あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

THE GUN OF ZERO-21a



 授業の終わった午後。
 最近ルイズは学院内のテラスでクォヴレーにお茶を入れさせ、優雅にティータイムをするのが日課だ。ツェルプストーもこのごろクォヴレーを諦めたのか周りにいないし、実に心安らぐ時間だ。
 ただ、今日だけは事情が違った。
 王党派の盛り返しで、徐々に薄くなっていたアンリエッタのゲルマニア皇帝との縁談話は、今回の事態を受けて完全に立ち消えとなっていた。それは良い。しかし、ウェールズ皇太子は……
「クォヴレー、本当に王党派とレコン・キスタを襲撃した奴の居場所は分からないの?」
「残念だが不明だ。奴はおそらく半年以上前からこの大地に潜伏していると思われるが、俺は昨日まで奴も誰かに召喚されている可能性を考えはしても、何ら証拠は見つけられなかった」
「もう!なのに昨日はスキヤキだかなんだかでさぼってたの!?何やってるのよ!役に立たない!」
「あのなぁ娘ッ子……相棒がそいつを探すために裂く時間を二時間に制限してるのはどこのどいつだよ?」
「う、五月蝿いわね!……そいつを探してただなんて、昨日知ったばかりなんだから!」
 デルフリンガーの至って正論の突っ込みにたじろぐルイズ。
「わ、判ったわ!明日からは私が授業時間の間も、そのユーゼスって奴を探しなさい!そして必ず倒して、ウェールズ様の敵を討つのよ!」
「了解した」
 とはいえ、と考え込む。
 既にこの一月余りの間に、この惑星上はくまなく探したつもりだ。しかしジュデッカはともかく、ネビーイームの戦力は簡単に隠せるものではなく、かなり目立つはずだ。それを隠しおおせているということは
(この、宇宙のどこかに隠れている可能性もあるか)
 そうなれば発見は絶望的だ。
 どんなに小さな世界とはいっても、一つの宇宙なのだ。恒星一つの陰に隠れてやり過ごされれば、簡単に自分は通り過ぎてしまうだろう。
 正に砂漠に落ちた針を拾う如しである。
 囮役になってくれたマサキやリュウセイの成果に期待するしかないか。
 正直あまり取りたくない戦法ではあるのだが、自分が囮にならないことはこの一月の間に証明されている。ユーゼスにとっての餌になるはずの二人に頼む他はない。
「お茶を飲みながら下男に命令するだなんて、偉くなったものね?おちび?」
 ぴきーんとティーカップを傾けていたルイズが固まる。
「あ、ああああ……姉さま!?」
 カップを置き、慌てて椅子から立ち上がるルイズ。そこには見事なブロンドの美女がたっていた。
「あなたの姉が来たというのに飛び退くとはどういうつもりかしら?」
 不機嫌を露わにしながらルイズにつかつかと近づく。
(姉?)
「と、飛び退くだなんてそんな……」
「久しぶりに会いに来たのに随分な挨拶ねぇ?ちびルイズ」
 ルイズのほっぺを掴み、上下左右に引っ張り動かす。
「いひゃいいひゃい!やめへふははいあえはま!」
(ルイズの姉か……)
 成る程、髪の色が違うが髪質顔立ちはとてもよく似ている。
 ぐにぐにと妹の頬を引っ張っている女性を眺めながらそう認識するクォヴレー。
「ふんっ!」

 ようやくルイズから手を放して腕を組む。
「全く、何で私がこんな所まで来なければいけないのかしら!」
「あのぅ……姉様はなぜここに?」
 痛むほっぺたにクォヴレーが水差しでぬらして差し出してくれたハンカチを当てながらルイズが尋ねる。
「おかしな噂が流れてるのよ」
 不機嫌そうに目を瞑りながらそれでも話す。
「おチビが悪魔を使い魔にしているだとか、実はその悪魔に魅入られて操られているんだとか」
(あの噂、学院から外に漏れているのか)
 背中でデルフリンガーが楽しそうにカチカチと鍔を鳴らした。
「それにお父様が心配されて、もし本当に操られているのなら手紙で言っても聞かないだろうからあなたと使い魔を連れて来いって……ああ、もう!ルイズが呼び出したのはメイジ殺しの銃を持った平民だから悪魔の筈が無いでしょう!なんでわざわざ私が!」
(……俺の銃のことを知っているのか)
 クォヴレーのあずかり知らぬ所ではあるが、オスマンがコルベールに提出させたコルト・パイソンの持ち込まれた王立魔法研究所はルイズの姉の勤務先である。
「ああ、理由は分かりました」
「わかったら!さ、ルイズ!とっとと使い魔を連れてきなさい!」
「俺がルイズの使い魔です」
 ひょいとクォヴレーが手を挙げた。
「……は?」
 ひゅう~と風が吹き抜ける。昨日のように寒い風が吹く。
「あのね平民。私は冗談を聞いている気分ではないの。今なら許してあげるから、とっととどこかに行きなさい」
「いえ姉様、本当です。このクォヴレーが私の使い魔なんです」
 ルイズがクォヴレーを手で指し示した。
「……これが?こんな細っこい平民が?」
「ええ」
 クォヴレーの頷きにしばし目をしばたたかせていたが、やがて笑い出す。
「おほほほほほほほほほほ!メイジ殺しの銃を持つ平民と聞いていたから、どんなに屈強な野蛮人かと思えば、こんな貧弱な子供だったなんて!」
「おーい相棒、言われてるぞ?」
「こちらを嘗めてかかる分には問題はない。敵であるならば御しやすいし、味方でも過剰な期待はかけられない訳だからな」
「……相棒にとっての実力より過剰な期待って、そりゃもう誰にも出来ねぇって事じゃねぇのかい?」
 クォヴレーの背でデルフリンガーがぼやく。
「こんな平民が使い魔だと知れば、お父様も安心出来るでしょうね!」
 しれっと流しているクォヴレーとは対照的に、ルイズは笑う姉を見て、何だか沸々と怒りが湧いてきた。
 クォヴレーは、ルイズにとって初めて成功した魔法の証とも言える存在だ。それが笑われて、いい気がするはずもない。
(アストラナガンを見せれば姉様だって……!ってそっか、見せつけてやればいいんじゃない!)
 悪戯を思いついて、心中ルイズはほくそ笑んだ。
「ところでルイズ、彼女は姉でいいのか?」
 クォヴレーが尋ねかける。
「ええ、私の一番上の姉様よ」
「エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールよ、覚えておきなさい、平民」
「はい」
(俺を名前で呼ぶ気はさらさら無さそうだな)
 ルイズの高慢さを煮詰めていけばこんな感じだろうか。

