ルイズとマティウスが寮の部屋を出たのは、他の生徒に比べて随分と遅かった。
目を覚まし「*ゆかのうえにいる*」ことに気がついたルイズは、即座にマティウスを叩き起こし、
使い魔のありかたというものについて改めて説教を行ったのだ。もちろん、皇帝陛下に全く反省した様子はない。
この調子では明日の朝も、床の上で目を覚ますことになるかもしれない。
使い魔のありかたというものについて改めて説教を行ったのだ。もちろん、皇帝陛下に全く反省した様子はない。
この調子では明日の朝も、床の上で目を覚ますことになるかもしれない。
そんな無駄な説教を終えて気づいてみれば、間もなく授業が始まる時間だ。
のんびりと食堂で朝食を食べている暇はない。
のんびりと食堂で朝食を食べている暇はない。
「マティ、授業に行くわよ!!」
ルイズは己の使い魔に声をかけ、急いで部屋から出る。今日の授業は必然的に使い魔のお披露目を兼ねている。
数日前のルイズの予定ではこの日の自分は凛々しいグリフォンや勇猛なドラゴンを従えており、皆を見返すはずだったのだが、
後ろからついてくるのは、自称元皇帝という問題児…ならぬ問題魔だ。
数日前のルイズの予定ではこの日の自分は凛々しいグリフォンや勇猛なドラゴンを従えており、皆を見返すはずだったのだが、
後ろからついてくるのは、自称元皇帝という問題児…ならぬ問題魔だ。
一方のマティウスとしても、この世界の情報が手に入る機会を逃すつもりはない。
新たな魔法の知識が増えることは喜ばしいことだ。
現在行使できる魔法とこの世界の術式とを組み合わせれば、新たな魔法も開発できるかもしれない。
新たな魔法の知識が増えることは喜ばしいことだ。
現在行使できる魔法とこの世界の術式とを組み合わせれば、新たな魔法も開発できるかもしれない。
そんな2人が教室に入ると、他の生徒たちが一斉にルイズとその使い魔に注目する。
もっとも、注目されることに慣れ切っているマティウスは、視線の集中砲火を然して気にする様子でもなく、
そのまま適当に空いている椅子に腰を下ろす。
豪華な衣装をまとったマティウスが、小さな椅子に座っている様子はいささか奇異な光景だ。
もっとも、注目されることに慣れ切っているマティウスは、視線の集中砲火を然して気にする様子でもなく、
そのまま適当に空いている椅子に腰を下ろす。
豪華な衣装をまとったマティウスが、小さな椅子に座っている様子はいささか奇異な光景だ。
「おい、あれがルイズの…」
「貴族っぽいけど…ホントに平民なのか?」
「メイジじゃないらしい」
「しかし、平民を召喚するなんて流石はゼロだな」
「貴族っぽいけど…ホントに平民なのか?」
「メイジじゃないらしい」
「しかし、平民を召喚するなんて流石はゼロだな」
他の生徒達はルイズとマティウスを中心として遠巻きに囁き合っている。
確かに、教室にいる数多くの使い魔と見比べると、改めてマティウスの異常さがわかる。
犬や鷹に始まり、火トカゲや竜に似た姿の幻獣までいるが、当然人間などいない。
そんな他の生徒の使い魔たちを見て、ルイズは無表情のまま わずかに目を細める。
その時、一人の女生徒が囁き合う生徒らを押しのけながら、マティウスに向かってきた。
確かに、教室にいる数多くの使い魔と見比べると、改めてマティウスの異常さがわかる。
犬や鷹に始まり、火トカゲや竜に似た姿の幻獣までいるが、当然人間などいない。
そんな他の生徒の使い魔たちを見て、ルイズは無表情のまま わずかに目を細める。
その時、一人の女生徒が囁き合う生徒らを押しのけながら、マティウスに向かってきた。
「アナタがルイズが召喚した使い魔さん?」
マティウスに声をかけた彼女の名はキュルケ。隣国ゲルマニアからの留学生である。
燃えるような赤い髪に真紅の瞳、褐色の肌を持つ美女だ。
彼女の実家のツェルプストー家は、ルイズの実家であるヴァリエール家と国境を挟んで隣接しており、
トリステインとゲルマニアの戦争ではしばしば杖を交えた間柄でもある。
二つ名は「微熱」であり、その名の通り火の系統魔法を得意とする。
