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毒の爪の使い魔-35


「あ……ああ……」
タバサが飲み込まれた火球と呼ぶ事すら躊躇われる、巨大すぎる炎の塊を見つめながら、キュルケは未だ呆然となっていた。


――あの業火の中に自分の唯一無二の親友はいる…、助けなければ…――

――間に合うわけが無い――

――いや、もしかしたら間に合うかも――

――…そんなわけがない――

――だって……あんな太陽が堕ちて来たみたいな火の中で…生きてられるわけ…――


全くと言っていいほど表情を変えず、無口で大人しい自分とはまるで正反対な性格。
勉強熱心な雰囲気が癪に触り、一度は自分もからかい、はめられたとは言え決闘まがいの事まで行った。
キュルケの脳裏に親友との思い出が蘇る。
フーケの一件、学院での事件、アンリエッタからの任務、…それだけではない。
外へ遠出をする時にシルフィードを使わせてもらった事、暇な時に部屋へ遊びに行った時の事、
色々な思い出が鮮明に次々に浮かんできた。


――もう彼女はいない…――

――共に過ごす事は出来ない…――

――あの日々は…戻らない…――


「キシシシシシシシ! キーーーシシシシシシシシ!!!」

…まだ、あの声が聞こえる。
タバサを殺した…憎い相手の声が聞こえる。
どこまでも、どこまでも楽しそうな笑い声は一向に止む気配が無い。
…何がそんなに楽しいのだろう? 解らない……解りたくも無い…。
いや…解る事は一つある。…この笑い声が酷く不愉快だと言う事だ。

――黙らせてやる…、二度と笑わないようにしてやる!

キュルケの深い悲しみと絶望は、激しい怒りと憎悪に変わる。
風も吹いていないのに赤い髪が逆立つようにして揺れ動く。それはさながら燃え盛る炎の様だ。
身体から、それまで彼女が出した物とは比較にならない魔力のオーラとプレッシャーがあふれ出す。
その雰囲気にルイズとギーシュは気圧される。
「キュ、キュルケ?」
ルイズの言葉にキュルケは反応しない。
ただ、真っ直ぐにジョーカーを――親友の仇を睨み付けている。

その様子にジョーカーも流石に気が付いた。
笑い声を止め、キュルケの方に顔を向ける。
凄まじい形相をした彼女を認め、ジョーカーは口の端を持ち上げた。
「おお…怖い怖い、随分とまた恐ろしい表情をしていますネ~?」
キュルケは答えない…、代わりに杖を構えた。
周囲のスキルニルジャンガとフーケが反応したが、ジョーカーがそれを止めた。
「まァまァ…そう無粋な真似をしなくても宜しいじゃないですか。
お亡くなりになった友人の仇を討とうと必死に抗おうとする姿……美しいですネ~♪」
変わらぬふざけた態度にキュルケの怒りと憎悪はそのベクトルを増す。
「ふざけるんじゃないわよ! タバサを…あの子をよくも!!!」
怒鳴るキュルケを見てジョーカーは更に笑う。
「のほほ…、つい興奮の余り昔の笑い方が出てしまいましたよ。いやいや、お恥ずかしい限り…。
それにしても素晴らしいですよ♪ その怒り! その憎しみ! 良いシチュエーションです…、良いシチュエーションです♪」
何処までも馬鹿にした態度――キュルケの中で怒りと憎悪の炎で炙られていた理性が…燃え尽きた。

キュルケは杖を構え、静かに詠唱を開始する。
ジョーカーは特に何をするでもなく、黙ってその詠唱を見物している。――完全に舐めきった態度だった。
(その余裕があなたの命取りよ…)
キュルケは詠唱を続ける。彼女の周囲を炎が取り囲むようにして動く。
炎は徐々に量を増やし、大きく渦を巻く。
――今ならこれを使える…、キュルケはそれを確信しながら詠唱を続ける。
炎が”鎌首を擡げる”。
火、火、火、火。火の四乗。
一度放たれれば敵味方を問わず、戦場に居る者全てを飲み込み焼き尽くす、炎の濁流。
否、それは濁流ではなく…業火の大蛇、恐るべきスクウェアスペル、その名も――

『ボア・プロミネンス!』

炎の大蛇はジョーカー目掛けて飛び掛った。
「何と!?」
ジョーカーが驚きの声を上げる。
迫り来る大蛇を迎撃するべく腕を伸ばす。
しかし、大蛇はその腕に巻きつき、並みの呪文などとは比較にならない熱量で焦がし始める。
「アヂヂヂヂヂヂ!!?」
ジョーカーが悲鳴を上げる。
大蛇はそのまま腕に巻きつきながら、ジョーカーの身体に巻きついていく。
業火がジョーカーの全身を焼いていく。
悶え苦しむジョーカーを見下ろしながら、大蛇が巨大な顎を開く。
それを見つめジョーカーの両目が大きく見開かれる。
途端、大蛇の顎がジョーカーを捉えた。
「あぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!?」
悲鳴を上げながら、ジョーカーは炎に包まれた。