「では姉様、私達は急いで帰らねばならないんですね」
 そのルイズが妙にきまじめな面持ちで姉に尋ねた。
「そうよ!わかったらとっとと準備なさい、ルイズ!」
 エレオノールの剣幕にも動じず、クォヴレーに向く。
「というわけなのよ。私達はすっごい急いでいるわ、クォヴレー」
「アストラナガンか?」
「ええ、すぐに出して頂戴」
「わかった」
 使い魔と妹の会話が理解出来ず、エレオノールは更にイライラを募らせる。
「ちょっとルイズ、何を話しているの?」
「乗り物の準備をと思いまして」
「入り口に馬車があるわよ!そんなことより……!」
「馬よりもずぅっと早いんですよ、姉様。あれなら屋敷との日帰りも出来るほどなんです」
 にんまり笑うルイズの後ろ。
「テトラクテュス・グラマトン」
 クォヴレーの声が聞こえて、続けて風が吹き出して……。
「えtr”b”:frzbyw”¥ーっ!」
「きゃあああああああぁぁぁぁぁ!?」
 悪魔王の咆吼とエレオノールの悲鳴が響き渡った。
「最近はやけに吠えるな、アストラナガン」
(や、やっぱりちょっと怖いわね……)
 三度目、しかも今度は完全に自分の意思で呼ぶように命じたはずだが、それでもその咆吼には恐怖を覚える。
 だが、心の準備が出来ていたルイズは良い方だ。
「あ、ああああ、あく……あく……」
 完全に腰が抜けてへたり込んでしまったエレオノールは、もはやディス・アストラナガンを見上げて呻くだけだ。
「姉様、これがクォヴレーの半身、ディス・アストラナガンです」
 優越感を前面に出した誇らしげな表情でルイズは姉に告げた。
 姉の引きつった表情を見ていると、何だろう?胸が軽くなっていくような気分を覚える。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、その16年の生涯に置いて初めて姉より精神的に優位に立った瞬間であった。
「……ルイズ、着替えてきても構わないか?」
「部屋に戻るなら、私の小物入れも持ってきなさい。どうせすぐ帰るでしょうけど一応ね」
 買い与えた服を見下ろして困惑顔のクォヴレーに部屋の鍵を手渡してやる。
「判った」
 一つ頷くとタッとクォヴレーは走っていった。その姿を見送って気づいたが、周りに人が集まってきている。叫び声は学院中に聞こえただろうから当然の事か。
「るるルイズ!?何なの、これは!」
 どうにか呂律が回るようになったエレオノールが尋ねる。
「ですから、これはクォヴレーのディス・アストラナガンです。クォヴレーが悪魔という噂の発端も、これだと思います」
 しれっとそういってみせる。
「でも安心して下さい。単なるゴーレムですから。ちょっとガーゴイル的な要素もあるようですけど」
「ご、ゴーレムなの……、これが」
「あら、もしかして姉様……怖がってます?」

