あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロ執事-03


早朝。
学院内では下働きの者達しか起きていないような時間に、セバスチャンは廊下を歩いていた。
これほどの生徒を抱える学院が、メイジのみの労働力だけで支えきれるはずがない。
あちこちで働き回っている人間の気配を感じ取りながら、主人の部屋へと戻ろうと角を曲がった瞬間だった。

「わわわーっ!!!」

―――洗濯物が襲いかかってきた。
一瞬の後に洗濯物を大量に抱えた人間が倒れ込んできたのだと解る。
そしてそれを理解したのとほぼ同時に、空中で拡散した服やら何やらを掻き集める。
数秒後。
倒れそうになったその人間を片手に抱え、反対の手で洗濯物の塊を支えるセバスチャンの姿があった。

「わー……あ、あれ?」
「大丈夫ですか?」
「あれ、私、つまづいて……すみません!」
「慌てなくても大丈夫です。衣類は床に落ちてませんから。御怪我はありませんか?」
「あ、本当だ……すみませんでした。怪我なんてそんな、私が勝手に転んだ事ですから」

そこまで言ったところで、その人物はようやくセバスチャンの顔を良く見る事が出来た。
当然ながら抱えるように支えていた為、二人の距離は相当近い。

「……!!」
「大丈夫のようですね。そうだ、少しお願いしたい事があるのですが」
「ひゃひっ、な、な、何でしょうか!?」
「私、ミス・ヴァリエールの執事、セバスチャンと申します 」
「え……ミス・ヴァリエールの……?」

そういえば学院でこんな美形を見た事がない。
黒髪というのもここでは珍しい色だし、落ち着いてみると彼が着ているのは燕尾服である。
学院には自分のようなメイドこそ居れど、執事なんてのは見た事がなかった。
そこで昨日、どこかの生徒が話していた内容が蘇る。

『……………だろ………だから、今年の当りはあのドラゴンだろ?』
『サラマンダーってのもいたけどな、あと執事とか』
『執事?ああ、ヴァリエールの呼び出したやつか。どうだかな、そこらで雇ったんじゃねえの?』
『……だけど、恰好良いよな』
『僻むとかそういうレベルじゃないよな、あれは……』
『馬鹿ギーシュあたりが張り合ってたけどな……そういえば知ってるか?…………』

この学院に奉公し始めてから、色々と貴族様の連れている生物は見た事がある。
しかしやはり執事を連れているのを見た事はない。

「ミス・ヴァリエールが召喚した……執事さん、ですか?」
「その通りです。ここで執事として働く事になりました。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」

美形ににっこり笑って「よろしく」だなんて言われて良い気がしない人など居ない。
メイド少女―――シエスタは、それでも長年の下積みからかしこまった態度で挨拶を返した。

「私も主人のものを洗わないといけないのですが、洗い場はどちらに?」
「何なら私がやりますけど……。貴族の皆さんに奉仕するのが仕事なので」
「では後でお願いしてもよろしいですか?」
「ええ。ミス・ヴァリエールのお部屋はわかりますので、わかる場所に置いておいて頂ければ」

セバスチャンはメイドの働きっぷりにささやかな感慨をおぼえながら、シエスタと別れた。
向かうのは主人の部屋、生徒寮である。


「……」
「おはようございます。お嬢様」

もそもそと起き出してきたルイズ。もちろん服は着ていない。
動じた様子も見せず、セバスチャンは傍らに置いた衣類を持ち上げた。

「ん……セバスチャン」
「はい」
「服」
「こちらに」

寝ぼけ眼で動きののろいルイズに服を着せていく。
この辺りに関しては今までの屋敷の時とそうは変わらない。
今日は普通に授業のある曜日であるため、昨日と同じ学院の制服である。

「今日の予定はミス・シュヴルーズによる『土』系統の授業、その後……」
「ん……んん?」
「どうなされました?」

顔も洗って服を着て、ようやく頭が回転し始めたルイズは、当然のように振る舞うセバスチャンの言動に違和感を覚えた。
……昨日召喚したばかりの筈よね?

