あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と十七属性-01


 ここはどこだ。周りの人だかりは何だ。そして目の前で、棒を持ち、マントを着たピンクの女は誰だ。
 14歳くらいに見えるピンクの少女は、仰向けに倒れている俺を、まるで牛乳を拭いた雑巾を見るような目で見て、
「アンタ誰?」と訊いてきた。


虚無と十七属性
第一節「魔王」

第一話

 髪を揺らし、草木を波打たせる風の穏やかな音は、桃色の髪の毛を靡かせる今の少女の対義にあたる存在のようだった。
少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・フラン・ド・ラ・ヴァリエールは不機嫌だった。
 彼女はヴァリエール公爵家の三女として生まれたにも関わらず、今まで魔法一つ成功できた事が一度もない。二年に進級
する為に絶対不可欠の存在である、使い魔召喚の儀式だけはなんとしても成功させなければならなかったが、幾度も失敗を繰り返した。
 そして、今。僅かながら、その失敗の中で手応えを感じたのだ。爆発の後に影が見えたときには、それはもう、思わず歓喜の声を
上げそうになったが――初の成功を見いだしたと思ったら。
「……平民?」ただの平民だった。
「……」
 召喚された男は、何が起きたか分からないといった表情のまま、うんともすんとも言わない。その表情が、ルイズの機嫌を、
さらに、頗る悪いものへと変えていった。
「アンタ、誰?」
「……」男、というより、青年は、その声に応えるわけでもなく、ただ辺りを見回した。
 もの分かりの悪そうな平民を見て、ルイズは思わず苛立ちでどうにかなってしまいそうだったが、召喚したのは他でもない
自分なので、何も言えない。
「ミスタ・コルベール! やり直しをさせて下さい!」思いっきりそう叫ぶのが、唯一許された選択肢だった。
「残念だが、それはできない」ハゲは非情だった。
「なぜですか!」
「使い魔召喚は、メイジとして人生を決める神聖なもの。やり直すなど、儀式そのものに対する冒涜ですぞ?
君が好むと好まざるとに関わらず、彼は君の使い魔と決まったのです」
「ですが!」
「儀式を続けなさい。それに、彼はあなたが召喚した立派な使い魔ではありませんか」
 何が立派よ、最初に「残念だが」と言ったくせに、とルイズは内心悪態をつきたくなった。
 使い魔を見ると、混乱するでも、慌てるでもなく、こちらをただ、じっと見据えていた。
「ほら、これで取り乱さない使い魔なんて、多分ただ者じゃありませんよ」
「状況が全く理解できていないだけかと思いますが」
 それとほぼ同時に、既に使い魔召喚の儀式を終えたギャラリー達が沸き上がった。
「は……はははははは! 腹痛い! 腹筋割れる!」
「流石、ルイズだな! みんなの期待を裏切らないや!」
「何あれ、もしかして、もしかするとただの平民?」
「ルイズにはお似合いだな!」
「ある意味、これも才能だと思うよ!」
「ゼロのルイズー!」
 誰かが忌々しい、彼女の二つ名を叫んだ。彼女はもう爆発寸前だった。
 いっそのこと本当に、物理的に爆発させてやろうかとも思ったが、ルイズはなんとか押しとどまった。
「儀式を続けなさい」
 非情なハゲが彼女を見て、再びそう言う。ルイズは唇を噛みしめた。
 穏やかな風は、やはり今の状況に似合わなかった。

◇◆◇◆◇◆

 キッと、桃色髪の少女がこちらを睨みつけた。髪の薄い男性と、ツカイマが何やら口論していたが、どうやら俺が原因らしい。
 俺はさっきまで、確かポケモンセンターでボックスの整理をしていて――――それで?
 あれ、俺はどうしてこんな所にいるんだろう。
 そういえば、何か鏡ともドーミラーとも似つかない物体が現れて、それに触れて、引き込まれて。引き込まれて?
 駄目だ、頭が痛くなってきた。レポートを見返した方がいいかもしれない。とりあえず、四天王戦よりも、バトルタワーよりも、
いろいろと遙かに厄介な状況である、という事が、なんとなく、分かった。
「貴族にこんな事してもらえるなんて、平民のアンタには多分一生無いわよ。感謝しなさい」
「……」
 そんなわけで、考え事というか、内心恐慌状態だった俺は、少女が屈みこんで、こちらを真っ直ぐに見つめていた事には
まるで気がつかなかった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、
我の使い魔となせ」
 そして刹那、接吻を受ける事となった。
「!」
 何のつもりだ、と抗議をするつもりだったが、突如として襲ってきた、胸板への尋常ではない激痛が、それを妨げた。
視界が暗転し、思わず俯せに倒れた。畜生、どこが祝福だ。
「心配しなくても、使い魔のルーンが刻まれているだけよ」
 少女が無慈悲にそう言ったが、気休め程度にもならず、この痛みは尋常ではなかった。
 右手で草を毟り、左手で服の中に手を突っ込み、胸を掻き毟った。体はくの字に折れ曲げる。どうにか痛みを和らげようと、
必死になったが、焼けるような痛みは悪くなる一方だった。右手が掴んだ地面は抉れ、左手で掻き毟った胸板からは血が吹き出し、
指には自分の表皮細胞とヘモグロビンがごっそりついていた。焼くような痛みは、一向に引かない。まるで血が沸騰するかのようだった。
 俺は――めのまえが まっくらになった。