 にやり、とルイズの頬が持ち上がる。食堂でギーシュを追いつめた時以来のサディスティックな気分だ。
「ば……馬鹿も休み休みに言いなさい!おチビ!魔法の使えないはずの平民が、いきなり巨大なゴーレムを呼び出したから驚いただけです!」
 引きつった顔ながら、必死に矜持を保とうとする姉。
「そうですね、ごめんなさい姉様。姉様は私とは違いますもの。この程度で怖がったりはしませんよね?」
 素直に謝ってみせる。
 まったく、失礼なおチビだこと!等と怒って居るが、ルイズは既に気づいている。座り込んだ姉が先程から全く動いておらず、おそらくは腰を抜かして動けないのであろうことを……!
 クォヴレーが着替えて来るまでのあいだ、結局エレオノールは座りっぱなしであった。
「……学院長から咎められてしまった」
「仕方ないわ。急いで帰ってくるように言ったのはお父様だもの」
 戻ってきたクォヴレーの言葉に首を振りながらルイズは言った。
「ああ、その旨を話したら渋りながらだがあっさりと引いてくれた。ルイズの家の力というのは凄いんだな」
 感心したようにクォヴレーが言った。
「ふふん、まぁこんなものよ。さ、クォヴレーも来たことですし、乗りましょうか姉様」
「の、乗る?あれに!?」
「ええ。そのために出したんですから……それとも姉様、やっぱり怖いんですか?」
「じょ、冗談ではないわ!このラ・ヴァリエール家長姉である私が、た、たかが平民が操るゴーレム如きを怖がっているとでも!?」
 末妹の挑発に面白いように乗ってくる姉。プライドの高さもこうなると滑稽でしかない。
「た、ただ、私が乗ってきた馬車は……」
「御者に帰るように言えば問題ないでしょう。クォヴレー」
「ああ」
 促されるまま、ルイズをお姫様抱っこで抱え上げてディス・アストラナガンの掌に乗り、コクピットに近づけてから飛び移る。
「姉様もどうぞこちらに。レビテーションを使えばすぐでしょう?」
 にっこりと、天使のような悪魔の笑顔を浮かべてみせるルイズ。
「い、いいいいえ!考えてみれば、急がなければならないのはおチビと使い魔だけでしょう?私はあとからゆっくりと……」
「ご遠慮なさらずに。さ、どうぞ」
「だ、だから私は……」
「フフフ……」
 天使のような悪魔の笑顔から一転、明らかに悪い笑みを浮かべるルイズ。
「姉様らしくないわね、こんなに遠慮するだなんて。クォヴレー、直接つかまえてここまで連れて差し上げて」
「……了解した」
 まぁ、別に他に害を及ぼすような無理難題でもない。ため息を一つ尽き、命じられたままにエレオノールへディス・アストラナガンの腕を伸ばす。
「ひゃあああ?!」
 悲鳴を上げて後ずさるより早く、その体を掴み上げられ、コクピットへ手が持ち上げられる。
「さぁ姉様、ってあら」
 アストラナガンの手の中で、エレオノールは気絶していた。


公爵家

 気絶していたエレオノールを起こし、改めてディス・アストラナガンの裡へと誘って、銃神が空を飛ぶ。
 魔法で空を飛んだことも有る分か、エレオノールは全天周型モニターにもルイズほどの過敏な反応は示さなかった。ただ、自分が一体何の内側にいるのかということを考えているため、あまり顔色は良くなかったが。
(こ、このまま消化されたりしないでしょうね!?)

 それでも必死で作り笑いを浮かべ続けているのは、全然平気な顔をしている妹への矜持からである。姉は大変なのだ。
 さて、ルイズによる視覚の案内で飛ぶため、現在アストラナガンは高度も速度もかなり落としている。それでも、もう既にアストラナガンはヴァリエール領内に突入していた。
「い、言うだけあって、なかなか早いのね……」
 相変わらず引きつった笑みを浮かべつつ、それだけ言う。
「はい、もちろん。あ、クォヴレー、あのお屋敷よ!」
「わかった」
 ルイズの指し示した建物へ若干の進路修正を行い、着陸態勢に入ろうとしたところで機体の警告音が響く。
「なに!?」
 驚きの言葉を口にするが早いか、アストラナガンがバレルロールを行う。数瞬遅れて、エネルギーの光弾がその空間を通過し、地面に着弾。クレーターを形成した。
「きゃあああぁ!?」
「な、なんなの!」
 同乗者二人の悲鳴が上がる。そちらへ応対する前に、クォヴレーは機体の高度を上げ体勢を立て直す。
「ミシュレイ!?それに、メギロート!」
 その機体を確認し、クォヴレーは目を見開いた。
「バカな、奴め今更何のつもりだ!」
 ラアム・ショットライフルを抜き放ちざまに一発。散弾が今し方撃ってきた一番近いミシュレイを破壊する。
「く、クォヴレー!?何なの、この、虫と鳥!」
「奴の……ユーゼスの手駒だ」
「ユーゼス!これが?」
 怨敵と認識し、キッとルイズの目がにらみ付ける。
「ちょ、ちょっとおちび!一人だけ納得していないで説明なさい!」
「あいつらはウェールズ様を殺め、アルビオンを壊滅させた奴の手下なのよ、姉さま!」
「アルビオン……?きゃああああ!」
 エレオノールが説明を求める最中、メギロートの発する円形のレーザーがディス・アストラナガンに向けられる。
「ディフレクト・シールド、アクティブ。そんなもので、このアストラナガンを止めることは出来ない」
 ニヤリ、と口元をゆがめクォヴレーが呟き、サークルレーザーは機体周囲の力場を輝かせるだけで終わった。
「お、相棒、調子出てきたみてーだな」
 デルフリンガーのつばがかちゃかちゃと囃し立てるように鳴る。
「ルイズ!アルビオンを壊滅させた連中が、何故私たちを襲うのよ!」
「こいつらはクォヴレーの敵でもあるのよ」
 そうよね、と使い魔を見やる。
「ああ。……敵機補足、メギロート10、メギロート・アフ15、ミシュレイ9、ミシュレイ・アフ15」
 先程撃ち落とした分をあわせれば総勢50機か。
「1対50ですって!?平民!早く私たちを安全な場所に下ろしなさい!すぐに!」
 冗談ではないと、エレオノールが必死に命じる。
「ダメだ。下ろしているときに狙い撃ちされれば余計に危険だ。このまま奴らを殲滅する」
「殲滅って……ちょっと平民!判っているの!?あんな大きな虫や鳥を相手に……!」
「娘っこの姉ちゃん、ちょっと落ち着きなって。自分が一体何に乗ってるか、覚えてるか?」
 デルフリンガーの言葉に、ハッと口をつぐみ、エレオノールはルイズをつつく。
「ルイズ……あなたの平民、勝てるんでしょうね」
「え?え、ええ、もちろんよ姉さま!」

