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ゼロの花嫁-21 A


ゼロの花嫁最終話「英雄」



全ての戦いが終わる頃には、暮れ落ちた日が再び昇ってきていた。
ルイズ達アルビオン決死隊は早々にトリステイン艦隊に保護されたが、
艦内でウェールズを除く全員が意識を失って倒れてしまった。
内の何人かはそのまま帰らぬ人となるが、ルイズ達四人プラス一匹は暢気にすいよすいよと寝息を漏らしていたそうな。
戦いはアルビオン軍の大勝利であった。
最早陸軍は全て失われたと思われたアルビオン軍であったが、反乱軍より寝返って来た軍の勢いは凄まじく、
戦意と統率に欠く反乱軍を次々撃破していった。
空軍はより早い段階で決着がつき、ワルド率いるトリステイン空軍と、
やはり寝返ってきた反乱軍の戦艦とが地上に猛攻撃を仕掛け、
抗するすべの無い反乱軍は散り散りになり戦場を去って行った。
ウェールズはワルドと共にあり、寝返りを表明してきた各軍に適切な指示を送り続け、
トリステインとアルビオン軍は常時密な連携を欠かさなかった。
最後の敵が退却するのを見たウェールズは、そこで初めて意識を失いかけるが、
ワルドの勧めにも関わらず後処理までもを引き受け続ける。
寝返って来た軍も、ワルド達トリステイン空軍も、全てがハヴィランド宮殿に入城し、戦の後始末にかかる。
その段になってようやくルイズ達は目を覚ました。
城の中で休息をという言葉を断り、負傷者の運搬や瓦礫の撤去を手伝うルイズ達一行。
ふと、ルイズはそこでありえぬものを見てしまった。

人影の無い納屋の裏で、しくしくと涙を溢すのは、誰あろう鬼姉エレオノールであった。
「わ、私は……何の役にも立て無かった……貴方はあんなにも勇敢であったというのに……」
エレオノールの前で微笑を浮かべているのは、ルイズも記憶にあるギーシュの兄、ミスタ・グラモンである。
「いいえ、いいえ、貴女をお守りする事こそ私の使命でした。
 それを見事果たせたのです。どうか、涙ではなく賛辞でお迎え下さい」
「貴方は立派だったわ。グラモン家の名に恥じぬ素晴らしき働きを見せてくれました……
 ですが、私にはもう……ヴァリエールの名を名乗る資格なぞ……」
「お止め下さい。私を戦場に駆り立てたのは他ならぬ貴女です。
 ならば私の働きは全て貴女のもの。全ての武勲は貴女の為にこそあるのです。
 もし貴女さえお許し下さるのであれば……」
そこでミスタ・グラモンはエレオノールの、涙の滴る顎を片手で引き上げ、瞳をまっすぐに見つめる。
「これ以後も、いや我が生涯の全てを賭け、貴女をこの手で守らせて下さい」

こーれーはーなーにーごーとーよー、とばかりに大口を開けるルイズの肩をちょんちょんと叩く者が居る。
「ルイズ、邪魔しちゃ悪いよ」
泥まみれで普段の小奇麗さなど何処にも見られなくなっているが、それは、学友のギーシュであった。
「ギー……」
ルイズが思わず声を張り上げそうになるのを、ギーシュは手で覆って止める。
状況を理解したルイズはギーシュと共にこの場を離れた。
「いやぁ……びっくりだわ。まさかお姉さまとアンタん所のが……
 ねえ。というかそもそも何でギーシュがここに居るのよ」
随分疲れた様子であるが、それでもギーシュは快活に笑う。
「兄上の件は僕も知らなかったから驚いたよ。それで僕がここに居る理由は聞かなきゃわかんないかい?
 君に負けない為に決まってるじゃないか。こっちこそ君がここに居るなんて、
 しかもあの奇跡の突撃隊の中に居たなんて僕の方が驚いたよ」
「奇跡?」
「そりゃそうだろ! たった三百で五万の敵に斬り込んで、

