あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-36a


「……どういうつもりだ? 何故、このワシに刺客を放った?」
「……………」
「返答せぬつもりかっ!」

 いつもの……と言うほど頻繁に見ているわけでもないが、それなりの頻度で見ている夢を、ルイズは見ている。
 今回は『仮面の男』が登場しているが、それと対峙しているのは……。

「お前こそ、決別したはずの弟子に奥義を伝授して何を企んでいる」
「知れたこと! 強靭な肉体を持ったあやつを新たなコアとし、デビルガンダムを完全復活させるのだ!!」
「!!」
「そのために奥義を伝授し、ドモンを最強のファイターに仕立て上げたまでよ!」

(……確か、この……トーホーフハイって死んだんじゃなかったっけ?)
 ということは、また時系列が遡っているのだろうか。
 どうせなら、キチンとした順番で見せて欲しいものである。

「……お前は勘違いをしている。キョウジ・カッシュ、そしてドモン・カッシュが生体ユニットとなっても、デビルガンダムは100%の力を発揮しない」
「何だと!?」
「ウルベとミカムラ博士はそれに気付き、何らかの対策を練っているようだが……。しかし、彼らでもデビルガンダムの本来の力を引き出すことは出来ない」
「フン、戯れ言を! DG細胞は当初の予定以上の力を発揮しておるではないか!?」

 しかし、何とも不思議な二人だ。
 常に冷静に見える『仮面の男』と、常に感情を高ぶらせているように見えるトーホーフハイ。
 どう考えても反りが合わないようにしか見えないのだが、それでも一触即発と言うか、すぐに殺し合いを始めるほど仲が悪いようでもない。

「……生体ユニットになるべき人物は、既に決められていた。そう……『奴』でなければデビルガンダムは真の力を発揮しない」
「笑止! だが貴様はキョウジにデビルガンダムを奪われたではないか!」
「確かに、私の力を以ってしても因果律を完全に制御することは不可能だった……」
「フン、とどのつまり貴様もデビルガンダムを制御出来なんだだけか!」
「自らの肉体を生体ユニットとするわけにはいかない。それはお前も同じはず。……だからこそ、私は『奴』を用意したのだ」

(って言うか、実は仲良くない? この二人……)
 二人は、その名の通り悪魔を思わせる金属の巨人の前で言い争いを続ける。
 仮面を付けているので表情はまったく読めないが、ルイズには『仮面の男』がどことなくこの会話を楽しんでいるように感じられた。
 ……同じ声の自分の使い魔は、ここまでスラスラと言葉の応酬を行ったりはしないと言うのに。

「■■■■。貴様の目的は一体何だ!?」
「……お前と同じだ」
「たわけが。ワシがそのような世迷い言を信じると思うか!」

 と、ここで『仮面の男』を中心にして、四角くて半透明な……虹色の箱のような物が出現する。
(アレって確か……色んなヤツを勧誘してた時にも使ってたヤツよね)

「さて、無駄話はここまでだ。私はデビルガンダムと共に未来へ帰る。お前は他のガンダムパイロットと共にこの時代へ残ってもらおう」

 どうやらトーホーフハイを置いて、一人でどこかに行くつもりらしい。
 そして四角い光の壁と、金属の巨人から強い光が放たれ……。
(……あれ?)
 今回の夢はこれで終わりかな、などと思っていたのだが、金属の巨人も『仮面の男』も、変わらずにそこにいた。

「クロスゲート・パラダイム・システムが作動しないだと? ……貴様、デビルガンダムに何か細工をしたのか?」
「さあて。ワシの力か、それともキョウジの意思か……」

 どうやら今のこの状態は、このトーホーフハイが意図している所によるものらしい。
「地球人であるお前にクロスゲート・パラダイム・システムを使えるわけがない」
「ほざけ!! ……だが、貴様の思い通りに事は進まんぞ!!」

 ジャンプして『仮面の男』の頭上を越え、金属の巨人に飛び乗るトーホーフハイ。
 そして金属の巨人は物凄い音を上げながら地中に潜っていき、トーホーフハイと共に姿を消していく。

「ふはははは! さらばだ!!」

 高笑いを残しつつ、トーホーフハイはもはや完全に見えなくなる。
 一方、置き去りにされた形の『仮面の男』はというと……。

「さすがは東方不敗。侮れんな……」

 ……大して慌てた様子も悔しそうな様子なく、自分の裏をかいた相手に対して控え目な賛辞すら送っていた。
(やっぱり仲良いんじゃないの、コイツら)
 男の人同士のやり取りってよく分かんないわね……などという感想をルイズに抱かせつつ、『仮面の男』は次の手を考え始める。