炎に包まれるジョーカーを認め、キュルケは大きく息を吐いた。
――やった…親友の仇を討てた。達成感がキュルケを包む。
…だが、彼女は気が付いていない。フーケもスキルニルもヨルムンガントもまるで動じていない事を。

――炎からヒレの様な腕が伸びた。

「――え?」
キュルケがそれを認識する暇も無い。伸びた腕は槍のように彼女の腹部を貫いた。
衝撃が全身を駆け抜け、貫かれた腹部が燃えるような熱を帯び、激痛が走る。
「あ…、が…」
突然の事に、杖を取り落とす。弱々しい動作で自分を貫く腕を掴む。

「のほほほほ……流石に少~し熱いですネ」

炎が吹き飛び、全身に薄っすらと焦げ痕があるジョーカーが姿を現す。
その右腕が伸びてキュルケの腹部を貫いていた。
「あなた……まだ…」
「素晴らしい熱さでしたよ…。ですが、まだワタクシを倒すにはまだ足りませんネ~」
貫いている腕を振り上げる。キュルケの身体も宙に浮く。
そのまま大きく振りかぶり、地面目掛けて腕を振り下ろす。
貫かれたキュルケの身体が腕から離れ、地面目掛けて叩きつけられた。
キュルケの身体が地面を跳ねる。
うつ伏せの状態になったキュルケは全身の痛みに耐えながら身体を起こす。
燃えるような視線でジョーカーを睨み付ける。
「悔しいですか? 憎いですか? それもそうでしょうネ~。ワタクシはあなたのご友人の仇ですからネ」
ジョーカーはまるで他人事のように話す。
「まぁ、そんなに怒って悲しむ事も無いでしょう。…直ぐに再会できますから」
言ってジョーカーは腕を振り上げる。炎を作るのではなく、そのまま叩きつけるつもりなのだろう。
恐らくは、その一撃で自分の身体はバラバラになる、とキュルケは容易に想像できた。
「では、ゴー・トゥー・ヘブン! お空の彼方でシャルロットさんと仲良くしてくださいネーーー!!!」
キュルケは悔しさを噛み締めながら、自分に振り下ろされる腕を睨み続けた。

絶望的な状況に関わらず、自分を睨むのを止めないキュルケにジョーカーは賞賛していた。
(う~む…ワタクシを睨む事をお止めにならないとは、肝の据わった人ですネ)
だが、別にそれだけだ。感動だとか、同情だとか、そんな気持ちは微塵も湧いてこない。
手加減は不必要…、今振り上げた腕を振り下ろす。その一撃で終わりだ。
「では、ゴー・トゥー・ヘブン! お空の彼方でシャルロットさんと仲良くしてくださいネーーー!!!」
腕を振り下ろそうとする。



「いい加減にしとけよ…テメェ」

「へ?」

突然聞こえた声にジョーカーは顔を上げた。…その目に靴の裏が飛び込んできた。



――瞬間、ジョーカーの身体は大きく吹き飛んだ。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!?」

先程よりも長く、大きく、悲痛な悲鳴を上げながら、ジョーカーは勢い良く吹き飛ぶ。
地面を何度もバウンドし、滑走し、森の木々を薙ぎ倒しながら一リーグ以上の距離を吹き飛んだ。
その様子をその場に居た全員は、呆然としながら見つめる。
何が起きた? そう考えているキュルケの目の前に一つの影が降り立った。
大きな長身、紫色のその背中を見てキュルケの目が見開かれる。
「あ、あなた…」
彼女の声に彼は振り返る。変わらないニヤニヤ笑いが浮かんでいる。
――その両腕に小柄な少女が抱き抱えられていた。
「タ、タバサ!?」
地面に静かに横たえられた親友に近づく。――鼓動が感じられた。
死んだと思った友人が生きていた…、キュルケの目に涙が浮かぶ。
そして、キュルケは彼を見上げた。
「…随分と遅い登場ね」
「ウルセェ…、俺のコートが無けりゃ、タバサ嬢ちゃんは消し炭になってたんだからよ…感謝の一つぐらいしとけ」

キュルケとそんなやりとりをする、”使い魔”を見ながらルイズは叫んだ。
「遅すぎるのよ! この……バカネコーーーーー!!!」

その声に答えるように、ジャンガはニヤニヤ笑いを浮かべながらルーンの刻まれた左手を見せた。


目に嵌めたモノクルのレンズ越しに、ヨルムンガントの視界を見ながらシェフィールドはニヤリと笑う。
アルビオンでの一件で眠りについていると聞いていたが、こうして現れてくれた。
どうしてもあいつはこの手で叩き潰してやりたかったのだ。
…自分の敬愛するガリア王ジョゼフを侮辱されたのだから。
ジョーカーの意識が途絶えたのか、呆然としていたスキルニルにシェフィールドはミョズニトニルンとして命令を下す。
残っていた数体のスキルニルジャンガが、一斉にジャンガへと襲い掛かる。
本物と同じ能力が数体、しかも相手はルーンを失っている……結果は火を見るよりも明らかだ。
――そのはずだった。

