あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの花嫁-21 B


ルイズ達が去った後も、その事に構っている余裕が無い程ハヴィランド宮殿はクソ忙しかった。
ウェールズが送迎の宴とか抜かした時は、本気で殴り倒してやろうとマチルダは思ったものである。
盗賊やってた手前、非正規の物流やら物価やらには詳しくなっていたが、
正規の、それも国家規模の取引なぞわかるわけがない。
トリステインで何かと世話になった商人を強引に呼び出し、
彼のアドバイスを受けつつアルビオン商人達を相手取っての商取引。
せめても盗賊やってた頃に扱ってた盗品の額がとんでもないものだったため、
金額的には怖気づくような事が無かったのは幸いだが。
商人達もまた、国側に立ってこういった取引をまとめてくれる人間を欲していた為、
マチルダは城と商人と双方に必要とされていたのも救いであろう。
この機に独占をと考え付いた者も居たが、城が必要とする物資は、
一人の商人が全てを賄える程度の量ではなかったのだ。
そもそも長くこの仕事を続ける気も無いマチルダが自身の後々なんぞ欠片も考えず、
より適切な取引を繰り返したのも商人達の信頼を得るのに役立った。

三月もしない内に、城側、商人側双方から絶大な信頼を勝ち得たマチルダは、
現在、ハヴィランド宮殿の中を逃げ回っていた。
「しつっこいのよアンタ! 嫌だって言ってるでしょうが!」
その後を追いかけているのは、遂に王が天寿を全うし、つい先日即位したばかりの新王ウェールズ王であった。
「引き受けてくれるまで何度だって言うさ! 頼む! 君以外に出来る人なんて居ないんだ!」
王様だろうと遠慮呵責の無い物言いをするのは、どうやら武勲とその後の仕事ぶりで周囲に認められてしまったらしい。
国家新生の混乱の最中とはいえ、凄い話である。
「うっさいうっさいうっさーーーーーい! 大体アンタ無理強いはしないって言ったのどうしたのよ!」
「だから命令はしていないっ! 欲しい物があるんなら何だろうと揃えて見せるから引き受けてくれええええええええ!」
「いーーーーーやーーーーーじゃーーーーーーーー!」
絶叫を上げるマチルダの口を、横からひょいっと現れたアニエスが塞ぐ。
「……城中でみっともない真似をするな」
「ひゃにひぇふ!」
あまりにマチルダが忙しすぎるので見ていられなくなったアニエスは、
彼女の仕事を手伝いがてらまだハヴィランド宮殿に残っていた。
やたらツンケンしたマチルダとの折衝役として、彼女もまた不可欠な存在になっていた為、
ウェールズがワルドに泣き付いたのである。
「陛下もです。まったく、王になられたのですから少しはらしくなさって下さい」
まあアニエスもあまり口はよろしくないのだが。
しゅんとなってしまうウェールズに、嘆息しながらアニエスは告げる。
「私がマチルダと話し合っておきます。今日の所はお引取りを」
「わかった……どうか、よろしく頼むよ」

マチルダの私室に逃げ込むと、中で掃除をしていた女中が嬉しそうに出迎える。
「お帰りなさいマチルダ様! アニエス様!」
元気にそう言う彼女は、戦の時ハヴィランド宮殿から逃げ遅れたあの少女であった。
あれ以来二人にすっかり懐いてしまい、マチルダとアニエスの身の回りの世話役を自ら買って出たのである。
アニエスが席を外すよう言うと、では後でお菓子でも用意しますね、と部屋を出る。
残された二人は、椅子に腰掛け一息ついた。
「なあマチルダ、お前の言いたい事は良くわかる。確かにアルビオン王家に仕えるなぞ、お前は死んでも嫌だろう」
マチルダは両親を前アルビオン王の命令で殺され、年若い頃から貴族位を失い路頭に迷うハメになったのだ。
その恨みを、労苦を忘れろといわれても忘れられる訳がない。
「だがな、よく考えてみろ。お前を現在取り巻く状況を無理無く解決するに、最適な手段ではないのか」
むすっとしたままそっぽを向いているマチルダ。
「王はお前が必要とする多額の金を賄えるだけの給金を用意してくれよう。
 盗賊云々に関して私はあまりものを言えないが、少なくともそこまで大きなリスクを負う必要も無くなるのだぞ」
今度は口をへの字に曲げる。
「言っておくが、トリステインでの派手な盗賊行為は最早不可能だ。
 ワルド子爵を敵に回す事がどれ程恐ろしいか、お前には言わずともわかろう。
 捜査部は今までの警邏なぞ比べ物にならん程優秀だぞ」
ぼそぼそっと言い訳のように呟く。
「……だったら他の国行くもん」
「だとしてもだ。リスクが消えてなくなる訳ではあるまい。
 陛下の勧めてくれる役職はお前が命がけで得た地位と信頼だし、
 誰憚る事無く金を得られるのだぞ。それに……」
「何よ」
「お前だってわかっているだろう。混乱するアルビオン経済の安定に努める事は、
 引いてはこの国で暮らしていくあの子達の為にもなるんだぞ」
マチルダが妹と子供を山ほど抱えている事を知っているのは、アニエスのみである。
アニエスは既に子供達や妹であるティファニアに挨拶に行った事がある。
一言も無く俯くマチルダに、アニエスは人の悪そうな笑みを見せる。