「セバスチャン……何であんたが今日の予定知ってるのよ」
「今朝通りかかった方に確認しました。ミスタ・コルベール、昨日の監督の方です」
「そう……まあ、食事に向かいましょ」

セバスチャンが空けたドアから出ると、隣人も同様に部屋から出てきた所だった。
隣人―――彼女の印象は非常に派手である。
その大きな部分を占めるのは、大きな胸と、真っ赤な頭髪だった。
主人の髪の色からしてピンクなのだが、この世界に限っては髪の色は特に大きな差違では無いようだ。
セバスチャンは同じような赤い髪の女性を知っている。
そういえば赤い髪の変態が居たような気がしたが―――セバスチャンは記憶から抹消した。

「おはよう。ルイズ」
「おはよう。キュルケ」
「……と、そちらがあなたの使い魔?」
「そうよ」

なめ回すような視線に、ルイズは体をずらして視線を妨害しようとした。

「執事……どう見ても執事よねえ。雇ったとかじゃ無いの?」
「んな訳ないでしょ。大体この学院で、執事雇う必要がどこにあるのよ」
「ま、そうだけどね。……ルイズには勿体ない位良い男ねえ……ま、私の使い魔も負けてないけど」

キュルケの横に控えていた爬虫類が、「出番ですか?」とでも言うようにゆっくりと姿を現した。
尻尾に火を灯したトカゲ、サラマンダーである。

「使い魔らしいって意味では、コッチの方が良いわよねえ。フレイム」

元の世界では「どこかの島には人間より大きい爬虫類が居る」という事を噂で聞いた事がある。
更に前の世界では、まあ爬虫類というよりも怪物みたいな生物ばかりだった。
そう考えるとこの使い魔は、わりと常識的な方なのだと思った。火がちらちらしているのを無視すれば、だが。

「サラマンダーというのですか。燃えてるのに冷たくて良い肌触りです」
「解ってくれる? やっぱり私の使い魔は美しいわぁ……貴方、お名前は?」
「セバスチャンと申します」
「別にいいわよツェルプストー相手に自己紹介なんて。行くわよセバスチャン」
「なによ。どうせ行くのは食堂でしょう? 私も行くわよ」
「……」

◆◆

「貴方だけ執事に給仕して貰うなんて贅沢ねえ」
「私の執事よ。当たり前でしょ」

うやむやの内に食堂の席が隣同士になっているせいで、ルイズの口調は冷たい。
しかしその裏で、指摘された通り満足している部分もあった。
セバスチャンが先程から後ろに控え、給仕をしてくれているのだ。

「それにしても目立つわよね。執事」
「うん……さっきから視線がびしばしと……なんで私達まで見られてるのよ」
「嫉妬って奴じゃないの? 『ゼロのくせにあんな美形の執事を……』って」
「とばっちりじゃない……」

……見ろよ…あれが………美形だ………なん…ルイ………私………
ぼそぼそぼそと、品格を失わない程度に囁き声が絶えない。

「そう?実際良い男なんだからそれくらいは仕方ないと思うわよ? 私だって男と居る時、嫉妬と羨望の目を向けられるもの」
「自画自賛……たち悪いわね」
「あら? ルイズはそういう経験、無いのかしら?」
「……うるさいわね」


「……」

主人達が会話しているのを見ながら、セバスチャンは待機していた。
シエスタも今の時間はここで給仕を任されているので、何かあれば頼む事が出来る。

ぴたりと静止して動じずにいるが、意識は主人及び周りに張り巡らせてあった。
まず、こちらを見てくる生徒が多い。
興味半分の男子や、何やら熱い視線の女子生徒の視線を感じた。
正体上、本来目立っていては不都合があるのだが、これも仕方ない。
向うとは状況が違うのだ。そこに対応して執事の役目を果たさなくてはならない。

ルイズとキュルケは未だに言い合いながら食事を続けている。
セバスチャンだけでなく自分たちへの視線も増えているのに気づきもせずに。

◆◆

食事の後、午前の授業を受講するために講堂に向かう。
やはり目を引いている。
ルイズからすれば普段向けられている視線とは異なる視線なので妙な心地だった。

「……」

セバスチャンは今更ながら、とんでもない世界もあったものだと実感した。
魔法ならまだいいのだが、これだけ多種多様な化物が人間と席を同じにしている。
蛸の化物がいたり、目玉が空中を浮いていたりするのだから、とても子供には見せられないだろう。

「あんたは……どうする、立ってる?」
「執事ですから」

ルイズはそう、と返した後で端の席に座った。
中央の席に座ったら注目の的だっただろうから、無意識に避けたのかもしれない。
長身のセバスチャンが立っていたら、後ろの席の人間が文句を言う可能性もあることだし。

ざわ……ざわ……

それにしても、大きな講堂である。
石造りの講堂は生徒数に比べて広く、厳格な雰囲気を形成している。
建物自体の雰囲気と生徒達の雰囲気が異なっているのは、1年経って慣れているからだろうか。

