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ウルトラ5番目の使い魔-48a



 第48話
 一発必中!正義の一閃悪を撃て

 狼男 ウルフ星人 登場!


 怪獣ザラガスの撃破を得て、トリスタニアは歓喜の渦に包まれていた。

『トリスタニアを襲った怪獣、王立防衛軍の手によって撃破せり!』

 戦いを見守っていた人の口から口へ、噂はあっという間に街の隅々にまで伝染し、怪獣の脅威に怯えていた
人々は、興奮のままに勝利の美酒に酔いしれていた。
「なあ、あのすげえ炎見たかよ。なんでも魔法アカデミーが開発した新兵器らしいぜ」
「ああ、なんと魔法衛士隊のグリフォン隊が、危険を承知で怪獣の体に直接取り付けたらしい」
「それでよ。そのグリフォン隊に同乗していた、アカデミーのエレオノール・ド・ラ・ヴァリエール女史がさ、
見たけどこれがまたすげえべっぴんでな」
「だったら、隊長のワルド子爵ってのもたいした美男子なんだろ、んったくうちのかかあが見惚れちまって
困ったもんだ」
 平民の間にも、エレオノールとワルドの名はすでに知れ渡っていた。これは、この機に乗じて貴族の威信を
回復しようと考えたマザリーニ枢機卿が独自に行動して噂を流させたのである。
「貴族なんて口ばかりの愚図ばかりと思ってたけど、ちったあやるものだな。うちの子なんか、大きくなったら
グリフォンに乗って戦うなんて言い出して、平民じゃ魔法衛士にゃなれないっての」
「いいや、なんでも軍では平民を集めた幻獣の部隊も企画しているらしい。他にも、軍で手柄を立てたものは
貴族に取り立てたり、学のあるものに官職を与えてくれたりもするらしい」
「おいおい、そりゃいくらなんでも冗談だろ。トリステインじゃ法律で、平民は官職についたり領地を持つのを
禁じてるじゃないか」
「その法律が変るそうだ。なにより平民出身の銃士隊って例があるじゃないか、姫殿下はあれをもっと拡大
なさるらしい。文句を言う貴族どもも、今じゃすっかり数を減らしたし、なにより姫様に圧倒的な支持がある」
 マザリーニの流言操作はさらなる方面でも効果を生んだ。彼が流させた噂はひとつではなく、アンリエッタが
考えている改革のいくつかの草案も混じっていたのだ。案の定、それは明るいニュースに明るいニュースが
重なることで、人心をよい方向へと促していく。マザリーニは普段あまり表には出てこないが、こういう
アンリエッタの考えの及ばない影の仕事で改革を支えていた。
「そりゃすごい、俺も軍に志願してみるかな……」
「お前じゃ無理だろ。それよりも、あの怪獣の死骸、見に行ってみないか?」
「よし、じゃあ行くか」
 黒こげとなったザラガスの死骸は、今やトリステインの名物になりかけ、大勢の人目を集めている。
とはいえ、生物の死骸はいずれ腐るので近々排除されるだろう。しかし今は、これを利用して初めて防衛軍が
怪獣を倒したことがここぞとばかりに喧伝され、これまでに失った威信を一気に取り戻そうとしていた。


