あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゴーストステップ・ゼロ-22



ニューカッスル城の宝物庫で不思議な光景が展開されていた。
小さなオルゴールを掌にのせたまま微動だにしない少女を3人の男が見守っている。
未だ歳若い貴公子は少女の様子に戸惑い。
逞しく精悍な青年は少女の様子を驚きと期待をもって見つめている。
最後の一人、少女の使い魔たる男だけがただ当然の事と受け止めていた。



ゴーストステップ・ゼロ  シーン22 “Parting salutation Ⅱ / わかれのことば Ⅱ”

    シーンカード:ニューロ(完成/成功。衆人の耳目を集めるほどの完璧な結果。最終目標の達成。)



しかし。

「以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
 初歩の初歩の初歩。
 『エクスプロージョン(爆発)』」

少女……ルイズの唇からその言葉が紡がれた瞬間、ヒューの手が素早く動き、オルゴールの蓋を閉じてしまう。
その瞬間、唐突に夢から覚めた様に周囲を見回したルイズは、暫く事態を把握出来なかった。

「おめでとう、ルイズお嬢さん。
 それが君の『魔法』だ。」

ヒューにそう告げられても未だルイズはぼんやりと掌にあるオルゴールを見つめている。
ウェールズは何事が起きているのか未だ把握してはいなかったが、残る一人……ワルドは理解した。
そう、とうとうルイズが『虚無』に目覚めたのだ、しかもそれはレコン・キスタの盟主クロムウェルや自分の手ではなく、ルイズの使い魔……ヒューによって。
ワルドは内心、臍を噛んだ。ルイズが『虚無』に目覚めた以上、最早コンプレックスを利用して彼女をレコン・キスタへと誘う事は出来ないだろう。
いや、彼女が『虚無』に目覚めたという事はレコン・キスタの正当性も疑われる事と等しい。何しろ“聖地を奪回しようとしなかった王家に成り代わる”と宣言して蜂起したのだ、ルイズの実家は言わずと知れたトリステイン王家と血縁関係にあるラ・ヴァリエール公爵家だ、正しくレコン・キスタの主張とは相反する家の娘だった。
そんな思考に没頭しているワルドの耳にルイズとヒューの会話が飛び込んで来る。

「ヒュー、貴方この事を知っていたの?」

ルイズは掌の中にあるオルゴールをみつめながら自分の使い魔に問いかける。
ヒューはルイズの質問にただ頷く事で答えた。

「どうしてそう思った?」
「だって、貴方だけ驚いていなかったもの。
 ……理由、教えてくれるんでしょうね?」

そう聞いてきた主に使い魔は自分が知りえた情報を教えはじめる。

「実は『虚無』そのものに関する情報はそこまで知らないんだ。
 知っていたのはルイズお嬢さんが『虚無』の使い手であること、使い手になる為の条件及び覚醒手段、具体的にどういった呪文か……、そんなところだ。」
「どうして教えてくれなかったの」
「ルイズお嬢さんも知っての通り、オレは平民で魔法は全くの門外漢だ、教えたところで信用したかい?」
「それは…分からないけど」

言い返しつつも、ルイズは自分が信用しなかったであろう事を確信している。理由はヒューが言った通り、『魔法』を使えない者にいくら「貴方は『虚無』の使い手だ」と言われた所で、信用するどころか怒り狂っていただろう事は想像に難くなかった。
そんな二人の会話に割って入ってくる人物がいた、先程まで呆然と目の前の出来事を見ているだけだったウェールズ皇太子だ。

「ちょっと良いかな?
 話を聞いているとヒュー君は『虚無』の使い手になる為の条件とその覚醒手段を知っていると言っていたが。」
「ええ、又聞きですけどね。」
「そのような情報、一体誰から……」
「もしかしてオールド・オスマン?」

ウェールズの疑問にルイズは自分が知る内で一番知っていそうな人物の名前を挙げる。
だが、それに対するヒューの答えは「否」だった。

「じゃあ、誰から聞いたのよ」
【オレサマだよ娘っ子】
「デルフ?何でアンタがそんな事」
【そりゃあオレサマが“ガンダールヴ”の為の剣だからさ】
「“ガンダールヴ”?何よそれ」
【ブリミルのヤツが使役していた四人の使い魔の内の一人。
 主人が呪文詠唱をしている間、無防備な主人を守る役目を担うのさ。
 まぁ、オレサマの正しさはさっき娘ッ子が証明したわけだが。】