部屋に教師が入ってきてからも、しばらくざわめきは止まらなかった。

「さて、みなさん口を閉じて下さいね」

教壇に立つ教師の名はミス・シュヴルーズ。
セバスチャンがコルベールから得たリストには、『土』系統のトライアングル、と記されていた。

「これから1年間、貴方方の授業を受け持つ、『赤土』のシュヴルーズです」

中年特有の柔らかい笑みを浮かべながら、彼女は名乗った。
そして、学生と、その傍らに控える使い魔達に目を移していく。

「毎年、新学期の楽しみはこうやって使い魔達を見る事なのですよ。今年も随分と色々なものが呼ばれたようですね……ミス・ヴァリエール」
「……はいっ!」

この部屋にはドラゴンのような大物は入れないが、それでも決して小さくない使い魔がひしめいている。
逆に外れの年なんてあるのかしら、とぼんやり考えていたルイズは、急に呼ばれて飛び上がった。

「随分と面白い使い魔を呼び出したようですねえ。人間とは」

口実を見つけたと言わんばかりに、他の生徒達がそこに食いついた。

「ルイズ、使い魔が召喚できなかったから雇ったのか?」
「成功率ゼロのゼロだもんな!」

「……」

貴族の、しかもどちらかと言えば裏の世界のそれに仕えていたセバスチャンの目からは、
その指摘が非常に稚拙な罵声だと映る。
年齢からすれば主人と変わらない程であるが、やはり貴族の子供といえど子供は子供である。
そして、ここで初めて『ゼロ』の二つ名の意味を知ることとなった。

「―――ッ―――」

言葉にならない怒りを口の中で噛み殺しているのか、ルイズは真っ赤になりながら歯を剥いている。
抑えきれなくなって言い返しそうになったところで―――セバスチャンを振り返り、向き直った。
もごもごと何事かを呟いているのが聞こえる。

「…………怒ったら駄目……威厳が台無しよ………」

3回呟いてそれを自分の中に収めると、落ち着くらしい。
子供の頃に教わった方法を実行した後のルイズは、なんだか目がすわっていた。
凄みとでもいうのか、彼女の上の姉や、母親のような気質を体現しているというか。

「へえ? じゃあ風っぴきのマルコリヌ、あんたは何を呼び出したのかしら? ドラゴン?サラマンダ-?グリフォン?」
「……それは……ていうか僕は風っぴきじゃなく風k」
「私を蔑んだとしても貴方の格が上がる訳じゃないのよ? ここにいる全員の前で貴方は使い魔を誇れるかしら?」
言い返そうとしたマルコリヌを遮ってルイズは続けた。
「貴族が人を馬鹿にするって事は、そういう自信があるって事でしょう?」
「ぐっ……うっ……」
「どうしたの? 言ってみなさいよ。自分の使い魔はゼロの使い魔なんかに負けないって」
「……ううう……う?」
「悔しいの? 悔しいなら言い返してみなさい。ゼロなんかには負けないんでしょう?」
「………」
「あらあら、涙目になっちゃって、貴族の誇りはどこへ行ったの? それとも罵られるのが良いの?この変態」
「ル、ルイズ……その辺りにしといてあげたら? ほら、マルコリヌも」

暴走気味なルイズを止めに入ろうとするキュルケだったが、マルコリヌがなんだか恍惚としているのに気づく。
これは……いつだったかペリッソンを踏んだ時と同じような……。

「ゼロのルイズ! もっt」
ガッ
「そこまでですよ。うるさい生徒にはそのまま授業を受けてもらいましょう」

何事か口走ったマルコリヌの口を塞いだのはミス・シュヴルーズが魔法で飛ばした赤土だった。
大多数の生徒は「もっと早く止めれば良かったのに」と思っては居たが、口には出さない。

「まったく……ゼロだの何だの。確かに魔法の能力はメイジとしての評価を大きく占めるでしょう。しかし、貴族の子息・息女たる貴方方がそれでどうするのです? 真の貴族となるには、魔法と共に魂も学ばなくてはなりませんよ」

こほんと息をつきながら、彼女は正面に向き直った。
ルイズも元の状態に戻っている。

「さて……改めまして、これから土系統の魔法について教える、シュヴルーズです」

杖を振ると、机の上にどこからか石が現れ並べられいく。
何かをどこかから呼び出す魔法は無いだろうから、おそらく用意してあったものを浮かして並べているのだ。

「4つの系統魔法において、土系統の魔法というのは生活と非常に密接に関係しているのです。建築や農業、その他金属を用いる産業など、多岐にわたります」

四角形を描きながら、シュヴルーズは講釈を続ける。

「私はミスタ・ギトーのように自分の系統が最強だと言うつもりはありません。
 土は、風のように戦場や船で用いられるのでもなく、火のように敵を焼き払うでもなく、水のように味方を癒すわけでもありません。
 しかし、土の魔法というのは貴方方がどの分野に関わる事となっても絶対に必要な魔法です。
 水を油に、土を鉄に、土の魔法は他の系統と重ねる事でその魔法をより強化します。その代表がこの"錬金"です」

