あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

HELLOUISE IF~きっともう一度の、冴えたやり方~ (中編)

かつてタルブ村と呼ばれた場所――今は草一つ生えなくなってしまった荒野。
そして、片や背に待たせるは数百の軍勢。
片や身に漂わせるは濃厚な血と硝煙と死の匂い。
『旧友と秘密に再会する』というにはあまりにも殺風景なその場所、その時に、

彼らと彼女は、再び相見えた。



完全装備の軍団から一人、キュルケが徐に前に出る。
ついて来ようとする数騎を手で軽く制すると、彼女は目の前の少女に向けて口を開いた。

「久しぶりね――ルイズ」

相対するは桃色の少女。
変わらぬ容姿と変わってしまった眼差しを蓄えて、彼女はキュルケに応じる。

「ええ、本当に久しぶりね、キュルケ。
 五年ぶりかしら?」
「そうね、貴女がタルブ村ごといなくなってから、ちょうどそのくらいだわ」

タルブ村『ごと』いなくなった。
その意味を、ここにいる全員が知っている。

「ああ、そうなのね。もう懐かしい気さえしてくるわ。そりゃあんたの皺も増えるわけよね」
「言うじゃないの、また顔色悪くなったんじゃない?ちゃんと食べてる?」
「当ったり前じゃないの。むしろ人間だった頃より健啖家になった自信があるわ、わたし」

あまりといえばあまりなブラックジョークを織り交ぜて会話する二人だが、その顔は明るい。
状況さえ忘れてしまえば、本当に仲の良い友人が旧交を暖めているようにも見えた。
だが、いつまでもそうしてはいられない。
少なくとも、キュルケにとっては。
彼女は『約束を果たしに』ここまで来たのだから。

「ねぇ、ルイズ」
「なぁに、キュルケ?」

まるで明日の天気の予想を聞くかのように。
そんな気軽さを以って、

「貴女は、あたしの敵になったのかしら?」

キュルケはそう問う。
そして桃色の少女もまた、

「ええ、そうね」

朗らかにそう答えたのだった。


穏やかな声に反して、桃色の少女の行動は素早かった。
返事と同時に神速で以って踏み込み、キュルケの懐へと飛び込む。
キュルケの右手に杖を向けられるよりも先に、クロスカウンターの要領で左腕を振り上げ、

だが、キュルケは更にその先を行った。

「鋼糸――――!!!」

僅かな、しかし確かな動揺とともに少女が呟く。
左の手首から先を切り落とされていた。
そして少女がそれに気づき驚くその一瞬の間にも、キュルケは次の行動を積み上げている。
左手で鋼糸を操り、少女の全身を縛り上げると同時、袖から銃剣型の杖を取り出す。

「「なにがあった どうしてだ」なんて聞かないわよ。
 あたしは貴女との約束を果たす、果たさなきゃならない」

その台詞の中に仕込まれた魔術言語によって、『ブレイド』の呪文が発現する。
微かに悲しそうな顔をして、キュルケは踏み出した。

「さよならよ」

構えた杖は大上段。
炎を纏う魔剣と化した杖は、桃色の少女を真っ二つに断ち割った。
傷口から火の手が上がり、少女が燃え上がる――

「……ッッ!!」

――と同時、少女の姿が掻き消えた。
そう、まるで今までここにいた少女は『風の悪戯』による幻だったかのように。
軍団が動揺し、キュルケが歯噛みした瞬間、少女の初期位置よりも僅かに後ろ、岩陰から声が飛んでくる。

「残念、今のが私だったら完全に終わってたのにね」
「……そうなのね、貴女、ワルドを吸ったわね?吸血鬼になったのね」
「ええそうよ、だからわたし、何も怖くないの。だって、愛されてるから」


