あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鷲と虚無-16


プッロとウォレヌスは一昨日に風呂場を一度使用している。
それは学校の一角に立てられた、煙突のある掘っ立て小屋の様な建物だった。
とはいえ軍の劣悪な環境の中で過ごして来たプッロにとって、例え掘っ立て小屋の風呂だろうと不満は無い。

それでもハルケギニアの人間が入浴する際に石鹸を使うのには閉口した。
ローマ人は石鹸を使わない。垢は体に油を塗った後、ストリギルと言う鎌のような道具で油ごとすり取る。
棒状の石鹸はケルト人などのいわゆる蛮族が使っていた物で、プッロ自身もガリア戦争中に何度か使う機会があったが独特の匂いもあってどうにも慣れなかった。
いつかストリギルみたいな棒を探さにゃならんな、と思いながら服を脱ごうとした時、マルトーが声をかけてきた。

「プッロよ、あの坊主がどこに行ったか知らないか?」
「坊主?サイトの事か?」
「そうだ。いなくなってるんだよ、何故か」

そう言われプッロは周りを見渡してみた。確かに彼の姿が見当たらない。
「はぐれちまったんじゃないのか?」
もしそうだとすれば少しまずい。
彼はここへの道を知らないから迷っている筈だ。
プッロはため息をつきながら言った。

「しゃあないな。俺が探しに行くよ。すぐに戻ってくる。あんたらは気にせず先に入っててくれ」
そう言ってプッロは風呂場を出た。

(余計な手間をかけさせやがって)
ちょっとして親切心から探そうと名乗り出たのだが、少し後悔し始めた。
迷っているのならどこにいるかなんて解る筈が無いし、すれ違いになるかもしれない。
運が悪ければ見つかるまでにかなりの時間がかかるだろう。
自分もここの構造を完全に覚えているわけではないので下手をすれば自分まで迷ってしまう可能性もある。

適当な方向をデタラメに歩き回っている間、する事も無いのでプッロはここ三日間の事を思い返し始めた。
やはり一番の驚きはルイズの態度の変わりようだった。
サイトの治療費を自分が負担すると言い出した時も意外だったが、その後直接をサイトを介抱し始めた時は本当に驚いた。
謹慎中とは言え、一日中つきっきりで看護をしていたのだ。彼女が心の底からサイトの身を案じていたのは誰の目にも明らかだった。
彼女は自分達の事を体の良い奴隷か家畜程度にしか思っていない、と考えていたプッロ達にとって、これは驚愕だった。
そしてプッロは、そして恐らくウォレヌスも少しだけルイズへの評価を改めた。やかましいだけの小娘かと思っていたら可愛い所もあるじゃないか、と。

だがそれ以外は退屈な三日だった。ルイズが殆どの間部屋の中に引き篭もっていたせいもあるが、やる事が何も無かったのだ。
学院長とは決闘の後で説明をしに呼ばれてからまだ何の音沙汰も無い。
日中はもっぱら外をブラブラして過ごし、夜は厨房で暇な料理人を相手にこの国の事を色々と聞きだそうとした。
プッロ達は単なる珍しい異邦人と言うだけでなく、貴族と喧嘩をして一歩も引かなかった平民だと言う事で学院で働いている平民たちの間では結構な人気になっている。
だから大抵の人間は喜んで相手になってくれた。
もっとも得られた情報の多くは大して興味も無い学院内の噂話だったが。


とにかく、ルイズの謹慎は終わりサイトも起き上がった。
これで少しは退屈も紛れる事だろうし、ギーシュへの復讐も始められる。
ウォレヌスに言った通り、プッロはギーシュをこのまま逃がすつもりはない。
あのやたらと気障なガキにいちゃもんを吹っかけられ始まった喧嘩は強制的に中断されたあげく、勝負は奴の勝ちと言う事になった。
しかもそれだけではなく、奴は約束を破り魔法を使った。
自分達は子供に完全になめられたのだ。これは絶対に許せる事ではない。
これは自分のメンツやプライドだけの問題ではない。
自分が第十三軍団の兵士である以上、喧嘩に負けたままでは軍団自身の名誉も汚されたままになる。
それだけは絶対に耐えられない。自分の為にも、そして軍団の為にもなんとしてでもあのガキを地に這いつくばらさねばならない。

