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ゼロの氷竜-18


ゼロの氷竜 十八話

「……そこまでにしておけ」
ブラムドが声をかけなければ、おそらくルイズはキュルケの左腕に噛みついていた。
それも、数日は跡が消えないほどの強さで。
キュルケはなぜると言うよりは手のひらを押しつけるといった方が相応しい行為を取りやめ、ルイズを抱え込んでいた左腕を解放する。
二人は互いに顔を背けているが、その表情は怒っているものではない。
さらには時折、互いを伺うように視線を投げている。
目線があった瞬間、全力で顔を背ける動作は鏡に映したかのようだ。
照れ隠しと見て取ったブラムドは安心し、ゆるんだ表情を正しながら改めて声を発する。
「さて」
少女たちが、その声に視線を集める。
「ルイズ、お前は何にために魔法を求める?」
その問いに、ルイズは即答できなかった。
魔法を使えることは、メイジであること、すなわち貴族であることの前提となる。
しかし、魔法を使えることが貴族であることか。
……違う。
自問に、ルイズの心が即座に答えを返す。
次の瞬間、ルイズの口は自然に動いていた。
「私は、お父様やお母様のような立派な貴族になりたい」
その目は、真っ直ぐにブラムドへと向けられている。
「平民は貴族のためにあり、また貴族も平民のためにある」
幼い頃から聞かされた父の教えが、無意識に口をつく。
「平民に平民の仕事があるように、貴族にも貴族の役割がある」
魔法が存在するため、平民の手に負えない冶金、建築、医療などの技術。
オーク鬼などに代表される脅威の排除。
戦時における国土の防衛。
「そして……」
ルイズのまぶたの裏に、シエスタの、親友の姿が浮かぶ。
「平民に敬意を持ち、平民から尊敬されるような立派な貴族になるために……」
その輝かしい貴族像は、現在の大多数の貴族にとって絵空事に過ぎない。
だが、そんな貴族であろうとする少女も存在する。
さらにルイズは言いつのる。
「使い魔の主として相応しい存在であるために……」
主の、あたかも自らに挑むような視線を、使い魔は心地よさを覚える。
「私は魔法が使えるようにならなければならない」
形を成していなかった思いが、言葉によって目標に変わる。
進むべき道を見出したことで、ルイズは四肢に力がみなぎるのを感じていた。

キュルケはルイズの瞳に映る炎を見ていた。
かつて自らが点火した、怒りによるどこか薄暗い炎ではない。
目標を得た人間の輝かんばかりの炎を、キュルケは少し目を細めながら見ていた。

タバサはルイズの様子を見て微笑む一方、キュルケの表情を見て思う。
……まるで姉妹。
微笑むタバサは自覚していない。
その柔らかな感情が、自らの心を覆う氷を溶かす小さなきっかけになっていることを。
ただそれが良いことか悪いことか知り得る人間は、この時存在しなかった。

数瞬の沈黙が、草原をなぜた。
ブラムドは笑みを浮かべながらルイズの瞳を見据え、歌い上げるように宣言する。
「では我は持てる力の全てと、かつて友より授かった全ての知識を以て、お前が系統の魔法を使えるようにして見せよう」
その使い魔の言葉は、主にとって全幅の信頼を置くに値した。