そして――


「けれど、吸ったのはワルド様だけじゃないのよ?」

ぞる、ぞるっ。ぞりっ、べちゃ。

彼女の背後に影が現れる。
彼女の中から異形の軍勢が沸いて出る。
かつて平凡な村人達だったはずの、今はもう異形に成り果ててしまった軍勢。

誰かがぽつり、呟いた。

ドラキュリーナ
「悪魔……」

そうして、人と、人で無いものとの生存競争が始まった。
歴史に残されることのないそれは、正しく血戦だった。

人で無いものが、荒野の中心に百余名。
それらは全て、かつて人であったものである。
そう、つまりは、かつてヴァリエールの三女として生きた少女と、タルブ村という小さな僻村の住人達だ。
彼女と、彼女と一体となった元人間達は、恐ろしい化け物として猛威を振るっていた。
口から、眼から、あらゆるところから血液を垂れ流し、おぞましい叫び声をあげて人を食らうグール。
そして、それを指揮する吸血鬼。
それが彼女らの正体だった。

対して人間達が、それを押しとどめるように数百名。
たったの数百の歩兵ではあるが、それでも見る人があれば驚いたことだろう。
ヴァリエールの家紋とツェルプストーの家紋、それにガリア王族の紋章が並び立っていたのだから。
中心に立つのは、いずれもルイズの友人達だ。
独自に発明した装備で固めた、自家の精鋭部隊を率いるキュルケ。
その隣に、近衛と共に立つシャルロット。
そして、全体の指揮を執り、杖を振るうギーシュ。
いずれ名高い天才達は、決定的に相手を打ち破ることは出来ずとも、
その采配と魔法を以って、強力な化け物の軍勢を足止めすることには成功している。
……けれども、彼らの顔はどこか悲しげだった。


「――僕らが食い止めている間に!
 キュルケとシャルロットは往ってくれ、あの子のところに!!」

そして危うい均衡を保っていた戦場は、ギーシュのその一言で動き出す。
キュルケとシャルロットは一瞬ギーシュを見つめ、二人同時に頷くと駆け出した。
キュルケの私兵とシャルロットの近衛が、グールたちの隙を衝いて内側へ、ルイズ目指して切り込む。
獅子の腹を食い破るような浸透戦術。
精鋭のみで構成されている集団だからこそ出来る業だ。

しかし、その代償も大きい。
その分開いた穴をヴァリエールとギーシュの私兵が埋めるが、層が薄くなり、全体が押され気味になる。
グールと人間が同数、それも接近戦でぶつかっては、たとえメイジとて結果はほぼ見えている。
普通ならば下がって戦線を縮小するべきだが、――今回は、それでは意味が無い。
相手は打ち倒すべき、滅ぼすべき化け物なのだ。

「怯むな!後ろに守るべき民がいることを忘れるな!!」

一喝。
叫ぶと共に、ギーシュが本陣から躍り出た。
振るわれるのは捻じれた杖。
彼の二つ名の象徴。

「『錬金』……!」

コトバと共に、無数の螺旋が地面から突き出し、グールの多くを串刺しにする。
おお、と歓声が上がり、それはやがて喊声となる。
崩れかけた戦線が、もう一度構築されようとしていた。

「まだだ、僕の前を空けよ!我が螺旋が、明日へと続く道を拓く!!」

再度、捻じれた杖が振るわれる。
唱えられたのはゴーレムを生み出す呪文。
材料は、グールを串刺しにしている螺旋の全て。

「おぉッ……!!」

ぎり、と歯を食いしばり、精神力の大半を使って、或るモノを生み出す。
それは、やはり彼の二つ名の象徴。
『螺旋』。
全ての生命の根源だ。
大きく、雄雄しく。
ゴーレムとして生み出されたのは、彼の眼前に浮く、巨大な螺旋。

――壁があるなら殴って壊す、道が無ければこの手で創る――

それは、彼の信念の体現。

「受け取れ、キュルケ、シャルロット!!」

その声と同時、回転しながら飛んでいった螺旋は、数多のグールを蹴散らしながら二人の吶喊する先へと進み。
遂に友への道をこじ開けた。

だが、今の大技で精神力の大半を費やしたギーシュは、自分が開けた道を往く力はない。
だからこのままここで戦線を維持し、内側のキュルケたちが道を往けるように敵をひきつける。
少し寂しいが、それでいい。
自分の思いは二人に託している。
否、三人とも、同じ思いであるとギーシュは信じている。
だから、ギーシュに迷いはない。

「後は任せたぞ……!」

ギーシュの開けた道を、三ツの軍勢が往く。
一ツはキュルケの親衛隊。
一ツはシャルロットの近衛兵。
一ツはそれらに混じる志願者達。
その中には一人の年老いた伯爵の姿があった。