インテリジェンスソードの言葉にヒューを除く三人は息を呑む、デルフの後を継ぐようにヒューが話し始める。

「デルフから聞いた覚醒条件は次の3つ、ついでに俺の見解も入れようか。
 1つ、始祖ブリミルに連なる血族である事。
 恐らく始祖ブリミルの遺伝子……血に『虚無』を使用する為の因子があるんだろう、その因子がある程度強い事が『虚無』の使い手としての最低条件なんだろうな。
 1つ、『系統魔法』が使えない事。
 『虚無』を扱う為の因子が使い手レベルにまで強いメイジは、その因子の影響で『系統魔法』が正しく発動出来ないんじゃないかと思う。又、反対に因子が使い手レベルまで達していない場合、その因子は『系統魔法』の使用に影響を及ぼさないんだろう。
 1つ、各王家に伝わる<ルビー>を指に嵌めた状態で<始祖の秘宝>を使用する事。
 これは一種の安全装置なんだろう。王家の血が拡散してしまった場合、可能性として『虚無』の使い手の重複という事態が考えられる、その時に使い手を限定する為の仕掛けなんだろうな。
 まぁ覚醒条件や方法が伝えられていないのは間抜けと言う他ないけど……。」

ヒューの話を聞いていたルイズはそこで一つ不思議な違和感を感じた、何だろうと思って話を数回頭の中で反芻し、この旅を始めてからこの宝物庫に至るまでの情報と照らし合わせた時、その違和感は明確な疑問としてルイズの口から溢れ出た。

「ちょっと待って頂戴、ヒューとデルフの言う事が正しいとしたらレコン・キスタのクロムウェルとかいう男はいずれかの王家の血を継いでいるという事になるんじゃないかしら?」

ルイズの言葉にヒューは頷きながら、その疑問に対する自分なりの答えを返す。

「その可能性はあるな。しかし、恐ろしく低い可能性の話だ。
 確かに条件の1つ目と2つ目は王家の落胤ということでクリアできるだろう、しかし3つ目がネックだ。
 『魔法』も碌に使えない一介の司教にガラクタ同然とはいえ王家の宝たる<ルビー>や<始祖の秘宝>を触らせるか?ありえないね、確かに可能性はあるだろうがかなり低い物だろう。例えるなら砂漠で小粒のダイヤを探す事に等しいな。
 どちらかというのなら、クロムウェルが使えるという『虚無』は『虚無』と称する別の何かの可能性が高い。」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ!
 ではクロムウェルが成したという奇跡はどう説明するんだ!」

ヒューの答えに声を荒げたのはワルドだった。だがそれは当然だろう、仮にヒューの言葉が正しいとすればレコン・キスタの正当性が崩れてしまう。いや正当性など元より無く、ただ詐欺師に担がれた愚か者の集団と言われても言い返せなくなってしまうのだから。
ワルドの言葉に返したのはウェールズ皇太子だった。

「そうか!<アンドバリの指輪>だな?ヒュー君が先程言っていた先住の秘宝の力をクロムウェルが『虚無』と称しているのなら……」
「<アンドバリの指輪>?ウェールズ殿下それは一体」

不安を押し隠しつつワルドが尋ねると、ウェールズが激しい憤りを声に滲ませながらもヒューから聞いた<アンドバリの指輪>の詳細を話し始める。

「私も先程ヒュー君から聞いたばかりなのだが、水の精霊が持つ秘宝に<アンドバリの指輪>というものがあるらしい。
 その秘宝の能力を聞いた所、クロムウェルが使うという『虚無』に酷似しているのだよ。」
「な、なんと。それは本当なのか?」
「ああ、デルフからの情報だからな、可能性はある。」

ワルドから尋ねられたヒューは簡潔に肯定する。
ワルドはあまりな展開に呆然と立ち竦んだ、それはそうだろう理想と野心を胸に汚れ仕事も厭わず働いてみれば、その実ペテンに掛けられていたのだから。
ウェールズにとっても予想外と言うしかない真相だった。内乱が勃発して以降、次々と離反する忠臣に戸惑いながらも誇りだけを胸に今の今まで戦ってきたのだ、もうどうしようもない最後を迎える時になってこの様な事を知る事になるとは。
ウェールズの心にはトリステインから来た少女の目覚めを見た高揚は最早どこにもなく、やり場の無い憤りだけが渦巻いていた。
そんな時、トリステインから来たもう一人の男、知りたくなかった真実をあっさりと告げた男の声が宝物庫に響き渡る。

