あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

『0』-01

 彼女がその場で意識を取り戻したのは、その天体における、正午をやや過ぎた辺りの時間帯であった。
 悪夢を見ていて、次の瞬間それから目覚めたかのように、鮮明に、突然、目覚めたのであった。
 つい先ほどまで感じていた、絶対的な孤独感……彼女が己の死を実感し――それは彼女が生命の謎をまた一つ解明したという事実でもあった――「それもそうか」という、漠然とした諦念。それとともに、自らの意識を眠らせようとした矢先に、おせっかいな第三者の手によって無理やり目覚めさせられた実感。
 彼女ははっきりとした意識を回復させながらも、このとき確かに不快感を感じていた。終わらせるべき物語、完成した物語に、無理やり続編を作らされる感覚。
 彼女は自分が横たわり、目を閉じているのを認識する。全身に暖かい光の感触を味わう。それは、日光によるものであろう。彼女は、自分が屋外にいることを認識した。
「あんた、だれ?」
 彼女の思考を阻害するかのように、無遠慮に彼女にかけられた言葉。
 彼女の比較的短い歴史には、その高い声の主に心当たりは無かった。彼女の直前の記憶に対して、あまりに分不相応な、能天気でなおかつ生意気な声。おそらく、この声の主は生物的な苦悩を大して体験していないであろう。彼女は声の主に対し、そう結論付け、目を開けた。
「わぁ。ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」
彼女を取り囲むように、十台半ばであろうか、幾多もの少年少女がいた。いづれも妙なコートを着ている。その中の一人、桃色の髪をした少女が、全長三十センチほどの木製らしき杖を倒れている彼女に向け、不遜なまでに傲岸な顔で見下ろしていた。

 彼女は自分なりに慎重に、周りを見回した。
 明らかに、彼女の直前の記憶とは食い違っている。多少の差異であれば、己の過誤や失念と結論付けることも可能であったが、現在、彼女が目にしている光景は、あまりにもそれらの範疇を超えていた。あそこではない。彼がいない。彼らがいない。あの子がいない。なにより、血の臭いがしない。
「おまえは学生のようだな」
 声を発する。その声は、まさしく『自分』のものであった。『自分』に関して大きな変質はしていないようだ。そこまでは確認することができた。

「ミス・ヴァリエール。使い魔の召喚は完了したようですね。おめでとう。しかし、契約の儀式がまだ残っています。それを済ませないと、召喚の儀は成功したとはいえませんよ」
 先ほどの、桃色の髪の少女に、やさしく語りかける人物がいる。中年の細身の男性だ。この男にも、彼女には心当たりは無かった。
 この少女らがどこかの学生であると仮定するのであれば。おそらくこの男は教員であろう。しかし。
「おまえ達が先ほどから何を言っているのか、私にはまるで見当がつかない。もしよければ、説明してもらえないか?」
 彼女はそう、声をかけた。彼女はここがどこだか見当もつかない。そもそも、生物が死んだ後、精神の行き着く先は『無』である。そう信仰していた彼女にとって、あの出来事のあと、自分がこうやって意識を回復させている、ということ自体信じられない。よって、ここは彼女にとっての天国なのか、という発想は微塵も起こりえなかった。

「あんた、使い魔も知らない? ひょっとして貴族を見たことが無いの?」
 少女は無遠慮に言葉を投げつける。おそらく、少女の常識、文化的背景の範疇では、彼女の振る舞いは、特別奇異な印象を受けたのであろう。
「ああ、少なくとも以前の私の周辺には、貴族という概念は存在してはいたが、実際にその肩書きを持つものはいなかった。仮におまえが貴族と仮定しても、私は始めて貴族という存在に遭遇することとなる」