気付けば少女たちは車座になり、教師に対するようにブラムドの話に耳を傾けていた。
「魔法の元となる力に関していえば、我の知る魔法もこの世界の魔法も変わりはない」
そうでなければ、ブラムドの魔法がギーシュの魔法を防ぐことはできない。
「だが、我のマナとお前たちのマナは明らかに異なる」
「まな?」
聞いたことのない響きに、少女たちの表情は困惑に変わる。
その表情に、ブラムドは微笑みながら言葉を重ねた。
「名前などはどうでもよい。要は魔法を使う為に必要な力だ」
重要なことは、ルイズにもマナを扱うことができるということ。
ブラムドはそういい連ねる。
分厚い氷に閉ざされた宝を、どれほど望んでも、誰に頼っても手に入らなかった宝を、手にとることができるということだ。
ルイズにとって、それはまさしく福音に他ならない。
さらに話を続けようとしたブラムドは、やおら開きかけていた口を閉じて沈思する。
……四つの系統魔法。
……シュヴルーズとグラモンは土、モンモランシは水。
……残るは、火と風か……。
「キュルケ、タバサ、お前たちはいずれの系統の魔法を得意とする?」
不意の問いかけに虚をつかれ、キュルケはつい素直に答えを返してしまう。
「私は火、タバサは風を得意としています」
「それは良かった」
笑顔で投げかけられた言葉に、少女たちははっきりと困惑の表情を浮かべた。
「我が見たことのあった魔法は、シュヴルーズとグラモンの土、モンモランシの水だけだったのでな。良ければお前たちの魔法を見せてもらいたいのだが……」
ただ続くブラムドの言葉を聞き、少女たちはその意図を理解する。
キュルケはルイズを一瞥し、胸を張って言葉を返す。
「構いませんわ」
タバサもまたルイズを一瞥し、言葉少なにブラムドへ答える。
「わかった」
今日の朝、キュルケとの和解など夢にも思わなかったルイズであれば、その一瞥を優越感からの自慢と受け取っただろう。
あまり話したことのないタバサの行動も、良いようには受け取れなかったに違いない。
だが今日という一日。
ほんの一日の出来事で、ルイズはキュルケとタバサの行動が自分を手助けするためだと理解できるようになった。
あえて口にすることはなくとも、ルイズの心には二人に対する深い感謝がある。
二人もまた、ルイズがその感謝を素直に口に出さないことを理解していた。
まずはキュルケが杖を構えた。
「ウル……」
キュルケが魔法を使い始めると同時に、『魔力感知』を使ったブラムドの目には二つの存在が映し出される。
マナと、それをはめ込む為の枠だ。
土のメイジのマナは、絡んだ紐のような形。
ギーシュがワルキューレを作り出した後は、ほどかれて主とゴーレムをつないでいた。
水のメイジのマナは、球状。
ただ水の精霊力と交じり合った瞬間、それは泥のように重く溶け、傷口へと注ぎ込まれた。
そして火のメイジのマナは、針を十字に組み合わせたような形。
水のそれとは全く異なる。
「……カーノ」
ルーンを唱え終わり、魔法が発動する瞬間、枠とマナの大きさや形は完全に一致していた。
杖の先から炎が発し、やがて勢いをなくして収まる。
「これが火の最も基本的な、発火の魔法です」
さらに意識を集中させながら、キュルケは次の魔法の準備に入る。
「そしてこれが、トライアングルの魔法ですわ」
キュルケにとって、友人たちやブラムドに対して自分の能力を隠す必要性はない。
戦乱の時代に生まれたわけではなく、今の立場は学生に過ぎないからだ。
何より、先刻ブラムドが使った『火球』の呪文がどれほどの威力であるのか、自身の魔法を使うことで確かめたかった。





ブラムドの目には、キュルケが頭上に構えた杖の先に生まれた大きな枠と、それにあわせるように膨らんでいくマナが見えている。
マナを見ることができないルイズとタバサの目には、キュルケの頭上で徐々に膨らんでいく火球の姿が映し出されていた。
やがてルーンを唱え終わると同時にそのマナが枠にはまり、キュルケの魔法は草原に黒い円を生み出す。
爆風が四人の頬に触り、色の変わった草原の一部から白い煙が立ち上る。
結果を見れば、魔法によって草と土が燃えただけに過ぎないが、キュルケとタバサにとってはそれ以外にも多くの情報を有していた。
燃えた草の色やその範囲、草や土の焼け焦げた臭いとくすぶる煙の様子。
それは魔法学院に所属する中でも特に優秀といえる二人のメイジにとって、十分な説明をされているに等しかった。
範囲こそキュルケの火球が上回っているが、それ以外の全てはブラムドの『火球』に軍配が上がる。
燃えた草の色は、ブラムドの黒色に比べればキュルケのそれは茶色に近い。
単純に魔法の威力に差があるとしてしまえばそれまでだが、そんな言い訳はキュルケのプライドが許さなかった。
上位にスクウェアという存在がいる以上、最も優れたメイジだなどと思ってはいない。
とはいえメイジとして、自分の能力を高めたいと思うのは当然のことだ。
結果を比較することで、キュルケは自らの魔法に足りない部分を認識する。
それは、教室の中では得ることのできない経験だ。
威力が散漫になっているのなら、集中する手段を考えればいい。
キュルケは敗者であることを認識していたが、その顔はむしろ晴れやかだった。
一つには、自分が心の中で勝手に持ちかけた勝負であるに過ぎないこと。
もう一つは、ゆるみがちだった向上心を刺激する良い材料になることがわかったからだ。
キュルケに比べそれほどやる気のなかったタバサも、そのことを理解してわずかに意欲を見せる。
「キュルケ、感謝する」
「いえ、お気になさらないでください」
ブラムドの言葉に、キュルケは笑顔で言葉を返す。
そのやりとりを聞きながら、タバサは数歩踏み出した。
足音を聞き、三人の視線がタバサへと向けられる。
タバサは一度深呼吸をし、奇妙な彫像と化した『木の従者』へ向けて杖を構えた。
「デル……」
風の枠は、四つの三角形を貼り合わせたような形。
もしブラムドにその知識があれば、それが正四面体と呼ばれるものだとわかっただろう。
「……ウィンデ」
杖の先から発した風の刃が、『木の従者』の頭を横に断ち割った。
……なるほど。
土、水、火、風、ブラムドはそれぞれの特徴を認識する。
「……どうせならライトニングクラウドとか、見える魔法の方が良かったんじゃない?」
キュルケの言葉に、ブラムドは少し驚いた。
元々フォーセリア世界の魔術師が使う魔法には、風に属する攻撃の魔法は数少ない。
思い返してみれば、精霊使いが使う風の魔法をただの人間が見ることはできないと聞いた。
マナや精霊力を感じ取ることのできるドラゴンや、精霊力を見ることのできる精霊使い。
そしてマナや精霊力を見る魔法を使える魔術師でなければ、それは見ることが出来ないものなのだ。
本来見えないものを見ることが出来るということは、闘いに際して十分な優位性といえる。
ブラムドにとって、フォーセリアとハルケギニアの魔法の違いと共に、心に刻み付けておくべき事柄だった。
キュルケのいうことを意識していなかったタバサは、ほんの少し頬を染めた。
改めてタバサが唱え始めた魔法は、風と水の融合魔法であるアイス・ストーム。
ルーンを理解しているルイズやキュルケは、使おうとしている魔法がどういったものか予想がつく。
しかし、ハルケギニアのそれとは異なるルーンを使うブラムドにとっては、タバサがどんな魔法を使おうとしているかわかるはずがない。
ところが、枠を作り出してからマナを当てはめていくというハルケギニアの魔法の性質で、ブラムドの目には先刻とは違う枠の形が映し出されていた。





