あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!- 02



さわやかな朝であった。
キュルケ・フォン・ツェルプストーはたっぷりと時間をかけて身支度を済ませると
朝食を摂りにゆくため自室のドアに手をかけた。
いつもの朝との違いは使い魔召喚の儀式で呼び出したサラマンダー・フレイムが従っていることだ。
インパクトでは級友タバサの引き当てた風竜に一枚譲るが、
『火』系統に秀でたメイジである自分にふさわしい使い魔として彼女は大いに気に入っている。
使い魔といえばやはり級友のヴァリエール家のルイズは人間、それも平民を召喚して昨日は結構な騒ぎになった。
(今日はそのことで少しからかってやろうかしら?)
この思いつきはキュルケの熱帯の花のような美貌をほころばせたが、本当に嬉しいのはありふれた日常が今日も続いていること
──ルイズが進級に関わる召喚の儀式にまで失敗したら、今の憎まれ口を叩き合うような関係ではいられなくなるかもしれなかったから──
なのは彼女自身も自覚しているのかどうか。
キュルケは扉を開き、隣室の様子を伺った。いや、伺おうとした。

死にたい人にお勧めの危険な学校トリステイン魔法学院
  • 自室から徒歩1分の廊下で隣人の使い魔が頭から血を流して倒れていた←今ココ

「いやぁぁぁぁっ!!」

生徒たちが揃って席についた中にルイズと薬師寺天膳の姿もあった。
寝乱れた髪もそのままに朝から憔悴した様子のルイズに対し
使い魔天膳はモミアゲの上らへんを今日も元気にぴょろりと跳ね上げ、何食わぬ顔で床に正座している。

昨日の疲れのためにすっかり寝入っていたルイズはキュルケの叫ぶ声でようやく目を覚まし、
寝ぼけまなこで血溜まりにブッ倒れた自分の使い魔と対面する羽目になった。
天膳本人は呑気にも「あアあ!」と一声あげて起き上がってきたからいいとして
殺人現場そのものの廊下を捨て置くわけにもいかぬ。
腰を抜かしたキュルケを無理やり隣室へ押し戻し、必死になって血痕をぬぐうこと数分。
他の生徒たちが騒ぎを聞いて集まってくる前に証拠を隠滅できたのは半ば奇跡であったろう。

「あんたは使い魔なんだから本来はこの食堂にも入れないのよ。飢え死にしたくなかったら我慢なさい」
腹立ちまぎれに残飯同然の食物を放るルイズ。
天膳は不平を言うでもなく、ただ生徒たちの前に並べられた豪勢な食事を見回してひとりごちる。
「飢え死にか。飽食の時代には新しいやもしれぬな」
(何なのよ……)
天膳はとうとう食事に手をつけなかった。

朝食を終えれば次は午前の授業である。
各々の使い魔を連れた生徒たちが人間を呼び出したルイズに好奇の目を向けるが、
露骨に避けるように教室の反対側に座ったキュルケが時折向けてくる視線がなにより痛い。

授業自体はテンプレ通りに何事もなく進み、シュヴルーズに『錬金』の実技を命じられたルイズが教室を吹き飛ばして終わった。
術を見極めようとひとり身を乗り出した天膳は爆音で両鼓膜を破られたついでにショックで心停止したが、
主人が一人で教室の片付けを終える頃を狙ったように息を吹き返すに至って
ルイズは疑問をさしはさむ努力を放棄した。

昼休み。

(ふむ……わしを呼びつけたあの娘がよもや魔法を満足にあやつれぬとはな)
「一人になりたい」と言い出したルイズに暇を出され、天膳は独り学院内を歩いた。
ゼロのルイズ。
『ゼロ』の意味するところは江戸時代の人間である天膳には理解できなかったが、
貴族に生まれながら魔法を使えぬルイズの苦しみを察することはできた。
何たる奇縁であろう!
伊賀鍔隠れの跡取り・朧は祖母お幻のあらゆる仕込みも無効無益にてクナイひとつ放てぬ娘であった。
忍法を知らぬ忍の頭領に仕えたこの忍者は今また魔法を使えぬ魔法使いに使われる身となったのだ。