だが問題はどうするか、だ。
再度の決闘を申し込むか?だが仮に相手がそれを受けてもあのゴーレム全てを倒す方法が思いつかない。
さっきサイトに言ったとおり一体や二体ならともかく、七体も出されては勝ち目は無い。
悔しいがそれは認めざるを得なかった。

いっその事、後で奴の部屋に行って寝ている間にくびり殺してやろうか?と言う考えも浮かぶ。
だがさすがにプッロもそれがまずい事くらいは解っている。
ギーシュを殺す事に抵抗があるのではない。彼を殺しては自分も同時に破滅するだけと言う事だ。
ウォレヌスが言う通り、ギーシュを殺せば犯人は自分だとすぐに解るだろう。そうすれば自分はすぐに捕まる。
シエスタや学院の他の平民の話を聞く限り、貴族を殺した平民なぞは裁判すら無しに処刑される可能性だってある。
ならばギーシュを殺した後は即座に学院から逃亡しなければならないが、それではその内野垂れ死ぬか、野盗にでも落ちぶれるかなのは明らかだ。
あんなクソガキ一人如きと刺し違えるのはどう考えても割に合わない。

ならば必要なのはギーシュを心の底から震え上がらせる事ができ、かつ後腐れの無い方法だ。
だがそんな都合の良い物がそうそう思い浮かぶ筈も無い。
(あ~、まどろっこしい!)
小僧一人をシメたいだけなのに、一体なぜこのティトゥス・プッロがこうも悩まなければならんのだ。
今まで自分をコケにした奴は必ずその場でぶん殴ってきたと言うのに。

ならば呪い殺すと言うのはどうだろう。
鉛板に呪いたい相手の名前と、どのようにして呪うかを書いた後、地面に埋めるか池に投げ込むかしてそれを神々に捧げる。
地中海世界では極一般的な呪い方である。これなら容疑もかからないだろう。
だがこれが効いたとしても所詮は神頼み。自分の力ではないので気分は晴れない。

そもそも寝込みを襲ったり呪い殺しても鬱憤が晴れるだけで喧嘩自体の勝敗は決着がつかないままだ。
苛立ちがつのり、プッロは壁をがん、と蹴りつけた。
全く持ってこの魔法という奴は卑怯だ、とプッロは思う。

自分はガリア戦争とそれに続くローマの内乱を生き抜いてきた。もう10年は戦い続けてる事になる。
殺した敵の数はとうに数えるのを止めた程。そして五体満足で設立当初から軍団に残っている数少ない兵士の一人だ。
喧嘩になれば余程の事が無い限り遅れはとらない位の自信はある。

だがここでは盾すら重さで持てないようなお坊ちゃまでも、学校でちょっと魔法を勉強をすればあっさりと自分を超える力を身につけられる。
これはもうズルと言っても良い位の理不尽だろう。同時になんでここの貴族連中がローマよりずっと偉いのかも理解できた。
単に土地とか金を持っているだけではなく、物理的な力が圧倒的に違うのだ。
ならば偉そうに振舞うのは当たり前だろう。
そして貴族でありながら魔法が使えないルイズがかなり微妙な立場にあると言う事も解る。

(それにしてもあいつはどこにいったんだ!?)
もうサイトを探し始めてから十分ほど立つだろう。諦めて戻ろうかと思った時、人影が目に入った。
サイトだ。だが様子がおかしい。何故か廊下にうずくまっている。
うつむいている為その表情は見えない。
(あぁ?何やってんだあいつ)
プッロは怪訝に思いつつも、さっさと風呂場に戻りたかったので話しかけた。

「こんな所で何やってんだ。さっさといかんと風呂場が閉まるぞ」
だがサイトは返事をしない。
「おい……」

聞こえなかったのかと思い、プッロはそう言いながら彼の顔を覗き込もうとした。
だがそうする前にサイトが顔を上げた。何かがおかしい事はすぐに解る。
彼の目の周りは赤く腫れており、頬には涙の後が見て取れた。
つまり泣いていたと言う事になる。だがプッロにその理由は解らなかった。

