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凄絶な使い魔‐06


第六話 「噂の使い魔」


 ルイズが出て行ってすぐ、入れ違いになるように入ってきた女に元親は見覚えがあった。
 先日、初めてこの世界に呼び込まれた時に目が合った少女。
 燃えるような髪の色と、小麦色の肌が印象的で覚えている。

 「はぁい、私はキュルケ、微熱のキュルケよ、……それにしても随分と刺激的な格好ね」

 キュルケはじろじろと物珍しげに元親を見つめながら自分の名を名乗った。
 別に裸だからと動じる元親ではないが、こうもあからさまにジロジロと見物されるとさすがにうんざりする。

 「……目の毒ならさっさと部屋から出て行く事だ」
 「あら、目の毒なんて言ってないわ、むしろ楽しんでるし」

 元親は三味線の調子を合わせる作業をしながら、ちらりとキュルケの方を向くと、半ば呆れたような声を出す。

 「……男の裸を見るのが楽しみか?」
 「フフッ…そうね、興味のある男に限るけれども」

 そういうと、手近な椅子にキュルケは腰を下ろした、その際に大胆に足を組み直し、彼女の美しい曲線美の足が
元親の前で交差する。
 キュルケは元親がどんな反応するかと思っていたが、まったくの無関心だった。
 自分の魅力について自負している彼女にとって、それは軽いショックだったが、そこは冷静さをよそおって、
キュルケは髪をかきあげる。

 「ところで、私にだけ名乗らせたままよ、ミスタ使い魔さん」

 そう言われて元親がキュルケに向き合う、ただ美しいのではなく、優美さの中に激しさが内包された美貌、
キュルケが知る数多くの男たちとは明らかに違う雰囲気を元親は持っている。
 元親とはじめて目が合ったあの時も、何か分からない魅力を感じ取ったキュルケ、今朝、彼を訪ねてきたのは、
それを確かめるためだったのだ。
 そして、やはり、昨日感じた感覚を再確認したのだ。

 「長曾我部だ、名を元親……」
 「モトチカ…、チョウソカベ……、不思議な名前ね、どこの国の言葉?」
 「この地より、おそらく想像もできぬほど遠いところだろうな……」

 元親はそう語った時、彼の心には、昨日の晩、静かに眺めた双月が蘇った。
 どんなに遠方でも、星の位置は変わらない、瀬戸の海を船で渡る為、星で方角を知る術を知っていた元親は、
この世界のそれが自分の知る知識と全く異なることに気が付いていた。

 ……月が二つに見えるとてつもない遠方、もしくは、この世の全てが、俺がいた世界とは異なる世。
 どちらかだろうし、そのどちらでも、さして変わる事はない。

 そう考えているときに、部屋のドアが鳴り、男の声が聞こえた。

 「失礼します、ミス・ヴァリエールにこちらに食事と服を運ぶように言い渡されたのですが……」
 「……あら、残念、もう見納めみたいね」
 「まったく大した女だな、……ところでいいのか?」
 「何が?」
 「俺といるところを使用人に見られる事がだ……、お前もルイズ同様こちらでは高貴な身分のものだろう」
 「あら、それを言うならルイズだってそうじゃない、裸の貴方を見たらルイズとの関係をどう思うかしら?
それに、私の名前はキュルケよ、お前なんて呼ばないでほしいわ」