燃えるような赤い髪に真紅の瞳、褐色の肌を持つ美女だ。
彼女の実家のツェルプストー家は、ルイズの実家であるヴァリエール家と国境を挟んで隣接しており、
トリステインとゲルマニアの戦争ではしばしば杖を交えた間柄でもある。
二つ名は「微熱」であり、その名の通り火の系統魔法を得意とする。
「マティウスだ」
キュルケの問いに名を名乗ることで返答するマティウス。
流石にそこは美女を100人単位で侍らせてきた皇帝陛下だ。
美女1人を前にしても、その冷たい表情には変化がない。
流石にそこは美女を100人単位で侍らせてきた皇帝陛下だ。
美女1人を前にしても、その冷たい表情には変化がない。
「ちょっとキュルケ、人の使い魔に何か用なの?」
ルイズが横から割って入る。何しろキュルケは家系レベルの敵である。
そんな相手から使い魔にちょっかいを出されて黙っていてはヴァリエールの名が泣くというものだ。
そんな相手から使い魔にちょっかいを出されて黙っていてはヴァリエールの名が泣くというものだ。
もっとも、ここで引き下がるキュルケではない。
「だって、素敵なお方じゃない?ルイズにはもったいないんじゃないかしら」
「こんなヤツ、ちっとも素敵なんかじゃないわよ!!」
「こんなヤツ、ちっとも素敵なんかじゃないわよ!!」
主人を床に寝かせる使い魔を「素敵」と評するのは間違いだと言わんばかりに否定するルイズ。
その騒ぎ立てる様子はいつも通りの「ゼロのルイズ」だった。
周囲の生徒もキュルケとルイズの「日常」を半ば呆れつつ見守る。
話題の中心のはずの皇帝陛下に至っては見てすらいない。
その騒ぎ立てる様子はいつも通りの「ゼロのルイズ」だった。
周囲の生徒もキュルケとルイズの「日常」を半ば呆れつつ見守る。
話題の中心のはずの皇帝陛下に至っては見てすらいない。
「それじゃね ミスター・マティウス」
そう言い残し、ひとしきりルイズとの「日常」を繰り広げたキュルケが立ち去ったのと教師が教室に入ってきたのはほぼ同時だった。
他の生徒たちも慌てて席に向う。ガタガタと椅子を動かす音が教室に響いた。
入ってきた教師の名はシュヴルーズ。「赤土」の二つ名を持つ土のトライアングルメイジである。
彼女は教卓から教室を見渡し、満足そうな笑みを浮かべた。
他の生徒たちも慌てて席に向う。ガタガタと椅子を動かす音が教室に響いた。
入ってきた教師の名はシュヴルーズ。「赤土」の二つ名を持つ土のトライアングルメイジである。
彼女は教卓から教室を見渡し、満足そうな笑みを浮かべた。
「毎年、この時期になると皆さんの立派な使い魔を見るのが楽しみです。」
彼女はそのまま視線を滑らせ、マティウスの姿を捉える。
「なんだか珍しい使い魔を召喚された方もいるようですね」
シュヴルーズもすでにマティウスの噂を聞いていたのだろう。
何も知らなければ、使い魔どころかどこぞの貴族が授業に紛れ込んでいるようにしか見えないはずだ。
もっともマティウスがメイジではないと思っているクラスメイトは、
「平民にも衣装ってヤツだな…見た目は貴族だよ」などと囁き合っている。
何も知らなければ、使い魔どころかどこぞの貴族が授業に紛れ込んでいるようにしか見えないはずだ。
もっともマティウスがメイジではないと思っているクラスメイトは、
「平民にも衣装ってヤツだな…見た目は貴族だよ」などと囁き合っている。
「それでは、授業を始めますよ」
シュヴルーズの授業の間、マティウスは無表情のままで顎に手を添えて椅子に座っていた。
真面目に教師の話を聞いているところをみると、得られる情報は余さず得るつもりなのだろう。
真面目に教師の話を聞いているところをみると、得られる情報は余さず得るつもりなのだろう。
シュヴルーズの説明によるとこの世界の魔法は彼の居た世界とは随分と異なる構成だという。
その系統は『火』『水』『土』『風』の4つに分かれているらしい。
その系統は『火』『水』『土』『風』の4つに分かれているらしい。
授業の中で、シュヴルーズは『土』の系統魔法である『錬金』を行ってみせた。
