あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と十七属性-11


「俺っちの価値も分からずに、ガラクタ箱に放り込みやがって!」
「うるっせぇ、デル公は黙ってろ!」
 日の光が差さない薄暗い店内のガラクタ入れの中にから、信じがたい事に、声が聞こえた。この中にあるものは当然ながら武器だけだ。武器屋に武器が置いてあるのは当たり前である。
 だが、その剣の中の一振りが喋ったのは、果たして、この世界の常識なのだろうか。
 半ば驚きながらも、柄をカタカタと動かして喋る錆だらけのそれを、ガラクタの中に発見した。片刃だけのそれは、錆びていなければ日本刀に見えなくもない。
「……ん、おめーさんは……。あれ、確か……あれ…………いっ…………!」
「……い?」剣が突然言いよどんだので、一体何があるのか、一文字ながら聞いたつもりだ。
 手に持つと、その剣の情報が頭に流れ込んでくる。デルフリンガー、どうやら魔法を吸収する能力のあるインテリジェンスソード、つまりは喋る剣らしい。これって結構、凄いんじゃないか?


虚無と十七属性


第十一話

 話は数分前に遡る。
 衛兵に二人のチンピラを突きだした後の話だ。
 予想以上に早くルイズやキュルケと合流、そしてその二人を運んできたという使い魔のドラゴンの主、小柄で、氷を連想させる青い綺麗な髪が特徴的な、タバサという少女をお供に加え、俺達四人は町を、目的地に向けて歩いていた。
 ああ、そうだ。結局、チンピラ戦で手に入れた金額の合計は、だいたい21エキューくらいだった。で、倒したヤツは衛兵に突きだし、その人数の合計は19人。
「……アンタの名前、ダイヤっていうの? さっき言ってたけど」
 ルイズは俺に武器を持たせるつもりらしい。
 一応、手持ちにポケモンが六匹いるが、いつ、この前の決闘の時のような事態に陥るかは分からない。自分の身は自分で守らないといけない。あの時は、何故か突然力が湧いてきたのだが、その原因は未だに分かっていない。
 その武器屋への道のりの途中で、ルイズは唐突に口を開いた。顔は正面を向いたままで、こちらからはその表情を伺い知る事はできない。
「多分違う」
「多分って何よ」
「……まだ記憶が完全には戻っていない。ダイヤというのは、近くにあった宝石店から思いついて即席で答えただけだ。自分の名前は、まだ思い出せていない」
「ダイヤって、あの、ダイヤモンドのダイヤ?」その時、初めてルイズがこちらを見た。こちらを見る前は、なんとなく暗さが漂う表情をしていた気もしたが、今はそんな気配はなく、「何言ってるんだ、コイツは」と顔で語るような表情をしている。「……何で?」
「……わからない」
「あっそ」ぶっきらぼうにそう言って、ルイズは再び前を向いた。
 そこへキュルケが、俺とルイズの間に割り込む。
「ほうほう、もしかしてもしかして。ルイズ、ダイヤが自分が知らない名前を、先に他の誰かに名乗ったと思って妬いてたの? 可愛いとこあるわねー。ダーリンはあげないけど」
 その言葉の直後、ルイズが途端に顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「なっ! どうしてアンタはいつもそういう話に持って行くのよ! だ、だだ第一、アンタのものじゃないし! それに、ダイヤっていうのは、即席の偽名でしょうが!」
「あら、そうかしら。とても綺麗で素敵な名前だと思うけど。それに、ダイヤモンドのあの硬さは、ダーリンの強さにそっくりだわ。ねー、ダーリーン」
 そこで同意を求められても、非常に困るのだが。
「……どう呼んでくれても構わんが」
「そ。じゃ、ダイヤで決定ね!」
「ちょっ、何アンタ勝手に決めてんのよ!」
「いいじゃない別にー。じゃあ、あなたはもっといい名前を思いついて?」
「……えーっ? ……そりゃ、例えば……メシュギルークとか、セミュエレイとか」
「どう、ダーリン?」
「なんとなく、五文字以内じゃないといけない気がする」
「……? タバサはどう思う?」
「ダイヤの方がいい」
「だってさ。じゃ、ダイヤで決定ね!」
 かくして、俺の名前はダイヤになった。
 ルイズがなんとなく悔しそうな表情を浮かべたところで、狭い道幅のところへと左折し、日の当たりの悪い通路を歩く。どうやら、武器屋はこの狭い路地裏のようなところにあるらしい。
 そして、目立たない、古くさい武器屋の中へと四人は足を進めていったのだった。

