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虚無と十七属性-05


 教師・コルベールは学院長室へと走っていた。
 ヴァリエール嬢の召喚した、平民の使い魔のルーンについて調べていたら、大変な事が分かったのだ。
 始祖ブリミルに仕えていたとされる、伝説の使い魔のうちの一人、神の頭脳ミョズニトニルン。そのルーンが、召喚された平民の使い魔の額に刻まれていたものと一致したからだ。しかも、そのルーンは契約時に刻まれたものではなく、恐らく謎の契約のルーンによって、後天的に生まれたものと来ている。
 何たる異常事態だ。一刻も早く報告せねば。 
「オールド・オスマン!」学院長室の扉を、ノックもせずに力一杯こじ開けた
 ――が、
「すまん、申し訳ない、本当に申し訳ないと思っとる、もうしないから、ああっ、やめてっ、そこはっ、いたいっ…………んむ?」
 中にいたのは、到底この学院の長とは思えない行動(おそらくセクハラ)をとり、秘書のミス・ロングビルに尻を蹴られている、情けない老人の姿だった。


虚無と十七属性


第五話

 突入して須臾(しゅゆ)の時が経過し、一旦部屋を出て扉を閉めた。
 そして、五秒の時を数えてから、再び戸を開ける。
「う゛ぉっほん」
「……」
 そこには、何ごともないように、手を後ろで組み、立つオールド・オスマンと、定位置となっている机で雑務を、いつも通りこなす秘書、ロングビルの姿があった。
 うん、最短記録だ。次は四秒で扉を開けよう。
「……で、ミスタ・コルベール。かなり焦っていたようじゃが……、その、用件や如何に?」
 ロングビルのペン先の音だけの空間に気まずくなったのか、オスマンの方から話を切り出してきた。その事で、すっかり忘れていた、重要懸案事項を思い出す。
「そ、そうでした! 大変ですぞ、学院長! ミス・ヴァリエールの召喚した平民の事なのですが、コントラクト・サーヴァントで見覚えのないルーンが刻まれたかと思ったら、そのルーンが、別のルーンを生み出したのです! しかも、その生み出されたルーンを調べてみたところ……!」
「ちょいと、言うな。……ミス・ロングビル、悪いが……」
「分かりました」オールド・オスマンの目配せで、秘書、ロングビルが退室した。
 流石オスマン学院長、抜かりない。さっきの巫山戯た気配はどこへやら、今はもう、マザリー二枢機卿と対等なほど、真面目な表情をしておられる。
「……で、ヴァリエールの使い魔がどうじゃって? ミスタ・コルレーニョ」
 コルベールです。
 しかし、言おうとした言葉は、遠くから響く爆音によって遮られた。

◇◆◇◆◇◆

 もはや、この一室だけを見たら廃墟と判断できる程、教室内はひどい有様だった。
 主人が『錬金』の魔法を唱えると同時に、小石を爆心源に、手榴弾を投げ込まれたのではと思えるほど、巨大な爆発が教室に広がった。まずは教諭を黒板へと叩きつけ、次に主人を飲み込み、更に生徒が盾としていた机をなぎ払い、風圧で窓ガラスを全て破砕した。
 主人の制御から離れた使い魔達は本能のままに暴れ回り、教室内は動物園となりはてていた。
 割れたガラスは凶器となり、先ほどまでは盾となった机も、今は瓦礫と共に、被災者への重しとなってのし掛かっている。
 魔法は……『錬金』だけで、あれほどの高エネルギーを使うらしい。そりゃあ、大部分が珪素からできている石を何かしらの金属に変えるのだから、核融合のため、とんでもない量の、それこそ天文学的な数字がはじきだされるほどの莫大なエネルギーが必要な筈だ。それが失敗して、巨大なエネルギーが外部に漏れだしたのだから、この学校が無事なのが、不思議なくらいだ。
 それを教室の一室で収めたのだから、主人はたいしたものだと思う。
 それにしても、こんなリスクの高い危険な魔法を、屋内でやらせる教師の方がどうかしてる。
「ちょっと失敗したみたいね」主人が、埃を払いながら言った。爆心地にいたにも関わらず、当の本人は傷一つ負っていなかった。
「どこがちょっとだ!」
「だからやめろって言ったのに!」
「……魔法成功確率、ゼロのルイズ!」
 なるほど、たびたび耳にした『ゼロ』という二つ名は、そういう由来だったのか。なんだか格好いい二つ名だと思ったんだが。
「フレイム! 落ち着きなさいって!」
「あぁ! 俺のラッキーが蛇に喰われた!」
 少し考え事をしているうちに、事態はどんどん悪化しているようだった。
 使い魔と思しき大蛇が、……今はもう喉の奥で、確認はできないが、何か小動物の使い魔を飲み込んだり、サラマンダーやら、目玉の生き物やらが、教室内を駆け回っている。
 すると、今度は窓から、混乱した大型の動物が、どかどか入ってきた。こうなってはもう、手が付けられない。シュヴルーズ教諭も目を覚まさない。大丈夫か? あれ。
 ふと、確か混乱を治す、『きいろビードロ』のという、バッグの中のアイテムを思い出したが、生憎、バッグは部屋に置きっぱなしだった。
 ああもう。何故か、また胸の痛みがやってきた。今度は、右手の甲が、やたらと熱い。
 尋常じゃない痛みの波が再びやってきて――
「……静まれ!」気がついたら、叫んでいた。

