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ゼロと世界の破壊者-05a

第5話「ディケイド、降臨」


「失礼します」
 トリステイン魔法学院・本塔。その最上階に位置する学院長室。
 その扉が開かれ、学院長秘書のロングビルが室内へと入ってくる。
 室内の一番奥、学院長席には、その部屋の主とも言うべき白髪の老人、オールド・オスマンがどっかりと座って優雅に水煙管を吸っていた。
 ロングビルははぁと小さく溜息を付くと杖を取り出してルーンを唱える。
 するとオスマンが持っていた水煙管が宙に浮かび、そのままロングビルの手の中に収まってしまう。
「年寄りの楽しみを取り上げて楽しいかね?ミス…」
 オスマンがつまらなそうに呟く。
「あなたの健康を管理するのもわたくしの仕事ですわ、オールド・オスマン」
 ロングビルは冷ややかに言った。
 やれやれ、とオスマンは溜息を付く。
「そんな事より、報告があります。ヴェストリィの広場で生徒達による決闘騒ぎが起こっている模様です。大騒ぎになっています」
 その報告を聞いて、オスマンはやれやれと、二つ目の溜息を付いた。
「まったく、暇を持て余した貴族程質の悪い生き物はおらんわい。教師どもは何をやっておるのだ?」
「えぇ、止めに入ろうとした教師が何名かいましたが、生徒達に邪魔されて止められないようです。一部の教師から『眠りの鐘』の使用許可を求める声が出ていますが…」
「アホか。ただの子供の喧嘩を止めるのに秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておけ。…で、誰と誰が暴れておるんじゃ?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
 あのグラモンとこのバカ息子か、とオスマンは肩を竦めた。親子揃っての好色漢、理由は大方女子の取り合いか。
「もう一人は、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールです」
 その名を聞いてオスマンは眼を丸くした。
「…ヴァリエール?あのヴァリエール公爵家の末娘か?」
「はい」
 ロングビルが肯定する。
 一体ヴァリエールの末娘とグラモンの好色漢、どんな理由で決闘などになったのだ?と考え込んだが、こればかりは考えても答えは出ない。
 どんな理由であれ決闘騒ぎに陥ってしまっているのは事実である。
 やれやれ、とオスマンは本日三度目の溜息を付いて椅子から立ち上がると、壁にかかった大きな鏡の前に立ち、杖を振った。するとその鏡面にヴェストリィの広場の様子が映し出された。。
「ほれ、ミス・ロングビルもこっちに来なされ。証人は多い方が良い」
「はい」
 返事をして、ロングビルも鏡の前へ向かう。
「あ、でも…」
 その途中でロングビルは口を開いた。
「手持ち無沙汰にわたくしのお尻を撫でるのはやめてくださいね?」
 ロングビルは満面の笑みでそう言った。
 先に釘を刺されてしまい、オスマンはつまらなそうに「ちっ」と舌打ちをした。
 鏡に映されたヴェストリィの広場では、今にも決闘が始まらんとする様子だった。


 魔法学院の四方を囲む様に立つ四つの塔、その内の二つ『風』と『火』の塔の間にある中庭がヴェストリィの広場である。
 先に到着していていたギーシュの周りを、何処からか噂を聞きつけた生徒達が取り囲んでいた。
 するとそこへギーシュの相手となるルイズが少し遅れて登場した。その後ろにはキュルケとタバサを介添人のようにして引き連れていた。
 対戦者が現れた事に気付き、野次馬達が輪を分ち、ギーシュの前まで通ずるルイズの道を作る。
