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僕らは、恋をして生きていく-04


第3話「パインサラダは、涙味」

周囲の視線に耐えながら、昼食を食べることにする。
服に染み込んだワインが気持悪いけど、ここで部屋に帰ったら、なんか逃げ出したみたいだからね。
これが体面を第一に考えなきゃいけない貴族のつらい所さ。
しかし、このパインサラダは、やけに苦くって、しょっぱいなぁ。
まるで、はしばみ草が入っているようだよ。
ん、人ゴミをかき分けてやってくるのはルイズじゃないか。
顔を林檎のように真っ赤にして、体中を緊張で、危ないクスリの中毒患者のように震わせて僕の前に立つルイズ。

……そうか、そういうことだったのか。

この様子は、間違いない。
僕の鋭い頭脳が、瞬時に答えをはじきだした。

なんてことだ。まさか、ルイズが、この僕に恋をしていたなんて!

きっとルイズは、ずっと僕に気が有って、しかし、勇気がなくて言い出せなかった。
それが、モンモランシーとヒカリが付き合っていたのが発覚して焦りを感じ、なおかつ、
二人に振られてフリーになったのを良い機会に告白するつもりに違いない。
ああ、ごめんよ、気が付かなくて。

「ギーシュ・ド・グラモン!」
正直、ルイズは、胸がペッタンコすぎるけど、美少女だし、
胸だって将来的には成長するかもしれないし、なにより女の子に恥をかかせる訳にはいかない。

「待ってくれたまえ。こんなことを女子の方から言わせるわけにはいかない――ルイズ・ラ・ヴァリエール。
このギーシュ・ド・グラモン喜んで、つきあわさせていただくよ!」
二輪の薔薇の棘に刺されてしまって、ちょっとへこんでいた僕だけど、
君のおかげで自信が取り戻せたよ。
そう、なにも女の子は彼女たちだけでは無いんだ。
僕には、まだ無限の可能性と選択肢が待っているんだ!

「そう、いい度胸ね。でも、このアルヴィースの食堂を薄汚れた女の敵の血で汚すわけにはいかないわ。
ヴェストリの広場で待っているから、最後の食事を楽しんでから来なさい」
……あれ?
そう言い捨てると、ルイズはマントをひるがえして、ドスドスと小さな体から信じられないような迫力で立ち去っていく。

「ま、待て、待ってくれ。君は、一体なんの話をしているんだい!?」
慌てて呼びとめる僕を、ルイズは、まるで虫ケラを見るような目で一瞥する。

「決闘の話に決まっているでしょ」
「なんで僕が、ルイズと決闘しなくちゃならないんだ!?」
当然の疑問に、ルイズは一片の疑いも持っていない顔で答える。

「親切な人が教えてくれたのよ。あんたが、わたしの使い魔に手を出して、もてあそんで、ボロ屑のように捨てたってね」
後ろで、今の今まで、友人だと思っていた男が手を振っている。
オノレ、謀ったなギムリ!
そんなに、借りた秘本を教室に忘れて、女子に発見されたのを根に持っていたのか。
あれは、秘本に自分の名前を書いておいた君も悪いんだぞ。
仕返しは後でするとして、とにかく、今はルイズの誤解を解かないと。

「誤解だぁ! してない、そんな事してないよ!」
ルイズの顔から、ちょっと険が取れる。

「じゃあ、ヒカリと付き合ってキスもしたってのは嘘なのね?」
「……いやあ、それは本当だけど」
「それじゃあ、モンモランシーと二股していたってのが嘘?」
ルイズの声が、やさしい声音なのが、かえって怖い。

「……そ、それも本当だ」
ポカッ! 杖で眉間を叩かれました。
僕が痛みに頭を抱えているうちに、ルイズは、さっさと食堂から出ていってしまう。
どうしよう。
あの様子じゃ、いくら弁明して聞いてもらえるとは思えない。
名誉を重んじる貴族が女の子から決闘を挑まれて逃げ出すわけにはいかないけど、
貴族同士の決闘は禁止されているし、何より女の子に手を上げるわけにもいかない。
まさに八方塞だ。
悩んでいると友人の一人が声をかけてきた。

「いやあ、さすがはギーシュ。あのルイズと決闘なんて勇気があるなあ」
「からかわないでくれよ……女の子と決闘なんて……まあルイズは魔法が使えないから、その点は安心だけど」
「おいおい、知らないのかよ」
友人が大仰にのけぞって驚いて見せる。