◇◆◇◆◇◆

 使い魔のルーンを刻む為、といっても随分と時間が長い気がする。青年がのたうち回り初めてから30秒は経過した。
一向に戻る気配がない。
 声を上げない叫びを上げている自分の使い魔を見て、流石に様子が変だという事に気がついた。
「ちょっと……アンタ、大丈夫……?」
 声をかけても、何も返して来ない。青年は激痛と格闘していた。
 ふと、衣服の中から、僅かに青年の左手が見えた。見間違いでなければ、夕日のよう、と形容するにはあまりに禍々しい液体が
べっとりと付着し、胸からは大きすぎる光と、血が溢れていた。
「……え……」
 血?
「おい、ルイズの平民、なんだかおかしくないか?」周りの生徒も、先ほどとは違うざわつきを見せた。
「コントラクト・サーヴァント、したのよね?」
「もしかして……また失敗したの? 胸は光っているけど」
「え、まだ終わらない、の?」
 その時だった。
「あ゛ああああ!」苦痛に溢れた咆吼が、草原に響き渡った。
 ルイズは見た。
 青年の体から、何か四角い物が大量に析出しているのを。否、青年の身体が、衣服が、無数の正方形に変形していたのだ。
彼の体から溢れる血液も例外ではなく、小さな正方形へと形を変えていく。
 まるで――モザイクのようだった。
「ひっ」唯一、近くでそれが確認できたルイズは、悲鳴を上げた。
 それと同時に、青年は動かなくなった。
 青年と示し合わせたかのように、誰も動けなかった。
「え、死んだ、の?」ギャラリーの誰かが、そう呟いた。
 その声で正気を取り戻したのか、コルベールが青年に駆け寄った。
 この壮絶な光景を見たというのに、彼は至極冷静に、急いで手を取り、脈をとった。
「あぁー、良かった。……彼はちゃんと、生きてます」溜息をついて、ハゲは言った。
 その言葉を聞いて、ルイズはぺたんと腰を落としてしまった。

◇◆◇◆◇◆

「彼はちゃんと、生きてます。……!?」
 教師、コルベールは息を呑んだ。
 脈を測った側の手についた、あるはずのない赤い液体を確認したからだ。
「ちょっと確認したい事があるから、皆、先に教室に戻っていてくれ! 授業の残りは自習でいいぞ!
なんなら使い魔と交流を深めてもいい」
 教師として、生徒にこれを見せるわけにはいけなかった。
 訝しげな表情を見せる生徒たちが「フライ」を唱えて去っていったのを確認してから、再び青年を見た。
 疑問は尽きないが、それに少しばかり安堵して、すっかり直ってしまった青年の上半身の服を脱いで胸板を露わにした時、
コルベールは思わずぎょっとした。
 掻き毟ったのが原因だろう、僅かに皮膚の内側が露わになって、その部分からは血が沸いていた。
出血多量で死ぬという事はないだろうが、この青年の痛みを想像しただけで、思わず顔を顰めてしまう。
 しかしそこは、過去に魔法衛士隊として戦場を見てきたコルベール。衝撃はあまり大きなものではなかった。
 彼が驚いたのは、文献も含めて嘗て見たことの無い、長い長いルーンが刻まれていたからだ。
「何だこれは……」
 通常のルーンらしきものが一つと、通常の使い魔に刻まれるものとは明らかに違う、解読不能の文字が16あり、
それが2行にも連なっている。
 これはルーンなのかどうかさえ疑わしい、見たことの無いルーンであった。
 コルベールは規格外だらけの事象に頭を抱えていると、そのうちに、スッと2行の文字は消えていった。いよいよ訳が分からない。
悩みで、彼の頭の砂漠がさらに広がりそうだった。
 人間が召喚されたというのも聞かない話だが、それ以上にこのルーンは何なのだ。
「この青年は知っているのだろうか」
 後に残された三文字のルーンを、とりあえずコルベールはスケッチする事しかできなかった。
 スケッチし終えると同時に、背後に僅かな気配を感じ、コルベールは慌てて振り返った。
 そこには、呆然とした表情のまま腰を下ろした、この使い魔の主がいた。どうして今まで気付かなかったのだろう、
コルベールは自分を戒めた。
 穏やかな風が、彼の残り少ない髪の毛を揺らした。
「ミス・ヴァリエール……。見たのか、君は」
「……は、はい」ルイズは答えた。
「いいかい、この事は絶対に口外無用だ。この使い魔の正体は、教師である私にも分かりかねるものだ。
ルーンの時は何が起こったのかさっぱり分からないが、幸いにも彼は生きている」
「はい」
「他の生徒に何を聞かれても、君はこの事を答えてはならない」
「はい」
「何か分かった事があったら、彼の主である君にも伝えよう。まだ、何も分からない状況だからね」
「はい……」
「彼は、私が医務室に運んでおこう。君は、教室に戻りなさい。いいか、絶対に喋るんじゃないぞ」
「わかりました」
 ふらふらと、歩きで教室へ戻るヴァリエールを見送った後、コルベールは溜息をついた。
 さてこれからどうしたものか、と。



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