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世界最強コンビハルケギニアに立つ-07




「ミス・ヴァリエールが召喚したのは『ガンダールヴ』です!
 これが大事じゃなくてなんなんですか!オールド・オスマン!」

同時刻、トリスティン魔法学院学院長室。
そこではオールド・オスマンと呼ばれた仙人のような見た目の老人が、顔を真っ赤にしたコルベールから何事か力説されていた。

春の召喚の儀式でルイズが平民を二人も――それも片方は瀕死だった――召喚してしまったらしい。
そのうち片方と契約する運びになったわけだが、
その際に浮かび上がったルーンが始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』のものと酷似している、ということだった。

オスマンはそのルーン文字のスケッチをじっと眺めていた。

「ふむ、確かによく似ておる」

その形状は確かに『ガンダールヴ』のルーンとよく似ているように思えた。
しかし――とオスマンは続ける。

「それだけでそう決め付けるのは早計じゃろう」

『ガンダールヴ』は六千年前に始祖ブリミルに使役されていた使い魔であり、いかんせん情報が少なすぎる。
伝えられているルーンの形状とて正確かどうかわからないのだ。
判断するのはもう少し材料が揃ってからでも遅くはないだろう。オスマンはそう心中で結論付けた。

そのとき、学院長室のドアがノックされた。

「誰じゃ?」
「私です、オールド・オスマン」

扉の向こうからオスマンの秘書であるミス・ロングビルの声がした。

「なんじゃ?」
「実は・・…」

ロングビル曰く、ヴェストリ広場で決闘をしている生徒がいるということだった。
しかもそれを止めようにも生徒たちに阻まれ、教師は近付くこともできないらしい。
仕方が無いので決闘を止めるために秘宝である『眠りの鐘』を使用させてほしい、というわけである。
オスマンはがっくりと肩を落としため息を吐いた。
禁止されている決闘を行おうとしている生徒たちにも困ったものだが、
それ以上に「現場に近づけないから秘宝を使わせてほしい」と言ってのける教師陣が情けないことこの上ない。
たかが子供の喧嘩を止めるために秘宝を使ってられるか、それくらい自分たちで止めろと言いたかった。

「はぁ……で、誰が暴れておるんだね?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン」
「あのグラモンとこの馬鹿息子か」

ギーシュの父は色の道ではかなりの剛の者である。
そしてその才能は見事に息子にも受け継がれており、ギーシュも父同様、下手するとそれ以上の女好きであった。
おおかた決闘の原因は女の取り合いだろう、アホらしいことこの上ない。

「で、相手は誰じゃ?」
「それが……ミス・ヴァリエールの使い魔です」

オスマンとコルベールは顔を見合わせた。
噂をすれば何とやら、である。

「ふむ、『眠りの鐘』はいざとなったら私が使用するのでもう少し様子を見るよう伝えなさい」
「わかりました」

ミス・ロングビルが去っていく音が聞こえた。
オスマンはコルベールと頷き合うと、壁にかかった大きな鏡に向かい杖を振るう。
鏡が映し出したのは生徒で埋め尽くされるヴェストリ広場、そして大男が金属製のゴーレムを吹き飛ばした瞬間であった。



広場に集まった生徒たちはその光景を呆然と眺めていた。

如何なる力が加えられたというのか、金属から造り出された重量のあるはずのゴーレムの身体が大地から切り離され、
そのまま地面スレスレを滑るように飛んでいた。
ゴシャ、という鈍い音とともにワルキューレが地面に叩きつけられる。だがそれでも止まらない。
おそらくは衝撃で壊れたのだろう、いくつかのパーツがワルキューレの身体から外れ、周囲に撒き散らされた。
地面との衝突で勢いが幾分削り取られ、その軌跡は緩やかな放物線へと変化する。
そこでようやく予想進路にいた生徒たちはこのままでは自分たちの方に突っ込んでくることを理解した。
理解しても彼らは動くことができない、金属製の人型ゴーレムが飛んでくるなどという光景はあまりに彼らにとって現実味がなさすぎた。
そんな生徒たちの眼前、距離にして約1メイルにワルキューレは着弾し、ようやくその動きを止めた。
尚、その瞬間に飛び出した部品を顔面に食らい、最前列にいた小太りの少年が気絶したことを付け加えておく。