 あまつさえ大将クロムウェルを討ち果たしたなんて奇跡以外の何だっていうんだ!」
ルイズは燦と二人だけでやるつもりだったのだが、やってみた感想として、
絶対無理だったとわかったので黙ってる事にした。
「まあ奇跡でも何でもいいけどね。アンタも少しは役に立ったの?」
ギーシュは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……あれだけの武勲を立てた君の前で、役に立ったなんて口が裂けても言えるもんかい」
そう謙遜するギーシュだったが、ルイズはギーシュの表情に何かふっきれたような清々しさを感じ、勢い良く肩を叩く。
「その辺は後でゆっくり聞かせてもらうわ。しかしアンタも馬鹿よね、わざわざこんな危なっかしい所に来るなんて……」
少し距離が出来た、そう感じていたギーシュが再び近くまで戻ってきたようで、ルイズは凄く嬉しかったのだ。

がらがら声しか出なくなってしまっている燦に、タバサが声をかける。
ちょうど負傷者運びが一段落した所だったので、燦も一息ついた。
「サン、泉の妖精との約束覚えてる?」
「ん? あああれじゃろ、アリーデベルチの指輪探し」
「アンドバリの指輪。多分、これだと思う」
そう言ってタバサが懐から取り出したのは、禍々しく輝く指輪であった。
「ほへー、タバサちゃんいつの間に見つけたん?」
「クロムウェルって名前、後で考えたらあの男しか居ないと思った。実際、明らかに高い魔法の力を感じる指輪つけてたし」
「そっか~、私全然思い出せんかったわぁ。ありがとタバサちゃん」
タバサはあの場でクロムウェルの事を思い出し、魔法感知の魔法を使っていたのだ。
それで指輪を見つけたのだが、実はタバサが手に入れていた物はそれだけではなかった。
すぐ側に倒れていた遺体からとんでもない量の魔法の力を感じ取ったタバサが、
これは何事かと懐を漁ってみると出るわ出るわ。
夥しい数の魔法の道具がそこにあり、これ幸いと全部かっぱらってきたのである。
倒れていた遺体はシェフィールドという名であり、
魔法のアイテムを鑑定する能力を持つガリア国ジョセフ王の側近であったのだが、当然そんな事わかるはずもなく。
タバサは後で学園にでも持っていって調べるつもりであるようだ。
本来アルビオン軍にこそその所有権があるのだろうが、
下手にそんな話を出してアンドバリの指輪まで持っていかれては面倒なので、
タバサはぜーんぶネコババするつもりであった。
全くもってヒドイ話である。何時ぞや学園の宝物庫から槍を盗んで以来、
タバサはその辺の感覚がずれてきているのかもしれない。



反乱軍は最早組織立った抵抗は望めないだろう。
そういった結論が出るのに、さしたる時間は必要無かった。
ウェールズは、集まった諸侯、といっても大半は魔法により裏切りを強要されていた貴族であるが、達とそんな相談をしていた。
ウェールズと共に突撃に参加した貴族は、まだほとんどがベッドから動けぬ状態であったのだ。
結局、突撃に参加したもので最後まで生き残ったのはたったの五十人であった。
彼らは『奇跡の五十勇士』と呼ばれ、アルビオンで長く語り継がれる生きた伝説となる。
無論残党はそこかしこに居よう。寝返り貴族達は汚名を少しでも晴らすため、我こそはとその討伐に名乗りを上げる。
だがウェールズは、それよりも国内に内乱の集結を宣言する事こそ先決だと語る。
それに新たなアルビオン国の体制も整えなければならない。
最後までウェールズに従った者達の居ない場で、それを決する事など出来るはずもないのだが。
現在心労からまともに政務を執る事も出来なくなった父に代わり、それら全てをウェールズが処理しなければならない。
寝ている暇など無いのである。
せめて奇跡の突撃に加わった勇者達が起きるまでの間だけでも残党の討伐を行わせてくれと懇願する貴族達に、
ウェールズは抗しきれず彼らの出撃を許す。
大層騒々しい彼等が去った後の会議室で、ウェールズは大きくため息をついた。