次の瞬間、襲いかかったスキルニルは一体残さずバラバラにされた。

「何…?」
突然の事にシェフィールドは呆然と呟く。
まるで動きが見えなかった…、神速と言えるほどの速度だ。


「木偶が毒爪語るんじゃネェよ…ボケが」
スキルニルを下したジャンガはそう吐き捨てる。
そしてフーケのゴーレムへと向き直った。
その冷たい視線にフーケは背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
しかし、恐怖心を払い除け、前の借りを返さんとゴーレムを動かす。
ゴーレムの腕が振り上げられ、ジャンガ目掛けて突き出された。
ジャンガはそれを避けようともしない。無造作に腕を構え、爪を一閃する。
瞬間、放たれる巨大なカッター。
それは凄まじい威力で持ってゴーレムの腕を切り裂き、ゴーレムの本体を切り刻んだ。
崩れるゴーレムに巻き込まれるようにしてフーケの姿が掻き消える。

過去、随分とてこずらせてくれたゴーレムが一撃で倒れる様を見て、ジャンガは笑みを浮かべる。
「キキキ、調子良いゼ」
「凄ぇぜ相棒!? あのゴーレムも一撃たぁおでれーた!」
背中のデルフリンガーが驚きの声を上げる。
「しかも、しかもだ! 相棒のルーンから感じるぞ、凄い力を。
これは…そうだ、これだ! 俺が感じた…知っているガンダールヴの力!」
どうしたのかは知らないが、随分と興奮している様子だ。
だが、ジャンガは何処吹く風。
「さてと…」
後ろを振り返る。――巨大な剣がジャンガへと振り下ろされた。

ルイズはハッとなった…が、ジャンガは何事も無かったように自分の目の前に着地した。
ジャンガは両脇に抱えていたタバサとキュルケを地面に下ろす。
「邪魔だから下がってな…」
その言葉にルイズはムッとなった…が、事実である以上言い返す言葉が無い。
悔しそうに拳を握り締め、唇を噛み締めるルイズを見つめながらジャンガは笑う。
「まァ、そう気にするな。…あと始末はしといてやる。お前等はドリル頭にでも治しといてもらえ」
そう言い残し、ジャンガはヨルムンガント目掛けて駆け出す。



「キイィィィエェェェェェーーー!」
奇声を発しながら飛び上がり、ジャンガは目の前のゴーレム目掛けて爪を振り下ろす。
しかし、爪は鎧に難なく弾かれてしまう。
驚く間も無く、今度はゴーレムの左手が伸びる。
舌打し、ジャンガはゴーレムの鎧を蹴って飛び退く。
地面に着地するや、今度はゴーレムは投げナイフを放ってきた。
ナイフと言ってもゴーレムが扱うサイズ……その大きさは大剣ほどもある。
合計三本の投げナイフは次々に地面に突き刺さる。それをジャンガは軽やかなステップでかわす。
と、ゴーレムが”跳んだ”。
「ンな!?」
これにはジャンガも驚いた。これまでの動きもそうだが、二十メイルを超えるゴーレムの動きには到底思えない。
跳躍したゴーレムは落下しながら手にした剣を振り下ろす。
「チィッ!」
その場を慌てて跳び退る。落下の速度も合わせた剣の威力は地面を大きく抉るほどの物だった。
巻き起こる粉塵に軽く咳き込みながら、ジャンガは体勢を立て直す。
『なかなかやるもんだね、流石はガンダールヴ』
突然聞こえたその声にジャンガは顔を上げる。聞き覚えがある声だった。
声が聞こえた先にはゴーレムの顔。その口と思しき部分から声は響く。
『こちらから出向く手間が省けたよ。これで、あの時の借りが返せるって物さ』
「その声…あのガーゴイル野郎か。え~と…何だっけ…”百舌を寝取る”だったか? いや”百舌を煮る”か?」
ゴーレムから歯軋りのような音が聞こえる気がするが、ジャンガは気にも留めない。
「ああそうだ、”百舌ギトギト煮る”だったな!」
『…ミョズニトニルンよ。でも、シェフィールドと呼んでもらいたいものだね』
――声に僅かながら怒気が含まれていたのは気のせいだろうか?
無論、それすらジャンガは気にしない。
「ああ…そうかよ、メンドくせェな。…で、借りってのは何の事だ?」
『忘れたとは言わせない…、お前がジョゼフ様を侮辱した事を」
「そんな事もあったな。――ッたく、どっかのガキと同じでしつこい野郎だゼ」
『あれは…お前の命でなければ償えない! このヨルムンガントで叩き潰してやるよ!』
「こっちも忙しいんでな…、早くしな?」
ジャンガは爪をクイクイと動かし挑発する。
瞬間、ヨルムンガントが剣を薙ぎ払った。

