あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズとヤンの人情紙吹雪-05


猛ダッシュ!
ずざざざぁ~~~~~~~。
「ゼェッゼェッ……な、なんとか間に合ったわね…」
ルイズは肩で息をしている。大層、疲れたみたいだ。
一方のヤンはケロッとしている。
呼吸の乱れはおろか、汗の一滴もかいていない。
「ハァハァ…あ、アンタ結構体力あるのね……あんなに走ったっていうのに…ハァ…ゼェ……」
「ん~~まぁーな その気になりゃもっと速ぇーぜー 眼ン球に写んねーくらいにはよォーー……ククッ」
「ハァ… はいはい…いいから入るわよ」
ヤンのいつもの冗談と聞き流してルイズはヤンを促す。
スルーされたことにヤンもさして関心を見せず、二人は塔に入る。
塔はどうやら教室であり、いわゆる大学の講義室のようになっている。
中には生徒達と共に、大小様々な使い魔と思しきモノ達がいた。
入った瞬間、学生達の視線が二人に纏わりつく。
その視線は明らかに侮蔑と嘲笑が込められていた。
教室のあちらこちらからクスクスと哂い声が聞こえてくる。
(……………ん~~~? なんだ? ムカつくなコイツら)
ヤンは不快だったが、ルイズは何事も無かったかのごとくスタスタと歩いていき席に腰掛けた。
ルイズを早足で追いかけ問いかける。
「おい、ルイズ いいのかよコイツら?」
「…なにが?」
シレッと答える。
「なにがって……オメェ気付いてる? なんだかバカにされてるみたいよ? 俺ら」
「………こんなの…気にしたことも無いわ。 アンタも無視しなさい……」
ルイズは無表情に言い放つ。
しかし、ヤンは彼女の握り締められた両の手が僅かに震えているのを見ていた。
「……ふーん まぁイイけどな……」
ヤンもそれ以上突っ込まず、彼女の隣に座る。
(…こういうのには慣れっこってコトか……確かコイツ、「公爵家の令嬢」なんだったよな? えーと、公爵っていえば…
……ドンぐらい偉いんだっけ? あーーーー……まぁ偉いんだろうな そんな家のヤツが何でイジメられるんだ? 貴族様も大変だなーー)
ルイズに対する嘲りの態度が強まったのは、ヤンという平民を召喚してしまったせいなのだがヤンには関係の無いことだった。
ヤンはぽけーっとしていたが、ふと自分に向けられている視線に気付く。
他の連中とは少し質が違う視線だ。
視線の主は1匹と2人。
1匹はフレイム。こちらを警戒し脅えているようだ。興味ネー、シカトだ。
1人はその主、キュルケ。使い魔の気苦労も知らず、熱のこもった視線を投げかけている。うむうむ、愛い奴だ。ウインクでも返してやるか。
お!向こうもウインクした。うむ、愛い奴だ。いずれタップリ可愛がってやるか。ぐふふ。
そして最後の1人はキュルケの隣に座っているメガネをかけた青髪の少女。……こいつは……俺を警戒してる…のか? 俺に「気付いて」る?
…まさかな…ばれてる筈がねーー……正体隠すために性欲も食欲も我慢してんだからよォー。
だが……フレイムのバカと違ってこっちは、要注意ってとこか…。
まぁ脅威ではネーな。全然。
そんなことをヤンが考えていると、一人の中年女性が教室に入ってた。
見るからに温厚そうな、ふくよかな人物。
彼女の名はシュヴルーズ 。
学院の教師を務めており中々に人望厚い人物である。
二つ名を「赤土」といい、その名の通り土のトライアングルメイジだ。
シュヴルーズは教壇に立つと、おもむろに生徒達、使い魔達を見渡す。
「みなさん 春の召喚の儀式、成功おめでとうございました。 こうやってみなさんの使い魔を見るのを、毎年とても楽しみにしているのです」
にっこり微笑むシュヴルーズ。
「先生! ルイズはズルしてまーす! 召喚に失敗して平民を雇ってまーす!」
小太りの少年が元気良く発言する。
「ミスタ・グランドプレ そのようなことを言うものではありません」
シュヴルーズは諭すように叱責するが効果は無い。
「おい、ルイズ! 魔法が出来ないからって金で解決するなよ! 平民なんか雇って恥ずかしくないのか!」
教室中の生徒達がクスクスと哂う。
今まで黙って耐えてきたルイズはとうとう堪えきれなくなった。
勢い良く席を立ち上がり怒鳴る。
「違うわよ! 召喚は成功したわ! 出てきたのがコイツだっただけよ!」
隣に座るヤンを震えた手で指差すが、当のヤンは鼻をほじって興味無さそうにだべっていた。
その姿にルイズはさらなる恥と怒りで顔を赤くする。
今度は生徒達もあからさまにドッと哂いだすのだった。
「あははははは! 嘘つくなよ、ゼロのルイズ! どう見たってダメダメじゃないか! ゼロなんだから成功するわけが…フガッ!?」
先頭を切ってルイズを嘲っていた太っちょの口を突然、赤色の土が塞ぐ。
「学友への悪口雑言は許しません あなたはそのままで授業を受けなさい。 みなさんも、これ以上は許しませんよ いいですね?」
教室が静まり返る。
「では授業を始めましょうか。 まずは4属性の……」
浮き上がったチョークが黒板に文字を綴っていく。
授業は粛々と進んでいった。