彼女は杖をひと振りし、ただの石を金色の光沢を持つ真鍮に変化させたのだ。
彼女の言葉によると、トライアングル程度では金を錬金することはできないらしいが、スクウェアクラスになれば可能だという。
彼女は杖をひと振りし、ただの石を金色の光沢を持つ真鍮に変化させたのだ。
彼女の言葉によると、トライアングル程度では金を錬金することはできないらしいが、スクウェアクラスになれば可能だという。
「では、実際にやってもらいましょう。 えー、では…ミス・ヴァリエール」
シュヴルーズがそう言った途端、ほんの一瞬 教室の時間が止まった。
そしてすぐに教室の空間が緊張で満ち溢れ、生徒がざわざわと騒ぎ始める。
そしてすぐに教室の空間が緊張で満ち溢れ、生徒がざわざわと騒ぎ始める。
「はい、静かに。
では、ミス・ヴァリエール。この小石をあなたの望む金属に変えてみてください。」
「はい」
では、ミス・ヴァリエール。この小石をあなたの望む金属に変えてみてください。」
「はい」
ルイズの返答とともに、教室がどよめいた。
少し離れた席に座っていたキュルケが手を上げて発言する。
少し離れた席に座っていたキュルケが手を上げて発言する。
「先生、危険です。」
「危険?何故ですか?」
「彼女の魔法をご覧になるのは初めてですよね?」
「ええ。ですが、彼女が努力家と言うことは知っていますよ。
失敗しても構いませんから、やってみてください。」
「危険?何故ですか?」
「彼女の魔法をご覧になるのは初めてですよね?」
「ええ。ですが、彼女が努力家と言うことは知っていますよ。
失敗しても構いませんから、やってみてください。」
その言葉を受けて、前に進むルイズ。
他の生徒たちは机から立ち上がりつつある。
他の生徒たちは机から立ち上がりつつある。
(呼んだのはあんなヤツだけど、召喚には成功したんだから…
だから、きっと成功するわ…きっと…)
だから、きっと成功するわ…きっと…)
何度も自分に言い聞かせながら、教卓の前に立つ。
心臓がドキドキしている。乾いた唇を舐めて湿らせる。掌に汗をかいているのがわかる。
心臓がドキドキしている。乾いた唇を舐めて湿らせる。掌に汗をかいているのがわかる。
マティウスも何が始まるのかとルイズに視線を向けている。
すでに彼女が無能者だとは見当がついている。
だが、周囲の慌て方を考えると、どうやらただの無能者ではないようだ。
すでに彼女が無能者だとは見当がついている。
だが、周囲の慌て方を考えると、どうやらただの無能者ではないようだ。
その答えはルイズが杖を振り下ろすとともにやってきた。
爆音と閃光。そして衝撃。
マティウスは「ほぅ」と思わず声を出していた。
純粋な魔力の爆発。エネルギーの変換効率もその変換速度も申し分ない。
純粋な魔力の爆発。エネルギーの変換効率もその変換速度も申し分ない。
通常、魔法で相手を殺傷する場合は魔力を何らかの形に変換しておこなうものだ。
炎であったり、稲妻であったり、場合によっては核反応であったりする。
それによって威力や扱い易さが変化するわけだが、ルイズの引き起こした爆発は、
純粋に魔力を爆発させたもので、無駄がなく、何よりも速度に優れていた。
炎であったり、稲妻であったり、場合によっては核反応であったりする。
それによって威力や扱い易さが変化するわけだが、ルイズの引き起こした爆発は、
純粋に魔力を爆発させたもので、無駄がなく、何よりも速度に優れていた。
(無能者と思っていたが、これは逸材かもしれぬ)
錬金が失敗したことはどうでもよかった。
あの現象を引き起こすには、かなり高純度な魔力を扱う必要があるのは明らかだ。
あの現象を引き起こすには、かなり高純度な魔力を扱う必要があるのは明らかだ。
興味を失いかけていた召喚主に、思わぬ才能を発見したマティウスはニヤリと笑った。
その何らかの企みを秘めたような妖しい笑みは、爆発によって舞い上がった粉塵に隠れ、誰も見ることはなかったが。
その何らかの企みを秘めたような妖しい笑みは、爆発によって舞い上がった粉塵に隠れ、誰も見ることはなかったが。