第零話 長いお別れ
「…考えたな」
月面――生物の存在を許さぬ死の世界。其処に二人の男が対峙している。
「命無き月(こ)の世界なら、エネルギードレインはまったく意味を成さない」
肉声を伝える空気すら存在しない空間だが、二人には意思の疎通が成し得た。
おそらくは其れが、死の世界での存在を許している特別な力でもあるのだろう。
「純粋に互いの実力の勝負。だが…」
一人は淡く光る蛍火の髪と、熱を帯びた赤銅の肌、筋肉で固めた2mを超える巨躯を有する、ネイティブアメリカンを思わせる衣服に身を包んだ益荒男。
その手には独特の形状をした斧が収まっている。
眼前に佇むもう一人へ向けて、言葉を続ける。
「勝っても負けてもお前はもう、生きて帰ることはできない
………その覚悟、一体どこから……?」
問われたもう一人。肌と髪は同様の特徴を持つ、学生服に身を包んだ男―少年は、身体のあちこちに傷を負い、ただひたすらに呼気を何も無い空間に吐き続けていた
…が、やがて凭れていた槍を力強く掴み、男を見据えた。
「もちろん、あの惑星(ほし)から」
少年の背の向こう、悠々と蒼い地球が浮かんでいる。さながら、少年の双肩に乗っている様にも見えて。
「あそこには守りたい人達が、大勢いる」
その脳裏に浮かぶのは五ヶ月前の春の夜、ただひたすらに守ろうとした人。そして今、誰よりも一番――
「一番、守りたい人がいる」
少年は、駆け出した。
月面――生物の存在を許さぬ死の世界。其処に二人の男が対峙している。
「命無き月(こ)の世界なら、エネルギードレインはまったく意味を成さない」
肉声を伝える空気すら存在しない空間だが、二人には意思の疎通が成し得た。
おそらくは其れが、死の世界での存在を許している特別な力でもあるのだろう。
「純粋に互いの実力の勝負。だが…」
一人は淡く光る蛍火の髪と、熱を帯びた赤銅の肌、筋肉で固めた2mを超える巨躯を有する、ネイティブアメリカンを思わせる衣服に身を包んだ益荒男。
その手には独特の形状をした斧が収まっている。
眼前に佇むもう一人へ向けて、言葉を続ける。
「勝っても負けてもお前はもう、生きて帰ることはできない
………その覚悟、一体どこから……?」
問われたもう一人。肌と髪は同様の特徴を持つ、学生服に身を包んだ男―少年は、身体のあちこちに傷を負い、ただひたすらに呼気を何も無い空間に吐き続けていた
…が、やがて凭れていた槍を力強く掴み、男を見据えた。
「もちろん、あの惑星(ほし)から」
少年の背の向こう、悠々と蒼い地球が浮かんでいる。さながら、少年の双肩に乗っている様にも見えて。
「あそこには守りたい人達が、大勢いる」
その脳裏に浮かぶのは五ヶ月前の春の夜、ただひたすらに守ろうとした人。そして今、誰よりも一番――
「一番、守りたい人がいる」
少年は、駆け出した。
――あの日から…
あの日から今日まで
本当にいろいろあったけど
本当にいろいろあったけど
今はもう
楽しかったことしか
思い出せないや
「あんた誰?」
抜けるような青空をバックに、少年――武藤カズキの顔をまじまじと覗き込んでいる女の子が言った。
抜けるような青空をバックに、少年――武藤カズキの顔をまじまじと覗き込んでいる女の子が言った。