「もし、アルビオンが又お前に理不尽を働くようならば、その時は私を呼べばいい。
 今度こそ二人で欠片も残さず叩き潰してやるさ」
ぎょっとした顔でアニエスを見返すマチルダ。
「あのように冴えない小男にもあそこまで出来たのだ、私達に出来ぬはずが無かろう」
そう嘯くアニエスに、不機嫌だったはずのマチルダは噴出してしまう。
「あ、あはははっ! アニエス、あんたルイズに毒されたんじゃないの!」
「かもな」
そう言って二人は笑いあう。
こんこんと扉を叩く音がする。
話も終わったので、招き入れると両手一杯の大きな皿に載せた大量のお菓子を持ちながら先程の少女が戻って来た。
「マチルダ様とアニエス様にお菓子持って行くって言ったら、
 みんなが次々色んなものくれるんでこんなになっちゃいました!」
そう言って幸せそうに笑う少女。
恨みも怒りも忘れられないが、それでも、命賭けで守ったこの城の人達を、マチルダは嫌いになれそうに無かった。

マチルダがサウスゴータではない爵位を受け、財務卿の任を拝命したのはそれから二ヶ月程先の話である。
何だかんだとあの後二ヶ月も引っ張ったのである。マチルダもマチルダなら、
しぶとく頼み込むウェールズもウェールズである。
「勘違いしないでよね! 私は王族や貴族なんて大っ嫌いなんだから!
 私が引き受けるのは貴族なんかじゃない平民達や城のみんなの為なんだからそのつもりで居なさいよ!」
といった拝命時の捨て台詞に、前半分はさておき、いたくウェールズは感銘を受けたそうな。
その際、マチルダが条件として出した「アニエスをトリステインから正式に引っ張って来い」との話をクリアする為、
ウェールズは少なからぬ損失を出す事になり、ちょっとヘコんでいた。
アニエスにも色々とトリステインやワルドに対して思う所あった為、少し気が咎める部分があった。
もちろん手配してくれたウェールズやマチルダの手前そんな思いを表に出すような事は無かったが。
そしてマチルダも又、引き受けはしたが、やはり心にしこりのような物が残ったまま。
その頃の三者の会話は、妙にしゃちほこばっており、見てて大層笑えるものであったそうな。
ちなみにそんな愉快な見世物も、三日ともたずキレたマチルダが酒を持って二人を呼び出し、
本音全開で朝まで語り合った結果、昼まで続く二日酔いと共に消えてなくなったのだが。
その時、恐らく醜態を晒すであろうと予測したアニエスは、
ウェールズに言って周囲に音が漏れぬよう魔法をかけてもらっていた。
幸いであった。
「人の親殺しといて今度は困ったから助けてくれ!? 馬鹿にすんのも大概にしなさいよ!」
「だったら私にどうしろと言うんだ! 裏切られ裏切られてようやく信頼出来る者を見つけたと思ったらコレか!?
 馬鹿にされてるのはこっちの方だ!」
「王家様の都合なんて知った事じゃないわよ! はっ! 次は私も殺してみる!?」
「ああやってやるさ! どうせ私が最も信を置いていた者達は皆裏切ったのだ!
 誰も彼も消えてなくなってこんな腐った国滅びてしまえばいい!」
「ふざけんじゃないわよ! 腐ってるのはアンタ等王家と貴族だけでしょう!
 残ったみんなはどうすんのよこのすっとこどっこい!」
「だからこうして働いてるんじゃないか! 私はアルビオンの民を守るためだけに存在してるんだ!」
「守れてないじゃない全然! なーによあのへっぽこな戦は!
 国中ぼっこぼこになる前に何とかすんのが王家の役目でしょうが!」
「何だと!? 皆が誇りを賭け戦った戦を馬鹿にするのか! 誰もが必死に国を守ろうとした戦を否定するのか!」
「うっさいうっさいうっさーい! 戦なんてどーでもいいのよ! とにかく私は王家なんて大っ嫌いなんだからね!」
「ああそうか! 私だって君のように人の都合も考えず言いたい事だけ言い放つような者は好かんっ!」
いやもう本当に。外に漏れてたらエライ事になってたなとアニエスは一人杯を傾ける。
口げんかにすらなっておらず、ただ言いたい事をぶちまけあうだけの怒鳴りあいは、正直聞くに堪えない。
どちらもべろんべろんに酔っているのだが、一通り言いたい事を言った所で、
双方の言い分に関する感想をお互いに聞いてやると、案外冷静にお互いの立場を見ている事がわかる。