「……まあ、いい。奴が次に行く場所の検討はついている。
 カラータイマーは既に手に入れた……。後は……容器を、デビルガンダムを取り戻すだけだ」

 そう呟くと『仮面の男』は再びあの虹色の箱を出現させ、そのままどこかへと飛んで行った。



「―――起きろ、御主人様」
「ん…………んぅ、ぁ?」
 いつもの使い魔の声と、軽く身体を揺さぶられる感覚とで目を覚ます。
「目は覚めているか?」
「…………………………おふぁよぅ」
 正直、まだ意識は薄ぼんやりとしている。
 しかし眠りの中から抜け出したのは確かなので、ルイズは取りあえず返答を兼ねた朝の挨拶を返した。
「……ぅ゛~~……」
 のったりと気だるげに身体を動かし、銀髪の使い魔から差し出された洗面器から手を水ですくって、バシャバシャと顔を洗う。
「ふぅ……」
 これで幾分かだが、気分がシャッキリする。
 さて、それでは着替えを始めよう。
 と、その前に使い魔を部屋の外に出さなくてはならない。
 あの男は自分が命ずるまで、何も言わずにジーッとその場に立っているのがいつものパターンなのだから。
「ユーゼス……って、あれ?」
 『着替えるから外に出てなさい』と言おうとしたら、何と自分が言うよりも先にドアに手をかけていた。
 珍しい。
 いや、とうとうこの鈍い男にも、『相手の言動や行動を察する』という能力が身に付いたのだろうか。
 などと思っていたら、感心するよりも早く言葉が飛んで来る。
「今日からしばらくは三人分なのでな。悪いが手早く済ませてもらうぞ」
「?」
 よく分からないことを言われて困惑するルイズをよそに、ユーゼスはとっとと部屋を出て行った。
「……何なのかしら」
 まあ、取りあえず今は着替えよう。
 ルイズはクローゼットから替えの下着や服を取り出し、今着ているネグリジェと下着を脱いでそれに着替えを始める。
「それにしても……」
 今回の夢は、何だかいつもに比べて『軽い』気がする。
 これまでは『仮面の男』の生涯を辿ったり、あるいは何かのメッセージを自分に投げかけてくるようなものだったのに。
 アレは何と言うか……まるで『一コマを切り取ってみました』、という感じのものだった。
 当然、それを見たルイズとしても『あの男にはこんな一面もあるのね』程度の感想しか抱けない。
「夢にアレコレと意味を求めるのもどうかと思うけど……」
 いよいよネタ切れになってきた、ということだろうか。
 まあ、別にルイズとしてもあの夢を特別に見たいわけでもないのだから、ネタ切れならネタ切れで構わないのだが。
 とか何とか考えていると。
《えっ……ええ!? な、なん、何であなたが私の寝室にいるのよ!!?》
 長姉の素っ頓狂な叫び声が壁越しに聞こえてきた。
「……?」
 何だろう。
 まさか賊でも現れたのか……と一瞬だけ考えるが、夜中に来るのならともかく、こんな朝っぱらから襲撃など普通はしないだろう。
 しかも叫び声を出されている時点で、かなりの失態だ。
「……………」
 よく分からないが、とにかく一応確認した方がいいだろうか。
 ちょうど着替えも終わったところだし、どうせエレオノールの部屋はすぐ近くだし、別に構うまい。
 ということで、自分の部屋から出てエレオノールの部屋に行くと……。
「私に対して『朝に起こせ』と言ったのはお前の筈だが?」
「う……、そ、そうだけど、もう少し、こう、優しく起こしなさいよ!」
「お前に対して生半可な起こし方では効果が薄いのは、以前の宝探しの道中で経験済みだ。……それに、ただ身体を揺らして声をかけただけでそこまで言われる筋合いはない」
 何故か、自分の使い魔が。
 寝起きの姉と。
 仲が良さそうに(ルイズにはそう見えた)話をしていた。
「……!?」
 思わず絶句するルイズ。
 ちょっと待って。
 コレは一体、どういうコト?
 どうしてユーゼスが、エレオノール姉さまの部屋に上がりこんでるの?
 しかも姉さまも、まんざらでもなさそうな……そう言えばメガネを外してるエレオノール姉さまの顔を見るのはずいぶん久し振り……いや、これはどうでも良いとして。
「ちょ…………ちょっと、ユーゼス!!」
 叫び声を上げて、銀髪の使い魔を呼ぶ。