 一方、王宮では一躍英雄となったワルドとエレオノールが、アンリエッタ姫から直々にお褒めの言葉をいただいていた。
「ワルド子爵、お見事な活躍でした。あなたの活躍は、この国の歴史に深く刻まれ、語り継がれていくことでしょう」
「もったいないお言葉です。姫殿下」
 アンリエッタの祝福の言葉に、ワルドは後ろに控えたグリフォン隊の隊員たちと共に恭しく跪いて頭を垂れた。
「ミス・エレオノール、今回は貴女方アカデミーの協力があってこその勝利でした。しかも学者の身をおしての
前線参加、その勇気と功績はすばらしいものでした。あれほどの兵器をもう一度作れないのは惜しいですが、
その知力をこれからもトリステインのためにお役に立てていただけますか」
「姫殿下のお心のままに、微力を尽くさせていただきます」
 ワルドと並んでエレオノールも、救国の英雄の一員として栄誉を受けていた。なにせ、やっと掴んだ勝利である、
王国としては国家の求心力を回復するためにも、この機会を最大限に活かさなければならないために、多少
大げさにでもこのことを宣伝しなければならない、その点この二人は絶好の広告塔で、これから姫とともに
パレードやパーティに出席することになる。才人などだったら嫌がるだろうが、貴族にとっては名誉なことなので、
今日一日注目の的となるだろう。
 ようは国威発言と戦意高揚のために利用されるということで、傍目にはあまりきれいに見えないが、戦争に
強いのは大体こんな国である。ろくでもない話でしかないが、悪に対抗するためには善だけではだめである。
そうなると、こちらも悪に染まることになると背反することになるのだが、この人間世界というもの自体が神の
世界には程遠い欠陥機械であるのだから、例え歯のかけた歯車や、濁った潤滑油でも止まらせないためには
使わなくてはならないのだ。
「ワルド子爵、数日後にはアルビオンに使者として旅立つあなたが、このような戦果をあげえたとなれば、
よい土産話になるでしょう。あなたのような貴族の鏡のような方を得られることは、わたくしにとってこの上ない
誇りですわ」
「私は殿下のいやしい僕にしかすぎません」
 あらためて恭しく跪いてワルドは礼を返した。しかし、人に見られないように下げたその口元が、なぜか
うれしさとは別の形で歪んでいたのを、隣にいたエレオノールはちらりと横目で見て、姫様から祝福されている
というのに、何を不謹慎な顔をしているのだと不審に思っていた。
 ただ、今回多少ワルドを見直したのも確かである。やってみてわかったことだが、あの火石を正確に風石の
防壁と釣り合いが取れるタイミングで起爆させるには、母の言ったとおり自分くらいに魔力の微調整が
利くメイジでなければならなかった。もし、ワルドやその他の騎士に任せたらトリスタニアごと消し飛んで
いたかもしれない。まぁ、自分も火石の火力を読み損なって、エースに怪獣を上空に投げ飛ばしてもらわなかったら
半径200メイル四方が吹き飛んでいただけに大きなことは言えないが、一応、怪獣の元まできちんと運んで
もらったことには感謝している。
 とはいえ、実はワルドにはほかに選択肢がなかったとも言える。風の系統の上級スペルには、空気の
塊で自分の分身を作って遠隔操作するものもあるのだが、最初の作戦の打ち合わせのときにワルドは
それを使って陽動しながら安全に爆弾を運ぼうと言って、起爆はエレオノールがやるのに、自分は女性に
危険な仕事をさせて安全なところにいる気かと、即座に却下。ならばエレオノールは自分が運ぶから
陽動に分身を当てようと言って、部下に身を張らせて隊長が分身にやらす気かとこちらも却下、くだらない
ことに精神力を浪費するよりエレオノールの護衛に全力を尽くせ、死に急ぐのも愚かだが、わが身の安全を
第一に考えるような指揮官の下で、自殺志願者と自己陶酔家以外の誰が命がけで戦うものか、そんな
部下しかいないから弱いんだと、『烈風』直々にこってり絞られていたのだった。
 けれど、ワルドの態度を不愉快に思っても、今は姫様のお話の最中である。余計な方向に行きかけていた
思考をすぐさま元に戻して、エレオノールはアンリエッタの話に耳を傾けた。