 ギーシュはルイズの到着を見て満足そうに笑みを浮かべたが、背後の二人の姿を見て眉を顰めた。
「…ルイズ、神聖な決闘の場に助っ人を頼むだなんて、随分と無粋な真似をするじゃないか」
「別に助っ人じゃないわよ、こいつらが勝手に後ろからくっ付いてきただけ」
「そうか、なら良いんだ…」
 言いつつ、ギーシュは内心でホッとした。『微熱』のキュルケと『雪風』のタバサ、二人のトライアングルが相手になったりしたらとてもじゃないが勝ち目はない。はっきり言ってどちらか片方だけでも話にならなそうだと言うのに。
 気を取り直して、決闘の主役が揃った事でギーシュは決闘の開始を宣言する。
「諸君!決闘だ!」
 相変わらず芝居がかった無駄に大袈裟な動作だ。
 野次馬達が「うおーっ!」と歓声を上げた。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はゼロのルイズだ!」
 誰かが叫んだ。ギーシュは手を振って観客達に応えた。黄色い声が上がる。
「ゼロのルイズーっ!そう簡単に負けんじゃないぞーっ!」
 ルイズはもし今言った奴が誰か判明したらその顔吹き飛ばしてやると思った。
「いい?手出しは無用だかんね」
 ルイズは後ろの二人に釘を刺した。まぁこの二人に限ってそんな事するとは思えないが、一応念のため。
「判ってるわよ。ま、精々足掻いてくる事ね」
 キュルケは手をひらひらさせるとタバサを連れて自分も野次馬に仲間入りして行く。

 と、キュルケは野次馬の中に魔法学院の制服とは違う恰好の二人の人物を見つけた。確か今朝ルイズと一緒にいたあの館の平民だ。
 キュルケは足を彼らの方へと向けた。
「はぁい♪お二人さん」
「あなたは、今朝の…」
「キュルケよ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。で、こっちの子はタバサよ」
 自己紹介と一緒にタバサの方も紹介してあげる。
「あ、私は夏海、光夏海と言います。こっちは、小野寺ユウスケです」
 キュルケに倣って夏海も自分とユウスケを紹介し返した。
「ナツミにユウスケ、で良いのかしらね?改めて宜しくね」
「そ、そんな事より一体何が起こってるんだ!?ルイズちゃんとあの金髪、一体これから何をしようって言うんだ!?」
 するとユウスケが堰を切ったようにキュルケに尋ねた。どうやら夏海も同様に、今の事態を飲み込み切れてないようだ。
「何って、決闘よ。色々あって二人が決闘する事になっちゃったのよ」
「け、決闘ぉぉっ!!?」
 平民二人は揃って口をあんぐりと開けた。
「決闘って…それ……何で…?」
「ルイズちゃん、相手は男の子なのに…大丈夫なんでしょうか?」
「まぁ、死ぬような事はないけれど、万が一危なくなったらあたしが止めるから」
 大抵の傷は水の秘薬で消せるだろうけど、ギーシュが思わずやり過ぎてしまわないとも限らない。ルイズには悪いけどもしもの時は自分がギーシュを吹っ飛ばそうとキュルケは心に決めていた。
「いや、女の子にそんな事させられないよ。もしもの時は俺が行く!」
 だがそんなキュルケの申し出をユウスケが却下させた。キュルケは思わず口笛を鳴らした。
「平民にしては言うじゃない?でもあんまり無茶な事は言うもんじゃないわよ?」
「無茶じゃないよ。俺、こう見えても結構強いんだから」
 そう言ってユウスケは力こぶを作ってみせた。
 今朝夏海を庇ってフレイムの前に出た時と言い、今と言い、可愛らしい外見に反してなかなか勇ましいんだなとキュルケは感想を述べた。これでもし本当に強かったりしたら、惚れてしまいそうだ。
「…こんな時、士くんは何処へ行ったのでしょう…」
 ルイズを心配そうに見詰めながら、夏海はぼやいた。
 そう言えばとキュルケは辺りを見回したが、何処にもルイズの使い魔の姿は見えなかった。どうやら本当に見限られてしまったようだ。
