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エデンの林檎 三話

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三話 『アダムは林檎にかぶりつく』


 本日は虚無の曜日、ざくざくとシエスタが下草を掻き分け、その後ろをルイズがカゴを下げてついていく。
 秘薬を作るための薬草を取るために、二人は学園の隣にある森の中を分け入っていた。
 時折使い魔に遭遇するのは同じように秘薬の材料探しだろう。
 シエスタはルイズに言われるまま、手に持った剣でざくざくと下草を刈る。

「頼むよ嬢ちゃん、頼むから戦いに使ってくれ。草刈がまの代わりはもういやだぁ!」
「メイドに戦いをさせる気? このボロ剣」

 その手に握られたデルフリンガーが悲鳴を上げた。


 時間は少しさかのぼる。
 勉強と食事と風呂以外は花壇にいるか部屋にいるかしているプチ引きこもり状態だったルイズを外に引っぱり出したのはキュルケだった。

「せっかくの休日に外に行かないなんて不健康よ! さあ、町に行きましょう!」

 そういった事情で、シエスタを引き連れたルイズはタバサを連れてきたキュルケと共に馬車に揺られにいた。
 キュルケの危惧していることはもう一つあった。それはほかならぬシエスタである。
 かいがいしすぎるのだ。服を着せるのも食事を用意するのも顔を洗うのも全部自分からしている。
 今日出かける際の荷物や服装の用意も彼女が自主的に行っていた。
 風呂で体まで洗っているという話を聞いて、流石にルイズを斜めにかしいだ目で見てしまったものだ。
 本人は気にしていないのがさらに問題ではなかろうか? ていうか女同士は……

 思考の海にもぐってしまったキュルケに眉をかしげながら、ルイズは懐から財布を取り出す。
 その財布の開閉部分に、彼女は自分の髪の毛を数本結びつけた。


 大通りでの買い物は非常に実りのあるものだった。
 何よりシエスタがこれ以上ないくらい役に立ったのである。
 貴族の坊ちゃん嬢ちゃんに吹っかけようとする商人がいやらしい笑みを浮かべるも、常識を知るシエスタがそれをすべて看破してしまうからだ。
 ルイズはキュルケたちと数人だけで買い物をしたときの出費額を思いだし、貴族と平民の金銭感覚の違いと己の感覚の疎さに少しだけへこんだ。

 シエスタの分も含むいくつかの服を積み上げ懐に手を入れる。財布がない。

「ちょっとルイズ、まさかすられたの?」
「みたいね」
「あのお客様、いくら貴族様でもこれ以上はまかりませんよ?」
「立て替えましょうか?」
「問題ないわ」

 ルイズはパチンと指を鳴らした。
 ドカン、と大きな音が響き、同時に男の悲鳴が上がる。
 ルイズは優雅な動作でその現場へと向かった。
 そこには手のひらを焦がされてうずくまる男と口の部分が壊れたルイズの財布。
 財布に仕掛けられた髪の毛を爆破した痕跡だった。

 うめく男を徹底的に無視してルイズは自分の財布を拾い上げる。

「ルイズ!」

 キュルケの警告に反応するまもなく、後ろから男がルイズを羽交い絞めにする。

「この小娘が!」
「ルイズ様!」

 野次馬が悲鳴を上げる中、キュルケとタバサは慎重に杖を構える。
 だがそんな行為もすべて意味なく終わることになる。


「離しなさい。そのほうがあなたのためだと思うけど」
「黙れ! いいから黙って「ていうか臭いのよあんた」へ?」

 ルイズに杖を向けていた男が轟音を立てて吹き飛んだ。
 ルイズに接触していた部分がシューシュー煙を上げている。
 パンパンとほこりを払うルイズにシエスタが慌てた様子で駆け寄っていく。

「……タバサ、今のって」
「魔法じゃない」
「そうよねぇ。魔力を感じなかったし」

 服装を整えながらルイズは歩み寄る。

「さあ、精算しにいきましょう」


 レストランでの食事中、ルイズは手に持った球体をいじりながら問いかけた。
 球体の仲にはコンパスのようなものが入っていて、常に一方向を指している。

「ねえシエスタ、マジックアイテムを売ってる店はないかしら」
「マジックアイテムですか? 薬草とかを売ってる元メイジって人のお店なら知ってますよ。あとその隣に武器屋があります」
「そう。じゃあ食事が終わったらそこへ行きましょう」
「ねえルイズ、さっきからいじってるけどそれ何?」

 それは手の中の球体。

「マジックアイテム扱いになる道具ね。“エターナルポース”。特定の方向を指すみたいだけどどこを指してるかまではわからないわ」
「下、よね?」
「方向は海底」
「案外昔の遺跡とかかもね」


 ルイズはエターナルポースをしまうとナプキンで口をぬぐい立ち上がる。

「さ、その店へ行きましょう」


 店の中は混沌としていた。
 元メイジという肩書きは本当らしく、ミョズニトニルンの力で確認しても並べられている品はそのほとんどが本物だった。
 キュルケとシエスタは宝石を、タバサは薬草を見ている。
 そんな中ルイズは一人で部屋の隅にうずたかく積まれた残骸をあさっていた。
 取り出したのは巻貝の貝殻。大小さまざまな貝殻。かなり頑丈なのか一部壊れているもののほとんどが無傷だった。

「おばあさん、ここにつんであるのはおいくら?」
「そこのは何でも1ドニエだよ。ほとんどガラクタだしお宝があってもあたしにはわからないからね」
「そう、だったらここにある貝殻全部いただくわ」
「へ?」
「他にも手に入ったら連絡くださらない?」