 そうキュルケに言われるが、元親としては貴族としてもルイズは子供、見た者が受け取る印象が違うだろうと言うと、
キュルケは笑いだした。

 「アハハハ、そうよねぇ、ルイズが聞いたら面白い事になりそうよ、その言葉!」

 再度、ノックが鳴って、使用人の声が入室していいか訊ねてくる。

 「構わないから入れたら?……あと、私に朝食を分けてくれるとうれしいんだけど」
 「……勝手にしろ」

 元親はベッドから立ち上がって、ドアを開けた。


 アルヴィーズの食堂では大勢の学院の生徒と教師が朝食をとっていた。
 とても朝食と呼ぶには豪華すぎる内容のものだ、裕福な貴族に合わせて作られたそれらは、
平民からすれば、夢のような料理の数々だろうが、今、その肉や野菜を口に運んでいる者たちにとっては、
ごく普通の朝の風景だった。
 それゆえ、手つかずのまま下げられる皿も多い。
 銀色のトレイに皿を下げに来る給仕人たちは、テーブルの間を忙しく動き回り、サービスにつとめている。
 ルイズが耳にしたのはそんなメイドたちの話声だった。

 (……ちょっと、あの話聞いた?)
 (あの裸の人でしょ……)

 トレイを運びながらが小声で話しているのが偶然聞こえたのだが、「裸」という単語にルイズは敏感に反応した。
 自分と元親、当然、話声の中心は後者の方だった。
 どうやら元親は使用人たちの間ではかなりに噂になっているようだ。
 スープをすすっていたルイズの手が止まり、メイドたちの声を聴く。

 曰く、「使用人たちの前で水浴びをしていた」
 曰く、「すごい引き締まった身体付き」
 曰く、「すごい美形」
 曰く、「腰にタオルを巻いて歩いていた」

 ……すっかり噂になってる、何が最低限の人数よ、人づてに広まっていけば同じじゃないの!
 今後の事を考えて、深いため息を吐きつつ、スプーンを口に運ぼうとしていたルイズの耳に
聞き逃せない言葉が飛び込んできた。

 (メイドが2人、その裸の人に襲われたらしいって)

 ピクっとルイズの手が震え、スープがスプーンからこぼれる。

 何、今の聞き間違い?襲われたって聞こえたよーな……。


 硬直した表情で、全神経を聴覚に集中させて、使用人たちの声に集中する。
 スプーンを握ったまま、固まったようなルイズを、正面に座っている巻き毛の少女が不審がっている。
 が、当の本人は周りの様子は眼中になく、ただ聞き耳に集中していた。

 (なんでも、突然、口をふさがれて、身動き取れない状態にされたらしい……)
 (必死に逃げて来たって、あのままじゃ危なかったって言ってたわ」
 (なんでもヴァリエール様が昨日呼び出した使い魔らしいって話よ)
 (え、という事は……、ひょっとしてミス・ヴァリエールも)
 (かもね、きっと、昨日の晩に……)

 給仕達の声が離れ、次第に届かなくなった。
 よりによって、ルイズのそばでそんなおしゃべりをしてしまったのは、当人たちにとっては、
正に知らずは仏とはよくいったものだ。
 それほど、学院勤めの使用人たちの間で朝のトップニュースとして話題になっていたのだ。
 加えて、朝からヴァリエールが厨房に顔を出し、部屋に食事と、服を届けるように言ったものだから、
この事件は平民たちの間で噂が噂を呼んでいた。

 一方、ルイズはというと

 どどどどど、どういう事?
 チョーソカベがメイドを襲った?
 あああああありえないわ、そんな事!
 私の使い魔だとバレるのはわかるけど、あああなたたちは、一体何を想像してるの?
 わわわわわ私とチョーソカベには、なななな何もやましい事なんて無いのよ
 そそそそそりゃ、さっき、はは裸を、…みみみ見られたけど、使い魔に見られたからって
 どどどどうって事ないの!、私たちはメイジと使い魔なんだから!!