ヤンは爆睡していた。
仕方が無かった。
だってヤンは授業とかが大っ嫌いなのだから。
だから、いつの間にかルイズが教壇の前に出て行って錬金をして大爆発を起こすなんて知りようが無かった。
キュルケが紙をくしゃくしゃにして投げ飛ばして、必死にヤンを起こそうと試みたがダメだった。
最終手段とばかりに小さな火炎球を生成しようとした。瞬間。

どごーーーーん

身を起こしていたキュルケは吹っ飛んで頭を強打。気絶。
一番近くにいた教師のシュヴルーズも全身を強打し突っ伏していた。煙が出ている。
同じく爆風が直撃したヤンは逆さまになって、かつて机や椅子であった瓦礫の山にめり込んでいた。
足が二本、キレイに突き出ている。
芸術的ともいえる刺さり方だ。
「うおぉぉぉ! スザーーーンヌ! 僕のスザンヌゥゥゥゥゥゥ!」
「いやぁ! だめぇ! わたしのホイットニー食べちゃらめぇぇぇ!」
「キャサリーン!」
「きゃあぁぁぁ! ディラン! しっかりしてぇーー!」
他にも多くの生徒が犠牲になり、爆風と爆音で混乱した使い魔達が暴れだし教室は混沌とした。
ルイズは落ち着いた様子でハンカチを取り出し顔の煤を拭っていた。
衣服はボロボロだ。出るところが出ていれば中々に官能的であったろう。
「ちょっと失敗しちゃったわね」
澄まし顔で呟いた。
「ちょっとじゃねーーーーーー!!」
「人格疑う!」
「どう見ても大惨事だろが!」
教室中から突っ込みの嵐だった。


ルイズは爆発の後、せっかく呼んだ使い魔に死なれては堪らないと慌てて瓦礫に突き刺さったままのヤンを救助した。
なにせ人生で初めて成功した魔法の証なのだ。
今のルイズを支えている矜持は、栄誉あるヴァリエールの血統ということとヤンを召喚できた、というこの二つだけ。
意識を取り戻したシュヴルーズはルイズに教室内の清掃を命じた。
魔法を使ってはならないと厳命したが、魔法を使えないルイズには意味の無いことだ。
負傷した者達(ヤンやキュルケを含む)とシュヴルーズは医務室に運ばれていった。もちろん授業は中止である。
今、ルイズは一人で教室を清掃していた。
箒で床を掃く。
ゴミを運び出す。
代わりの椅子などを運び入れる。
亀裂が入り破損した床、壁に石膏を塗りこむ。
一人で永遠、この繰り返し。
ひ弱な少女には過酷だった。
ルイズの目には涙が溜まっている。
重労働に対してのものではなかった。
不甲斐ない自分に対しての涙だった。
魔法が使えた。出てきたのはやる気を見せない平民の使い魔だが、召喚できた。できたのだ!
自分に転機が訪れたのではないか。ひょっとしたら他にも魔法が使えるようになったのではないか。
そう思って、シュヴルーズに錬金をするよう使命された時、固い決意で望んだのだった。
しかし…。
結果はいつもと同じだった。
いや、気合を入れて望んだ分いつもより悲惨なことになってしまった。
爆発に巻き込み多くの人を、特に自分の使い魔にまで怪我を負わせてしまった。
「……私って…最低だわ……」
雑巾を持って床を這いずり回って掃除する。
貴族であるにもかかわらず、こんな平民じみた惨めな姿が今の自分には丁度いい。
疲労も空腹も忘れて、ルイズは嗚咽し自嘲するのだった。