 と同時に、ルイズの使い魔の名がツカサだとキュルケは初めて知った。

「まずは逃げずに来た事を誉めておこうか、ルイズ」
「誰が逃げるもんですか!」
 ルイズはムキになって反論した。この決闘、ルイズには始めから"逃げる"なんて選択肢は存在しない。
 だが一方でギーシュはむしろ逃げてくれた方が有り難かった。
 あれからだいぶ頭も冷えて、自分は何て事をしてしまったかと後悔していた。
 相手は魔法が使えないゼロではあるが、曲がりなりにも公爵家、それも女の子だ。女性に手を上げる事は自分の理念に反してしまう。
「…だが僕も紳士だ、出来る事なら女性を傷つけたくはない。今すぐ降参するのであれば、この場は杖を納めようじゃないか」
 言いながら、ギーシュは内心では頼むからこれで引き下がってくれと嘆願した。
 だが相変わらずの高慢な言い回しが、ルイズの感情を逆撫でにした。
「自分から決闘を嗾けておいてそれを自分から取り下げようだなんて随分と良いご身分ね!アンタのプライドってそんなもんだったの?ギーシュ!」
 そんなギーシュの心の内など露知らず、ルイズは最後通告をいとも簡単に突っぱねる。
 端で聞いてたキュルケは最後のチャンスを棒に振るって…と頭を抱えた。
 言い返されたギーシュはいよいよ頭に来た。せっかく最後のチャンスを与えてやったのに、こっちが下手に出てやれば良い気になりやがって!と、こちらももう決闘を回避するなんて考えを捨てた。
「…そうか、そこまで言うなら僕ももう容赦はしない!」
 ギーシュは薔薇の造花を象った杖をルイズに向けた。
 ルイズも、腰から自分の杖を抜いて構えた。
 にわかに野次馬達が騒ぎ出す。
 先に動いたのはギーシュだ。ギーシュが杖を振るうと薔薇の花弁が一枚、宙を舞う。ギーシュがルーンを唱えると、小さな花弁は人間大の大きさの、甲冑を着た女戦士の形をした人形に変わった。
 野次馬達から『おぉぉぉ!!!』と歓声が上がる。
「僕の二つ名は『青銅』、『青銅』のギーシュ!従ってこの青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手する!」
 そんな事ルイズは言われるまでもなく知っていたが、ギーシュは自分がまるで舞台の上の俳優になったように、舞台下の観客、周りを取り囲む野次馬達に向けてそう名乗った。
「覚悟は良いかい?『ゼロ』のルイズ!」
 その言葉にルイズはカチンときた。ならばこちらも魔法でお返しするのみだ。
 何度も言うがルイズは魔法を使えないため、自分が得意な系統も未だ判らずじまい。だがもしもこの機会に成功してくれるのなら———。
 そうしてルイズが選んだのは、最も攻撃力のある『火』系統の魔法だった。
「ファイヤー・ボール!」
 だが通常の火球は放たれず、ワルキューレから3メイル程離れた空間で爆発が起こっただけだった。
 野次馬達が爆笑の渦に包まれる。
「なにやってんだゼロのルイズーっ!」
「相変わらず魔法成功率ゼロかよーっ!」
 ルイズは顔を真っ赤にさせて身をプルプルと震えさせた。
 ギーシュはやれやれ、と肩を竦めていた。
 待ってなさい、次こそその鼻っ柱をへし折ってやるんだから、とルイズは次の魔法を唱える。
 選んだのは『風』系統。威力は『火』系統にこそ劣るが、これもまた攻撃に向いた系統である。
「エア・ハンマー!」
 だがやはり通常の効果は現れず、ワルキューレの上空2メイル辺りで爆発が起こった。
 再び爆笑に包まれる野次馬達。ルイズは怒りと恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
「やれやれ、相変わらずだな『ゼロ』のルイズ。…ではそろそろ僕の方からも攻撃させてもらうよ」