「ところでルイズお嬢さん、どうするんだい?」

話しかけられたルイズは暫く自分の使い魔が何を聞いているのか理解できなかった。

「え?」
「お嬢さんが修得した『虚無』は名前からすると攻撃系の呪文の様だからな、ここで王党派の援護に使うのもアリかもと思ったんだよ。」

確かに、先程オルゴールから響いてきた呪文の名称は『エクスプロージョン(爆発)』というものだった。
この名前で治癒系という事はないだろう、実際の所は使ってみないと何とも言えない。しかし、伝説とはいえ呪文一つでこれ程の戦力差を覆せるものだろうか、そう思っているとデルフリンガーの嗄れ声が聞こえてくる。

【なぁ、娘っ子。一つ教えておいてやる『虚無』っていうヤツは使った精神力に比例して効果が出るのさ、とはいえ仮にも伝説って看板を背負ってるからな、最低レベルでもかなりの威力が見込めるはずだ。
 どちらにしろ使うのは娘っ子、お前ェだ“何に対して呪文を使うか”そこん所よっく考えてからぶっ放すんだな。】
「デルフ……」

デルフの忠告ともとれる言葉を聞いたルイズはヒューに向き直ると気になっていた事を口にした。

「ヒュー、貴方はどう思っているの?」
「俺がルイズお嬢さんに『虚無』の件で話をしていなかったのは、さっき言った通り門外漢であるっていうのが一番大きかったんだ、さらに言わせてもらうと周囲に対する影響力やお嬢さんの扱いに関する懸念もあったからな。」
「影響?」
「ルイズお嬢さん、トリステインは言うに及ばずハルケギニアの王家っていうのはゲルマニアを除いて“始祖ブリミルの直系”というのが一つの特徴だろう?
 だが、同じ血筋で『虚無』を使う家系があったらどうなる?本家にも扱えない『虚無』を分家の娘が扱える……、レコン・キスタじゃないが、お嬢さんを担ぎ上げようとする連中は少なからず出てくるだろうさ。
 俺が聞いた話だと、始祖ブリミル以外『虚無』を使えたヤツはいないらしいからな、それなりの騒ぎになる可能性はあると思う。
 それに、お嬢さんの扱いにも関わってくる。『虚無』を強力な武器と見て軍事利用するヤツは必ずいるだろうから、『虚無』の事を知る人間は極力減らすか、相手をよく見定めて協力者を増やすようにするべきだな。
 本音を言えばこのまま“『魔法』が使えないメイジ”を装う事をお勧めするよ。」

ヒューのあまりな提案にルイズは戸惑った。ヒューと出会う前のルイズなら容易く暴発しただろう、しかし今のルイズには彼の言わんとしている事が理解できた、できてしまった。
『虚無』に目覚めた時は嬉しかった、嬉しくないはずがない。貴族であれば使えて当然の『魔法』という力を手に入れたのだから、……けれども手に入れた力はあまりにも大きな『虚無』という力。
メイジや貴族であれば当然ある高貴なる者・力を持つ者の責任や義務、しかしルイズに背負わされたそれは一介の貴族のそれとは比べ物にならない程、重く大きなものだ、その力はルイズという小さな少女にはあまりにも不釣合いだった。
渡せる物ならば誰かに渡したい、何故自分なのか。こんな大きな力はいらない!こんなただそこにあるだけで周囲に騒動を巻き起こす災いじみた力なんて……。

「どうしてよ、せっかく自分が使える系統が分かったのよ?私にはそれを誇る事すら赦されないと言うの?
 何の為にこれまで頑張ってきたのよ、こんな酷い力を手に入れる為だったの?
 ヒュー、教えてよ……もう何も考えられないよ……」

宝物庫にか細い少女の嗚咽が零れ落ちる。レコン・キスタの真実を知って憤っていたウェールズも、呆然としていたワルドもルイズの嘆きに言葉を掛ける事が出来なかった、彼等にとってみれば『虚無』に目覚める事は祝福に等しい事だと思っていたのである。
しかし、残る男……ヒュー・スペンサーという男の話を聞くと、決してそれが祝福と同義であるとは思えなかったのだ。
貴族として生まれたにも関わらず、特定の条件を満たすまでただの落ち零れ・無能者として扱われ、『虚無』に目覚めたとしてもその強大な力故に波乱の原因となってしまう、祝福と同時に与えられた呪いと言っても差し支えないだろう。