結局、どちらも相手の立場がわからぬ程子供でもないし、
事情はどうあれ目の前にある問題を無視して過去を蒸し返すような間抜けでもないのである。
「……変な話だが、アルビオンが傾いていなければ、二人がこうして共に仕事をするような事も無かっただろうな」
とのアニエスの総括に、二人はふんっとそっぽを向いて返事をした。



トリステイン魔法学院に戻る前に、早めに仕事は片付けておくべきとルイズ達はラグドリアン湖に寄って行った。
アンドバリの指輪を返還すると水の精霊は殊の外これを喜び、燦に以後の協力を約束する。
特に頼みごとも無い燦が、みんなに親切にしたげてな、
と伝えると水の精霊は人に対して常に協力的であろうと約束してくれた。
重要な心置きを解決した一行は、すぐにとって返してトリステイン魔法学院に戻り、
アルビオンへと手紙を送ってきた主であるコルベールと合流する。
『サンを元の世界に戻す算段がついた。遅くとも日食前までには戻られたし』
手紙にこんな事を書かれては、どんなに忙しかろうとルイズも無視など出来ない。
学院で四人を出迎えたのはコルベールとシエスタ。
シエスタは皆の無事を無邪気に喜んだが、コルベールは彼女達から漂い来る血臭に眉をしかめる。
それも当然だろう。戦場の只中を駆けずり回っただけでなく、
その後も怪我人がそこら中に転がるハヴィランド宮殿で手伝いに奔走していたのだから。
そしてコルベールが若い頃積んだ戦場での経験が、
四人がもう後戻りがきかぬ程の修羅場をくぐってしまったと教えてくれた。
「ロンディニウムでは大変だったと聞いているよ。みんなよく戻ったね」
悲しさを隠しきれた自信は無いが、そう言えた自分をコルベールは褒めてやりたかった。
そんなコルベールの隠れた苦労は、まだ若いルイズ達にはわからなかったようで、
すぐに燦を元の世界に戻す手段の話に移る。
シエスタと共に調査した結果、彼女の曽祖父がこちらの世界に訪れた時、
同じくこちらに迷い込んだもう一機の飛行機は、日食の中に飛び込んで消えていったという話を聞きだした。
そして幸運な事に、数十年周期である日食が、数日後にまた現れるというのだ。
出来るだけ当時と同じ状況を再現すべく、コルベールはシエスタの曽祖父の遺産を持ち出し、
これをどうにかして空に飛ばすべく準備を整えていた。
コルベールのなけなしの財産から風石を購入してゼロ戦に乗せ、
これをコントロール出来るようゼロ戦の上に帆船が張るような小型のマストを装備させる。
実際にコルベールが扱ってみた所、少々操作に慣れが必要との事で、燦にはすぐにこの訓練に入ってもらう。
最初は乗り気でない様子で、何やかやと理由を付けてぐずっていた燦だが、
ルイズが強く言うと抵抗を諦めて真面目に訓練を行う事にした。
すぐにオールドオスマンも彼女達に会いに来るが、あまりにヤバ気な血臭の為、
生徒達をこれ以上怯えさせてもマズイとの事で、四人はタバサの母の屋敷で過ごす事になった。
ちなみに、これでもこいつら女の子の集まりなので、血の臭いの事を言われものすごーく気にした挙句、
毎日五度の水浴びにて速攻洗い落としたとの事である。
燦の訓練を見守るルイズ、キュルケ、タバサの口数は少ない。
その代わり、訓練が終わるや否や、四人はそりゃもう物凄い勢いで話しまくった。
慣れぬ感じは拭えぬけれど、あのタバサですら少しでも多くと口を開き続けたのだ。
館には何時も笑いが絶える事は無く、それは就寝まで続くのであった。
そして就寝時、燦が別れの辛さに毎夜涙を流すのを、ルイズもまた涙を堪えながら静かに宥め続けていた。

