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るいずととら第三章-1


「そう……ウェールズさまはお亡くなりになったのね」

アンリエッタが寂しそうに呟く。すう、とアンリエッタの頬を涙が一筋だけ流れた。
俯いたアンリエッタ王女はそのまましばらく沈黙していたが、やがて顔を上げてルイズを見つめた。

「あの方は……なんと仰っていました?」

ルイズは黙った。婢妖に体の支配を奪われたルイズの目の前でウェールズは殺された。
一言も発することもできぬまま、文字通り閃光のように一瞬にワルドが胸を刺し貫いたのだ。
ウェールズは血を吐いて丸太のように転がった。何の伝える言葉があるだろう?

「ルイズ・フランソワーズ……?」

アンリエッタがぎゅっと胸に手を押し当てる。体の震えが止まらないのを、さっきから必死でこらえているのだった。
押し黙るルイズに、やれやれ、ととらが頭をかいた。

「伝言だ……ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んだ……そう伝えろってよ」
「そう……ですか。勇敢に死んだと……」

アンリエッタはそっととらに微笑んで見せた。

「殿方は、勝手ですわね。そう思いませんか、使い魔さん……?」


アルビオンを出たとらとルイズは、トリステインの王宮に向かった。先にシルフィードたちを学院に帰らせたので、二人きりの旅路であった。
戦場に立ち込めた血と肉のこげる臭い……婢妖に取り付かれた無数の兵士たちの屍から噴出す死臭が、いまだ服に染み付いているようで、ルイズは気持ちが悪くなった。

「見えたぜ。王宮だな」
「見張りの兵士がいるだろうけど……面倒だから直接行くわよ」

風を唸らせてとらとルイズは宮殿に入る。予め教えられた裏道を使って、アンリエッタの居室に急いだ。
そしてアンリエッタに任務のいきさつについて報告したのであった。


「申し訳ありませんでした、姫様……私の力不足のせいで……」
「何を言うの、ルイズ・フランソワーズ。あなたは立派に手紙を取り返してきてくれました。心から礼を言います。
 これでアルビオンも簡単には攻めてくるわけにはいきませんわ。わが国とゲルマニアの同盟も無事行えるでしょう……」
「姫様……これを。ウェールズ皇太子殿下から預かったものです」

ルイズはそっと手にした指輪を差し出した。アンリエッタは指輪を受け取ると目を大きく見開く。

「風のルビーではありませんか」
「姫様にお渡しするように、と……」
「ありがとう、ルイズ・フランソワーズ……。代わりに、水のルビーはあなたが持っていてください。
 せめてものお礼です」
「そ、そんな! こんな高価な品はいただけませんわ!」

慌てるルイズを、アンリエッタはやさしくたしなめた。

「いいからとっておきなさいな。忠誠には報いるところがなくては――」

アンリエッタがそう言いかけたとき、扉の向こうで魔法衛士隊の隊長が急を告げた。

「アンリエッタ姫殿下、侵入者です!」

はっと緊張した面持ちになったアンリエッタが問いただす。

「何事です?」
「はっ……当直の兵士が、不審な幻獣が侵入するのを目撃いたしました! 金色の風のごとく宮廷に飛び込んだと……!」

慌てる隊長の口調に、思わずルイズとアンリエッタは顔を見合わせてくすりと笑った。

「……問題ありませんよ、隊長。私の友人とその使い魔です。危険はないと伝えてください」
「は、しかし……」
「なんなら見てみますか? 雷と炎を操る強力な韻獣ですよ……隊長、あなたとどちらが強いかしら?」
「お、お戯れを……失礼いたします、姫殿下」


グリフォン隊隊長をからかうアンリエッタに、ルイズはどこかほっとする反面、痛々しいものを感じていた。

(姫様……無理をなさっているわ……当然と言えばそうだけど……)

幼馴染に落ち込む姿を見せまいと言うアンリエッタの振る舞いが、ルイズにはなんだかひどく哀しかった。
そんなルイズに気づいたのか、アンリエッタはちょっと困った表情になる。