ヒューはルイズを近くにある椅子に座らせると、ルイズと目線を合わせて穏やかな声で話し始めた。

「そうだな、酷い話だ俺が知っているドラマでもここまで酷いのはあまり無い位さ。
 けど、これから……今からがルイズ、君の本当の物語の始まりなんだろう、残念な事に俺はそろそろ退場してしまうけど、何、君には頼りがいのある友人もいる、会った事はないけど誇り高くて優しいご家族もいるだろう?
 つらかったら頼ってみるといい、その人達はきっと文句を言いながら助けてくれる。何といっても君が『魔法』を使えない時からの付き合いなんだから。」
「ヒュー……貴方、何言ってるのよ。」

ルイズはいつもの彼らしくない言葉に戸惑う、いつも飄々と人を小馬鹿にしたように話すのがヒュー・スペンサーという男だったのに、今の彼は真摯に話しかけてくる。

「お別れの言葉ってやつだよ御主人様。自分の身体の事はよく知っているパーティーが始まる前にも言っただろう?
 どっちみちトリステインまでは持たない、最後の懸念だったルイズお嬢さんの『魔法』も見つける事が出来たし。悔いも思い残しも無い、『虚無』をどう使うかは君が自分で決めるんだ。
 大丈夫、自分を信じる事だ。君は俺の御主人様なんだからきっと正しい道を選んでくれると信じているよ。」

そう言ってウィンクしたヒューに言葉を返そうとした瞬間、ルイズの意識は深い闇に落ちていった。
耳に「XYZ」というヒューの言葉を残して。




宝物庫で意識を失ったルイズを寝室まで運んだ後、三人の男はバルコニーで会話をしていた。

「君は本当にルイズの元から去るつもりなのかい?」
「ああ、お嬢さんも『魔法』を手に入れた事だし、ちょうど良い頃合いだろう。
 そうそうウェールズ殿下、聞きたい事が一つと頼みたい事が一つあるんだけど良いかな?」
「何だね?」
「モード大公の事件の事なんだが、個人的にどう思っているのか聞かせてもらいたい。」

ウェールズはヒューの質問に辛そうな表情を浮かべると、個人的な見解だと断りを入れて話し始める。

「あれは痛ましい事件だった、確かに叔父上の愛妾は少々問題がある人物だったが果たしてあそこまでする必要があったのかと言われれば首を捻らずにはいられない。」
「というと、皇太子殿下としてはやりすぎだったと?」
「ウェールズ・テューダー個人としてはそう思う」

生真面目なウェールズの返答に苦笑すると、ヒューは頼みを口にした。

「ふむ、そういう事なら任せたまえ。その秘密は僕が墓まで持って行こうじゃないか。」
「ワルド子爵にも頼みたいんだが。」
「分かった、今の会話は決して口外しない事をこの杖に誓おう。」

二人の誓約を聞いたヒューは椅子の背凭れに身を預けると、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべてウェールズにとある女性からの伝言を伝える。
ヒューからその伝言を聞いたウェールズは快活に笑った後、「これは意地でも負けられないな」と口にしてバルコニーから去っていくのだった。


ウェールズが去った後どれくらい経っただろうか、手にしたワインをぐいと飲み干すとワルドはヒューに話しかける。

「ヒュー・スペンサー、やってくれたな」
「何の事だい?子爵」

ワルドに返すヒューの口調はいつも通り、飄々としてつかみどころないものだった。

「賭けの事だ、あんな隠し札があってはな。
 元々勝てる賭けではなかったということだ。」
「大負けする前に下りる事ができたんだ、感謝される事はあっても恨まれる覚えはないな。」
「ああ、その件に関しては感謝はしている。しかしだな、貴様の手の内で良い様に転がされていた事は屈辱でしかない。」
「それについては転がされるような場所にいた自分を恨むんだな、こっちは自分の身を守ろうとしていただけだ。
 ところで子爵、貴方はいつからルイズお嬢さんが『虚無』だと気付いた?」
「まぁ、今更だから答えるが。
 レコン・キスタの方から『魔法』を使えない貴族を監視しろと命令が来たんだ。その後、レコン……面倒だな連中の蜂起があった時に『虚無』を掲げていたのでね、それでピンときたのさ。
 脅威にならない者を何故監視する?もしも『虚無』を掲げる連中の反対勢力にその『虚無』が現れたとしたら?
 連中の正当性は瞬く間に崩れ去るだろう、ならその監視対象こそが『虚無』の使い手である可能性が高いと思っていたんだ」
「なる程、良い読みだな子爵。しかし、ここでもう少し踏み込んで考えないか?」
「何だと?」