 そう言ってギーシュは薔薇の造花を振るった。するとワルキューレは素早い動きで一気にルイズとの距離を縮めた。
 咄嗟にワルキューレの攻撃を避けようと後じさったルイズだったが、足が縺れて転倒してしまう。
 そして、そんなルイズの足下の地面に『ズボッ』とワルキューレのパンチが深々と突き刺さる。
 ルイズのすぐ目の前にワルキューレの頭部分が置かれ、その威圧感にルイズは戦慄する。
「今のは態と外した。今すぐ降参するのなら、痛い目を見なくて済むけれど?」
 やはりギーシュとしては女性に手を上げる事は忍びなく、どうにか傷を負わせる事なく終わらせたいと考えていた。
「じょ、冗談言わないで!誰が降参なんかするもんですか!」
 が、それはルイズからすれば『手加減された』、つまり『本気を出すに値しない』と評価されたとしか捉えられず、その負けず嫌いの性格を更に燃え上がらせる結果となってしまうだけだった。
「そうか…なら実際に怪我をしてから後悔するんだな!」
 それからワルキューレによる猛攻撃が始まった。
 ワルキューレから次々とパンチが繰り出され、ルイズはそれを何とか紙一重で避け続けていた。
 だが実際はルイズに怪我をさせたくないと思うギーシュが態とパンチのスピードを遅らせたり軸線をズラしたりしてルイズにも回避出来るコースでパンチを繰り出していたのだが。
 そんな事でどうやってこの決闘を終わらせるのかと言う点まではギーシュは頭が回っていなかった。
 一方でルイズも何とか反撃しようと猛攻の合間を縫って魔法を唱えた。
 『土』系統の『錬金』でワルキューレを砂にしようとしたり、一か八か『水』系統の魔法も唱えてみたり。
 しかしいずれも魔法は発生せず、どれもこれも見当違いの場所で爆発が起こるだけだった。
(何で…何で爆発ばっかりなのよ…!!)
 ルイズは心の中で唸った。
(…だったらせめて…相手が爆発しちゃいなさいよ!!)
 そうしてルイズはもう一度『ファイヤーボール』の魔法を、今度はワルキューレに的を絞って唱えた。
 するとワルキューレの左肩で盛大な爆発が起こり、衝撃でその左腕が千切れ飛び、宙を舞った。
「あ、当たった…」
 まさか本当に当たるとは思わなかったが、これは嬉しい誤算だ。
 ワルキューレがルイズの失敗魔法で吹っ飛ばされた事で、野次馬達から感嘆の声が漏れた。
 そして失敗魔法を受けて自慢のワルキューレに傷をつけられたギーシュは、その怒りで逆上していた。
「……っ!!ワルキューレッ!!」
「っ!?」
 左腕を吹っ飛ばされたとは言えワルキューレは未だ健在。
 自分の失敗魔法が思わぬ形で成功したと言う嬉しさに一瞬気を取られていたルイズは、ワルキューレがまだ動ける事を失念してしまった。
 そして逆上したギーシュに操られたワルキューレは、完全に無防備だったルイズの腹に強烈なパンチを打ち込んだ。
「…っがぅ…!」
 衝撃でルイズは吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「ルイズ!!」
 思わずキュルケが声を上げた。
 攻撃を当ててからギーシュは「しまった!」と思った。つい本気を出してしまった。
 ルイズは腹を押さえてその場に踞る。衝撃で胃の内容物が逆流する。昼食後と言う時間が災いした。
「…ゴホッ!…ゴホッゴホッ!」
 胃の内容物が全て逆流し切ると、今度は何度も咳き込んで胃液を口から吐き出す。
 お腹が凄く痛い。ズキズキする。苦しい。こんな大勢の目の前で痴態を晒してしまった。恥ずかしい。もう嫌だ。何で私がこんな目に遭うんだろう。
 ルイズの頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「ちょっとギーシュ!!」
 野次馬の中からキュルケが激しい顔つきで睨みつける。