何の変哲もない石に向かって、シュヴルーズは杖を振る。
魔法の力は一瞬にしてただの石を、金色の、金属特有の輝きをもった何かに変えた。

「ドットならば土を青銅に、ラインならば鉄、トライアングルならば真鍮、スクウェアなら……」
「ゴ、ゴールドですか?」
「ミス・ツェルプストー。私はトライアングルですので、これは真鍮ですよ。このように、様々な金属を錬金する事ができるのです。
 クラスが上になるにつれて、より難度の高い、純粋な単金属が錬金できるようになっていきますよ」

前に書かれている文字は英語でいうdot,line,triangle,squareと言ったところだろうか。
セバスチャンがわかるのは文字の初歩的な部分だけである為、断定はできない。
それにしても、重ね合わせる魔法は別系統であるとは限らないとはルイズの談だが、四系統四段階に加えてさらに複雑であるようだ。

「この便利な魔法を用いることで、悪事を働く事も可能です。魔法に善悪はありません。それ故、使用者たるメイジは高潔な魂をもってそれを行使しなければならないのです」

セバスチャンは金を作り出した場合、経済等に混乱は起きないかなどと考えながらその授業風景を見ていた。
対して生徒達は、いつもの事で慣れているのか、教師が本題に入るまでは他の事を考えて居るようだ。

「……前置きが長くなりました。今日は始めの授業という事もありますし、どなたかに実際に錬金をしていただきましょうか。では………ミス・ヴァリエール。いかがですか?」

ざわ……ざわ……

その時教室内の空気が一変した。
呆けて聞いて居た生徒も真面目に聞いていた生徒も、一様に目を剥く。
彼女の、信じがたい提案のせいである。

「ミ、ミス・シュヴルーズ。その……ルイズの事を受け持つのは初めてでしたよね?」
「そうですが……どうしました? 去年の受け持ちの先生からは、優れた成績の子だったと聞きましたよ」
「いや、間違ってはいないんですが、その……」

おずおずと質問をして反論できなくなってしまうキュルケ。
「きっとミス・シュヴルーズはこの教室の模様替えでもしたいんだな」言葉の意味を必死に別解釈しようと考える者。
「このままじゃ直撃よ……ちょっと、席交換してよ」 自らの安全を確保しに動く者。
「おお、始祖ブリミルよ……これもまた試練なのですか?」 世界の終わりと言わんばかりに神に縋ろうとする者。
教室内は大荒れである。

ルイズはその大げさな反応達にイラッときたのか、勢いよく立ち上がった。

「……やります」
「「「ヴァリエール!!」」」

悲痛の声は届かない。

「では前にどうぞ、ミス・ヴァリエール」
「総員退避! 退避!!」
「使い魔を逃がせ! 巻き込まれるぞー!」


「……?」

セバスチャンに「伏せろ!!」だの「貴方、死ぬわよ!?」と注意してくる生徒もいた。
先程教師がやった錬金の魔法とは、物質の組成を変えてしまう魔法らしい。
現代の化学変化などではあり得ない、出来得ないだろうあの魔法は、別段危険なものではないようであるが。
失敗すると有毒ガスでも発するのだろうか?

「この石を、何か他の金属に錬金するのです。その金属を頭で思い浮かべ、それを魔法に乗せ―――」

優しい気質なのか教える事が好きなのか、彼女には他の生徒が大げさに防御を固めようとしているのが見えていない。
一方教えられる側のルイズは完全に杖と石に意識が行って、その教えが耳を通っているかすら怪しい。
警告に従って、かがんで机の影から様子を見ていると、詠唱を完成させたルイズが叫ぶ。


「―――錬金 ! ! ! 」


その日学院全体を揺らした爆発は建物こそ破壊しなかったものの、1名の教師と数名の生徒を意識不明に陥れ、
さらに使い魔達が暴れ出したり逃げ出すなど二次被害を生み出し、歴史に名を残すことになったという。

昨日同じような爆発の中召喚されたセバスチャンはそれを普通に眺めていた。
主人は真ん中に立ち、何故か破れもせず煤で汚れただけのローブをパンパンと叩き、咳払いを一つ。

「……ちょっと失敗したみたいね」

直後、非難が囂々と巻き起こったのは言うまでも無い事である。



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