「ヴェストリの広場で、ギーシュが決闘してるぞ!」食堂に、二年生の誰かが駆け込んできてそう言った。
「え、本当!? 誰と? 誰と?」
「もしかして、さっきの二股が原因?」周りの生徒が、これはいい肴を見つけた、とばかりに飛びついた。
「ああ。なんでも、原因となった小瓶を拾った、ルイズの使い魔と決闘しているらしい。逆恨みだよなー」
その言葉が食堂に響いた後、一斉に視線がこっちを向いた。思わず吹き出しそうになった口の中のものを、必死に飲み込む。
「あんの……馬鹿!」
「え、本当!? 誰と? 誰と?」
「もしかして、さっきの二股が原因?」周りの生徒が、これはいい肴を見つけた、とばかりに飛びついた。
「ああ。なんでも、原因となった小瓶を拾った、ルイズの使い魔と決闘しているらしい。逆恨みだよなー」
その言葉が食堂に響いた後、一斉に視線がこっちを向いた。思わず吹き出しそうになった口の中のものを、必死に飲み込む。
「あんの……馬鹿!」
虚無と十七属性
第七話
バラおとこのギーシュは ワルキュレをくりだした!
(※ポケモンの世界に於いて、固有名詞は5文字までしか入りません)
(※ポケモンの世界に於いて、固有名詞は5文字までしか入りません)
「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。よって、君の相手は青銅のゴーレム・ワルキューレがお相手するよ」
「ならば、俺はこの青銅人形を倒せば、勝ちなんだな?」
「いや、僕に参ったと言わせるか、僕の杖を奪ったら勝ちだ。ワルキューレは、あくまで僕の攻撃の手段だ」
「そうか」
これはまた、厄介な魔法があったもんだ。勝てる気がしないな。
――ならば。
俺は決意をし、バッグの中から『スピーダー』を取り出した。
(※スピーダー:素早さを上げるアイテム)
「ならば、俺はこの青銅人形を倒せば、勝ちなんだな?」
「いや、僕に参ったと言わせるか、僕の杖を奪ったら勝ちだ。ワルキューレは、あくまで僕の攻撃の手段だ」
「そうか」
これはまた、厄介な魔法があったもんだ。勝てる気がしないな。
――ならば。
俺は決意をし、バッグの中から『スピーダー』を取り出した。
(※スピーダー:素早さを上げるアイテム)
◇◆◇◆◇◆
キュルケは優雅に観戦していた。
「ねえ、タバサ、どっちが勝つと思う?」友人のタバサを無理矢理連れてきて、だ。
「彼がただの平民であれば、ギーシュの勝ちは決まったようなもの」
「そうよね。流石にあれは、相性が悪すぎるわ」
決闘など興味がないといった風で、タバサは本を読み始めた。
まぁ、タバサらしいと言ったらそれまでだけど。
「……は、あくまで僕の攻撃手段だ」
「そうか」
「では、行かせて貰おう!」
決闘が始まった。ギーシュが杖を一振り、錬金でできたワルキューレに力を注ぎ込んだ。ワルキューレが、命を吹き込まれたかのように動
きだし、恐らく、動作に支障が無いかを確認している。
使い魔の青年は、顔を引き攣らせるでもなく、無表情に、だが興味深げにそれを見ていた。
「あら、随分と余裕じゃないの」
キュルケのその声と同時に、青銅の戦乙女が殴りかかった。
殴るが、青年はしゃがんで避け、そこへ蹴るが、海老のように素早く地面を蹴って後退した。
あの使い魔くん、結構できるわ。
偉大な軍人を輩出する、ツェルプストー家として、彼の評価を見改めなければいけない、と思えた。
だが、青年は、避けてばかりで、ワルキューレに攻撃の一つも与えない。尤も、人間の拳ではあれが倒せない事くらい容易に分かる筈だ
が、距離も、どんどんギーシュから離れていっている。
「はは、逃げてばかりじゃ、勝てないよ! 使い魔君!」
ギーシュは、逃げてばかりの使い魔に余裕だ、と言わんばかりに笑った。そして、薔薇の造花を一振りし、長い鉄の棒を錬金した。
一瞬の事だった。
使い魔の青年は、青銅人形が鉄の棒を掴む僅かな隙に、人間とは到底思えない速度でその背後に回り込むと、綺麗な回し蹴りを一発、食ら
わせた。がこん、という、内部の空洞に音を鈍く響かせ、ワルキューレは前に突っ伏した。
「なっ!」ギーシュも、予想外と言わんばかりに驚愕の表情を浮かべる。
だが、驚くのはここからだった。そこから青年は、立ち上がってくるワルキューレには目もくれず、信じがたい速度でギーシュに走って迫
ったのだ。ぎゅん、と風を斬る音とともに、ギーシュと使い魔くんの距離がみるみるうちに縮まっていく。