「ち、違う!僕は悪くない!…そ、それに今は決闘の最中だ!!この位の事が起こってもルイズも承知の筈だ!!」
 この期に及んでまだ自分の面子を大事にするのか、とキュルケは苦虫を噛み潰した。
 ルイズには悪いがもう我慢出来ないとキュルケが杖に手を伸ばした時、
「…わ、判ってる、じゃ、ない…」
 ルイズがふらふらと立ち上がった。
 口の周りは胃の内容物や胃液でぐちゃぐちゃ、目も虚ろで立っているのもやっとと言う状態。それでも左腕で腹を押さえ、右手にはしっかりと杖を握って、その場に立っていた。
「…ル、ルイズ…もう、よしたまえ。判っただろう?き、キミは僕には勝てない…」
「…なによ…少しは…見直した…のに……もう…怖じ気づいた…の…?」
 途切れ途切れの口調で、いつもの憎まれ口もとても弱々しい。
「ルイズ!ギーシュの言う通りよ!!あんた立ってるだけで精一杯でしょう!?もう止めなさいよ!!」
 キュルケが切実に叫ぶ。しかしルイズは虚ろな目でキュルケの方を見て、そして笑みを作った。
「…ふん…ツェル…プストー…なんかに…情けをかけ…られるなんて……私も…落ちたもの…ね……」
「ルイズ!!」
 尚も憎まれ口を叩き続けるルイズ。
 ダメだ、ルイズは止められない。負けず嫌いもここまでくると神業のレベルだ。
 仕方無い、とギーシュは杖を構える。ギーシュに出来るのは今すぐこの決闘を終わらせること。その為には少し苦痛が伴うがルイズには気絶してもらう他無い。
 そう、ワルキューレを動かそうとした、その時。
「なかなか見上げた根性してるじゃないか」
 ザッ、ザッ、一人の青年が悠然と『ヴェストリィ』の広場に姿を現した。
「貴族の誇りだのプライドだのバカバカしいと思っていたが、ここまで来ると感心するしかないな」
 目の前の野次馬達を押し退け、決闘の場に現れた青年は、悠然とルイズの前まで歩み寄った。
「…ツカ…サ…」
 それはルイズの使い魔で、さっき自分を見限った筈の男だった。
「士くん!今まで何処に…!?」
 夏海が非難の声を上げるが、士は無視してルイズを見る。
「…何…しに…きたのよ……?」
 脂汗を浮かべた顔でルイズは士を睨みつけた。
 と、士はとんとルイズの膝の裏を軽く蹴った。と同時にルイズは地面にへたり込んだ。
「良いから少し楽にしろ。力むと余計痛むだけだぞ」
「……っ」
 言われた通り力を抜くと、腹の痛みが少しだけ和らいで楽になった。
 そして、改めて士を睨みつけて尋ねた。
「…何しにきたの?……私の事…見限ったんじゃないの?」
「さっきの答えを聞きにきた」
「…答え?」
 ルイズは眉を顰めた。
「魔法が使えるようになったら、お前はどうしたい?少し時間も経って頭も冷えた頃だろう?」
 唖然とした。まさかたったその為だけにこんな決闘の真っ直中に乗り込んだと言うのだろうか?正気の沙汰とは思えない。
「どうした?また答えられないのか?」
 士が挑発する。ルイズは少しだけムッとしたが、士は今度も全てを見透かすような目で真正面からルイズを見詰めていた。
 ルイズはそんな士から目をそらせつつも、正直に吐露する事にした。
「…私は…魔法が使えるようになりたい……それは、アンタが言った通り、私をゼロだってバカにした連中を見返したいから…よ…」
「…それで、その魔法の力を手に入れて、お前はそれを何のために使う?」
「………わからないわ」
 ルイズは偽らずに答えた。
「…わからない…そんなの、今すぐに答えなんて出せないわよ…」
 こんな事を言ったら、またこの使い魔に失望されてしまうんだろうな、とルイズは覚悟を決めてそう告白した。
 だが、士からの返答は、意外なものだった。
「…いや、それで良い」
「え…?」
 ルイズは思わず顔を上げた。
「今はそれが正解だ。力なんてものは、使いたい時に自分の感情に任せて使えばそれでいい」
