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ゼロの黒魔道士-45


「――始祖の祈祷書には『虚無』と書かれておりました。姫さま、それは本当なのでしょうか?」
ルイズおねえちゃんが話した内容は、奇妙なものだった。
『水のルビー』が『始祖の祈祷書』と反応して光を放ち、新たな呪文を浮かび上がらせたんだって。
それが、『エクスプロージョン』。
『ホーリー』とかと同じぐらい白く清らかな光に、『ジハード』よりも強く恐ろしいまでの破壊力を込めた魔法。
しかも、あれだけの混戦の中を、目標を1つ1つ分けて破壊できるというとんでもなさ。
どれだけのMPを支払っても、こんなことをやりおおせることはできないと思うんだ。
これが伝説の『虚無』ってことなら、伝説になるのも当然だと思う。
なんか、虚無って、すごいなぁ……

ゼロの黒魔道士
~第四十五幕~ 女王に祝福と忠誠を

「ご存じ、ルイズ?始祖ブリミルはその三人の子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝を遺したのです。
 トリステインに伝わるのが貴女の嵌めている『水のルビー』と始祖の祈祷書」
「ええ――」
そんなに大事なものをルイズおねえちゃんに預けたんだ……
よっぽど、信頼してるのかなぁ?
「王家の間では、このように言い伝えられてきました。始祖の力を受け継ぐものは、王家にあらわれると」
ってことは、ルイズおねえちゃんは……?
「私は王族ではありませんわ」
「ルイズ、何をおっしゃるの。ラ・ヴァリエール公爵家の祖は、王の庶子。なればこそ公爵家なのではありませんか」
ルイズおねえちゃんがハッとした顔になる。
よく事情は分からないけど、ルイズおねえちゃんが伝説の『虚無』の力っていうのを使えても不思議じゃないみたい。
なんか、ますますすごいことになってきたなぁって思うんだ。
「貴女も、このトリステイン王家の血をひいているのですよ。資格は十分にあるのです」
そう言ったあと、お姫さまがボクの左手を取ってしげしげと眺めてこう言ったんだ。
「この印は、『ガンダールヴ』の印ですね?
 始祖ブリミルが用いし、呪文詠唱の時間を確保するためだけに生まれた使い魔の印」
呪文詠唱の時間確保……ってことは、ボクはルイズおねえちゃんを守るための力を持ってるってことかな?
なんか、この左手の模様が、もうちょっと誇らしくなった気がするんだ。
「では――間違いなく私は『虚無』の担い手なのですか?」
「そう考えるのが、正しいようね」
それは、伝説の力ってことで、ものすごいことだけど、お姫さまの顔は沈みっぱなしだったんだ。

「これで貴女方に勲章や恩賞を授けることができなくなった理由は分かるわね?ルイズ」
「……え?ど、どうして、なの?」
ボクには、ちっともわからなかったんだ。
「大きすぎる力は、余計な争いを生む――ですわね」
「そう、『虚無』の力は一国でさえ持て余すほどの力。
 その秘密が知れたら、私利私欲のために利用しようとする者が必ず現れ、躍起になるのは目に見えております」
言われてみて、なるほどって思ったんだ。
ダガーおねえちゃんの召喚獣の力は、母娘同士を争わせるひどいことになっちゃったし、
大きすぎる力って、あまり喜ばしいことなんかじゃないのかもしれない。
「だからルイズ、誰にもその力のことを話してはなりません。これは、私と、貴女と、貴女の小さい使い魔との秘密よ」