「力なきゆえの苦しみ、か」
くだらぬ。
忍者は闇に生まれ落ち闇にて死する定め。
忍の闘いには名誉も報酬もなく、いかに力があろうとその異形ゆえ忌み嫌われ決して世に出ることはかなわぬのだ。
それにひきかえ魔法という力の有無によって尊貴の決まるこの世界はよほど幸福ではないか!
伊賀者としての天膳は忍者の宿命と鉄の規律に縛られてはいたが、同時に強者が弱きを駆逐する下剋上の時代を知っている。

(あの娘がわしを望んだというのなら、わしがきゃつの欲する力となってやろう。そして)
──かりそめの主を至尊の位へ押し上げ、わしが天下をいただくも面白かろう。
冷たい双瞼に野望の火をともし、大忍者は口の端をつり上げた。

「もし……ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですよね?」
昼食を終えた生徒たちと使い魔が憩うている時間、黙想にふける天膳に声を掛ける者があった。
学院勤めのメイド、名をシエスタと言う。
「いかにもわしが薬師寺天膳じゃ。何ぞ用かの」
ぶっきら棒に返しながらも天膳の忍の眼は観察を怠らない。
素人がするようにジロジロと見ることはせず、一瞬で対手の姿を目の裏に焼き付け頭の中で吟味するのである。
ここの人間では珍しい黒髪に柔らかい顔立ち。
加えて桃色の髪の主人と違って出るところはしっかりと出たしなやかな体つきは上級に属するものであろう。

(具合良し!)
天繕違いである。

「いいえ、用事ということではないんですが……ミス・ヴァリエールが平民を呼び出されたと聞いて、その、気になって」
恥ずかしそうに口ごもるシエスタ。
要領を得ない相手に苛立ちかけた天膳だったが不意に顔を上げたシエスタと目があい、息を呑んだ。

「おお──」
黒々としたつぶらな瞳が天膳をとらえた。
その目は水底のように深く黒い太陽のようにかがやき、あらがえぬ吸引力をもって見るものを呪縛する。
──目をそらせぬ。
天膳の手があやうく刀の柄にかかろうとしたところでシエスタはふたたび目を伏せる。
「貴族の方々はあなたを平民だと言いますが、あなたは私たちとは違います。
あなたはもしかして『ブシ』なのではないですか?」
「なに」

今朝の朝食時、人間を召喚した生徒の噂に興味を持ったシエスタは何気なくその姿を探した。
自分と同じ瞳と髪の色をした奇妙な服装の男は召喚主の少女に恭しく従っており、なるほど貴族に隷属する平民そのものに見える。
だが男は貴族の少女が犬に対するようにあたえた食物に手をつけることなく、
ただ主人が食事を終えるのを待ったのだ。
忠節と矜持にみちみちたその姿勢はシエスタの幼い日の記憶から一つの言葉をよみがえらせた。
「『ブシ』……」

いうまでもなく薬師寺天膳は忍者だが、身分の上ではれっきとした士分であり
任務に際しても忍装束をつけないのは彼の鍔隠れの副首領格としての地位の高さゆえである。

「粗末なものですが、どうか」
シエスタは施しと受け取られないよう苦心した様子で食事を勧めた。しかし天膳はそれを断る。
並の忍者であっても一日二日食を絶った程度でこたえはしないのだが、
何よりシエスタの向ける無心の瞳から離れたいという奇妙な衝動があった。

「──シエスタ殿、持ち物を落とした者がおるぞ。あの花飾りをもった男じゃ」
苦し紛れに目についたことを口に出し、ようやく少女は離れていった。
一つの集まりの中心にいた男子生徒に近づき、足下の小壜を拾い上げる。

「あの瞳は──。わからぬ」
シエスタからは何の害意も感じられなかった。
しかしその瞳に見つめられた天膳は深い霧が日差しに照らされて雲散霧消するかのような感覚にとらわれ、動くことができなかったのだ。

