「おーそーいー!」
ルイズは食堂で、ワイン片手に管を巻いていた。
「なによあいつ、せっかく今度はここの料理を食べさせてあげようと思ったのに、
『あ、僕、ちょっと用事を済ませてくるから先に行ってて』
て、別れてからどんくらい待たせる気よ!」
苛立たしげにフォークをつかむと、手近にあった腸詰に突き立てた。
その腸詰が、ちょっとあれなやつに似ているせいで、男子生徒の何人かが顔をしかめる。
ルイズはそれを、躊躇なく噛み千切った。
「……ッッ!!」
リアルに想像した男子が、股間を押さえてうずくまる。
面白くなさそうに音をたてて咀嚼していると、なにやら後ろが騒がしい。
ルイズは振り向くと、
「あ、いたいた。おーいルイズぅ」
大きな銀のトレイを持って、手を振りながら近づいてくるアオを見て、
「ブッ!?」
噴いた。
ルイズは食堂で、ワイン片手に管を巻いていた。
「なによあいつ、せっかく今度はここの料理を食べさせてあげようと思ったのに、
『あ、僕、ちょっと用事を済ませてくるから先に行ってて』
て、別れてからどんくらい待たせる気よ!」
苛立たしげにフォークをつかむと、手近にあった腸詰に突き立てた。
その腸詰が、ちょっとあれなやつに似ているせいで、男子生徒の何人かが顔をしかめる。
ルイズはそれを、躊躇なく噛み千切った。
「……ッッ!!」
リアルに想像した男子が、股間を押さえてうずくまる。
面白くなさそうに音をたてて咀嚼していると、なにやら後ろが騒がしい。
ルイズは振り向くと、
「あ、いたいた。おーいルイズぅ」
大きな銀のトレイを持って、手を振りながら近づいてくるアオを見て、
「ブッ!?」
噴いた。
「ああ、あんた、なんて格好してるのよ!?」
「え、なんか変かな」
顔を真っ赤にして怒鳴るルイズの前で、アオ、その場でくるりと一回転。
それに合せてふりふりエプロンが揺れる。
似合うを軽々と通り越して、その可憐さに周囲が息を呑むほどだった。
ルイズはその姿に、女としてなんか負けた気がした。
「て、ちがーう!」
その考えを振り払うかのように、ルイズが叫ぶ。
「え、なんか変かな」
顔を真っ赤にして怒鳴るルイズの前で、アオ、その場でくるりと一回転。
それに合せてふりふりエプロンが揺れる。
似合うを軽々と通り越して、その可憐さに周囲が息を呑むほどだった。
ルイズはその姿に、女としてなんか負けた気がした。
「て、ちがーう!」
その考えを振り払うかのように、ルイズが叫ぶ。
「食堂でそんな大声だしてたら、みんなに迷惑だよ」
「あ・ん・た・ね。誰のせいだと思ってるのよ!」
アオ、首をかしげる。
その姿とあいまって、ルイズは思わずよろけた。
こいつ、わざとやってるんじゃないかしら。
なんとか体を支えながら、埒もないことを考える。
「はい、イライラしている時には甘いものが一番だよ」
アオはそう言って、持っていたトレイからパイを一切れつまみ出すと、ルイズの皿に盛った。
「なによ、これ」
「アップルパイですわ。アオさんが作ったんです。美味しいですよ」
アオが答えるよりも早く、別のテーブルで同じようにパイを配っていたメイドが答えた。
「誰よ、あんた」
何回か見たことある顔だが、名前は知らない。
「失礼しましたミス・ヴァリエール。私、ここでご奉仕させていただいているシエスタと申します」
「なに、シエスタ。これを作ったのがあいつってほんと?」
「はい、アオさんが今朝から準備していたんです」
辺りを見回すと、他のメイドたちが配っているのも同じアップルパイだ。
「まさか、今配られてるデザートって全部」
「はい、アオさんが作りました。すごいんですよ、あのコック長のマルトーさんが、アオさんの腕をべた褒めしてたんですから」
「そ、そうなんだ」
ルイズは冷や汗をかきながら、アップルパイを口に運ぶ。
「! 美味しい……」
ルイズが嬉しそうにアップルパイを食べるところを見て、優しく微笑むアオ。