「あなたも大変でしたわね……まさかワルド子爵が裏切り者とは……」

ルイズは首を振る。いまさらワルドに未練などはない。だが、気がかりなことはあった。

スクウェア・クラスの魔法を使って襲ってきたフーケにとり付いていたモノ。
一瞬で300人のメイジたちの命を奪い、とらに重傷を負わせた女。

(どちらも私は見ていないわ。とらやタバサから聞いただけだけど……)

だが、ワルドが自分に飲ませ、自分の体を内側から乗っ取ろうとした「何か」は、確かにルイズも身を持って体験していた。
相手を意のままに従わせる魔法ではない。普通のハルケギニアの生き物でもない。

「特殊な幻獣……とでも言うべきなにかでしたわ。妖魔というのが一番近いかもしれません」
「そんな……相手を操る妖魔は確かに存在するけれど……」

ルイズの言うことである。アンリエッタにとっては、誰の言葉よりも信用できる。だが……にわかには信じがたい話であった。

「……まあ、自分で見なけりゃ信じられんわな……普通はそういうもんよ」

さっきから黙っていたとらが、低い声で言った。アンリエッタはまっすぐにとらを見つめる。

「使い魔さん。あなたはご存知なのですか? その妖魔について……」
「まぁな……そいつの名前は『婢妖』といってな……人のアタマに喰らうことが得意な白面の者の使いよ……」
「白……面……」


アンリエッタはオールド・オスマンの言葉を思い出した。聖地に封じられた伝説の魔獣……恐怖そのものの名前。

「白面がなぜここにいるかは知らねぇ……わしとうしおがぶっ殺したはずなのによ。
 白面の尾はその一つ一つが強力なバケモンよ……婢妖もその一つだ。それと、城に現れた女……『斗和子』だ。
 ……だが、どうやら白面の封印とやらは解けていねぇな」
「なぜ……そう言えるのです?」

アンリエッタの疑問に、ふん、ととらは鼻を鳴らした。

「白面はニンゲンもバケモンも、生きてることをゆるさねぇからだ……白面が起きれば10日でこのセカイは滅びるだろうよ
 だが、白面の使いどもは起きた……ヤツラは主人を起こすためになんでもやるぜ。そして……」

そして……と続きを、とらは少し躊躇った。獣の槍がないこの世界で、白面を倒すことなど出来るだろうか?
とらの知る限り、答えは否であった。

「……白面が起きればおしめぇさ。人間もバケモノもな」
「とら……白面って、あなたよりも強いの……?」

震える声でルイズが尋ねる。ルイズは今までとらよりも強い幻獣を見たことがない。
そんなとらよりも強力な幻獣が、本当にいるのだろうか……?

「ああ。つえぇな」

躊躇いもなくとらはそう言った。アンリエッタの居室に重苦しい沈黙が流れた。


「使い魔さん……あなたから見れば、人間の命はなんとはかなくみえるものでしょうね……?
 あなたの言う白面……その幻獣の前では、きっと人間は勇敢に死ぬぐらいしか出来ないかもしれない。あの人のように……
 それでも――」

アンリエッタはぐっと唇を噛んだ。きっとあごをあげ顔を起こす。決意に満ちた表情であった。

「わたくしは勇敢に生きてみようと思います。たとえその白面を相手にしようとも……。
 また会いましょう、ルイズ・フランソワーズ。使い魔さん」


ルイズは礼をしてアンリエッタの居室を退出した。重い扉がバタンと閉じる。
しばしルイズはそこから動けないでいた。
……やがて、わっと泣き出すアンリエッタの声が扉の向こうから聞こえた。

「…………っ」

一瞬扉に手を伸ばしかけたが、ルイズはなんとか自分の手を止めた。
そのまま黙ってきびすを返すと、とらの背中に乗ってトリステイン魔法学院に急いだ。


ごぉおおぉおおぉおう…………


唸りをあげて風が吹いた。

……ニューカッスルの戦場跡では、黒い女が風に長い髪を揺らした。


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