「――おそれながら姫さまに、私の『虚無』を捧げたいと思います。
 神は、姫さまをお助けするために、私にこの力を授けたに違いありません!」
お姫さまと同じように沈んだ顔で静かに話を聞いていたルイズおねえちゃんが、
拳をギュッとにぎって、お姫さまを真正面に見据えて言葉をつむぎだしたんだ。
「いえ――いいのです。母が申しておりました。過ぎたる力は人を狂わせると。
 『虚無』の協力を手にした私がそうならぬと、誰が言いきれるでしょうか?
 ですから、貴女はその力を一刻も早く忘れ、二度と使ってはなりませぬ」
「私は、姫さまと祖国のために、この地からと体を捧げたいと常々考えておりました」
お姫さまに否定されてもなお、ルイズおねえちゃんがことばを続ける。
それはきっと、ルイズおねえちゃんの決意、みたいなものだと思ったんだ。
「しかしながら、私の魔法は常に失敗しておりました。ご存じのように、ついた二つ名は『ゼロ』。
 嘲りと侮蔑の中、いつも口惜しさに体を震わせておりました」
だからこそ、意地を張ったり、がんばってきたりしたんだと思う。
でも、そんながんばりだって、きっと単純な理由だったんじゃないかなぁって思うんだ。
「しかし、そんな私に神は力を与えてくださいました。私は自分が信じるもののために、この力を使いとうございます。
 それでも陛下がいらぬとおっしゃるなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」
大切な人達を、ただただ守りたいって思うから。
だから、精一杯、がんばってきて、悔しい思いをして、ここまで来たんだろうなぁって思うんだ。
ボクとルイズおねえちゃんは似ている。
ボクは臆病だったから、ルイズおねえちゃんは魔法が使えなかったから、
そんな悔しさが、きっと、後々の覚悟や決意につながってくるんだろうなって思うんだ。
だから、ルイズおねえちゃんのこの覚悟は、とってもうれしいものに感じられるんだ。
そして、ボクももっとがんばらなきゃって思う。

「分かったわ、ルイズ。貴女は、今でも――一番の、私のお友達。
 ラグドリアンの湖畔でも、貴女は私を助けてくれたわね。私の身代わりに、ベッドに入ってくださって――」
「姫さま」
ガシっと抱き合う二人は、ほんと仲良しって感じがしたんだ。
「――相棒よぉ、娘っ子達、毎度毎度大袈裟すぎめぇか?」
「んー……いいんじゃない?なんか、友情って感じがして」
デルフはあくびしたそうに言うけど、こういうのって、本当にいいと思う。
『友達だから』。そういうのを恥ずかしくもなく言えるって、かっこいいことだと思う。
「これからも私の力になってくれるというのねルイズ」
「当然ですわ、姫さま」
「ならば『始祖の祈祷書』はあなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。
 決して『虚無』の使い手だということを、口外しませんように。また、みだりに使用してはいけません」
「かしこまりました」
「これから、貴女は私直属の女官ということに致します」
話がとんとん拍子で進んでいく。
お姫さまが隅にあった羊皮紙にサラッと杖をふると、
なんとなくかしこまった感じの書類が一枚できあがる。
「これをお持ちなさい。私が発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外へのあらゆる場所への通行と、
 警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。自由がなければ仕事もしにくいでしょうから」
それを小脇に抱えて、うやうやしく一礼をするルイズおねえちゃん。
ボクも、慌ててそれにならった。
「貴女にしか解決できない事件がもちあがったら、必ず相談いたします。
 表向きは、これまでどおり魔法学院の生徒として――と、言わなくても、貴女なら大丈夫でしょうね」
優しい笑顔を作って、ルイズおねえちゃんからその後ろのボクに今度は視線を移す。
「これからも、ルイズを、私の大切なお友達をよろしくお願いしますわね。小さき優しい使い魔さん」
「うん、分かったよ!」
言われなくても当然だけど、でも、よりがんばろうって気になった。
今までみんなに助けられた分、いや、それ以上になるぐらい、がんばろうって思ったんだ。