「材料とかいろいろ都合をつけてもらったお礼に、配膳の手伝いをしているんだ。ほんとは、すぐに君に届けたかったんだけど、ここって広いから。じゃ、僕は、残りを配ってくるよ」
「それでは失礼します」
アオとシエスタは、再びデザートを配り始めた。
アオが通った辺りから、黄色い声が上がる。アオの姿に興奮した女生徒たちが騒ぎ出しているのだ。隠れながら窺うように見て、顔を火照らせた生徒の中に、男もいるのは気のせいだろうか。
ほんと、なんなのあいつ。
今更ながら、ルイズは思った。
「あ・ん・た・ね。誰のせいだと思ってるのよ!」
アオ、首をかしげる。
その姿とあいまって、ルイズは思わずよろけた。
こいつ、わざとやってるんじゃないかしら。
なんとか体を支えながら、埒もないことを考える。
「はい、イライラしている時には甘いものが一番だよ」
アオはそう言って、持っていたトレイからパイを一切れつまみ出すと、ルイズの皿に盛った。
「なによ、これ」
「アップルパイですわ。アオさんが作ったんです。美味しいですよ」
アオが答えるよりも早く、別のテーブルで同じようにパイを配っていたメイドが答えた。
「誰よ、あんた」
何回か見たことある顔だが、名前は知らない。
「失礼しましたミス・ヴァリエール。私、ここでご奉仕させていただいているシエスタと申します」
「なに、シエスタ。これを作ったのがあいつってほんと?」
「はい、アオさんが今朝から準備していたんです」
辺りを見回すと、他のメイドたちが配っているのも同じアップルパイだ。
「まさか、今配られてるデザートって全部」
「はい、アオさんが作りました。すごいんですよ、あのコック長のマルトーさんが、アオさんの腕をべた褒めしてたんですから」
「そ、そうなんだ」
ルイズは冷や汗をかきながら、アップルパイを口に運ぶ。
「! 美味しい……」
ルイズが嬉しそうにアップルパイを食べるところを見て、優しく微笑むアオ。
「材料とかいろいろ都合をつけてもらったお礼に、配膳の手伝いをしているんだ。ほんとは、すぐに君に届けたかったんだけど、ここって広いから。じゃ、僕は、残りを配ってくるよ」
「それでは失礼します」
アオとシエスタは、再びデザートを配り始めた。
アオが通った辺りから、黄色い声が上がる。アオの姿に興奮した女生徒たちが騒ぎ出しているのだ。隠れながら窺うように見て、顔を火照らせた生徒の中に、男もいるのは気のせいだろうか。
ほんと、なんなのあいつ。
今更ながら、ルイズは思った。
さて、それからちょっと時間が経過した後。
「ギーシュさま……その香水は、もしやミス・モンモランシーの」
「ケ、ケティ!?」
気障なメイジことギーシュが、ピンチだった。まあ例によって、二股がばれたのだが。
「よかった」
ギーシュが言い訳するよりも早く、ケティが手を叩いて喜んだ。
「はい?」
「それではミス・モンモランシーとお幸せに。さよならギーシュさま」
唖然とするギーシュを尻目に、ケティは手を振りながら去っていく。彼女が向かう先には、アオのエプロン姿に沸く集団が。
ポンと、ギーシュの肩を、友人の一人が叩く。
「お前、ふられたな」
「はいいいぃぃ?」
しかも、これだけでは終わらない。
「ギィィィシュ!」
地の底から響くような声と共に、ドリルにも負けぬ見事な巻き毛をした女の子が近づいてくる。
「モンモランシー!?」
「やっぱりあんた、あの一年生に、手を出してたのね」
「えと、その、彼女とはもう終わったっていうか」
「二股してたのは事実でしょうが!!」
モンモランシーは、体重の乗った見事な打ち下ろしの右で、ギーシュをテーブルに沈めると、
「ふんっ」
大股で去っていった。
「その、まあ……生きろ」
本来なら「ざまあ見ろ」と言いたいところだが、あまりの痛々しさに友人たちの見る目が優しい。
ギーシュは脳震盪で揺れる頭を振りながら、薔薇を片手に言った。
「ば、薔薇とは孤高のもの。これもまた宿命さ」
ギーシュは脳内で、さながら悲劇の主人公のような自分に酔いしれる。