「まさか、じゃ。──む?」
見れば件の男が肩をいからせて立ち上がり、シエスタに向かってなにやらまくし立てているようだ。
「何ごとかの」

「申し訳ございません!どうか、どうか……」
「謝ったところで仕方ないじゃないか。君の無思慮な行為で大事なレディたちが傷ついたのだよ。
 一体どうしてくれるんだい?」
頭から水ならぬワインをしたたらせたいい男はギーシュ・ド・グラモン、『青銅』の二つ名をもつ学院生徒である。
プレイボーイを自認する彼は周りを囲む同輩連中に恋の遍歴を吹聴し、
またきざったらしく追及をかわすなどしていい気分になっていた。
ところがシエスタの拾った香水壜から同級の女生徒モンモランシーと交際していること、
さらに下級生にも手を出していたことまでもが明るみに出てしまった。
醜態をさらしたギーシュはやむにやまれぬ怒りの矛先をシエスタへ向けたのだった。

「待たれよ。話は聞かせてもらった」
「何だい?君は……誰かと思えばルイズの使い魔の平民じゃないか」
シエスタを庇うように割って入った天膳にギーシュは不審の目を向ける。
「例の小壜を拾うようシエスタ殿に言うたのは──わしじゃ」
「ほう?ならば君が彼女の代わりに責任を取るとでもいうのかい。
貴族の面目をつぶした罪、軽くはないよ」
ギーシュの口ぶりははたから見ても横暴きわまるものではあったが、すでに振り上げた拳は下ろすことはできぬ。
また周囲の者たちもギーシュに理があるとは考えていないがあえてその行動を止めるものはいない。
トリステインにおける貴族と平民の関係とはつまるところこのようなものだからだ。

「その前にそなたに申し上げたきことがござる」
「純愛……誠意……。皮肉にもこのところ男の口よりよう耳にする言葉じゃが、拙者にはその意味するところが──皆目わかり申さん」
「な、なに……?」
あっけに取られるギーシュ。ずいと顔を突き出して天膳が続ける。
「より良い、より多くのおんなにいのちの精をそそぎこまんと欲するは男子(おのこ)として当然のこと
 そなたは何を取り繕っておられる!たかが女子二人、心のおもむくままおのが物となさるがよい!」

「い……いのちの精……?」
色男ギーシュといえどもやっていることはしょせん子供同士の恋のさや当てにすぎぬ。
あまりに直接的な言葉に圧倒されずにはおれない。
「──うぶなお前には、ちと早いか」
とどめに意味不明の優越感を叩きつけられ、ギーシュはくず折れた。
このままでは駄目だ。ここで退いたら僕は男として再起不能だろう。
「決闘だっ……男らしく決闘で白黒つけてやる!ヴェストリの広場へ来たまえ」

(どうだっ……言ってやったぞ!いくら口が回ろうが平民が貴族には勝てないんだ!)
「それには及び申さぬ」
「ええ!?」
天膳はこともなげに言うと腰の差料に手を伸ばし、小刀を抜いた。
「まさかここでやる気か!?」「何て無法な」
「シエスタ殿……目をふさいでおられよ。何があろうとも決して開かぬように」
抗議の声を気にも止めず、小刀を逆手に構えるとおもむろに衣服の前を開く天膳。

「こたびの不祥事は、すべて拙者の不徳のいたすところ」
言葉とは裏腹の獰猛な笑みを浮かべて天膳は続ける。
「死んでおわびを申し上げる」

周囲が意味を理解する暇もなく、天膳は己の腹に刃を突き立てていた。
「お……おおお……あああぁぁぁ」
腹膜が破れるとともに口から腹からおびただしい血が吹き出し、固まったままの生徒たちの顔や衣服を汚す。
天膳は奥へ奥へと抉り込んだ白刃で腹を十文字に割り裂くと真っ赤な塊を掴み出し
菓子や飲み物の並んだテーブルの上へ放り出した。

「シエスタぁ!見るんじゃねぇ!!お前ら全員ここから離れろ!」
コック長のマルトーら度胸の座った男数名がその場を収拾すべく動き出した。
しまいに頸の動脈を切って己の血の海に溺れた天膳ひとりを残して生徒たちを連れ出していった。

「これは……一体……」
急報を受けたコルベール以下教師陣が生徒の収容を済ませ現場へ駆けつけた数十分後。
そこにはあまりに酸鼻な痕跡が残されていたが、かかる惨状の主役の姿のみが忽然と消えていたのである。



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