悪戯っぽい笑みを浮かべたヒューにワルドは訝しげな顔をする。

「おかしいと思わないか?“クロムウェルは『虚無』を使えない”これは確定している、確率的にありえないからな。」

ヒューの言葉にワルドはハッとした表情を浮かべる。

「ならどうして子爵は命令を受けたと思う?答えはある程度限られるから分かりやすい。
 そう、レコン・キスタ……連中の後ろには『虚無』の使い手がいるのさ。
 ゲルマニアとトリステイン以外の2国の何れかがな、一応は想像の範囲だがそう間違ってはいないはずだ。
 ところでワルド子爵、ガリアとロマリア…この2国の王族で『魔法』が使えない人物はいるか?」

ヒューの質問にワルドは搾り出すように言葉を返す。

「ロマリアは分からんが、ガリアの現国王ジョゼフ1世は“無能王”と揶揄されると聞き及んでいる。」
「となるとその男が絡んでいる可能性が高いな、国王ともなれば<アンドバリの指輪>の入手も無理ではないだろうし。」
「となると“無能王”という評判も……」
「偽装と考えるべきだろう、何を考えて事を起こしたのかは情報不足で何とも言えないが、恐ろしく狡猾な人物だと思った方が良いだろうな。
 子爵、トリステインで対抗できそうな人物に心当たりは?」
「マザリーニ枢機卿とルイズの父君ラ・ヴァリエール公爵位だろうか。他の貴族はあまり信用できないか政治家としては……。」
「ルイズお嬢さんの味方に引き込むなら父親からだな、下手に中枢にいる人物に『虚無』の事を教えるとロクでもない事になるのは間違いない。
 枢機卿に明かすかどうかはルイズお嬢さんや公爵を交えて協議してくれ、出来る事ならアンリエッタ姫にも伏せさせるべきだろう、後は……そうだな宗教関係には気をつける事だ。
 宗教がからむと理性的な人物でも歯止めが利かなくなる傾向がある、今のアルビオンが良い例だ。」
「まぁ、そんな所だろうな。しかし、ヒュー・スペンサー、よく僕を信用する気になったな」

ワルドはそう言うと不敵な表情を浮かべて、ヒューを見る。
そんなワルドの顔を見たヒューは苦笑しながら答える。

「子爵は生真面目な性質だと思ったんでね、こちらから裏切らない限りそうそう裏切る事はないだろう?」

ヒューのその言葉に「フン」と鼻を鳴らすとワルドは空になったグラスに再びワインを注ぐ。

「短い付き合いで良くもまあそこまで見れるものだな。」
「仕事柄人を見る目は鍛えたのさ。それはそうとルイズお嬢さんの事宜しく頼む。」
「君に言われるまでも無い、彼女は僕の婚約者でもあるんだ。安心したまえ」

ワルドの返事を聞いたヒューは音も立てずに立ち上がると、テーブルから離れていく。
数歩程歩いた所で振り向いたヒューがワルドに声をかける、その顔はパーティー会場からの光の所為で影になっており、どんな表情をしているのかワルドには分からなかった。

「そうそう子爵、一つ聞きたい事があるんだが?」
「餞別代りだ何だろうと答えよう。」
「クロムウェルは近くに来ているのかい?」
「明日の首検分の為に本陣に来ているはずだ。」
「なるほど、助かったよ。じゃあなワルド子爵」
「さらばだ使い魔君」

そうして、ヒューはパーティーの群集の中に消えていった。ワルドも最早そちらを見ようともしなかった。



ヒューが廊下を歩いていると踊りつかれたのか、ギーシュが椅子に腰掛けながら冷えた果実酒を飲んでいた。

「よう、ギーシュ。楽しんでいるようだな」
「やあヒューじゃないか、身体は大丈夫なのかい?」
「ぼちぼちといった所だ、ほどほどにしておけよ?」
「これ位で酔うほど柔じゃないさ、しかし分からないものだね」
「何がだ?」
「いや、ついこの間決闘をやらかしたのに、今では一緒にアルビオンまで来ている。
 何とも不思議じゃないか。」
「人と人の関係なんてそんなものさ。
 昨日まで友人だったヤツが足元で倒れていたり、ついさっきまで殺し合いをしていた相手と背中を預け合いながら戦ったりな。」
「むぅ、そんなものかね。」
「ああ、そうだとも。だからギーシュ、後悔するような事はするなよ?」
「そっそれはモンモランシーの事を言っているのかい?」
「何も言わずに出てきたんだ、少々の折檻は覚悟するべきじゃないか?」