「はぁ。貴族に会った事が無いとか。とんだ田舎物を召喚しちゃったわ。ミスタ・コルベール。サモン・サーヴァントのやり直しをさせてください!」
「ミス・ヴァリエール。使い魔の儀式は神聖なものです。やり直しは認められません。召喚したものがたとえ人間であっても、それが平民であっても、契約を行わなくてはならないのです」
 なんでこんなやつと、とつぶやきながら、少女が心底嫌そうに、彼女の元ににじり寄ってくる。一体何をするつもりであろうか。
 彼女はとっさに、少女の肩をつかんだ。
「きゃあ! 何をするの! たかが平民の癖に!」
「まあ、待て。先ほどまでの会話から察するに、おまえは私と何らかの契約を行おうとしている事は理解した。私の理解している契約とは、本来双方の意思表示の合意が得られて初めて効力を発揮するもの、と認識しているが?」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと契約させなさいよ!」
 逆上する少女。彼女はしまった、と思った。これから情報を収集するには、少々不都合な展開である。そこに、まあまあ、と、先ほどの中年男性が割って入ってきた。
「ミス・ヴァリエール。彼女は、貴族も使い魔も見たことが無いようです。いくら平民とはいえ、我々と同一な思考展開を持つ人種です。混乱している彼女に強引に契約するよりも、説明してから契約したほうがコントラクト・サーヴァントの成功率も上がるでしょう。もっとも、それで彼女が納得するとは思えませんが」
 仕方ないわね。と少女は後ずさった。
 彼女は、今度はコルベールと呼ばれていた中年男性のほうに話しかける。おそらく少女よりはまともな返答を期待できるであろう。
「まず基本的事項を確認したい。ここはどこだ?」
「トリステイン王立魔法学園です。トリステイン王国は知っていますよね」
「いや、あいにく心当たりは無い。そもそも私がいたのは日本国のはずだ」
 コルベールは、首をひねった。
「ニホンコク……聞いたことがない地名ですな。東方でしょうか」
 ふむ、お互いの土地を知らないのでは話にならない。だが、妙だ。彼女は今、日本語を使用して会話をしている。つまり、帰納的に判断してこの中年男性は日本語を使っていると彼女は判断した。だが、日本語が使えるのにもかかわらず日本を知らないとなると、明らかに矛盾が生じる。どこかに論理的破綻があるのであろうか?
「それはともかく、先ほどまで言っていた、契約とは何だ?」
 コルベールは、やや緊張した口調で、話し始めた。
「正確には、コントラクト・サーヴァントの魔法で、ミス・ヴァリエールの使い魔になってもらいます。念のために聞きますが、あなたは魔法が使えますか?」
「論理的に考えて使えないだろう。もとより、私の生活圏では、魔法、という概念自体が架空の存在でしかなかった」
 その台詞を聞いたとたん、コルベールの緊張は弛緩した。
「なら安心です。どこかの貴族を召喚した、ということならば問題ですが、平民ならば心配ありません。契約しても差し支えは無い」
「それは、私に契約の意思がない、と仮定してもか?」
「当たり前です。使い魔の儀式は貴族にとって神聖なもの。あなたには気の毒ですが、あなたがどう思おうが、あなたにはミス・ヴァリエールの使い魔になってもらいます」
 どうやら、彼女が属すると見なされている階級――平民――その社会的地位はかなり低いらしい。彼女は、江戸時代の下人らしきものを発想した。
「なるほど、私に選択の自由は無いというわけか。ところで、おまえは貴族、というが、貴族と平民の違いは一体なんだ?」
「まあ、国によって微妙に差はありますが、基本的な差は、魔法が使えるか否か、です」
 この中年の台詞から察するに、この時空では、『魔法』という概念が当たり前に技能として認められているらしい。たしかに、その論理でいうならば、彼女は平民、ということになる。
「では、使い魔となった場合、私の肉体や精神に対し、どのような変化が生じるのか?」
「そうですね……人が使い魔になるというのは聞いたことが無いですが……まあ、一般的に、使い魔というものは主人に付き添い、従う者です」
 その後も話は続いたが、どうも要領を得ない。得られた情報は、体に契約のルーンが刻まれること、とか、この世界はハルケギニアと呼ばれていること、程度の物であった。
「つまり、総論からいうと、私は契約をこの少女と交わし、彼女にたいする奴隷的地位に甘んじろ、というわけか」
「奴隷、とまで言うと過激な気がしますが、確かに、飾らずに言えばそうなりますね」
 なるほど、と彼女はうなずいた。
「どちらにせよ拒否権はありませんが、私としてもこの儀式は穏便に済ませたいのです。どうか承諾してください」
 コルベールは笑顔でさりげなく、そういいながらも、怪しい殺気を周囲に撒き散らせながら彼女に迫った。だが、その殺気に気づいているものは、彼女以外いないようであった。
「わかった。契約を受け入れよう」
 そうですか、と、殺気をとくコルベール。彼にとっても、彼女の返答は意外なものであったようだ。
 だが、
「あったりまえじゃない! さっさと契約させなさい!」少女にとってはその返答は当たり前の必然だったようで、ためらいもなく彼女に近づき、口で口に接吻を施した。