 石造りの建造物が乱立するその中で、武器屋はひっそりと運営されていた。
 店内の壁には、ナイフから大剣、アックスやメイスなどが所狭しと掛けられていて、薄暗さもあって、鈍く光る武器の群れからは、何か得体の知れない、不気味さが滲み出ていた。それに気付いて初めて、武器というのは、格好いいものではなく人殺しの道具だった、と思い出す。
 店内に一歩踏み出すと、床が軋む音がした。
「あいや、貴族様方、うちは真っ当な商売をしておりますぜ?」
 中から、目が細く、これまた細い髭が印象的な、店主の男の声がした。四人の姿を認めるや、頬杖をついていた体制から飛び上がり、せかせかとこちらへ進み出た。
 こう言っちゃ悪いかもしれないが、ロケット団の下っ端にいそうな顔つきだった。
「客よ」ルイズが、平坦な声色で威圧感をたっぷり出しながら言った。これが、平民と貴族の差か。年齢に関係無く、貴族は偉いらしい。「私の使い魔に持たせる剣を買いに来たの」
「いやぁ、おったまげた! 使い魔に剣を! 坊主は聖具を振る、兵士は剣を振る、貴族は杖を振る、そして陛下はバルコニーから手をお振りになると相場は決まっておりますが、今日びは使い魔も剣を振るようで! それにしても最近は、貴族様方が下僕に武器を持たせるのが流行っておりやすな」
「そうなの?」キュルケが言った。
「へい。なんでも、土塊のフーケとかいう盗賊があちこちの屋敷に現れては宝物を奪っていくようで、皆さん必死で下僕に武器を持たせ、傭兵やら兵士やらを雇っております。それにしても、大盗賊に奪われる程の宝を持っているというのは、我々平民からしたら羨ましい限りです」
「ふぅん。ま、とりあえず、コイツに合いそうな武器、見繕ってくれるかしら」今度はルイズが、俺の方を指さしてそう言った。
「へい、ただいま」
 ルイズの偉そうな態度に、店主は若干顔を顰めた気がしたが、それもすぐに商人の顔へと戻り、店の奥へと姿を消した。