「なにをだい」
「そうか、ギーシュは授業に出てなかったんだな。ルイズはな、錬金の授業でいつもの失敗魔法ボン!」
友人が手を開いて爆発のジェスチャーをして見せる。

「トライアングルメイジのミセス・シュヴルーズを一発KOさ」
「そそそ、それは本当かい!?」
「ああ、杖に誓って本当だとも。だから今日の錬金の授業は取りやめになったのさ」
……それが本当なら僕に勝ち目は無いじゃないか。
同じ属性で、僕より遥かに優れたトライアングルのメイジを倒すような相手に勝てるわけが無い。

しかも呆然としている内に、メイドが食べかけの食事を片付けてしまっていた。
僕は周りに流されるまま、ゆっくりとヴェストリの広場に向かう。
どうしよう、どうしたらいい!?
お、落ち着け、僕。こんな時は問題を整理して見るんだ

女の子に決闘を申し込まれた→面子的に断れない。
女の子には、手を上げることが出来ない→ついでにヴァリエール大公家の娘だし、
間違って傷でもつけたら家族にも迷惑がかかる恐れがある。
その女の子は、トライアングルのメイジを一発で倒した→僕、ドット。

四面楚歌じゃないか……、いや、待てよ。もう一つあった。

貴族同士の決闘は禁止されている→ルイズや、ギャラリーは納得しなくても大きな騒ぎになれば先生に止められる→それまで時間を稼げば有耶無耶で決闘を終えられる。

これだ、これしかない。禁じられた決闘をしたということで怒られるだろうけど、
これが一番の面子を失わないですむ方法だ。
考え事をしている内に広場についてしまった。
すでに広場は、噂を聞きつけた生徒たちで溢れかえっている。
よしよし、これだけ騒いでいれば、すでに先生たちの耳にも入っているだろう。
興奮した皆は、先生の制止も聞かないかもしれないけど、
かつての学生紛争のさい使われたという秘宝『眠りの鐘』でも使ってくれれば大丈夫だ。

「みんな! 決闘よ!」
ルイズが杖を掲げて宣言すると、うおーー! と歓声が巻き起こる。

「ルイズが決闘するぞ! 相手は『青銅』のギーシュだ!」
僕も薔薇を振って、歓声に答えるけど、思いっきりブーイングされた。
なんで僕が女の敵なんて言われなくちゃならないんだ!?

「とりあえず、逃げないで来たことは、誉めてあげるわ」
ルイズが僕を睨み付けながら言ってくる。

「だ、誰が逃げるもんか」
逃げ出せるものなら、逃げ出したい気はするけど。

「じゃあ、始めましょう!」
ルイズは、言うが早いが、杖を構えて呪文を唱え始める。
これは……『ファイヤーボール』!? しょ、正気かい、そんな魔法当ったら死んじゃうじゃないか!!
慌てて、僕は目の前に青銅のゴーレム、『ワルキューレ』を一気に7体出す。
先生が来るまで、『ワルキューレ』を壁にして時間を稼ぐ作戦だ。
トライアングルのミス・シュヴルーズを倒したというルイズ相手にはこれでも不安だけれども。
ルイズの詠唱が終わった。だけどその杖から火の玉が飛び出ることは無く……安心した瞬間、僕の『ワルキューレ』たちが爆発した。
爆風に混じった、青銅の欠片が僕の頬を浅く切り裂く。
僕は、その場にペタンと尻餅をついた。

もう『ワルキューレ』を作る精神力も『フライ』で逃げる精神力もまるで残っていない。
剣や槍を作り出すぐらいは出来るけど、女の子に向かってそんなものを振るえるわけないので却下だ。
グラモン家の家訓にいわく、「命を惜しむな、名を惜しめ」という奴だ。
でも命だって大事だし、祖国や姫殿下や女の子を守るために死ぬならともかく、
こんな所で死にたくない。
僕だって貴族の一員だ。戦いで死ぬ覚悟はできているけど、
それは父上や兄上に誇れるような死に方をする覚悟だ。
ええい、先生は、先生たちは、何をしているんだ!? 『眠りの鐘』の使用は、まだなのか!?
大事な生徒の命が危ないんだぞ!?

「なんでよっ、なんで失敗するのよ。おかしいわよこれっ。『サモン・サーヴァント』も『コントラクト・サーヴァント』も成功したじゃない。……大丈夫、そう大丈夫よ。私は由緒正しい古い家柄を誇る貴族なのよ。
私はゼロじゃない、ゼロなんかじゃ無い。そう次、次は絶対成功するの。ヒカリヒカリヒカリヒカリヒカリヒカリヒカリヒカリヒカリ、私は相応しい主になるわ。今、貴方を苦しめた男を始末するからね」
下をうつむきながら、ブツブツと呟くルイズ。
怖い、怖すぎる。というかルイズ、性格変わっていないかい!?