 ルイズはきょとんとしながらひたすら士の言葉に耳を傾けていた。
「義務だの家名だの祖国だの、他人から与えられた答えで妥協するな。それが本当に正しいか、自分で考えて、悩んで、そして自分が本当に納得する答えを導き出せ。…それが正解だ」
「……何よそれ」
 頓知の域のような答えだった。これでは悩んでいた自分がバカみたいだ。
「…さて、話は変わるが」
 と、士は今まで蚊帳の外にいたギーシュを見た。
 突然自分の方に視線が向いたため、ギーシュは肩を跳ね上がらせる。
「何でも決闘の真っ最中らしいな」
「え、えぇ」
「負けたくないか?」
「…えぇ」
「なら、この続きは俺がやってやる」
「はあぁぁ!?…ゴホッ!ゴホッ!」
 思わず声を上げるルイズ。だが殴られた腹が痛んで、咳き込んでしまう。
「無茶するな」
「ッ…ア、アンタねぇ…魔法の使えないアンタが、メイジに勝てるわけないでしょう…!?」
 魔法が使えないルイズのこのザマを見ればそれは火を見るよりも明らかだ。
「ならお前がこのまま続けるか?」
「う"」
 言葉に詰まる。残念ながらルイズにこれ以上決闘を続ける余力は残っていない。
「安心しろ、あんな人形なんかじゃ俺は倒せない」
 士は自信満々で言い放った。
 それに対して激しく感情を揺さぶられたのは、ワルキューレを人形呼ばわりされたギーシュだった。
「…言ってくれるじゃないか、平民の分際で」
 忌々しげに士を睨むギーシュ。だがこれはギーシュにとっては望むべき展開だ。何より相手は男、しかも身分を持たない平民、何の気兼ねも無く叩き伏せられる。
「ちょっと…!これは私とギーシュの決闘よ…!勝手に割り込まないで…!!」
「…別に構わないよな?俺はこいつの、…ルイズの使い魔だからな!」
 初めて、士がルイズの名を呼んでくれた。
「あぁ、構わないさ。メイジと使い魔は一蓮托生、その使い魔を相手にするのはメイジを相手にするのも同義!」
「ちょっ、ギーシュ…!ゴホッ!ゴホッ!」
 声を荒げて、また咳き込んでしまう。
「お前はそこで大人しく見てろ、ルイズ。すぐ片付けてやる」
 すると士はにやりと笑って、懐から小さな角張った物体を取り出した。
 士が取り出した"それ"を目にした瞬間、ルイズは目を見開いた。
(あれは…!)
 見覚えがあった。あれは、今朝夢の中に出て来た、あの黒い甲冑の戦士が付けていたベルトのバックルと同じものだった。
 士は取り出した『ディケイドライバー』を腹に当てると、そこからベルトが飛び出して腰に固定される。
「…お前、一体何者だ?」
 自分の魔法を目の当たりにして、どうしてそこまで余裕の態度を取り続けられるのか、ギーシュには理解出来なかった。
 士はそんなギーシュの問いを聞きながら、新たに取り出した薄い箱———『ライドブッカー』の中からカードを一枚取り出し、それをギーシュに向けた。
「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!」
 『仮面ライダー』。それは昨日、士がルイズに尋ねた単語だ。
「変身!」
 掛声と共に士はカードを裏返し、それをディケイドライバーにセットする。
『KAMEN RIDE!』
 ディケイドライバーから無機質な音声が発せられる。
 次いでディケイドライバーのサイドハンドルを押し込むと、中央部が回転する。
『DECADE!』
 再び無機質な音声が響くと同時に、銀色の9つの影が士の周囲に現れ、それらが士の身体に集束すると、士の全身が一瞬で真っ黒な装甲に覆われた。
 その眼前に7枚の赤い光の板が出現し、それが頭部に突き刺さると、黒い甲冑の一部が赤く染まる。
 緑色の二つの大きな複眼と赤い装甲が輝き、変身を完了させた。ほんの一秒足らずだった。