「これなんかいかかですか? ゲルマニアの、かのシュペー郷が打った一振りでさあ」
 数十秒後には、店主が、大剣を携えて戻って来た。その大剣は、なんだか実践に使うにはもったいない位の煌びやかな装飾がなされている上に、大剣という名に相応しく、俺には長くて太すぎる剣だった。とてもではないが、人殺しの道具だとは思えない。
 店主がそれをこちらへ突き出す。名剣という割に素手で普通に渡すとは、あまりにも乱雑な取り扱いではないのか。酸化したりはしないのか。それとも、この刀身は本当の金でできているから錆びないのか。
「凄く綺麗じゃない! こんな店にこんな剣があるなんて! やっぱり剣も女も、ゲルマニアに限るわね」キュルケが囃し立てた。
 そして受け取ると、勝手に剣の情報が頭の中に流れてくる。もう何度もその現象には遭遇しているので、あまり気持ちの良いものではないが、慣れたものである。それに、便利であるから何も言えない。
 読み取った情報からすると、これは実践で使うには脆すぎるという事が判明した。一回岩盤に叩きつけたら、間違いなく折れてしまうらしい。見た目に騙されなくて、良かった。
「……店主。悪いが、装飾剣を買いにきたんじゃないんだ」
「とんでもねえ。それには確かに煌びやかな装飾がなされていますが、メイジによって固定化が掛けられておりやす。なにより、かのシュペー郷が打った剣ですぜ? 元々、実践を見越して打った剣でさあ。一振りで鉄の鎧を切り裂き、一突きで盾を貫きますぜ」
 そう言われて剣を見るが、情報を手に入れてしまってからは、ただのナマクラにしか見えなかった。今改めて見てみると、この金銀煌びやかな装飾だって、剣としての渋い力強さと格好良さを半減させるものにしか見えない。
「……これはいらん。鉄どころか、岩一つ切れずに折れるだろう」
「……ば、馬鹿な事を言わないで下せえよ!」店主は顔を顰めるのを隠さない。
 その直後だった。
「へっ。ざまあねえな! おめーに武器を見る目がねーんだよ! 俺っちの価値も分からずに、ガラクタ箱に放り込みやがって!」その声に辺りを見回すが、人影は相も変わらず5人のままだ。
 今の今まで、武器には興味なさげに本を読んでいたタバサという少女でさえ、読書を中止して目をあちらこちらへと向けている。
「うるっせえ! デル公は黙ってろ!」店主が怒鳴る。
 店主が向く方を見ると、その店の角の方には確かに、声の通りガラクタ箱のようなものがあった。放り込まれている、という事は、この中に声の主がいるはずだ。だが、そばへ寄って中をのぞいても生き物らしきものは見あたらない。ただの錆びた剣や、柄の折れたメイスやらのジャンク品が乱雑に突っ込んであるだけだった。
「うん。おまえさん、中々武器を見る目があるんじゃねーのか。……おい、どこ見てんだ、ここだ、ここ」主の分からぬ声が、今度は近くから聞こえた。
 果たして、その中に声の主の姿はあった。なんとその正体は、これ以上は無いというくらいに真っ茶色に錆び付いた、片刃の剣だったのだ。
 その柄と刀身の狭間には金属製の器具が取り付けられていて、喋るたびにそこがカタカタと音を立てて動いている。どうやら、この剣の口らしい。錆びていなければ、片刃のそれは日本刀に見えなくもない。
「……これか」
 疲れ果てた老人を連想させるくらいの錆び付きの剣を、ガラクタ入れの中から引き抜いた。
「やっと見つけたか」
 この剣に表情があったのなら、恐らくにやけているか、呆れているかのどちらかの顔をしているだろう。
 だが、その直後に、『口』にあたる部分の金具を、ぽかん、と開けたままになった。
 この時の俺は気付かなかったが、もしかしたら、開いた口が塞がらない、というアレだったのかもしれない。
「……ん、おめーさんは……。あれ、確か……あれ……この感じ…………いっ……!」
「……い?」
 剣が突然言いよどんだので、一体何があるのか、一文字ながら聞いたつもりだ。
 喋る物体があるのか。ポケモンではないんだろうな? と疑問を浮かべたその時だった。

「いぎゃあぁあ゛あぁああ゛ああ!」
 剣の悲鳴が、ブルドンネ街へ響き渡った。

 そのあまりの唐突さと、ガラス窓を破砕させん声の大きさに、その場にいた全員が目を丸くしたのだ当然のことだ。
 何だ何だと驚く内に、剣が、今度は『口』をくがくがくがく震えさせた。あわわわわわわ、と突然慌て始める。慌てる剣とは滑稽だ。
 剣が喋るとは思わなかったが、勿論それ以上に、剣が叫んだのは驚きだった。
「やめて! 助けて! どうか命だけは!」
「……え……いや……」
「俺、絶対役に立ちますから! 実は魔剣なんです! 伝説の魔剣だったりするんです!」
「……?」
「……そう、魔剣! あれ、どんな能力だっけ!? やばい! 思い出せない! でもとりあえず、なんか、凄い力があるんです!」
「……」
「イヤだ! こんな事で死にたくない! 損はさせませんから! 絶対損はさせませんから! 『さびたけん』じゃありませんから! こう見えて、6000年前から生きてますから!」
「……おい」
「お慈悲をっ! アレは『きずぐすり』とかでやればいいじゃないですか! だからどうかバッグに入れないで! 『どうぐ』の八番目に持ってかないで! お願いですからセレクトボタンを連打しないでくださ、」

 ――ガチャン!