 ルイズは、姉からの問いかけを受け初めて気づいた。自分は、このディス・アストラナガンの戦闘能力は一切なにもクォヴレーから知らされていない。
 負けるとは欠片も思っていなかったし、現実、即座に一機破壊したクォヴレーが負けるとは今も思わないが、クォヴレーのことを把握しきれていなかった自分に、何か違和感を覚えた。
「来るか!」
 キッとクォヴレーが異形の軍勢をにらみ付ける。
「数秘予測……狙いはもう付いている。俺の敵を破砕しろ、ガン・スレイヴ!」
 ディス・アストラナガンの背中がごそごそと蠢き、コウモリのような翼をした5機の移動砲台が宙を舞う。
 それらが個々にメギロートを追い、撃破していく。
 空戦が展開されている隙をつき、別の方向からミシュレイ・アフの部隊が近づいてくる。
 ディス・アストラナガンは急劇に高度を下げ、地表ぎりぎりで滞空、反転。自身を追ってきた敵が一直線になったのを目視で確認する。
「ゲマトリア修正……メス・アッシャー、マキシマム・シュート!」
 ダーク・マタを応用したエネルギーの奔流が空を裂き、十数機を消滅させる。
「相棒!」
「後ろか!」
 デルフリンガーから注意を喚起されるのとほぼ同時に機体を反転させ、そちらから接近していたメギロート・アフと正対する。
「Z・Oサイズ……」
 ラアム・ショットライフルを展開。ディス・アストラナガン手に大鎌を握らせる。
 突撃を敢行してきたメギロートの鼻先に合わせて刃を振るう。
「切り裂け!」
 まっぷたつになったメギロートに、すぐさまライフル形態に戻したラアム・ショットライフルを向けて引き金を引く。
「そして打ち砕けっ!」
 バッと爆光を上げてメギロートが散る。
「上からも!」
 直上から、数少なくなったメギロートの一機が突進してきてその6つの足で組み付いてくる。
「ぐ……!」
『きゃああああああ!?』
 機体にかかる衝撃に姉妹が悲鳴を上げる。
 上空から落下してきた勢いを殺せず、ディス・アストラナガンは地上に足を着く。そのまま機体の推力で地表面に轍を付けながら、きりもみ状態で超低空飛行をし、体勢を立て直して地面の方にメギロートを押さえつける。
「潰れろっ……!」
 地表面との摩擦に耐えきれなくなり、やがて爆発四散するメギロート。残った絡み付く多足をふりほどき、再度高度をとる。
 ビシビシとディフレクト・シールドにミシュレイからの砲撃が当たる。
「破壊する」
 右のメス・アッシャーのみを展開し、照準に収める。
「メス・アッシャー、クォーターシュート!」
 半分の出力でメス・アッシャーを掃射する。残っていたミシュレイ、メギロート達をガン・スレイヴの勢子で追い込み、壊滅させた。
「……敵機、反応消失。Aクラス警戒に移行……」
 ほぅ……とため息をつき、残敵の掃討を続けていたガン・スレイヴが背中に戻る。
「サイバスター、R-1へメール送信。ディス・アストラナガンへ襲撃有るもこれを迎撃。各員の状況報告を求む」
 簡潔にそれだけ述べると、同乗者二人へと目を移す。
「大丈夫か、ルイズ」
「ええ……」
 ショックアブソーバーにより怪我などはないが、それよりも戦闘に気圧されている方が大きい。

「エレオノール……さんも、大丈夫ですか」
 正直、このルイズの姉との精神的距離を未だ掴みかねているクォヴレーはとってつけたような敬称付きで尋ねる。
「あ……ああ、まったく……もう少し丁寧に動かして欲しいモノだわ!」
 一瞬、惚けた顔をしていたが、すぐに目に力を取り戻すとクォヴレーへ文句をぶつけつつ崩れてしまった身だしなみを整えた。
「すみません」
 格好を気にする余裕があるのなら大丈夫だろうと、小さく笑みを浮かべつつ謝辞を述べた。
「……それでルイズ、あの屋敷で良かったな?」
 主へ確認を求めるクォヴレーの指さす先には、この騒動に反応して人が出てきている屋敷があった。