 動揺でもはや、味の感じられないスープをルイズは口へと運んでいた、
 そして皿には、もうとっくにスープは残っていなかったが、それを口へと運ぶ奇行をルイズは繰り返す。
 見かねたルイズの正面の少女が声をかける。

 「……ちょっとルイズ、さっきから何やっての?」
 「え、何が、モンモランシー!?」
 「スープよ」
 「あ、あ、あはは……、なんでもないわ」

 あわてて、ルイズはスプーンを置くと、メイドが空の皿を下げる。
 モンモランシーの訝しんだ視線を誤魔化すように、グラスの水に手を伸ばす。

 「ふーん、ところで、今日も貴方の使い魔の姿が見えないわね」

 ゴッホォッ

 水を口に含んだルイズは思わず咳き込んだ。

 「ゴホゴホッ……、突然何言いだすのよ!」
 「何って……、ただ聞いただけじゃない」

 ルイズの慌てふためく態度に、モンモランシーは、何が何だか分からないといった表情だ。
 さっきスープ皿を下げにきた使用人が、こちらの会話に聞き耳を立てている気配をルイズは感じた。

 「ええっと、チョーソカベは……一応、平民だし、ここで食事をとるわけにはいかないでしょ、
だから部屋に食事を運んでもらったのよ」

 とりあえず、今、テキトーに考えた理由を話すと、モンモランシーはとりあえずそうねと頷いた。

 「チョーソカベ……変な名前ね、どこから来たの?」
 「……どこからって、たしかニホンとかいう国よ、ロバ・アル・カリイエにある国なんだって」
 「ふーん、その国の楽士を召喚しちゃったわけね」

 モンモランシーの口調にどことなく、馬鹿にした空気を感じ取ったルイズはムキになって反論する。

 「フン、違うわよ、彼はその国の将軍だったんだから、トサって都市の行政官って言ってたわ」
 「将軍!?……ウソなら、もっと、尤もらしいウソを付けよルイズ!」

 隣でルイズとモンモランシーの会話が聞こえていた小太りな少年がからかうような声で言った。

 「大方、サモンサーヴァントが成功するか分からないから、その辺の劇団から雇って来たんだろ!ゼロのルイズ!」
 「うるさいわね、マリコルヌ、私はもうゼロじゃないわ、チョーソカベを召喚したんだから!」
 「だから、それが嘘だっていってんだよ、……大方、口裏を合わせてロバ・アル・カリイエから来たとか考えたんだろ!」

 そういって笑う小太り少年マリコルヌにルイズの顔色が怒りで赤く染まっていった。
 昨日の学長室での起きた元親との主従の契約は、ルイズのこれまで生きてきた人生で、
最も勇気と誇りを試される文字通り試練だった。
 それをこんな風に馬鹿にされるいわれは無い。
 全身から怒りを発し、今にも決闘!の二文字を叫ばんばかりのルイズをモンモランシーがなだめる。

 「ルイズ、ちょっと落ち着いて……、マリコルヌ、ちょっと言い過ぎよ、私達だってあの時あそこにいたじゃない」
 ルイズが召喚したとき、確かにあの場にその他の生徒はいたのだが、ルイズの爆発魔法が巻き上げる
爆煙にさえぎられ、決定的瞬間を目撃したものはいない。
 それでも離れていた分、その煙の中に飛び込む者がいれば気が付いただろうし、いくらなんでも、
平民にあの爆心地に飛び込ませるのは難しいだろう。
 マリコルヌはモンモランシーの意見に言葉を詰まらせながらも、なお言い直った。

 「フン、まぁ、そうだけど……けど、いくらなんでも将軍はないぜ!」
 「まだ、言うわけ、この風っぴきのマリコルヌ!」
 「風上だ!、「か」しか合ってねーだろ、ソレ!」
 「よしなさいよ、二人とも、貴族が食事中にケンカなんて……、先生たちが見てるわよ」

 食堂のロフト部分から、こちらの方を見る教師の姿をみて、ルイズは声を落とし、マリコヌルはそそくさと席を立った。

 「……けど、あの人の顔じゃ、将軍って言っても説得力には欠けるわよね、役者みたいな二枚目だし」
 「モンモランシー、アンタもそんな事言うのね」
 「私、誉めてるんだけど?」