 店主が俺から剣を奪い取り、カウンター奥から持ってきた鞘に入れると、剣の声は一瞬で消える。

 ――間――。

「……まったく、誰が剣を喋らせる事なんてしたんでしょうね」と店主。
「……そうですね」何故か、ここに来て初めて敬語が出た。

◇◆◇◆◇◆

「……じゃあアンタ、コイツの事知ってるの?」
 漸く落ち着いたデルフリンガーに、ルイズが問いかける。彼女の右手は俺を指さしているが、顔は、店主の持った剣に向いたままだ。全く、器用な真似をする。
「……いや……わかんねぇ。でも何か、懐かしくて、ものすごい恐怖に駆られたんだ……。なんかこう、ぞくぞくっ、て。随分昔に似たような事があったような……。ああ、思い出せねえ……。でもやっぱ、思い出したくねえ……」
「何よ。やっぱ嘘じゃないの? 買って欲しいからって運命を演じたとか」
「そんな事はねえ。俺っちだって、こんな得体の知れない使い手はゴメンだ……。あれ、使い手? おめーさん、使い手でもあったような気が……あれ、そもそも使い手ってなんだっけ? 思い出せねえや」
「ねえ、ダーリン、あなたはこの剣の事、どう思うの?」

「……これにしよう」

「え」
 その短い声はデルフリンガーのものだったかもしれないし、ルイズかキュルケのものだったかもしれないし、或いはこの場にいる全員のものだったかもしれない。
「店主、いくらだ」
「ああ、それなら……もう、やっかい払いみたいなもんですし、金貨20で、新金貨なら30で結構でさあ」

 さびたけん を てにいれた!