「おいボー。てめぇ吹っ飛ばすならもう少し加減するか方向考えろ」
「すまん、気をつける」

誰かがそんなことを言った。
おそらくこの広場で今現在まともに脳が働いているのは、今言葉を発した二人だけだろう。
その他の者たちは皆、ワルキューレを吹き飛ばした人物か『数秒前までワルキューレだった金属のカタマリ』を呆然と見つめていた。
金属塊は所々パーツが欠落し、残っているパーツも盛大に歪み、背中であったと思しき場所は何箇所も陥没している。
これだけの破壊に晒されて形が残っているかどうかはまた別の話だが、これが生身の人間だったら見事な惨殺死体である。
皆、頭が混乱していた。
一体何をどうしたら素手でこんな破壊の力を行使できるのか、まったく理解出来なかった。

「言い忘れたが小僧、魔法を使っても何しても構わんが私が勝ったら一発殴らせろ」

何か、死刑宣告に近い言葉が発されたような気がした。


ギーシュ・ド・グラモンもまた、その思考が微妙に凍り付いている者の一人である。
何か言わなくてはならないし、何か行動を起こさないとならない状況のような気はするものの、なにもできない。
ただ、一つだけ確かなことがあった。
貴族が平民に劣る、そんなことは断じて認められないということ。
それは小さな貴族である彼なりの矜持だった。

「す、少しはやるようじゃないか」

精神力を総動員して言葉を紡ぎ出す。
若干負け惜しみのように聞こえるがそんな細かいことを気にしている余裕はない。
杖を振るい、六体のゴーレムを作り出す。
これが自分の出し得る最大兵力であると考えると、ギーシュはとてつもなく不安になった。
素手でゴーレムを吹き飛ばしておいて涼しい顔をしている人間らしき何か相手に、果たしてこれで足りるのだろうか。
だが彼に選択肢はないに等しかった。
自分から挑んだ決闘で相手を畏れて許しを請うなどという無様な真似は、彼にはとてもできないことだったから。

「行けぇ!ワルキューレ!」

畏れを振りはらわんと、力の限り叫ぶ。
六体のワルキューレがボーを取り囲み、踊りかかった。

「ふんッ!」

それに応えるかのようにボーが跳躍する。その先には一体のワルキューレ。
空中で二発、『ジャブです』といわんばかりの速度で右足の蹴りが放たれる。
再び金属のひしゃげる音が響き、顔面と胸を陥没させたワルキューレがそのまま後ろへと倒れこんだ。

着地と同時、ボーの姿が掻き消える。
そして、何か硬いものと硬いものがぶつかり合う音。
見れば、二体目のワルキューレが地面に叩きつけられていた。
ギーシュは目の前で何が起こっているのかまるで理解が出来なかった。
三体目が吹き飛ぶ。
攻撃も防御もまったく間に合わない、そもそもボーの姿を目で捉えることすら出来ないのだ。

ボーは感触を確かめるように動き回り、ワルキューレに打撃を加えていく。
三発ほど拳を突き入れた辺りで四体目のワルキューレが宙を舞った。
動きの切れは本調子とは言い難く、せいぜい6・7割程度でしかない。
それでも昨日瀕死の重傷を負っていたことを考えると及第点は与えられるだろう。
この世界の医療技術、すなわち魔法には頭が下がる思いであった。
あのままだとおそらく自分は死んでいただろうとボーは考えている。
持ち前の精神力でなんとか意識を繋ぎ止めてはいたものの、何かが自分の身体から抜け出していこうとしていた実感はあった。
アレがおそらく魂とか命とか、そういったものなのだろう。
そんなことを考えながらも動きは止めず、五体目の背後に回りこみ全力の蹴りを後頭部に見舞う。
ワルキューレはその場で縦に一回転し、大地に突っ伏した。

「うぬおおおおおおおおお!!」

一度その場に立ち止まり、吼える。
そして最後のワルキューレに向かい、大地を全力で蹴った。
距離は一瞬で詰まり、ボーは腕を振りかぶった。

「分身烈風拳ッ!!」

叫びとともに放たれた技はあまりにも異質だった。
ワルキューレを取り囲み動き回る『四人の』ボー・ブランシェ。
一瞬だけ存在した彼らがほとんど同時に放った拳がワルキューレにめり込む。
グシャ、という鈍い音。
合計で四発の拳をそれぞれ別の方向から食らったワルキューレは、その場にゆっくりと崩れ落ちた。