もう目と鼻の先まで迫った青年に、やっと正気を取り戻したのか、ギーシュは間一髪、横に転がって躱した。青年の手は虚空を掴み、勢い
を殺せずに4メイルほど先まで行ってしまった。
「今の、杖をねらっていた」本を読んでいたタバサも、青銅の音がしてから顔を上げ、観戦していたようだった。信じられないものを見た、
といった顔で、目を大きく見開いている。「それにしても、早すぎる」
ギーシュは、再び後ろから来る使い魔をなんとか躱すと、再び『錬金』と唱えた。
するとギーシュの下の土が盛り上がり、高さ三メイルほどの直方体の岩となり、ギーシュの巨大な踏み台になった。岩の外壁は青銅でコー
ティングされているようで、魔法なしでは上れそうにない。
『フライ』と同時には魔法は使えないので、良い判断だ。一度空に飛んでしまったら、地上のワルキューレは動かせないし、降りた時を狙
われてしまうだろう。だが、この方法ならば、相手に攻撃させることなく、ワルキューレを操れる。
ギーシュは額の汗を拭い、青年は顔を顰めた。
「ふぅ。今のは、中々危なかったよ。だが、反撃もここまでかな」
「……」青年は答えない。どこかで、「卑怯だぞ、ギーシュー」という声が聞こえた。
「残念だったね。いや、敵ながら、あっぱれだ」
「……」
ギーシュは杖を一振りし、新たにワルキューレを五体、生み出した。先程倒れたワルキューレも起き出して、これで合計六体となった。
「今度はこちらの番だ!」
あーあ、あの使い魔くんも、ここまでみたいね。
キュルケは些か残念な顔をした。
「ねえ、タバサ、どっちが勝つと思う?」友人のタバサを無理矢理連れてきて、だ。
「彼がただの平民であれば、ギーシュの勝ちは決まったようなもの」
「そうよね。流石にあれは、相性が悪すぎるわ」
決闘など興味がないといった風で、タバサは本を読み始めた。
まぁ、タバサらしいと言ったらそれまでだけど。
「……は、あくまで僕の攻撃手段だ」
「そうか」
「では、行かせて貰おう!」
決闘が始まった。ギーシュが杖を一振り、錬金でできたワルキューレに力を注ぎ込んだ。ワルキューレが、命を吹き込まれたかのように動
きだし、恐らく、動作に支障が無いかを確認している。
使い魔の青年は、顔を引き攣らせるでもなく、無表情に、だが興味深げにそれを見ていた。
「あら、随分と余裕じゃないの」
キュルケのその声と同時に、青銅の戦乙女が殴りかかった。
殴るが、青年はしゃがんで避け、そこへ蹴るが、海老のように素早く地面を蹴って後退した。
あの使い魔くん、結構できるわ。
偉大な軍人を輩出する、ツェルプストー家として、彼の評価を見改めなければいけない、と思えた。
だが、青年は、避けてばかりで、ワルキューレに攻撃の一つも与えない。尤も、人間の拳ではあれが倒せない事くらい容易に分かる筈だ
が、距離も、どんどんギーシュから離れていっている。
「はは、逃げてばかりじゃ、勝てないよ! 使い魔君!」
ギーシュは、逃げてばかりの使い魔に余裕だ、と言わんばかりに笑った。そして、薔薇の造花を一振りし、長い鉄の棒を錬金した。
一瞬の事だった。
使い魔の青年は、青銅人形が鉄の棒を掴む僅かな隙に、人間とは到底思えない速度でその背後に回り込むと、綺麗な回し蹴りを一発、食ら
わせた。がこん、という、内部の空洞に音を鈍く響かせ、ワルキューレは前に突っ伏した。
「なっ!」ギーシュも、予想外と言わんばかりに驚愕の表情を浮かべる。
だが、驚くのはここからだった。そこから青年は、立ち上がってくるワルキューレには目もくれず、信じがたい速度でギーシュに走って迫
ったのだ。ぎゅん、と風を斬る音とともに、ギーシュと使い魔くんの距離がみるみるうちに縮まっていく。
もう目と鼻の先まで迫った青年に、やっと正気を取り戻したのか、ギーシュは間一髪、横に転がって躱した。青年の手は虚空を掴み、勢い
を殺せずに4メイルほど先まで行ってしまった。
「今の、杖をねらっていた」本を読んでいたタバサも、青銅の音がしてから顔を上げ、観戦していたようだった。信じられないものを見た、
といった顔で、目を大きく見開いている。「それにしても、早すぎる」
ギーシュは、再び後ろから来る使い魔をなんとか躱すと、再び『錬金』と唱えた。
するとギーシュの下の土が盛り上がり、高さ三メイルほどの直方体の岩となり、ギーシュの巨大な踏み台になった。岩の外壁は青銅でコー