「これがおまえ達の言う契約か。意外な方法ではあるものだな」
 彼女は心の底からそう思った。
「仕方が無いじゃない! 感謝しなさいよね! 私の初めてなんだから!」
 少女は恥ずかしげに怒鳴りつけた。この土地でも、(おそらく)ファーストキスといわれるものには、何か文化的に特殊な価値観があるのであろう。
「それで、私は成功しましたか?」
 今度はすがるように、コルベールに話しかける少女。
 コルベールは嘗め回すように彼女の肉体を見つめる。
「う~ん。わかりませんね。あなた、何か体に変化はありませんか? どこか痛いとか」
「特に感じられないが」
 とたんに少女の顔が青ざめる。
「まさか、失敗?」
「さあ、わからない。コルベール。契約とやらは、ルーンの有無でしか判明しないものなのか?」
「いえ、いつもの使い魔なら、別の判断基準もあるのですが。なにぶん人間が使い魔になるなんて初めてなので」
 使い魔は、通常、人間ではなく野生生物などがなるものであるらしい。
「え、ひょっとして、もう一回キスをしなくちゃいけないわけ?」
 少女がいよいよ憔悴を始めた。
「待ってください、ミス・ヴァリエール。ひょっとしたら契約は成功しているかもしれません。ここは一つ、一日じっくりと待ってみて、彼女が使い魔になっているかどうか判断してからのほうが良いでしょう。さあ、みなさん。これで使い魔召喚の儀式はひとまず終わりです。解散」
 コルベールはそういって、ほかの生徒を時間の束縛から解放した。

「ルイズ! お前は使い魔と一緒に歩いてきなよ」
 一人の生徒が少女にそういったのを合図に、生徒達とコルベールは、空を飛んで、手近な石造りの塔に移動し始めた。
 彼らは文字通り飛行したのだ。彼女の知る物理法則を完全に無視したその力学的移動は、彼らが自前の足の筋力等で移動しているわけではないことを端的に示してもいた。
「これが、魔法か……」
 相変わらず無表情ながら、彼女にしては心中珍しく唖然としている中、一人残った、あの少女が叱り付けてくる。
「みんな行っちゃったし、私達も寮の部屋へ帰るわよ!」そういって、桃色の髪の少女は、一人ずんずんと、塔に向かって歩みを進めていったのだった。