凄まじい勢いで剣がジャンガの立っていた場所を通り過ぎる。
だが、そこにジャンガの姿は無い。剣にも衝撃のような物は無かった。
一体何処へ? シェフィールドに操られたヨルムンガントは周囲を見回す。
「キキキ、何処見てんだよ?」
声が聞こえた方にヨルムンガントは振り返る。
振り切った剣の切っ先の上にジャンガは何事も無いかのように乗っていた。
「最初は驚いたが、慣れりゃどうって事はねェな」
シェフィールドはジャンガを振り落とそうとするが、遅い。
ジャンガは剣の上を高速で駆け、ヨルムンガントに突撃する。
そして爪を振るい、鎧を斬り付ける。だが、先程同様に弾かれてしまった。
バランスを崩したジャンガはそのまま地面に落下する。
何とか着地した所にヨルムンガントがその巨大な足で踏みつけてくる。
バックステップでそれを避け、ジャンガは距離を取った。
「チッ、何だってんだ…あのゴーレム? ヨルムンガントだとかふざけた名前付けやがって…。
妙に素早いし、鎧も俺の爪を簡単に弾きやがる。どうなってやがる?」
ジャンガの独り言にデルフリンガーが答える。
「ありゃただのゴーレムじゃねぇな、恐らくエルフの先住の力が使われてる。
鎧に爪が弾かれるのもただ硬いからじゃない、カウンター<反射>がかけられてるからだ」
「あの長耳のかよ…、チッ、メンドくせェ」
「だが、大量にカウンターを使ってるお陰で鎧自体に攻撃は届いてる」
「あン? そりゃどういう意味だ?」
「要するにだ…、相棒の攻撃は弾かれただけだろう? 前のエルフの時は弾かれただけじゃなく、吹き飛ばされていた。
つまり、カウンターの反射能力は弱まっているのさ。何しろあの巨体だ、カウンターの密度も相当薄くなってるはずだ」
「…なるほど、ゴムが伸び切ってる訳か」
どんなに厚いゴムでも、伸ばして使えば薄くなり、千切れやすくなる。
カウンターもエルフ一人とヨルムンガント一体では覆う範囲が桁違いなため、必然的に反射能力も弱まっているのだ。
何にせよ、エルフの時とは違い、直接攻撃が届いているのは大きい。
ジャンガはニヤリと笑う。
「だとすりゃ…」
呟き、駆け出す。
その動きにヨルムンガントもすぐさま反応する。
剣が振るわれ、大地に一撃が叩き込まれる。
巻き起こる粉塵、そこから飛び出す四つの影。
「何処見てやがる、ボンクラ!」
叫びながら四体に分身したジャンガは四方に散開する。
『チッ』
シェフィールドの忌々しそうな舌打が聞こえる。
四体のジャンガが爪を口元に寄せる。
大きく息を吸い込み、閉じた爪と爪の間に息を吹き込んだ。
すると、爪から次から次へと緑色の泡が生まれ、飛んでいく。それはまるでシャボン玉の様だ。
次々に生まれた緑色の泡はヨルムンガントの全身で破裂していく。
しかし、特に何かが起きる様子は無い。
『それは何の真似? 隠し芸なら別の場所でやりな!」
シェフィールドの声が終わる前に、ヨルムンガントが動いた。
大剣が地面を抉る。しかし、ジャンガはその場をすぐさま飛び退いている。
そして、別の場所から再び泡を生み出し、ヨルムンガントに吹きつける。
『まったく…無駄な事をしてるんじゃないよ!』
馬鹿にされている様に感じ、シェフィールドは苛立ち叫ぶ。
ヨルムンガントの動きは更に早まり、四方八方に剣を振るい、跳躍して踏みつける。
しかし、ジャンガはその攻撃を尽くかわし、泡をヨルムンガントに…特に胸板と大剣に集中して吹き付けていく。
かわしては吹き付け、吹き付けてはかわし、そんな攻防が暫く続いた…。

ヨルムンガントの大剣や鎧を見つめながらジャンガは考えた。
(そろそろか…)
泡を作り出すのを止め、分身を消した。
シェフィールドはその唐突な動きにいぶかしむ。
だが、相手が何を考えていようとこのヨルムンガントに傷一つ負わせられないのは最早明白なのだ。
今更何をされようと恐れるに足りず。
『これで終わりだよ!』
大剣が振るわれる。その先にジャンガが居たが、避けようともしない。
ジャンガはヨルムンガント――否、それを操るシェフィールドに向かってニヤリと笑みを浮かべて見せた。
振るわれた大剣目掛けてジャンガは爪を叩き付けた。

ビシッ、バキンッ!!!