からかうヒューの言葉にギーシュの顔色は青くなる。

「な、何か良いアイデアは無いかな?」

この期に及んで誤魔化そうとするギーシュにヒューは肩を竦めると、笑いながら忠告めいた事を告げる。

「女の勘は馬鹿に出来ないな、下手な嘘や借り物の言葉で誤魔化しきれると思っていたら甘いと言わざるを得ないぞ。」
「うう、やはりそうなるかね。」
「何、モンモランシーもオーガじゃないんだ、誠心誠意説明して謝れば赦してくれるだろう。」
「ああ、そうするよ。」
「じゃあな頑張れよ」
「うん、ありがとう。お休み……あ、あれ?ヒュー?」

礼を言おうとヒューがいただろう場所にギーシュが目を向けると、その場所どころか廊下の何処をみてもヒューの姿は見えなかった。




ギーシュと別れ自分にあてがわれている寝室へ向かっていると、部屋の前にキュルケとタバサが待ち構えていた。

「ヒュー、何も言わずに行こうだなんて水臭いんじゃない?」
「お嬢さん方はパーティーを楽しんでいるものだとばかり思っていたんでね、そんな野暮はしない事にしてるのさ。」

ヒューはそう言いながら、寝室へ入っていく。
キュルケとタバサは廊下に立ったまま中を見ている。

「ルイズにはもう言ったの?」
「ああ、納得はしていないだろうがな。」
「当然」

タバサの咎める様な言葉に苦笑すると、ヒューは部屋から出て廊下を進む。
二人はその後を付かず離れずの距離でついていく。
どれほど歩いただろう、唐突にヒューが二人に話しかける。

「二人に頼みがあるんだけど、頼まれてくれるかい?」
「とりあえず言ってごらんなさいな。」
「出来る事と出来ない事がある。」
「簡単さ。魔法学院にいる間だけでいい、ルイズお嬢さんの力になってやってくれないか。」
「あら、ツェルプストーにヴァリエールの世話を頼むだなんて正気?」

ヒューの言葉にキュルケは冗談めかして答える。

「そうだな、言い方を間違えた。
 せいぜい弄ってやってくれ、泣かない程度にな。」
「了解。ヴァリエールを弄るのはツェルプストーの役目だもの、せいぜい楽しませてもらうわ。」
「意地っ張り」
「あら、それは違うわよタバサ、私の家とヴァリエールはこれ位でちょうど良いのよ。
 下手に仲良くなったら色々大変だしね。」

三人の歩みはニューカッスル城本丸のゲートまで続いた。

「ヒュー、そういえばワルド子爵はどうするの?」
「ああ、その事なら大丈夫。
 上手い具合に説得できたからな。」
「どうやって?」

タバサの質問にヒューはクロムウェルの『虚無』の正体の予測を話して聞かせる。

「そういった訳でな、連中は遠くない未来に瓦解する可能性が高いはずだ」
「へぇー、そんな秘宝があったなんて初耳だわ。」
「私も」
「精霊……いや『先住魔法』絡みの情報だからな、そうそう手に入るモノでもないだろう。」
「それもそうね、実際『先住魔法』については未だによく分からないし。」
「ヒュー、聞きたい事がある」
「タバサ?」
「世話になったからな、俺が答える事が出来る事なら答えよう。」
「姿を消す方法を教えて欲しい」

タバサの質問にヒューは答えても良いものか暫く考えはしたが、結局答えることにした。
世話になったというのもあるが、最早死んでいく自分が残せるのはこういったモノしかないのだろうと考えたからだった。

「じゃあ、置き土産代わりに方法だけ教えていく。
 大体は手品と同じで相手の意識外・視界外で動く事、これが一番重要だ。
 人の視界や動体を認識する能力は正直そこまで優れていない、例外はあるけどね。例えば動く物を見る場合だが。人は左右の動きを追う力と上下の動きを追う力を比較した場合、左右の動きに強い……言い換えると上下の動きに弱いと言える。
 後は相手や周囲をよく観察する事、動く際に躊躇しない事、環境を利用する事。
 こういった諸々の条件を複合させれば出来るはずだ。」
「わかった」

頷いたタバサの頭をワシャワシャとかき混ぜると、ヒューは二人に「これから色々大変だろうが頑張れ」と言い残すと暗闇の中に消えて行った。

そう、まるで最初から存在すらしていなかった“幽霊(ゴースト)”の様に。



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