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ルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!- 01



「……我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」
トリステイン魔法学院春の恒例行事、新二年生の使い魔召喚の儀式。
この通過儀礼は今年もつづかなく進行し最後の一人を残すのみとなっていた。
呪文の詠唱と共に起きたおびただしい煙と爆音が去り、生徒たちが声をあげる。
「あれは……人間か?」
「平民だ!『ゼロのルイズ』が平民を召喚したぞ!」

──そこに現れたのは、一人の男であった。
黒々とした総髪に整った顔立ちは30歳前後かと思われるが、
肌はのっぺりと艶がなく血の気が薄く、異様に老成した印象をも与える。
衣服はその場に居合わせた者たちには見たこともない種類のもの──袴に裃──であったが
腰に剣を帯びていることからこの男がメイジではなく、あるいは異国の戦士階級に属していることが知れた。
大の字に寝そべった男は周囲の喧騒を知らぬかのようにぴくりとも動かず、くわと目を見開いてただただ虚空を睨んでいる。
「あっはっはっはっ!流石にルイズは期待を裏切らないわねぇ~よりにもよって平民を呼び出すなんて!」
「オチがついた所で早く終わりにしましょうよ。ねぇ先生?」
口々に囃し立てる生徒たちの声が聞こえぬかのように、ルイズとコルベールは現れた使い魔の姿を注視していた。
少女は屈辱と悲嘆に自失した様子で、教師は極度の緊張を面にあらわして。
つられて生徒たちも依然沈黙を保ったままの男へと視線を戻す。
「……なあ、もしかしてこの使い魔」
色白と見えた顔はますます血の気が引いて蝋のごとく。唇の端からは一筋の朱が落ちて草の上に固まった。
「死んでねぇか?」

墨を広げたように黒く、暗い闇の底であった。
人が眠りに落ちるときに見るそれを思わせたが、本来は似て非なる物。
なれど余人の死が覚めることのない眠りならば、この男の生は
終わることのない悪夢にしてかりそめの死は一炊のまぼろしに過ぎぬ。
解脱も救済も望むことかなわず、うつし世に縛られ続ける宿怨の子は今また黄泉の淵から舞い戻ろうとしていた。

男が目が覚ますと、すでに日は高く上っていた。
今日は里の女子を連れて山菜取りへゆく日であったろうか?
記憶が曖昧模糊として思うようにつかめない。
(むう……またしてもうっかり熊に出くわしたか、岩場で足を踏み外しでもしてしもうたか?
 小四郎め、いつもわしが起きる頃合いには側に控えておれと言うておるに)
後で会うたらたっぷり絞ってやろう。
哀れな従者への文句を心中ひとしきり垂れてからあたりを見渡し、
ようやく男は己が身にふりかかった異変に気がついた。
「……どこじゃ、此処は」

「!おい、ルイズの使い魔が起きたぞ!」
「何ですって!?」
見知らぬ風景である。加えて畸形の多い鍔隠れの里にあっても見ることのできぬ
髪や目、肌の色をした少年少女らが半身を起こした己を遠巻きに眺めているのだ。
彼らの容貌はかつて安土で見た宣教師一行を思わせたが、
亡き太閤秀吉のバテレン追放令より30年余り。
長崎あたりでは今も南蛮商人が来航して商いをなし、あるいは地下に潜伏して信仰を守る宣教師がいるとも聞くが
伊賀国の奥地にいるはずの己がかように多勢の南蛮人と出会う機会があろうはずもない。
まあ要するに、何もわからぬ。ということがよくわかったのであった。
子供ばかりの中から唯一年かさの男が歩み寄り、慎重さを帯びた声をかけてよこした。

「もし……大丈夫ですか?」
間の抜けたような、それでいて重大な問いだったが男は平静な態度で応じることにする。
「わしの身ならば案ずるには及ばぬ。しかし……一体此はなにごとぞ?返答次第で容赦せぬぞ」
「──聞かれましたか、ミス・ヴァリエール。彼は問題ないそうですから儀式の続きを。
 コントラクト・サーヴァントに移りなさい」
「はい……」
凄みを利かせた後半部分を故意に無視し、桃色の髪の少女を促すハゲ頭。
失望と安堵がない交ぜの表情を浮かべた少女の顔が男の紫色の唇へと近づき、微かに重なった。

