あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と十七属性-03


「……」
「そう言えば、まだ聞いてなかったわね。アンタの名前、なんていうの?」
「……」
「早く言いなさいよ」
「……」
「……何?私から名乗らせる気? まぁ、いいわ。もう既に一度言ってるけど。私の名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・
ド・ラ・ヴァリエール。今日からあなたのご主人よ。ご主人様、と呼びなさい。で、あなたは?」
「……俺は」
「うん」
「……記憶がない」
「…………………………は?」


虚無と十七属性


第三話

「自分の名前が分からない!?」
 夜の宿舎に、金切り声が響き渡った。そして、途端に自分の声の大きさを客観的に考えて、思わず赤くなって俯いてしまう。
「……ああ。自分に関する、一切の記憶がない」医務室から帰ってきた使い魔は、あっけらかんとそう言った。
「記憶がないって……」
「言葉通りだ」よくもまぁ、いけしゃあしゃあと。
「あーもー、何よ! 使い魔が平民だと思ったら、更に記憶喪失ぅ!? 本ッ当についてない!」
「……」
 また大きな声を出してしまった事に気がつき赤面し、妙な、居心地の悪い間が開いた。
「はぁ……何か覚えてる事ないの?」
「ギンガ団、という悪の組織の名前を思い出した。後、ロケット団、マグマ団、アクア団というものもあったと記憶している」
「何それ」
「……思い出せん」
 聞いて、ルイズは再び大きな声を上げてしまいそうになるのを、なんとか抑えた。元々弱い、堪忍袋の緒がぶち切れそう、
というか堪忍袋自体が破裂しそうになるのを必死にこらえた。
 何せ、これを呼び出してしまったのは私の実力なんだから。それに、ただの平民など元の記憶があったって大して変わらないじゃないか。
寧ろ従わせるのなら、記憶の無い方がいい。
「いい、分かったわ。とりあえず、アンタは今日から私の使い魔よ」
「……使い魔とは、具体的に何をする?」
「まず、主人の目となり耳となる能力が与えられるわ」
 そう言った後に、突如何かに押し潰されたような、真っ暗な絶望を感じた。
「……どうした?」
「何も見えないし、聞こえないわ」
 やはり、自分の刻んだルーンは、ただ使い魔に過度の負担をかけるだけの失敗作らしい。
「他には?」
「秘薬の材料を集めてくる。……でも、あんた、記憶喪失だし」
「……」
「最後ッ! 使い魔は主を守る存在である事。できそう? ……無理そうね。アンタじゃ、幻獣やメイジどころか、暴漢、
いえ、カラスにでも負けそう」
「……」青年は何も言わなかった。
 何一つ、完遂できそうにない平民の使い魔を見て、はぁ、と溜息を漏らさずにはいられなかった。
「……以上か」そんな私の心情はなんのその、使い魔の平民は喜怒哀楽を見せない表情で、淡々と言った。それに若干の怒りを覚えたが、
何とか自分を抑え込む。
「ま、アンタには、雑用が妥当なところね! そこらのメイドにでも仕込んでもらいなさい。というか、アンタ、無口ね。記憶喪失だから? まるでガーゴイルみたいよ」
「……これは元からだ……と、思う」
「あっそ」
 皮肉で言った言葉にも、使い魔は表情を変えなかった。それにも、何か無性にイライラする。さっきからイライラしっぱなしだ。
ストレスで何かの病気になりそうだった。
「~~っ! もう、私寝るから。アンタは床に寝なさい。……毛布あげるから。それと、」
 着替えのために服に手をかける。使い魔の青年もそれに気がついたのか、くるり、と軽やかに後ろを向いた。慌てないところが、
また妙に腹立たしい。
「これ、明日の朝にでも洗濯しておきなさい。明日の朝、私を起こすこと。いい?」
 ぽーん、という擬音が似合いそうな放物線を描き、ひとまとめになった衣服は、まるで見越していたかのように振り返った使い魔の
腕の中へとすっぽりと入った。
 なんかイライラする。ああイライラする。
「承知した」
 使い魔は、まるで意に介さないといった風で、今私が着ていた衣類の入った籠を部屋の隅に置くと、毛布の位置を確認し
――さっさと部屋の外へ出て行ってしまった。
「え……ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!」
 止めようとするが、気付いた時は既に遅し。
 使い魔の青年は、扉の奧へと消えた。

◇◆◇◆◇◆

 一体、俺の身に何が起きたのだろう。ミスタ・コルベールの話によると、サモンなんたらという、ご主人様ルイズが使った呪文は、
ハルケギニアの生物を召喚する魔法らしい。
 ハルケギニアという地名には、なんとなく馴染みがないような気もするが、もしかしたら気のせいかもしれない。
 現に、さっき『ガーゴイル』という、嘗て聴いたことのなさそうな言葉だって、何故か、意味が頭の中に流れるように入ってきた。
ある程度の知識はあるし、一応、主人がいるのだから衣食住にも困らないし、多分大丈夫だろう。やっていけるさ。
 さて、コインランドリー、若しくは洗濯機はどこだろう。今のうちに学園の地理を把握しておかないと、
後々主人の少女に迷惑を掛けかねない。
 長い石造りの階段を下り、地上の階へと到着した。夜だというのに、至る場所にランプが灯されているのは、魔法の恩恵だったか、
それともここに棲む者達が貴族だからか。だがランプが灯っているのにも関わらず、部屋の外にいる人間は意外と少ないようだった。
カップルを二組見かけたが、それっきりだ。みんなで泊まるというのは、修学旅行などでテンションが上がるものだとは思うが、
ここの人間にとっては当たり前の事なのだろう。
 そう思った後で、「俺って修学旅行行ったんだっけ?」という疑問が沸いてくるが、やはり思い出せなかった。