「ときに、君。 なんて事をしてくれたんだ」
そして始まる責任転換。
餌食になったのは、香水の壜を拾って届けたメイド、シエスタだった。
「ギーシュさま……その香水は、もしやミス・モンモランシーの」
「ケ、ケティ!?」
気障なメイジことギーシュが、ピンチだった。まあ例によって、二股がばれたのだが。
「よかった」
ギーシュが言い訳するよりも早く、ケティが手を叩いて喜んだ。
「はい?」
「それではミス・モンモランシーとお幸せに。さよならギーシュさま」
唖然とするギーシュを尻目に、ケティは手を振りながら去っていく。彼女が向かう先には、アオのエプロン姿に沸く集団が。
ポンと、ギーシュの肩を、友人の一人が叩く。
「お前、ふられたな」
「はいいいぃぃ?」
しかも、これだけでは終わらない。
「ギィィィシュ!」
地の底から響くような声と共に、ドリルにも負けぬ見事な巻き毛をした女の子が近づいてくる。
「モンモランシー!?」
「やっぱりあんた、あの一年生に、手を出してたのね」
「えと、その、彼女とはもう終わったっていうか」
「二股してたのは事実でしょうが!!」
モンモランシーは、体重の乗った見事な打ち下ろしの右で、ギーシュをテーブルに沈めると、
「ふんっ」
大股で去っていった。
「その、まあ……生きろ」
本来なら「ざまあ見ろ」と言いたいところだが、あまりの痛々しさに友人たちの見る目が優しい。
ギーシュは脳震盪で揺れる頭を振りながら、薔薇を片手に言った。
「ば、薔薇とは孤高のもの。これもまた宿命さ」
ギーシュは脳内で、さながら悲劇の主人公のような自分に酔いしれる。
「ときに、君。 なんて事をしてくれたんだ」
そして始まる責任転換。
餌食になったのは、香水の壜を拾って届けたメイド、シエスタだった。
「なにやってんのよ、あいつ」
ルイズは呆れながら、メイドに八つ当たりするギーシュを見た。
このルイズ、魔法はダメでも、心は貴族。
知らぬ仲(ついさっき名前を知ったばかりだが)でもないことだしと、シエスタに助け舟をだそうと立ち上がったところで、ギーシュに近づくアオの姿を視界に捉えた。
手に持つトレイには、水がなみなみと注がれたジョッキが載せてある。
ちょっと、あいつまさか。
いやな予感がした。
「そこまでだ。少し頭を冷やそうか。その娘は困っている」
アオは後ろから、ジョッキの水をギーシュの頭からかけた。
いやな予感的中。
ルイズは呆れながら、メイドに八つ当たりするギーシュを見た。
このルイズ、魔法はダメでも、心は貴族。
知らぬ仲(ついさっき名前を知ったばかりだが)でもないことだしと、シエスタに助け舟をだそうと立ち上がったところで、ギーシュに近づくアオの姿を視界に捉えた。
手に持つトレイには、水がなみなみと注がれたジョッキが載せてある。
ちょっと、あいつまさか。
いやな予感がした。
「そこまでだ。少し頭を冷やそうか。その娘は困っている」
アオは後ろから、ジョッキの水をギーシュの頭からかけた。
いやな予感的中。
しんと、辺りが静まりかえる。
なにが起こったかわからずに、きょとんとしていたギーシュだったが、肩を震わせて振り返った。
「決闘だ!」
「うん、いいよ」
あっさり受けるアオ。
うおーッ! と歓声が巻き起こる。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民の……えとお名前は」
「アオです」
マイク代わりに向けられた杖に、にこやかに答えた。
なにが起こったかわからずに、きょとんとしていたギーシュだったが、肩を震わせて振り返った。
「決闘だ!」
「うん、いいよ」
あっさり受けるアオ。
うおーッ! と歓声が巻き起こる。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民の……えとお名前は」
「アオです」
マイク代わりに向けられた杖に、にこやかに答えた。