 日がくれ、夜半になった。彼女と、ルイズと名乗る少女は、ルイズの部屋に移動していた。
 部屋の窓から見える夜景に、彼女は、彼女なりの常識からはありえない光景を見出していた。大小の月が、二つ浮かんでいたのである。
 今までの、この世界における数々の非常識な振る舞いを見て、彼女は一つの仮説を打ち出していた。
 すなわち、ここは異世界である、ということを。
「それで、私が使い魔になったと仮定して、どのようなことをすれば良いのだ?」
「そうねえ、有用な使い魔だったら、薬草や魔法に使う鉱石を取ってくるわ」
「悪いが、そのような知識は私には無い」それらの問題について、おそらく、彼女の世界の知識は通用しないであろう。
「しかたがないわねえ。あと、使い魔は主人の目となり、耳となる、んだけど」
「それは視覚や聴覚を共有する、ということか?」
「そう。でも、契約の儀式をしてからこっち、そんなこと無かったから、それも見込み薄、ね」
 ルイズがため息をつきながらベッドに腰掛ける。
「ああ、本当に契約が成功してるのかしら? まったくもう!」
 ルイズはそういいいながら、おもむろに自分の衣服を脱ぎ始めた。
 純白のブラウスがぬるりとルイズの肢体を通り抜け、音も無く床に滑り落ちる。その必然性が、あるかどうか疑問に感じられるコルセットを白く透き通った指で、自ら脱ぎ捨てていった。その後、この世界でも短い分類ではないかと類推されるスカートをおもむろに膝下まで引き摺り下ろす。さらにかがんだ勢いで、少女はシルクと思われるショーツのなかに、自らの人差し指、中指を差し入れ――
「私の視線が気にならないようだな」
「はあ? 平民が? そんなことより、明日になったら、この服洗濯しといて」
 少女は手早くランジェリーに着替えると、着替えたばかりの制服を、ポンと、彼女の放り投げた。なるほど、文化が違う、と彼女は思った。
「それらが私の使い魔としての仕事、として判断してよいのか?」
「しょうがないでしょ。それくらいしかできないようだし。掃除、洗濯、雑用。当たり前じゃない」
 ルイズはあくびを一つして、
「私はもう寝るから、あんたも寝なさい。寝床はそこね」と、部屋の隅においてあった、わらの束を指差した。
「寝床がこのような状況、というものは、平民の階級では一般的なことなのか?」
「知らないわよ、平民の事なんか! あ、あと、明日はあなたが早起きして私を起こすこと。いいわね?」
「それがこの国の常識というのであれば、甘んじて受け入れよう。ミス・ヴァリエール」
「私の事はルイズ様、と呼びなさい。あ、そういえばあんたの名前を聞いていなかったわ」
「名前など記号の一種に過ぎない。何とでも好きに呼べばいい」
「あのねえ、せっかく貴族様が平民のあんたに好意的な質問をしてあげてるのよ。素直にこたえなさいよ」
 彼女は一泊の呼吸を得たあと、自分の名を答えた。

 私は考える。
 生物種としての私は死んだはずだ。だが、何らかの手段(おそらく魔法、の効果であろう)によって、新たな生を、このハルケギニアという世界に受けた。
 私の見るところ、この世界は、元いた地球に非常に良く似ている。この地でも、あるいは少なくともこの国においては、人類という種が支配的存在種であるようだ。だが、相違点もある。その中でもっとも目に付く点は、いわゆる『魔法』の存在であろう。
 現時点まで、私自身が接触した人類はあまりに数が少ない。だが、人類の中に、魔法が使えないものと使えるものが存在することは類推できた。また、その個体差によって、おおよその社会的地位が決定されているようだ。
 だが、その一点をもって、この世界を私の元いた世界と比べて文化的に劣っている、などと結論付けることはあまりに安直であろう。そのような進化主義的判断を行うには、この世界の常識や社会規範等の情報が圧倒的に不足しているし、魔法という未知の力がある点において、彼らを私の元いた世界の人類種と、能力的に同列とみなす事はできないからである。
 だが、『こちら』と『あちら』の人類間の細かな違いはおいおい解き明かせばよかろう。
 またルイズらが、私の事を唯の人間である、と認識している事実は、私のこれからの生活にとって、私の戦術的優位性を確保する一助になりうるであろう。この世界においても、無力な人類を演ずるという行為は、私自身生き延びる可能性を高めることとなりうるであろう。
 すなわち、私自身早急に求められていることは、この世界の平民階級の生活を調査し、平民にふさわしい考え方、社会的通念を把握することだ。
 おそらく、この世界の人類も、自分の脳以外にもう一つの巨大な脳が存在しているであろう。私が自身の生存を確かなものとするためには、それに逆らわない方法を見つけなければならない……
 元いた世界でパラサイトと分類されていた私が、田宮良子の肉体と共にこの世界に召喚された際、この世界の人類は、いづれも私を人として認識していた。すなわち、見ず知らずの身分が不明瞭な私を、パラサイトか、と疑うものは皆無であった。
 それは、この世界にいわゆるパラサイトが存在しないか、(可能性は低いが)または存在しても人類に認識されること無く人類と同化することに成功しているか、のどちらかであると結論づけられる。私としては、前者のほうが都合がいいのであるが……

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