「あー! こんな所に居たわね! 全く、このクソ忙しい中会議だなんだと意味の無い事を!
 さっさとこの書類に判寄越しなさい!」
無礼極まりない口調でそう怒鳴りつけるのは、元、というか現役盗賊マチルダである。
乱暴に目の前のテーブルに放り出した書類には、トリステインに借りる事になった治療薬やら運搬の費用やらの纏めと、
今後必要になるであろう各種資材の借受証書であった。
「これは?」
問い返すウェールズに、激昂するマチルダ。
「はあ!? 見てわかんないの! これ出さなきゃトリステインに物借りらんないでしょ!
 それとも一から十まで連中に指揮させるつもり!? 後になって法外な額ふっかけられて困るのはアンタ達でしょうが!」
「い、いや確かにそうだが……しかし、そもそもこの額とて返すアテなど無いぞ」
今度は激昂どころではない、視線だけで射殺されそうな勢いで睨みつけられる。
「そんなのアルビオンの商人に借りればいいじゃない! 他所の国に借金するよりよっぽどマシでしょうが!」
大事な経済に関する事である。ウェールズも当然ある程度は知識があるが、専門で任せていたものはとうに戦死している。
後ずさりながらウェールズは答える。
「しかし、利に聡い彼等が果たして今のアルビオンに金を出すかどうか……
 力づくでの徴収は後々考えれば避けるべきだと思うのだが」
マチルダは今度はがくんと首を落とす。思いっきり失望させたらしいというのがありありとわかる。
「……もう面倒だから、アンタの知ってる商人誰でもいいから城に呼び寄せなさい。
 それでそいつに資材調達は全部任せる。一日でも早くそうしないと、資材も薬も人も集まらないし、
 後になって馬鹿みたいに金取られるハメになるわよ。当座の分は私が何とかするから」
この緑髪の女性に後を任せたら、援軍があったとはいえ、城を最後まで守り抜いてみせたのだ。
とんでもない女傑だとは思っていたが、案の定、大層勢いのある女性であった。
主たる者以外には伏せてあった事だが、
城には運命を共にしようとしていた現国王にしてウェールズの父ジェームズ一世が残っていたのだ。
王の命は彼女の尽力によって守られたといっても過言ではない。
「君は随分と経済に長けているようだし、別の商人ではなく、
 もし良ければ君に金銭管理を託したいと思うのだが……
 無論結構な重要ポストであるし、後で最高責任者は別に立てようとも思うが、
 君の立てた武勲を考えればこの程度の人事は問題無く行えると思うのだが……」
マチルダは、何を言ってるんだこの馬鹿はといった顔で見返している。
「はあ? 疲れすぎて起きたまま寝言言うようになったの?
 どうせあんた私の名前だって知らないんでしょうが、そんなのに任せていいポストじゃないわよそれ」
「名前は今聞くさ。混乱する最中でここまで気が回る君なら、きっと見事にやっていけると思うんだが」
鼻を鳴らすマチルダ。
「冗談でしょ、何だって私がアルビオン王家の為になんて働かなきゃなんないのよ。
 ……まあ、資材と人の調達はすぐにでもやらないと怪我人の半分が棺桶行きだからやるけどさ。
 それ以外なんて知った事じゃないわね」
とんでもない事を平然と言うマチルダに、ウェールズは頷いてみせる。
「嫌だというのなら無理強いはしたくない。が、今は何せ人が居なさ過ぎる。
 アルビオン商人に金を借りる件も含めて君にお願いしたいのだが、やってはくれないだろうか。
 無論今回の武勲含めた充分な報酬は用意しよう」
「ふん、その金が無くて困ってるんでしょうが」
そう言って鼻で笑うが、少しウェールズから視線を逸らしながらマチルダは言った。
「ま、まあ、ここまで苦労して報酬ゼロだなんてやってらんないし、
 とりあえずアルビオン商人達から金借りるぐらいはやってあげるわよ」
ウェールズは嬉しそうに笑う。
「ありがとう、助かるよ」
「ふんっ! ああ、それと……」
「ん? 何だい?」
「アンタ今すぐベッドに入りなさい。顔が土気色してるわよ。