「さて、お二人とも顔を上げてください。あなた方は大変な栄誉をあげましたが、形あるものでの報酬も必要
ですわね。まずはミス・エレオノール、アカデミーの研究費用を、年間500エキューの増額が認められました。
わずかですが、助けになれば幸いです」
「感謝の極み……1ドニエたりとも無駄にはいたしませぬ」
 研究機関であるアカデミーには、研究費用の増額は素人が余計な援助をする以上に助けになるだろう。
施設、研究材料、資料、その時々に応じて増やすことができる。
「また、ワルド子爵、あなたにも特別に便宜を図らせていただきました」
「わたくしごときのために、もったいないことです。それで、いかように?」
 あくまで紳士的に礼を尽くすワルドにアンリエッタもにこやかに笑い、軽く手を二回叩くと、玉座の後ろの
カーテンの陰から、肩に小さな文鳥を乗せた麗人が姿を現した。
「賞品は、わたくしです」
「……は?」
 公爵夫人の唐突な言葉に、ワルドだけでなくエレオノールやグリフォン隊の隊員たちも、その意味を量りかねて
数秒間自失の海を泳いだ。しかし、特に頭の回転の速い二人、当然ワルドとエレオノールが理解という岸辺に
たどり着いたときの反応はそれぞれ異なっていた。前者は驚愕と底知れない恐怖、後者は歓喜と愉悦に。
「喜んでください。貴方方の素質を見込んで、この『烈風』カリン殿が、専属の教官となってくださることを
承知してくださいました。かつてトリステイン最強とうたわれたお方の指導を受けて、より素晴らしい部隊に
生まれ変わったグリフォン隊の姿を、わたくしは期待しています」
「姫殿下のたっての頼みで、お前たちを鍛えてやることになった。今回は勝ったが、魔法衛士隊の練度が
いちじるしく低いのが確認できた。とりあえず一ヶ月間、そのたるんだ根性を叩きなおしてやるからそう思え!」
 もうそのときに、ワルドを含めてグリフォン隊で勝利の高揚感を残している者は誰一人存在しなかった。
かつて最強とうたわれた30年前のマンティコア隊、しかしその訓練は苛烈で"実戦では誰も死なないが、
訓練で皆殺しにされる"とさえ言われた恐ろしさで、新入隊員の100人のうち99人が三日で脱落すると
恐れられていた。なにせ、隊員たる最低の条件が"隊長の使い魔ノワールについていける"であるから
その厳しさがわかるだろう。現在のマンティコア隊の隊長、ド・ゼッサール卿がその当時の隊員の一人だが、
「当時は一日に半分が脱走した。翌日には片手で数えられるほどになっていた。三日後にあの方の目の前に
いるのは私一人になっていた。今、私はあの方のいた地位を預かっているが、同じことはとてもできない、
なぜかって? 私は人を生きたまま殺すなどという器用なことはできないからな」と、苦笑混じりに語っている。
ただし、彼はベロクロン戦でほぼ壊滅した3つの魔法衛士隊のうちの数少ない生き残りとなり、今はその
再建に努力しているから、彼が『100人のうちの一人』になれた成果は老いてなお活かされているのだろう。
「こ、光栄でございます……」
 全身からこれ以上ないくらいに汗を噴き出しながら、乾ききった喉からやっとのことでワルドは言葉を
搾り出した。あの『烈風』のしごきの恐ろしさは、幼い頃から間近で見てきた彼が一番よく知っている。
しかも、今は代員はいないから脱落は許されないだろう。
 エレオノールは、そんな血の気を失いきって死人のように見えるワルドを横目で見て、「あの弱虫ジャンが
どこまで耐えられるかな?」と、意地の悪い愉悦に笑いをこらえるのを苦労していた。
 だがそれにしても、お母様が本気で戦うのは初めて見たが、子供の頃お父様から聞かされたお母様の話は
本当だった。それまでエレオノールは『烈風』の伝説を、かなり誇張されたものだと思っていたのだが、それは
誇張でもなんでもなく、単なる事実であった。それはよいのだが、お母様は現役を退いてから30年も過ぎた
というのにこの強さ、もしそのまま現役に居続けたとしたらどれほどの伝説を増やしたのか、結婚を期にと
とは言っているが、自分なら結婚しても引退などしない、いったい30年前に何があったのかと、彼女は
自らの母の知られざる過去に思いをはせた。