「………さい………なさい……起きなさい」
声が聞こえてくる。
その声は良く知っている者の声だ。
声に導かれ、ヤンは目をゆっくり開けていく。
「う……うぅ……こ、ここは……?」
辺りを見回す。
すぐ側で自分を見下ろしている男を見つけた。
長髪でメガネをかけ、白いスーツに身を包んだ男。
ヤンはその男を知っていた。誰よりも良く知っていた。
「あ、兄ちゃん!? 兄ちゃんじゃねぇか!」
その男は自分の兄、ルーク・バレンタインその人であった。
「そーです おまえの兄ちゃんのルークだよーーー。」
「本当かーー 本当に兄ちゃんかーーー? 本当の兄ちゃんならこれが出来るはずです。 徳川家康のモノマネーーー」
「コンバンワ 徳川家康です」(清水ミチコ風に)
「うわーーい 本当に兄ちゃんだぁーー」ブリブリ
兄弟は諸手をあげて抱き合う。だがその顔には全然、再開の喜びなど無さそうで。
むしろ視線は虚ろでやる気の欠片も感じられない。
「ところで兄ちゃん 頭についてンの何?」
「ひゃーー 良く気が付きましたね これはワンちゃんです とてもカワイイですね。 お兄ちゃんがなぜこんな姿になってしまったのか知りたいですか?」
「イラネ」ブッ
パーンパーンパーン
ブシャァーー バタ
屁をこいて否定したら銃を眉間に撃ち込んで来た。実の弟に3発も。
「嘘です すいません。 死にたくないので教えてください」ムクリ
「わかりました 殺しません。 お兄ちゃんはガンダールブの精です」
「……ハッ?」
「アーカードにフルボッコにされてワンちゃんの餌にされたのです。 その後不思議な力でガンダールブの精になりました」
パーンパーンパーンパーン
ブシャーーー ドサ
あまりにバカなことをイキナリ言うので4発ほど撃ってみた。
全部眉間に当たったぜ。銃がどこから出てきた何て野暮は無しだぜ。
「テメェーー明らかに説明飛ばしすぎだろうがーー!」
「すいません。 死にたくないので説明します。」ムクリ
「わかりました。 殺しません」
「単行本全10巻の本編の後ココに来ました。 終わり」
「短けーーーー!」
「えーー だっていいじゃないの マンガ読んでくれれば理解できることだし」ブッ
「そう言われればそうですね」ブッ
「弟よ というわけでオマエはガンダールブの使い手です。」
「ガンダールブの説明はどうした」
「言えるかバーカ。 兄ちゃんにいえることは只一つ。 オマエは一生桃色少女によって騒動に巻き込まれ続けるのだ」
「え、えーーーーーーーーー! もう確定事項なのか!? これから一生あの馬鹿女に振り回されるのか!?」
「……まーね」
「…殺す 殺すしかねぇ! 犯って殺ってヤリまくるしかねぇ!」
「うそ! うそ! 今のノーカン! なし!」
「あー? なに慌ててんだよ? 別にルイズの一人や二人殺したって兄貴に関係ねーーだろ」
「兄ちゃんはガンダールブの精なのです ガンダールブはあの子を守るんです そしてオマエはガンダールブ。 弟よ バレンタイン兄弟がルイズちゃんを
守りますとも。 さぁ現世に帰れ! さっさと帰ってルイズちゃんを慰めろ! そして大切にしろ! 元気でな!」ドガッ
ルークに蹴り飛ばされ、突如落下感に包まれる。
「う、うお! ちょ、待てぇーーーーあ、兄貴ィィィィィィィ! 全然納得いかねぇェェェぞォォォォーーーーーーーー!」
ヤンの視界は静寂の暗闇に染まった。