そして迎えた日食の日、時間に余裕を持って離陸すべしというコルベールの言葉にも、
燦はゼロ戦に乗ろうとはしなかった。
「イヤじゃ! 私はここでみんなと居るっ! 私だけ帰るなんて絶対イヤっ!」
こう来るのを予想していたのだろう。ルイズは落ち着いた様子で燦を諭す。
「私はご両親にサンを返してあげなきゃならないのよ。貴女を無理矢理引きずり込んだのは他ならぬ私なんだから」

「そんなんもうええ! 私はそれでも……」
ルイズは燦の唇にそっと人差し指を当てる。
「サンはこんなに良い子なんだもの、きっと、向こうでみんなが心配して待ってるわ」
ルイズ達を大切に思うように、燦は家族の事もまた大切に思っている。
瀬戸組の皆の顔を思い出すと、どれだけ心配してるかを想像すると、胸が潰れるように痛む。
それでも帰る手段が無いからと自分を納得させるしかなかったのだが、
こうして目の前に全てを揃えられては、燦にも逃げ場は無かった。
「わ、わたし……みんなと別れるの嫌じゃ……ずっとみんなとおりたいんよ……」
ルイズはぎゅっと燦を抱き締める。
「別に会えないからって私達の縁が切れるわけじゃないわ。
 貴女は私の使い魔で、大切な、友達だもの。それは何がどうあろうと、決して変わらないわよ」
キュルケは、何かを堪えるようにしながらじっと俯いている。
「……残ってたっていいじゃない……嫌がってるのに、無理に帰す事なんて……」
タバサに後ろから突かれて、言葉を止める。
燦がキュルケのそばに来ると、キュルケは言葉を発する事も出来ず無言でただ抱きしめる。
それ以外、出来なかった。
名残を惜しみながら、タバサは燦に考えに考え抜いた言葉を伝える。
「私が学院に来た時、夢と望んでいた未来が全てここにある。貴女のおかげ。ずっと……忘れない」
言葉の端々から漏れる限りない感謝の念は、タバサと共にあった時間が誇るべきものであったと燦に教えてくれた。
燦は言葉を発する事も出来ず、何度も頷いていた。
ルイズは大声で燦を怒鳴りつける。
「いつまで泣いてるの! これは終わりなんかじゃない!
 旅立ちなんだから胸を張りなさい! 貴女は私の使い魔でしょう!」
ぐしぐしと涙を袖で拭うと、燦もまた大声で答える。
「わ、わひゃった! わらひは……泣いたりせん! そんなん、るいじゅちゃんの……使い魔らしくないっ!」
精一杯強がりながらゼロ戦に乗り込み、無理矢理にかっと笑顔を作り、燦は飛び立つ。
大地に黒いカーテンが伸び出し、空高くに舞い上がったゼロ戦は突入すべく速度をあげる。
ロクに前も見えないのは、日食で日が翳ったせいなのか。
それでも目標を外す事無く、燦とゼロ戦は闇の中へと吸い込まれて行った。

成功を喜ぶ声は聞こえない。
全てを見終えたコルベールは、シエスタに声をかけ、共にその場を立ち去る。
キッと食い入るように空を見上げていたルイズは、日食が終わり太陽が全てを照らしなおすまで、
その場から動こうとはしなかった。
キュルケもタバサもその場に残って静かに佇んでいる。
草原を靡く草の音、風のささやきのみが支配する世界に、僅かな異音が混じる。
「……ひっく……うぅ……うぇ……」
タバサがルイズの腰をぽんと叩き、逆側からキュルケはルイズの肩に手を置く。
「う、うぇええ……サンが、サンが行っちゃったよぉ……うぅっ、うぁあ……もう、会えないなんて、ヤだぁ……」
見上げていた顔は何時の間にか俯き、足元の丈の低い草をルイズの頬から滴る雫が濡らす。
年相応の少女のように、ルイズはただひたすらに、いつまでも泣き続けていた。