「……プッロさん。こんな所で何をしてるんですか?」
サイトは感情のこもっていない声で言った。
「何をって……お前を探しにきたんだよ。お前こそ何やってんだ」
そう言いながらも、プッロはもしやサイトの傷口が開いたのでは、と疑った。
傷の痛みで動けなくなったのではないかと。泣いたのもそれが理由かもしれない。

「おい、もしかして傷が開いたのか?」
だがサイトは何も言わない。
「何とか言えって。それとも口が聞けない程痛いのか?なら頷いてみてくれ」
サイトはうるさそうに返した。
「違います。俺は大丈夫ですから行って下さい……」
「どう見たって大丈夫じゃねえだろ。一体どうしたってんだ?」

だがサイトはそれきり黙りこんだまま何も言わない。
わけが解らないが、これでは埒があかないし何時までもここにいたくはない。こいつが何も言いたくないんならそうさせてやろう。
本当に傷口が開いたのならそう言う筈だ。
「何も言うつもりが無いんなら、俺はもう行くぞ」
時間を浪費した事に苛立ちながらプッロは立ち去ろうとし、背を向けた。

「あの……ちょっと待って下さい。」
だがサイトは先ほどより少し大きな声でプッロを呼び止めた。
言いたい事があるならさっさと言え、とプッロは少しイライラしながら返した。

「いったい何だ?さっさと言ってくれ」
彼は一瞬躊躇する素振りを見せたが、意を決したように話し始めた。
「あのゴーレムに勝てるって言いましたよね?」
「ゴーレムって、あのガキが作った青銅人形の事か?ああ、武器さえあればな。それがどうした?」
今この状況でなんであれの話が出てくるのだろうか、とプッロはいぶかしんだ。

「……でも俺には無理なんすよ。見てたでしょ?たった一体が相手でもあのざまで。あのまま決闘が続いてたら俺は殺されてたでしょう。何の抵抗も出来ずに。武器を持っても俺なら切りつけても弾かれるだけです」
そう言って自嘲するようにサイトは軽く笑って見せた。
「……あれだけ見栄を張って、奴に謝らせようとしたのにあいつがちょっと本気を出したら俺は手も足も出なかった。これじゃ情けないにも程がある……!」

だんだん話が飲み込めてきた。どうやら彼はギーシュに負けたと言うのがよっぽど悔しいらしい。
だが、それを悔しく感じると言うのは少しおかしいんじゃないかとプッロは思った。
ヒゲも生えない年の子供が、文字通り魔法を使う奴に勝てる筈が無い。
手も足も出なかったのは当然の話だ。

「……そりゃあ仕方ないだろ。あんなインチキみたいな力を持ってる連中なんだ。どうしようもない」
「どうしようもない?あんたには少なくとも奴に一矢報いるだけの力は持っている。あんた自身がそう言ったんだ。これは貴族とか平民とかそれ以前に俺が弱すぎるって事でしょうが!」
この言葉でプッロはようやくなぜサイトがこんな所にいたのかが理解出来た。
ギーシュに負けた事と言うよりも、自分の力の無さを悔しがってここで腐っていたのだろう。
そしてそれを誘発したのは自分達の「一体や二体なら倒せる」と言う答えと言う事か。

「なるほど、大体解った。それが悔しくてここでふてくされてた、って事だな?」
「ええ、そうですよ!あのキザ野郎に訳のわからないイチャモンをつけられ、止せばいいのに油に火を注ぐ様な真似をして喧嘩騒ぎ、そしてえらそうに見得を切っておきながら、
 まともに戦ったら勝てないからセコい手を使う。それでいい気になって相手が本気を出したらコテンパンにされる。しかもあんた達はコテンパンどころか五体満足で生き残った。悔しくて当たり前でしょう!」

サイトは精一杯の怒気を込めて言ったのだろう。だがその剣幕を見てもプッロは全く怖気づかなかった。
むしろ笑いがこみ上げてきた。
(面白いガキだ)
多少悔しくてもあんな大怪我をすれば命が助かってめっけもんだと思うのが普通だろう。
だがこの少年は違う。しかもこの負けた事を悔しがると言うよりは自分が弱いと言う事を悔しがっている。