ガバッ!
「ッ! …………。 …………………」
ヤンは飛び起きて、辺りを見回す。
そこはルイズの部屋だった。
外傷が殆ど見当たらなかったヤンは軽い診断を受けたあとルイズの部屋に運ばれたのだった。(医務室が怪我人でごった返してしまったため)
……今のは何だったのだろうか?
只の夢だろうか。
兄のルークが夢に出てきてガンダールブがうんたらかんたらと。
……訳が分からない。だが妙なリアリティがあった。
それは確かだ。
それに兄は夢でルイズを守れだの慰めろだのと言っていた。
自分の知っている限り、兄はそんな慈善家ではない。
言うわけが無いのだ。
今までの兄なら。
…気になった。
(…まさか兄貴が夢枕にたってお告げとかよぉ~ あるわきゃねーよなーー? ……でもなーーーーあーーでもなーーーー あーーちくしょーー)
のそりとベットから降りる。
兄貴が言ったかもしれねーから仕方ねー。
ぶーたれ思いつつヤンの足取りはルイズの匂いに向かって歩き始めていた。


ルイズは未だに教室の掃除と修繕に尽力していた。
ルイズ以外誰もいない教室で独り、目を泣き腫らして黙々と作業をこなしていたのだった。
心はあらゆる自虐的な感情で埋め尽くされていた。
これが終わったら退学届けを出そう。
実家に帰って誰とも会わず静かに余生を過ごそう。
本気でそんなことを考え始めていた時、背後でコンコンっとノック音が響いた。
振り向くとそこにいたのは黒尽くめの男。
自分の失敗魔法で傷つけてしまった自らの使い魔、ヤン・バレンタインであった。
「よっ」
片手を軽く挙げ挨拶してくる。
「ヤ、ヤン!? も、もう傷は大丈夫なの!? ……い、医務室にいたほうがいいんじゃ…ない…の……?」
ルイズはまともにヤンの顔を見ることができなかった。
よほど泣いたのか、言葉は若干しゃくり上がって蚊が鳴くような小さな声だった。
それを見たヤンは、しばし思案した後……。
「バーカ テメェに心配されるほどヤワじゃねー」ゴンッ
そう言ってルイズの頭を小突いた。
「い、痛ッ!」
「ほれッ さっさと片付けるぞ」
ルイズの尻をバシッと叩くと、ヤンはさっさと机を運んだりし始めた。
「ちょ、ちょっと! レディのお尻叩くなんてどういうことよ!」
「うーるせーな たいしたケツでもないだろーがよ 言ってねーで手ぇ動かせ」
ルイズはむぅっとした顔で何か反論したげだったが渋々、作業を続けた。
そして驚いた。
ヤンは大きめな机やら何やらを片手でひょいひょい持ち上げ、まるでスキップするかのような軽い足取りで運んでいるのだ。
見る見るうちに整然と整えられていく。
今までヤンの言っていたことなど冗談として聞き流していたルイズだが、今はあんぐりと口を開けポカーンとしていた。
(す、すごい…! アイツってあんなに力があったの!?)
自分の使い魔の力に嬉しさが込み上げてきたが、それはすぐに別の感情に塗りつぶされてしまった。
優れていた使い魔を傷付け、ろくに魔法も使えない自分への侮蔑。
「………たでしょ…」
「あ?」
ルイズの呟きにヤンは一瞬、彼女を見やる。
「………………軽蔑…したでしょ………これがゼロのルイズの由来よ……魔法の成功率が0だからゼロのルイズ……言いえて妙よね……………
アンタが寝てる間に錬金の魔法をしたのよ……そしたら大爆発で……先生も…アンタも…みんなを怪我させて……偉そうにしててバカみたいねよね私…」
視界が歪む。また涙が出てきた。
言っているうちに自らへの悪感情が膨れ上がる。悪循環だった。
ルイズの独白をヤンは作業を続けながら黙って聞いていた。
「……なんとか…なんとか言いなさいよ! ……偉そうにしてた御主人様が魔法も使えないダメ貴族だったのよ!? 言いたいこととかあるでしょう!
……それとも、もう口も利く気も失せたかしら…? …当然よね 私みたいn「うるせーーーーーーーーーッ!!」
ヤンが突然、叫んだ。ギリギリギリギリィーーっとこちらを睨んでいる。
ルイズは涙で真っ赤になった目を見開いて驚きのあまり固まってしまった。
「ごちゃごちゃ言ってねーで手ぇ動かせっつったろーーが! それとも何か!? 俺様に罵って殴って、そんでもってもっとスゲーことして貰いてぇのか!?