 そんな騒ぎも日が暮れて沈静化し、才人とルイズも妖精亭の2階で借りた部屋で休みをとっていた。
「やれやれ……今日も大変な一日だったな」
 ベッドの上に並んで腰を下ろして、才人がやっと休めると息をついた。怪獣が倒され、近隣の町々から
集められてきた医者や、姫殿下の命で民衆の治療に駆り出された水系のメイジたちによる診療も一気に進み、
二人も治療を受けることができた。もっとも、エースのおかげで回復は常人を超えているのだが、一応人に
見せるときのために目にはまだ包帯をしている。
 ともあれ、明日からはまた気楽な旅行の続きだ。明日に備えて早めに寝るかと、才人がベッドに横になろうかと
思ったとき、ぽつりとルイズが話しかけてきた。
「ねえサイト、最近あたし、少し思うことがあるの」
「ん?」
 藪から棒にと思ったが、ルイズの真剣な口調は才人の眠気を一時的にも払う作用があった。
「それで、なんだよ」
「ウルトラマンAのことよ」
「えっ?」
「正確には、エースも含めてこの国と世界、そして、あたしたちのことよ。思えば、この数ヶ月でハルケギニアは
大きく変わった、いえ変りつつあるわ。ヤプールの侵攻と、その影響で目覚めた怪獣達によってね」
 変った、か。そういえばルイズに召喚されたときと今では、この世界の印象が違って見える気がしなくもない。
端的に表現すれば、あのときに比べてこの世界は大きく動いている。一般レベルで言えばあまり変化は
見られないだろうが、世界は新たに、そして強引に流入してきた新たな概念、危機、存在によって、まるで
人体が侵入してきたウィルスに抗体を作ろうとしているかのように変動している。平民部隊である銃士隊の
設立、アンリエッタの数々の改革がそれに当たるだろう。
「そんな中で、あたしの存在はなんなのかって……これまであたしは魔法が使えない、"ゼロ"としてさげすまれ、
魔法が使えるようになることが最大の望みだったけど、超獣の前にはあたしが欲し続けた魔法もまるで無力だった」
 ルイズの独白を、才人は黙って聞いていた。返事はしない、まだそれを求められてはいない。
「笑っちゃうでしょ、死ぬほど欲しがっていた宝石が、実はガラス玉だと知ったときの気分は……けれど、代わりに
比較にならないほど強大な力を手に入れた。いえ、貸してもらった」
 自嘲を言葉のうちに混ぜ、ルイズの独白は続く。
「それからは、しばらくは自分がゼロだっていうことを忘れることができた。いいえ、魔法なんて無力なものだって、
自分をごまかしていたのかも……けれど、ウルトラマンの力で負けて、魔法の力が敵を倒した。わたしは本当は
何もできないゼロのままじゃないかって、何にも変れてない、借り物の力で自惚れて、たまたまあのとき
選ばれただけで、力のないわたしは無価値なゼロなんじゃないかって……急にそう思ったのよ」
 そういうことか、才人はルイズの悩みを理解した。最初この世界に来たとき、魔法を使えることが絶対の価値観と
されるこの世界で魔法の使えないルイズは、大勢から蔑まれていた。そのときの劣等感と孤独感が、敗北で
一気に噴き出してきたのだろう。
 力の無い苦悩か……才人の脳裏に、テレビや映画、漫画や小説で見た、かつて地球を守るために戦った大勢の
人々と、彼らを助けてくれたウルトラマンたちの長い戦いの記憶が蘇ってくる。国語の教科書やドラマのように
気の利いた台詞は言えないかもしれないが、ここで黙っていては男の名折れだ。十数秒の沈黙の後、自分なりの
答えを出した才人は、黙って自分の反応を待っているルイズに話しかけた。
「なあルイズ、お前ロングビルさん好きか?」
「は? あんた何言ってるの、ここのオカマ気にあてられておかしくなっちゃった?」
「誰がそんな方面の話してるよ、人間として好きかと聞いてるんだ?」
「え……そりゃあ、最初は信用できなかったけど、今じゃ改心して真面目に働いてるみたいだし、それなりには」
「じゃあ、土くれのフーケは好きか、嫌いか?」
「嫌いに決まってるじゃない。貴族の名誉を散々貶めてくれた盗賊よ、途中からヤプールに操られてたとしても、
許せないわ」
「けど、フーケは土くれと恐れられたすごいメイジだったけど、今のロングビルさんは魔法が使えない。同じ人なのに
どうして片方好きで、片方嫌いなんだ?」
「そ、そりゃあ……」
 ルイズが口ごもると、才人は口調に笑いを込めて続けた。
「そんなもんだよ"力"なんてさ、すげえ奴はすげえと思うけど、スクウェアメイジの盗賊なんてお前もなりたいとは
思わないだろ。もしもだけど、お前がトライアングルやスクウェアを鼻にかけて、平民をいじめて楽しむような連中と
同類だったら、メシが喰えなくてもとっくにおれはお前のところから出て行ったね」
「なによ、使い魔かご主人様を見捨てたって言うの?」
「おれは人間だからな。それに、おれは小さい頃からウルトラマンが好きだった。マン、セブン、ジャック、エース、
タロウ、レオ、80、メビウス……ほんとにかっこよかったし憧れた。けど、それはかっこよさや強さだけじゃない。
ウルトラマンより強い怪獣や宇宙人なんていっぱいいた。けど、そいつらよりおれはウルトラマンが大好きだった。
ウルトラマンは力を誇示しない、けど誰もがウルトラマンを知っている。それは常に誰かのために、傷ついても
あきらめずに全力で立ち向かっていくから、みんなの心に響いたんだ」
 ウルトラ兄弟は、地球のためにその身を投げ出して戦ってくれた。いつの時代も、その心に報いようとする人々が
人類を成長させてきた。
「力は、扱う人の心しだいだって、そう言いたいの?」
「そうとってもらってもいいよ。ただ、ロングビルさんも言ってたろ、魔法の使える盗賊と使えない賢人のどっちが
いいかってさ、悪事に使うようなら力なんか無いほうがいい」
「けど、わたしは力を持って姫様やトリステインのために尽くしたいの」
「それは、お前しだいだからおれのどうこう言うことじゃない。ただ、こないだお姫様がお前のことを覚えていたのは、
魔法の有無とは関係ないと思うけどね」
 まあ、俺もウルトラ兄弟の記録や、少し前まで連日放送されていたメビウスの活躍を見続けていなければ
こんな考えは持てなかったかもと思いながら、才人は考え込むルイズにそれ以上の自論を吐くのはやめておいた。
自分では正しく思えても、それを他人に押し付けるのは傲慢というものだ。ヒントや手助けはあってもいいが、
最終的な答えは自分自身で出さなければ、それを信じることはできないだろう。
「ま、別に期限がある問題じゃない、のんびり考えればいいさ」
 ルイズに聞こえないように、口の中だけで才人はつぶやいた。えらそうなことを言いはしたが、元々テストで
100点を狙うより赤点を回避するほうに脳みそを使うタイプである。ルイズが変な方向に行こうとするなら
止めはしようと思うが、どう考えてどう行動するかにいちいち文句をつける気はない。