「――あぁ、そうですわ!早速、最初の任務をお願いしてもいいかしら?」
早速、何かがあるみたいだった。
「何なりと!姫さまのためなら地の果てだって行きますわ!」
「そんなに遠くまで行かなくて結構よ、ルイズ」
眉をちょっとだけしかめて苦笑いするお姫さまは、再び羊皮紙に杖をふって、何かの手紙を書き上げたんだ。
「これを、ヴァリエール公爵にお渡し願いたいの」
「私の父に、ですか?」
それをルイズおねえちゃんに渡す。
ルイズおねえちゃんのお父さん?どんな人、なのかなぁ?
「そう。今、信用できる方って、少ないですから」
少し、溜息をつくお姫さま。女王さまの仕事って、やっぱり大変みたいだ。
ダガーおねえちゃん、大丈夫かなぁ……?
「政権を新たに立て直すに当たって、今までの財政や貴族そのもののあり方見直しする必要があります。
 アニエスの登用もその一環でしてね。ですので、公爵のお力もお貸し願えないかと――
 第一線は退かれたとはいえ、まだまだ影響力がおありですし、清廉潔白で知られておりますから」
難しいことはよく分からないけど、お姫さまががんばるために、ルイズおねえちゃんのお父さんの力が必要っていうのは分かった。
「なるほど。――しかしお言葉ですが、そうしたことなら、父を直接王宮に呼び寄せても良いのでは?」
「ある程度秘密裏に、ですのよ。頭の硬く、腐りきった方々には、か弱い娘が政治に四苦八苦してる方がお望みでしょうし」
……?油断、させるってことなのかなぁ、悪い人たちを?お姫さま、色々考えてるなぁ……
「――姫さま、案外楽しんでませんか?」
「あら、これでも、僅かな楽しみを見つけるのに苦労してますのよ?」
でも、確かに楽しそうだった。お姫さまって、これぐらいタフじゃないとできないのかもしれない。
「引き受けてくださるかしら?」
「もちろんですわ!父も、体の動く内に姫さまのお役に立てることを光栄に思うはずですわ!」
「それでは、お願いね?」
「「はいっ!」」
ルイズおねえちゃんと一緒になって返事をする。
ルイズおねえちゃんのお父さん、か……どんな人なんだろ?


ピコン

ATE ~異端者共の巡礼~

ロマリア連合皇国の歴史をまとめてしまえば、『何度も小競り合いを繰り返した後、始祖の名を使って無理矢理1つになった』
という具合に、身も蓋もない文章でくくられてしまう。
しかし、このハルケギニアにおいて、始祖ブリミルを讃えるブリミル教は絶対無比の存在であり、
ブリミルの弟子の一人である聖フォルサテを祖王とし、
ブリミルが没したとされるロマリアは聖地に次ぐ重要な場所であり、
少ない国力をその信者の求心力によって十二分に補い、
我が物顔でガリアの南はアウソーニャ半島に聖者の長として君臨していた。
すなわち、この地の王でもある教皇に逆らうことは異端であり、
異端とはすなわち、このハルケギニアでの生を否定することであった。

「――あ~、なんっか腹立たしい!」
「――分からぬではない。が、口に出してどうする?」
そんな国家の首都、宗教都市ロマリア、神官共の言葉を借りるなら『光溢れた土地』にあって、
不敬なる大小二つの影が、大通りの脇に突っ立って会話をしていた。
感情豊かに怒れる少女と、それをたしなめる青年。
兄妹、あるいは年若い親子といったように見える二人だ。
共に綺麗なブロンドで、肌を言えば陶磁器のように白く透き通っている。
それが、周囲に合わせ、元は白かっただろう薄汚れたローブで全身を覆っている。
美の神とやらがおわすなら、もったいないことだと嘆いたことだろうか。

「臭いし、汚れてるし!ほんっと嫌な感じ!」
「言ってもしょうがあるまい。それとも、騒ぎでも作るつもりか?」
少女がイライラしながら指摘するとおり、ロマリアの街は酷い有様だった。
山奥の魚市場のごとく、腐った匂いと目であふれていた。
ここには救いを求める信者は山のようにやってくるが、
仕事と呼べる仕事はなく、信者たちは配給のスープに群がって1日を過ごすだけ。
それを見て笑うのは、実のならない議論を交わすだけの神官共。
自分たちだけは『光溢れる』の字通りに煌びやかに着飾っている。
光と影、この街では、その境目がわかりやすい形で提示されていた。

「これじゃ血を吸う気にもなれないの!」
「間違っても、吸うのではないぞ。ここは、我々を快く迎えない者達の巣だ」
その二人は、その光にも影にも属していなかった。
あえて言うならば、闇、だろうか。
始祖のご威光とやらが全く届かない、漆黒の闇。

「我らには、約束があるからな。ここでなるべく騒ぎを起こすなという」
そう感情を排除した声で言う青年。
そのローブの奥に、すらりと長く延びる陶磁器の破片が垣間見えた。
エルフ。特徴はその長い耳。
それはハルケギニアで最も恐れられる、ブリミル教の敵。

「でもでも、イライラしてくるんだもの!あいつら見てると!」
そう子供らしい撥ねる声で文句を言う少女。
その尖らせた口に、鋭利な刃物の切っ先が垣間見えた。
吸血鬼。特徴はその白い牙。
それはハルケギニアで二番目に恐れられる、人間共の敵。