鉄が砕ける音が聞こえ、大剣がボッキリと折れた。



その場に居る誰もが呆然となった。幾らなんでも冗談だろ? と思った。無理も無い。
二十メイル以上もあるゴーレムの使う大剣が、二メイルそこらの亜人の一撃で折れるなど誰が予想できようか?
剣を振り切った姿勢のまま、ヨルムンガントは硬直する。
どうやら操っているシェフィールド自身も驚きを隠せないようだ。
その隙を見逃すほど、ジャンガは甘くない。
再び分身し、一気に間合いを詰め、飛び上がる。
先程泡を吹き付けていた胸板目掛けて凄まじい勢いで爪の斬撃、カッター、蹴りの嵐を叩き込む。

ビシシシシ!

大きな音がしてヨルムンガントの鎧に罅が入る。
ジャンガは分身を足場にし、大きく飛び上がった。背中の鞘からデルフリンガーを抜き放つ。
「オイ、ボロ剣! 解ってるな!?」
「…また”あれ”かよ」
デルフリンガーはぼやく。
ジャンガは大きく振り被り、デルフリンガーを投げる。
そのままヨルムンガントの鎧の罅に突き刺さった。
そのデルフリンガー目掛けてジャンガは空中で回転しながら飛び掛る。
「歯ァ食い縛れ!」
「ああ、もう仕方ねぇ! 俺も腹括る! 思いっきりやれ、相棒!」
デルフリンガーの叫び声が響く。
回転しながら突撃したジャンガは強烈な蹴りをその柄の先端へと打ち込んだ。
そのままデルフリンガーを引き抜き、飛び退く。
一瞬の間を置き、ヨルムンガントの鎧の胸の部分が砕け、大穴が開いた。
ヨルムンガントが二、三歩後ろへよろめいた。
『何故…、どうしてこうも簡単に?』
信じられない、と言った感じのシェフィールドの声が聞こえる。
「教えてやろうか」
ジャンガはコートに付いた土などを払いながら、立ち上がる。
「今し方、お前が隠し芸だとか無駄な事だとかぬかしてくれた奴が原因さ」
『何だって?』
「ジャンガバブル……毒の爪の毒素を泡にして飛ばす事ができるのさ」
『まさか…』
「そう、そのまさか。腐食性の猛毒をそのゴーレムの全身に吹き付けてやったんだよ。
得物と鎧の胸板に特に集中してな。多少掛かったが、効果は上々だゼ」
シェフィールドは悔しさに歯噛みした。
――まさか、あの泡にそんな意味があったとは…。完全に見くびっていた。
急いでヨルムンガントを動かそうとするが、上手く動かない。
既にヨルムンガントの各部関節などは腐食し、本来の機動性は失われつつあったのだ。

錆付いたロボットのようにぎこちない動きをするヨルムンガントを見据えながら、ジャンガは懐からハンドライフルを取り出す。
弾倉を替え、その狙いをヨルムンガントの胸に開いた大穴へと定めた。
「お祈りでもしときな…」


――この場にジャンガは目覚めてから真っ直ぐ来た訳ではない。
来る前に彼はちょっとした寄り道を行っていた。

火の塔の傍に立てられた小屋。
それは最早主人の失われて久しい、みすぼらしい掘っ立て小屋。
部屋の中にも多少埃が積もっていた。
ジャンガはこの小屋の生前の主人が発明家だという事を知っていた。
そして、小屋に様々な秘薬やら道具やらが溢れている事も。
小屋の中をある程度調べ、使えそうな物を片っ端から引き出す。主人の作ったと思しき”発明品”も含めて。
それらを見つめながらジャンガはポツリと呟く。
「あれだけ好き勝手言ったんだ…、迷惑代として使わせてもらうゼ…”炎蛇”」
そしてジャンガは作業を始めた。


ジャンガは口の端を釣り上げ、ニヤリと笑い、爪を引き金に掛けた。
「こいつは奴との合作…、威力は文句無し…、遠慮なく受け取れや…、こいつは――」
思いっきり引き金を引く。
「サーーーービスだァァァーーーーー!!!」
叫び声と同時に”砲”の音が響く。反動でジャンガの身体も後ろへ跳んだが、空中で受身を取り着地する。
放たれた弾丸は寸分違わず、ヨルムンガントの胸の穴に吸い込まれる。
瞬間、ヨルムンガントは内部から爆発、四散した。まるで、ヨルムンガント自体が爆弾になったかのように。



ヨルムンガントが吹き飛んだのを見届け、ジャンガはハンドライフルを見つめる。
自分に色々と言ってくれた二人の道具を勝手に使わせてもらっているが、おかげで随分と助かった。
「まァ…テメェは嫌がるかもしれないが、生徒助けてやってるんだから納得しとけ」
掘っ立て小屋の主に向かってジャンガはそう呟いた。