 外に出る扉に鍵が掛けられていないのは幸いだった。地理の感覚が消失していたので、外へ通じる扉を探すのに苦労したが、
なんとか外へと出られたのだ。一定時刻になると扉に勝手に鍵がかかるという魔法があったら、と思い、扉を何度も確認したが、
鍵らしいものがなくてほっとした。
 果たして、外に出られたわけであるが――どうしたものか。
 どうして、二つあるのか。何って、そりゃ、月がさ。 
 俺の中の驚いた出来事トップ5に入る程、それは俺にとって衝撃的だった。いや、記憶がないから、
今なら問答無用でぶっちぎりトップなんだが。
 おかしい。
 絶対に何かがおかしい。
 ここに来て、俺はやっとここに来てから増大していた違和感の重大さに気付いた。
「…………俺は……夢を見ているのか?」
 俺は、誰だ。というか、この世界は何だ。夢なら覚めてくれ。どうか、一刻も早く。
「……」
 月には不思議な力があると言われていたのを――いつ聞いたかは分からないが思い出して、月を見て考えたが、
月が俺に力を与えてくれる筈もなく、結果は同じだった。
 一つ余分にあるんだから、少しくらい力を貸してくれよ、と願ったが、月は答えてはくれなかった。
 ただ、大きすぎる月明かりに照らされた、辺り一面に映える草原だけが、その答えにそよそよと答えてくれた。ちっとも嬉しくないが。
「あら、ルイズの使い魔じゃないの」
 女の声が聞こえたのは、そんな、自分が感慨に耽り始めた時だった。
 振り返ると、そこには赤髪色黒、豊満な体つきの女子生徒が、自分が先程通った扉から数歩のところの壁に身体を預けている。
ご主人の正反対、と言ったら悪いのかもしれないが、その胸は豊満で、苦しいのか、それとも別の目的があるのか、
制服のボタンを幾つも外し、年齢相当の色香を放っている。
「こんばんは。こんな所で何してるの? ルイズに何か言われた?」
「……何も言われていない。ただ、校内の地理くらいは頭に入れておかないといけないと思い、散策をしていた」
 世界に違和感を感じていました、などとは勿論言わない。言ったところで、頭のおかしい奴だと思われるだけのように思えたからだ。
「へぇ」女は、興味深げに相槌を打った。
 どことなく、既視感があると思ったら、この女性はさっき見かけたカップルのうちの一人だったのを思い出した。
男の方はどこへ行ったのだろうか。
「あ、そうだ。あんたの主人って子供っぽいとこがあるけど、嫌いにならないであげてね。我が儘で、強がりで、それでプライド高いの。
それでいて、変なところで泣き虫だから。そこがまた、可愛いんだけどね」どうやら、彼女はルイズの友人だったらしい。
「それにしても、あなた、雰囲気が似てるわね……」
「……?」
「いや、ちょっと私の友達と似てるなって、思っただけ。あなたみたいに寡黙な子でね」
「そうか」
「その応対も、彼女にそっくり」
 扉の奥の方から、『キュルケ、どこだい?』と男の声が聞こえてきた。恐らく、今目の前にいる彼女がキュルケで、名前を呼ぶ彼は、
キュルケの彼氏だろう。案の定、彼女もはっとした顔になった。
「それじゃ、ルイズの使い魔、頑張ってね。あ、そうだ。あなた、名前、なんていうの?」
「……生憎、記憶喪失で自分が誰だか分からない」
「記憶喪失……?」
「そうだ。召喚された時から今までの記憶しか、俺の中には存在しない。自分の名前も、生まれも、社会的地位も、何も覚えていない。
ルイズにも言ったが、特に固有名詞では呼ばれなかった。とりあえずは、『使い魔』とでも呼んでくれ」
 そこで再び、『キュルケー』と男の声がした。彼女は別に焦った様子もなく、会話を続けた。
「ふーん、名前が分からないの……。もし良かったら、私が新しい名前、付けてあげるけど?」
「遠慮しておく。主人に何を言われるか分からん」
「あら、つれないのね。私は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・ フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケでいいわ。
これから宜しくね、使い魔くん。それじゃ、私、呼ばれてるみたいだから」
 特に残念がるでもなく、キュルケを名乗った女は、男の方へと歩いて行った。
『ん、キュルケ、今までどこにいたんだい?』
『ううん、ちょっと月が見たくなっただけよ』
 その声を聞いた後、何故かポケットに手が伸び、そして入っていたレポートを取り出した。恐らく、記憶は失ったが、
身体が覚えていたのだろう。今までどのように書いていたかはすっかり忘れていたが、手帳の新しいページをめくると、書き込んだ。

今日のレポート
  • 記憶を失った。ギンガ団という悪の組織の名前を思い出した。
  • ルイズ・フランソワーズ(忘れたけどミドルネーム)ヴァリエールの使い魔として、トリステインの魔法学院に召喚された。
月が二つと、魔法が存在した。
  • 使い魔のルーンを刻む際に怪我を負って気絶した(らしい)。きずぐすりを使用した。ミスタ・コルベールに、
何故早く完治したのか二時間近く問い詰められたが、なんとか黙殺した。それから彼に、この世界の常識を教えてもらった。
額に新たにルーンが刻まれたのを見て、心底不思議なものを見た、といった表情を見せられ、ルーンをスケッチされた。
使い魔の仕事:護衛・主人の望むものを集める・視聴覚の共有

 そして、書き終わった後で、5分ほど、この月を眺めていようと思い、その場にただ一人立ち尽くしたのだった。



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