 その呼ばれた当人は、特に何でもなさそうに自分を呼んだ主人を見て、これまた何でもなさそうに声をかけてくる。
「どうした御主人様。髪を梳かすのならば、少し待て」
「そんなこと言ってるんじゃないわよっ!!」
 ルイズはズンズンとユーゼスに詰め寄り、詰問を開始した。
「何でアンタがエレオノール姉さまの部屋に上がりこんでるのよ!?」
「そのように言われたからな」
「はあ!!?」
 ユーゼスは軽く息を吐くと、仕方なげに一から説明を行う。
「……昨日の話になるが、何故かエレオノールから『朝に自分を起こすように』と命令された。断る理由もないので、私はそれを承知した。こんな所だ」
「……………」
 話を聞いて、ジトッとした目でエレオノールを見るルイズ。
 エレオノールはそんな妹の視線から気まずそうに顔を逸らすと、取り繕うようにしてセリフを並べ始めた。
「べ、別に誰かに迷惑をかけてるってワケでもないんだし、いいじゃないの」
「……迷惑とかそういう問題じゃないと思いますけど」
 うぅ、と言葉に詰まるラ・ヴァリエールの長姉。
 いつもとは微妙に立場が逆転していたが、だがそんなことには頓着しない男が一人いた。
「……御主人様、髪が少し乱れている状態で外に出るのは好ましくないぞ」
「え?」
 不意を突かれた形になるルイズの様子は気にせず、ユーゼスは主人の桃色がかったブロンドの髪を一房つまむと、スーッとその感触を確かめるようにして指を髪に這わせる。
「やはり乱れているな。梳かした方が良い」
「あ……う、うん……」
 髪を梳かすこと自体は『いつもの仕事』として召喚された翌日からルイズに命じられていることだし、ユーゼス自身も長髪なので手入れは慣れている。
 しかしルイズは妙に顔を赤くさせてそれに頷き、更に傍にいるエレオノールは不思議と羨ましそうな視線を向けていた。
 ……あくまでも『仕事の一環』として言ったつもりの言葉だったのだが、この反応は何なのだろう。
 まあ、ともかく。
 ルイズの髪を梳くにせよ、それをエレオノールの部屋でやるわけにも行かないだろうし、何よりエレオノールも着替えるだろうから外に出なくてはなるまい。
 それに、自分は『もう一人』を起こさなければならないのだ。
「ではカトレアを起こしたら取り掛からせてもらう」
「……は?」
 ルイズの間抜けな声が、エレオノールの部屋に響いた。
「……えーと。…………どうして、そこでちい姉さまの名前が出て来るの?」
 ゆっくりとした口調で問いかけてくるルイズに、ユーゼスはやはり淡々と答える。
「『どうして』と言われても、本人から直接頼まれたことだからな」
「……………………そこに至るまでの経緯を説明しなさい」
「む?」
 ユーゼスは多少怪訝に思いながらも、主人の要望の通りに説明を行った。
「昨日カトレアを話をしていたら、私が朝にお前を起こしている……という話になってな。それを聞いたカトレアが、何故か『自分も起こしてくれ』と言い出したのだ。
 加えて捕捉すると、その場に居合わせたエレオノールが、更に『自分も起こせ』と私に命じたので現在のこの状況になっているのだが――――何か問題があるのか?」
 何だかんだ言ってもルイズとの付き合いはそこそこ長いユーゼスは、彼女の機嫌が悪い方向に傾いているらしいことを看破して『自分の行動の問題点』を逆に質問する。
「……………」
 ルイズはそんなユーゼス・ゴッツォに対してにっこりと微笑みを返すと、無言のままで唐突に床に手をついた。
「む……?」
 そんな主人の行動をユーゼスが疑問に思う間もなく、続いてルイズは勢いよく床を蹴ってその脚を高く宙に上げる。
 腕は床をついたままピンと伸ばされ、脚もまたそれと同調して身体が一本の線となっている。
 要するに倒立前転の要領だ。
 ……だが慣性に逆らって、倒立の体勢で静止が出来るほどルイズの身体能力は高くない。
 よって自然とそのまま仰向けに倒れこむことになるのだが、その過程、ちょうど綺麗に垂直の姿勢となるその一瞬にルイズは手首と肘、肩、そして腰をひねり、勢いはそのままで足先をユーゼスの方へと向けた。
「!?」
 それから一瞬の後。
 少女の渾身の脚技は『ちい姉さまにまで手ぇ出してんじゃないわよぉおおおおおおおお!!!』という叫びと共に、銀髪の男の顔面に叩き込まれることとなる。