 けれど、二人がそうしてそれぞれの考えをぶつけていると、耳に学院でも聞きなれた軽快な足音が近づいてくる
のが聞こえた。
「サイトさん、ミス・ヴァリエール、お夜食いかがですか?」
 どうやらシエスタがスープか何かを持ってきてくれたようだった。
「ありがとう……けど、見えないんじゃちょっと食べづらいかな」
 話すのを中断してスプーンを手探りでとったが、才人はちょっと困ってしまった。
 完全に目隠しされた状態でスープは難しい。せめてパンとか手づかみできるものだったらありがたかったのだが、
慣れない状態では火傷しかねない。ルイズなどは「使えないメイドね」と怒っているが、シエスタは思いもかけない
ことを言った。
「はい、わかってますけどあえてスープにしてもらったんです」
「へ? んじゃあ……」
 なんでわざわざ食べにくいものを持ってくる? と二人が疑問に思ったとき、彼女のかぐわしい香りが才人の
隣に来て。

「はい、あーんしてください」
「えっ!?」

 と、永遠のパターン。なお、その0コンマ1秒後。

「ふざけるなーっ!!」
「うぉーっ!! あっちーっ!!」

 ルイズのアッパーカットが才人のあごにクリーンヒット、熱々のスープを巻き込んで才人は天井まで
吹っ飛ばされると、そのまま頭から床に突っ込んだ。

「まあ! ミス・ヴァリエール、いきなり何をするんですか!」
 シエスタが火傷しそうな才人に駆け寄って、冷たいお絞りで拭こうとするのを、ルイズはすっくと立ち上がって
見下ろし、いや、見えないのだが、見えているように真正面に立って怒鳴った。
「これはこっちの台詞よ! ちょっと気を緩めると人の使い魔を誘惑しようとして……あんたも、こんなのにデレッと
してんじゃないわよ!」
「お……おれはまだ何もしてないだろ。つうか、見えないのによく殴れるなお前」
「勘よ、勘!!」
 心眼でもあるのかお前は、今のルイズならネロンガだろうがバイブ星人だろうが見つけられそうだ。

 そんな様子を、スカロンとジェシカの親子はドアの影からじっと見ていたが、あの元気なら大丈夫そうねと
安心していた。それにしても、シエスタはせっかく男を魅了するいい方法を教えてやったのに、タイミングが悪い。
多分見せ付けたかったのだろうが、ああいうことは相手が一人のときにやって、邪魔されずに心を奪うべきなのだ。