「わたしはあなたの主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 あなた、名前は?」
「……わしは伊賀のお幻一族、鍔隠れ十人衆が一人。薬師寺天膳じゃ」

慶長の世を生きていた伊賀忍者薬師寺天膳。
コントラクト・サーヴァントの後、主人を名乗る少女ルイズと学院教師コルベールより与えられた説明は
日頃は物事に動じぬ天膳を驚愕せしめるに十分なものであった。
己が伊賀甲賀はおろか日の本でさえないはるか異境に一瞬にして転移させられてきたこと。
その驚天動地の業が事もあろうに目の前の小柄な少女のなしたものであり、
事態を飲み込めぬうちに交わした誓約により少女と我の間に主従の契りが結ばれたこと。
先ほど刻まれた手の甲の呪印(彼らはルーンと呼んでいた)は
生々しい痛みを天膳に伝え、これが現実の出来事であることを雄弁に語っていた。

(空間を超える秘術……聞いたことがある。
 わしが鍔隠れへと流れ着き伊賀の忍となる以前、四代将軍義持だか何だかが死んで
 次の将軍をくじ引きで決めたの決めないの言ってた頃であった)
能楽を完成させた不世出の大芸術家・世阿弥。
芸事の極致は見るものと演者自身を別世界へと誘うことにあり。
能の秘奥を究めた世阿弥はついには演じることで時空を超越し、
また並行世界への移動をも可能にする秘術「刻渡り」に辿り着いた。
三代将軍義満の死により最大の庇護者を失った世阿弥は退けられ、おのが技を後世へと封じたが
義満在世中に演じられたその術は確かに室町の世と遠い未来とを繋いだという。
世阿弥の父観阿弥は伊賀服部家の出と言われる。あながち忍者と無関係でもないのだ。

(つまらぬおとぎ話と考えておったが、現にわしはこうして異なる世界におるのだ)
この娘の魔法とやらは伝説の秘奥の域にまで達しているのか。
学院の廊下を歩く天膳は慄然とし、粛々と主人の背を追った。

さて、いかなる運命のいたずらか日本の忍者を使い魔にすることとなったルイズ。
一時の落胆と絶望から立ち直り、この天膳と契約を結ぶころには大分落ち着きを取り戻していた。
ドラゴンやグリフォンのような使い魔を呼び出すつもりが
死んだように倒れている人間の男が出てきた時はさすがに混乱したが、
召喚の儀式そのものを失敗するという恐怖に比べれば
その平民が何事もなかったかのように起き上がり契約に成功した安堵の方が大きい。
残る問題は男が使い魔としての自覚を持って自分に仕えてくれるかどうかであった。

「およその事情は分かり申した」
一通りの状況把握を終えた天膳はおもむろに居住まいを正し、ルイズの前にひざまづいた。
「コルベイル殿には先程の無礼な物言いをお許しくだされ。不肖、この薬師寺天膳
 ルイズ様を生涯の主と定め、身命を賭してお仕え致しましょうぞ」
平民の貴族に対するあり方としては当然ながら、恭しい態度に悪い気はしない。
「ここがわたしの部屋よ。今日からあなたもここで暮らすんだからちゃんと覚えておいてよね」
ルイズはそういった気持ちで自室へ使い魔を招き入れた。

「それじゃあなたはどこか別の世界から来たっていうの?信じらんない!」
「その通りかと存じまする。拙者は伊賀組の郷士にて細作(しのび)の業を生業としており申した」
天膳は先程から部屋の床に正座し、神妙な顔でルイズのする質問に答えている。
もとよりこの天膳、眼前の小娘そのものにはかけらも敬意など持ってはおらぬが
伊賀の忍として超常の術のおそろしさは良く知っている。それゆえすでに己がルイズの術中に嵌まっている……
使い魔の印を刻まれたことを警戒し極力つつしみ深い態度を装っている。
もっとも代々の伊賀の頭領に忠実な顔を見せながら裏で策謀を巡らせてきた身にはさして難事ではない。
(ひとまずこの娘には従うふりをしておき、かけられた術より逃れる法を探るが先決。
鍔隠れへ戻るも戻らぬもそれからじゃ)
「いやはや拙者もこの成り行きには驚いておりまする。ルイズ様の妙術、まっこと感服いたすばかりにて」
「ふ、ふん!別にサモン・サーヴァントくらい大した魔法じゃないわよ。
 じきにもっと凄いのを見せてあげるんだから」
こうして、薬師寺天膳のハルケギニア最初の夜は更けていったのであった。