大体、君の失敗魔法の方が、ホーミングするとはいえ、目標に当る前に、
途中で何かに着弾させれば防げる『ファイヤーボール』より、よっぽど凶悪だって。
ああ、ルイズが、呪文を詠唱しながら近づいてくる。僕は腰が抜けて逃げることも出来ない。
僕は、覚悟を決めた。
考えろ、考えるんだ。どうすれば一番、体面を保って傷つかずにすむか。
無傷で切り抜ける……のは、さすがに無理だよね。
ああ、そばに、そばに、桃色の頭が近づいてっ、そうだ!

「仕方が無いな! 過程はともかく僕が二人の女性を傷つけてしまったのは事実だ。僕は逃げも隠れもしない! おとなしく罰を受けようじゃないか!」
これで周囲には、僕が一方的にやられているんじゃなくて、罰を受けるためにあえて魔法を受けているストイックな逞しい男に見えるハズ。
それに、ルイズだってこういう言い方をされたら、少しは手加減しようと言う気になると思う……なるよね? なるといいなあ。
ちらりと期待を込めて、ルイズの顔を見上げると。
その顔には「いい度胸ね。せめて苦しまないよう、一気に葬ってあげるわ」と書かれていた。
ああ言った手前、今更足掻くことも出来やしない。

何故か僕の脳裏に、初めて会ったときの、幼いモンモランシーが、
告白した時のモンモランシーが、キスをした時のモンモランシーが、
そして、つい先刻、怒って僕にワインをかけたモンモランシーの姿まで、
次々と脳裏に浮かんでは消えていく。
……そして、最後に残ったのは何故か、泣いているモンモランシーの顔。
ごめんよ、もう一度、許されるなら僕は――
詠唱の最後の一節が、終わる寸前。誰かがルイズの前に飛び出してきた。

……それは、一瞬幻視した見事な金髪の巻き毛をした幼馴染ではなく、黒い髪の少女。

「もうやめてくださいルイズ様。ギーシュ様が死んでしまいます!」
なんで君が僕をかばうんだ……?
そこにいたのは、今朝成り行きでつきあう事になって、つい先刻、
泣きながら走り去っていったハズの少女。ルイズの使い魔。ヒカリだった。
ヒカリは、涙に濡れる瞳をこちらに向けた。

「さ、さっきは、すみませんでした! ほんとごめんなさい!私のようなゴミ虫がギーシュ様に対してあろうことか暴言を吐くなんて到底許されることじゃありません! 
そのうえ、私のせいで、け、怪我までさせてしまって、ルイズ様は悪くないんです。身のほど知らずに調子に乗って浮かれていた私がみんな悪いんです。
すみませんすみませんほんとすみません――」「――生まれてきてすみません、なんて言わないでくれたまえ」
ヒカリの台詞を先取りして、否定する。ヒカリが顔を上げて口をパクパクさせる。
ルイズは不機嫌そうな顔をしたままこちらを睨んでいるけど、しばらく様子を見るつもりらしい。
モンモランシーの怒った顔が脳裏に浮かぶ。
本当に僕は、しょうがない奴だ。
こんな死の瀬戸際に立っている時でも、一番大切なものがわかったのに、
わかっているのに(もちろんヴェルダンテは別格だけど)、
一番大切な人を怒らせて悲しませると分かっていても、
目の前の女の子が自分を卑下するのが我慢ならない。

「謝るのは僕のほうさ。君みたいな可愛い娘を泣かせてしまった不甲斐ない薔薇を許してくれたまえ。そして出来れば僕に太陽のような笑顔を見せてくれないかい。
そうすれば、こんなしょぼくれた薔薇でも立ち直ることが出来るから」
ヒカリは、驚いた顔をして、目の端から涙を流しながら、少し笑って、

「すみません私頭悪いので気の利いたこといえないんです! で、でも」
ああ、まずい、まずいなあ。
ヒカリは言いながら涙を拭った。
そして、言った。僕の目を正面からしっかりと見つめて、

「やっぱり好きです好きになりました。ギーシュ様が好きなんです好きで好きでしょうがないんです! ごめんなさい! 迷惑でしょうけどお願いですから、ギーシュ様のことを好きでいさせてください!」