「何がおかしい!?」
笑いの意味を勘違いしたのか、サイトは食って掛かった。
プッロはそんな彼をなだめようとした。

「悪い悪い。お前を馬鹿にしてるわけじゃない。落ち着け……ただ随分と根性があるんだなって感心しただけだ。面白い奴だよ、お前は」
「こ、根性?」
「お前、何歳だ?」
「十七ですけど……」

十七歳。ローマではようやく成人として認められるかどうか、と言う年齢だ。
とすればあの様な派手な喧嘩は初めてだろう。

「前にもあんな喧嘩をした事あるか?鼻を潰されたり腕折られたりする様な奴だよ」
「……まさか、あれが始めてですよ」
「つまりお前は生まれて始めて鼻を潰され腕の骨をぶち折られたわけだが、それでもお前は負けを認めようとしなかった。見てたぞ?お前が奴の寄こした剣を取ろうとしたのは。はっきり言うが、その年のガキが出来る事じゃない。大した根性だ」

これは紛れも無いプッロの本心である。元々わざわざサイトを探そうとしたのもあの一件でサイトに多少の好意を抱いていたからだ。
プッロが知っている人間で、あんな目にあっても負けを認めようとせずに頑固に戦い続けられる人間は殆どいない。
ましてや子供となればサイトが初めてだ。そう言う根性は決して嫌いではない、と言うかむしろプッロの好む所だ。

サイトは何かを考えるように黙り込む。
「どうした?急に静かになって」
「……それでも手も足も出なかったんですよ、俺。あんな大口を叩いておいて」
「それが普通だ。確かに俺達はあのゴーレムと戦える。だがな、俺とウォレヌスは10年以上軍で戦ってきたんだ。それにしたって武器があればの話しで、言っちゃ悪いが、お前さんはただのガキだ。負けて当たり前だ。それにな、こう考えてみろ。状況が逆だった場合、
 あのガキがあそこまで粘れると思うか?普通のガキならあのゴーレムとやらを見た時点で降参すると思うがね。とにかく、立て。ひとっ風呂浴びてさっぱりすりゃ少しは気分も良くなる」

そう言われてサイトはしぶしぶと立ち上がる。
「……それに俺も奴をこのままで済ますつもりはない。ウォレヌスが何を言おうとな。まっていりゃあ必ず何かの機会がある筈だ。奴に復讐する、な」
自分に言い聞かせるようにつぶやくプッロだったが、そこである考えを思いついた。

このまどろっこしい状況の原因は自分ひとりでギーシュに勝つのが難しい、と言う事だ。
つまり奴に勝つには助けが必要だ。単なる頭数と言う意味でも、奴に勝つ案を考えると言う意味でも。
残念ながら自分はあまり頭が良くない。一人ではいい案を思いつく自信は無いが、二人なら何か思い浮かぶかもしれない。
だがウォレヌスが協力しないだろうと言うのは解っている。
そしてギーシュに復讐をしたいのは自分もサイトも同じだろう。目的が同じなら協力できる筈だ。
さすがにサイトにカエサル家のオクタウィウス並みの頭脳を期待しているわけではないが、それでも自分一人よりはずっとマシな筈だ。

「おい。お前はあのガキに仕返しがしたいか?」
「……もちろんですよ。でもそんなの無理だってさっき――」
「なら俺と組め」
「は?」
サイトは一瞬呆けた顔になった。

「奴が寝ている所をぶっ殺すのが一番手っ取り早い。だがそれをやっちまったらすぐに捕まっちまうしそもそも喧嘩の決着はつかないままだ。だから俺が欲しいのは正々堂々で、
 それでいて奴が泣いて許しを請うほどに恐ろしく、そして後々問題にならない様な方法なんだが、俺には思い浮かばん」
「それを二人で考える、って事ですか……わかりました。協力しない理由はないでしょう。でも一つ条件があります」
「条件?」
「俺を強くして下さい。あのゴーレムを倒せる位に」
サイトはきっぱりと言い切った。これを受け入れねば絶対に協力しないと言わんばかりに。


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