
「君との関係だよ。もう耐えられないんだ」

ふっと、エレオノールの意識が遠のく。
なんで?少し考えたらいくらでも理由は浮かぶ。
自分に難があるのはよく分かっているし、
そんな中バーカンディが自分と婚約している理由は、
多分家柄だろうとも考えていた。
でも、それだけじゃないと思っていた。思いたかった。
だって、私は……

エレオノールは気丈にふるまい、動揺を出来るだけ隠そうとする。
体は震えているし、動悸が激しくなっている。
しかしバーカンディは気付いてはいないらしかった。

「そ、そう」
「だから、エレオノール、その」

「え、ええ、別にいいわよ。あんた以外にも男なんてたくさんいるし、
私、引く手数多ですから、べ、別に……」

自分を励ますように張り上げた声は段々と小さくなり、
最後にはぽろぽろと目から涙が落ちている。

「エレオノール?」

ようやく、バーカンディは気が付いたらしい。
しかしどうして泣いているのかは分からなかった。

「何か勘違いしてない?」
「いいえ、分かっているわ。どうせ、どうせ私なんか……」

力無くドアを開けて出て行こうとするエレオノールの腕を、バーガンディが掴む。

「な、なによ!限界なんでしょ!なんで、なんで……」
「ああ、今の関係にはもう耐えられない」

エレオノールが何か言う前に、バーガンディは彼女を力強く抱きしめた。

「ずっと一緒にいたい」
「へ?」

エレオノールは呆けた顔で、バーカンディを見る。何だかずいぶんとカッコイイ。
自分より年が低いくせに、とても頼りに出来そうな、そんな感じだった。

「妹さんの病気も治ったし、ずっと研究者を続けるわけにもいかないと思うんだ。
 その……一緒に暮らさないかな?もちろん、ミスタ・ヴァリエールにお許しをいただいた上でだけど」

少し時間を置いて、頭の中で言われた言葉を繰り返して、
意味を理解したエレオノールの顔はぽん、と赤くなった。

「な、なななななな」
「えーと、いや?」

固まるエレオノールは首を横に振りたくないが、かといって縦に振るのも恥ずかしい。
黙ってぎゅっとバーガンディの胸元に顔を埋める。

「愛してるよ。エレオノール」
「……このバカンディ。もっと、こう、ちゃんとした文句を考えなさいよ」

エレオノールが顔を上げ、バーガンディと見つめ合う。
エレオノールが目を閉じると、二人の顔が段々近づいていく。
そんな時、エレオノールは辺りの騒がしさに気が付いた。
彼女がドアを開けてから腕を掴まれた。
つまり、今、エレオノールの部屋は外からまる見えなわけで。

我に返ったエレオノールはとりあえずバーガンディを突き飛ばして振り向いた。
後でビンが割れ、棚が崩れ落ちる音がしたが特に気にしない。
あの位置に劇薬は置いてないはずだ。だから大丈夫。
そこには顔を真っ赤にした愛らしい末の妹と、健康になった妹、
同僚のヴァレリー、それと見たことのない男が立っていた。

「あ、ああああ」

バーガンディの時とは別の意味で顔を赤くさせるエレオノールに、
空気の読めない子は言った。

「だ、大丈夫です姉さま!絶対、絶対誰にも言いませんから!」

照れ隠しに二、三時間ほどつねられた。
何も言わなくてもつねられたのは言うまでもない。



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