 久しぶりの帰宅。それも、圧倒的な力を伴っての。ルイズは得意の絶頂だった。



 パイロットスーツを開いて左胸から左腕の先までを露出させ、左手甲を軽く掲げる。
「これが、あるからか?」
「そ、そうよ!例えどんなに離れていたって、それがある限り……!」
「無ければ、良いんだな?」
「え……?」
 左手を掲げたまま目をつぶり、そっと呟く。
「テトラクテュス・グラマトン……!ディス・レヴ、ハーフドライブ!」
 記されたルーンは、抵抗するかのように激しく明滅を繰り返したが、三度の明滅で完全にその左腕から消滅した。
「……嘘……」
 元より、この程度のルーンを解除することなど苦労することでもなかった。それでもあえてルーンをその身に刻みその影響下に自身を置いたのは、ひとえにルイズの使い魔であらんとするクォヴレーの心意気だ。
 それも今は、意味を成さない。
「ルイズ、俺はもう居ない方が良い。居てもお前に迷惑をかけるだけだ」
 もう一度そう繰り返すと、呆然としたルイズの眼前でくるりと踵を返し、タッと駆け出す。
「ま、待って!待ちなさい!」
 我に返ったルイズが、


ハルケギニアの風

 シャルロットは自分の体が震えていることを自覚し始めていた。
 昨日の今日で、まさかエルフに繋がりのある人物とコンタクト出来るとは思っていなかったのだ。
 しかし、ふとミョズニトニルンの言葉が蘇る。
――私は何かを企んでいる。
 あの仮面の男は、こうなることを想定していたのか?
 いや、そんなはずはない。ランドール・ザン・ゼノサキスの事を報告していたのは自分で、その自分がつい今し方エルフとの繋がりを知ったばかりなのだ。
 よしんば、何か別の伝手でランドールとエルフの繋がりを知っていたとしても、自分がランドールを頼ったのは、シルフィードが勝手に近づいた事による偶然なのである。
 『偶然を操作出来る』のでもなければ意味がない。
――この事実を知ったところで簡単にはいかぬか。
 あの時の会話が再び蘇る。

 そうだ、あの男とて自分がまさかこんなタイミングでエルフとの繋がりを見つけるとは思っていなかったはずだ。つまり今、自分はミョズニトニルンを出し抜こうとしているのだ。
「さ、行こうぜ」
 サイバスターを指さしながらマサキが出発を促す。
「……これに乗る?」
「ああ、風の魔装機神の名前は伊達じゃねぇんだ。こいつに乗っていけばすぐだぜ」
「マサキが迷わなければの話よねぇ」
 不安げにクロがため息をつく。
「う、うっせぇ!」
「道案内は私がする」
 頷いて見せながらシャルロットが進言した。おおよそハルケギニアの地理は頭に入っている。
「あ、ああ。そうしてもらえると助かるぜ」
 鼻の頭を指で掻きながらマサキが応えた。
「きゅい!中に入れるの!?シルフィも入りたい!」
「お、おいおい無茶言うな!いくら何でもお前は無理だって!」
 慌ててマサキが制止して、コクピットハッチの大きさを示す。
 元々コクピットは一人乗りである。どっかの誰かさんはこっそりシート裏に隠れて乗り込んでいた事もあったが、いくらなんでもシルフィードの体が入るはずもない。
「む~、それなら!」



精霊憑依

「ぐあっ!」
 衝撃に、コクピットが揺れる。
「あにゃにゃにゃにゃ!」
「きゅいーっ!?」
 シロが定位置の台からずり落ちかけ、シルフィードが悲鳴を上げる。
「くっ……こいつら、あのメギロートとか言う奴と格が違いやがる……!」
 顔をしかめたマサキが呻くように言う。
 目的地であるオルレアン公領を目前に、サイバスターは襲撃を受けていた。
 デザインラインからすると、やはりメギロートと同様の組織のものか。
 だが強さがダンチだ。
 大きさや堅さのため、一機一機が超魔装機並みにタフネスで、結構な攻撃力もある。
 しかもそれが一度に10機。流石のサイバスターも追い込まれていた。
 マサキは知らなかったが、このロボットはヴァイクル・タンと呼ばれる機動兵器であった。ネビーイーム中枢であるジュデッカを守る役割を持っていた無人兵器である。
 こいつらが何故ここにいるのかは判らない。
 たまたまここで会敵したと言うには、陣形が防戦に特化している。
 かといって、シャルロットの母親に正気に戻られては困る連中――すなわち現ガリア王室がこれを指揮しているというのは、少々早計だろう。あるいはそういった情報をリークする存在が居るだけで、サイバスターを狙って行動を起こしたのかも知れない。
 クォヴレーの予想を信じるのならば、こいつらはサイバスターのラプラスデモンタイプ・コンピュータこそが狙いの筈だ。
「カロリック・ミサァァイルッ!」
 サイバスター胸部から打ち出される純粋熱量がヴァイクル・タンに直撃。表面装甲が融解するが、さほど堪えた様子はない。
 反対に自立機動砲台に周りを囲まれ、かろうじてそれらをかわす。
「マサキぃ、逃げようぜ?」
 シロが撤退を提案する。実際、サイバスターの大気圏内巡航速度は、転移を除けばディス・アストラナガンをも上回っている。現在のハルケギニアでは最速の存在だろう。
「バカヤロウっ!あいつら、シャルロットの屋敷を囲むように居やがるんだぞ!どう見たってこっちの邪魔してるんだ!ここで逃げたら、助けられねぇだろうがぁっ!」
 マサキの言葉に、暗い表情になるシャルロット。