黒一色の軍勢が、地獄を駆け抜ける。
一人、また一人と削られ、墜とされ、散っていくが、
其が何だと、覚悟の上だと歯を食い縛り、
ただ一振りの剣として血と肉の盾を食い破る。
傍らを爆炎が彩るのは、キュルケの親衛隊の誰かが始祖の御許へと送られた証である。
そして、また一人。

「逝きます!」
「逝け!!」

散っていく一人ひとりには、必ずキュルケ自身が命を下す。
私のために、私の約束のために死ねと。
それが彼女の指揮者たる責任だった。

全身を食い破られた彼は、黒の外套の懐から一本の筒を取り出す。
それを軍勢の進行方向に向かって投げかけると、最後の力を振り絞って叫んだ。

「『発火』!」

筒の正体は、自決用の装備――手製のダイナマイトだ。
これをはじめ、『発明王』コルベールとその妻キュルケによって開発された最新装備が、キュルケの親衛隊には配備されている。
声と同時に筒が火に包まれ、僅かな時を置いて轟音と熱風が辺りを包む。
辺りにグールの血肉が飛び散ったことだけは触覚によって分かるが、煙に包まれて周囲を窺うことはできない。
これにより、爆発による被害を免れたグールたちも足止めを受ける。
と、耐火加工された黒の外套を包むキュルケ親衛隊が爆心地近くから飛び出す。
爆発による動揺で、右手前方の守りが薄くなっていることを発見すると、迷い無く先頭の一人がそこへ突っ込む。
ここを抜ければ、もうすぐルイズに手が届く。


だが。

鈍い音とともに、空から女性が現れる。
身を包むメイド服に不釣合いな長い片刃の剣を持ち、キュルケたちの進路上に立ちふさがったのは――

「此処から先へは…ルイズ様のところへは往かせません!!」

かつてシエスタと呼ばれた、一人の少女だった。
人間たちの足が止まりかけるが、ある老人がそれよりも早く叫ぶ。

「ここは私に任せろ、私が彼女を足止めしている間に突破せよ!」

男の名は、ジュール・ド・モット。
つい、と前に出ると、彼はシエスタに杖を向けた。

「かつて私は君と君たちによって変わり、救われた。
 ならば――次は私の番だろう?」

そう言われてはもう、誰にも遮る理由はなかった。
キュルケがモット伯の隣に並ぶ。

「法儀礼済みの聖水です。ただの水流よりも彼女に効果的でしょう。
 直にギーシュも来ます。……御武運を」
「ああ。そして君もな、ツェルプストー侯」

キュルケとモット伯は微かに頷き合うと、

「させません、といったはずです!」

踏み出す。キュルケはモット伯の脇を駆け抜ける。
シエスタが阻もうとするが、それには仁王立つモット伯が邪魔となる。
シエスタは、ち、と舌打ち一つ。
立ちふさがる老人を、シエスタは見ていない。
なぜなら彼女の受けた命令は「キュルケたち全員の足止めと殲滅」であり、それ以外ではないからである。
だから彼女は、老人を半ば意識的に無視することにする。
単純に、障害物として認識し、最低限の牽制で済ませる。

「邪魔ですよ…!」

岩盤を拳で打ち抜き、高速で以ってモット伯にぶつける。
単純だが、だからこそ人間には防ぎがたい。かわすにしろ受けるにしろ、1アクションは消費される。
自分はその隙にキュルケを追えばよいのだ。

だが、その意識の隙こそを、彼女は衝かれることになる。


「ッな……!?」

結論から言えば。
モット伯は、岩盤による射撃を受け止めた。
そして――同時に、シエスタの歩も阻んだ。
単純極まりない、

「これは……地下水…ッ!!」

地下を流れる水流を励起して壁とする、力業を持って。

「『吸血鬼は流れる水を渡れない』。君は私に足止めされたのだ。
 さあ往くぞシエスタ君、彼女のミナ・ハーカー。
 私は、この老いぼれは、君を救いに此の地獄(リンボ)へと来たのだから」
「それができると仰るのであれば、やってみせていただきましょう、貴族様……!」


こうして、一つ一つ。

物語は終わりに近づく。

近づいていく。




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