そうこうする内に、ルイズも眠気を覚え始める頃になった。
「それじゃあわたしはそろそろ寝るから。話はまた時間のあるときにするわ」
夜着に着替えることにしたルイズは目の前にいる使い魔に構わずぽんぽんと服を脱いでゆく。
これが現代日本からやって来た高校生男子ならばこの状況に赤面し、ルイズの行動を止めたであろう。
しかし天膳は眉一つ動かすことなく少女の肢体に視線を走らせた。
(公卿の子女は湯浴みも手水も人任せにするゆえ羞恥の心が薄いと聞くが…
この娘、貴い生まれというのは確かなようじゃな)
Y十Mで鎖鎌使いのじいさんが言ってたから間違いない。
未発達ながら子供と女の中間を漂う少女の体のラインは艶めかしく、
目に珍しい南蛮風の装束と相まって伊賀の女とは違う魅力を醸し出し…

──忍法帖シリーズにおける男女の関係とは基本的に、男が女を手籠めにするか
エロ忍法で返り討ちにあって死ぬかの二つに一つである。
まっとうな恋愛もないではないがまず100%結ばれないまま片方もしくは両方が死ぬ。
ごくまれに負傷した青年忍者(童貞)が母性本能を刺激されたお姉さんキャラに
キスして貰えたりもするが、実はそれも敵の罠でやっぱり死ぬ。そんな世界観である。
(小四郎、哀れな男よ…わしは男子として悔いの残らぬ生を全うしたい)
数分前までルイズの魔法が未知だから大人しくしていようとか考えていたのはすでに忘れている。
この薬師寺天膳、山風ワールド屈指のヴィランにして
エロスのためなら好機も命も投げ捨てる困ったちゃんなのであった。

「ルイズ様。それがしがお手伝い致す」
天膳は床から立ち上がり、衣装棚の前に屈みこんだ下着姿のルイズの腕を掴んだ。
「えっ!?ちょっと、別に要らないわよ!」
着替えといっても後は寝巻きに袖を通すだけだ。
制服の着付けのようにわざわざ下僕に手を出させることでも無い。
何よりルイズの手首を締め付ける力は異常なもので、本能的な恐怖さえ覚えた。
「遠慮なさる事はない!主君の身の回り全てを取り計らうは臣下の務めなれば…」
ついさっきまでの忠実な使い魔の顔は微塵もない。ルイズの身体を強引に引っ張り
ベッドへ押し倒したその目はすでに主従を越えた雄獣の目であった。
「男と女が互いを知り合うに如何な忍法もその身を抱くに遠くおよばぬ…!
 よいではないか!よいではないか!」

「何すんのよこのぉ……バカ犬ぅぅぅっっ!!!」
……天膳はルイズの体力を小娘と侮り、油断していた。そして忘れていた。
山風作品に限らず、悪人にエロシーンが与えられるのは最悪の死亡フラグであることを……
戒めの緩んだ一瞬を見逃さなかったルイズの蹴りが天膳の顎を打ち抜く。
ベッドの上からひっくり返った天膳の後頭部は鈍い音を立てて固いテーブルの角と運命の出会いを果たした。
「アンタは外で寝てなさい!このバカ!」
フラフラと立ち上がった天膳を勢い良く扉の外へと蹴り出し、鍵をかける。

物分かりが良いように見えてもやはり野良犬は野良犬、明日から厳しく躾をしなくてはならない。
…天膳が向けたおぞましい意思を理解できなかったのか、無意識に理解するのを避けたものか。
着替えを済ませたルイズはそんな事を考えながら改めて寝床についた。

「いやぁぁぁ!!廊下でヴァリエールの使い魔がまた死んでるぅーー!!」
翌朝になれば学院中に響くけたたましい叫びとともに最悪の目覚めを迎えることになるのだが、
長い一日を終えたばかりの少女には知るよしもないことであった。



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