――私は何かを企んでいる。
 ミョズニトニルンの言葉。
 まさか、自分がランドールを頼り、ここに連れてくることまでも予想していた?
 いや、違う!そんなことはない!
 自分がランドールを頼るのは余りにも偶然の要素が多すぎた!これはあくまでも偶然!偶然なのだ!
「きゅい!こうなったら、シルフィが外に出てあいつらを引きつけてやるのね!」
「だぁっ!暴れんな!何、馬鹿言ってやがる!あいつら、ハルケギニアの魔法なんざ比べものにならねえ位の火力を持ってやがるんだぞ!みすみす殺されに行くようなモンだっ!」
「でもでも、このままじゃあお姉さまがいつまで経っても……きゅい!?」
 再び走る振動に、シルフィードが悲鳴を上げる。
「……ランドール、もういい。無理はしないで」
 マサキの膝の上で、振り向いたシャルロットが言う。
「もういいっつったって、お前、母親はどうするんだよ!」
「薬はもう手に入れた。別の機会を待つ」
「あのなぁ!現状見てわかんねぇのか!?連中、俺たちの目的地を知って妨害してやがる!
あれを俺たちにぶつけてきた連中と、ガリア王室の連中がどういう関係にあるのかはわからねぇが、ここで退却なんてしたら、今度はお前の母親がどこかわからねぇ場所に幽閉されちまうぞ!」
「でも……!」
 その目に、明らかな困惑が浮かんだ。
「へっ!気にすんなってんだ。お前をきっちり無事に母親のところまで届けてやるからよ!」
 不敵な笑みを浮かべつつ、正面を見据える。
「どうするの?クォヴレーに援護を頼む?」
「いや、クォヴレーがこっちに来てくれる前に敵の方が援軍が来ないともかぎらねぇ。ここは速攻で潰す!シロ、クロ、集中しろっ!」
「ま、マサキ!もしかしてポゼッションをやるつもり……!?」
「ポゼッション……?」
 聞き慣れぬ言葉にシャルロットは首をひねる。
「この状況だ。仕方ねえだろ?全開じゃなく、半分で良い」
「で、でも……」
「それに、ここは結構精霊レーダーの感度もラ・ギアス並みに良い。地上より負担は少ないはずだ!」
 撃ち込まれるエネルギー砲を回避し、中空に静止する。
「サイバスター……判るな。クォヴレーの話が本当なら、この世界にこんな兵器はあるはずがねぇんだ。この世界の平穏を取り戻すためにも、一組の親子のためにも、お前の力を、俺に貸してくれ!」
 マサキの言葉が、ただコクピットに響き……
「きゅい!?」
 シルフィードが驚きの声を上げた。
 ざわり、とシャルロットも全身が怖気立つのが判った。
 何か居る。コクピットの中、いや、サイバスターそのものに、入り込んでくる……!
「はぁぁぁぁぁ……」
 低く、マサキが息を吐く音が耳を打つ。
「す、凄い!ホントに凄いのね!エルフにだってこんな事の出来る人は居ないのね!」
 シルフィードが驚きの声を上げる。
「何が、起きてる?」
 使い魔に尋ねる。
「ランドールは今、精霊そのものになろうとしてるのね!」
「精霊、そのもの?」
「精霊憑依(ポゼッション)……」
 ぽつりとマサキが呟く。

「魔装機神にはそれぞれ、上級の精霊が契約している。そして、その精霊からの力を最大限に発揮するために行うのが、精霊憑依だ」
「風の精霊でいぃ~っぱい!きゅぅい~」
 マサキの足下で、気持ちよさそうに鳴き声を上げるシルフィード。
「行くぜ……!サイバスター、GO!」
 煌めく粒子を放ちながら、夜闇の中を輝き駆ける。
「行け!ハイ・ファミリア!」
『判ったにゃん!』
 二体のハイ・ファミリアを射出し、自身はバニティ・リッパーをサイバスターに握らせ、一番手近なヴァイクル・タンに向かう。
「ハッ!」
 プラーナを上乗せした斬撃に、まっぷたつに切り捨てられるヴァイクル。
 そこへエネルギー砲がサイバスターの後部ウィングを直撃するが、サイバスターの纏う風の精霊のオーラに阻まれ、煤けもしない。
 くるりとそちらに向くと、スッとバニティ・リッパーをそちらに向ける。
 空中に光が走り、サイバスターの眼前に円にぴったりと収まった六芒星が描かれた。
「いけぇぇぇっ!アァァァカシック・バスタァァァ!」
 アカシック・バスター、アカシック・レコードに直接干渉を行い、攻撃目標を破壊するサイバスターの必殺技の一つ。
 それは三次元では火の鳥として視覚的に捉えられる。
 六芒星の光を吸い込むように現れた火の鳥に、サイバードに変形したサイバスターが突っ込み、そのまま敵に体当たりを敢行する。
 一機を粉砕するだけでは収まらず、勢子に回ったハイ・ファミリアに動きを制限されていた二機も次々に落とし、おまけで眼前に居た一機も落とす。
 変形を解き、バニティ・リッパーを再び握らせ、またたく間に数を半減させた残り全てのヴァイクル・タンを視界に修める。
「行くぜ!クロ、シロ!アシストを頼むぜ!」
 再度、ハイ・ファミリアを勢子に回し、半ポゼッション状態のサイバスターの全速で飛び始める。
「オラ、オラ、オラオラオラオラオラオラオラァ……!」
 空中を超高速で駆けめぐりながら、なで切りにヴァイクル・タン全てを斬りつけていく。
「これぞ秘剣!」
 最後の一撃を最外郭にいる一機に撃ち込む。
 いつの間にやらサイバスターの斬撃が五芒星を描いていた。
「バニティ・リッパー、乱舞の太刀!」
 呼び戻した鞘にバニティ・リッパーを戻すと同時に、全てのヴァイクル・タンが爆散した。
「……凄い」
 先程までの苦戦がウソのようだ。
「っく……う……」
「ランドール……!?」
「きゅい!?」
 シャルロットの後ろで、マサキが真っ青な顔をしていた。
「あちゃー、やっぱりこうにゃったか」
「押さえてるって言っても、やっぱり限度があるわよ」
 シロとクロが呆れたように言う。
「何が起きている?」
 心配げにシャルロットが尋ねる。
「プラーニャの消耗よ」
「プラーニャ……プラーナ?」
 猫語から修正する。
「そうそう。シャルロット達で言う魔法を使うための精神力みたいなものかにゃ。ポゼッションをした代償に、プラーニャをごっそり持って行かれてるんだよ、今のマサキは」
「そんなことより……下に降りるぜ。あの屋敷でいいんだよな……?」
 苦しげな表情のまま機体を操るマサキ。