「もらったよ!」

何者かの声が響く。
ボコッ、ボコッとジャンガの周囲を取り囲むように、土の壁がせり上がる。
ジャンガはその場を飛び退こうとするが…できなかった。両足を地面から伸びた土の腕が掴んでいる。
土の壁は半球形のドーム状になってジャンガを覆い尽くす。
「ジャンガ!?」
その光景を見てルイズは叫ぶ。
「案外上手くいくもんだね」
ルイズ達は声の方へ振り向く。
先程ジャンガが倒したゴーレムの残骸である土塊の山から、フーケが姿を現した。
真正面から立ち向かって勝てる訳が無い事を彼女は既に学習していた。
故に決定的な隙ができるのを土塊の中から、虎視眈々と狙っていたのだ。
…そして、チャンスは訪れた。
「これで終わりさ!」
ゴーレムが地面から再度姿を現す。豪腕を振り被り、土塊のドームを力任せに叩き潰した。
ドームは粉々に打ち砕かれ、土塊が辺りに飛び散る。
「ははは! あっけないものだね!」
笑うフーケ。――直後、ゴーレムがズタズタに切り裂かれる。
「え?」
唖然とするフーケの後頭部にゴリッと硬い何かが押し付けられる。
「馬鹿みたいに笑ってんじゃねェよ…、コソドロが」
フーケは息を呑んだ。いつの間にか、背後にジャンガが立っていた。
「くっ…」
「あの程度で隙を突いたつもりかよ? 甘いゼ…、キキキ」
ジャンガはそのままフーケを地面へと押し倒す。
背中に足を乗せ、ハンドライフルの銃口を向ける。
「さてと…、俺は二度もチャンスをやるほど甘くねェ」
「…そんな事、解りきってるさ。あんたは外道だからね」
「確かにそうだがよ…、年端行かないガキ殺そうとした奴に言われたかねェな~?」
「やるならやりなよ…」
「そうかい? なら遠慮無く殺らせてもらうゼ」
「フン」
忌々しげに鼻を鳴らし、フーケは静かに目を閉じた。
…だが、いつまで経ってもその時は来ない。
どうしたんだ? とフーケが思った時、背中が軽くなった。
「…と、言いたいとこだがな。止めとくゼ…」
ジャンガは言いながらフーケから離れ、ハンドライフルを懐にしまう。
フーケは怪訝な表情を浮かべながらジャンガを見上げる。
「どういうつもりだい?」
ジャンガは両手を広げ、おどけてみせる。
「どういうつもりだって言われてもな…、見たとおりだゼ?」
そして、真剣な眼差しを向ける。
「行けよ…」
「何?」
「行けって言ってるんだよ」
「……」
「そう睨むなよ…、何も裏は無ェ。――お前は俺と同じみたいだからな」
「同じ?」
「ああ…。大方、上の奴から力で捻じ伏せられて、裏方に落ちたって事だろ?」
…図星だった。苦い表情で黙るフーケを見てジャンガは確信する。
「やっぱりな」
「同情ならいらないよ…、余計なお世話さ…」
「ああ、お前個人だけなら別に同情なんかしてねェよ…」
「ならどうして…」
ジャンガはため息を吐く。
「居るんだろ? 待ってる奴が」
「な…?」
「あの港町でテメェが見せた寂しげな表情……もしかしたらと思ってな」
「……」
「やっぱり同じだ…、俺もお前と似たような経験があるからよ。
ほら行け…。ただし…二度と、俺の前に敵として現れるな。それが条件だ」
暫しフーケは悩んだが、やがて大きく息を吐いた。
「……礼は言わないよ」
背を向けてそう言うフーケに対し、ジャンガは鼻を鳴らす。
「必要無ェ…、テメェを待ってる奴に同情してやったんだからよ…」
フーケはその場を走り去った。
その背をジャンガは静かに見送った。

「良かったのか、相棒?」
デルフリンガーが声を掛ける。
「さてな…、ただの気紛れだしよ。まァ、もう一度敵として現れたら、そん時は遠慮無く潰すさ」
そしてジャンガは空を見上げる。
無数の竜騎士と巨大な戦艦、まだまだ片付ける相手は残ってる。
さて、空の相手をどうするか? 悩んでいると傍にシルフィードが飛んで来た。
背中には未だ傷が癒え切っていないタバサの姿がある。
その姿を見つけ、ジャンガは顔を顰めた。
「テメェ…無茶すんじゃねェよ?」
「大丈夫…、何とか…なる」
息も絶え絶え…、可也無理をしているのが手に取るように解る。
ジャンガはため息を吐いた。
「ったく、頑固な所はあのクソガキと変わらね――」