「ユーゼスさん。本当に大丈夫ですか、その顔の怪我?」
「…………まあ、顔の識別が出来なくなるほどの損傷を受けたわけではないからな。それほど問題ではない」
 心配そうに聞いてくるカトレアにそう答えながら、ヴァリエール三姉妹と共に朝食の場へ向かうユーゼス。
 その額の左側には、少しばかり痛々しい青アザが出来ていた。
「顔の識別って……。それはもう命に関わる怪我になっちゃいますよ。そういう極端な例を比較対象に持ち出すのは間違ってます」
「……そうかね」
 かつて顔や身体の大部分を失って死にかけたことのある男は、カトレアの言葉を聞くだけにとどめつつ歩を進める。
 ―――ルイズから蹴りを受けた後、ユーゼスは痛む額を押さえつつカトレアの部屋に向かい、ルイズやエレオノールにしたのと同じく起床を促した。
 起こした後で、真っ先に額の青アザについて質問されたが『問題ない』の一点張りで切り抜けている。
「そうですよ。もうちょっと分かりやすいって言うか、身近な例を出してください」
「身近な例と言われてもな」
 先に挙げた『死にかけた大怪我』の他の主な怪我、と言うと……。
 超神形態でSRXの天上天下一撃必殺砲を最大出力で受けたこと(これは『本当に死んだ』のだが)とか。
 ワルドのライトニング・クラウドを食らって腕が軽く炭化したこととか。
 激昂したルイズの爆発魔法を受けたこととか。
 エレオノールに鞭でやたらめったら叩かれたこととか。
 一昨日、エレオノールとルイズに走行中の馬車から蹴り出されたこととか。
 昨日、エレオノールの魔法によって土砂で埋められたこととか。
「……………」
 思い返すほどに何だかやるせない感情が胸に芽生えていくので、これ以上は思い出さないことにした。
 そのようにしてユーゼスが『痛い記憶』を脳裏から消し去ろうとしていると、隣にいるカトレアが自分の記憶を引き合いに出して語り始める。
「まあ、私も咳き込みや発作を起こした時は、『あ、コレは危険だな』とか『コレは大丈夫かな』って感じで比較したりしますけど」
「それもどうかと思うが」
 そのようにしてユーゼスとカトレアが妙な視点の会話を行っていると、不意に白衣の裾がクイクイ、と引かれる。
「……む?」
 一体何だと思って後ろを振り向けば、そこにはムスッと不満そうな顔をしたルイズがいた。
「何だ、御主人様」
「…………ちょっとこっちに来なさい」
 白衣を引かれるがままにカトレアから離れるユーゼス。
 カトレアは『あらあら』などと呟きながら、ニコニコとそんな妹とその使い魔を見ている。
 ちなみにエレオノールは『我関せず』とばかりに先頭を歩き続けているが、ことあるごとにチラチラと妹たちの様子を窺っていた。
 そんな二人の姉の動向に気付いているのかいないのか、それなりにカトレアたちと距離を取ったルイズは小声で、しかし強い口調でユーゼスに問いかける。
「何でアンタ、あんなにちい姉さまと仲がいいのよ!?」
「……『仲が良い』と言うほどでもないと思うが。カトレアとは普通に話しているだけだぞ」
「それよ、それ! アンタ、昨日まではちい姉さまに対しては敬語を使ってたのに、何でいきなり普通の口調になってるの!?」
 ユーゼスは少し考える素振りを見せると、仕方なげに口を開く。
「…………先程話した『起こすまでの経緯』と大差ない」
「はぁ!? どういう意味よ!!?」
 どういう意味よ、と言われても。
 実際にカトレアにそうするように言われたのだから、仕方がないのだが。
「……自分だけ敬語で、かつ『ミス』付きで呼ばれるのが気に入らなかったらしい。『他人行儀で不公平だ』と怒られたよ」
「む……。……まあ、ちい姉さまならそういう風に言いそうだけど……」
 相変わらずこちらをにこやかに見つめている次姉の人となりを思い返しつつ、ルイズは口ごもる。
 そして『うー』と小さな唸り声を上げた後で納得しかけたように見えたが、突然ハッと何かに気付いたかのように顔を上げると、また強く問いかけてくる。
「じゃあ、名前で呼んでるのもそう言われたから!?」
「その通りだ」
 サラリと答えるユーゼス・ゴッツォ。
 だが答えを受け取ったルイズの方は、とてもサラリとは行かないようだった。
「名前……名前で、呼ぶって……」
「?」
 ゴニョゴニョと何かを言いながら、エレオノールとカトレアの方を見るルイズ。
 主人がそちらを向いたので自然とユーゼスも彼女たちの方を見るが、特に変わった様子は見られない。
「御主人様、エレオノールとカトレアがどうかしたのか」
「………………やっぱり、『御主人様』…………」
 ルイズは歩きながら、小声で独り言を呟く。
 ポツリポツリとユーゼスにも『呼び方は』だとか『何で姉さまたちだけ』などの断片的な単語は聞こえてくるが、それがどのような意味を持つのかは分からない。
(……まあ、ヴァリエールの女について分からないのは、いつものことか)
 この家の女性は、時たま自分には理解の出来ない行動をするものである……と学習し、カトレアとの会話を経てそれが確信に変わりつつあるユーゼス。
 しかしその『彼女たちの理解が出来ない』という時点で思考を停止し、そこから『彼女たちを理解しようとする』という行動に移ろうとしないのが、彼の欠点であった。
 なお、朝っぱらから不機嫌度が加速度的に増しているルイズはと言うと。
(……どうして、わたしだけ呼び方が『御主人様』なのよ……)
 エレオノールは、『エレオノール』。
 カトレアは、『カトレア』。
 そして自分は、『御主人様』。
 姉妹の中での自分のこの格差は、一体なんだと言うのだろう。
 しかもカトレアとは一昨日に会ったばかりなのに、もう名前で呼んでいるなんて。
 コイツ、こんなに手が早かったのか。
(まあ、そのあたりは後で時間のある時にでもキッチリ問い詰めるとして……)
 今の問題は、自分の呼び方である。
 ……いっそのこと、思い切って自分も『名前で呼べ』と命令するべきだろうか。
(で、でも……)
 それは今更、こう、何と言うか………………恥ずかしい。
 第一、召喚したその日に、