「……苦しそう。どうすれば楽に出来る?」
「んなこと気にするな。少し休んでりゃ楽になるって」
 心配そうに顔を覗き込むシャルロットに、無理矢理に笑顔を向けてみせる。
「にゃーにかっこつけてるのかにゃあ?」
「照れてるだけよね?これは」
「う、うるせえぞ!お前等!余計なこと言ってみろ!三味線だからな!」
「はいはい。もう耳たこよ」
 おざなりにクロが返す。
「ま、あんまり言いふらすことでもにゃいのは確かだし。シャルロット、ひとまずお母さんのところに行きにゃよ」
 シロに促され、着陸したサイバスターのコクピットからシャルロットはレビテーションをかけながら飛び降りる。
「ああ、シャルロット様!」
「何と!あのゴーレムはシャルロットお嬢様のお連れでしたか!いやいや、あの巨大な異形のフネ達を一掃してしまうとは!」
 待ちかまえていた人々が、自分たちの主筋と認める少女の顔を見て安堵の表情を見せる。
「薬を持ってきた」
 スッとシャルロットが小瓶を見せる。
「薬……?まさか!」
「母様を治す薬。私が降りてきたあの穴に疲れている人がいる。これを手に入れる手伝いをしてくれた恩人。看病してあげて」
「おお!何と!そんな、そのようなことが……!いえ、話は後です!今は一刻も早くお母上のところへ!ああ、恩人の手当は引き受けましょう!」
 古くからの臣下に促され、母の元へとシャルロットは駆けた。



 6時間ほど経って日の昇る頃。
 案内された一室でマサキは大あくびをしながら上半身を起こした。
 恩人であるとしてもてなされたマサキは、疲れているので寝かせて欲しいと頼むと、この簡素ながらしっかりした作りの客間に通されていた。
 あれから眠って、今は完全にプラーナも回復した。ファミリア二匹も今は自分に格納している。
 さてどうしようかと思い、とりあえず部屋を出ようとドアを開いたところで、扉の外に誰か居た。
「おっと、すまねぇ」
「い、いえ!お目覚めでしたか!ゼノサキス様!」
 驚いた様子のメイドが慌てて佇まいを直す。
「朝食のご準備が出来ていますが、お召し上がりになりますか?」
「お、わりいな。そういうことなら頂くぜ」
 昨日寝る前に元に戻ったシルフィードに返して貰ったジャケットをベッドのそばから取って肩にかけながら、メイドの先導で廊下を歩く。
「というか、俺名前言ったっけ?」
 頬を掻きながら先行くメイドに尋ねる。
「昨日、シャルロット様より、ほとんどの者は話を聞いていますから、ゼノサキス様の事も存じております」
「ああ、そうか。んで、シャルロットはどうしてる?」
「シャルロット様はまだ公母様とお眠りになっています。昨晩はずっと公母様とお話をしていたようですから」
「そうか。久しぶりに母親とちゃんと話せるんだもんな。そうなるか」
 穏やかな笑みを浮かべるマサキにメイドが振り返って笑いかけた。
「これも全てゼノサキス様のおかげです。ありがとうございます」
 正直、様呼びはまだ背筋が薄ら寒かったが、結婚後にラングラン名を名乗り始めてからは結構あることなので、我慢する。
 二人も綺麗な妻がいる贅沢者への罰なのだと思って甘んじて受けていた。
「おお!ランドール・ザン・ゼノサキス様!」
 案内された部屋で一人の老人が、マサキの前で深々と頭を下げた。