ティングされているようで、魔法なしでは上れそうにない。
『フライ』と同時には魔法は使えないので、良い判断だ。一度空に飛んでしまったら、地上のワルキューレは動かせないし、降りた時を狙
われてしまうだろう。だが、この方法ならば、相手に攻撃させることなく、ワルキューレを操れる。
ギーシュは額の汗を拭い、青年は顔を顰めた。
「ふぅ。今のは、中々危なかったよ。だが、反撃もここまでかな」
「……」青年は答えない。どこかで、「卑怯だぞ、ギーシュー」という声が聞こえた。
「残念だったね。いや、敵ながら、あっぱれだ」
「……」
ギーシュは杖を一振りし、新たにワルキューレを五体、生み出した。先程倒れたワルキューレも起き出して、これで合計六体となった。
「今度はこちらの番だ!」
あーあ、あの使い魔くんも、ここまでみたいね。
キュルケは些か残念な顔をした。
◇◆◇◆◇◆
「……ぐっ……!」ワルキューレの拳が当たった。
―― 一発、
―― また一発
―― 今度は背後から蹴りを入れられた。いつの間に回られたのか、それにすら気付けていない。
六体に増えてからというもの、ちっとも優位に立てない。スピーダーの効果は尽きた。一応、まだバッグには入ってるが、今使ったところ
で、一時的に相手の攻撃を避けられるだけだ。
なんとか必死に避けようとしているが、疲れを知らないワルキューレとは違い、こちらの体力は有限だ。一発一発攻撃を食らうに従って素
早さは目に見えて落ちてきて、攻撃を食らう頻度はますます早くなる。
「まだやるのかい?」
ギーシュが杖を一振りして、攻撃を止めた。自分を囲っていたワルキューレが、目の前に整列する。その言葉と態度からは、余裕が滲み出
ている。
「……ああ。貴様に下げる頭など、誰がもっていようか」
その言葉を発した直後、聞き慣れた主人の声が、増えたギャラリーを割って、聞こえてきた。
「ギーシュ、やめなさいよ! 平民相手にみっともないわよ!」人混みをかき分けて、桃色髪の少女が現れた。
「……ん、ルイズか。いやいや、こう見えて、さっきは結構追い詰められたんだよ」
「今はもう、この有様でしょ!」
「いや、僕はもうやめるように言ったんだ。『ごめんなさい』そう言えば許してやる、と言ったのに、君の使い魔くんは頑なにも言わないの
でね」言って、ギーシュは造花の薔薇で使い魔を指した。
ルイズが、こちらを見据え、顔を歪めた。
「もう、いいわよ。アンタは十分頑張ったわ。だから、さっさと謝っちゃいなさい」
「……悪いが、それはできない。これは、俺の戦いだ」
「何言ってるのよ! アンタ、このままだと死ぬわよ!」ルイズが声を荒げた。
「俺は死なん」
「貴族は平民を殺すのに、躊躇したりなんてしないわ!」
「大丈夫だ」
「何がよ!」
「とにかく、引っ込んでいてくれ」ルイズがまた何か説教をしているが、無視する。
こうなっては、使いたくはなかったが、奥の手を使うしかない。
恐らく、いらぬ誤解を生む事になってしまうのだろうが、なんか、ここで負けてしまうのは癪に障る。
『スピーダー』で、あれほどの素早さが出せたのだ。キズぐすりで全回復した後、『けむりだま』をギーシュ本体に投げつけ目を眩ませ
て、『プラスパワー』『ディフェンダー』『スピーダー』の三つを使い、一気にカタをつけよう。
バッグに手を入れたその時に、ふと、脳裏に、妙な、懐かしい光景が広がった。
迫り来る巨鳥の群れ。その時隣にいた、金髪の青年。綺麗で、巨大な湖と、青々とした臭いの、湿った草むら。湖岸に追い詰められ、目の
前が真っ暗になりかけた時に見つけた、茶色の鞄。その中には――紅白色の三つの球。
あの球の中に入っていたのは何だったか。
「何だ――」
球のボタンを押し、中から出たのは――
「そうだったな」
俺は平民の使い魔ではない。貴族でも、ましてや魔法使いなんかでもない。
―― 一発、
―― また一発
―― 今度は背後から蹴りを入れられた。いつの間に回られたのか、それにすら気付けていない。
六体に増えてからというもの、ちっとも優位に立てない。スピーダーの効果は尽きた。一応、まだバッグには入ってるが、今使ったところ
で、一時的に相手の攻撃を避けられるだけだ。
なんとか必死に避けようとしているが、疲れを知らないワルキューレとは違い、こちらの体力は有限だ。一発一発攻撃を食らうに従って素
早さは目に見えて落ちてきて、攻撃を食らう頻度はますます早くなる。