後で望みどーりしてやっから今は手ぇ動かせ! だいたいテメェー魔法使えてるだろが! テメェがここを爆破したお陰でこんなザマなんだろ?
俺をここに召喚したのは何処の誰だよ! ったくよぉ それで『私はゼロなんですぅ』って バカだわ、オメー アホ マヌケ オメェの母ちゃんデベソ丸出し。
理解できたか? 頭はスッキリ? ルイズ『ちゃん』は魔法使えましたねぇー 良かったでちゅねー メデタシメデタシ ちゃんちゃん」
ヤンは言うだけ言うと再び背を向けて仕事に戻った。
ルイズがぐぢぐぢ気に病んでいたことなど、まるで興味無しという思いがありありと伝わってくる。
ヤンの怒涛の「口」撃にすっかりタジタジになってしまったルイズ。
悪口も大分言われたようだがその部分には少しも反論せず、俯き加減で言われたとおり箒掛けを再開する。
だがそれでも言わずにはいられなかった。
「でも……やっぱり、まともな魔法は何一つ使えないし…アンタを傷付けちゃったし……」
ぐぢぐぢするルイズにヤンはとうとう何かが切れた。
「よぉーし、わかった! ルイズ! テメェーに元気が出るまじないをしてやる! 目ぇ瞑れ!」
ルイズはえッっと逡巡した。
だが気が沈んでいる今は、おとなしく言われたとおりにするのだった。
目を瞑る。
すると頭を掴まれ唇に何かが押し付けられた。
この感触は知っていた。既に三度目だ。
滑る舌がルイズの唇と歯をこじ開け侵入してくる。
驚愕したものの、今回はさして抵抗しなかった。
心が折れていたこともあるが、気持ちイイという感覚も少しだが生まれてきていた。
なんだか温かくて、その温もりが心地好くて、ルイズは完全にヤンに身を任せていた。
やがてヤンの舌が引き抜かれ、唇が離れる。
ルイズは頬を染めてボーっとヤンの顔を眺めていた。
ヤンの唇が、温もりが離れていくのが少し寂しいと感じた。
「どぉーだ 元気出たろ?」
ヤンが不敵な笑みでルイズを見下ろす。
ルイズは思わず、「うん」と言ってしまいそうになりハッと我に返った。
「な、なな何すんのよ馬鹿犬ぅぅ!」
口を腕で隠しながら、顔を茹蛸にして凄まじいスピードで後ずさる。
「ナニって… おまじないだよ おまじない」
「ア、アンタねぇ! これ、もう三度目よ!? 乙女の唇をなんだと思ってるのよ!!」
「うるせーな オメェがグダグダ言ってッから悪ぃんだよ オマケに今回はオメェも抵抗してないじゃん? いよいよ癖になってきたかぁー?」
ニィィィィィィィっと口の端を吊り上げて哂うヤン。
「ア、アアアアアアアンタねぇーーーーーーーーーーーーーーーー!」
恥と怒りと、若干本音を当てられたという照れで顔を赤く染め上げたルイズは、満身の力を込めた拳をヤン目掛けて振り下ろす。
ヤンの顔がグシャァアっという鈍い音を立てて崩れ落ちる。
「……テ、テメェ……ちっとは手加減しろっつーの……」
「ううううううううるさいわねッ! わ、私にあんなことしておいて命があるだけマシと思いなさい馬鹿犬!!」
肩を震わせながら、鼻息荒い。
だが彼女を今、支配している感情は怒りだけではなかった。
「けっ 調子出てきたみてーじゃん?」
ヤンはのろのろと立ち上がり、盛大に垂れ流している鼻血を手の甲で拭うと再び背を向け、残った作業に精を出すのだった。
ヤンの働きっぷりを怒りの表情で睨んでいた彼女であったが、数分も経つと落ち着いてきた。
そして、ふと思う。
(…ひょっとして…慰めてくれた?)
魔法が使えただろう、と。
アイツは自分にそう言ってくれた。
それにしても、と思う。
もう少し言い方とかやり方とか…あるだろうに。
気付くと、ルイズの中の黒い感情は、いつものヤンとのドタバタの中に霧散していた。
(あったかかったな…)
自分の唇をつッとなぞる。
ガタガタ。ゴトゴト。
今もかったるそうに、しかし凄まじいスピードで残骸やらを片すヤンの背中を見ながらルイズはボソッと呟く。
「……ありがと」
何かが聞こえてヤンは振り向く。
「あ?」
「何でもないわよ! さっさと片付けるわよ!」
へーへーと気だるそうに生返事するヤン。
ルイズの顔はいつもの偉そうな、しかし明るい表情をしていた。




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