よりにもよって、ここ、ブリミル教のお膝下で、異端中の異端、敵の中の敵が2体、
大胆不敵にも大通りの片隅で呑気な会話を繰り広げているのだ。
白いローブで、それぞれの特徴である長い耳や太陽に弱い肌を隠してあるとはいえ、
正体を知られれば、聖堂騎士隊が最上級の武装でもって排除しにくる存在であるにも関わらず。

「それにさぁ、ビダおにいちゃん。エルザ、退屈なんだもん。――たかだか偵察、なのにさぁ」
エルザと自称した吸血鬼がベェーッと舌を出して不満を訴える。
彼女にとって、この仕事は退屈極まりないのだ。
別に暴れられるわけでもなく、主食である血液を大量摂取できるわけでもなく、
ただ『ロマリアの状況を見てくる』この仕事は、根が少女そのものである彼女には退屈極まりなかった。

「気分が悪いことは認めよう。だが、それと仕事とは別の話だ」
やや不服ではある、ということを言外にこめ、ビダおにいちゃんことビダーシャルがつぶやく。
エルフである彼が『打倒エルフ』『聖地奪還』を標榜とする宗教の本拠地にいて気分がいいわけがない。
だが、彼とて任務の重要性が分からぬほど無能ではなく、むしろエルフの中でも慧眼の持ち主として知られた存在であった。
何時かは分からないが、いずれ技を交えなければならなくなるやもしれない相手。
その相手の懐の内を己の目で見るということは、重要な任であることは間違いなかった。

しかし、である。

いくら蛮族を下に見ており、このハルケギニアに来て不快な思いを幾度となく抱いた彼ではあっても、
ここに来たときほど胸糞が悪くなることも無かった。
ここでは、光の名を借りた蛮族の教えが、同族の屍をじわじわと貪り尽くす光景を生みだしている。
いかな蛮族とはいえ、このような陰惨な絵は好んで見たいとは思わぬものだった。
不衛生な大通りに貧民となった蛮族共があふれ返り、それに薮蚊がたかっている。
ビダーシャルも何度か刺された。
ローブの奥なので、かこうにも耳を隠さねばならず、仕方なく被った布の上からポリポリとかきながら、
不遇なる蛮族共を見ていた。

「――やれやれ、お二人とも、こちらにいらっしゃったのですか?」
銀髪のローブの男がゆるゆるとした足取りで異端な二人に近付いてきた。
クジャよりはやや見劣りはするものの長く鮮やかな銀髪に、ナイフのような切れ長の目が似合う美男子である。
「大通りで目立つ場所な上に、陽も高うございますのに。お二人の豪胆さは理解致しかねます」
貴族仕えの給仕のごとく、丁寧で流麗な口上は、聞く者に不快感を抱かせぬよう計算されつくされたものである。
「あ、トマおにいちゃん!終わったの?」
「えぇ、どうにか終わりました。何より、終わりませんと帰ってこれません」
トマおにいちゃん、と呼ばれた男は小さな微笑みを湛えてそう答える。
少しばかり疲労はしているが、一仕事を終えた男特有の良い表情をしていた。
「――情報は?」
「クジャ様はどうやられたのですかね?私めでは『これ』が精いっぱいでして」
そう言って差し出したのは、灰色になった紙片。
だがその色は、よくよく見れば、無数の黒い点が白紙に踊ることによって作り上げられていた。
さらに詳しく見れば、その点の1つ1つが文字であり、言葉であり、意味をなす文章であることが分かる。
それが掌ほどの紙片一面を満たしている。
「――細かいな」
エルフの男は蛮族の器用さに感心した。
エルフも手先が器用な種族として知られている。
それは編み物等の素朴な工芸品に表れている。
だが、今手にしたような紙片、このように文字を限られた空間に詰め込むということを、
精霊の力や蛮族の魔法を借りず成し遂げるなど、そう簡単には信じがたい。
「隠し持ちながら写しましたのでね。バレますと厄介ですし。いやはや、流石に時間がかかりました」
手首をブラブラとさせて“疲れた”というジェスチャーをしながら、
自身が器用である証拠を見せ付けた男が答える。
「これで全部か?」
「最新のものだけで精いっぱいですよ。昔のものまで探っておりましたら、いくら時間があっても足りません」
「曖昧な仕事は好まぬが、ジョゼフならば十分と言うであろうな」
それでも、かなりの情報量が集まったことになる。
外見で蛮族でないことがバレる恐れや、ディテクト・マジックで正体が判明する危険性を考え、
この男に潜入させたのは正解だったと見える。