熱烈な、告白だった。
真剣な顔をして大声で言うヒカリ、その細い肩が震えている。
……やっぱりこの娘、本来はとても内向的な性格なのだろう。
面識の無かったハズの料理長に頼んで弁当の材料を分けてもらったり、
ギャラリーの面前で僕をかばって飛び出したり、今のようなことをするのは、
よっぽど――僕には想像も出来ないほどの勇気が必要だったに違いない。
モンモランシーの怒った顔が脳裏に浮かぶ。
僕は、
モンモランシーの怒った顔が脳裏に浮かぶ。
薔薇は、
モンモランシーの怒った顔が脳裏に浮かぶ。
多くの人を楽しませるために……。

「だ、駄目ですか!?」
瞳を潤ませて、飼い主に捨てられる小動物のようにこちらを見るヒカリ。つい先刻までの僕なら、すぐに頷いていただろう。
でも、今の僕は、僕には――

「しょうがないわね。ヒカリがそういうなら、今後一生、他の女には手を出さない、目を向けない、口も利かないって、偉大なる始祖ブリミルと女王陛下に誓うなら特別に許してあげなくもないわ」
皮肉な事に僕の葛藤を打ち破ったのは、ルイズのその言葉だった。
そんな言葉をかけられたら――頷くわけには、いかなくなるじゃないか。
例え、モンモランシーへの思いを捨て去ってルイズの言う通り、
他の女の子にわき目を振らない生活を送っても、ヒカリは僕の愛を信じられないだろう。
ずっと、ずっと僕がルイズを恐れて付き合っているんだという疑いが心の中に巣食うハズだ。
僕と付き合って、幸せ一杯なハズの女の子が、
ずっとトゲに刺さったように思い悩むなんて冗談じゃない。
だから、僕は、どんなに、どんなにどんなにどんなにどんなにどんなにどんなにどんなにどんなにどんなにどんなにどんなにどんなに怖くても!
ここで頷くわけにはいかない!
僕は気合を入れて立ちあがった。
さて、繊細なヒカリを傷つけないように、うまく断らないとね。

「ヒカリ、君はとっても魅力的な娘だ! だけど、今の僕には君と付き合う資格が無い! さあルイズ、呪文を唱えたまえ! 
そして、ヒカリ! もし良ければ、この禊を終えて、それでも僕が生きていたら、今度は、お友達からはじめようじゃないか!」

ヒカリが泣きながら大きく何度も頷き、ルイズが呪文を唱えて杖を振り……爆風の中、意識を失う直前、僕はギャラリーの中に、怒った顔をしてこちらを睨んでいる金髪の、見事な巻き毛の少女を見たような気がした。


次回予告
あの決闘の傷もいえて、しばらくたった頃。

僕は、ヒカリに看病のお礼に、学園周辺の案内をかねて、ラ・ロシェールの森へ遠乗りすることにした。

「ギーシュさま。私、ずっとこのままでいたいです」
そんなことを言ってくる彼女にさすがの僕もくらくらだ。

「わー、ギーシュさまの馬早ーい!」
生まれて初めて馬に乗ったという彼女の笑顔。

そしてたどり着いた、大きな木。

「ギーシュさま、知ってますか? 仲良くなったシエスタっていうメイドさんから聞いたんですけど。あの木の下で告白したカップルは、ずーっと幸せになれるんですって」
そういえば、そんな噂が女子の間で流れていたような。

学院の近くを案内してくださいって、言ってきたのはここへ来るため?

「……ギーシュさま、一緒に近くまで行きません?」
あれから、モンモランシーは一度も見舞いに来てくれないし、話しかけようとしても無視するし、ここは遠くの薔薇より、近くで咲くたんぽぽを選択するべきなのか!?
僕が葛藤していると、彼女は気遣ってくれたのだろう。

「……ううん、いいんです。今は、まだこうしていられるだけで幸せですから。ごめんなさい、変なこと言って……でも、いつか…あっ、な、なんでもないです」
寂しげに、でも微笑んでそういってくれた。

そう、その時、僕は思いもしなかったんだ。
彼女が伝説の使い魔だったなんて、そしてその力を狙われて、裏切り者の魔法衛視隊の隊長にさらわれるなんて……彼女の瞳が、もう二度と僕に向けられることは無くなるなんて。

次回、僕らは、恋をして生きていく 

第4話「好きな娘の名前はモグラにつけましょう」 

それは、幸せだった頃の記憶。
なお、次回のタイトル及び内容は、予告無く変更になることもあるので予めご了承ください。


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