 倒れても誰も面倒見てる暇無いんだから、自分でその辺は管理しなさい」
吐き捨てるように言い放ち、ずかずかと会議室を後にするマチルダ。
彼女の気風の心地よさに笑みを浮かべながら、ウェールズは自室に戻って睡眠を取る事にした。
気絶するようにベッドに倒れ込みながら、ウェールズは彼女の名前を聞き損ねた事を思い出し、
ああ、しまったと思いながら意識を失った。



今日もまた一日が終わり、キュルケは疲れ果ててベッドに倒れ込む。
ここ数日は猫の手も借りたい程の忙しさであった為、キュルケもひたすら手伝いに忙殺されていた。
疲れきって眠るのだから、夢を見る余裕も無いだろう。そんな淡い期待は簡単に打ち砕かれ、やはり今晩も夢を見る。
戦が終わって直後にぶっ倒れた時は、気が付いたらエライ時間が経っていて夢どころではなかったのだが、
それ以降は毎夜のごとく夢を見続けていた。
焼け爛れた肌を無残に晒す遺体の群。
その中で、キュルケは何をするでもなくただ立ちすくむ。
あまりに凄惨な世界に嫌気が差し、走ってこの場を逃れようとしても、何処までも遺体の群は続いていく。
全てを諦め、足を止めたキュルケが自身の手を、足を、体を見やると、
キュルケ自身もまた、無残に焼け爛れた肌を晒している事に気付く。
そこで目が覚める。
汗だくの全身を煩わしげに起し、窓の外を見るとまだ夜明けは遠い。
「他の連中も、こんな夢見てるのかしらね……」
ルイズから聞いた話では、燦も夜はヒドイらしい。
何度も悲鳴を上げて目を覚ましては、その度ルイズが宥めて寝かしつけるといった事を何度も繰り返しているそうだ。
ルイズも言葉を濁してはいたが、あまり良い夢は見れていないらしい。
隣に寝るタバサを覗き込むと、無表情な顔そのままに安らかな寝息を立てている。
どうもこの子だけは特別製らしい。羨ましいやら、腹が立つやら。
しかしタバサのこれまで送ってきた半生を考えるに、そのぐらいの楽はさせてやりたいとも思う。
百の兵を一撃で屠る究極の炎魔法『爆炎』、その名に僅かな誇張も無かった。
この戦でキュルケの魔法にかかって倒れた兵は、それこそ百では効かないであろう。
一生こんな悪夢に苛まれるかと思うとぞっとするが、それでも後悔は無い。
あの時飛びださなかったらどうなったか何て、それこそ想像するのも恐ろしい。
さっさと慣れてもらわないと身が保たないと思う反面、
これに慣れてはいけないのではないだろうかとも思えるキュルケは、
今日もまた、悪夢を見るとわかっているベッドに横たわる。
この夢は殺人への忌避故見ているのか、死への恐怖故見ているのか、キュルケにもわからなかった。



忙しい最中であったが、脱出していた女子供達がハヴィランド宮殿に戻ったと聞いて、
マチルダはすぐに彼女達の元へと向かった。
喜びと困惑が交錯しながら船を降りてくる女子供達。
その中で、脱出組を実質統率していた二人の女性はマチルダの前で神妙な顔をしていた。
謝罪なぞで許されるはずもない。マチルダ達を見捨てたのは他でもない彼女達の決断なのだ。
しかし、マチルダは彼女達より先に口を開く。
苦渋の決断を下したであろう二人に、頭を下げながら。
「……ごめん。本当はあの決断は、王子から任された私がしなきゃならなかったのに……
 ごめん、辛かったでしょ……本当に、ごめん」
心底からそう悔やんでいるマチルダに、二人の女性は謝罪の言葉を封じられる。
だから二人は、代わりに別の言葉でこの人に応えようと思った。
「復旧の指揮、お願い出来ますか。何でも言いつけて下さい。
 私達城の女共は、貴女に命じられたのならどのような事でもやってみせますから」
「ぐすっ、ひっく……わたし、何でもするからねっ……何でも言ってね」
言葉を交わしたのは数える程だ。