キャーっ! とさっきとは別種の歓声が巻き起こる。
「あの方、アオさんとおしゃるのね」
「ちょっとギーシュ。その方に下手なことをしたら承知しないわよ」
すっかりアオのシンパと化した女生徒たちの野次に、ギーシュがよろけた。
「こ、この僕が……こんな、こんな事があっていいわけがない……こんな、こんな」
美少年を自負してきたナルシストのギーシュには、かなりのショックだった。
親の敵を見るような目でアオを睨むと、くるりと体を翻す。
「ヴェストリの広場で待っている! さっさと来るんだな!!」
ギーシュは、そう言って友人たちを引き連れて、食堂を出て行った。
その後について行こうとしたアオの袖首を、誰かがつかみ止めた。
シエスタだ。
涙目でアオを引きとめようと訴える。
「だ、だめですアオさん。貴族と決闘だなんて、殺されてしまいます」
「そうだね。殺さないよう気をつけるよ」
二人の会話が微妙にかみ合っていない。
シエスタは、アオの笑顔を見て、自分の聞き間違えだと思うことにした。
「と、とにかく、今ならまだ謝れば、許してくれるかもしれません」
「そのメイドの言う通りよ、謝っちゃいなさいよ」
アオが振り向くと、駆け寄ってきたルイズがいた。
「やあ、ルイズ」
「やあ、じゃないわよ! メイジと平民が決闘だなんて、一体どういうつもりよ。正気とは思えないわ」
「シエスタは困っていたんだ。義を見て立たざるは猫なきなりってね……なにもしなかったら、僕は猫にも劣る事になる」
「……意味がわかんないわよ。とにかく謝りなさい。これは命令よ」
ルイズの瞳を見て、首を横に振るアオ。
「それはできない。僕が謝れば、彼女の非を認めることになる。
理不尽を見て、見ぬフリをする生き方を、もうする気はないんだ」
シエスタはアオの言葉に、両手で口元を抑えて、息を呑んだ。
ため息をつくルイズ。
「……いいわ、この決闘、許可してあげる。怪我して後悔しても知らないからね」
アオは笑った。
「それだけは、しないことを約束するよ」
「あの方、アオさんとおしゃるのね」
「ちょっとギーシュ。その方に下手なことをしたら承知しないわよ」
すっかりアオのシンパと化した女生徒たちの野次に、ギーシュがよろけた。
「こ、この僕が……こんな、こんな事があっていいわけがない……こんな、こんな」
美少年を自負してきたナルシストのギーシュには、かなりのショックだった。
親の敵を見るような目でアオを睨むと、くるりと体を翻す。
「ヴェストリの広場で待っている! さっさと来るんだな!!」
ギーシュは、そう言って友人たちを引き連れて、食堂を出て行った。
その後について行こうとしたアオの袖首を、誰かがつかみ止めた。
シエスタだ。
涙目でアオを引きとめようと訴える。
「だ、だめですアオさん。貴族と決闘だなんて、殺されてしまいます」
「そうだね。殺さないよう気をつけるよ」
二人の会話が微妙にかみ合っていない。
シエスタは、アオの笑顔を見て、自分の聞き間違えだと思うことにした。
「と、とにかく、今ならまだ謝れば、許してくれるかもしれません」
「そのメイドの言う通りよ、謝っちゃいなさいよ」
アオが振り向くと、駆け寄ってきたルイズがいた。
「やあ、ルイズ」
「やあ、じゃないわよ! メイジと平民が決闘だなんて、一体どういうつもりよ。正気とは思えないわ」
「シエスタは困っていたんだ。義を見て立たざるは猫なきなりってね……なにもしなかったら、僕は猫にも劣る事になる」
「……意味がわかんないわよ。とにかく謝りなさい。これは命令よ」
ルイズの瞳を見て、首を横に振るアオ。
「それはできない。僕が謝れば、彼女の非を認めることになる。
理不尽を見て、見ぬフリをする生き方を、もうする気はないんだ」
シエスタはアオの言葉に、両手で口元を抑えて、息を呑んだ。
ため息をつくルイズ。
「……いいわ、この決闘、許可してあげる。怪我して後悔しても知らないからね」
アオは笑った。
「それだけは、しないことを約束するよ」