 教師の目があるので騒ぐわけにはいかないが、モンモランシーにしても元親の事をルイズの言葉通りには、
信じている様子はなかった。
 確かに、外見上で元親を身分ある人間と判断できる材料はほとんどない。
 唯一あるとすれば、顔の良さぐらいだが、将軍と言うより役者と言われた方がしっくりくるのは否めない。
 もっとも彼の持つ迫力は役者のそれではないけれども。

 「ところで、彼ってどこで生活するの?」
 「うぐっ……、私の部屋よ」
 「え!」

 モンモランシーの驚いた顔を見ながら、ルイズは、さっきまでマリコヌルと言い争っていた時は離れていたメイドが、
この話題になった途端、背後に近づいて来ている気配を感じた。

 「男の人と一緒の部屋にいるわけ!」
 「チョーソカベは使い魔よ、別にいいじゃない」

 しれっと言い訳じみた返答をモンモランシーに返すが、当然、相手は呆れた風な表情だった。
 「夜はどうするのよ」
 「そんなの平気よ、昨日だって普通に寝たわ」
 「え……、寝たの、………あの使い魔と?」
 「ブッ……、そんな事あるわけ、ないでしょうーが!!」

 食堂中に響き渡るルイズの声に周りの生徒が一斉にルイズ達の方を振り返る。

 「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ、まったく声が大きいのよ貴方は」
 「アンタが変なこと言いだすからよ、ホントに……、昨日はしょうがなかったから床で寝てもらったわ」

 周りの集中する視線に、赤面しながら、二人は声を落とす。

 「それでも十分に大胆な行動だと思うわ」
 「彼はギーシュと違って紳士なのよ、女性を襲うなんてことしないのよ」

 後ろに控えて聞き耳を立てているメイドに言うつもりでそういったのだが、モンモランシーとしては
引き合いに「一応」恋人であるギーシュを出してくる事自体が不愉快なことだった。
 自分という恋人がいながら、彼の浮気性と手の速さは、「お高く止まった」と評される典型的トリスティン貴族令嬢の
モンモランシーにとっては、大きな悩みの種だったのだ。
 ふん、とルイズから顔をそむけると、そのギーシュが友人たちと雑談しているのが見えた。
 胸をはだけさせたようなに純白のシャツを着こなし、一輪のバラを弄びながらワインを傾けている。
 ギーシュはモンモランシーがこちらを見ている事に気がついて、バラを唇にあて投げキッスを送ってきたが、
彼女は無視を決め込んだ。
 彼が下級生に手を出していると言う噂を耳にしていたからだ。

 「言っとくけどね、ルイズ、ギーシュと私はなんの関係もないから」

 そう言うとモンモランシーは席をたった。
 ルイズはモンモランシーを怒らせたかなと、少し後悔したが、謝るタイミングはすでに遅く、彼女は食堂から出ていった。

 「……仕方ないか、後であやまっとこ」

 ルイズも席を立つ、元親も食事が終わった頃だろうし、授業の準備もしなければいけない、
 彼女がアルヴィーズの食堂から出ようとした時それは聞こえてきた。

 (おい、新しいニュースだ、ミス・ヴァリエールの部屋に食事を届けたら……誰がいたと思う?)

 聞き捨てならないそのセリフは、ルイズが食事と服を届けるように頼んだ使用人の男だった。
 ルイズの足は一直線にその使用人に向かって歩き出した。
 男はルイズと目が合うと、とたんに顔色が青く変わる。
 そんな使用人は猛然と詰め寄るルイズに、蛇に睨まれる蛙のようになった。
 「う、……ヴァリエール様、私はただ、部屋に服と食事を運んだだけでして……」
 「……そうね、ありがとう、感謝するわ……、で、誰がいたの?」
 有無も言わさぬプレッシャーを発する少女に、使用人は、ただ見た人物の名を話す事以外に出来ない。
 「そ、それは……、ミス・ツェルプストー様です」

 ルイズはその名を聞くや否や、自分の部屋へと走り出した。


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