それでもマチルダは、この二人と、そして城の女子供達と、万の言葉で語り合ったかのような絆を感じるのだった。



ルイズ達は一週間程ハヴィランド宮殿で復旧作業の手伝いをしていたのだが、
魔法学院よりの手紙が届いた為、急遽引き上げる事になった。
ワルド率いるトリステイン軍ですら、事後処理や王都の兵力不足を補う目的で滞在しているというのにである。
ちなみにミスタ・グラモンの単独先行は、ワルドの配慮で先遣隊であったという扱いを受け、
彼等の働きはトリステイン軍における正式な武勲として認められる事となった。
ミスタ・グラモンは部下への報酬含め全て自腹でこなすつもりであったので、最初は丁重に断ったのだが、
実はこの処遇、エレオノールがワルドに泣き付いて(というか脅して)得たものであったとわかると、
ミスタ・グラモンは苦笑しながらエレオノールとワルドの配慮を受け入れる事にした。
ルイズがウェールズに急用につき退出する旨を伝えると、ウェールズは快くこれを許可する。
そもそもルイズの行動を縛る権限なぞウェールズには無かったのだが、
ルイズ達が特攻部隊に居た事を後付けで整えるため、
便宜上ではあるがルイズ達はウェールズ配下という扱いになっていたのだ。
トリステイン本国からは、落ち着き次第城に出頭するよう言われており、これらに内緒での出立である。
ウェールズは何とか見送りの宴をと勧めたのだが、以上の理由により四人は丁重に断り、密かにハヴィランド宮殿を出た。
ちなみにマチルダの件は、見事城を守った功により見逃してやると相成った。
というか、マチルダもまた救国の英雄並の活躍をしてしまった為、殺すに殺せなくなったというのが本当の所であるが。
盗賊の件黙ってる代わりにロングビルとして存在した過去全て忘れろ。
そしてトリステインには来んなと硬く命じて解決となったわけである。

ワルドはアニエスよりの報告を受けルイズに手紙の事を確認すると、特攻の前に全て燃やしたという返事が返ってきた。
当然といえば当然であろうが、それを誰も見ていないので証明出来る者はルイズしかいない。
それでもワルドはルイズの言葉を信じる事にした。ここで嘘を言う理由も無かろうし。
アニエスは大層恐縮しきった顔であったが、ウェールズより王が城に居た事を聞いていたワルドは、
その労をねぎらい、良くやったと褒め称える。
実は現在のアニエスの立場も非常に微妙な形になっていた。
本来ワルド配下であるのだが、ルイズ達をウェールズ指揮下にした時、
同行していたアニエスも一緒にウェールズ配下であると処理してしまったのだ。
非常に良い関係を築けたウェールズとつまらない事で揉めるのも何なので、
ワルドはアニエスに今の所は現状のままウェールズ揮下として振舞うよう指示する。
ちなみにワルド子爵は、ここで現場の指揮を執るのと同時に、本国に偏在を飛ばして事後報告と様々な処理を行っている。
メンヌヴィルとの一件で、何だかんだと増えたワルドを見ていた人間も居たようで、
隠している意味が無くなってしまったのだ。
もちろん、アホみたいに遠いトリステインに偏在飛ばすのも一苦労なので、何体もあっちこっちと出してる余裕は無いが。
本国はエライ騒ぎらしい。
当然であろう。有力貴族のほとんどが蚊帳の外で出兵してしまっているのだから。
しかし大貴族の一つヴァリエール公爵家が早々に王家への指示を表明してくれた為、
何とかマザリーニ卿も持ちこたえているらしい。
これはエレオノールが約束を守ったというだけではなく、王家への借りを返したというだけでもなく、
そもそもヴァリエール家の娘が奇跡の突撃に参加しているのだ。
これで家は反対だなどと言っても説得力の無い事甚だしい。
本国では「流石はヴァリエールよ、素晴らしい娘をお持ちだ」という賛辞と
「抜け駆けしおってヴァリエールめが」という影でのやっかみが入り混じっている模様。
当主の苦労が偲ばれる。
まあ、あちらはあちらで面倒事もあるのだろうが、ロンディニウムはロンディニウムでまた面倒な事が山積している。
各地に散った反乱軍崩れによる暴力事件。集団をなしている事も多い為、厄介この上ない。
そしてようやく動き始めた新アルビオンの人事。
何せ元居た主力貴族が軒並み戦死、あるいは寝返ったまま終戦を迎えてしまった為、
役割に見合った人物を見つけ出すのに四苦八苦しているそうだ。
何でもウェールズ皇太子はその中に氏素性も知れぬ人間を登用しようとしているらしい。何を考えているのやら。
根を詰めすぎたせいか目がぼやけてきたワルドは、気分転換に窓を開いて外の景色を眺める。