トリステイン空軍の帰還に合わせ、ルイズ、キュルケ、タバサの三人はトリステイン王城へと向かう。
歓迎式典があるので、それに出席するよう命じられたのだ。
空軍はわざわざトリスタニア郊外に兵達を降ろし、隊伍を組んで街中を歩き、王城で閲兵するらしい。
面倒な事この上無いが、そういうイベントだと言われればそうかと頷くしかない。
三人の為に用意された馬にそれぞれ跨り、列の半ばでかっぽかっぽとのんびり進む。

キュルケは大層居心地悪そうにしている。
「てか、私トリステインとか関係無いんだけどいいの?」
タバサもまた目立つのを好まぬので、小柄な身を更に小さくしている。
「私達はルイズのおまけみたいなもの。悪いのは全部ルイズ」
三人の先頭を進むルイズは、癇癪を起こして怒鳴り散らす。
「あーもううっさいわね! いいじゃない別に!
 アンタ達だって魔法学院の生徒でしょ! ならトリステイン所属なの!」
「無茶苦茶言うわね……」
「一人で行くのが嫌だっただけ」
すぐ前後を進む兵達は緊張でガチガチになっているというのに、三人共暢気なものである。
無論彼らの緊張は、街中を歩く事ではなく、
稀代の英雄でありアルビオンを救った奇跡の勇士である三人の前後に居る事が原因なのだが。
街の入り口をくぐると、中では既にお祭り騒ぎのようになっており、
先行した兵達は皆、市民達の大歓迎に頬を緩めていた。
入ってすぐに、群集はルイズ達の姿を見つける。
すると、それまでの騒ぎすら静寂と感じられる程の嬌声が上がる。
皆熱狂して口々にルイズ、キュルケ、タバサの名を叫ぶ。
名前はあまり漏れないようにしていたはずのタバサの名も、既に誰もが知る所となってしまっているではないか。
トリステインの軍を歓迎するはずのこの式典でありながら、
キュルケやタバサの名もまたルイズのように声を張り上げ称えられている。
その事に驚きつつも、場の空気に逆らえず、愛想笑いなんかを浮かべて手を振り返すキュルケ。
タバサはこれはマズイと引っ込もうとするが、今更手遅れである。
諦めるしかないわね、とのキュルケの言葉に仕方なくタバサも逃げるのを止め、
無表情を崩さぬままではあるが馬を進める。
ルイズは最初の内こそ名前を呼ばれる度びっくりしてそちらを振り向いていたが、
何時までもそんな事をしていては首が捩れてしまいそうなので、開き直って胸を張る。
陛下との謁見と一緒ねと、もうどうにでもなれーぐらいの勢いで堂々としてみたが、
ある種の拷問のような気がしてならない。
ふと、こんな日を夢見た事もあったなと、昔を思い出す。
それは遙か以前の事のようであったが、よくよく考えてみるとほんの一年前に見た夢だ。
確かあの時、そう、この先の広場になっている所で、たくさんの人達に囲まれた私は、
こうしてやりたいと思ったのだ。
広場に集まった人達の真ん中を通り過ぎながら、あの時の想像から少しだけアレンジして、
ルイズは握り締めた拳を高々と突き上げる。
広場中がまるで生き物であるかのように、大きくうなり湧き上がる。
戦場で戦士たちの雄叫びを聞いているのとはまた違う、興奮と喜びがそこにあった。

なるほど、想像してたよりこれは、遙かに気分の良いものだわ。



こうしてルイズは、英雄としての道を踏み出して行った。
それが容易き道ではないとわかっていても、彼女は決して留まる事をしなかった。
時に感情的な選択をする彼女は非難の矢面に立たされる事も少なくなかったが、
それでも、ルイズは自身の信じる生き方を変える事はなかった。
そして当事者達はどうあれ、そんなルイズを庶民達は愛してやまなかった。

どのような逆境に置かれても決して挫けぬ彼女を支えたのは、
常に共にあったキュルケとタバサであったが、二人は口を揃えて言う。
例え自分達が居なくなろうとも、ルイズは決して折れたりはしないと。
後に勃発するガリア戦役、ロマリア動乱、ゲルマニア再統合において、
それぞれ中心的役割を果たすキュルケもタバサも、ルイズを越えたと感じる瞬間はついに訪れなかったと残している。

そして伝説の終幕、エルフの住まう地へと赴いた彼女達は…………




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