次の瞬間、ジャンガは伸びてきた巨大なヒレを爪で受け止めた。



突然の事にタバサもシルフィードも呆然となる。
ジャンガは巨大なヒレとつばぜり合いを続けながら、口を開く。
「…下がってろ、死にたくなけりゃな」
その言葉にシルフィードは慌ててその場を飛び退いた。
ジャンガは腕に力を込め、ヒレを弾く。
ヒレは彼方の森の中から伸びている。
その森の木々を薙ぎ倒し、巨大な影が姿を見せた。
そのままジャンガ目掛けて飛び掛る。
「ジャァァァーーーンガちゃァァァーーーん!!!」
叫び声と共にジョーカーがヒレ状の腕を振り下ろす。
それをジャンガは爪で受ける。
その一撃で攻撃は終わらない、次から次へと目にも留まらぬ速さでジョーカーは攻撃を繰り返す。
巨体に似合わぬ俊敏すぎる動きだ。
それをジャンガも真っ向から受け止めていく。
その攻防の凄まじさに誰も声が出ない。…メイジや剣士は愚か、数多の亜人にもこれほどの動きはできないだろう。

暫く打ち合い、互いに距離を取る。そのまま静かに睨み合う。
静寂が辺りを支配し、時だけが過ぎる。
太陽は更に隠れ続け、辺りを支配する闇も暗さを増す。

「何で…」
静寂を破ったのはジョーカーだった。
「何でですか?」
「何でってのは何だ?」
ジョーカーはため息を吐いた。悲しそうに表情を歪める。
「向こうでの……いや、こちらでも再会したばかりのジャンガちゃんは素敵でした。
人を人とも思わぬ冷酷さ…、簡単に相手を殺せる残忍さ…、全てが素敵でした。
なのに……これはどう言う事なんですか? 何で…こんな馬鹿馬鹿しい正義ごっこなんかするんです?」
「…馬鹿馬鹿しい?」
そう答えたのはタバサだ。
タバサは痛む身体に鞭打ち、シルフィードから降りるとジョーカーを睨む。
「馬鹿馬鹿しくなんかない…、ジャンガは…昔を思い出しただけ。昔の自分を…取り戻しただけ…」
「それが馬鹿馬鹿しいと言うんです…、昔が何ですか? そんなもの…過ぎ去った下らない事ですよ。
…ワタクシの知っているジャンガちゃんはとても素晴らしい…、あまりにも素晴らしすぎる…。
なのに、そんな今更忘れ去られた過去を穿り返して、困らせないで欲しいですネ?」
ジョーカーはタバサを睨み付ける。
しかし、タバサも引かない。
「それこそ…あなたの身勝手な考え…。自分が見た物が…妄想だという事を認められない…。
だから、自分の中の理想でなければいけないと…我侭を言っているだけ…。
ジャンガは…あなたの中の欲求を満たすだけの…玩具じゃない…」
「貴方こそ、後からでしゃばって来たくせに偉そうな口を聞かないで欲しいですネ。
大体…最初は貴方もジャンガちゃんを嫌悪していたでしょう? なのに…ジャンガちゃんの過去を知ったとか言って口出しをする。
それこそ身勝手なのではないですか? 今更なのではないですか? 子供の考えですネ…」
タバサは暫し俯き、顔を上げる。
「そう…わたしも子供だった、色々と…。でも…彼に、ジャンガに色々と教えられた。
復讐だけが全てじゃない…、周りを拒絶せずに…自分の周りの人を大切にする事が大切なんだと…、教えてくれた」
「それが何ですか? まさか…だから本気で貴方を心配したとでもお思いなんですか?
ぷぷぷ…そんな事がある訳無いじゃないですか。大方、気紛れでしょうネ~」
「それこそ……あなたの身勝手な妄想…」
「うるさいですネ…。掛け値無しの外道! それこそがジャンガちゃん! ワタクシの唯一無二の親友!」
「親友なら…もっと相手の事を知るべき…。それをしないで…自分の理想のままでいてもらおうと駄々をこねる…。
あなたは…子供。親友という言葉も……彼を手放さないようにするための…鎖。…あなたは、親友なんかじゃ…ない」
「……下手に出ていれば、小娘が生意気な口を――」