「まだやるのかい?」
ギーシュが杖を一振りして、攻撃を止めた。自分を囲っていたワルキューレが、目の前に整列する。その言葉と態度からは、余裕が滲み出
ている。
「……ああ。貴様に下げる頭など、誰がもっていようか」
その言葉を発した直後、聞き慣れた主人の声が、増えたギャラリーを割って、聞こえてきた。
「ギーシュ、やめなさいよ! 平民相手にみっともないわよ!」人混みをかき分けて、桃色髪の少女が現れた。
「……ん、ルイズか。いやいや、こう見えて、さっきは結構追い詰められたんだよ」
「今はもう、この有様でしょ!」
「いや、僕はもうやめるように言ったんだ。『ごめんなさい』そう言えば許してやる、と言ったのに、君の使い魔くんは頑なにも言わないの
でね」言って、ギーシュは造花の薔薇で使い魔を指した。
ルイズが、こちらを見据え、顔を歪めた。
「もう、いいわよ。アンタは十分頑張ったわ。だから、さっさと謝っちゃいなさい」
「……悪いが、それはできない。これは、俺の戦いだ」
「何言ってるのよ! アンタ、このままだと死ぬわよ!」ルイズが声を荒げた。
「俺は死なん」
「貴族は平民を殺すのに、躊躇したりなんてしないわ!」
「大丈夫だ」
「何がよ!」
「とにかく、引っ込んでいてくれ」ルイズがまた何か説教をしているが、無視する。
こうなっては、使いたくはなかったが、奥の手を使うしかない。
恐らく、いらぬ誤解を生む事になってしまうのだろうが、なんか、ここで負けてしまうのは癪に障る。
『スピーダー』で、あれほどの素早さが出せたのだ。キズぐすりで全回復した後、『けむりだま』をギーシュ本体に投げつけ目を眩ませ
て、『プラスパワー』『ディフェンダー』『スピーダー』の三つを使い、一気にカタをつけよう。
バッグに手を入れたその時に、ふと、脳裏に、妙な、懐かしい光景が広がった。
迫り来る巨鳥の群れ。その時隣にいた、金髪の青年。綺麗で、巨大な湖と、青々とした臭いの、湿った草むら。湖岸に追い詰められ、目の
前が真っ暗になりかけた時に見つけた、茶色の鞄。その中には――紅白色の三つの球。
あの球の中に入っていたのは何だったか。
「何だ――」
球のボタンを押し、中から出たのは――
「そうだったな」
俺は平民の使い魔ではない。貴族でも、ましてや魔法使いなんかでもない。
俺は――ポケモントレーナーだ。
「やれ、ワルキューレ!」ギーシュの命令を受けたワルキューレが6体、こちらへ歩んできた。
ゆっくり、わざわざ威圧感だけを表すために行進するそれらに、もう棒になっている足を奮い立たせて向かい合う。
「何で、立つのよ! 何で、戦うのよ!」ルイズが必死に言った。
「やはり、まだやれるみたいだね」ギーシュが目つきを鋭くさせた。
「……」沈黙を以て答える。でも、俺っていつも黙ってたから、答えた事にならないかもしれない。だが、心配する事はない。俺には、コイ
ツがいる。
手を腰のボールへ持って行くと、額の文字が激しく光り、情報を読み取った。
あれ、何故か強さがバラバラなんだが。ああ、そうだ。多分、ここに来る前にボックスの整理をしていたせいだろう。
だが、先頭のポケモンだけは変わることなく、そこに、伝説の名前を刻んでいた。
ゆっくり、わざわざ威圧感だけを表すために行進するそれらに、もう棒になっている足を奮い立たせて向かい合う。
「何で、立つのよ! 何で、戦うのよ!」ルイズが必死に言った。
「やはり、まだやれるみたいだね」ギーシュが目つきを鋭くさせた。
「……」沈黙を以て答える。でも、俺っていつも黙ってたから、答えた事にならないかもしれない。だが、心配する事はない。俺には、コイ
ツがいる。
手を腰のボールへ持って行くと、額の文字が激しく光り、情報を読み取った。
あれ、何故か強さがバラバラなんだが。ああ、そうだ。多分、ここに来る前にボックスの整理をしていたせいだろう。
だが、先頭のポケモンだけは変わることなく、そこに、伝説の名前を刻んでいた。
バラおとこのギーシュが あらためて しょうぶをしかけてきた!
バラおとこのギーシュは ワルキュレ をくりだした!
バラおとこのギーシュは ワルキュレ をくりだした!
いけっ! ミュウツー!
――そして、
『やっと出番か』
黒と黄色のラインの入ったハイパーボールから、白い巨人が、現れた。
『やっと出番か』
黒と黄色のラインの入ったハイパーボールから、白い巨人が、現れた。