「これで終わりか?小僧」

挑発するでもなく、勝ち誇るでもなく、ただ確認するような声音。
逆にそれによって敗北という事実を突きつけられ、ギーシュはその場にへなへなと座り込んだ。

「ま、参った」

彼にはもう戦意などという物は無い。
ボーはその様子に満足したのか、ゆっくりとギーシュの方へ歩みを進める。
ギーシュはただそれを呆然と見ていた。
最初は平民と侮った。
メイジである自分が負けるはずは無いと信じていた。
結果、いとも容易く敗北した。
どうしようもない力の差、そしてどうやっても勝てないという現実。

「ひ、一つだけ聞いてもいいかな」
「何だ?」

眼前には大男。
ギーシュが見たこともない鍛え抜かれた、大きな体躯。
冷静になれば何故こんな強そうな男に喧嘩を売ったのだろう、という後悔がこみ上げてくる。

「君は……スクウェアクラスの風メイジかい?」

それはここにいる者たちほぼ全ての抱いた疑問だった。
ボーの動きは『偏在』を多用したものであると仮定すれば辻褄は合う。
だが、そうであると断言するには彼の動きはあまりにも異質だった。
あれだけ『偏在』を出したり消したりするのは精神力の無駄であるし、なにより彼の杖も詠唱した姿も誰も見ていない。
それにメイジであるなら、拳など使わずとも魔法でワルキューレを破壊すればいいだけの話だ。
拳でゴーレムを破壊できるほどに肉体を鍛え上げたスクウェアクラスのメイジなど、誰も見たことも聞いたことも無い。
そもそもゴーレムを素手で破壊する人間というのがありえないのだが。

「スクウェアだかNINTENDOだか知らんが、私はメイジなどではない。お前たちの言うところの平民だ」
「では最後のアレは?あれが『偏在』でないなら何だと言うんだい?」
「分身の術だ」

誰もその言葉の意味を理解することが出来なかった。

「日本の忍者に憧れ、特訓の末編み出した必殺技だ。どうだ、かっこいいだろう」

ボーが誇らしげに胸を張り、さわやかな――いや暑苦しい笑みを浮かべる。
聞いたことが無い単語が先ほどから乱舞しているものの、その『ブンシンノジュツ』というものがすごい技だということは誰もが理解できた。
かっこいいとも思いはするのだが、何故かこのボーという男の前でそれを認めるのは憚られた。

「さて、では約束どおり一発殴るぞ。目を瞑って歯を食いしばれ」

その一言にギャラリーが息を呑む。ギーシュもまた死を覚悟した。
ワルキューレを破壊するような拳で殴られたら死ぬに決まっている。
これまでの人生が走馬灯のように駆け巡った。
出来るならもう少し生きたい、泣かせてしまったレディたちに謝りたい。
だがそれはもう無理だろう、そんな諦めを心に抱きながらギーシュは目を閉じた。

「ああ、すまないが僕が死んだらブゴッ!」

遺言を口にしている最中に拳骨が脳天に直撃し、ギーシュは思いっきり舌を噛んだ。

「いいい今しゃべってる途中だったじゃないか!」
「む、悪い。目を閉じたから準備が出来たものだと」
「僕だって最期に言い残すことくらいあるよ!……ってあれ?生きてる?」

頭を押さえながらキーシュはきょろきょろと辺りを見回す。
目の前には身を屈めたボー。
そこはやはりヴェストリ広場であり、ギャラリーがこちらを唖然とsして見ている。
次に自分の身体を確認するが、やはり何も変わらなかった。

「……小僧、まさか私が殺すつもりで殴るとでも思っていたのか?」
「ち、違ったのかい?」
「当たり前だ!!」

ボーが吼える。
どうやら本当に殺すつもりは無かったらしい。

「私は女子供を手にかける趣味は無い。それに最初に躾だと言っただろうが」
「も、申し訳ない」

憮然とした表情でボーがギーシュを見ている。
ギャラリーから苦笑が漏れた。どうやらボーへの恐怖が今のやり取りで若干和らいだようである。
ギーシュもまた、目の前の男への恐怖心が少しだけ和らいだのを感じていた。

「いいか小僧、これに懲りたら二度と不貞は働かんことだ。それと自分の失敗を他人のせいにするな」

気を取り直し、ボーが言葉を紡ぐ。
しっかりとギーシュの目を見つめ、まるで教師や父親のような口調で。

「わかったか?」
「は、はい」
「よし」

ギーシュの返答に満足したのか、ボーは大仰に頷く。
そしてギーシュの頭をポンと一度叩くと、ゆっくりと立ち上がった。

「わかったのなら先程貴様が泣かせた二人には謝っておけよ」

そう言い残し去っていく大きな背中を、ギーシュはしばらくの間ぼんやりと眺めていた。




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