「ウルセェェェェェェェェーーーーーーーーーー!!!!!」



ジャンガの叫び声にタバサもジョーカーも、離れた所で事の成り行きを見守っていたルイズ達も息を呑んだ。
大声を出した後だからか、肩で大きく息をするジャンガ。…その顔には苛立ちが多分に見て取れた。
ジャンガはタバサとジョーカーを交互に睨み付ける。
「テメェら…何勝手に人の事で、あ~だ、こ~だ、くっちゃべってるんだよ? 正直ウゼェ…ウザすぎる!」
誰も何も言わない。
ジャンガは言葉を続ける。
「俺が外道だとか…昔がどうだとか…、ンな事ァ今更何にもカンケェねェんだよ! バァーーーカ!!!」
「で、でも…ジャンガちゃん?」
ジョーカーが口を開く。
それをギロリと睨み付ける。
その凄まじい眼光に一瞬たじろぐ。
「テメェの言うとおり俺は外道だ!」
「…はい?」
間抜けな声を漏らすジョーカー。
続いてタバサを睨む。
タバサもその形相に身が竦む。
「お前の言う通り、過去に色々ありもした!」
その言葉にタバサも呆然となる。
ジャンガは両者を睨み、口を開く。
「だがよ、それが今更なんだってんだ!? 今し方言ったが、カンケェねェんだよ!
俺は俺の好きなように、思うままに動いてきたんだ! 俺は自分で道を選んできた!
そうだ、誰かに言われたからじゃねェ! 俺が自分でやってきたんだ! そこに後悔だとかは微塵もねェ!」
そこで一旦言葉を切り、ため息を一つ吐く。
「まァ…確かに、後悔みたいな物をした事も何度かあった。…くだらねェ奴等に色々と人生捻じ曲げられた事もあった。
だがよ? それも含めて…俺の人生だ。他人が口出しするような物じゃねェんだよ」
ジョーカーがそこで口を開く。
「なら、ジャンガちゃん? 今の正義の味方ごっこもジャンガちゃんが好きでやっていると?
誰かに言い包められたからじゃなく?」
ジャンガは、ハァ? と呆れた表情を浮かべた。
「オイオイ…俺がいつ”正義の味方”なんて下らない物になったんだよ?」
「へ?」
「正義なんて物はな…この世には存在しねェ。いや、真っ白な奴は居ねェ…って言った方が正しいかよ?
世の中、全員が大なり小なり悪事をしてるんだよ。あそこの姫嬢ちゃんはテメェの尻拭いで友人利用し、
その友人のクソガキは下らねェプライドを振り翳して貴族だ何だと威張り散らす。
気障ガキはテメェを慕う女裏切り続けるダメ男、ドリル頭はクソガキと同じ威張り屋、
雌牛は自意識過剰の我侭女で、ここにいるチビガキはくだらねェ事で周りを拒絶し続ける文字通りのガキだ!
解るか? これだけみても真っ当な白い奴はいないんだよ、悪事を犯さない奴はいないんだよ。
絶対正義なんざ御伽噺……それこそ、始祖ブリミルか神様、仏様位だな」
「では…ジャンガちゃんはここにシャルロットさん達を助けに来たんじゃないんですか?」
「まァ、結果的にはそうなるかな? でもよ、今言ったとおり…別に正義だ何だとか言うつもりはねェよ」
「では…どうして?」
「ンな事決まってるだろ?」
ジャンガは嫌みったらしく笑う。

「テメェの玩具箱を荒らされたのが腹立たしかっただけだ」

「お、玩具箱?」
「そうさ…玩具箱。このトリステインは俺の玩具箱だ」
大仰な仕草で両手を広げる。
「実に遊びがいのある玩具箱だゼ、ここは。色んな玩具がそこかしこに転がっていて、見ているだけでも厭きないな。
遊んでやったら尚更だ。色々と躾け外のある輩も多いしよ。だから…この玩具箱を荒らされるのは我慢ならねェんだよ。
そんな訳だからよ…ジョーカー? 俺はまだまだここで、この玩具達で遊んでいたいんだ…。
悪いが…これ以上玩具痛めつけるのは止めてもらうゼ…」
「……」
ジョーカーは暫く沈黙し――唐突に笑い出した。
「のほほ、のほ、のほほほほほほ」
一頻り笑い続け、沈黙する。
「……解りました。ジャンガちゃんらしい答えです。…いえいえ、ワタクシも少しばかり我侭が過ぎました」
ジャンガは答えない。
「ですが……ワタクシもワタクシの事情と言う物があります。
幾らジャンガちゃんの頼みと言えど…”はい、そうですか”とは言えませんネェ~?」
「ほゥ? なら…どうする?」
ジャンガとジョーカーは互いに睨み合う。

「そう言えば、ワタクシ達…”ケンカ”と言う物をした事がありませんでしたよネ?」
「ああ、互いに相手に合わせていたからな…、そんな事は一度も無かったな」
「では…これが”初めてのケンカ”という事になりますよネ?」
「そうだな…キキキ」
「のほほ」
互いに笑う。だが、場の空気は決して笑える雰囲気ではない。
ジャンガは唐突にハンドライフルを取り出し、デルフリンガーの鞘を外す。
それらを纏めてタバサに預けた。
「それ持って下がってろ、二度は言わねェ」
タバサはシルフィードと共に大人しく下がった。
それを見届け、ジョーカーに向き直る。
「下らない横槍は使わねェ。何しろ、これは俺達の記念すべき初のケンカなんだからよ?」
「ジャンガちゃん…拘りますネ~」

それっきり、互いに口を閉ざす。
辺りを静寂が覆う。
タバサもルイズもキュルケもアンリエッタも遠い森の中のシエスタも息を呑んで見守る。
太陽が遂に二つの月に覆い隠され、夜のような暗さが辺りを覆う。

――風が吹いた。



――ジャンガの爪とジョーカーの腕が真正面からぶつかり合った。


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