「っん~!じゃ帰ろっか!ここって息がつまるし!」
エルザが両手を天に掲げて伸びをする。
結局、自分たちが暴れる必要が無かったことに若干の不満を覚えつつ、あくびを1つ。
この分だったら護衛に吸血鬼とエルフという組み合わせは不必要だったのではないか、ということを考えながら。

「もう、でございますか?少しぐらいは休ませていただきたいのですが――これは?」
ビダーシャルが少しばかり高級そうな紙を懐からチラッと見せる。
少なくとも、こっちの紙は灰色になるまで書き込まれてはいない。
せいぜいが短い1文ぐらいだ。
「イザベラからの書状だ。『偵察ごときに何をしてる。急ぎ戻れ無能共』だそうだな」
「うわ。エルザ、カッチーんって怒っちゃうな、それ!手紙だけはえっらそうにさぁ……」
「――ま、仕様がありませんね。主の命は絶対ですし」
この3人は、北花壇騎士団の補佐、という形で雇われていることになっている。
所属としてはややこしいが、国が人を動かすにはそれなりに名目が必要なのだ。
そのありがたくない名目のため、ガリア王ジョゼフの娘、つまりタバサの従姉妹にあたるイザベラが彼らのボス、ということになる。
「トマおにいちゃん、言葉づかいがかたいよ!生意気デコ娘いないんだしさ、もっと気楽に行こうよ!」
「そうおっしゃられましても――」
「いいの!わたしが許す!こっちまで息がつまるし!つか息抜きしないと血、吸っちゃうぞ~!」
子供っぽい悪戯な目で、トマおにいちゃんを見るエルザ。
青年はやれやれとため息をついて、伸ばしていた背筋をやや猫背気味にした。
「――ったく、ガチでダリぃべ?あのデコンパチがよぉ~……
 こちとら平民よ?変態パンツマンと同じ働きできるかっつの!普通にうざデコいわ、あのアマ……」
見事な変わりぶり。先ほどまでの懇切丁寧な雰囲気は消え失せ、路上でイキがっている若者の姿に成り下がる。
「フフフ、やっぱトマおにいちゃん、そっちの方がよっぽど『らしい』よ!」
「ふぅ――やめてくださいよ。ごろつきは卒業したんですから。今はこちらの言葉づかいが素の私です」
再び、背筋を伸ばし、どこに出してもそう恥ずかしくはない貴族の付き人に戻る。
器用なのは手先だけではなく、全身が器用らしい。

彼、トマおにいちゃんことトーマスは、なんやかんやで貴族と付き合ってきた期間が長い平民の1人だ。
彼の父が今は亡き王弟、オルレアン公のコック長を務めていたことから、ラグドリアン湖近くの屋敷に幾度となく出入りし、
今はタバサと名乗るシャルロットお嬢様と平民ながら親しくしていた間柄なのだ。
手品が得意で、いつもシャルロットお嬢様を喜ばせる快活な少年だった。
そんな彼の運命を変えた出来事は4つほどある。
1つ目はかの有名な“無能王”ジョゼフによるオルレアン家の取り潰し騒動。
この事件により、オルレアン家の使用人も散り散りになり、路頭に迷ったかつてのコック長もすぐに他界。
トーマスは野良犬のように日々を暮らす毎日だった。
求めては奪い、襲われては殺す、そんな獣のような日々。

2つ目はそんな人獣の世から救われたということだ。
単純に、元来から持つ手先の器用さと度胸を買われただけだし、
拾われた先にしたって、イカサマカジノを経営し私腹を肥やす屑だった。
トーマスに読み書き礼儀作法を教えたとはいえ、それもカジノの給仕兼用心棒をさせるためだけだ。
とてもじゃないが救われた、とは言い難い。
それでも、トーマスを路傍から救った屑に、若きトーマスは感謝し、一生を尽くすつもりだった。
例えそれが、どんな汚れ仕事につながるものだったとしても、だ。