平らだったはずの三角の面が、丸く膨らんでいる。
どちらかといえば、球体に角が生えているような形状といえた。
水と風、双方の特徴を併せ持っている。
……混ぜることができるのか?
ブラムドの推論を裏付けるように、タバサの魔法が発現した。
『氷嵐』のように発生した白い霧が、『木の従者』の周囲を回り始める。
それと同時に霧が氷の粒に変わり、徐々に膨張し始めた。
大きさを増した拳大の氷が回転速度を増しながら、『木の従者』へと襲い掛かる。
樹皮を削り、脆くなっていた腕や体内から伸びた氷柱をへし折っていく。
タバサにとって予想通りではあったが、その殺傷力はブラムドの魔法とは比較にならない。
防具を整えた人間や、強靭な肉体を持つオーク鬼などには通用しないだろう。
そのかすかな落胆を、同じ思いを味わったキュルケだけが読み取る。
嵐が収まり、『木の従者』の残骸だけが残された。
土、水、火、風、全ての系統を確認し、ブラムドはタバサへ感謝の言葉を贈る。
それを横目に、ルイズはキュルケとタバサ、二人へ感謝を伝えるすべを考えていた。
二人が魔法を使って見せたのは、ブラムドに頼まれたからではあるが、それが自分のためであることも理解している。
単に感謝の言葉を口にすれば良いのだが、ルイズはそれに強い照れくささを感じていた。
眉間にしわを寄せながら頭を巡らせたルイズは、ふとブラムドの言葉を思い出す。
今朝、それまで見たこともない魔法を使ってマジックアイテムを作り出し、ルイズへと手渡しながらいわれたことだ。

――金の女王はルイズ、お前のものだ。
――他の金の駒は、お前の友に渡すがよい。
――友に危機ある時、助けることが出来るやもしれぬ。

……友……友達。
朝にそういわれたとき、ルイズの頭に浮かんだのは一人だけ。
学院の中で友と呼べる人間は、シエスタだけだった。
だが今、友と呼んで思い浮かぶ相手は一人だけではない。
しかも贈り物という形をとれば、感謝の言葉を口にする必要もない。
ルイズにとって、それはとても素晴らしいことに思えた。
まずは、隣に立っていたキュルケへ声をかける。
「キュルケ」
振り向いたキュルケの眼前に、金で出来たチェスの駒、司祭が突きつけられていた。
「何? これ」
「ブラムドに魔法を見せてくれたお礼よ」
一度手に取ったキュルケだったが、ルイズの言葉を聞いて返そうとする。
礼を期待してしたことではないのだから。
返却を口にしようとしたキュルケの心に、ブラムドが『心話』で話しかける。
……受け取っておけ。
心に話しかけられるという衝撃に、キュルケは開きかけていた口を閉じる。
……それを持っていれば、こうして話しかけることも出来る。
……ルイズには、友に渡せといってある。
……わかりましたわ。
ルイズが自分を友と思っているとは口に出来ないことを、キュルケはよくわかっている。
礼の言葉を素直に口に出来ないことも。
あえて、キュルケは満面の笑みでルイズへ礼を言った。
「ありがとう、ルイズ」
キュルケの予想通り、ルイズは顔を真っ赤にしながら返事をする。
「べっ! 別に大したことじゃないわ!!」
顔を背けながら、ルイズはタバサへと歩み寄り、金の騎士を差し出す。
わずかに困ったような表情を浮かべながら、タバサはキュルケとブラムドが自分に向かって頷きかけるのを確認する。
目の前のルイズの少し不安げな表情を見て、タバサは無言で金の騎士を受け取った。
「受け取ってくれてありがとう」
ルイズの言葉に、タバサはほんの少し、微笑んだ。