「オイ! そりゃないぜ! 俺はデルフリンガーって名前があってだなぁ……はぁ……」

◇◆◇◆◇◆

「いやあ、おでれーたおでれーた! おめえさん、『使い手』でもあったんだな!」
 ブルドンネ街。
 購入後、すっかり落ち着きを取り戻したデルフリンガーは途端に饒舌になった。
「……『使い手』とは何だ? それに、何故お前は俺を恐れた?」
「さあ……。何でだろうな。両方とも忘れちまったなあ。何千年も前の事だからなー。ま、そのうちひょっこり思い出すだろーよ。これから宜しくな、相棒」
「……そうか」
 魔法を吸い込み、その10%を使い主の力に還元するという、おそらくかなり便利なマジックアイテム、デルフリンガーを手に入れた。自分の金で買うと言ったが、それくらい主人が出さないと格好がつかないでしょうが、との事なので、ルイズが出してくれた。
「それにしても、何でそんなぼろっちい剣にしたのよ、ダーリン。私がもっといいの、買ってあげたのに」
 タバサのために本屋へ寄る途中、キュルケが不満げにこっちを見た。
「いや、これの方が、遙かに実用性が高い」
「そうなの?」
「そうだ。シュペー郷が打ったというあの剣よりも遙かに鍛えられている上、四大属性の魔法の全てを吸収でき、その一割を俺の力に還元する、という効果がある」
「おお、そういえば、俺っちにはそんな力もあった気がするぜ!」
「…………へ? そんな凄い剣だったの!? それ」
「店主は武器を見る目がないらしいからな。値段を上げられるかもしれないから、黙っていた。第一、魔法使いが剣をインテリジェンスソードにするのに、固定化を掛けない筈はないだろう。この錆びは、もしかしたら目を欺くものかもしれん。長い年月で固定化が外れてしまっただけかもしれないが」
「……なるほど」
 タバサ、という少女が、本から顔を上げて言った。思えば、今日初めて、彼女の声を聞いたかもしれない。
「伝説の魔剣、という名は伊達じゃない。幾度も客を欺き、『使い手』に再び引き取られたのは、必然?」
 こちらを見て、首をかしげるタバサ。俺に聞かれても、俺は何も知らないのだが。
「そういえばそんな気もするなぁ」と、デルフ。
 本当に大丈夫なのか? 老年痴呆の剣に、ここから先、身を任せられるのか?
「それにしても、やっぱりダーリンは凄いわ! 」
「ああっ、もうアンタ鬱陶しいわねー! ダイヤって名前付けたんならダイヤって呼びなさいよ! そのダーリンっての、寒気がするわ!」
「嫉妬で身体が焼ける、の間違いじゃないのー?」
「ち、違うわよ!」
「ルイズったら可ー愛い。自分の使い魔、いや、想い人を盗られるのが怖いのね?」
「そんな訳ないじゃない!」
「へぇー。じゃあ、顔が真っ赤なのはなんで? まるで熟れたリンゴのようね。身体は、全っ然成熟してないけど」
「うるさいうるさいうるさーい!」
 また口論か。口論しているこの二人を見ていると、なんだか、姉妹を見ているようで微笑ましい。
 ルイズが、視線で『アンタもなんか言いなさいよ』と語りかけてくる。俺がフォローしたところで、この口論が終結するとは思えないので、何も言わないが。
「なあ、相棒」
「……何だ」
「えらく、平和だな」
「……そうだな」
 デルフリンガーの言葉に、静かに同意した。ずっと、平和が続けばいい。
「俺の出番、あるかな?」
「さぁな……。とりあえず、今は平和だから、剣はバッグに入れて置こう」
「……そうだな……え?」
「いい加減、重い」いい加減、手が疲れてきた。
「……待った! 待った待った待った! な、頼むから、バッグに入れるのは勘弁してくれ!」
「何故だ」
「なんか、嫌な思い出がありそうな気がするんだよ!」
「思い出がありそうな気もする、というのは変な言い方だが」
「な? な? 多分、なんかトラウマになっているんだよ。頼むよ、この通りだ!」この通り、と言っても、剣は変化しなかった。
「……どの通りだ」
 そう冷静に突っ込んで、後ろ手にバッグのポケットを開ける。
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
「だだをこねるな6000歳」
「死んじゃう! 俺っち死んじゃうよー!」
「死なんから大丈夫だ」
 デルフリンガーには悪いが、まあ、これからずっと手に持っておく訳にはいかないし、バッグの中も慣れておいてもらわないと困る。
 内心、ごめん、と思いながらも、デルフをバッグへと、静かに放り込む。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! せめて『たいせつなもの』に入れてえええぇぇぇえええ! 表示は『さびたけん』じゃなくて『デルフリンガー』に、」
 声が途切れる。
 どうやら、四次元バッグの中に、無事収まったようだ。本当に便利だな、このバッグ。いくらボールを入れてもかさばらないし、『てっきゅう』や『こうこうのしっぽ』(おそらくイワークの尻尾)を入れても、その重さを感じない。
「無念」と、デルフリンガーの内心を代弁するような、タバサ。
「そうだな」原因は俺だが。
「剣はどこへ行ったの?」
「見ての通りバッグの中だ」
「あの長さじゃ入らない」
「入るものなんだ」
「なぜ?」
「兎角そうなんだ」
「……?」
 俺がそれだけ言うと、タバサは訝しげに俺のバッグをのぞき込んだが、中を確認する事はできなかったらしく、また本を開き、歩きながら読み出した。その本、そんなに面白いのか?
 後ろを見ると、そこではキュルケとルイズの口論の第二回戦が繰り広げられている。といってもキュルケが圧倒的に有利だ。ルイズはどちらかというと、いいように遊ばれている。あんまり大きな声出すから、周りの人の視線を感じるぞ。恥ずかしいからやめなさい。
 ……あれ、見られてるの俺? しまった。帽子とか取ってなかった。

 それから帰るまでに、本屋は勿論、服屋やら茶屋やらに寄ったのだが、人目を気にしすぎて挙動不審に見られなかったか、非常に不安だ。自転車で逃げ出したいし衝動に、何度も駆られた。
 空には、そんな俺の内心など知るよしも無い太陽が、ただ燦燦と、俺をあざ笑うかのように大地を照らしている。帰る頃には、俺の心はこの砂埃の舞う地面のように、荒れ果てているかもしれない、と一人溜息をついて恥を紛らわそうとしたが、無理だった。


新着情報

取得中です。