思ったよりアルビオン王国には求心力があったらしく、各地から続々人間が集ってきている。
忘れた頃に山ほど利子をつけて返してもらおうと思っていた様々な物資に関しても、
正確な量を記載した借用書を突き出してきた。
これらを指揮しているのはマチルダという名の女性らしいが、ワルドは間が悪いのかまだ一度も会った事が無い。
実はアニエスからの助言で、ワルドもまたマチルダの事をアニエスがそうであったように誤解するであろうから、
出来るだけ顔は合わせない方が良いと言ってあったのだ。
そんな事情など露知らぬワルドは、アルビオンにもまだまだ人材は居るのだなと感心しているだけだった。
空の彼方に目をやると、戦の事などとうに忘れ去ったかのような青空が広がる。
ふと、ワルドは婚約者殿の事を思い出していた。
「アレはもう道具としては見れんな」
お互い忙しすぎたせいか、戦の後もほとんど顔を合わせる事は無かったが、
一声交わす程度の挨拶をした時に見たルイズの姿は忘れられない。
たかが学生などととんでもない。
目の前に立っているだけで戦慄が走る程の、途方も無い化け物だ。
アルビオンの兵士達が、城の者達が、ワルドの部下達が、応援に来たアルビオン市民達が、
全ての者がごく自然に敬語で接する。
対等に話をする者なぞ、ごく近しい友人か、ウェールズやワルドぐらいのものである。
年齢だの性別だの、そんな事がまるで気にならぬ程、彼女の存在感は凄まじかった。
まるで物語の中からそのまま飛び出してきたような、英雄譚の登場人物そのものを見るようである。
ワルドは自身の為した業績を過小評価はしていない。
あの戦いにおいて、ワルドが勝敗を引っくり返す程の働きをしたのは間違いない。
しかし彼女が為した無茶は、他の誰一人真似出来るようなものではなかった。
それを押し通してしまうのが、英雄と呼ばれる存在なのであろう。
「五万の大軍相手に、使い魔とたった二人で斬りこむ……か」
挙句それを見たアルビオン兵が奮い立ち、僅か三百の兵で五万騎を突破し、
大将クロムウェルの首を上げるなど、まるで始祖ブリミルの物語のようではないか。
僅かに身震いする。
恐れからではなく、興奮と歓喜が体中を貫いたのだ。
「そうか……今は、ここは、始祖の冒険に匹敵する物語の中なのだな……
 そんな激動の時代に、私は生を受けたというのか……」
一人の武人として、栄達を夢見る野心家として、こんなに喜ばしい事があろうか。
疲れなど一瞬で消し飛んでくれた。

いいだろう。ならば世界中に思い知らせてくれる。ルイズにも、ウェールズにも私は負けぬ!
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドの名を世界中の者に刻み込んでくれるわ!



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