 そして、そんな騒々しくも平和な時間はあっというまに過ぎ、翌朝旅立ちの時は来た。

「んじゃあ、また来るよ」
 スカロンとジェシカたちに店の外まで見送られて、一行は名残惜しいが世話になった妖精亭を後にした。
「気をつけてね。また来たらサービスしてあげるよ。サイトくん、今度はシエスタとデートかな?」
「いっ!?」
 突然デートなどと言われて慌てる才人にシエスタが後ろから抱きつき、頭をルイズが押さえつける。
「サイトさーん、帰ってきたら今度は二人で来ましょうね。わたしが腕によりをかけてお料理しちゃいますから!」
「ちょっとメイド! サイトはあたしの使い魔なの、あたしに許可なく連れ歩かせないわよ」
 また例によってである。ジェシカはそんな三角関係を見てカラカラと笑った。
「じゃあさ、今度来たら二人ともうちの仕事着でサイトくんに接待対決でもやる? きっと二人ともよく似合うと
思うよ」
「ええっ!?」
「望むところです!」
 ジェシカのなかば本気のからかいを真に受けた二人がわかりやすい反応をするのを見て、一行はさらに
おかしそうに笑った。なお、才人はこの店のきわどい衣装を着たルイズとシエスタがおれのために……と、
不埒のことを考えて顔をにやけさせたためにルイズに蹴り飛ばされていた。
「さて、二人ともサイトくんをいじめるのはその辺にしておきなさい。ここにはまた帰りにみんなで寄らせてもらいましょう」
 やっとロングビルに仲裁されて、ルイズとシエスタはようやく悶絶している才人から離れた。ジェシカはそんな
才人を見て、もてる男はつらいねえと人事のように言っているが、才人には聞こえていない。
 しかし、二人は忘れていたが、才人の女難の相はこんなものではない。
「もーダーリンったら乱暴な人にからまれてかわいそう。この微熱が慰めて、あ・げ・る」
「あーキュルケおねえちゃんずるーい、サイトおにいちゃんは将来アイがお嫁さんになってあげるんだもんね!」
 と、学院一のナイスバディの持ち主と、10歳にも満たない幼女に抱きつかれて、才人は意識を回復できない
ままに、またルイズに頭を踏みつけられて自分の状況を知ることもできずに死線をさまよう。
 ただ、ルイズが怒っているのにこっちは平然としているシエスタを見て、ジェシカが不思議そうに言った。
「あらシエスタ、あなたは怒らないの?」
「あの二人はいいんです。ミス・ツェルプストーはミス・ヴァリエールをからかって楽しんでるだけですし、アイちゃんは
お兄さんのことが好きってことですから」
 なるほど、こういう点ではシエスタのほうが多少経験値があるようだ。
 けれど、油断していたら思いもよらない相手に足元をすくわれることにもなりかねない。さて、誰が勝つことやら。
のんびりと我関せずと見ているタバサだけが、蚊帳の外から嵐を見ていた。
 と、そのとき屋根裏部屋のほうからルイズの爆発にも劣らない爆発音がして、窓から煙といっしょにドル、ウド、
カマの三人組が顔を出した。
「ごほっ! ごほっ! あーっ、コが、ごほっ! おンがぁ!」
「げほっ! だから無理だって言ったのに、ここはもうダイ、げほっ! もいないんだし平和に過ごしましょうよ」
「がほがほ……あー、サイトくーん、もう行っちゃうのぉ、お姉さんざんねーん、また来てねーっ!!」
 その野太いオカマの声で、才人の意識は一気に目覚めた。
「はっ、お、おいお前ら、さっさと行こうぜ!!」
「あっ、ちょっと、サイト待ちなさいよ!! まだ話は済んでないんだから!!」
 慌てて駆け出した才人を追ってルイズも走り出し、一行も苦笑しながら後を追う。
「やれやれ、じゃあ失礼します。お世話になりました」
「どういたしまして、これからも『魅惑の妖精亭』をごひいきに」
 スカロンとジェシカ、そして店員の女の子たちの笑顔に見送られ、一行は元気よくトリスタニアを後にした。



 後半部へ続く。




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