「この度は、シャルロット様にご助力頂きまして、誠にありがとうございます!」
「いいって。んなに気にするなよ。俺はただ、仲介役をやっただけだ。昨日の戦いは、むしろ俺を狙っての事だろうからな。あんたたちが感謝することでもねぇ」
「いえ!例えそうだとしても、エルフ達との仲介を行って頂いただけでもこのペルスラン、感謝の極みです!」
 再び頭を下げるペルスランという男、このままいっては跪いて礼を言われかねないと感じて、テーブルの上の料理を指さしつつ話を逸らす。
「あーその……出来れば飯喰ってからでいいか?」
「おお!これは申し訳ありません!感激の余り……失礼しました。ささ!どうぞ!」
 椅子を引いて着席を促される。
「うん?この皿は……」
 椅子に座って気づいたが、側の床に魚の乗った皿が二枚置かれている。
「こ、これ!ゼノサキス様の使い魔殿も連れてくるよう言ったではないか!」
「ああ!す、すみません!私うっかり……!」
 ペルスランの言葉に、恐縮して部屋を出ようとするメイドを止める。
「ああ、いいっていいって。俺の使い魔はちょっと特殊なんでな。別に借りた部屋に行っても何も無いぜ」
「は?それはどういう……」
「ん、まぁ、折角用意してくれたもんだしな。出てきな、シロ、クロ」
 マサキの呼びかけによってパッと現れる二匹のファミリア。
「んにゃ!?」
「あらマサキ、おはよう」
 寝ぼけ眼ながら起きるシロとクロ。
「お、おお!?これは!話には聞いていましたが……本当に異界の騎士様なのですな」
 感心したように目を見開くペルスラン。
「騎士っつーか戦士だけどな。ま、立場としちゃこの世界の騎士と似たようなモンだ。ほれ二人とも、飯だとさ。ありがたくいただいとけ」
「お!それじゃあ早速……」
「もう、お行儀悪いわよ、シロ。それじゃあ頂きます」
 魚にかみつくファミリアを見て、自身もフォークとナイフを手に取る。
「んじゃ、俺もいただくぜ」
「ご満足いただけるまでどうぞ。食後にデザートも用意してありますので」
 満面の笑みでペルスランは頭を下げた。



 食後、しばらく経ってから、ようやくシャルロットは起きてきた。
 茶を楽しんでいたマサキがそちらに向く。
「おう、おはようシャルロット。どうだ、気分は?」
「上々」
 頷きながらそう答える表情は、どことなく楽しげだった。まぁその変化にはキュルケぐらいしか気づけないだろうが。
「そうか、そいつは……って何だ何だ!?」
 つづけてどやどやと人が入ってきた。10名にも満たないが、オルレアン家の境遇から考えるとこの屋敷にいる全員ではなかろうか?
 つい勢いに押されて立ちながら後ずさるマサキの前に、シャルロットと少々薹の立った女性が並び、そろって跪く。その後ろにいる者達もペルスランを筆頭に次々と膝を折った。
「ランドール・ザン・ゼノサキス様、此度のこと、全て娘から伺いました」
 といいながらシャルロットを指すと言うことは、この女性がシャルロットの母か。オルレアン公爵夫人という訳だ。
「私を毒の狂気よりお救い下さったこと、我々オルレアン家およびその臣下一堂、ゼノサキス様にこの上ない感謝の念を抱いております。
 もし、この異境の地でお困りのことがございましたら、微力ですが出来うる限りの助力は惜しみません。何なりとお言いつけ下さい」
 そういうと、ざっと全員がマサキに対して頭を下げた。


「うわー、すっごいぜマサキ。ラングランでだってこんにゃ経験にゃいぜ」
 やっぱり驚きながらマサキの足下に駆けてきたシロが見上げながら言う。
「あ、ああ……」
 困惑したように頷きながら、こういう時はどうするんだったかなと、少ない宮廷知識を動員する。
 コホンと一つ咳払いをしてから、言葉を選びながら告げる。
「……御申し出、ありがたくお受けいたします」
 直立して一度頭を下げる。
「……実は、私と仲間は現在このハルケギニアに潜んだ影を追っております。そして此度の一件により、その影が、ここガリアに巣くっている可能性が見えてきました」
「ガリアに、ゼノサキス様の敵が?」
 驚いたように公爵夫人が顔を上げた。
「はい。我々は異邦人故、この地における情報網がありません。出来れば、情報の提供を求めたいのです。ただ、オルレアン家の現在の状況も理解しております故、無理にとは申しませんが」
「あらマサキ、そんな話し方も出来るようになってたのね」
(うっせ……)
 クロの感心したような台詞に内心毒づきながら表面上は変わらぬ態度を取る。妻の一人は錬金学アカデミーの重鎮なのである。こういう事も言わねばならない時も多いし、言われる時も多い。
「それにつきましては心配はご無用です。ペルスラン」
「はっ!このガリア、かの無能王にして簒奪王のジョゼフに対し、怒りを覚えている者は数あれど、同調しようなどとする不届き者はごく一部にすぎませぬ!」
 マサキに恩返しが出来るとあって、その目がらんらんと輝いている。
「オルレアン公亡き後も、いずれはシャルロット様が王位を奪い返してくれるものと、各地に伏せている同志は数多くおります!此度のゼノサキス様のご助力は、その同志達に力を与える物!そのゼノサキス様の頼みとあらば必ずや力となってくれましょう!」
 ……どうせだから何かしてもらおうかと思って持ちかけた情報収集だが、ここまで積極的になるとは思っていなかった。
(なんか拙い方向に焚き付けちまったかなぁ……)
 今更ながらちょっと後悔するマサキだった。


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