 ―――「呼ぶ時は『御主人様』って呼ぶこと。いいわね?」―――

 そう言いつけたのは、他でもない自分ではないか。
 何ヶ月も前の自分の言動を今になってくつがえすと言うのは、正直かなり抵抗を感じる。
 なかなか盛大な葛藤だったが、ルイズはそれを打破するためにも脳内で自問自答を開始する。
(……いや、ちょっと待ちなさい、ルイズ)
 エレオノール姉さまだって、ある日を境に『ミス・ヴァリエール』から『エレオノール』と呼び名が変わっていたじゃないの。
 ユーゼスに聞いても姉さまに聞いてもそのことを詳しくは話そうとしないけど、だったら自分も『ルイズ』と名前で呼ばれたって問題は何もない、はず。
「よ、よぉし……」
 ルイズは意を決し、銀髪の使い魔にその命令を下そうとした。
「ユ……ユ、ユーゼス!」
「何だ?」
「せっかくだから、わ、わたしのことも、ルル……る、『ルイズ』って、名前で……」
 実際にそれを口に出そうとすると緊張で上手く口が回らなくなるが、そこは気合で乗り切る。
「名前で、呼んで―――」
 だが。
「あら、父さま」
「え?」
 不意に聞こえてきたエレオノールの言葉に顔を上げると、いつの間にか朝食の場であるバルコニーに到着していることに気づいた。
 ……どうやら、色々と話したり考えごとをしている間に到着してしまったらしい。
 更に少し遠くに視線を向ければ、父であるラ・ヴァリエール公爵、そして母の姿が見える。
「…………あぅ」
 ある程度くだけた関係の姉たちならともかく、さすがに厳格な両親の目の届く範囲で(自分の使い魔とは言え)平民に対して『自分のことを名前で呼びなさい』と言うわけにもいかず、セリフが尻すぼみで終わってしまうルイズ。
「何だったのだ……?」
 そしてユーゼスは主人の言葉が途中で途切れてしまったことを不思議に思いつつ、バルコニーの片隅に控える。
 ―――『名前』がどうのこうのと言っていたような気がするが、断続的かつ小声になったり大声になったりしたのでよく聞き取れなかった。一体何を言おうとしていたのだろう。
(まあ、特に重要な案件でもなさそうだが)
 本当に必要なことなら朝に起こした時点で言うはずであるし、それほど大したことでもあるまい。
「……………」
 ところで、どうでもいいのだが。
 何だかゲンナリしながら席に着くルイズとは対照的に、エレオノールとカトレアがどことなく得意そうな顔をしているように見えるのは、何故なのだろう。


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