 ルイズは貝殻を大量に購入し、その店を後にした。

「あのルイズ様、軽いものですし荷物もちはいいのですけど、これは一体?」
「帰ってから教えてあげるわ。それより隣の武器屋に行ってみましょ。案外掘り出し物があるかも」

 戸を開けると暇そうな男、ルイズたちを見ると営業スマイルともみ手で出迎えた。

「これはこれは奥様、武器屋にどんな御用で?」
「武器屋でワインを買うものはいないわ」
「それはごもっともで」

 もみ手する店主と話し込んでいるにはキュルケのみ。タバサは興味がなさそうに、ルイズは周りの武器を触るが、魔法のかかっているものはほとんどない。あってもドットクラスの固定ばかり。


「あのルイズ様、私流石に武器まではわかりませんよ?」
「大丈夫よ、気にしないで」

 ふと、適当にすえられた剣が目に留まる。装飾はまるでなく、ボロボロの剣。

「ねえルイズ、これなんてどお?」

 剣を手に取ろうとしたところをキュルケにさえぎられ、振り返るとキュルケが手にしているのはゴージャスな剣。

「これは?」
「へえ、それははるかゲルマニアの錬金術師、シュペー卿により鍛えられた業物でごぜえます」
「ふうん……」

 その剣を手に取るが、読み取れる情報は錬金により作られたというそれだけのこと。

「業物? これが?」
「もちろんでごぜえます。いかに貴族様といえどもあたしの店へのいちゃもんは……」
「ふんっ!」

 ボンッ、と握った右手の中で破砕音、その業物とやらはルイズの手の中で鞘ごとボッキリへしおれた。

「……なまくら?」
「鞘ごと半分になっちゃいましたねぇ」
「そそそそんなはずは!」
「多分仕入れるときにだまされたんじゃない?」

 後ろの問答を意識から外し、ルイズは先ほどのボロ剣を手に取った。
 情報を解析しようと意識を集中した瞬間、頭に会話が割り込んだ。


(へえ、おめえ使い手のご同輩じゃねえか)
(……インテリジェンス・ソード!? ルーンを介して会話してるのかしら?)
(おうよ! 俺様はデルフリンガーよ)
(へええ、すごいじゃないあなた。インテリジェンス・ソードってだけでもすごいのに魔法吸収能力なんて)
(? 何でえそりゃ)
(記憶にロックでもかかってるのかしら? まあいわ)

「そんなのどうでもいいからこれはおいくら?」

 サークレットの下の光るルーンを隠しながら、ルイズはデルフリンガーを店主に差し出した。
 こうしてデルフリンガーは引き取られた。
 で、冒頭に戻るわけである。


「なあ娘っこ、頼むよ、トロルとかオーガとかならいくらでも切るからよ、草刈がまの代わりはホント勘弁して」
「ごちゃごちゃ言わないの。そのうち振るうことになるわよ」
「ルルルルイズ様、私トロルやオークとなんて!」
「心配しなくていいの。あたしが何とかするもの」
「ちょい待てや娘っこ! なら俺がやることなんてないじゃねねえか!」
「……シエスタ、このベッコウアメっていうのおいしいわね、程よい甘さで」
「そうでしょう! おじいちゃんの故郷のキャンディーなんです!」
「流したな!? 流しやがったなコンチクショウ!」

 森の奥に開けたところがあり、大きな湖が存在している。
 かつては水の精霊がいたとされる場所だが、周囲の森に凶悪な亜人が出現するようになって以来その姿は失われていた。
 今では森に散策に来た使い魔たちが一休みをする場所になっていた。
 だが様子がおかしい。

「ルルルイズ様、あれってオーク鬼じゃ!」
「……せっかくの憩いの場で!」


 ギーシュの使い魔のヴェルダンデが下から足を引っ張りキュルケのフレイムが炎のブレスを吐きかける。
 だが皮膚が分厚いのか純粋に頑丈なのかほとんど利いていないようだった。

「フレイム、のいて!」

 声に反応して横に飛ぶフレイムの後ろから、ルイズは口に含んでいたベッコウアメをオーク鬼に向かって噴き出した。
 思わずそれを口で受け取ってしまうオーク鬼。すぐその甘さに顔をゆがめる。

「最期のデザートなんだからしっかり味わいなさい!」

 飴が、正確には飴に付着したルイズの唾液が轟音を上げて爆発した。
 中からの爆発で脳をやられ血と歯の破片を撒き散らしながらふらつくオーク鬼が最後に見たのは、デルフリンガーを大上段に振りかぶるシエスタの姿だった。

「よいしょー!」

 シエスタは実は結構な筋力を有している。
 田舎の出で家事を手伝い学園でも働き続けるシエスタの体は、日々の洗濯掃除やまき割などで少なくとも握力や背筋力に関しては一般人を上回っている。
 撒き割りの要領で振り下ろされたデルフリンガーは、魔剣の名に恥じることのない切れ味でオーク鬼を左右に切りさばいた。

「はっはー! これよこれこれ! これこそ俺の真骨頂!」
「あんたホントに名剣なのね。口だけだと思ってたのに」
「それ結構ひどくない!?」

 オーク鬼の死体はヴェルダンデが地中に引きずり込んで始末された。


 ルイズはシエスタに膝枕をされている。
 気分が良かったせいか泳げなくなっていたことを忘れて飛び込んでしまったからだ。
 ゆっくりと寝息を立てるルイズを見下ろしながら、シエスタは静かな笑みを浮かべていた。
 桃色の髪をなでながら、その顔の水をぬぐう。濡れた艶やかな唇。
 シエスタはそっと、己のそれを重ねた。

 少女の左手の皮膚が、かすかにチリリとこげた。


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