 『仮面ライダーディケイド』が、このハルケギニアの大地に降臨した。

 ギーシュは、口をぽかんと開け放し、目を丸くした。
 野次馬達も同様に、言葉を失っていた。
 キュルケも、タバサですら、その目の前の光景に目を奪われた。
 ディケイドの事を知っていた夏海とユウスケだけは平静でいられた。
 そしてルイズも、士の変身に驚きを隠せなかった。ただ、その場にいた他の人間とは驚きの種類が違っていた。
 ルイズは、今朝夢の中で見たあの黒い戦士が現実に出現した事、しかも自分の使い魔がそれに変わった事、その事に驚いていたのだ。
「あれが、カメンライダー…」
 そして、夢の中で自分が呟いた"その名"を続けた。
「…ディケイド」

「か、変わっただと!?…ふ、ふん!ただの虚仮威しだ!」
 ギーシュは混乱していた。
 突然目の前の男の姿が変わった。…いや、その直前妙なマジックアイテムを使っていた。鎧を呼び出すマジックアイテム、そんなの聞いた事が無い。『錬金』の応用だろうか?…いや、今はそんな事考えてる場合じゃない。何より決闘の真っ最中だ。
「何驚いてる?魔法はお前達の専売特許だろう?」
 だからってそんな未知の現象を見せられて驚くなと言うのが無理だ。と言うかあれは本当に魔法なのか?
「…お前、メイジだったのか?」
「いや、俺はお前達の言うただの平民さ」
 態と皮肉っぽく言ってみせた。
「なら教えてやる!そんな鎧着た所で、平民はメイジに敵わないって事をね!」
 言い終わると同時にギーシュは杖を振った。瞬間、ワルキューレが素早い動きでディケイドとの距離を詰めた。さっきまでのルイズを相手にしていた時とは違う、本気の動きだ。
 左腕を失っているが、平民相手には良いハンデだ。
 ワルキューレは一気に懐に飛び込むと、その拳をディケイドの顔に叩き込んだ。金属と金属がぶつかり合った甲高い音がヴェストリィの広場に鳴り響いた。
 勝利を確信したギーシュが、にやりと口元をつり上げる。
 だが、次の瞬間。
 ワルキューレのボディに突如罅が入ったかと思うと、その上半身が粉々に吹っ飛んだ。
「何!?」
 残った下半身が崩れ落ち、ディケイドの姿が露になった。ディケイドはパンチを打ち込んだ体勢のまま、そこに立っていた。ワルキューレの攻撃に対し、カウンターを打ち込んでいたのだ。
「何だ?思ったより随分と脆いな」
 そう言いながらディケイドは両手をぱんぱんと叩き合わせた。
「…バ、バカな…僕のワルキューレが、平民のパンチ一発で……」
 ギーシュの足ががくがくと震えた。
 ディケイドがギーシュを向く。
 ギーシュは喉の奥から「ひっ」と小さな悲鳴を上げると、手に持った杖を振るった。
 すると残った薔薇の花弁が宙を舞い、それらも青銅のワルキューレとなった。数は6体。
 ただし今度のワルキューレは手に盾や剣を持ち、完全武装されていた。
「ほぉ、今度はさっきよりマシなみたいだな」
「行けっ!僕のワルキューレ達!」
 ワルキューレが一斉にディケイドへと飛びかかる。
 ワルキューレは次々と剣を振り下ろしてディケイドに切り掛かったが、ディケイドはまるで風のようにひょい、ひょいと軽快な動きでそれを避ける。
 余裕がある時は平然と反撃を行い、パンチやキックで次々とワルキューレを弾き飛ばす。
 ワルキューレは何とか盾で防御するが、防御した盾はたった一撃で粉々に砕かれてしまう。
 その強さは圧倒的だった。
「そ、そんな…!こんな…!!平民なんかに…っ!!!」
 完全に自分が手玉に取られている事を感じ、ギーシュは顔を歪ませる。
「…面倒だな、一気に片付けるか」
 するとディケイドは一体のワルキューレの攻撃を受け流すと、両手をぱんぱんと叩き、腰に付けていたライドブッカーからカードを一枚取り出し、それを先程のようにディケイドライバーにセットした。