渡された駒を、どこか嬉しそうに眺める二人の少女を横目に、使い魔は主へと問いかける。
「ルイズ、お前はどの系統の魔法を使いたい?」
二人の少女が、ゆるんでいた頬を凍り付かせた。
メイジの系統は、資質であり適性だ。
自らが得意とする系統を見出し、磨き上げることはあっても、決して選ぶものではない。
不得手とする系統の魔法も使うことは出来るが、得意とするメイジとは威力が全く異なる。
ルイズもまた、そのことは良く理解していた。
伊達や酔狂で勉学に励んでいたわけではないのだから。
しかしルイズは幼い頃に一度、使うことを願った系統があった。
ルイズの脳裏に、一人の女性の姿が思い浮かぶ。
ヴァリエール公爵家の次女、カトレアの姿だ。
それは幼いルイズがどれだけ母にしかられようとも、決して魔法をあきらめなかった理由。
ルイズがちいねえさまと呼ぶ彼女は、生まれつき体に不自由を抱えている。
体を使うことも、魔法を使うことも、カトレアにとっては過度の負担になってしまう。
そんな苦難を抱えていてなお、いや抱えているからこそか、カトレアはヴァリエール公爵家の女性に似つかわしくない、熾火のような暖かさを持っていた。
いつも優しく接してくれるこの姉を、ルイズは誰よりも愛している。
ただ優しく微笑んでいるように見えたその表情に、ルイズはいつしか儚さを見出す。
それはカトレアの重荷を理解できたことで、ルイズ自身が投影していたものかもしれない。
長女であるエレオノールは体の弱い妹のため、王立魔法研究所で研究をしている。
幼いルイズもまた同じく、体の弱い姉のために何か出来ることを探す。
ルイズがかつて求めた系統は、水であった。
とはいえ、ルイズが水の使い手になったとしても、カトレアのためになる可能性は低い。
父であるヴァリエール公爵は国内外を問わず、高名な水魔法の使い手を招聘している。
それでも、カトレアの体が治ることはなかった。
今さら自分が水の系統に目覚めたところで、と考えながら、ルイズはふと思いつく。
「ブラムド、治癒や回復のための魔法を使える?」
その言葉に、誰よりも過敏に反応したのはタバサだった。
それに気付いたのは、隣に立っていたキュルケだけであったが。
「使えるが、その魔法は我に対してしか使えぬ」
「そう……」
落胆しながらも、ルイズはすぐに思考を切り替える。
ブラムドを召喚した折、オスマンのいった言葉を思い出す。
――ミス・ヴァリエールの才能は、わしを軽々と凌駕するものじゃろう。
その言葉が、真実であれば……。
「……私は、水の魔法が使えるようになりたい」
キュルケはルイズ以上に落胆の色を見せる、タバサを気にかけていた。
一方で、強い意志の炎を燃え上がらせたルイズの瞳を確かめる。
その輝きの大きさに、キュルケは小さな寂寥を感じていた。
……もう、私の手助けはいらないのかしらね。
その反面で、自らの努力が実を結んだことに対しての喜びもある。
まるで、巣立ちを見守る母鳥のような。
「わかった。しかし、今日はもう遅い。始めるのは明日からにしよう」
ブラムドの言葉で、三人の少女たちは思った以上に月が傾いていることを知る。
「じゃあ、帰りましょうか」
ルイズの提案に、何故かブラムドは首を振った。
「しばし待っておれ」
そういいながら、ブラムドは『暗闇(ダークネス)』を使う。
月の光さえも通さない漆黒を生み出し、ブラムドは無言でその中へと入っていった。
疑問を浮かべた顔を見合わせた少女たちは、いくつかの音を聞くことになる。
衣擦れの音と、おそろしく大きな羽ばたき。
服を脱ぎ、竜の姿へと戻ったことが読み取れたが、それから先の音の正体を知るのは、しばらく後のことだった。
生木を引き裂くような音、雹が降り注ぐような音、大木をへし折るような音。
やがて音が止み、再び衣擦れの音が響く。
そして唐突に消え去った漆黒の中心に立つ、先刻と変わらないブラムドの姿。
だがその周囲に広がっていた光景は、少女たちを驚かせるに十分なものだった。


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