◇◆◇◆◇◆

「俺のラッキーが蛇に喰われた!」
 また失敗してしまった。もう何度目だろうか、教室を滅茶苦茶にしたのは。努力しても、ちっとも進歩しない。それどころか、爆発の威力だけが、日に日に増していっている気がする。
 私のせいで、使い魔召喚に成功した人が、使い魔を失った。いい気味だと思うほど、自分は落ちぶれていない。罪悪感に苛まれる。
 ところどころ破けた自分の制服を見て、また新しく買わなきゃいけない、と思うと同時に、やっぱり失敗しちゃったんだ、という諦めにも似た思いが、胸の中から沸いて出るのを感じた。
 その時だった。
「……静まれ!」男の声がしたのは。
 誰の声だ、と辺りを見回すも、その声の主は見あたらなかった。
 ただ分かったのは、今まで騒ぎを起こしていた、同級生の使い魔達が、その声を境に、一斉に動きを止めた事だった。
 びくん、と時間が止まったかのように、一瞬痙攣し、一点を見つめたまま、ある者は突然地上に不時着し、ある者は四本足、六本足でその身体を支え、あるものは口を開けたまま静止した。
 その使い魔の主たちも、何が起きたか分からないといった風で、しきりに辺りを見回すが、使い魔達の挙動以外に、変わった点は見られないようだった。
「どうなってるんだ? 感覚の共有ができない」誰かが、そう言った。
「ほんとだ。……ところで、さっきのって、誰の声?」
「さあ」
 その時、べちゃ、と、何か水気を含んだものが落ちる音がした。直後、それは動き出した。
「あ! ラッキーっ! ……ラッキーが生還したぁっ!」
 口を開けたまま固まっていた大蛇が、変わり果てた、小動物っぽい何かを吐きだしたのだ。なんか、液体まみれで、何の動物かさっぱり検討がつかない。
「……解散してよし」
 ラッキーの主が「良かった」と大声で繰り返している間に、小さくその声が聞こえたのを、ルイズは聞き逃さなかった。他でもない、自分の使い魔の声だ。
「あ、感覚の共有、できるようになった」同級生の声が聞こえたのは、それの一瞬後だった。

◇◆◇◆◇◆

 満身創痍、というわけでは全然なかったが、それほどの苦痛を、身体は受けているようだった。
 先程叫ぶと同時に痛みが引き、崩れるように倒れて、なぜかみんなの使い魔が言うことを聞いてくれる事がわかり、とりあえず解散させ、今に至る。すまん、自分でも何が起きたか、さっぱり分からない。
 とにかく分かるのは、『ルーン』と呼ばれる烙印が、新たに右手にも現れたという事だ。
 ……もしかすると、今のはこれの力か。それとも、力を使ったから、これが現れたのか。
 自分の右手の甲を見て、思考の海に沈んでいると、教壇付近にいた筈の主人がこちらへ来ていた。右手から視線を外す。
「今の、アンタがやったの?」今の、とは当然、俺が今考えていた事だろう。
「……わからん。俺はただ、静まれ、と言っただけだ」
「……そう。ただの偶然かしらね。アンタの気迫に、押されただけとか」
「さあな」
 今度は、使い魔の主人達の方が、喋り始めたのを確認した。ルイズに対する罵詈雑言や、今の出来事の勝手な推理や、罵詈雑言や、シュヴルーズを心配する声や、罵詈雑言や、罵詈雑言。
「ったく、これだからゼロは!」
「ミセス・シュヴルーズ、大丈夫ですか?」
「早いところ、退学にならないのか?」
「いや、でもさっき俺の使い魔は……」
「だって感覚の共有って……」
「教室がめちゃくちゃだよ」
「ごめん、俺ラッキー洗ってくるから、先行ってる!」
「ってか、さっきの、誰の声?」
「ゼロのルイズが」
 見上げると、ルイズが、拳を握りしめて俯いていた。

◇◆◇◆◇◆

「まだ、分からん。だか、可能性はある。儂も今まで、伝説でも聞いたことがないわい。ルーンを生むルーンなどと……。果たして、本当にそのルーンに効果があるのか、それすらも確認ができておらんのじゃろう?」
「はい。仮に、あのミス・ヴァリエールの使い魔のルーンが、ブリミル四番目の使い魔のルーンだとしたら……ただミョズニトニルンの力を使いこなすに止まる事は、まず無いでしょう」
「記する事すら憚れる、とまで書いておられるしのぉ」
「ミョズニトニルンの力だけではなく、ガンダールヴ、ウィンダールヴの力もそのうちに出現するのでしょうか」
「……可能性は、あるじゃろうな。寧ろ、恐らくそうじゃろう。そして、それだけに止まる筈もあるまい。何か、恐ろしい力が込められているのかもしれん。学院はおろか、トリステイン、或いはハルケギニア全土を壊滅に追い込むような力が……。もしくは、コントラクト・サーヴァ
ントの時の激痛のように、使い魔に強大な副作用があるのかもしれん。……いずれにせよ、」オールド・オスマンは眉間の皺を深く刻み、老体を思わせない、いや、その年齢だからこその威圧感を出した。「この事は絶対に他言無用じゃ。王室にも、アカデミーにも、まだ報告する
な」
「了解しました」
「以上じゃ」
 有無を言わせない貫禄を纏い、オールド・オスマンは言った。
「失礼しました」
 その貫禄に、若干の冷や汗を浮かべるコルベールは静かに、学院長室を後にした。


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