『KAMEN RIDE!RYUKI!』
 音声と共に現れた複数の白い影がディケイドの元へと集束し、ディケイドを別の姿へと変えた。
 赤を基調とし銀色の装甲を身につけた鉄仮面、『仮面ライダー龍騎』の姿だ。
「ま、また姿が変わった!?」
 驚くギーシュを他所にディケイド・龍騎は更にカードをディケイドライバーにセットする。
『ATTACK RIDE!STRIKE VENT!』
 ディケイド・龍騎が右手を天に翳すと、そこへ龍の鳴き声と共に炎の塊が降臨する。そしてその手に竜の頭を模した篭手、ドラグクローが装備された。
「はぁぁぁぁ…」
 ディケイド・龍騎がドラグクローを嵌めた右手を振りかぶる。
 これ以上、何をするのだとギーシュは身構える。
「はぁっ!!」
 掛声と同時にディケイド・龍騎が右手を突き出すと、ドラグクローの口から強烈な炎が放たれ、6体のワルキューレをあっという間に飲み込んだ。
 炎の中で熱せられたワルキューレは次々と融解し、原形が止められなくなる。
 龍騎の必殺技『昇竜突破』だ。
 炎が収まるとそこにはワルキューレ"だった"黒ずんだ6つの炭の塊が、焼けた地面の上に転がっていた。
「そ、そんな…僕のワルキューレ達が……」
 ギーシュはへなへなとその場に座り込んでしまった。腰が抜けてしまったのだ。
 するとディケイド・龍騎は元のディケイドの姿に戻ると、再びギーシュに視線を向けた。
 ギーシュは再び「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。
「さて、次はどうする?」
「…ま、参った、僕の負けだ…」
「なんだ、もう終わりか」
 あっさりと負けを認めたギーシュに、ディケイドはつまらなそうに首を傾けた。

「…ギーシュが…負けた…?」
 静まり返っていた野次馬の中で、誰かが言った。
 その一言をきっかけに、にわかに野次馬達が騒ぎ出す。
「ギーシュが負けた」「平民が勝った」「見た事も無いマジックアイテムを使った」
 最初は小さな一言一言がざわざわとした喧噪を作り上げていったが、それらはやがて「おぉぉぉーっ!!」っと言う巨大な歓声に変わった。
 最初に期待していたものとは随分と違ってしまったが、それとは別によく判らないがとにかく凄い物を見たと言う満足感が彼らを支配していた。要は満足出来たのでそれで良いのだ。
 歓声の中、ディケイドはディケイドライバーのサイドハンドルを引っ張り、ディケイドの姿から元の門矢士の姿へと戻る。
 と、その場に座り込んでいたルイズの下に近付き、さっとルイズを抱き上げた。俗に言う、お姫様抱っこだ。
「ちょ…っ!!ツ、ツカサ!?何を…ゴホッ!ゴホッ!」
 顔を真っ赤にして抗議しようとするルイズだが、未だ殴られた腹が痛んで咳き込んでしまう。
「無理するな、腹を思いっきり殴られてただろ。保健室まで連れてってやる」
「だ、だからって、そんな、…だ、抱き上げなくっても……」
 士の顔がすぐ近くにあって、何故だか顔が凄く熱くなる。思わず顔を逸らしてしまう。
「なら、一人で歩けるのか?」
「あ、当たり前よ…!」
 ならばと士はルイズを地面に降ろす。ルイズは自分の足で歩き出そうとしたが、足取りは覚束ず、バランスを崩してしまう。そこを空かさず士に支えられる。
「だから言っただろう、無理するなって」
「うぅぅぅ…」
 そうしてルイズはお姫様抱っこされてヴェストリィの広場から退場して行った。
 野次馬達から冷やかしの声が上がっていたが、ルイズは自分の動悸の音が煩くて、そんなもの全然耳に入って来なかった。
 ルイズは"落っこちないように"士の服をぎゅっと掴んだ。




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