3つ目は、皮肉にも、かつての主にそれが壊されたことだ。
北花壇騎士団の騎士として、カジノを訪れたかつての主、シャルロットお嬢様ことタバサ(とその従者)の手により、
彼の居場所はボロボロに崩された。イカサマは暴かれ、増えた資金は元の持ち主に返された。
しかし、それを恨むことはない。
彼はどちらの主も好いていたし、所詮、ごろつき上がりの平民であることを意識していたからだ。
だから、屑諸共懐かしき薄汚れた通りに放り出されても、絶望はしなかった。

4つ目は、再びそんな状況から救いだされたことだ。
どこからか、彼らの所業と手並みを聞きつけた、彼以上の銀髪の持ち主が彼らの目の前に現れたのだ。
レストラン脇の、ゴミ捨て場の代理肉を漁る彼らを。
彼の主であった屑は、商才と弁舌を見込まれオークションハウスに雇われた。
そしてトーマスは、再び、器用さと度胸を見込まれてちょっとした汚れ仕事を手伝わされている、というわけだ。

一応はお偉い様方に仕えている身なので、言葉づかいや動作は細心の注意を払っているが、
必要とあれば汚れ役はお手の物という不良らしく振る舞うのはいとも簡単だった。

「え~。いいじゃん、アウトローなトマおにいちゃん!そっちの方がいいと思うよ?」
「エルザ様、ご容赦を。身よりなき平民は生きることすら困難なのですよ。ここハルケギニアでは」
駄々をこねる吸血鬼の少女をやんわりたしなめるトーマス。
その言葉には実経験に裏打ちされた響きがこもっていた。
アウトローには、野良犬には未来は無いのだ。少なくとも、ここハルケギニアでは。
「その辺、人間って不便だよね~。やっぱり、屍人になった方が気楽なんじゃない?」
屍人は、吸血鬼の傀儡だ。血を吸われ、吸血鬼の言いなりになる存在。
「それは丁重にお断りさせていただきます、エルザ様」
流石に、操り人形になるぐらいなら、貴族にこき使われる平民の方がいい。
トーマスは笑顔でエルザの申し出を断った。
「行くぞ」
仕事を終えればすぐ帰る。ビダーシャルはあくまでも淡々としていた。

「ねぇねぇ、やっぱり血、吸わせてよ!ここ2週間ぐらい我慢してたんだし!」
帰りの道中、エルザがトーマスに抱きつく。
その姿は幼馴染のお兄ちゃんに抱きつく可愛い少女そのものだった。
「ご容赦を、エルザ様――」
「え~?ケチ~!直接じゃなくてさ、首からピューって出してくれたの、マグで1杯でいいからさ!」
ただ、その口から出るのは少女としてはかなり異質であったが。
「マグ1杯も出しましたら、平民の身では命の危険がございまして――」
「新鮮なのが飲みたいの!死んだのからとか、紛い物からじゃなくて!」
「そう申されましても、私ではいかんとも――」
「いいじゃん~!ほら、ピュッと出してよ!あなたの熱いのが飲みたいの!」
「や、やめ、おやめくださ、やめやがれこんちくしょ平民なめんな!?」
じたばたと体を絡ませ暴れる2人を見て、ビダーシャルが珍しく感情豊かにため息をつく。
「気楽なものだな――痛っ」
彼としては、早急にこの居心地の悪い街を抜け出し、
別の吸血鬼、薮蚊にかまれた場所を思いっきりかきむしりたくてしょうがなかった。
おまけに顔の横をが甲虫の類が高速度で横切り、爪か羽で引っ掻かれた。
手当したいところだが、ローブを脱ぐわけにもいかない。
全く、この蛮人の聖なる街とやらはやはりエルフには優しくないと見える。
虫の一匹すらエルフを嫌っているのだ。
精霊の力を、自然の力を信望するエルフの身として、ビダーシャルはほんの少し寂しい気持ちになった。
「ほ、ほら、ビダーシャル様が血を流してますからっ!?」
「あ、ほんとだ――美味しいかなぁ?」
「――飲むなら、帰ってからにしてくれ」
騒がしい不信心者共は騒がしいまま街を出た。



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